今は昔。あるところに、それなりに繁盛した梅干し問屋があった。そこの旦那は、妻に先立たれどうにか一人息子を成人まで育て上げ、店を継がせた。まだまだ働き盛りというに、苦労からか髷も結えないハゲ頭で、鯰髭の胡散臭い容貌になっていた。そうするとどうしたことか、男は楽隠居を決め込み、絵師を囲ったり、座敷遊びしたり、暇さえあれば数寄趣味を謳歌した。釣りもそうだ。

　店から少し歩くが、雑木林のあるお堀の傍で釣りをしていると、気持ちの良い陽気にうつらうつらと舟を漕ぎ始めてしまった。昼寝をしていると、いつのまにやら日は陰り、ひとりの美女がやってきて、商人のそばに腰を下ろした。

　その女とは初めて会うように思ったが、どこか懐かしく、しかし粘つくような艶かしさのある顔をしていた。男は「たぶん一度寝た夜鷹のひとりだろう」とひとり納得し、昼飯にと用意していた押し寿司を振舞いながら世間話をした。

　男と美女は、端から見れば親子ほどに離れて見えた。彼らは、近くの店で簪を見たり、茶屋で団子を食べたりした。「ご隠居様、すみません。こんな綺麗な簪まで無理を言って…」「何を言うか、美人に顔を覚えてもらっとたんだ、端金をケチる男がどこにいる」「あらまあ。じゃあ有り難くいただきますわ」「はっはっはっ」

　そのうちに、女は妙なことを言い出した。「このお堀には主がいるのをご存知でしょうか？」夜鷹はそうきりだした。そんな話は聞いた事がないと、商人が答えると、
「ここの堀深くには、古くから住む大きな鰻がいるのです。それはお堀の主なので、けっして捕ったりしてはいけません」それを言うと、美女はくれぐれもと念を押しつつ、どこへともなく消えていってしまった。

　翌日、昨日の女の話が気掛かりで、商人は件の掘に様子を見に行った。すると、町人たちの人だかりができていた。「おい、一体何を見物しとるんだ？」男は傍の町人に話を聞いた。始めは煩わしげに振り返ったその者は、しかし男の鯰髭に態度を変えた。

「これは、これは。梅坪屋の大旦那、いつも世話になってます」「なに、現は世話のかけ合いだ。わしもお前のとこの豆腐がなけりゃ生きていけんわ」二人は互いに一礼した。「それにしても、この集まりは何だ？」「へえ、実は溝をさらっとったとこ、おっきな鰻が見つかったんでさ」

「何？鰻とな？」「へい。何でも、頭から尾っぽまで八尺三寸で、幅はおっきいとこで一間はあるそうでがす」「ほお、そりゃ食い手がありそうだわい」商人は、でっぷりとした腹を揺らして笑った。「まだ、シメてはおらんのか？」「それがヌタがすごいもんで、ひっつかまえるのもやっとなんでさ」

興味が湧いた商人は、豆腐屋に連れられ、群衆の中心まで入った。はたして、そこには確かに大きな鰻がいた。「ふむふむ。確かに大きいわい」「大旦那様も御相伴にあずかりやすか？」「鰻をか？いや、『梅』は酸っぱく、鰻は脂っこいと昔から言うでな。最近胸焼けも酷いのだ」「さいですか」

　しかし、何故か商人は不思議とこの巨大な鰻に魅かれるものを感じた。(何ぞ、懐かしゅう感じるわ…)そして、いざ目釘を打つ算段になって、頭の鱗の隙間に何か挟まってることに気づいた者がいた。

「何でえ？簪がこんなとこに？見たとこ洗や、新品みてえにきれえだけどよ…」商人は、その簪に見覚えがあった。「…まさか」「大旦那様、如何しやした？」「いや、何でもないわ」商人は気の迷いとばかりに、首を振った。

