連載小説
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セクション4
ホワイトナイトおよびデジタルスクイレルのドローンは、ニュー・トキオ東部のあるアパートに到着した。築十年から十数年程度、一部の室外機や配線は錆びたりシミがついたりしている一方、外壁は最近塗りなおされた様子であった。いかにも、マケグミもしくは中流家庭が住んでいそうな雰囲気であった。

『モグモグ…ング、マクノ=サンのくれた住所と照合…この建物で間違いないね』「よし、ハジメンゾ…」ホワイトナイトはシャツにジーパンのラフな服装に身を包んでいた。ブゥンドローンは光学迷彩を起動した。

『じゃあ、いつも通り、チャチャッとやりますか!』デジタルスクイレル以外に、インプラント無線にはガサガサという音も聞こえた。「…ながら食い、それもスナックなんてやめた方がいいぞ…」「ウルサイ!そっちこそ、ガキみたいに掻っ込むのやめてくれたまえ。」男とドローンは小言を言い合った。

「…キミと一緒に飯食うと、なんだかうまくて、つい…」青年は申し訳なさそうな顔をしていった。『…バカ♡』「お互いを思うから、気にしすぎるのかもな…とりあえずキミと食事する時間ごと、もっと味わうことにするか」『…たまにはいいこと言うじゃあないか』そう話しながら、男は正面玄関に向かい、ドローンは〈ターゲット〉の部屋の窓付近まで上昇した。

ホワイトナイトは玄関の自動ドアを入り、指紋認証デバイスに手を置いた。最初は無反応。住人らしきものが横を通り過ぎ、怪訝な顔をした。ホワイトナイトは作り笑いで会釈を返した。二回目、ブガー!「エラードスエ!」の警告マイコ音声が鳴った。監視カメラは男を射抜かんばかりに凝視していた。

三回目。このタイプの中流住宅は、基本的に3回で警備に連絡がいく。勝ち組であれば、最初の1回ですぐに公的機関もしくはPMC(民間軍事会社)に連絡がいくであろう。それと比べて楽ではあるが、この1回にかかっている。ホワイトナイトの額に汗が流れる。

「…照合完了。オカエリドスエ!」成功したようだ。「スクイリー、もうちょっと早くできねえか?住人の一人に見られたぜ…」『スマンスマン。ちょっとさっきの音声のサンプリングに手間取ってて…』「オレが好きなのはうれしいけど、声のサンプリングとか合成はヤメテ…」

男はエレベーターで〈ターゲット〉、グルニヤ・サブロの部屋のある階まで到着した。「部屋のロックの方はどうだ?」『こっちはもう終わったよ』「さすがベイブだな」「フフフッ、もっと言ってくれてもいいよ」実際、相棒の言葉の通り、青年はすんなりまるで自宅に入るように侵入した。

部屋の中は、簡素であった。必要最低限の家具、洗いものが少し残ったシンク、成人男性がちょうど収まる程度のベッド、そのようなものだけだ。壁にも特にみるべきものはない。棚上のフクスケ、ベッド横のインディーズバンド「ゴルフ焼け」のポスター、そしてミンチョ体の「コマのように寝たい」のショドーがあるだけだった。

「まあ20代の男の部屋そのものだ…」『ベッドの下にイイものあるかもネ」「ヤメテやれ…」男とドローンは部屋を見まわして言った。「実際、どういう状況なんだ?」『この手のイカレのやることは、どんな世界でも変わらないだろう』「というと?」『…召喚だ』

召喚、サモン、コーリング…かつてはそんなブルシットを、ホワイトナイトは信じていなかった。(…マモノの召喚。シロ・アマクサの映画そのまんまだ…)『ネットワークでそういうのを取り扱うBBSやサイトがいくつかあってね…大抵はたんなるオアソビなんだが…マモノが絡んでるものもあった』デジタルスクイレルは重々しい口調で語り始めた。

