読切小説
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愚者(オロシャ)のイヴァンと炎魔
今日の朝食もビートのスープと硬いライ麦パン、キャベツの酢漬けもあって健康的だなぁ。「うんざりだ!俺は軍で出世して、ビフテキを毎日食ってやる!」兄貴はそう言って、出てった。何にしても、腹ごしらえしてきゃいいだのに。

次の日も同じ献立。牛乳もあって、栄養満点だべ。「私は、こんな粗末な家にいられない。賢く、大きく稼ぐのだ!」ちい兄貴も出ていった。全く、兄貴たちゃ忙しねえだよ。

オヤジとマルタと、日がな一日、朝日が出る前から日の入りまで、黙々と畑仕事。嫌じゃないって言うと、ウソだが、それでもやりがいはあるだ。生まれてこの方、畑と街くらいしか知らねど、季節や天気で風景はがらりと代わるから飽きはこねえ。

ある日、兄貴たちが嫁っ子つれて帰ってきた。おらあ、4人を出迎えてやろうとしたが、戸に手をかけた時にわかった。「なあ…兄貴よお?」「早く開けんか!?どうした、バカヴァーニャ」兄貴のイライラした声色はいつも通りだった。人間のままだ。けんど、義姉様たちゃ…

「おらあ、悪魔はウチにいれねえだ…」「…開けろと、兄が言ってるのがわからんか?」「ひどっ…お義姉ちゃん、かわいい弟きゅん(笑)に会いに来てあげたのに〜…」軽薄そうなおなごの声には、この世のもんじゃねえ凄みがあっただ。

おらは、観念して迎え入れた。兄貴たちゃ気づいてるのかいねのか、だらしねえ顔して、嫁っ子…角と羽の生えた真っかったかの悪魔と入ってきた。話を聞くと、上の兄貴は部隊が全滅しかかった時に、「結婚する代わりに、兵士をもらう」約束をしたんだと。ちい兄は破産寸前に、「嫁に貰うかわりに、金持ちにしてやる」と誘いにのったらしい。

親父もマルタも、悪魔にでれでれの兄貴たちを叱りつけた。だが、数日もすりゃ、外面が良くて、口のうまいあいつらに骨抜きにされちまった。おらあ、怖くなって食事時以外は、畑と野良仕事にかかりきりにした。

家の方では、なんだか賑やかな笑い声が聞こえてきただ。「戦で殿を勤め、あわや敵の凶刃に落ちかけた刹那、アルチーナが我が前に降り立ったのだ。暖かい炎、暗く寒い戦場で…悪魔を天使と見紛うた…」「やーん!ダローライ・モーイ(マイダーリン!)!ウチもだいしゅきー!」

「借金で首が回らなくなって、いよいよ金の無心するか…と思ったあの日。常連のカチューシャが、『お客さんにバズるためには、もっと盛らなきゃっしょ?』とアドバイスをくれてな。本当に、感謝してもしきれん…」「つーか、こいつ商売下手すぎひん?マージ、ショップナメてんだろって、アタイ、毎日『お客様の意見(ラブレター)』送ってたんだゎ」

結婚式までトントン拍子…兄貴たちも、親父も、マルタも主神様の教えを捨てただか?土いじり、寒空の下、シャツが汗まみれになるほど働く。イヤなこた、全部忘れられた。

兄貴たちの式は障りなかった。嫁っ子たちとさっさと新しいウチに行ってくれてセーセーした。親父は毎日「孫の顔が楽しみ」とか言ってら。妹のマルタも口が利けねえから引っ込み思案だっただに、今じゃお医者の手伝いに励んでる。良くなったのか?おらは、もうよくわからね。

ある朝、マルタは真っ赤っかで、羽生やしてやがった。まるで、義姉ちゃんたちみてえに。身内から、悪魔だしちまったが、そんだけじゃね…ビョーキをなおしてやった中には、国の王子サマもいたんだと?そいで、マルタは玉の輿だって!?おらはとうとう、気が変になってきた。

みーんな元気で、やる気に満ちて、マジメになっちまった。おらとおふくろが主神様に祈って、親父と一緒に畑仕事さ行ってるときには、みーんな働かなかった。しゃべれねマルタの嫁の貰い手が見つかんなかったのに、今じゃ王子サマのお妃サマ。ぜーんぶ、あの悪魔どものおかげだってのか?

わかんね。おらはおらが何なのかすらわからね。でも麦を摘むおらは絶対この世にいるはずだ。どっかのエライ学者さんも言ってた。「おらははたらく、だからおらはいる」、それだけが正気にしてくれる。

そう思うと冬もちかづくに、全然寒くね。「だよねー?やっぱり、エネルギッシュってーの?ニンゲン、ガンバってるとき、汗かいてるときがかがやいてるよね!」誰か知らねえが、いいこと言うない。

浅黒い、化粧っけのある娘っ子が切り株に座っていた。手にはバスケットと、缶からを持ってる。どこの娘さんかね?「えっ、クドーリャ(カーリーヘア)のことキョーミあるかんじ?」嬉しそうに笑みを浮かべた。多分、都会から来たお人なんだろ。おらはこんな美人さんには近くの街でも会ったこたね。

