地獄巡り
| 『根の国:皇紀三千年を地獄について紐解く』(ノリナガ・ヤナギダ、イワクニビメ・ヤナギダ共著) 磐國媛「思えば、中々のライフワークになりましたね」 憲永「いやあ、大作ができあがったし、ボチボチ、黄泉平坂を下ろうか、なんつって」 典型的な瓶底眼鏡の老学者は、隣の銀髪の朽縄を見た。その深紅(輝血:カガチ)の瞳孔ははっきりと広がり、爬虫類を思わせる無機質だが粘っこい執念を感じ、背筋に悪寒が走った。 磐國媛「先生は、わたくしを置いてお隠れになりたいと仰いますか?」 憲永「いや、ぼかぁ…そんなつもりじゃ…じょっ、冗談だよ」 磐國媛「怒ってないですよ…だから、そんな恐がらなくてもいいじゃないですか」 憲永「そうかね…ならあんし…」 磐國媛「けれど、もうすぐひ孫が孵るというのに、お爺さんがそんな縁起でもないことを仰るのは、悲しいですよ」 白蛇は、尻尾を静かに学者の背に巻きつけた。蜷局の中にすっぽり入る頃には、獲物には最早なす術は残されていないのだ。 |
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