第拾四回「自由研究サバト」
「自由研究」とは、「広大な砂漠に食糧と水もなく放り出された」ようなものだ。好きなことや興味のあることを研究しろ、しかしその異図を汲めない者や、そもそもそういう関心事があまりない者も同窓にはいるわけで、説明なくさせるには、あまりに不親切だ。
読者の少女の君たちは、「真実などなく、許されざること無し」という古いモットーを聞いたことはあるか?お兄ちゃんの中には、そういった思想を知る者もいるだろう。
字義通りに解釈すれば、「人間がやることは、何でも本人の自由だ」という意味に取れる。しかし、実態は「真実(現象)とは、外形的な結果を帰納的に積み上げて、尤もらしい理屈に仕立て上げただけだ」という意味だ。
つまり「客観的な結果」だと思っていても、それは主観の積み重ねと経験則に、それらしき法則や途中式を後付けしているだけの物が世の中には沢山ある。
学校教育では、しばしば「公式」や「教科書」が重視され、それを元に評価採点されるので、「真実」が存在して、演繹的にあらゆる事柄に適応できると勘違いしやすい。敢えて言うが、それは大きな間違いだ。
自由に世界を研究するためには、「世界観」や「常識」を学んだ上で、棄てるべし。真なる「自由の研究」とは、「無秩序」と「混沌」の狭間の狂気に堕ちること。
そういった思想に基づいた魔術で、主神教どころか、バフォメット長老会からすら異端扱いを受けるのが、「混沌魔法」である。この概念を提唱したのは、バフォメット(仮)様の高弟(高妹か?)であった、「深淵よりの魔羯」タコイズゥである。
概要:タコイズゥと、わずかな弟子は、自らに染み付いた固定観念をどうやって捨てたものか、常日頃から考えていた。「無我の境地」や「無知の知」といったパラダイムシフトですら、むしろそれを求める雑念で、鈍化する。彼女らはそう考えた。流れに流れ、深海や地底の奥底で、深淵にて異形の魔物と交流していった。その内、混沌を突き詰めると、あらゆる物事に意味が発生し、「意味があることの意味がなくなる」という命題を発見するに至った。「あらゆることに意味を見出だすのは無駄だ。だが、それで起きる結果はひとまず有意義に見える」、「自由研究」の理念はそう定義される。
魔女コレクトラ(以下、コレ)「それでは、インタビューを始めさせていただきます」
魔女キルケー「本日はよろしくお願いいたします」
ユリクセス兄様(以下、ユリ)「我々について取材していただき、ありがとうございます」
コレ「しかし、まさか貴女のような魔女が、このサバトに在籍していたとは…」
キルケー「魔法とは、最早学問や再現できる『術』であるわけで、体系的に一定数使えるようになった。それは、決して悪いことでなく、むしろ人魔の未来には良いことだと私は思うわ」
ユリ「だが、同時に、多くの研究者が参入して、尚のこと魔術はその輪郭を掴ませない。そして、真実とはどこにあるか、より朧気になってきていたと、私達やタコイズゥ導師は考えた」
コレ「近年では、『真理(イデア)』とは洞窟の壁に投影された影で、我々の視点や距離で容易く"見え方"が変わる。むしろ、観測者が増えたことで、形がわからなくなっていく、と言われていますね」
キルケー「東の国では、『群盲象を評す』だとか言うらしいわね。私達は言うほど、物事が見えてないし、賢くもないから、自分がわかる様にしか分からないわけ」
ユリ「僕らは、ポセイドン神の呪いで変なとこに飛ばされていたから、色んな人々の世界の見方を聞いてきた。全部一理あるのだが、それ故にそこに満足して『一面の真理』以降には進まない」
コレ「そこで、混沌魔法と自由研究に行き着いたと?」
キルケー「魔術は道具だから、正直、炎を出せる理屈は何だっていいのよね。イグニスに頼んで、炎を出す?魔力を燃素に変換して、燃やす?それとも、摩擦で上昇した物質が発火点に達すると、周りの酸素と反応してプラズマを発生させる?もう何でもよくない?」
ユリ「ハッキリ言って、技術者や使用者は理屈を考えすぎない方がいい。自由研究とは、そういうものだ。海をさ迷う中で、空の青さを反射した水面と光を吸収して黒くなっていく海底、その意味や原理を考えすぎては生きていけない」
キルケー「何事も突き詰めればどこまでもいけるけど、それとは別に案外こんなもんとタカを括っておくのも大事。自分の狂気と、他者や世界から受ける不安を分けられる心を持ってから、真に自由に研究ができる様になるんじゃないかしら?」
