連載小説
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セクション5
カンダガワ・リバーに沿った岸辺、この上空を飛行する物体アリ。それは一見青く輝くドローンのように見受けられた。読者の方にマモノの動体視力をお持ちの方いれば、この正体にすぐ気づいたことだろう。パンクファッションの華奢な女が、大柄のホコリを被ったカウボーイ風の男を運搬しているのだ。「まったくよォ、テメエまた太ったンじゃねェのか!?クソ重てェんだよ、サッカーボール野郎(Ball-sucker)!」女は相棒の体重に悪態をついた。レザー生地のホットパンツから見える太ももから、汗が伝いカギ爪様の足まで垂れてきた。

「ゴメンヨォ!オイラ、スパ=チャンの電気を貯めるバッテリーの容量増やしたんだァ」「テメエはヨォ!ナンデ、相談せずに毎回ムダ使いしてンだよ!」男の弁解は、むしろ彼女をさらに苛立たせた。「だれがウエかわからせねえとなァ!」パンク女の琥珀色の目に青い稲妻が煌めいた。その口元は嗜虐的に歪んでいた。「そんな顔しないで!オイラが悪かった「イヤーッ!」アアアアーッ」RUMBLE!カウボーイの声は雷鳴に遮られた!

男の全身から煙が燻ぶった。普通の電流であれば10mAもあれば、痛みにのたうち回る。しかし見よ!ダスターコートの下、軍の下げ渡し品である改造アーマーのディスプレイには、50mAの表示がノイズとともに表示された!これはいかなる妖術か!?平安時代のある詩人は、「恋に落ちるのは雷に打たれるようなものだ」と述懐した。彼女の電撃はそういった性質のものである。

ナムサン!この二人は人間ではない!「たくッ!テメエのオシオキはこんなもんじゃ終わンねェぞ!」「アーイイ…」「聞いてンのか!?」「スミマセン!」男は、女に念を押されるまでの刹那、電撃に涎を垂らし耽溺していた。彼は狂っていた。「ン?」「アアッ!?まだ話は終わっちゃいねェぞ!」「違うよ、スパ=チャン…見つけた」カウボーイの顔は冷徹に変わった。パンクの方は、それを聞いて口角を上げた。「眼だけは冴えてンな、マッチ=クン…」その声は何らかの湿り気を帯びていた。

「〈二匹〉いるよ、二人で山分けだね!」「ッへへへ、久しぶりのゴチソウだなァ!」パンク女は、そう声に出した後羽ばたきを一層激しくした。高圧の電流に火花を散らした羽根が抜け落ちていく。カウボーイ男は、火縄銃を取りだした。その導火線に、羽根の一枚が火をつけた。「まずは、アイサツ代わりに…」その目は、数十ヤード先の目標に迷いなく固定されていた。

◆◆◆◆◆

青く輝く人間の足はカギ爪のようになっており、別の人型のものを掴んでいた。それは、煙を吐く筒を手にして、BLAMN!発射した!キデフミの目は、それが何か理解した。今宵だけでも、数度目にしたものだったからだ。(弾丸…)ソーマトが再び意識を覆う。そして、また「アバー…」〈ノロマ〉が前に出た…時間はゆっくりと彼らの危機を描き出していった。

(確かにこのガキは、サイバネで強化してやがる…生身のトコも、見えてるより少ねェはずだ…)彼の生存本能が、極限まで主観時間を引き延ばしていた。息を吸うのでさえ、1分を要していた。(けどガキに守られンのはソンケイじゃねェ!)ソーマト・タキサイヤの中にあってさえ、銃弾は直進を止めていなかった。少女の数フィート前に逸れは到達していた。キデフミは、身体を強いて前に立つ〈ノロマ〉を突き飛ばした。

