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アマゾネス語講座第四版
一章.あいさつ

私が最初にアマゾネスを知ったのは、両親に子供の躾に「山奥の森深い場所から人さらいに来る集団」について聞かされ、怖がらせられた時だ。

次に、大学を出て、徴兵に行くことになった時、行軍の都合上アマゾネス出没地帯を通ることになった。教官や上官も「交戦したが歯が立たず、何人か拐かされた」話を聞かせた。実際に、運悪く遭遇し、あえなく捕まってしまった。

村に連れてこられ、「未婚か既婚か」を尋問され、既婚者は街道まで解放され、私含めた独身者は「宴」に饗される。

例文(共通悪魔語の直訳):お前は強い牡か?それとも、種馬か?故郷で慎ましく店屋でもやってれば良かったものを。
例文(アマゾネス方言意訳):こんにちは。ご職業は何をされていますか?戦士職ですか、それとも商店などを経営されているのですか?
解説:彼女らは、基本的に職業軍人と徴兵された一般人を区別しようとします。前者は、まず心身ともに屈伏させるため、後者は、なるべくケガを負わせないようにしたいからだと言われています。共通語では、直訳すると古めかしく聞こえる表現を、なるべく分かりやすく表現しました。

この時私はある史実に気づきました。一般的にサキュバスは共通語「性交・セックス」を、しばしば悪魔語「仲良し・協同作業」のような表現を行う。しかし、大学で専攻した語彙には、アマゾネス達の交わす聞き慣れない言葉がありました。

戦士の一人であり、私の妻、一家の大黒柱であるところのマリーゴールドは、あまりに心ここにあらずの私を見て心配になったようです。彼女は、一先ず一族に伝わる媚薬性の香油を体に塗り、私を押し倒したものの、全く抵抗がなくて拍子抜けしたと後に語っています。

行為中、マリーゴールドは独自の言葉で囁いてきたが、意味はともかく低く湿った響きが大変美しかった。

例文(共通語・直訳)「どんな愚鈍な獲物も、我らが腕に抱かれては、仲良しにならざるを得ない。狩人に見つかったことを後悔するがいい」

アマゾネスとしては、獲物を「その気」にさせることも戦士としての腕の見せ所であるため、気がつくと私は彼女の大きくしなやかな肉体にもみくちゃにされていた。彼女は、目が合うと、「やっと振り向いた」とニヤリと笑っていた。何とも魅力的で、エロチックでした。

例文(アマゾネス・意訳)「やっと、私を見てくれた」
解説:この時の彼女の言葉はアマゾネス方言では、正確には「戦士に捕まったことに気づいたか」と表現している。しばしば、アマゾネスという種族名を「戦士」と換喩することを好む。

二章.新婚生活

マリーは基本的に、拙いが共通語で話してくれていた。私は、アマゾネス語について、幾つか質問した。彼女らは、基本的に自らを「戦士」と称するのだ。氏族ごとに、「川の戦士」「サバンナの戦士」のように呼び掛けるが、アマゾネスという種族については一貫して「戦士」あるいは、「アレスの娘達」と呼ぶようであった。

その後、彼女の家に住まわされ、狩りに出ている日中は掃除や洗濯を任された。さて、洗濯していると、長く村に馴染んでいる者達と話す機会がある。所謂、井戸端会議である。そこで頻出するのが、「インクーボ」「旅人」と呼ばれることである。このうち、「インクーボ」は共通語における「インキュバス」に相当するが、問題は「旅人」の方である。

マリーが帰ってきて質問すると、彼女にも由来は判然としないのだった。彼女は、「質問するよりも、その身と子種を捧げろ」と言うのが口癖であった。今は、都市に住んでいるが、時折どうしようもなく求めて来る時があり、やはり「口より体を動かせ」と幾分か流暢に囁くのだ。

例文(共通語・直訳):「惰弱な男(直訳:捕まった人間)は、常に戦士に答えを求める。だが、我々はそれに応じる口を持たない」
例文(アマゾネス・意訳):「旦那は黙って、下の口の協同作業に勤しんで欲しい」

コラム:ハネムーンは、アマゾネス方言で「秋仕舞い」?
彼女らは、木枯らしが吹き始めると、「秋仕舞い
」という行事を、数日間催す。雪が降り始める前に、木の実や山菜、動物の狩りを行い。半分を宴会に使い、もう半分を保存食にする。直訳すると、「秋に別れを告げる」で、謂わば「冬支度」とも言い換えられます。

