読切小説
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サウナの起源、あるいはギャルとクールビューティーの間に挟まる男
北方の海賊に伝わる伝承より。

世界には、熱気と冷気だけがあった。
熱気は世界の南から、その国、ムスペルヘイムには炎の体と情熱を持つ者が住まう。
冷気は世界の北から、その国、ニヴルヘイムには氷の体と冷徹を持つ者が住まう。

世界の真ん中には、その二つがぶつかって、何だかんだあって世界樹が生えてきた。
両国の代表者は、とりあえず木を見物に来た。

「ちゃおっす!北の人だよね?木を見に来たん?家近い?ちょっと、マグマ飲みながらだべらん?」ムスペルヘイムの女王は、軽薄な雰囲気で黒ずくめ、褐色の肌であった。

「…質問は一つに絞れ。余は、北国ニヴルヘイムの女王なり。うぬはなんとも暑苦しゅう感じる」ニヴルヘイムの女王は、厳格な雰囲気で白を基調とした服装、白銀の肌であった。

二人は、それぞれ、シンモラとユミルと名乗りあった。
性格は真逆だったが、それ以降親交を交わし、両国の関係も良好であった。

いつしか、狭間の地には、人が生まれ栄えた。
人間は、二人からみれば矮小で弱く、しかし必死に生きる様に諧謔を覚えた。

二人は、人間を使って、遊んだり競ったりするようになった。
ある時は、旅人の服を脱がせる対決をした。
またある時は、マダム・ヤンとマダム・インと名乗り料理対決をした。
肉を瞬間凍結させ、その後水分を一気に蒸発させる保存法を人間に伝えた。
魔王の下で、アースガルズを攻めたりもした。

さて、世界樹で出会ってから幾星霜、二人は人間界(ミドガルズ)を覗いて茶会を開いていた。
「ちわ〜。ユミっち、おひさ!」「シンモラよ。無沙汰でわるかったのう」二人は、ハグを交わした。片方は冷えて固まり、もう片方は少し溶けた。

「うちね〜、最近シンモラやめたんよ」「今度は、どんな名前にしたのだ?ノトスか?ペレか?」バルログは、マグマを藁で泡立てながら話し始めた。「うちは、人間ちゃんから〜スルトって呼ばれてんの!ウケるでしょ?!」「スルト?真っ黒という意味だが…」「そそ!人間ちゃん達、うちがガングロだからって〜カワイくない?」氷の女王は、氷山をスプーンで掬い、果実と合えて口に含んだ。

「あやつらは単純だからの…まあ似合ってると思うぞ」「ユミっちも改名してみん?ミエシャツとか、ボレアスとかさ〜」「余は、この名を気に入っているゆえな」「相変わらずマッジメ〜!」シンモラは、机を何度か叩いた、振動で彼女が座る火山が噴火し、入浴していたムスペル(パイロゥやラヴァゴーレム)が流されていく。

「まあ、それは置いといてさぁ?今日も人間ちゃんが何してるか見よ見よ〜」「うぬは、本に落ち着きがないの」ユミルは、扇子で自分を扇いだ、その風は吹雪を生み、ヨトゥン(グラキエスやイエティ)が雪に埋もれていった。

彼女らは、虫かごを眺めるように、人間界に目を向けた。そこには、雪深い村で悶々と過ごす男がいた。「寒い日は、どうしたら健康に良いのだろうか?暑い風呂に入るべきか?乾布摩擦すると風邪にならないとも聞いたが…」

「人間め。また、分かりきったことをない頭で悩みよって…」「ね〜、暖かい風呂に入って、お布団で寝るのが一番なのに…」「余は、乾布摩擦に一票…」二人の視線が交錯した。

「どうやら、また勝負をすべき時が来たか…」「ウケる、寒い日に、半裸で布バシバシとか自殺かよ」「聞き捨てならんな…人間共は毛皮の薄着で氷河を駆けておったぞ?あの頃は逞しくてよかった」「何百万年前だよ、これだからオバハンは…」二人は、同時に手を掲げた。

