連載小説
[TOP][目次]
セクション2
「本当に、ヤレば見逃していただけるんですか…」長髪をヘアバンドでまとめ、無精髭の青年は、角刈りのヤクザに質問した。相手は、額の青筋に怒気を張り詰めていた。「ウン?アア、俺を楽しませれば、命乞いを聞いてやるよ」ヤクザは、鋭い目つきで返答した。

青年は、数秒の間うつむいて逡巡した。チラチラと、ブルーシートの上で全裸になった女の死体と、アロハシャツのヤクザを交互に見た。ヤクザは、時間が経過するごとにその苛立ちを強めた。(ヤルしかないか…)彼は意を決して、ブルーシートの上で死体に馬乗りになった。そして、震える手で高級そうなベルトを緩め始めた。

「アノ、タメヤス=サン…」「アッ!?」アロハシャツのヤクザは、後ろの舎弟に呼ばれて不機嫌そうに振り返った。「スンマセン!で、ですが、その本当に…コイツと…その…死体を?」「オレが、決定を曲げたこと、あったか?」「イイエ…」ソフトモヒカンの舎弟は、タメヤスの言葉に気圧され、それ以上は口を開かなかった。

そんな問答を背に、青年はスラックスを脱いだ。彼は、改めて死体を見た。右目はなくなり、うつろな左目は虚空を見ていた。首には痛ましい縊痕が見て取れ、その他の外傷も夥しい数である。(とてもじゃないが、そんな気分に離れませんね…)当然である、いくらマッポーのニュートキオと言えど、死体を辱めるような趣味の者は希少と言えた。

「フワーア。オイオイ、このままじゃ日が明けちまうぜ…」タメヤスは、青年の後頭部に銃口を押し付けて、大げさに欠伸をしていった。「…」長髪の男は、死体の両ひざを持ち上げ開いた。体温はとうに消え去り、張りが無くブヨブヨとしたイヤな感触がした。「ホーオ…良かったじゃねえか?エ?死ぬ前に、見てくれが良くて、アソコもマアマアキレイなコとヤレて…」角刈りヤクザは下脾た笑みを浮かべて青年に後ろから話しかけた。

実際、死体にしては〈彼女〉の女陰は綺麗に見えた。女性経験の少ない青年にも、生前は美人であったことが窺い知れた。そして、青年は下着から自分の分身を取り出した。衆人環視、しかもヤクザに見られた状態で、死体を相手にするという状況、彼のペニスは頭と同様にうなだれていた。

彼は、白衣のポケットに入ったシリンジを一つ取り出して、腕に無造作に注射した。「アーイイ、遥かにいい…」ニューロンが冴え、全身に血が巡る感覚がする。それに合わせて、股間のソレも徐々に硬さを得ていった。(研修医、それより前の大学での講習のとき、不適正な使用法で習いましたっけ…)薬物による副作用化、はたまたこれから殺されることへのニューロンの損傷か、彼の脳裏にはここまでの経緯が去来した。

青年は両手の親指を使い、〈彼女〉の入り口を開いた。死体を解剖したときを思い出す。梃子のように片方の親指で開いたそこへ、無理やり起たせたモノをあてがった。研修医時代のもろもろの人間関係を想起した。「…ウウッ」緩くなった膣壁を男性器で広げていく。まったく生気を感じさせない、生肉の感触と温かみのない股間への抱擁は、初めて人体にメスを入れた日を思い出させた。

「オイオイ、ヘタクソかよ?キスぐれェしてやれ!」「グムッ!」もたつく青年にしびれを切らしたタメヤスは、彼の頭を掴み死体の顔に押し付けた。死体と目が合った…(エ?)それは幻覚だろうか?白目をむいていたその左目が、かすかに青年と焦点が合ったような気がした。青年は必死になって腰を振った。その度に、死体の目がこちらを凝視する感覚に陥った。その頬が紅潮しているように見えた。

(許してください…許してください!)青年は心の中で繰り返し謝罪した。女の死体にであり、これまで解剖し、内臓を抜き取り、サイバネを取り出した、名も知らぬ肉塊達にであった。彼は、カチグミの次男坊であり、兄と同じように医者を目指した。研修医時代、医局と人間関係のトラブルでムラハチにあい、休職中に実家から勘当され、残ったのは奨学金だけの現状に途方に暮れた。

ハイスクールの同級生を名乗る男に奨学金返済のアテがあると言われた。『変な掛け軸を買えとは言わないでしょうね…』掛け軸を買わされはしなかったが、ヤクザのもとで、死体を処理することになった。返し忘れた研修医時代の白衣に袖を通して、ひたすら肉を捌いた。『内臓とサイバネは、上体が良ければよいほどカネになんだ。もっと丁寧にやれ!』早朝に廃工場に来て殴られ、休憩時間もなく、深夜にはアイサツ代わりに罵倒され帰宅。そんな毎日であった。

