連載小説
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番外編:13大サバト
基本的にバフォメットは、魔界の奥底におり、人間の生活圏に現れるのは一握りである。人類文明は、この強大なる大魔族について理解が不十分である。しかし実は、魔物の個人主義的傾向や無秩序で弱肉強食すぎる構造から、魔界においてすら、公式的なサバトの史料は数百年前まで存在しなかったという。大ルーニャルーニャは、古今東西あらゆるサバトについての研究を深め、長老会の中でも一次資料において、複数回名を残す有力サバトを選出した。間違ってはならないのが、ここに列記するサバト以外にも規模や影響力の大きな組織は存在するが、13のサバトを纏め上げる長老は、魔界の悠久の歴史を紐解いても歴代魔王や神々に比肩する最上級の存在であるという基準である。

また、今回はルーニャルーニャ・サバトが定める、「サバト」と「単なるバフォメット主導による魔物組織」を定義づける。つまりは、サバトの構成要件をあえて設けて区別する。長老会は、サバトを設立するバフォメットに「認定山羊皮」と「魔羯杖」を授ける。我々、更に「魔女を増やす」ことを活動に明記しているかを選定理由とした。大ルーニャルーニャは、バフォメットが魔女を作り出す動機には、「仲間や友だちが欲しい」という願いが通底しているのだと仰せられる。

さて、今回13という数字に纏め上げたことに含意があると思った読者の女の子とお兄ちゃんがいるかも知れない。13とは、吉凶のどちらにも通ずる数字である。人類と魔物は、十進法と六十進法をそれぞれ採択した。一方は手指の本数。もう一方は、地水火風空と太陽の運行(黄道)などの自然の黄金比からである。13という素数は、どちらの数体系からも独立している。それ故、魔術的意味を持ち得るのだ。

1.「Rule/覇道」:魔王軍サバト。長老会のご意見番、魔法研究の権威たる「バフォさま(仮名)」主宰のサバト。彼女は、数々の古代文明の石碑や壁画に同定される魔物の存在があり、また数代前の魔王から仕えていたことが有力視されている。彼女の前にも、幾人ものバフォメットが悪名を轟かせ、サバトを作り上げたが、近代型のアーキタイプはこの山羊から始まったとされる。

2.「Indulge/悦楽」:黒山羊サバト。クロフェルルが設立したサバト。魔の第四王女殿下、デルエラ傘下のサバト。禁忌の魔法体系「淫魔法」を専門的に研究するサバトであり、「背徳」の二文字を象徴する最右翼の組織である。デルエラ麾下の「過激派」の育成機関の側面もあり、邪悪さと淫靡さは他の追随を許さない。

3.「Inquire/究明」:魔道サバト。シロクトーのもとに集うサバト。黒山羊サバトが、「背徳」を司るのであれば、彼女らは「探究」の極北に位置している。魔法研究者が集まれば、一人はこのサバトの一員が紛れているだろうと言われる。「古式魔法」は理性を以て制御する部類のため、欲望で強まる「淫魔法」は根を同じくして袂を分かった存在と言える。双子であり、姉妹弟子でもあった二人の生き様と相似している。

4.「Battle/闘争」:格闘サバト。アーシュラを師範とするサバト。モットーは、「精と魔力を体外に放出するのでなく、ひたすら研鑽と自己強化に費やすことが最強への道なり」を掲げている。意味するところは、「武道による精神修養と性欲の昇華による肉体強化」である。「我慢に我慢を重ねた先にある、より強い快楽と副産物としての魔法によらない健全な破壊の力」であり、強い冒険者や主神教軍を返り討ちにし、強引に門弟に加え、魔女と使い魔の二人三脚で最強を目指す。

5.「Paranormal/怪奇」:最速サバト。主神教勢力に与する珍しいバフォメット、デスペランカが創設したサバト。主神の託宣を偽って、勇者に干渉し、魔王城への攻略を援助してきた。古来、イレギュラーな実力を持つ謎めいた魔法使いの少女が、しばしば英雄譚に登場するが、一部はこのサバトの魔女である。彼女らは、なんの目的か勇者や冒険者を支援し、奇想天外な方法で自分の「推し」を最速の存在にしたがるのだ。一説には、それを利用して物理法則を破壊しようとする実験なのだとか。

6.「Reincarnate/輪廻」:不死サバト。レンルシカによる、アンデッドとネクロマンサーのサバト。死と再生の神、「ヘル」の教団でもあり、「死は終わりではなく、新たなる始まり」をスローガンに掲げる。その性質上、教会や僧侶等の聖職者や伝統主義者との対立が絶えず、同じサバトでも「現世での生」、特に医療を重視するグレイリア派とも芳しくない関係にある。それについては、「生と死は分かたれるべきでない。いつか死ぬとも生くる全ての者のためには、生者と死者が隣り合うことが、弔い、つまり『訪問』できる距離にあるべきなり」とも。

7.「Pharmacy/薬学」:錬金サバト。稀代の錬金術師、テオフラステーと数少ない弟子で構成されるサバト。媚薬、強壮薬、透明薬、医療用スライム製品等の発明に携わっている。目下の研究テーマは、「手術の痛みを軽減するための感覚遮断」の方法論である。

8.「Plastic/応用」:魔力サバト。魔力とマナの運動と循環に着目したサバトで、リーダーはメーテルリンクというバフォメット。彼女は大ルーニャルーニャのように、「魔術」が不得手であったが、「魔力操作」に関しては天賦の才があった。そのため、「魔力を魔術としてでなく、純粋なエネルギーや動力として活用する」ことを命題に、「魔力車」や「魔法灯」等を開発した。多数の魔女とお兄ちゃんの「魔力生成」によって、一都市を不夜城に変えたことも。

9.「Conspiracy:陰謀」:秘密サバト。謎めいたバフォメット、アノ・ニーマイヤーが首謀者と推定される秘密主義のサバト。メンバーの素性も、人数も不明である。ニーマイヤーは、ナゾナゾ形式で長老会の会員に「次の活動」を嘯くが、彼女が他人といる姿を見た者はいないという。噂では、「回りくどい試験や謎解きを課しているため、そもそも誰も参加していないのではないか」とぼっち疑惑をかけられている。

10.「Wild/野生」:獣サバト。最古参のバフォメットの一人、ロプロットが率いるサバト。魔獣としての獣性を存分に発揮し、しかし動物のかわいらしさ、無邪気さを前面に押し出すことで、近年でも入門者が後を絶たない。大勢力であるが、のんびりと牧歌的で、日々を楽しく過ごすこと以外には無頓着で、長老会の中ではマスコットのような立ち回りである。

11.「Equity/公平」:審判サバト。長老会の議長にして、生きるルールブックことジュリーを長に戴くサバト。あらゆる裁定や判例に通じていると言われ、スポーツから裁判まですべてを公平に進行すること身を捧げている。

12.「Contract/契約」:結婚サバト。結婚の女神を信奉し、自らも司祭を務めるシュジュガの下に集うサバト。「結婚とは最も神聖にして不可侵の契約」とし、「愛情、育児、経済力」の三点を重視した既婚者のサポートと、未婚の人間や魔物の相談を受け付けている。ただし、未婚男性はほぼ例外なくサバトのメンバーと結婚させられるので注意。実は、エロス教団とは浅からぬ因縁があるとか。

13.「Finale/終焉」:最終サバト。最後にして、長老会末席のバフォメット、オーワリー・ジ・エンドの決定的サバト。その活動は、あらゆる物事に幕を下ろし、ケリを付け、終止符を打つこと。即ち、終了であり、Finである。
25/11/18 21:44更新 / ズオテン
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