「そういや言ってたな、〈サバト〉とかいう集団を作って、人間をあの手この手でマモノと引き合わせるとか…」『そうだ。そして、今回の彼の場合、そういうのに行きついてしまったようだね」主神教団の敬虔な信徒であればよくご存じであろう。日常生活での不満、人間関係などのトラブル、そういった心の隙間をマモノ、ないし〈サバト〉は狙うのだ。

「…でどこが怪しい?」『我々マモノは、まあキミらが定義するところでは悪霊みたいなもんだ』「つまり?」『ヨーカイやユーレイはどこに出る?』「…水場か」『ジャックポット!』そう言うが早いか、青年とドローンはユニットバスの扉を開いた。おお主神よ、何たる冒涜的光景か!風呂場の床には、赤い塗料で逆五芒星が、壁には同じように字が書かれていた!

「ンーと、『マよ、来たれ』か?」『いやー、コッテコテの儀式で懐かしくなっちゃうな…』無線越しに、デジタルスクイレルは元の世界について懐古した。(…わかっちゃいたが、ベイブは元からそういうファンタジー存在なんだな…)ホワイトナイトは恋人に軽くカルチャーショックを受けた。

「で、この言葉の意味わかるか?ハカセ?」『フフ、答えて進ぜよう』ドローンの主は口調を作って説明を始めた『この〈マ〉は、いくつかの解釈ができるね。一つ目は〈マモノ〉のこと。これはまあそのまんまだね。』

「それ以外に意味が?」『アア。もう一つ、おそらく〈ウマ〉だ』「…〈ナイトメア〉か」これらの状況証拠は、数時間前のデジタルスクイレルの推理を補強した。(悪夢が来たってことか…)

その時!『マサキ!聞こえた!』「ナンダ!?」『私の耳が音を拾った…ヤツが近づいてる!』「…!」ラタトスクの発言はインキュバスの体を強張らせた。Clop廊下の方から蹄鉄の音がした。ホワイトナイトはカタナを抜いた。Clip-clopドローンは何らかの機構を動かし、装備の発射準備態勢に入った。Clop音は玄関の前で止まった。部屋の中を緊張感と静寂が支配した。

ドローンが先んじて、玄関スペースに待機した。ガチャガチャガチャガチャドアノブを回す音がした。ガチャガチャ、ガチャガチャ!音は大きくなる。ホワイトナイトは玄関に向かおうとしたが。ドローンがプロジェクターを展開した。このまま入らせてアンブッシュホワイトナイトはうなずいた。

2分ほど経ったであろうか…ドアノブの音に加えて、扉をたたく音がする。Bang!ドンドン、ガチャガチャ、BANG!その不穏な三重奏はしかして、隣部屋には聞こえていないであろうか。ほかの住民が気付いた気配も、通報された様子もなかった。

そして、再び静寂が部屋を包んだ。ドローンは静止した状態のまま、カメラを胃の手術めいて伸ばした。ドアスコープの先には!『…?!』何もいない…その時!「イヤーッ!」「グワーッ!」ユニットバスから騒音!

『マサキ!?』ドローンはすぐさま駆け付けた。ホワイトナイトは魔法陣の上で羽交い絞めにあっていた!『…!』襲撃者は思いもよらない姿であった。頭部は、シャツでズキンを作り、鼻の先で結んであった。上半身は裸で少しやせ気味であったが、魔力が滾り暗く輝いて見えた。下半身はジューウェアの下側に見えるが、太ももから下は逆五芒星の書かれた床の中だった。

『マサキを放せ!Take this!』デジタルスクイレルは相棒を避けて誘導ゴム弾を発射した。「ウフフ、一旦こいつだけでも連れていく!イヤーッ!」襲撃者はホワイトナイトを掴んだまま、魔法陣の下に潜行!「グワーッ!スクイリーッ!」『マサキーッ!』ナムサン!ホワイトナイトは風呂場の床に吸い込まれるように消えた!

