四霊十二聖
霧の大陸では、三つの大国が鎬を削っていた。四神、四凶、四霊の三カ国だ。そのうち、四霊は人間至上主義を掲げ、大陸統一に積極的であった。国教は、闡道という。人間が修行や妖気を取り込むことで、仙人を目指す道士の集団である。
さて、彼らは崑崙山を本拠地に定め、各地に繋がる門や寺院を建造した。一般人は、浮遊する霊峰に立ち入ることすらできず、仮に転移門に到達しても仙骨という身体的特徴のないものは門前払いを食らうであろう。
修行の基本は、三厭を食らわず、草花を傷つけぬこと。何故か?「道」とは、天が示す理である。天とは、人間界と幽世を挟んで、次元的に遠くにある。天とは、神で構成され、物質世界のものでは、触れ感じもしない。
さても、人間や獣、鳥、虫、それに草花を作るのは、「地」の物質で、それらを食べて暮らす内は、身体は天に至る質を持たぬ。仙人とは、純粋に気と精で構成されねばならぬ。つまり、気功だ。
幸いなことに、この大地は「雾嶺」とも称すほど、濃厚な魔力が霧として立ち込めている。闡開祖、元始天尊は、「霞を食らう」を実践し、弟子にも勧めていた。そのため、殺生をなるべく避ける平和路線である。
だが、同時に鳥獣や草木を食べぬ故、彼らは無意識にそれらを軽んじた。元々あった「華夷の別」と併せて、四霊の道士と信仰する民は、狐狸や魚とその化生を「霊長たる我らが守るべき者」とした。事実上の隷属を強いたのだ。
反発した妖怪達は、四凶に流れた。彼らは、あちらの国教である截教に帰依した。残った妖怪は、人間の道士が使役したり、宝貝を作成したりと、裏方に回った。
一部の大妖達や神々は、四凶と背後にいる千年妖狐、その支援者たる女媧が気に入らず、しかし人間の風下にいるもよしとせず、秘密結社を作り上げた。
円卓には、朧な幻影となった神仙と妖怪が出席していた。「今回の集いに、まずは感謝を表明したい。皆、各々の使命を全うしながら、時間を捻出してくれた。会議はせずに済んだほうが良い」
上座から立ち上がるは、雷霆を人間に固めた様な、黄金の武将である。風もないのに、そのどうどうたる長髪は靡く。見開かれた第三の目の光と熱は天上の雷を鍛える炉そのものであった。
「聞仲閣下……」「雷祖と呼べ」聞仲は、発言者に訂正を促した。「失礼した、九天応元雷声普化天尊閣下。貴公の仰せられる通り、会議とは無駄な時間が多すぎる。私のようにね」捻れた角の仙人は、片目を瞑り戯けた。誰も笑わなかった。
「滑稽士と名うての弁舌家も、錆びつきおったか」ガラガラ声の見るからに強者といった、老武将がチクリと刺した。「そんなことより、我輩は遂に我が邦のお偉方の頰を、金銀財貨で叩いて口説けたわ」
「大枚をはたいた甲斐があったというものだ」耳まで裂けた口を歪めて、笑う影が言った。「まあ、金に糸目はつける気はないがね」その服からは、無尽蔵に財宝が出てきていた。
「四神の連中との外交は調整中だが、間もなく完了する」いかにも役人めいた男が、ハキハキと資料を映し出した。「流石、天下の相国よ!これで我輩も戦ができる!何と素晴らしき哉!」
「四神との会合の警備、並びに"襲撃者"の制圧や治安活動は、我々に一任願う」高貴な育ちの良さと叩き上げの威圧感が同居した、怜悧な貴婦人が発言した。その翼は、天女の羽衣よりも美しい純白である。
「我らの神、伏犠も祝福されましょう……フォホホホ」でっぷりとした腹を揺らして、胡散臭い神官は控えめに歓びを示した。「穢らわしい、女媧に毒されし華がようやく浄化されるでしょう」
「我らの悲願もまた果たされよう」極彩色の後光を背負った、水晶の生き佛が頷いた。「真なる進化の時は近い。汝らも努々精進を怠らぬことだ」
「雷祖殿、次期主力は鉄匠を大きく上回ると確信しています」大柄な男は、蒸気を噴出し駆動する機械兵団の性能を誇った。「我が熱気駆動と、貴殿の雷電脳が合わされば、人間共も妖怪共も、諸共必要なくなります」「僥倖だな」聞仲は、満足げに三つ目を瞬いた。
「今回も実りある会議に…」「妾は、ちと遅参したかな?」全員の幻影が、新たに出現した女神を見た。月光が、一瞬空間全てを満たした。
「太陰星君陛下……」聞仲は、すぐさま額を擦り付けるようにした。他の者も、それに倣った。「月明かりは、衆生を照らす。地上が忘れ去った、星々の夢の続きを、そして……」そのカエルめいた目を細めて嗤った。「四凶に先を越されるな、夜の時代……天帝の軛なき世界は我ら月人のものぞ」