秋仕舞い最後には、やはり全員が見ている前で、各々伴侶を犯し始めるのです。ここからが特異的で、その後雪解けまでは、村を出ることなく、また基本的に家で閉じ籠るようになる。この時、インキュバスにして夫が飢え死にする可能性を失くし、また、狩りに出られないこともあり、昼夜問わず交わることになります。

サキュバスは、蜂蜜酒を飲んで乱痴気することから「ハネムーン(蜜月)」と表現した(共通語にも取り入れられたが)が、アマゾネスでは「秋仕舞い」と表現します。

古い言葉では、「ガメリオン(結婚月)」と言い、基本的に淡白な夫婦生活を行う彼女らに珍しく、人間の恋愛のように、共通の話題や趣味について話し合うこともある。

例文(共通語・直訳):「今日は、大変寒くなっている。アレスの試練と見た、つまり軟弱な貴様は家の中で慎ましくしていろ」
例文(アマゾネス・意訳):「今日は寒いね。外出たから風邪引くから、一緒に暖ったかくしてようか」

これは、族長やシャーマン等の話を収集している民俗学者によれば、「元々、子供を作ったら、父親は追い出す生活だったのが、サキュバスと化して夫として置いて置く都合上、同居するためなるべく相互理解が必要になった」という事情があるそうな。

冬籠もりの工芸品の作り方や、獣の捌き方、家族のことや都市のこと等、互いに話し合うので、メモを取る手が止まらなかったことを覚えている。だがそれ以上に、インキュバスにしようといつも以上に積極的に迫ってくる様になります。

例文(アマゾネス方言):「都市での贅沢が懐かしいか?うじうじと過ぎたことを考えるより、従順になった方が身のためだ」
例文(共通悪魔語):「ホームシックなの?じゃあ、私のこと以外考えられなくしてあげる」

マリーゴールドは、都市の暮らしに興味があるが、一方で伝統的な生活を守ることを重視するため、しばしば私が故郷のことを話すと機嫌が悪くなっていた。私は、むしろアマゾネスの文化習俗に興味が湧いてきたので、彼女から学ぶ様にした。そうすると、マリーはしたり顔で色々なことを教えてくれました。

3章.子育てと家族の呼称

雪解けとともに、族長とシャーマンは、蓄えの残りをアレスと森の神々に捧げる。アマゾン方言「返礼」という表現です。

通常のサキュバスは、年間を通して、特に出産する時期を定めませんが、アマゾネスは立春前後に儀式的に初産を行う傾向があるようです。これは、「返礼」の最後にアレスに赤子を見せ、(生け贄としていたとも)一族の承認を行うためらしいです。

村には、数百人の出産を助けた産婆の方がいました。私達の娘を上げた時に、言った言葉は以下のようなもの。
例文(アマゾネス方言):威勢のよい産声のだ。きっと、アレスに伝えるために違いなかろう。戦士として、立派に務めを果たしたな。
例文(共通悪魔語):赤ちゃん、元気な産声ですよ。アレス神にも聞こえるほどおっきな声で、無事に生まれて良かったですね。
解説:「娘」というのは意訳で、実際は「産まれたばかりの戦士」のようなニュアンスでした。

コラム:「アレスの○○」は誉め言葉
基本的に、産まれた子供は人間換算で7歳くらいまで、しばしばアレスの所有物と見なされます。赤ん坊が元気なときは、「アレスの賜物」「アレスに選ばれた」のように形容し、体調が悪いときは「アレスに呼ばれているやもしれん」「アレス神に恥じぬ戦士に成るため、早く良くなればよいが」等とアレスを枕詞にします。

例文(共通語・直訳):「マリーゴールドの娘は、まるでアレスの傑作だな。だが、我が小さき戦士は、アレスの似姿とすら言えよう」「確かに、マーガレットの赤ん坊は立派で良き戦士となるに違いない。だが、うちのレモンも負けられない」
例文(アマゾネス・意訳):「マリーゴールドの赤ちゃんは、わんぱくさんで、かわいいね。でも、うちの子も、めちゃくちゃかわいいから」「たしかに、マーガレットの赤ちゃんも元気でかわいいよね。うちのレモンちゃんも、負けてないけど」