「ボス〜なんか、あーしに用?」一人のパイロゥが、気安げに女王に手を振った。
「女王陛下、御心のままに…」一人のグラキエスが、厳かに膝を屈した。

「ギュリズちゃんさ、この人間ちゃんにお風呂の楽しさ、教えてあげてくんない?」「ボス〜あーしにおまかせあれ!」ギュリズは、元気にウィンクした。

「イングリッドよ…この若人の許に向かい、吹雪に耐えるよう鍛えてやれ」「御意にごさいます…」イングリッドは、恭しく一礼した。

~~~~~~~

さて、人間の若者、名をクリスティアンと言った。
彼は、雪景色の外を見てため息をついた。
「これじゃ、街に出られない。狩りにも行けない。偉大なるヴォータン、ドネル、トゥールよ!俺にこのまま死ねというのか?!」

その時、戸を叩く音がした。
(こんな雪深い中、訪問者だと?あり得ないだろ…)彼は恐る恐る戸口に近づいた。

「ごめんちゃ〜い。雪で道に迷っちゃった〜。いれてくださ〜い!」声は、若い女のものに聞こえた。
(こんな天気に女の子?一人で?ますます怪しい…)クリスティアンは、戸に触れようとしたが、「あつっ!」ドアノブは、異様な高温になっていた。

「だいじょぶ?…あっ、ごめ〜ん熱抑えんの忘れちった〜」彼女の口調は軽いものだった。
「何者だ?!俺に何の用だ?」「用?何て〜の?遊びに?」「ふざけてるのか!?」クリスティアンは、恐怖よりも怒りが勝った。
彼は、文句を言うため、鍛冶用のミトンを持ち出し、戸を開けた。

「まったく…こんな吹雪の日に…」彼は、相手を一目見て、固まった。
赤茶けた肌、炎を纏う手足、翼、間違いない「魔物!?」「そそ、あーし、パイロゥ…ミドガルズで言うとこのムスペルのギュリズ、こんちゃ!」彼女は、ミトンに包まれたクリスティアンの手を両手で握り、激しく振り回した。
彼は、呆然と握手をした。

「ちっ…先を越されたか…」パイロゥの後ろから、冷悧な声が聞こえてきた。
(今度は何だ…)クリスティアンは、錆び付いた歯車のように首をぎこちなく、そちらに向けた。

「人間よ。ニヴルヘイムの女王の命により、我、グラキエス…ヨトゥンのイングリッドが汝を鍛練に来た…」そこにも魔物がいた。
氷でできた二房の髪、氷柱のような細い脚、吸い込まれそうな水晶の眼であった。

クリスティアンが気づいた時には、もう片方の手も掴まれていた。

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話を聞くに、二人はそれぞれの女王から派遣されたようだ。
自分が不用意に、「風呂か乾布摩擦か」なんて口走ったばかりに、魔物の親玉に目をつけられていたなんて…

「ほんと魔物使い荒いよね〜、そっちの女王サマは?」
「…敬愛する陛下の決定は絶対、私があのお方を疑うことはない…」
魔物達は、クリスティアンを挟んで一方的な会話を続けていた。

「ちょっといいか?」「どしたん?」「…用件は早く言え、こちらも暇じゃない…」ギュリズは馴れ馴れしく、イングリッドは刺々しかった。
「俺も早く終わらせたいんだが…とりあえず、何すりゃいいんだ?」

「何ってそりゃ〜」「服を脱げ…」「えっ!?」クリスティアンは困惑した。(魔物は男の…その、アレを求めるって聞いたが、マジかよ…)
彼は、顔を青くして、冷や汗をかいた。

「なあ、そりゃ、俺もよ独り身だし、あんたらみたいなかわいい娘とは吝かでもねえがよ…いきなりすぎねえか?もうちっと、互いを知って…」「な、何勘違いしてる!私は、お前に上を脱いで、乾布摩擦しろと言っとるんだ!」グラキエスは、青白い顔を仄かに赤らめた。

「あっ、こりゃ、その失礼した」クリスティアンは、平謝りした。「でも、その、何だ…俺は若い娘さんの前で裸になんのは恥ずかしい…」「腹が、だらしないからか?」イングリッドは、挑発的に笑みを浮かべた。
「そりゃあ、あんたみてえなスラッとした、美女のお気に召すようなもんじゃねえがよ…」「…っ、いちいち、私に向かって一言多いぞ…」

「ひゅーひゅー、お兄さん色男だね!」「うわっ!」後ろから、パイロゥが抱きついた。薄着で、柔らかい乳房の感触にクリスティアンは鼓動を早めた。「あんたらってことは、あーしも?ねえ、かわいい?」「か、かわいいよ!」「やったぁ、じゃあ、お風呂行こっか?」

「えっ!?」「ウケる…ねえ、今どんな想像したの?オシえてよ〜」彼女は、両腕でしっかり彼の腕を固定した。
「待て!私が先に提案したのだぞ、まず私と乾布摩擦するのが先決だろう!?」負けじと、イングリッドも片腕を掴みとった。

「なんだこれは…」クリスティアンは、不思議な感覚に包まれた。