「ウグウウウ…ブハッ」「アバー?」〈ノロマ〉は、体勢を崩し地面に手をついた。身体を銃弾が抜ける感覚はなかった。「キデフミ、ダイジョ…」すぐさま、青年の方を向いた。そこには、辛うじて立つ、胸に大穴の開いた人相の悪い男がいた。「キデフミ!」「…ゴボッ…」半死人は痛みに耐えかね、何かを言おうとしていたが、喀血により咳き込むだけであった。(ヤクザ…ガキ庇って…善人…気取ってんだ…)男が倒れこむ前に見たのは、こちらに駆けよる少女と、そのディスプレイに映った血を吐く愚か者であった。

「ナンデ…アタシ…マモロウト」「…」〈ノロマ〉が、キデフミを慌てて抱えた。その瞳は、すでに光を失くしていた。「イヤーッ!」しかし、事態は彼女に時間を与えなかった。空から、何本もの青く光るものが周囲の地面に刺さった。「イヤーッ!」別のシャウトが、近くで聞こえた。THUD!その者はウケミを取り、地面に手を付いた。そのそばに帽子がゆっくり落下した。少女は、青年ヤクザを優しく地面に降ろし、戦闘態勢を取った。

「ドーモ。ディケイ、デス」〈ノロマ〉、否、ディケイは先手を打ってアイサツした!「ドーモ。ディケイ=サン。マッチロックです」襲撃者は、テンガロンハットを被りなおしながら、アイサツに応じた。「ナンデ、アタシト、キデフミヲ…」「撃ったかって?オイラ、仕事だからやってるだけだよ!」少女の質問に、大柄の男は心底楽しそうに返答した。その手に持った火縄銃は煙を吹いていた。両者を結ぶ敵意の線を、風に吹かれた煙が形にしているかのようだった。

「アバーッ!」ディケイは、怒りを拳に乗せて、腕のワイヤを発射した!「イヤーッ!」マッチロックは、上半身をずらして攻撃を躱し、ワイヤが伸びていくのを暢気に眺めた。「アバーッ!」もう一方のワイヤが発射された!「イヤーッ!」マッチロックは、先ほどと同じように避けた。「ちょっと芸がないんじゃないの?」失望したような口ぶりに反し、その目は鋭く敵を見据えていた。

「アバアアアッ!」なぜなら、その瞬間にはディケイの体が猛スピードでマッチロックに向かってきていたのだ!手を地面に固定し、ワイヤによって体を高速で引き寄せたのであった!(元気があっていい子だァ)しかし、マッチロックは今回は全く動かなかった。「今だ!スパークストライク=チャン!」「イヤーッ!」ディケイは、その声のする上空を見た。翼を生やした影が、青い光に包まれていた。よく見ると、周囲に刺さった羽根や、舞い落ちるそれらも同じ光をしていた。

BLIIIITZ!「アバーッ!?」公園が一瞬青く輝き、川の水面がそれを反射した。ディケイの体が高電圧に曝された!全身をガクガク揺らし、煙を出し、両手足のサイバネは赤熱した。「アアアアアッ!」マッチロックの方にも青い稲妻が迸り、彼は恍惚とした表情で悶えた。「アバ…」少女は、カウボーイの数インチ前で地面に落ち、そのワイヤはだらりとその勢いを失った。

「ヘヘヘヘヘ!これで依頼完了ォ!あとはオタノシミだァ!」スパークストライクは、数度羽ばたいた後、ゆっくりと地面に足を着けた。「オイ!テメエ、ナニボケてンだァ!?イヤーッ!」「グワーッ、グフフ…」彼女は、横で身もだえする相棒を蹴り飛ばした。「テメエ、オシオキしてもそれも愉しみやがッて…」「スパ=チャンの愛が籠ったケリだからね!」「ハッ、キモッ」マッチロックは、頬を紅潮させ返事を返した。パンク女は言葉に反して嬉しそうに笑いかけた。

その時である!「アバアアアッ!」「アイエエエ!」「「!?」」何者かの叫びが響いた。二人は空を見上げた!鈍色の装束に背中からアームを生やしたシルエット、それに掴まれた白い人型の物体!ジェット噴射急接近!「ドウシヨ!?」「イヤーッ!」狼狽えるマッチロックを尻目に、スパークストライクは、羽根を飛ばして迎撃した!