　いよいよ、釘が鰻の目玉の数寸先に来た所で、男と鰻は目が合ってしまった。「待った！」商人は、腹に残った息を全て吐き出して、叫んだ。群衆に動揺が走り、鰻を捌こうと準備していた者達も手を止めた。

「こんな、立派な鰻、すぐ食い尽くすのは勿体ないではないか！？」商人はもっともらしく理由を付けた。「だけどよ、旦那。俺たちゃ、最初にこの化け物鰻を見つけたんですぜ？それを横から引ったくる真似は…」「只とは言っとらんだろ！わしが観賞用に買い取る、言い値で売るがよろしい」

　協議の末、銀一朱で売ることになったが、「わしを見くびるなよ！一分銀だ、残りは皆の飲み代にでもすれば良い！」群衆は歓喜の声を上げた。「そこの力がありそうなの。そうだ、そこの二人。それぞれ五文やるから、この桶に入れてわしが言うまで鰻を運んでくれ」商人は鰻を運ばせ、川沿いを少し遡った。
　
「おお。ここが良いわい、中々の風景だ。お前たちも、有り難うな」川近くの三日月池に着くと、男は更に三文ずつ渡して、二人を帰らせた。誰も居なくなったことを確認すると、桶の鰻に話しかけた。

「あやかしか、はたまた妖術士かは知らんが、何かの縁だ。食われるなら、わしの目の届かんとこでやってくれ」そう言うと、男はまだ中身のある財布を桶に入れて、印籠と手拭いだけをとりだし、その場を離れた。何度か振り返ると、身をもたげた鰻がいた。薄目には、背の高い女にも見え、不気味だがどこか美しかった。

　(いかんな…はよう帰らねば、あちらに見入られる)商人は足早に、家路を急いだ。店に着くと、いつもの番頭、局、息子からの小言が出迎えた。彼は、嫌味にむしろ安心感を覚えた。男は、梅干しを当てに、茶を飲み干した。そのまま、すぐに奥座敷に上がり、煙管を吹かした。窓の外は、雲行きが怪しくなっていた。(一雨来るか)脳裏には、昨日の女と今日の鰻がこびりついていた。

　その夜、胸騒ぎに目を覚ますと、男は部屋の中に違和感を覚えた。そこには、夜鷹の上半身と鰻の下半身を持つ奇っ怪な女がいた。「やはり物の怪か…」商人は息を呑んだ。彼の理性は危険信号を出していたのに、身体はいつの間にか起き上がり、足が勝手に動き出していた。

「夜分に失礼します。わたくし、鰻女郎と巷で呼ばれるあやかしにございます」女は、長い尻尾をくねらせ、器用に頭を下げた。近づいてみて男は、この妖怪の背丈が部屋の天井すら突き抜けるほどに、高いことに気づいた。

　「わしに何の用だ？」「昨日は簪をいただき、今日は命を助けていただき、そして二十年(はとせ)も愛していただいたので、感謝を示そうと参りました」「二十年…？わしが夜鷹を買うなど、ここ二、三年始めたばかりだが？」「ふふ…」鰻女郎は、少し寂しそうに微笑んだ。

　女は、商人を尻尾で巻き取ると、窓から雨の中に踊り出た。その勢いは雨風より早く、しかし彼女のヌタで商人は全く固定されていた。「わしをどこへ連れていくのだ？」「私の今の棲み家ですよ…」「助けてやったのに、わしを拐かすのか？」「貴方に礼をするには、八っちゃんやお松さんに見つかるとややこしくなるので」「八っちゃんだと？」

鰻女郎は、雨粒をまるで浮遊する川のように泳いだ。しかし、商人には一滴もかかることはなかった。そして、梅の木々が生い茂る農村に到着した。城下町から、川を遡った山奥である。

　「あすこに見えます、あの家です」「何だと？あれは…」そこは、彼が梅干し問屋を始める前、両親と梅を育てた生家であった。今は二人は亡く、管理は問屋が手配した梅農家が行っている。かつて男は、妻と初孫の顔を見せに行っていた。

