マフムートの目の前にいたのは、昔から彼に仕えている女官、幼馴染と同じ顔をしている鬼女であった。月明かりに照らされた彼女の表情は、彼の知らないものであった。

（かわいい…まるで初めて会った日のよう…）ナディーヤはマフムートの困惑と好奇心の入り混じった顔に、乳母になった日を思い出した。

捕らえられ、何日もラクダの背に縛られ、たどり着いたのは見たこともない大きな都であった。そこには、生きた人間がたくさん往来を行き来していた。荒野でよく見かけるクーフィーヤを被ったベドウィン、ヒジャーブを着た女、甲冑の兵士。黒い髪も、金髪も、茶色の目も、青い目も、赤く日焼けし顔も褐色の容貌も、何もかも新鮮であった。

（私は、これからどうなるのだ…）人間に捕まった上に、昼の日光により身体からが力が抜けていた。抵抗もできない。鎖につながれ、街の奥の一際大きな建物に連れてこられた。そこには、更に絢爛豪華たる服装の人間達がいた。奴隷商は、その中の一人と何事か話し、最終的に納得したのか互いに抱擁した。

彼女は更に、建物の奥の別棟に連れていかれた。そこには、鋭い眼光以外、黒い布で全身くまなく覆った兵士がいた。（地上の人間にも、女の戦士はいるのか…）彼女らは、鍛え上げられてはいたものの、背格好からその性別が疑い知れた。そして、その建物からは、白髪の混じったきつい目つきの高貴な女性が現れた。

鎖を解かれたナディーヤは、その女に連れていかれ、同じくらいの年の頃の娘たちの中に入らされた。そして彼女は、宮殿の下女となった。数か月後、末の皇子の世話係が暇を取らされたとして、後宮では後任探しが行われた。最終的に、身寄りなく、また人間よりは身体能力に優れた彼女が選ばれた。

皇子は、知識に貪欲で、宮殿内の庭園をよく走り回り、また側仕えの大人には質問攻めにした。彼が迷子になろうものならクビ、必死に追いついていても質問に答えられなかったり、子ども扱いする者は嫌った。そうして、何人もやめ、また次にお付きになろうとする者も減っていた。

（マフムート様…あなたは兄弟間の諍いから、父君の冷酷さから…周囲の無理解から…人を試しましたね…）彼女は、足音一つ立てず、しかし素早くマフムートの眼前に近づいた。彼は、気づいた時には押し倒され、地面に横たわった。

「ナ…ナディーヤ…これはいったい…」「ふふ…」マフムートの口は、ナディーヤの以上に伸びた爪の人差し指で塞がれた。「一つ、昔話をしましょうか」彼女は、もう一つの手で彼の体を優しく撫でながら言った。かつて皇子が寝入るまで、乳母がしてくれたそれであった。とたんに、マフムートの抵抗は落ち着いていった。

「これは、ジャッダ（おばあちゃん）が教えてくれた話…」その言葉に、マフムートは聞き覚えがあった。「知っているぞ…グーラ（雌グール）と旅人の話だ」「あら覚えてらっしゃいましたの？」ナディーヤは悪戯っぽく尋ねた。「何度話してくれたと思っている…もしや、私は旅人なのか？」旅人はグーラと知らずに恋してしまい、紆余曲折を経て最後は食われるところを助かる様を面白おかしく脚色した話だ。マフムートは今の状況に重ねた。

「そうですね…旅人の褥でついにグーラの正体が暴かれるのです。さて、あのお話は実は子供向けだったのですよ…」マフムートを撫でていたナディーヤの手は、服の端を掴んだ。「そうだったのか…では、本当は旅人は…うっ」彼の唇に、ナディーヤのそれが重なった。長い舌が口を犯し、液体が混じり合った。

「…うふう。そうです、こうやって味わい尽くされて、食べられたのですよ…」ナディーヤは、マフムートの襤褸着を脱がせた。痩せていたが、肌艶の良い褐色の裸体が見えた。「ああ…」マフムートは恐怖と興奮から息を吐いた。かつて幾度となく、着替えを手伝われたのに、今夜のこれは羞恥心と淫猥さが滲んだ。

「お話の中で、どうしてグーラが愛する男を食らおうとしたか、不思議に思っていましたよね…」「…何度も聞いたが、結局君は答えてくれなかったな…」「私は、その答えを知っていましたが、いざ自分がこうなると…んむ」「ううっ」ナディーヤは、マフムートの首筋にむしゃぶりつき、舌を這わせた。「自制…なくなり…貪るようになると…本当の意味で理解しました」