「アバーッ!」「グワーッ!」意志を持ったかのように羽根は襲い掛かり、電撃を発して爆散!怯む闖入者たち!「ヘヒャヒャ!そのまま地面に落ちろォ!」羽毛めいた髪を逆立たせ、パンク女は哄笑した!「ホワイトナイト=サン、スミマセン!」「何を?」「アバーッ!」「ウワアアア!」鈍色の方は、白い方に謝り、彼を投射した!

「ウワアアア!」「バカナ!」猛スピードで発射されたホワイトナイトは、真っ直ぐにパンク女へとミサイルとなって急接近!彼女は、迫る質量から逃れるべく、空中に退避!「アバアアアッ!」「グワーッ!」それを狙いすましたかのように、鈍色の闖入者はアームを見舞った!ゴウランガ!吹き飛ばされるパンク女!

「アブナイ!」マッチロックはスパークストライクの危機に我に返った。「スパ=チャン!今オイラが!イヤーッ!」「グウウッ」大柄な男は、華奢な女を空中で受け止めそのまま自分がクッションとなった。「グワーッ!」「テメエ!いつも遅いんだよ!」「ゴメンナサイ!」「チッ、アリガト…」パンク女は、頬を掻いてマッチロックに感謝した。カウボーイは、感激しキスをしようとした。「愛してるよォ!」「ウゼエ!イヤーッ!」「アアアアアッ!」相棒は電撃で返事をした。

「アバーッ!」ブオオオオ!ジェット噴射を小刻みにして、鈍色の闖入者は着陸した。「スティルボーン=サン!今度やるときは、事前に了解を取ってくれ!」投げ出されたホワイトナイトは、スティルボーンと呼ばれたものに抗議した。「ゴッゴメンナサイ…」「ハアーッ、分かってくれればいいよ」スティルボーンは、それに対してオジギで謝罪した。人体の可動域を無視した150°のものである。ホワイトナイトは頷いた。

「そうだ!ミチェル!ダイジョブ!?」スティルボーンは、ハッとして声に出した。「ミチェル?妹か?」「ハイ!」彼らは、周囲を見渡した。「…カヒュー…」「!」」微かに吐息の様な声が聞こえた…その方向には、〈妹〉が立っていた。「ミチェル!?」スティルボーンは駆けだした。「ミチェル!聞こえる!?オネエチャンだよ!」彼女は、ミチェルと呼ばれた小柄なシルエットを抱きしめた。そのフルフェイス端末には「過負荷な」の黄色文字が点灯していた。「ミチェル!」「…」返答はなかった。「なあ…」ホワイトナイトは、声をかけようとして躊躇した。

「オイオイ、無視かよォ!?せっかく、その妹?と遊んでやッたのによォ!」二人はその声に振り返った。青く輝く翼を広げた女と大柄な男が、こちらを凝視していた。(この二人がミチェルを!)スティルボーンは、濁った眼で彼女らを睨みつけた。「あの娘、コッチ睨んでる、コワイねェ」「ハッ、テメエのビビりも全然治らねェな…」マッチロックは、にやけながら火縄銃をリロードした。スパークストライクは、中指を立てるとその先から稲妻を発した。導火線に火が灯る。

「オレのことも忘れないでくれ」二人は声の方を見た。白い着流しの単発の男がいた。「アンタは?」マッチロックは質問した。「なに、ただのローニンさ…カウボーイ=サン」ホワイトナイトは、カタナを抜いて切っ先を向けた。カウボーイ男の口元が悦びに歪んだ。「ドーモ。マッチロックです」「スパークストライクです」アイサツした。アイサツにはアイサツで返さねばならない。魔物娘図鑑にも記された作法である。「ドーモ。マッチロック=サン、スパークストライク=サン。ホワイトナイトです」「スティルボーンです」

ウシミツアワーの公園は、凄絶なイクサの開始点となった…
24/06/27 06:50更新 / ズオテン
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