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『四神書』より巻之三「地史小邦略六卿祖列伝」(カースドソード)
 ただ一つなるべき「華」は、四つ柱の神々の言祝ぐ正当なる「天子」を戴く我らが「四神之国」と、愚かにも「地皇」や「人主」を僣する逆賊とで、三分されたり。

 各地の豪族の侯、蕃神の王、化生の長、各々で三国に帰順するに至りき。「四神之国」に早く従うは、六つの邦あり。人々、それをさしてぞ「六卿」と呼びける。


 その内訳は、鉄匠王と莫氏(剣魔)、南海龍王、明道祖、南越夷王、豹房座主、美麗公主である。

 彼らは、天子が四神に即位を祝福された際、満天下の諸侯の中で最初に服属を表明した。ここに、易姓はなされたとし、更に大小様々な国々が朝貢に応ずる。

 第一回華帝位官・褒将大会において、彼ら彼女らは同盟国の領主であると同時に、国政に携わる大役を任せられた。

 鉄匠王は太師、南越夷王は少師として軍事を、南海龍王が太博、豹房座主が少博として内務を、そして明道祖を太保、美麗公主を少保に任じて、ここに内閣は発足した。

補遺、『華南連藩略史』抜粋

 四神国以外の国や地域では、そのあらましについて異説が囁かれる。

 四神太祖は、華王朝の末期に帝位簒奪を企図した、大将軍にして南方刺史の粱権、字は孟烈である。字に関しては不明瞭で、他に一郎や長烈ともある。

 彼個人の野望ではなく、六家の有力豪族や宗教団体が背後にいた。革命により、璽と帝室の家宝を"禅譲"された権は、なかんずく自分を押し上げた立役者達を政の重鎮にせざるを得なかった。

 鉄匠王は、彼の名目上の「天子」の宮殿にいの一番に入った。何故なら、革命の主力とは鉄匠国が誇る「剣魔」と「鎧精」、「鋼兵馬俑」の軍勢とその伴侶達であったからだ。

 最大の兵器、機神「先行者廿式」が、日を受けて帝都に影を落とすと禁軍は総崩れとなり、百吏千兵は捕縛された。

 王は、名を干将と言う。彼は、自らが鍛え上げた魔剣に死んだ妻の魂を呼び出し、「莫耶」とした。それは、剣魔となりて莫氏と呼び、畏れられた。

 鉄匠王と莫氏は、確保した宮殿にて、不遜にも皇帝と皇后として、官僚や緒将を恣にした。何より恐ろしいことに、夫婦による統治は、先の王朝より的確にして、民は満足し、商人は諸手を上げて侵略者を迎えた。

 禰の邦の史家、鸞仁曰く、「太祖帝」粱権が殿上し、「鉄匠王」に「謁見」した。以下のように記される。

 粱権「陛下の力添えなくば、我が躍進はあるはずもなないでしょう。誠に感謝致します」恭しく、跪き、額を床に打ち付けた。

 干将「お顔を上げなさい」玉座を降りて、頬に手を添えた。佩する刀は独りでに鞘を抜け、床に「降り立った」ではないか。「貴方の人望と、天命なくば、今回の大業は成りませぬ」

 莫氏「御身は、我らにとって子も同然です。しかし、同時に主従として天下に示しを付けねばなりませぬ。家で、親に額づく子も、政にて、臣たる父母を平伏させなさい」剣魔として、正体を表す夫人は、優しく粱権を撫でた。

 太祖は、譲られて座に着き、改めて臣と将は彼に深々と礼を取った。即位半年後、鉄匠王は二振りの剣を献上した。雄剣を「難槃」、雌剣を「瑕琅耆」を送った。

 これらは、鉄匠王と莫氏の子である。太祖の護衛と側室として、後宮から禁裏まで近習を行ったと伝わる。

 これを以て、「華南朝」や粱氏ではなく、外戚にして、六卿筆頭の鉄匠家が、「四神之国」の実権を握っていた(四神達の地上代行者である)とする見解も根強い。
 
25/08/03 10:05更新 / ズオテン
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■作者メッセージ
鉄匠国:巨大な炉と、たたら場と鉱山でできた、山合の都市国家。カースドソード、リビングアーマー、ゴーレムとオートマトンの巨大外骨格「先行者」と、鍛冶や手工業の職人が集う国。

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