セクション2
マサキとドローンは、商談の目的地に到着した。時間は、昼間の喧騒が嘘のような丑三つ時であった。
『にしても、人のいるボロアパートは取り壊せるのに、こんなだれも使っていないビルはまだ残ってるんだね。」ドローンのスピーカーからは含みのある声色が聞こえた。マサキは、あいまいな笑みを浮かべた。彼は、このドローン…「ビジネスパートナー」に出会った日を思い返した。
◆◆◆◆◆
マサキ・ケンネイは、もともと運送会社の配達人であった。毎日、空が白む朝から、街の明かりがほぼ消えた夜まで、額に汗して荷物を届けた。たまの休みに、合成アルコール飲料片手の時代劇ビデオ鑑賞が生きがいであった。
しかしながら、1年前、会社の粉飾決済と配達員複数名の過労死の発覚で勤め先はなくなってしまった。ただでさえ、少ない貯えも半年たたずに底をつくのが目に見えていた。
青年は、自棄になり場末の居酒屋で酒をあおることも増えた。治安最悪に近い底では、ケンカを売られることも多かった。買った、顔を殴られた、気づいたら相手は地面に寝ころんでいた。
『いやァ、ハデにヤッたね』振り返ればドローンが浮かんでいた。
「キミは誰だ」男は目を細めた。「オレに話しかけて、何だ?サツでも呼ぶ気か?」
『インヤ。一部始終見てたけど、そこに突っ伏してるカレも悪いし、ワタシはあんまりサツが好きじゃない』ドローンから聞こえる声は、多少ノイズが入っているが高い声だと分かった。
「じゃあ、何のつもりだ?」青年は答えを求めた。
『なに、マサキ・ケンネイちょっとキミを調べさせてもらった』目撃者は話し始めた。『今、だいぶ困窮しているだろう?』「…ッ」『その反応、やっぱりワタシの耳に狂いはなかったね。単刀直入に言おう、この場のことをバラさない代わりに、ワタシの仲間にならないか?』
「仲間…?」どういうつもりだ?『そう、仲間。ユウジョウ、カンパニー、同志、伴侶、オッホン…とにかくそういうものだ。』最後はよく聞こえなかった。
「呼称なんてどうでもいいさ。それで、オレとしては他言無用でとっても嬉しけどよ。キミになんかのメリットはあるのか…?」マサキは当然の疑問を声に出した。
『フフッ』飛行物体の中から待っていたという笑い声が響いた。『キミほどの逞しさ、痛みへの耐性、そして<戦技>あとハンサムさ。どれをとっても完璧だよ…」
「何を言って…?戦技?」『百聞は一見に如かずだ。自分の戦い方を見たまえ』そう言って、ドローンは何かを地面に投射した。
そのホログラムは圧巻であった。マサキと酔漢が互いににらみ合っていた。
いきなり、酔っぱらいは顔に殴りかかりマサキの鼻を折りにかかった!青年はその一撃を受けた。酔漢は残虐な笑みを浮かべていた!
マサキは倒れこんだ。見れば、背丈はこちらに分があるが、袖口から見える日焼けした腕は、自分のそれより一回りは太かった。
男は、何事かつぶやいていて近づいてくる。足がもつれる。何かに躓き転んだ。鉄パイプだ。酔漢は拾い上げ、マサキに振り上げた!
主神でなくとも、この後に起こる惨劇は明らかである!だが、青年の表情はどこか凪いでいた。
酔漢の脳天目掛けた一撃は、マサキの腕に阻止された。口から泡をまき散らしながら、二撃目に移ろうとした男の腕は掴まれた。一瞬暴漢は静止した、マサキは頭突きを下あごに繰り出した!
コトンとパイプが落ちた。酔漢は顎を抑え、悶えたがすぐに体勢を立て直した。
獲物に向き直った男が見たのは、青年が鉄パイプを正眼に構え、こちらに支店を固定していた姿あった。暴漢は呆気にとられ、しかしすぐさま肩を怒らせ突進の耐性に入った。
諸姉諸兄がこの光景を直に見ていれば、正に<ミノタウロス突撃機関車>を想起したことであろう!マサキの運命は風前の灯火と言えた。
一歩一歩加速する酔漢!青年の数寸先に迫ったその一瞬、鉄パイプは男の頭頂部を打ち据えていた!