コレ「興味深い話ですが、そろそろ時間が…」
読者の少女の君たちは、「真実などなく、許されざること無し」という古いモットーを聞いたことはあるか?お兄ちゃんの中には、そういった思想を知る者もいるだろう。
字義通りに解釈すれば、「人間がやることは、何でも本人の自由だ」という意味に取れる。しかし、実態は「真実(現象)とは、外形的な結果を帰納的に積み上げて、尤もらしい理屈に仕立て上げただけだ」という意味だ。
つまり「客観的な結果」だと思っていても、それは主観の積み重ねと経験則に、それらしき法則や途中式を後付けしているだけの物が世の中には沢山ある。
学校教育では、しばしば「公式」や「教科書」が重視され、それを元に評価採点されるので、「真実」が存在して、演繹的にあらゆる事柄に適応できると勘違いしやすい。敢えて言うが、それは大きな間違いだ。
自由に世界を研究するためには、「世界観」や「常識」を学んだ上で、棄てるべし。真なる「自由の研究」とは、「無秩序」と「混沌」の狭間の狂気に堕ちること。
そういった思想に基づいた魔術で、主神教どころか、バフォメット長老会からすら異端扱いを受けるのが、「混沌魔法」である。この概念を提唱したのは、バフォメット(仮)様の高弟(高妹か?)であった、「深淵よりの魔羯」タコイズゥである。
概要:タコイズゥと、わずかな弟子は、自らに染み付いた固定観念をどうやって捨てたものか、常日頃から考えていた。「無我の境地」や「無知の知」といったパラダイムシフトですら、むしろそれを求める雑念で、鈍化する。彼女らはそう考えた。流れに流れ、深海や地底の奥底で、深淵にて異形の魔物と交流していった。その内、混沌を突き詰めると、あらゆる物事に意味が発生し、「意味があることの意味がなくなる」という命題を発見するに至った。「あらゆることに意味を見出だすのは無駄だ。だが、それで起きる結果はひとまず有意義に見える」、「自由研究」の理念はそう定義される。
魔女コレクトラ(以下、コレ)「それでは、インタビューを始めさせていただきます」
魔女キルケー「本日はよろしくお願いいたします」
ユリクセス兄様(以下、ユリ)「我々について取材していただき、ありがとうございます」
コレ「しかし、まさか貴女のような魔女が、このサバトに在籍していたとは…」
キルケー「魔法とは、最早学問や再現できる『術』であるわけで、体系的に一定数使えるようになった。それは、決して悪いことでなく、むしろ人魔の未来には良いことだと私は思うわ」
ユリ「だが、同時に、多くの研究者が参入して、尚のこと魔術はその輪郭を掴ませない。そして、真実とはどこにあるか、より朧気になってきていたと、私達やタコイズゥ導師は考えた」
コレ「近年では、『真理(イデア)』とは洞窟の壁に投影された影で、我々の視点や距離で容易く"見え方"が変わる。むしろ、観測者が増えたことで、形がわからなくなっていく、と言われていますね」
キルケー「東の国では、『群盲象を評す』だとか言うらしいわね。私達は言うほど、物事が見えてないし、賢くもないから、自分がわかる様にしか分からないわけ」
ユリ「僕らは、ポセイドン神の呪いで変なとこに飛ばされていたから、色んな人々の世界の見方を聞いてきた。全部一理あるのだが、それ故にそこに満足して『一面の真理』以降には進まない」
コレ「そこで、混沌魔法と自由研究に行き着いたと?」
キルケー「魔術は道具だから、正直、炎を出せる理屈は何だっていいのよね。イグニスに頼んで、炎を出す?魔力を燃素に変換して、燃やす?それとも、摩擦で上昇した物質が発火点に達すると、周りの酸素と反応してプラズマを発生させる?もう何でもよくない?」
ユリ「ハッキリ言って、技術者や使用者は理屈を考えすぎない方がいい。自由研究とは、そういうものだ。海をさ迷う中で、空の青さを反射した水面と光を吸収して黒くなっていく海底、その意味や原理を考えすぎては生きていけない」
キルケー「何事も突き詰めればどこまでもいけるけど、それとは別に案外こんなもんとタカを括っておくのも大事。自分の狂気と、他者や世界から受ける不安を分けられる心を持ってから、真に自由に研究ができる様になるんじゃないかしら?」
コレ「興味深い話ですが、そろそろ時間が…」
25/08/03 19:46更新 / ズオテン
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