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サキュバス属の上位種

- サキュバス属の上位種 -

「こんにちは!ワタシ、イムマ。アナタがお客さん、独身かしら?」一般的な魔物、それもサキュバスは、観光客や移民を見つけるとすぐに相手がいるか、確認してくる。ガイドの「イムマ」さんは、開口一番にそんな質問を投げかけた。「いやあ、彼女もいたことがなくて…それにしても、イムマさんは魔物娘図鑑の挿絵の人と同じか、いやそれ以上におキレイで…」

「あら、うれしいお世辞ね」「いいや、お世辞なんて…そのエメラルドグリーンのロングヘアとか…」違和感に気づいた。「あれ…よく見たら、翼の色もなんかビリジアングリーンですね」「あら、言ってなかったかしら?ワタシ、サキュバスはサキュバスでもサキュバス・スーペリア(上官クラス)なのよ」

「スーペリア?」「そっか、そう言えば、主神教のひととか冒険者さん達じゃないと、サキュバスにも階級があるって、わからないわね」「そうだったんですか…」「ちなみに、最上位にはアーチ・サキュバスもいるんだけど、多分魔界の奥地かそれこそ魔王様の親衛隊にでも入らないと会えないわよ」「へえ、その方たちはどんな出で立ちなんですか?」「羽がワインレッドで、髪色が灰色なの」

イムマさんは、行きつけの酒場に連れてきてくれた。そこには、色とりどりの悪魔が所狭しといた。「ん?イムマ殿か…そちらのオトコはコレかね?」褐色のアマゾネスが、小指でサインを作った。「あら、まだ違うわよ」「ちょっ、まだって何ですか!?」「ハッハッハッ、青年、気に入られたようだな!お近づきの印と、友人との再会を祝して、店主、酒樽追加!」「あいよっ!」

「あんまり飲むと、カラダに毒よ?」「バカ言え、ウィッチドクターたるオノレが今さら毒なんぞ…酒精は百薬の長なり!」アマゾネスは、ジョッキをカラにしてしまった。「ウィッチドクター…?失礼ですが、アマゾネスの方ですか?」「このコは、アマゾネスの上位種で一応戦医のウンガさんよ」「ハッハッハッ!青年、オノレばかりが飲んでいるでないか、キサマも飲むがいい!」「いたっ!は、はい…」レミューラは、肩を音がなるほど叩いた。

「うっん、ぐぅ、んぷはぁ!ハーッ、強い…!」「オトコにしてはよい飲みっぷりだ、心配するなカネはいらんぞ!今夜、上で泊まってるから、抱き枕になってくれればな!」「ちょっとお!ワタシが先に粉かけたんだけど!」「なんだと、まだ誰のものでもない、オマエのものでもないだろ、なあ青年!」(いや、アナタのものでも…)

「ところで、上位種って何ですか?」「何だ、近頃のニンゲンはそんなことも知らんのか?」ウンガとイムマは飲み比べを中断した。「まあ、仕事がら魔物に会わない限り、今の人間は私たちを魔物娘図鑑とか言ったかしら、あれで知るしかないわよ」「良い機会だ。我々アマゾネスは、単一の種族のように言われるが、実はそこそこ種類があるのだ。そこらへんも交えて教えてやる」

「図鑑の…ああこの項目にも書いてあるが、『部族』というように我々の先祖は女系文化のニンゲンだったわけだ。オマエたちニンゲンのように、住む場所や文化風俗が変われば全く違うわなけだ。また、呪術、文明社会で言う所の魔術に素養がある者は、シャーマンとしての役割をアレスより授かるわけだ。言わば、オノレや我が母、そのまた母と村の相談役だったわけでな…」ウンガの呂律の回らない、要領を得ない長話は酒場から追い出されるまで続いた。

「イヤだわ、この娘ったら部屋代まで飲み代にしちゃって…」「ママはなんで、いつもパパの上で訓練してるの…くかー」「重っ…」「あら、女の子のことそんな風に言っちゃダメよ。尤も、アマゾネスってほんとムキムキよね…」イムマを手伝いながら、街のベンチにどうにか辿り着いた。

「…結局、上位種って、何なんですか?」「アマゾネスについては、未婚の娘は入れ墨が少なくて、夫ができると増えるの。で、持ってる武器によって、『フォレストレンジャー』とか『ようじゅつし』とかに派生するらしいわ」「へえ…」「ちなみに、ウィッチドクターの証は、この変な木の杖よ」「言っちゃあれですが、マイナーチェンジですね。持ってるアイテムくらいで、上位とか…」「まあ、言っちゃえば、それ以外で個性を出すために、敢えて抑えてる感あるわね」

「…うっ、頭が」「しょうのない娘ね…ちょっと、水持ってくるから見ててちょうだいな」「えっ?」(ガイドなのに)イムマは、近くの商店に水を貰いに行ってしまった。寒空の下、酔い潰れたアマゾネスを見ながら、広場で待つことにした。

「皆さん、淫魔と言えど、肌の露出を無闇に増やすべきではありません!良いですか!本来、着込んでいるからこそ、その下にある肢体への期待感が…」「…?」辻説法で熱弁する謎の聖職者が、こちらに視線を合わせた。「人の子よ、貴方に問います。開けっぴろげな服装と、ガチガチにガードしてるけどちょっと丸みのあるシルエット…どちらに興奮を覚えますか?」(なんだこのひと…)