男はその勢いのまま、地面に崩れ落ちた。
『とまあ、分かったかね?キミほどの実力な私のカレ…協力者にピッタリじゃないかと思うんだ』ドローンはプロジェクターを切り、音声を発した。
「…」マサキは、自分のやったことを客観的に見せられどこか他人事であった。このとき、彼の頭の中にはインスピレーションが浮かんだ。上背はある。剣道部にいたので、それなりに生傷や痛みは経験していた。なにより、このシチュエーションは、彼の好きなエド・ニンキョムービーの始まりを思い出させた。
『まあ、結局は君次第。無理強いはしないが、「やるよ」隠ぺいな…!?』
「聞こえなかったか?オレもそろそろ仕事しきゃいけねえと思っていたとこだ…。」『つまり?』「仲間でも、同志でも、カレシにでもなってやるよ。」青年は冗談めかして言った。
『…ッ!』ドローンの相手は何かに喘いだ。『大丈夫か?持病とかってやつか?『…イ、イヤ!気にしないでくほしい…。ともあれ、アリガトこれで晴れてパートナーだ。』イヤにうれしそうなトーンであった。
「まッ、じゃあヨロシクオネガイイタシマス!」90度のお辞儀、何たる絵にかいた好青年の礼儀b正しさであろうか!
『アッ…ヨロシク「聞こえないぞ」ヨロシクオネガイイタシマス!』
◆◆◆◆◆
「そんなこともあったな…」『ほんと、あれからキミと仕事を始めて、退屈したことないよ。』青年とドローンは、二人の「なれそめ」について話していた。
カツンカツン、靴が床を踏む音が聞こえる。
「やあ、どうもお待たせいたしました!ワタクシが、今回の依頼者、シンテル・ニシキと申します。」そう言って、二人のブラックスーツの厳つい護衛を連れた、初老の男が一礼をした。100度のお辞儀だ。
所作から、依頼人の身分を推察した。(こいつは、だいぶ大ごとになりそうだ…)そう思いながら、マサキはお辞儀を返した。110度!傭兵といえど失礼な態度では、依頼が来なくなる。
そして互いに左手から、名刺を取り出しお辞儀姿勢のまま交換した。
『機械越しで済まない。彼の仲介人の<電脳栗鼠>だ』ドローンがお辞儀ピクトグラムを投射した。
この場にいるのは6人である。6人?読者の中に、魔術で気配を探知できる方がいれば、すでにお気づきであろう。マサキ、<電脳栗鼠>、シンテル、護衛二人…そして天井材のない梁に腰掛けるモノを…。
セクション2終わりセクション3に続く
『にしても、人のいるボロアパートは取り壊せるのに、こんなだれも使っていないビルはまだ残ってるんだね。」ドローンのスピーカーからは含みのある声色が聞こえた。マサキは、あいまいな笑みを浮かべた。彼は、このドローン…「ビジネスパートナー」に出会った日を思い返した。
◆◆◆◆◆
マサキ・ケンネイは、もともと運送会社の配達人であった。毎日、空が白む朝から、街の明かりがほぼ消えた夜まで、額に汗して荷物を届けた。たまの休みに、合成アルコール飲料片手の時代劇ビデオ鑑賞が生きがいであった。
しかしながら、1年前、会社の粉飾決済と配達員複数名の過労死の発覚で勤め先はなくなってしまった。ただでさえ、少ない貯えも半年たたずに底をつくのが目に見えていた。
青年は、自棄になり場末の居酒屋で酒をあおることも増えた。治安最悪に近い底では、ケンカを売られることも多かった。買った、顔を殴られた、気づいたら相手は地面に寝ころんでいた。
『いやァ、ハデにヤッたね』振り返ればドローンが浮かんでいた。
「キミは誰だ」男は目を細めた。「オレに話しかけて、何だ?サツでも呼ぶ気か?」
『インヤ。一部始終見てたけど、そこに突っ伏してるカレも悪いし、ワタシはあんまりサツが好きじゃない』ドローンから聞こえる声は、多少ノイズが入っているが高い声だと分かった。
「じゃあ、何のつもりだ?」青年は答えを求めた。
『なに、マサキ・ケンネイちょっとキミを調べさせてもらった』目撃者は話し始めた。『今、だいぶ困窮しているだろう?』「…ッ」『その反応、やっぱりワタシの耳に狂いはなかったね。単刀直入に言おう、この場のことをバラさない代わりに、ワタシの仲間にならないか?』
「仲間…?」どういうつもりだ?『そう、仲間。ユウジョウ、カンパニー、同志、伴侶、オッホン…とにかくそういうものだ。』最後はよく聞こえなかった。
「呼称なんてどうでもいいさ。それで、オレとしては他言無用でとっても嬉しけどよ。キミになんかのメリットはあるのか…?」マサキは当然の疑問を声に出した。
『フフッ』飛行物体の中から待っていたという笑い声が響いた。『キミほどの逞しさ、痛みへの耐性、そして<戦技>あとハンサムさ。どれをとっても完璧だよ…」
「何を言って…?戦技?」『百聞は一見に如かずだ。自分の戦い方を見たまえ』そう言って、ドローンは何かを地面に投射した。
そのホログラムは圧巻であった。マサキと酔漢が互いににらみ合っていた。
いきなり、酔っぱらいは顔に殴りかかりマサキの鼻を折りにかかった!青年はその一撃を受けた。酔漢は残虐な笑みを浮かべていた!