『…そんな!』デジタルスクイレルは狼狽えた。恋人にして相棒が連れ去られた。『…手立てを考えなければ…しかし、今のヤツの声、どこかで…』そしてラタトスクは思い出した。『あれはグルニヤ・サブロだ…ということは、魔法陣がつながる先は…』ドローンの向こうで女は身震いした。それはつまり、異界への入り口ということである。

◆◆◆◆◆

「ウフフ、これでアンミツ=チャンもまた喜ぶな…」上半身裸の男はホワイトナイトを拘束しながら空中を落下していた。その顔はユメミ心地であった。青年はそれを見逃さなかった「イヤーッ!」「グワーッ!」ホワイトナイトは襲撃者の腹に肘を突き入れた!空中で二者が離れる。

「イヤーッ!」ホワイトナイトは地面にウケミで着地した。「イヤーッ!」先ほど羽交い絞めにしてきた敵も同様に降り立った。両者は互いにを見据え、戦技を構えた。イクサが始まるのだ。そして、イクサの前にはアイサツである。

「ドーモ。ホワイトナイトです。何者だ、オレらにいったい何の用だ?」
「ドーモ。ソムノファイルです…いや、こちらの名前ならワカルか?」「何?」「俺は、グルニヤ・サブロだ」「!」そう言って、ソムノファイルは頭巾を外した。ホワイトナイトは、ソムノファイルを名乗る相手の顔を再度確認し、以前の記憶を呼び起こした。「何が目的だ…」「目的?」サブロは心底不思議そうな声色を出した。

「目的か…その説明に入る前に紹介したい人がいる…」「…?」(何を言ってるんだ?)「アンミツ=チャン、お客様だ!」ソムノファイルはいきなり大声で何者かに呼び掛けた。Clip-clop<//b>〈影〉は蹄鉄の音で返答した。

そこに現れたのは、目元が髪に覆われた若い女であった。否、その者は人間ではない!頭部には装飾のついたフードを被り、横からウマじみた耳が見えている。人間のような上体はゆったりとしたローブで覆われていたが、遠くからでもバストの豊満さが見えた。その手には身の丈ほどもある禍々しい大我麻が握られていた。しかし何よりも目を引きのはその下半身、ウマの胴体がアンバランスに人間の上半身と接合していた!ナムアミダブツ、〈ナイトメア〉である!

「この娘は、アンミツ=チャン。俺の最愛の人、否マモノだ!」ソムノファイルは人馬を片腕に抱いて、ホワイトナイトに哄笑する。「俺たちの目的だったな、それは畢竟革命よ!」「何だと…?」ホワイトナイトは予想だにしない答えに困惑した。

「つまりだ。お前とお仲間を腹出降参させたのち、このユメ・プラザに疲れた人間どもを引き込み、マモノと番わせる。オレとアンミツ=チャンの帝国が完成し、しかるのちこの都市は魔界に落ちる!アンミツ=チャンの力は2倍に高まり、俺の戦技も2倍だ!2倍に2倍をかけて100倍だ!ワカルか?エエ?この算数が!」ソムノファイルは狂ったように宣言した。

それを合図に、傍らの〈ナイトメア〉も大鎌の柄を地面に降ろし、アイサツ姿勢に入った。「青臭いモヤシ 乳臭いガキ 万に一つも勝機なし ドーモ。ドリームウィーヴァー、ここにあり」

ついにイクサは佳境を迎える…
セクション4終わり。セクション5に続く。
24/05/20 14:53更新 / ズオテン
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■作者メッセージ
読者の皆様が語学に堪能であれば、もうこのセクションで登場したチャントについて理解を終えたであろう!マとは、〈悪霊〉と〈ウマ(訳注:漢字には複数の読み方があり、マはウマの別読み)〉の二つの意味を内包していたのである!実際、魔物娘のいる世界では、〈ザンマ〉という英雄がマオウととイクサを行った伝承がある。〈ザンマ〉はすなわち、悪霊あるいはウマを斬る力であり、罵倒語の「ザマをみよ」の語源であると伝わる。

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