アマゾネスは、狩りを産休することがあっても、育休はあまりしない。基本的に、祖母父が子育てを助けに訪ねてくる。義母は、タゲタといい、義父はなんと昔聞いた拐われた人間こと、ヒューバートであった。驚くべきことに、マリーゴールドの妹に当たる乳呑み子を連れてきて、一緒におしめを換える場面もあった。(タゲタは、十人以上の子供を産み育てた、「強壮なる戦士」の称号を得ている)

さて、彼女らと話をすると、アマゾネスでは以下のように、家族を呼称することが分かった。
夫婦:戦士としもべ、子供(アマゾネス):小さき戦士、子供(インキュバス):アレスのインクーボ(最近、都市のアマゾネスを中心に普及している)、母親:更に強き戦士、父親:務めを果たした男(更に強きインキュバスという表現もする)、祖母父:次なる戦士を育てし戦士(インキュバス)、古き切り株(比喩的に)、孫:より小さき戦士

例文(共通語・直訳):「これが、マリーゴールドの産んだより小さき戦士か…デイジーら妹達も喜ぶだろう」「先輩の戦士とそのしもべにアレスの祝福あれ」
例文(アマゾネス・意訳):「マリーゴールドが、孫を産んでくれて、デイジーや下の娘達も喜んでくれるじゃろう」「お姉ちゃんと旦那さん、おめでとう」

コラム:姉妹についての表現
アマゾネスは、例に漏れず多産だが、共通語の「姉妹/sister」をそのまま借用している。タゲタは、上の妹のデイジーらについて、「小さきシスター戦士」のような、奇異な表現を行っていた。デイジーの方は、姉を「先輩の戦士」と称しているが、こちらは歳上の同族全般にも使うため、文脈で判断する必要があります。

四章.都市への移住と若者言葉
レモンを育てながら、下にパチュラが出来た頃、村の外では2、30年経過していた。男狩りに向かった者らは、すでに都市が魔界に堕ちたことを伝えてきた。族長は、志願者を募り、国との交流を開始した。マリーゴールドはかねてから、都市に行くことに関心があったので、私は勧めてみた。最初は断ったが、レモンもせがんだので、私達は都市に帰ってくることになりました。

魔王軍の支配下に入った故郷には、多種多様な文化が入り乱れており、娘や他の若いアマゾネス達は新しい文化を作っていった。近代アマゾネス語こと、アマゾン=パイロゥ・ピジン語の形成です。

例文(共通語):「こんにちは、ありがとう、さようなら」
例文(パイロゥ方言一例):「こんちゃ、あざーす、じゃまた(バイバイ)」
→(アマゾン=パイロゥ):「アレ感(アレスに感謝)、アレッス、ばいかるこ(バイバイ、よい狩りを祈る 子か)

パイロゥ文化や、モモニカ・サバトを中心とした、「ギャル」というカルチャーに、マリーは難色を示したが、レモンは積極的に触れていった。若い世代のサキュバス系に逆輸入、統的な「男狩り」「戦化粧」「アレス信仰」と「カワイイ」という概念の融合が行われている。

アレス信仰では、スポーツを奨励しているため、スポーティ・ファッションを良く着こなす。戦化粧は、ラメや塗料、ステッカーにより簡易化された(俗に言うデコ)。有名なものとして、「ガングロ(アマゾネスの褐色肌と縮れ髪、入れ墨や戦化粧の模倣」というカルチャーが生まれた。

また、男狩りは特にパイロゥカルチャーとの接触で、「モテテク(家庭が持てる手管)」として若い世代では一般的に行われている。レモンも、学校生活の中で、「カレピ」の獲得に向けて努力を重ねている。この点について、マリーゴールドは渋々「戦士」としての知略として認めている。

今後のアマゾネス語の発展に注目していきたい。
25/11/30 20:24更新 / ズオテン

■作者メッセージ
あとがき:最近になって、インキュバスが産まれるようになっていますが、我が家にも「息子」が増えました。近代アマゾネス方言には、「男の子」という概念がありますが、伝統的には存在しません。そのため、マリーゴールドと娘達は、それぞれ違う表現をしています。

マリー:我が家の小さきインクーボ、レモン:弟(男のシスターとたまに呼ぶ)、パチュラ:戦士になれる男

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