マサキは倒れこんだ。見れば、背丈はこちらに分があるが、袖口から見える日焼けした腕は、自分のそれより一回りは太かった。
男は、何事かつぶやいていて近づいてくる。足がもつれる。何かに躓き転んだ。鉄パイプだ。酔漢は拾い上げ、マサキに振り上げた!
主神でなくとも、この後に起こる惨劇は明らかである!だが、青年の表情はどこか凪いでいた。
酔漢の脳天目掛けた一撃は、マサキの腕に阻止された。口から泡をまき散らしながら、二撃目に移ろうとした男の腕は掴まれた。一瞬暴漢は静止した、マサキは頭突きを下あごに繰り出した!
コトンとパイプが落ちた。酔漢は顎を抑え、悶えたがすぐに体勢を立て直した。
獲物に向き直った男が見たのは、青年が鉄パイプを正眼に構え、こちらに支店を固定していた姿あった。暴漢は呆気にとられ、しかしすぐさま肩を怒らせ突進の耐性に入った。
諸姉諸兄がこの光景を直に見ていれば、正に<ミノタウロス突撃機関車>を想起したことであろう!マサキの運命は風前の灯火と言えた。
一歩一歩加速する酔漢!青年の数寸先に迫ったその一瞬、鉄パイプは男の頭頂部を打ち据えていた!
男はその勢いのまま、地面に崩れ落ちた。
『とまあ、分かったかね?キミほどの実力な私のカレ…協力者にピッタリじゃないかと思うんだ』ドローンはプロジェクターを切り、音声を発した。
「…」マサキは、自分のやったことを客観的に見せられどこか他人事であった。このとき、彼の頭の中にはインスピレーションが浮かんだ。上背はある。剣道部にいたので、それなりに生傷や痛みは経験していた。なにより、このシチュエーションは、彼の好きなエド・ニンキョムービーの始まりを思い出させた。
『まあ、結局は君次第。無理強いはしないが、「やるよ」隠ぺいな…!?』
「聞こえなかったか?オレもそろそろ仕事しきゃいけねえと思っていたとこだ…。」『つまり?』「仲間でも、同志でも、カレシにでもなってやるよ。」青年は冗談めかして言った。
『…ッ!』ドローンの相手は何かに喘いだ。『大丈夫か?持病とかってやつか?『…イ、イヤ!気にしないでくほしい…。ともあれ、アリガトこれで晴れてパートナーだ。』イヤにうれしそうなトーンであった。
「まッ、じゃあヨロシクオネガイイタシマス!」90度のお辞儀、何たる絵にかいた好青年の礼儀b正しさであろうか!
『アッ…ヨロシク「聞こえないぞ」ヨロシクオネガイイタシマス!』
◆◆◆◆◆
「そんなこともあったな…」『ほんと、あれからキミと仕事を始めて、退屈したことないよ。』青年とドローンは、二人の「なれそめ」について話していた。
カツンカツン、靴が床を踏む音が聞こえる。
「やあ、どうもお待たせいたしました!ワタクシが、今回の依頼者、シンテル・ニシキと申します。」そう言って、二人のブラックスーツの厳つい護衛を連れた、初老の男が一礼をした。100度のお辞儀だ。
所作から、依頼人の身分を推察した。(こいつは、だいぶ大ごとになりそうだ…)そう思いながら、マサキはお辞儀を返した。110度!傭兵といえど失礼な態度では、依頼が来なくなる。
そして互いに左手から、名刺を取り出しお辞儀姿勢のまま交換した。
『機械越しで済まない。彼の仲介人の<電脳栗鼠>だ』ドローンがお辞儀ピクトグラムを投射した。
この場にいるのは6人である。6人?読者の中に、魔術で気配を探知できる方がいれば、すでにお気づきであろう。マサキ、<電脳栗鼠>、シンテル、護衛二人…そして天井材のない梁に腰掛けるモノを…。
セクション2終わりセクション3に続く
24/05/08 10:07更新 / ズオテン
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