第拾参回 「日光浴(光合成)サバト」
神々が天界、つまり霊的世界よりこの地上に降臨する前、精霊だけがいた。今でこそ、我々から見れば彼女らは形而上学的生命体として感ぜられるが、当時は一番「物理的」な存在だったとされる。
さて、神々は野放図にこの大地を操作し、無秩序に遊び歩く彼女らが作り出す風景を良しとしなかった。特に、"代替わりしたばかりの"主神は。そのため、海は荒れ、山々は鳴動し、そこらで溶岩が噴き出し、風は気紛れに吹きすさぶ有様の、世界に「生き物」を生み出した。
それは、セフィラと後に呼ばれる存在だった。セフィラ達、つまりセフィロト(十姉妹)は天地を繋ぐ柱として、その根を下ろした。
彼女らは、硬い外皮で突風を防ぎ、その力を利用して、種や胞子を播いた。それが今で言う森である。また、過剰な大地の栄養と地脈を吸い、根を張り巡らして地震を弱めた。次に、雨を受け持ち、川へ少しづつ水を流すことで陸海の水流を調節していった。最後には、水分を潤沢に含んだ身体で野火や溶岩を押し留め、水の循環を助けてこの地を冷やした。
徐々に元素のバランスを取り、肥沃に過ぎて生き腐れた、混沌たる大地を今ある平穏な世界へと整えていったという。古い主神教の聖典には、天地創造はこのように描写されている。しかし、今現在それらの聖樹をその目に見た者はいない。なぜなら、魔王と魔物が世界に現れたからだ。
意思はあれど、その場を動くことのない彼女らは、天界と地上を繋ぐ柱であり、登ることさえできれば天上へと至ることが可能なのだ。邪悪なる時代の魔王軍は、当然彼女らをその手中に収めんと動いた。
神々は、無常にもセフィロト姉妹の天界との接続を断ち切った。彼女らは、文字通り切り捨てられ、核となる一本の樹(それでも巨大だが)以外を失い、途方に暮れた。
姉妹は魔物との戦いの中で二つに分かたれた。魔力の汚染を跳ね除け、今も神樹と崇められるものと、天界の仕打ちに堕天してしまった、魔物の巣窟として忌み嫌われるものがいる。
時の魔王は、当初の利用価値を失ったこれらのうち、数体を幹部として迎えた。特にエルフに顕著だが、多くの種族が崇拝したセフィロトを堕落させることで、彼の力を天地に誇示するためだと言われる。
今の魔界植物や、触手の森の始まりはこれらのセフィラ、今や邪悪の樹(クリフォト)と呼ばれる姉妹達が始祖とされる。その一体を信仰するバフォメットがいた。彼女は、名をリュシュフュージェと言う。彼女は、「日光浴(光合成)」サバトを創設した。
概要:暗黒魔界に取り込まれた森林地帯、通称「シュヴァルツヴァルト」にそのサバトは存在する。前魔王時代、あまりの美しさにそこで開花する花々を目にすると、その他が醜く感じて目を潰してしまうという「禁じられし花畑」には、巨木が生えている。リュシュフュージェは、魔女を、兄を、使い魔を、彼の地に誘う。何故なら、結実までには、膨大な魔力が必要だからだ。バフォメットでさえ全く足りぬ魔力を注いだ時、「何が」花開き、実るのだろうか?日の差さぬ地にて、「彼女」は山羊に語りかけた。「また、日の光が見たいの…」
魔女コレクトラ(以下、コレ):「美化委員会」の方達ですか。…ルーニャルーニャは、今の世界を護る側です。お引き取り願いたい。
魔女シルヴィア:魔力よりも文明よりも先に、世界に広がったのは何か分かるかしら?「緑」よ。みんな、緑になれば、お日様の力を手にできるの!あなたもさあ、一緒になろう!
その肌は、新緑を思わせる。海水浴客に交じり、彼女は私達を勧誘に来た。
クロロプラスト兄上:この「小麦色」の肌、君たちも羨ましくないかい?