「どういうことだ？」「あの話のグールは、旅人を食らう前に交じり合いました。愛情表現の一環…そうとも言えますかね…」ナディーヤはマフムートの頸動脈を撫でながら答えた。「しかし、それは理の変わる前だろう？何故、私を味わうのだ？」彼女は嬉し気に目を細めた。

「こちらの壁画をご覧ください」ナディーヤに促され、彼は壁面の一部を見た。古代の楔形文字と「男を丸吞みにするグーラ」が刻まれていた。「これは…」「これには、『産まれ、育ち、番う。我らの胎内に全ての輪廻あり』と…」マフムートはそこで思い至った。（肉も皮も骨すらも、その身に取り込み繋ぐ、弔いであり愛なのか…）彼女らが、獣を解体し、骨や皮まで加工するのは、その流れを汲んでいたのだ。

「そして、この部屋で愛し合い、次の世代を育むのです。そのために、かつてのグールは夫すら食らった。祖たる赤子が母の肉を食らい生き延びたように…」ナディーヤはそう言うと、マフムートの顔をこちらに向かせた。「マフムート様も私と一緒に生きてくれますか？血肉としてでなく…」「魔物としてか？」彼女はためらいがちに首肯した。

マフムートは思案した。（私はケマルオウルの男、しかし、今の私は…）兄たる皇帝タールートの顔が浮かぶ。もとより、帝国への復帰は、家族との再会は不可能だ。彼は、ナディーヤの赤い瞳を覗き込んだ。いつもより大胆だが、どこか遠慮がちで、それでも愛を感じた。（私を愛してくれるものが、家族であろうか…）

「私は…」「…」「私は…君と生きたい…」「では…」ナディーヤの口角が上がり、乱杭歯が顔を見せた。いつもなら、恐ろしく感ずるそれはとても魅力的であった。「私を食べてくれ」「…はい♡」彼女はすぐさま、下まで脱がした。彼のペニスは、少し硬くなっていた。マフムートは赤面した。

「ふふ…このような時が来るとは…んんちゅ♡」「んむむ…」彼女は再び口づけた。その手は、彼の胸を腹を、下腹をまさぐるように撫でた。「はーっ…がばっ」「ぐうっ」そして、間髪入れずに肩に嚙みついた。マフムートは初めは痛みを感じた。その牙が、深々と肉に突き刺さった。（痛い…しかし…）不思議と血は出てこなかった。痛みが麻痺するに従い、「ああ…きもちいい…」快楽へ変換された。

「マフムート…さま♡…」ナディーヤはその牙を抜くと、チロチロと舌で傷口を舐め出した。「ああっ…」「マフムート様ぁ…」彼女の手は、彼の股間へと達した。「はあ…おおきい…」「はあっ…だめ…だ」マフムートはその感覚にそちらに目を向け、制止しようとした。そして、気づく、先ほどとは打って変わりそそり立つソレに。
「
だめ…いいえ♡貴方は…今は私のモノ♡…好きにします…」ナディーヤは彼の腕を掴むと、自分の胸に寄せた。「…！」「貴方は…こっちでもいじってて…」
そう言うと、彼の屹立するモノを手で上下した。「ああ…」「さあ…貴方も♡」彼の掌は彼女の胸に設置された。マフムートは仕方なくナディーヤの胸を揉んだ。「はあ♡…強い…」彼女の大きさは、母親のズムルードや親友のジャミーラほどではなかったが、それでも彼の手には収まらなかった。

ナディーヤは容赦なく彼の肉棒を弄んだ。（ふふ♡…嬉しくて、こっちから涙出てる♡）「ううっ…」マフムートは、股間の衝撃と手の感触のどちらも初めてであった。彼は一心不乱に手を動かした。「ああん♡…いいです…その調子で♡…」彼女の嬌声は、透明な液を流すペニスをさらに大きくした。

「ナ…ナディーヤ…ナニか」「どうしました♡」「ナニか…出そうだ！」マフムートはついに絶頂に達そうとした。「イキそうですか？」「あ、ああ」「でも、ダメです…」ナディーヤはその手を止めた。「な…なんで…」「だって…あむ」「おうっ」彼女は、大きく口を開くと彼のペニスを食べ尽くした。