　「貴方、また夜餉を抜きましたね、梅干しとお茶で済ませると通風がぶり返すって言われてましたよね」「なぜそこまで…」商人は、言葉と裏腹にこのあやかしの持つ懐かしさに見当が着いてきた。二人は、敢えてそのことには触れなかった。

　「さあさ、久しぶりに腕によりをかけましたので、召し上がってくださいな」「…これは」出されたのは、燗につけた徳利と、白菜の古漬けであった。「うまい…」「ほら、まずは一献…」「…はあっ」妖怪の酌のせいか、それとも酒に何か盛られたのか、身体の芯からぼうっと火照った。

　「…通風には酒もまずくないか？」「ふふ、百薬の長とも言いますわ」「…そういうところ、敵わんな」「うふふ」いつの間にか、徳利は空になっていた。

　「今すぐ淹れてきますわ」鰻女郎はぬるりと、部屋を出ていった。帰ってきたときには、徳利と鰻の白焼きのようなものが手にあった。「お前、自分が鰻なのに、料理しちまったのか？」「まあまあ。食べてみればわかりますよお」男は躊躇いがちに、白焼きに箸をつけた。

　「旨い！」「でしょう？」「しかし、これはやっぱり鰻ではないのか？」「半分はそうです」「では、もう半分は？」女は答える代わりに、手から粘液を出して見せた。

　「こりゃ、お前のヌタじゃないかえ？」「ええ」「こんなもんがどうしたんだ？」「白焼きはこれを捏ねて作ったんですよ」「驚いた。あやかしは、こんな芸当までできるのか…」「お世辞は良いから、冷めないうちに召し上がってくださいな」「うむ、すまんな」

商人は、ぺろりと白焼きもどきを平らげた。気がつくと、徳利をもう二本も空けていた。「なんだか熱いわい…」男は気兼ねなく服を着崩した。「あらあら、風邪引きますよ…」女は身体の汗を拭いてやった。

　二人の顔が近づいた。「「ん」」どちらともなく口付けを交わした。「流石に、こっちは昔と変わらんな…」「貴方もですよ」「ふん、蒲焼きの代わりにこっちを味わおか…」「ああっ」商人は、鰻女郎の形のよい乳房を軽く揉んだ。

　「おやおや…魚にこんな乳はいるかの？」「はあっ…」商人は執拗に彼女の乳房をねぶった。「…っ、久しぶりでもがっつきすぎですよ…」「もう今生では、できんと思っとったので、つい…」「まったく…」鰻女郎は男の目前で、一糸まとわぬ姿を晒した。「…」男はただ見とれて、息を飲むしかなかった。

　「飲みますか？」女は徐に乳首を相手の顔に近づけた。「バカ言え。わしがそんな子供みたいなこ…」「与兵衛に乳をやっている時に、物欲しそうに見ていたのを知らないとでも？」鰻女郎は商人にぴしゃりと言った。「…いや、その」女は男を長い粘つく身体で締め上げ、耳元に顔を近づけた。

「大方、息子に取られるとでも思ってたのでしょう？まあかわいらしいこと…」「ううっ」ヌタと耳を撫でる声に、火照りは更に激しくなった。「良いんですよ？ここには他に誰もいません」彼女の乳房が眼前に迫った。「夜鷹や芸妓にはこんなこと頼めませんものね♥️」「…あ、ああ」商人は最後に残った理性を手放した。

　「あむっ！」「はああん♥️」男は彼女の乳首を口に入れた。「その調子♥️旦那様は良い子ですね♥️」「むうっむうっ！」「ああん♥️」

商人は彼女の乳首を吸い、下で転がし、必死に求めた。その間も、ぬらぬらした巨体にきつく締め上げられ、全身が粘液まみれにされた。「ふうっ」「ああっ♥️出る！貴方の口に出ちゃいます♥️」「むううう」「ああああん♥️」

