赤い手ぬぐい、マフラーにして
「よっ、お疲れさん」「うん、お疲れ」玄関で手持ち無沙汰にしていた女生徒に、男子生徒が声をかけた。「帰ろ」「そうだね」
「寒くね、マフラー入れて」「うん」手慣れた手つきで、男子は女子の頭と胴の間、襟巻きの余分を自分の首に巻きつけた。その時、ちらりと女子のぽっかり空いた頸が、見え隠れする。
2人は、坂を降りながら、下に見える川、都会の中の風情なきコンクリートの渓流へと歩き続けた。「てかさ」「うん?」「染井って、なんで首ないのにマフラーしてんの?」「わたしだから良いけど、他の人にはやめてよね」首なし女は幾分低くした声で言った、
「まじか、すまん」「山田さあ、そんなズケズケ聞くと、いつかスピハラ(種族ハラスメント)で怒られが発生しちゃうよ?」染井は山田を肘鉄した。「ほんと、悪かった…だから、甲冑格闘部必殺の肘打ちやめて」「わかった?」「わかった」「なら、いいよ」
2人は、崩れた歩調を合わせ、マフラーで繋がる二人三脚を再開した。「…逆にさ、3年間、こうして、ルーティンっての?一緒に下校してるわけじゃん?」「まあな」「…今更?」「…大学、遠く行くって…だから」「うん。日体大(ジッタイダイ)、推薦貰ったし…お父さんやお母さんと同じく、育成行くし…」「…」「…今生の別れじゃないじゃん?」「…まあ、気負いすぎかもな」
「うーん…例えばさ?」「なに?」「抜け首がマフラーしてる理由って、山田の大学…皇理大(皇国立理科大学)じゃんね?」「ああ」「4年間、研究テーマにすりゃいいんじゃない?おりこーさんなら、なんかうまいことでっち上げられるって、知らんけど」「面白いかもな」
川沿いを歩く。卒業式は明後日だ。今日で、高校での授業は終わった。明日は、実質的にレクリエーションぐらいしかやることはない。山田の歩幅は、染井より一歩長い。だから、青信号と横断歩道の歩き始めだと、微妙に2人は足並みがずれている。渡り切る頃には、また手を繋ぎ始める。
「…」「…」最近は日も長くなっている様に感じる。しかし、夕方に差し掛かる都会の空気は、まだ肌寒かった。橋の向こうには、繁華街があった。「ここら、楽器屋とかカフェいっぱいで活気あるよね。ちょっと、寄ってく?」「うーん?俺、金欠だし」「ウィンドウショッピングしようよ!」「わかったわかった」
染井も山田も、なんとなく川向うに行きたくなった。2人は、高校生活が終わることが名残惜しかったのだろうか。彼女らとすれ違うのは、少し歳上の大学生達である。橋を挟んだ大学と繁華街、2人はモラトリアムを行きつ戻りつしていた。
「うーわ…これ超カワやん」「欲しいのか?」「べつーに?」「さよか」山田には、染井の気恥ずかしさと淡い期待感が読めた。なぜなら、そっぽを向く時、勢い余って首がほぼ180°向いているのだ。「じゃ、ココロに直接聞いてみよか?」「ばっ…!人前で触んなし!」彼は、彼女の頸より漏れ出た魂に触れた。
ほしー!ホシイ!ヤマダ、すき!さびしい…もっといたい「…」「…」魂の声は、2人にしか聞こえない。純粋な気持ちがこもっていた。「…とりあえず、これレジ持ってくわ」「…ありがと」「ポイントとか持ってる?」「ない」「じゃ、外で待ってていいよ」「…わかった」
待たされる外の寒空のせいか、はたまた押し殺した本音を見られたせいか、とにかく染井は震える体を抱いた。「ごめん、待った?」「なんか、買いすぎじゃね?レジ袋?」「…ま、ちょっとついでに」「そか」
2人は歩き出した。山田は、染井の手をずっと離さなかった。橋を渡り、大学等を越えて、帰り道をどんどん外れていった。けれども、どちらもひと言も話さなかった。そして、参拝客で溢れる大きな神社に辿り着いた。
「ここ…」「知ってる、この神社の神様?」「…うん。一応、うちの家系だし」「首ないもんね」「だから、スピハラだって」「ごめん」2人は社務所に向かった。巫女は、やはり首なしであった。「ようこそお参りくださいました」「繋ぎ馬一つ…」「承りました」
山田は絵馬を貰って、染井のところに戻った。「…あの人、設楽(しだら)さんじゃん」「知ってるの?」「うん、又従姉」「やっぱ、親戚なんだ」彼は、相槌を打ちながら「首のない繋ぎ馬」の絵馬に、クレパスで何やら書き込んでいく。
「これって…」「俺、離れていても寂しい時、迎え行くから…」首のある男が馬に乗って、首無しの女に駆けるように、書き足されていた。「ぷっ…」「笑うとこか?!」「だって…顔、似てない」「俺の絵心だと、お前の魅力を表現できないっていうか…」「…今度はうまく描いてね」
2人は、山田の描いた異様に陰影のついた人物スケッチとデフォルメの首なし馬の絵馬を括り付けた。「…悲しいか?」「…わかんない」寒々しい空気に、2人の体温が感じられた。今はそれだけでいい、これからはわからない。