「はへは…へひは…うぉっはいあい♡（種が、精が、もったいない）」「ああ…出る！」マフムートは射精した。「〜〜〜！」「んんんっゴクッ♡」ナディーヤは彼の子種を舌で転がし、味わった後、音を鳴らして飲み込んだ。「ふふっ♡溜めに溜めたから、すごく濃いです♡」「はあっはあっ」彼女は、汗ばんだマフムートの額を撫でた。

「でも、まだ満足できませんよ…」「え…」「それに…」ナディーヤはマフムート頭を起こさせた。「貴方のコレだってまだまだ元気ですよ♡」出したばかりというのに、彼の怒張は全く収まらなかった。「今度は私も…」「ううっ」彼女は耳元で囁いた。「一緒に気持ちよくなりましょう♡」「！」

ナディーヤは、マフムートに覆いかぶさるようにした。頭は彼の股間。腰は頭にある体勢であった。彼女は今度は肉棒を舌で舐め始めた。「ああ…」「マフムート様ぁ…貴方にも奉仕してもらいますよ♡」「うぶっ」ナディーヤは彼女の女陰を彼の口に押し付けた。マフムートはたまらず口づけた。「あん♡」

その後は、部屋の中には湿った音と、時たま聞こえる嬌声の身が残った。月明りのみが、その源は何であるかを知っていた。「むむ〜」青年は必死の思いで、息継ぎを忘れながら彼女の洞窟を探った。「…ん…」（反応が…違うのか…）彼はそこを責めた。

舌は膣の中腹を、指は女陰の入り口をこすった。「んんんん♡」彼女は彼のモノを咥えながら絶頂した。「くうっ…イクっ」彼も絶頂を迎えかけた。しかし、ナディーヤは口を離し、起き上がった。「何を…」「んん♡！」「はあっ！」そして、身体を反転させるとマフムートのペニスをその膣で吞み込んだ。

「ああっ♡！これ…これが！」「くうううっ」その洞窟は、侵入者を壁で阻み、全てを絞り尽くさんとした。「あん♡あん♡」「うううう！」「あああ♡」「ふううう！」ナディーヤは…鬼女は、獲物の上で踊り狂った。マフムートは…皇子は、捕食者に体を預け、ただ腰を振った。「はあああああ」「ううううう」

（あ…奥の♡一番奥♡）彼の先端は子宮口に到達した。それを離すまいと、締め付けを強めた（う…キツい…）彼女らの分身は、抱擁と接吻を繰り返した。満足したかのようにペニスが出ても、すぐさま未練がましく逢瀬に戻った。「あ♡」「うっ」そして、ナディーヤとマフムートは深く結合した。両者の顔は一寸もない。「「うむう♡」」口づけを交わした。もう一つの連結点と同じく彼女らは一つになった。「「イク♡」」そして同時に絶頂を迎えた。

「「はあっはあっ」」ナディーヤは、疲れ果てマフムートに崩れ落ちた。「…ふう」彼はそれを受け止めた。「マフムート…様」「ん？」彼女は愛する相手の名を口にした。「…いえ、なんでも…」（大きい…いつの間にか…背丈は私を越えてたんだ）ナディーヤは、その事実に悦び、安どの表情で体を預けた。

「ナディーヤよ」「何ですか、マフムート殿下？」彼女は、自分の半分くらいの男の子に目線を合わせた。「君は…その…」「はい」「そのだな！夜は怖くないか！？」皇子は恥ずかし気に質問した。「いいえ」「何故だ」「わたしは夜目が利くので」「…そうか」（本当は、夜の魔物だからなんだけどね）

彼は数秒頭をひねった。そして口を開いた。「…誰にも言うなよ？」「はあ…」彼女は困惑した。「私の天幕には、夜な夜なお化けが出るのだ…」「そうだったのですか…」彼女は少し戸惑い気づいた。（誰かと一緒でないと、怖いのかな）「マフムート様、恐れながら」「どうした？」「私はこれでも、武術の心得があります。僭越ながら、貴方様を脅かす輩を捉えましょうか？」

皇子はその返答を努めて無表情に受け止めた。「そうか…よろしい」「有り難き幸せ」（ふふ、わかりやすい）

「思えば、貴方と一緒に眠るのは、子供の時からずっとでしたね…」「君のぬくもりは、夜から私を守ってくれていた」「グールなのにですが…」「よく言うだろう…悪霊はより強い悪霊で祓うことができる」「それ…褒めてるんですか？」「さあて…」彼女らは、下手の中心で抱き合い、眠りの中に入っていった。かつての宮殿と同じような安堵の表情で…