読切小説
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アトルカワーロ・カカワキワーウ
「春待ちの日」、2月半ばに来たるこの日に、人間や魔物はチョコレートを送る。このイベントの最初の記録は、「猫の国」に来たオセロメーのカカオ商人が始めた「テショコラクチーワ」という、ホットチョコショップでのチラシである。

カカワトラン発の強壮飲料!こちらを飲み干し、狙った獲物を狩るがよし!テスカトリポカも愛飲!

「カカワトラン」、テスカトリポカの聖地の一つであり、世界のカカオ生産量の6割を担う一大生産地だ。建国者のオセロメーの女王、ヨワルテスポトリは「最初にカカオを喰らったジャガー」の異名を取る。

その建国神話は、以下のように伝えられている。

テスカトリポカは、密林と高原が海と山まで続くこの地に降臨した。その肌は黒曜石を思わせる褐色で、吐息は煙のように濃い魔力が渦巻いていた。かの神は、「ジャガーよ狩るべし」と従える狂戦士を解き放った。

獣も、鳥も、人も、その牙を逃れることはできなかった。遂には、大きな人間の都市もその軍門に下った。陣頭に立ち陥落させた者こそが、ヨワルテスポトリであった。そのまま、彼女は女王として君臨した。

早速、女王は生け贄の儀の準備を始めた。「まずは部下に恩賞として、好みの人間を…そして宴の最後に神への贄を捧げるとしようか」相手はもちろん人間の王族、モクテスマである。女王の宣言に、簒奪された王は槍を手に取り吼えた。「約束が違う。我々一族と民の身柄の安全は?我が戦士、何より私は死を賭しても戦うぞ」

「良いぞ、活きのいい獲物をこそ、テスカトリポカへの贄として最適だ」だが、ジャガーの戦士は無慈悲で強大であった。王を始め、戦士は全て生かして捕らえられた。生け贄として儀式まで保存するためだ。

モクテスマは、ヨワルテスポトリの残忍な眼差しに恐怖した。彼は、「どうせ喰われるなら毒を盛ってやろう」と決心した。ジャガーは、猫の類いの獣。ある種の植物は毒となると心得ていた。人間の王は、王宮に忍ばせた部下に毒の実「カカワトル」を食事に混ぜさせた。

オセロメー達は祝宴を進めた。「この黒い飲み物は何だ?」「毒を警戒しているのか?山猫と言えど、猫は臆病なのだな」ごちそうとして、檻に入れられたモクテスマは挑発した。「そこまで言うなら、貴様が毒見をしてみろ」

彼は心でほくそえんだ。(したり!ケダモノには毒だが、人間には無害な苦い汁よ)一口で飲み干し、空にした器を見せた。「ふむ、どうやら毒はないようだな」ヨワルテスポトリは、カカワトルの香りに目をしかめつつ、口に含んだ。

「…ウッ、ゲホッ」女王が咳き込むと、次々と狂戦士らの苦悶が波紋となった。モクテスマは、勝ちを確信する。
しかし…

「何を盛った?体が…熱い」「なんだと…?」人間の王は、見誤った。彼女らは、人でなし、獣でなければ、獣人である。両者の特徴を備え、人間が口にできるものは、毒とならぬ。

「…なるほど。そんなに、生け贄となることを心待ちにしていたか…」ヨワルテスポトリは、檻を怪力で破壊すると、モクテスマを掴み上げた。これから起きる惨劇に、男は竦み上がった。

祭壇に連れていかれる間に、戦士達が次々と乱暴に、無慈悲に「食い散らかされていく」様を見せつけられた。王は、女王に許しを請った。その声は、狂戦士の唸りが混じる荒い呼吸に掻き消されてしまった。

「恐ろしいか?先に断っておくが、お前の贈り物のおかげで思ったより昂っている…ややもすれば、手荒になるかもな…」「ああ…」オセロメーの言葉に偽りがないことは、その開ききった瞳孔と褐色の頬に映える紅潮が示していた。カカワトル…カカオには強壮・興奮作用が含まれているのだ。魔物の気質に、その効果が助けになり、欲情は最早あり得ぬほどに高まっていた。

「…おやおや、怖がらせ過ぎたな」「…!」モクテスマは、服を破かれ、恥部を祭壇の上に晒された。「しょうがない…ショコラトルとやらを持て」彼女は、まだカカオの汁を飲んでいない部下に持ってこさせた。口に含むと、「うん…」「ぐむううううう!」無防備な唇を奪い、飲み物を口移しにした。

「…ふん、苦渋も相手がいれば、甘露のような口当たりだな?」「な、なんのつもり…」「お前を贄使えるようにしてやっているだけだ」「どういう」「おまえのここはよく知っているようだが?」オセロメーの鋭利な爪で、男の勃起した性器を示した。

「こ、これは…」「もう、我慢ならん…!」ヨワルテスポトリは、モクテスマを貪った。「あ、があ…」「ふん、ふん!」獣人は、人間に股がると遠慮なく腰を打ち付けだした。

「…くうっ!」「まずは、一回…!」射精しても、その狂乱は止まらなかった。オセロメーは、唇を貪りながら、褐色の肌を重ね、二発目を喰らった。「はあ…はあ…」「今度は、ちょっとは楽しめた、か!」「ぐう…」女王の全体重を尻にのせて落ち、人間の王は空気を吐き出し苦悶した。

その喘ぎは、いつしかよがりと変わっていった。「…どう、した?人間よ…ふん、ふん!これしき、で!まだ、全部出しきっては、おらんだろう!」「あ、ああ、ああ…ふう、はあ!」両者の結合部からは、どちらの体液とも着かぬ汁が溢れた。一夜が明けるまで、かつての人間の王宮では嬌声が止むことはなかった。

ヨワルテスポトリは、テスカトリポカへの捧げ物に、カカオとチョコレートを加えた。人間の戦士は解体され、一部はカカオ農園になったという。

女王は、人間の王モクテスマを正式な餌(はんりょ)と定め、それまで通り内政をまかせた。彼女の領分は戦にあり、周辺を瞬く間に併呑し、産まれた子に領地として与えたのだ。女王夫妻の娘やオセロメーの軍団は、周辺国にカカオを送りつけた。「お前を食べ頃にしてやる」という、一種の宣戦布告であった。

そして、かつての人間の国は「カカワトル」と名を改めた。さて、話を猫の国のテショコラクチーワに戻すと、出店当時、「強壮剤」であったホットチョコは、今と違い「カカオの苦味」が強かった。オセロメー達は、苦味を楽しんでいたが、どうしても飲めぬ場合、「トウガラシ」を入れていた。要は、「苦くて辛い飲み物」であったのだ。

猫の国では、全く買い手がつかなかった。「夜の生活」に有用とはいえ、味がきつく、その上沸騰した煮汁であることから、猫舌の魔物には見向きもされなかった。そこで、隣の「ネコカフェ」と共同で、「牛乳と砂糖で苦味をなくし、冷やして固める」現在のチョコレートが開発されたのだという。

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「はあはあ…ヨワルテスポトリ様」「ん…いいぞ、その舌…」褐色の肌は、チョコレートにより一層茶色味を増していた。男の舌がオセロメーに這う度、その毛深い耳が動いた。

「モクテスマ…」「何でしょうか?」「お前が贄で良かった…これからも…はあ、頼むぞ」「仰せのままに…」「次の子も、お前に似てかわいかろうな…」女王は、腹を愛おしげに撫でた。
26/02/13 20:54更新 / ズオテン

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