半身は、燃えるように熱く、もう一方は、凍りつくように冷たい。
相反する感覚を味わうことで、彼の温感と冷感は鋭敏になり、血流が速度を早めた。

「手を離せ、この男は厳冬にも耐え得る立派な体に鍛える!」「やめてよ〜イングリン〜!」「誰がイングリンだ!」「あ〜しとお兄さんで、汗をかいて、火照った体を静めるんだから〜!」
ギュリズとイングリッドは、互いにクリスティアンを譲らなかった。
お互いの熱波と寒波が全開になり、クリスティアンは酷暑と極寒を同時に食らった。

「これだ!」「どうした…?」「お兄さん、だいじょぶ?!」クリスティアンは、いきなり叫びだし、両脇の二人は思わず手を離した。

「わかったんだ!暖めるだけ、冷やすだけ、どっちかだけじゃダメだ!」彼は、片方が霜焼け、もう片方が上気し湯気を吹く顔に笑顔を作った。「要領を得ないが…」「お兄さん、マジにお布団で寝た方がいんじゃね…」

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クリスティアンは、上半身裸に脱いだ。腹はだらしないが、二の腕は太くや胸板は厚く、毛深かった。
「へえ〜なかなか…」「ふ、ふん…まあ、磨けば光るものがあると言っておこう」二人は、彼をしげしげと眺めた。

「おいっ!よく考えたら、私までなぜ入らないといかん?!」「それは、あんたの協力が必要だからだ!」「何だと!?」「あんたは、冷気を出せる、そうすっとだ…湿り気が出る」「出るが…だからどうした?」

「そんで、こっちのあんたは熱気が出る!」「あ〜しの熱気?」「それらを合わせる!」部屋内は、みるみる蒸気に満ちてきた。「暑い!」「そうかな〜?あ〜しんちの居間のが暑いよ?」「パイロゥの家は、そもそも溶岩洞窟だろ!」

三者はそれぞれ、平気な笑顔、狂気じみた顔、文字通り蕩けた顔をしていた。「もう…もういいだろう!?」イングリッドが席を立った。
「やめろ!」「二人とも、暑さでおかしくなったんじゃな〜い?」パイロゥは呆れ顔をした。

溶けかかったイングリッドの手からは、氷ではなく冷水が放出された。それは、ギュリズの作り出した炎で一瞬にして蒸発した。すぐさま、部屋内の体感温度は急上昇した。

「ふあああっ!」「大丈夫か?!」「イングリン?!」
人間とパイロゥは、倒れかかったグラキエスを助け起こした。「お前ら…私を殺す気か!」「すまんすまん。まさか、あんたが本当に溶けるとは思わなかった!」「あ〜しも?あ〜し、別にイングリンにイジワルするつもりは…」

クリスティアンとギュリズは、そのまま水風呂に、イングリッドを入れた。たちまち、凍りついていく水。
「ふぅ。落ち着いた」「本当にすまん、だが、思った通りだ!一気に熱した後に、一気に冷やす!この解放感!最高だぁ!」「お兄さん?!」クリスティアンは、真冬の川より冷たい水に浸かった。

「貴様…私達を体よく利用しているな?」イングリッドは、クリスティアンを睨み付けた。
彼は、冷水よりもなお寒々しい視線を受け、体を震わせた。
「そ、そうだ…ギュリズとか言ったか?」「あ〜し?」「あんたも一緒に入るか?」「じゃあ、ご一緒〜」

「うわっさむっ!」パイロゥが入ったことにより、水風呂は一気にぬるま湯位に温度が上がった。「あづ!」グラキエスは、まるで熱湯に入ったかのように飛び起きた。
「ふうー!ヴァルハラにも昇る気分だ」

「入ってられるか!」「ちょっ、風邪引きそ…パス」二人は、クリスティアンを置いて、風呂から上がった。
「暑さと寒さ…どっちも甲乙つけがたい…」クリスティアンは、うとうとと寝入った。
血流と代謝が活発になり、心地好い疲労感を生み、多幸感を覚えているのだ。

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「…という伝説が、サウナの起源だと言われている」髭を蓄え、太鼓腹に太い二の腕の番頭が、客に説明している。「クリス〜?ちょっと、ロウリュとアウフグース手伝って〜?あ〜し、疲れちった!」「ギュリー…お前休憩行ったばかりだろう?」「疲れたもんはしょうがないじゃん?」
「…ちょっとすまん。従業員に呼ばれとる。すぐ戻ってくるからな」

サウナ「ギンヌンガガップ」、世界樹の根をくりぬいた木造の建築物。人間の店主と、グラキエスとパイロゥ達が従業員の老舗のサウナ。基本料金1時間金貨3枚、2時間金貨5枚、延長30分毎銀貨2枚。深夜、安息日別途料金。アメニティとタオル貸し出。独身男性特別割あり。


24/09/20 23:32更新 / ズオテン

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