バスケットの中には、ふわふわの砂糖菓子。缶からには、見慣れない果物がハチミツに漬かって。なんだべや?「リマンチーク(レモンちゃん)だよー。お腹すいてない?」娘っ子は切り株の半分を叩いて言った。昼飯まで時間はあるべ。「根詰めすぎるといかんよ?きゅうけいしよか?」

オヤツの甘さは疲れたカラダにガツンときいた。レモンのハチミツ漬けは一気に飲みきりそうになった。「美味しかった?良かったー!」もう一頑張りする。巻き毛の娘っ子は何が楽しんだかずうっと仕事ぶりを眺めてただ。太陽が少し傾く頃には、麦をすべて刈り終えていた。

弁当のライ麦パンとスープのあつもの(ゼリー)、ジャムを入れた茶。あのこはまだ切り株に座っていた。貰ってばかりはよくねと主神様もおっしゃるべ。「えーなになに?クドーリャにもくれんの?お返し、いいのに。でもありがと」都会の人の口に合うか分からんかったが旨そうに食べていた。

次の日も、また次の日も、都会のお嬢さんは来ていた。髪型はクドーリャの名前とおりくるくる巻かれていたけど、ちょっとずつ日によって変わっていた。そのことを言うと、「うれしーい!マジ気づいてくれてたんだ!」とおっても喜んでた。服は秋にしちゃ、冬も見えてくるだに薄着だった。赤茶けた太ももがなんとも綺麗だったなあ。「ちょっとー、見とれすぎなんですけどー!うけるんだけど」

おらはあんまり女の人に慣れてねから、ちょっと馴れ馴れしすぎだっただ。ごまかすために野焼きに戻るけど、うまく手につかない。「ちょっとー、火って使い方間違えると、ヤケド、火事だかんね?気をつけよ?」いつの間にか後ろにいた。心配そうな顔をしたかとおもったら、火かき棒を持った手を掴まれた。「…安心してよ。火の使い方は昔から上手だからサ」

お嬢さんに促されるまま、畑を焼いていく。火はまるでおらの手足みたいに言うことを聞く。「…前から思ってたけどさ…おにいさん腕も手も指も、ごつくて太いね…」耳に熱い息が、いんや、燃え盛る火が吹き掛けられた。「…それと、こっちのモ、結構デカくね?」疲れと、下心でむくむくとおっきくなってきたイチモツを履き物の上から触られた。燃え盛るシッポに…

今分かっただ。このオンナは、ヤツら(悪魔)の親玉だ!「…根詰めすぎると、タメすぎると、カラダに毒だよ?」

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既に日は完全に落ちてただが、おらの目前は昼間よりも明るくて熱かった。「ほおら…へばっちゃダァメ…まだ13かいだよ?」クドーリャは真っ赤っかのカラダをおらの腰の上で揺らした。

おらはハジメテを悪魔に持ってかれた。主神様の教えを捨てちまった。その上結婚前に外で女子とやっちまった。不思議なことに、あまり悪い気はしない。「はあ!いいね、そのチョーシだ…ん…よ!」下からつきあげてやるとイイ声を出す。

「出る?でる、デル?!出ちゃう?出しちゃえ、出しちゃえっ!」今までよりも締め付けが強くなった。だけど、まったくやる気はなくなんね。「イイよ。イッちゃお!いっしょに!」おらは結局また中に子種を撒き散らした。そのたんびカラダがキモチいい炎に包まれた。

「あのコたちがさ、結構マジメな弟くんがいるって言ってたから見に来たんだけど。マジ、こんなずうっと働いて、働いてってヒトはじめて…疼いちゃうじゃん?」クドーリャはおらが節くれだった手ぇ見て、うっとりした。「働き者の手はそんじょそこらのニンゲンには持てないよ?勲章じゃんね」

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これだけありゃ、みんなで冬ごもりしても、腹空かせねだろな。おらたちゃ温室で一つ一つ、収穫してく。国の半分くらいになった畑を見渡して、ちぃっとばかり誇らしくなる。でも、金なんかいらん。「おーい、ヴァーニャくーん、オヤツ休憩しよ!」嫁っ子の作る菓子がありゃあな。

さっき剣と鎧着た若いのと、杖来た魔法使いとか、おめと話してなかったっけ?「ああ、どっかの勇者くんたち?みーんな帰してあげたよ?だってスイーツタイム、邪魔されたくないじゃん?」その手に握るまだ燻ってる剣が焦げ臭えな。「ごめーん。四天王って、有名だから変な人、いつも押し掛けちゃうんだ。嫌いになった?」

ぜーんぜん。ピロークの旨い嫁さんだけで、お釣りがくらあな。「ふふふ。ヴァーニャのタンジュンなとこありありおりおりいまそがり。だけど、それってピロークがもっとメチャ旨なコいたら、そっち見るってことカナ?」クドーリャの炎はおらを焦がす。嫉妬の火もキモチいいだ。

「それ嘘だったら、激おこムカ着火ボルケーノで大陸休火山フィーバーだかんね?」温室の温度がレモンでも育てられそうになってきた。「じゃあこんどはレモネード作ったげるね」旨いモンを作り、旨い料理を作って、国中みんなで食べる。それだけでやる気満々になるべさ。「それでこそじゃん!」
25/11/03 19:30更新 / ズオテン

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