連載小説
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セクション3
「アバーッ」「アイエエエ!」手足をサイバネ改造した少女と、若いヤクザがドブとアオミドロまみれの川を越えていた。左腕サイバネのワイヤがヤクザを固定し、片腕が反対岸に射出され、アンカーめいて固定された。両足の杭がコンクリートに突き刺さり、その反動で胴体はケーブルカーのごとく川の空中を飛んでいた。

シュルシュル!足が戻ると、更に加速!「アイエエエ!」若いヤクザは悪夢めいた状況に体を振り乱し、下を見てはまた戻るを繰り返した。「アバーッ!」サイバネの少女は、マスクの下から抗議めいて呻き声を発した。

若いヤクザは、先輩を昏倒させたこの者に言い知れぬ恐怖を抱いていた。(なんだって、こんなことに…俺はただヤクザで、ソンケイを得るためにシノギしてるだけなのに…)実際、男のヤクザキャリアは、この一件でほぼ閉ざされたと言ってもよいほど追い込まれていた。

ヤクザはメンツを重んじる。ネンコは一番シタッパ。ナメたカタギ一人シメられず、あまつさえオニイサンをみすみす倒された。極めつけに、半ば誘拐とは言え、護衛対象を放り出し行方知れずである。クランに戻ったとて、指の1本2本のケジメで済むまい。最悪、ドゲザからのセプク、死体は犬のエサであろう。

「アバー?」サイバネの少女は、ヤクザの表情に気づいたのか顔を覗き込んだ。「お前のせいで!バカ!」ヤクザは、状況を全く理解していない誘拐犯に怒りをぶつけた。「アバッ」「バカ!スゴイバカ!」空中にいることも忘れ、暴れだした。しかしその時。「アバ!」「ナンダヨ!」「アバッバッ、バカハ、ドッチダ!」「アイエッ」ヤクザ、キデフミは驚愕した。(こいつ、喋れたのか!?)

そんな珍道中を遠くから、スコープ越しに見る者達がいた…

◆◆◆◆◆

ソフトモヒカンのヤクザ、エブキは舎弟達を連れて、ブレイク・コテ・ヤクザクラン本部に戻っていた。オトウサンに報告するためだ。「使えねェ連中だな、オイ!もういい!センセイ、ドーゾ!」タメヤスは、怒りに任せて大声でヨージンボを呼び出した。ターン!事務所奥のフスマが開き、奇妙な装いの男女が2人現れた。

男は、テンガロンハットにダスターコートを着ていた。その背には、骨董品どころか化石になりかけの火縄銃を装備していた。女の方は、パンクファッションに身を包み、その瞳は青く光っていた。(ありゃ、バイオサイバネか?)タメヤスは訝しんだ。その腕は羽毛じみた体毛に覆われていた。

「ヘッ…ヘヘッ、お呼びに預かりありがとうございやす…」男の方が、卑屈な笑みを浮かべヤクザ達にオジギした。「…フワーア…」女の方は、つまらなそうにアクビをした。「アタマサゲロッコラー!」舎弟の一人が見咎めた。「テメフザケンナオラー!」「グワーッ!」タメヤスは、頭を掴み机の角にぶつけた!血を流して床に倒れる若ヤクザ!コワイ!

「テメエらが寝惚けたシノギこいてるから、俺が大枚はたいてこの人ら雇ったんだよォ!礼儀見せんのはテメエだろが、アーン!?」タメヤスは舎弟を足蹴にしながらわめき散らした。他のヤクザ達は、その光景に顔を青くし100度のオジギで2人に向き直った。

「エヘヘヘッ、オイラ達は気にしてねえです。逆に、ウチのモンがシツレ「アア!?」キクーッ!」テンガロンハットの男が、パンク女に頭を下げさせようとすると、背中に蹴りを入れられて、青い電撃が流された!すわ、何らかのサイバネ武器か!しかし、男は恍惚とした表情で身悶えした!

「アア…なら良かったです。しかし、そのう、今のは一体?」タメヤスは、異様な光景に冷静になり、質問した。「クウウウッ、イエ、オイラのことはお気になさらず…」男は、涎を垂らしながら笑顔で答えた。「アッハイ…」角刈りヤクザはそれ以上聞くのをやめた。

「アラタメマシテ、オイラはマッチロックでございやす」カウボーイ風の方はオジギした。「フンッ、スパークストライクです」パンクファッションの方はタメヤスを睨み付けた。その目に電光が走ったかに見えた。

「プッ…」異様な格好にピッタリな奇抜な名前に、舎弟の一人が思わず吹き出した。「アア−ッ!?」「アイエッ」スパークストライクは、その男の襟に掴みかかった!「オメエ、ナメてンのかァ?」「アノ…」「ナメてるか、聞いてンの!?脳ミソ入ってンのか、アーン!?」「ナメてません!」パンク風の女はヤクザの鼻先まで近づき、血走った青い目で覗き込んだ。舎弟は、その剣幕に萎縮した。

「ナメてない…」「…ハイ」その答えに、スパークストライクは襟から手を離した。「つまり、ウソツキッてワケか?」「エッ」「ウソツキはクタバレ!イヤーッ!」「アバーッ!」スパークストライクは舎弟の腹に拳をネジ込み、青い電光を流し込んだ!「アバババババーッ!」若いヤクザは、目や耳から煙を吹き、鼻血を流し気絶した!コワイ!

「アイエ…お嬢さん、これ以上は死んじま…」ソフトモヒカンのヤクザは止めに入った。しかし、彼の手がスパークストライクの肩に触れようとした瞬間、BLAMN!「アバーッ!」哀れ、ソフトモヒカンの腕は吹き飛ばされた。マッチロックは、先ほどまでとは打って変わって冷徹な顔をしていた。背中から抜かれたばかりの火縄銃からは、燻製じみた硝煙が吹き上がっていた。

「オイラのニョーボに触れるな」「アバッ…」マッチロックは、ソフトモヒカンを踏みつけながら吐き捨てた。「ウケル、今日もキアイ入ってンじゃん」スパークストライクは、ボロクズと化したヤクザを捨てると、相棒に嬉しげに垂れかかった。「ヘヘヘッ!オイラがいつでも守ったげるよ」マッチロックは、丁寧に彼女の肩を抱いた。

「…アイエエエ」さしものタメヤスも、この異様な光景に竦み上がった。「アッ、仕事の話でやしたね?もちろん、お受け致しやす…ただ」「ただ…?」マッチロックは、角刈りのヤクザに視線を戻して言った。「捕まえたゲシュニンは、オイラ達の好きにしてもいいという条件で…」「新しいオモチャだ!」男の顔は、嗜虐的な笑みに染まり、その相棒は無邪気に笑った。

狩りが始まった…
24/06/18 22:09更新 / ズオテン
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