さて、彼らは崑崙山を本拠地に定め、各地に繋がる門や寺院を建造した。一般人は、浮遊する霊峰に立ち入ることすらできず、仮に転移門に到達しても仙骨という身体的特徴のないものは門前払いを食らうであろう。
修行の基本は、三厭を食らわず、草花を傷つけぬこと。何故か?「道」とは、天が示す理である。天とは、人間界と幽世を挟んで、次元的に遠くにある。天とは、神で構成され、物質世界のものでは、触れ感じもしない。
さても、人間や獣、鳥、虫、それに草花を作るのは、「地」の物質で、それらを食べて暮らす内は、身体は天に至る質を持たぬ。仙人とは、純粋に気と精で構成されねばならぬ。つまり、気功だ。
幸いなことに、この大地は「雾嶺」とも称すほど、濃厚な魔力が霧として立ち込めている。闡開祖、元始天尊は、「霞を食らう」を実践し、弟子にも勧めていた。そのため、殺生をなるべく避ける平和路線である。
だが、同時に鳥獣や草木を食べぬ故、彼らは無意識にそれらを軽んじた。元々あった「華夷の別」と併せて、四霊の道士と信仰する民は、狐狸や魚とその化生を「霊長たる我らが守るべき者」とした。事実上の隷属を強いたのだ。
反発した妖怪達は、四凶に流れた。彼らは、あちらの国教である截教に帰依した。残った妖怪は、人間の道士が使役したり、宝貝を作成したりと、裏方に回った。
一部の大妖達や神々は、四凶と背後にいる千年妖狐、その支援者たる女媧が気に入らず、しかし人間の風下にいるもよしとせず、秘密結社を作り上げた。
円卓には、朧な幻影となった神仙と妖怪が出席していた。「今回の集いに、まずは感謝を表明したい。皆、各々の使命を全うしながら、時間を捻出してくれた。会議はせずに済んだほうが良い」
上座から立ち上がるは、雷霆を人間に固めた様な、黄金の武将である。風もないのに、そのどうどうたる長髪は靡く。見開かれた第三の目の光と熱は天上の雷を鍛える炉そのものであった。
「聞仲閣下……」「雷祖と呼べ」聞仲は、発言者に訂正を促した。「失礼した、九天応元雷声普化天尊閣下。貴公の仰せられる通り、会議とは無駄な時間が多すぎる。私のようにね」捻れた角の仙人は、片目を瞑り戯けた。誰も笑わなかった。
「滑稽士と名うての弁舌家も、錆びつきおったか」ガラガラ声の見るからに強者といった、老武将がチクリと刺した。「そんなことより、我輩は遂に我が邦のお偉方の頰を、金銀財貨で叩いて口説けたわ」
「大枚をはたいた甲斐があったというものだ」耳まで裂けた口を歪めて、笑う影が言った。「まあ、金に糸目はつける気はないがね」その服からは、無尽蔵に財宝が出てきていた。
「四神の連中との外交は調整中だが、間もなく完了する」いかにも役人めいた男が、ハキハキと資料を映し出した。「流石、天下の相国よ!これで我輩も戦ができる!何と素晴らしき哉!」
「四神との会合の警備、並びに"襲撃者"の制圧や治安活動は、我々に一任願う」高貴な育ちの良さと叩き上げの威圧感が同居した、怜悧な貴婦人が発言した。その翼は、天女の羽衣よりも美しい純白である。
「我らの神、伏犠も祝福されましょう……フォホホホ」でっぷりとした腹を揺らして、胡散臭い神官は控えめに歓びを示した。「穢らわしい、女媧に毒されし華がようやく浄化されるでしょう」
「我らの悲願もまた果たされよう」極彩色の後光を背負った、水晶の生き佛が頷いた。「真なる進化の時は近い。汝らも努々精進を怠らぬことだ」
「雷祖殿、次期主力は鉄匠を大きく上回ると確信しています」大柄な男は、蒸気を噴出し駆動する機械兵団の性能を誇った。「我が熱気駆動と、貴殿の雷電脳が合わされば、人間共も妖怪共も、諸共必要なくなります」「僥倖だな」聞仲は、満足げに三つ目を瞬いた。
「今回も実りある会議に…」「妾は、ちと遅参したかな?」全員の幻影が、新たに出現した女神を見た。月光が、一瞬空間全てを満たした。
「太陰星君陛下……」聞仲は、すぐさま額を擦り付けるようにした。他の者も、それに倣った。「月明かりは、衆生を照らす。地上が忘れ去った、星々の夢の続きを、そして……」そのカエルめいた目を細めて嗤った。「四凶に先を越されるな、夜の時代……天帝の軛なき世界は我ら月人のものぞ」
25/08/13 17:01更新 / ズオテン
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