「…ゆる…して…」「…」青年の慟哭を知ってか知らずか、死体はただ彼を見つめた。長髪の男は、ただ腰を動かした。〈彼女〉の体温が戻っているかのような錯覚に陥り、しかし実際膣は熱を持ってのたくっていた。突く度に、標準的なバストは微かに揺れた。「ゆるして…ください…」「…」彼は薬物の反応か、死体に興奮したのか、一心不乱に腰を打ち付けた。答えは返ってこなかった。「ウッ…」青年はついに力尽き、〈彼女〉に身を預けた。

「…ヨオ。気持ちよかったか?」「…ハイ」「アッソ」アロハシャツのヤクザは面白くもないといった風に答え、銃口を頭から外した。「まあ最期にこんなんでもイケたなら、良かッたなァ、ヘンタイ=クン!」タメヤスは大げさに拍手した。後ろの舎弟たちもそれにおずおずとしたがった。「アリガトウゴザイマス…じゃあ僕はこれで…」「ウン?そうだった、じゃあアノヨでそこのネーチャンとヨロシクな!」「エッ」BLAMN!

「ハアアアア!全く、手間かけさせやがッてよォ!」角刈りにアロハシャツの男が、胸を撃ち抜かれた男を足蹴にしていた。「ウグウウウ…ブハッ」半死人は痛みに耐えかね、何かを言おうとしていたが、喀血により咳き込むだけであった。アロハシャツの男の後ろに控える2人は、あいまいな笑みでその光景を見ていた。


◆◆◆◆◆

「ウミノモリ・デンティスト」内。〈歯科技工所〉の一室。

ゾニオカ、ドクター・モーグは、助手の生首を見ながら、昔を思い返した。
サイバネアイを調整し、それに合わせて首の断面のコネクタも部品を変えていた。「…」ケンネイは無言でその光景を見つめていた。その時、部屋に入ってくるものがあった。首なしの死体、否ズンビーであった。その手にはオーボンがあり、熱いコブウメチャが載っていた。首無しズンビーは器用に、客人と医者の傍らにチャを置いていった。

「良かったら、冷めないうちにドーゾ…」「…」モーグは無表情のまま気安い口調で言った。「どうしました?」「イヤ…」「アア、コブウメチャはお気に召しませんか?」「そうではなくて…」ケンネイの視線は、暗に助手の頭と胴を指していた。「彼女のことですか?お気になさらず…とはさすがに申し上げにくいですね。まあ、紹介いたしましょう」モーグは手を叩いた。

助手は、頭のない体でオジギした。頭の方は、右目の義眼を光らせ、左目でウィンクした。『ドーモ。マティコ・ゾニオカ、a.k.a.コープスブライドです』首の断面に内蔵されたスピーカーから、抑揚のない女性の合成音声が響いた。
「ドーモ。…ホワイトナイトです」ケンネイは、頭と胴体に交互にアイサツした。「私の妻兼助手です。女体盛り研修オイランより手は冷たいですが、心根は暖かい方です」モーグは片手に生首を、もう片方の腕に胴を抱いて、冗談めかして紹介した。胴体は恥ずかしそうに彼を小突いた。

「アッアア、ご丁寧にアリガトゴザイマス…」ホワイトナイトは、半ば当惑しつつ笑顔を作ろうとした。「皆さん、彼女と初対面だとシャイになられがちですね…まあ美人さんですから、気後れされるのもわかります」モーグは無表情を崩さずに言った。(そういう問題じゃ…まあいいか)ホワイトナイトは曖昧に頷いた。

「早速ですが、ケンネイ=サン、イエ、ホワイトナイト=サンにご相談したいことがございまして…」ドクター・モーグは切り出した。「モーグ=サン…初対面じゃないとはいえ、そんな簡単にオレを信用して話して大丈夫ですか?」
ホワイトナイトは疑問を口に出した。モーグは、首を少し傾げ顎に手をやった後、静かに話し始めた。「実際、私共夫婦には喫緊の問題がございまして…」

その瞬間、〈歯科技工所〉の壁が開き、その中から複数の培養槽が姿を現した。「!?」「親というものは、子供が一人でもいなくなると、どんなことをしてでも探したいと思うものでしてね…」ホワイトナイトはいくつかのポッドには人型のシルエットが存在することに気づいた。そのうちの一つ、「次女」と銘打たれた培養槽が空になっていた。「単刀直入に言います。娘を探していただけないでしょうか?」


◆魔◆魔物ムス名鑑♯7◆性◆
【コープスブライド】
ズンビーのマモノ。ソウザ・タメヤスが若頭時代に誤って拷問死させた女性が素体となっている。失った右目や、両手をサイバネ置換し、現在は器用に夫、ゾニオカの助手をしている。合成音声は、彼女のうめき声をサンプリングして使っているようだ。三児の母。

◆魔◆魔物ムス名鑑♯8◆性◆
【ドクター・モーグ】
非魔物娘。本名、ゾニオカ。ジンボチョの一角で、闇医者の一種、〈歯医者〉を営んでいる。かつて、ヤクザの下請けで、死体を解体し臓器売買やサイバネ・リサイクル、さらには女体盛り用の「冷やしオイラン研修」を生業としていた。三児の父。

24/06/12 15:49更新 / ズオテン
戻る 次へ

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33