「寒くね、マフラー入れて」「うん」手慣れた手つきで、男子は女子の頭と胴の間、襟巻きの余分を自分の首に巻きつけた。その時、ちらりと女子のぽっかり空いた頸が、見え隠れする。
2人は、坂を降りながら、下に見える川、都会の中の風情なきコンクリートの渓流へと歩き続けた。「てかさ」「うん?」「染井って、なんで首ないのにマフラーしてんの?」「わたしだから良いけど、他の人にはやめてよね」首なし女は幾分低くした声で言った、
「まじか、すまん」「山田さあ、そんなズケズケ聞くと、いつかスピハラ(種族ハラスメント)で怒られが発生しちゃうよ?」染井は山田を肘鉄した。「ほんと、悪かった…だから、甲冑格闘部必殺の肘打ちやめて」「わかった?」「わかった」「なら、いいよ」
2人は、崩れた歩調を合わせ、マフラーで繋がる二人三脚を再開した。「…逆にさ、3年間、こうして、ルーティンっての?一緒に下校してるわけじゃん?」「まあな」「…今更?」「…大学、遠く行くって…だから」「うん。日体大(ジッタイダイ)、推薦貰ったし…お父さんやお母さんと同じく、育成行くし…」「…」「…今生の別れじゃないじゃん?」「…まあ、気負いすぎかもな」
「うーん…例えばさ?」「なに?」「抜け首がマフラーしてる理由って、山田の大学…皇理大(皇国立理科大学)じゃんね?」「ああ」「4年間、研究テーマにすりゃいいんじゃない?おりこーさんなら、なんかうまいことでっち上げられるって、知らんけど」「面白いかもな」
川沿いを歩く。卒業式は明後日だ。今日で、高校での授業は終わった。明日は、実質的にレクリエーションぐらいしかやることはない。山田の歩幅は、染井より一歩長い。だから、青信号と横断歩道の歩き始めだと、微妙に2人は足並みがずれている。渡り切る頃には、また手を繋ぎ始める。
「…」「…」最近は日も長くなっている様に感じる。しかし、夕方に差し掛かる都会の空気は、まだ肌寒かった。橋の向こうには、繁華街があった。「ここら、楽器屋とかカフェいっぱいで活気あるよね。ちょっと、寄ってく?」「うーん?俺、金欠だし」「ウィンドウショッピングしようよ!」「わかったわかった」
染井も山田も、なんとなく川向うに行きたくなった。2人は、高校生活が終わることが名残惜しかったのだろうか。彼女らとすれ違うのは、少し歳上の大学生達である。橋を挟んだ大学と繁華街、2人はモラトリアムを行きつ戻りつしていた。
「うーわ…これ超カワやん」「欲しいのか?」「べつーに?」「さよか」山田には、染井の気恥ずかしさと淡い期待感が読めた。なぜなら、そっぽを向く時、勢い余って首がほぼ180°向いているのだ。「じゃ、ココロに直接聞いてみよか?」「ばっ…!人前で触んなし!」彼は、彼女の頸より漏れ出た魂に触れた。
ほしー!ホシイ!ヤマダ、すき!さびしい…もっといたい「…」「…」魂の声は、2人にしか聞こえない。純粋な気持ちがこもっていた。「…とりあえず、これレジ持ってくわ」「…ありがと」「ポイントとか持ってる?」「ない」「じゃ、外で待ってていいよ」「…わかった」
待たされる外の寒空のせいか、はたまた押し殺した本音を見られたせいか、とにかく染井は震える体を抱いた。「ごめん、待った?」「なんか、買いすぎじゃね?レジ袋?」「…ま、ちょっとついでに」「そか」
2人は歩き出した。山田は、染井の手をずっと離さなかった。橋を渡り、大学等を越えて、帰り道をどんどん外れていった。けれども、どちらもひと言も話さなかった。そして、参拝客で溢れる大きな神社に辿り着いた。
「ここ…」「知ってる、この神社の神様?」「…うん。一応、うちの家系だし」「首ないもんね」「だから、スピハラだって」「ごめん」2人は社務所に向かった。巫女は、やはり首なしであった。「ようこそお参りくださいました」「繋ぎ馬一つ…」「承りました」
山田は絵馬を貰って、染井のところに戻った。「…あの人、設楽(しだら)さんじゃん」「知ってるの?」「うん、又従姉」「やっぱ、親戚なんだ」彼は、相槌を打ちながら「首のない繋ぎ馬」の絵馬に、クレパスで何やら書き込んでいく。
「これって…」「俺、離れていても寂しい時、迎え行くから…」首のある男が馬に乗って、首無しの女に駆けるように、書き足されていた。「ぷっ…」「笑うとこか?!」「だって…顔、似てない」「俺の絵心だと、お前の魅力を表現できないっていうか…」「…今度はうまく描いてね」
2人は、山田の描いた異様に陰影のついた人物スケッチとデフォルメの首なし馬の絵馬を括り付けた。「…悲しいか?」「…わかんない」寒々しい空気に、2人の体温が感じられた。今はそれだけでいい、これからはわからない。
26/03/07 08:32更新 / ズオテン