無視しようと視線を外そうとしたが、その先に既に女はいた。「答えてください。正直は美徳ですよ。貴方の発言は私を通して神が聞き届けます」「…シ、シスターは、腰から太ももまでのラインが…ちょっと布を押し上げているくらいが好きです」「良い答えです!貴方に祝福あらんことを…つきましては、近々あそこの邪教会に神学討論を行いますので、まずは私と一緒に…」

「ちょっとお、アナタ確か、破門された『いたんしゃプリステ』さんじゃないの?ダメよ、このヒト、アタシのお客さんなんだから…」「人聞きの悪い。私が異端者なのでなく、私以外が背教者なのですよ!」「イムマさん、こちらの方は一体…」「パンデモニウムのコンクラーヴェで、危うく『じゃきょうだいしんかん』になりかけたダークプリーストよ」

「イムマさん、私は単なるダークプリーストではございませんよ。そもそも、厳密には『堕落神』教会を名乗る僭称カルトから、離れた私は『ダークプリースト』ではなくて『エビルファナティック』に分類されます」「えっ、サキュバスの邪教の司祭って、全部がダークプリーストなんじゃ?」

「アタシもそう考えていたんだけど?」「まあ、サキュバスの聖職者というところは変わりません。何なら、生物学的に変異したわけでなく、あくまで資格が剥奪されたので、職業として公的に名乗れなくなっただけですので」「ちなみに、ダークプリーストとエビルファナティックって、名称以外に違いはあるんですか?」「そうですね、破戒したため、黒い僧衣を着れなくなったので、紫色のこういう服になりますね。尤も、先に戒律をねじ曲げたのは教会側ですけれど…」

「何でもいいけど、このヒトじゃなくて、勧誘なら他当たってちょうだい」「私は、同じ方を共有するのは吝かではないですよ。そもそも、愛とは分け合うことで目減りするわけでなく、むしろ人数が増えるごとに、濃く強くなるわけで…」「水をくれー…」「あっ、忘れてた」

「おやおや、誰かと思えばウンガさんではありませんか。良いですね、飲む、打つ、買う!現世の欲に耽溺して、日々を堕落する、正に悪魔の生き方…私も少しご相伴に与りましょうか」プリステは、ウンガに触れると、長手袋に刻まれた紋様が妖しく光り出した。「…ぷはーっ!これこれぇ、今宵に酔いとは良いではないか、なんつってえ!」

「なんか、キャラ変わってませんか?」「ダークプリ…まっなんでも良いけど、堕落神と契約すると、酔いにくくなるらしいから、『感覚共有』の魔法で追体験したがるらしいわ」「そうなんですか…なんでまた」「基本的に、軽く酔うくらいは興奮と理性がなくなるから、性的能力が高まるとして許容されるけど、酩酊より先だとエッチしにくいから『加護』のせいで出来なくなるみたいよ」「難儀な生態していますね…」

「はらほろひれー!信仰がなんぼのもんじゃーい!捲土重来してやふう!」「最悪ね、また酔っぱらいが増えたわ」「イムマさん、どうしますか?」「仕方ないから、アタシのうち近いし、運んであげましょうか」(観光に来たのに、どうしてこんな目に…)

「…イムマ殿、いきなり過ぎて、それがし全く理解が追いつきませぬぞ…」覆面をしたサキュバスが、ルームメイトに呆れた。「そちらの御仁、聞けば、旅人とか?」「ええ…一応ガイド頼んだんですけれど…」「しょうがない、おねえさんです!」小さな悪魔も抗議した。「何でもいいっスけど…クライアントにこんな手間かけさせちゃヤバくないっスか?」青く燃えるような魔人が、酔っぱらいをベッドに運んでいく。

「ごめんなさい、でも、アタシの命令は絶対でしょ?」「僕、一応顧客なんですが…」「旅にはハプニングが付き物でしょ!」「ええっ…」「ちなみに、この東洋の悪魔は『クノイチ』…」「それがしは、『ジョーニン』にござれば、名を千代女と申します。お見知り置きを」「あ、これは丁寧に」

「こっちのかわいいサキュバスは、『アリス』…」「おねえさん!わたしは、『ゆうわくしょうじょ』クラミルだよ、ほらエプロンに黒いハートのアップリケがついてるでしょ!」「よろしくね」「おにいさんも、よろしくね!」

「最後にこの青い娘は…」「『パイロゥ』より熱い、『あつあつパイロゥ』のプレイジィだよ。よろ」「あ、よろしく…」「おにいさん、けっこうアツアツじゃんね、よかったら泊まってかん?」「えっ、僕は…」

「そうね、外は寒いし。今日、いろいろ付き合わせちゃった、『お礼』しなくちゃ…」イムマが迫ってくる。身体が動かない。「すみませぬ。それがしの影縫いで、貴殿はここから逃れられませぬ…」背後には、千代女。「そだよ。ウチらでさ、暖まってこ?」ブレイジィの目には、青く熱い炎が灯った。

「おにいさんと、ナニしてあそぼっか?」クラミルは幼い姿に似つかわしくない、「オモチャ」を持ち出してきた。「…いてて。うん?おお、青年、こりゃ迎え酒としゃれ込むか…」起き上がるなり、ウンガは嗜虐的に目を細めた。「…心苦しいですか、これも堕落神様の思し召しでしょう。私もご一緒させていただきます」プリステが蝋燭を消した。そして、獲物を見つけた悪魔の眼光だけが、気を失う前に見た光景であった。
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