彼の髪は、先端から麦穂となっていた。二人が歩く道には、名状しがたい植物が芽吹き、砂浜なのに草原の様相を呈した。
コレ:お兄さん、行きましょう…
私達は、ただ海開きに来ただけなのに…
脚注:「美化委員会」とは、数代前より魔王軍を離反した、クリフォトの崇拝者を指す。世界を一つの庭に例え、国や種族を剪定し緑に染め、彼らにとって「美しい」世界を目指す。あなたも変な勧誘には気をつけて。
さて、神々は野放図にこの大地を操作し、無秩序に遊び歩く彼女らが作り出す風景を良しとしなかった。特に、"代替わりしたばかりの"主神は。そのため、海は荒れ、山々は鳴動し、そこらで溶岩が噴き出し、風は気紛れに吹きすさぶ有様の、世界に「生き物」を生み出した。
それは、セフィラと後に呼ばれる存在だった。セフィラ達、つまりセフィロト(十姉妹)は天地を繋ぐ柱として、その根を下ろした。
彼女らは、硬い外皮で突風を防ぎ、その力を利用して、種や胞子を播いた。それが今で言う森である。また、過剰な大地の栄養と地脈を吸い、根を張り巡らして地震を弱めた。次に、雨を受け持ち、川へ少しづつ水を流すことで陸海の水流を調節していった。最後には、水分を潤沢に含んだ身体で野火や溶岩を押し留め、水の循環を助けてこの地を冷やした。
徐々に元素のバランスを取り、肥沃に過ぎて生き腐れた、混沌たる大地を今ある平穏な世界へと整えていったという。古い主神教の聖典には、天地創造はこのように描写されている。しかし、今現在それらの聖樹をその目に見た者はいない。なぜなら、魔王と魔物が世界に現れたからだ。
意思はあれど、その場を動くことのない彼女らは、天界と地上を繋ぐ柱であり、登ることさえできれば天上へと至ることが可能なのだ。邪悪なる時代の魔王軍は、当然彼女らをその手中に収めんと動いた。
神々は、無常にもセフィロト姉妹の天界との接続を断ち切った。彼女らは、文字通り切り捨てられ、核となる一本の樹(それでも巨大だが)以外を失い、途方に暮れた。
姉妹は魔物との戦いの中で二つに分かたれた。魔力の汚染を跳ね除け、今も神樹と崇められるものと、天界の仕打ちに堕天してしまった、魔物の巣窟として忌み嫌われるものがいる。
時の魔王は、当初の利用価値を失ったこれらのうち、数体を幹部として迎えた。特にエルフに顕著だが、多くの種族が崇拝したセフィロトを堕落させることで、彼の力を天地に誇示するためだと言われる。
今の魔界植物や、触手の森の始まりはこれらのセフィラ、今や邪悪の樹(クリフォト)と呼ばれる姉妹達が始祖とされる。その一体を信仰するバフォメットがいた。彼女は、名をリュシュフュージェと言う。彼女は、「日光浴(光合成)」サバトを創設した。
概要:暗黒魔界に取り込まれた森林地帯、通称「シュヴァルツヴァルト」にそのサバトは存在する。前魔王時代、あまりの美しさにそこで開花する花々を目にすると、その他が醜く感じて目を潰してしまうという「禁じられし花畑」には、巨木が生えている。リュシュフュージェは、魔女を、兄を、使い魔を、彼の地に誘う。何故なら、結実までには、膨大な魔力が必要だからだ。バフォメットでさえ全く足りぬ魔力を注いだ時、「何が」花開き、実るのだろうか?日の差さぬ地にて、「彼女」は山羊に語りかけた。「また、日の光が見たいの…」
魔女コレクトラ(以下、コレ):「美化委員会」の方達ですか。…ルーニャルーニャは、今の世界を護る側です。お引き取り願いたい。
魔女シルヴィア:魔力よりも文明よりも先に、世界に広がったのは何か分かるかしら?「緑」よ。みんな、緑になれば、お日様の力を手にできるの!あなたもさあ、一緒になろう!
その肌は、新緑を思わせる。海水浴客に交じり、彼女は私達を勧誘に来た。
クロロプラスト兄上:この「小麦色」の肌、君たちも羨ましくないかい?
彼の髪は、先端から麦穂となっていた。二人が歩く道には、名状しがたい植物が芽吹き、砂浜なのに草原の様相を呈した。
コレ:お兄さん、行きましょう…
私達は、ただ海開きに来ただけなのに…
脚注:「美化委員会」とは、数代前より魔王軍を離反した、クリフォトの崇拝者を指す。世界を一つの庭に例え、国や種族を剪定し緑に染め、彼らにとって「美しい」世界を目指す。あなたも変な勧誘には気をつけて。
25/07/31 19:53更新 / ズオテン
戻る
次へ