　それは母乳に似た、ヌタであった。男の口内を満たし、甘くねっとりとした粘液は、意思を持つかのように舌を、喉を、胃を犯した。「っ！？ううっ！」「ふふふ♥️気に入っていただけましたか？」「はぁ〜っはぁ〜…うまかった」「まだお召し上がりますか？それとも…」鰻女郎は、商人を抱きしめながら聞いた。

　「…まあ、その」「その？何ですか♥️」「つまりだな…」「ちゃんと言えないと、お重と止め椀はお預けですよ♥️」「女陰(ほと)を…」「どうしたいんですか♥️」「お前の女陰に挿入(いれ)させてくれ！」「はぁい♥️」

　女は待っていましたとばかりに、ヌタよりも粘り気のある液を溢れさせた秘裂を開帳した。「…うっ」男のモノは、半勃ちから角度を鋭くした。「あらあら♥️小さい方の旦那様もお久しゅうございます♥️」彼女は、尾の先にある鰭で先端を撫でた。「あああっ！意地悪しないでくれ…」

「ごめんなさい♥️さあさ、我が家にお帰りなさい♥️」鰻女郎は商人にのし掛かり、硬い肉棒を軟らかい媚肉に包み込んだ。「はああ♥️これ！久しぶりの感触ですう♥️」「ううっ…あ〜あ！」「気持ちいいですか♥️」彼女は腰を泳ぐようにくねらせ、男の怒張を刺激した。「うう〜っ！」

　「ああん♥️旦那様の形♥️懐かしゅう…ございますう♥️」「…あ、ああ…お前の…はあっ…ナカも…ふうっ昔のまま…」彼女の膣が更に締まりを強め、しかし、ヌタとぬめる襞で男の魔羅は止まらなかった。「くうっ！…昔より…ふう〜っ」「いっしょに…」「ああ…わしも！」

　「「ああああああっ♥️…」」商人の精は、鰻女郎のヌタにも負けず、胎内を怒濤のように犯した。「くう〜〜〜っ」男の絶頂と放精は、止まるところを知らなかった。「はああ♥️ああ…ああん♥️」女は恍惚としながらも、意識を保ち、男を抱き締めた。彼も抱き返した。

　「ふうっ…」商人がモノを引き抜くと、子種とヌタがない交ぜになった白い粘液が溢れた。「ああ♥️」「久しぶり…極楽だわい…」「ふふふ…何十年、こうして愛し合うのを夢に見たかわかりません」二人は、長い尾を布団代わりに並んで寝転んだ。

　「何故、あの日すぐに戻ってくれんかった？」「そうしたいと、貴方と与兵衛を置いては逝けないと思いました…
でもあの時、船から落ちてわたくしは一度死んだのですもの」「そうだったのか…では、なんで今になってわしに逢いに来てくれたのだ？」「海の神様に起こされたのが、水底も底で、そこからだとどうやって帰ったものか。気づけば、このような姿で海の中の谷にいました」

「待ちくたびれたわ…わしもこんな見てくれになってしもうたわ」「あら、わたくしからすれば昔と同じくらいお可愛いですよ」「化け鰻の言うことを信じて良いものか…」「それを言うなら、旦那様は鯰のあやかしみたいですわ」「こいつめ、ははは」「あら、前にもこんなお話しましたか？」

「そうよの…与兵衛と三人だったな」「あの子にも、顔を合わせてやりたいものですが…」「なに、あいつはわしに似ずよくできた奴だ…心配するでない」「そうは言っても、大きくなった我が子を見たいのも人情と言うものでしょう？」「…ふ、今度釣りに誘ってやるか。そこで、存分に驚かしてやる」「うふふ、楽しみですわ」そのまま、二人は互いの人肌を感じながら、久しぶりに淋しさもなく眠りに入った。

終わり