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第拾壱回 「桃園サバト」
 あなたは、桃源郷という異界を知っているだろうか?霧の大陸に同盟の場所が幾つかあり、桃の木のドリアードが管理している。実は、かの大陸のサバトにそこで果樹園を経営するものが存在する。

 東方では、しばしば、桃は「邪気を払う」、「不老不死(アンブロシア)」の効能があるとされる。特に、魔界産の果実と比べて、魔力侵食が軽微かつ滋養があるため、かなり需要があるそうだ。

 さて、当然、サバトが関わるのであれば、そこには「魔女とお兄ちゃん」の要素が含まれている。『地誌異類恋婚譚』なる史書が存在する。

 その本の中で、『樹精乃章、桃娘乃段』という項があった。内容を要約すれば、「戦乱で妹と生き別れた兄が、奴隷となった妹と再会。しかし、すぐに彼女を亡くし、埋葬。その墓から、生えた桃の木の精として甦った妹が兄と木になる」という話だ。

 気になる方は、ルーニャルーニャサバトへ。大図書館には当然、別大陸の本も収蔵される。ともあれ、少なくとも、桃園サバト」が本拠地を定めたのは、その物語の地域と近しいのだ。今回は、そんな霧の大陸発のサバトを紹介しよう。

概要:仙人(※)として高名な、ヤオチーニャンニャン(瑶池娘々)あるいはシームー(西母)が創設したサバト。基本的な修行は、我々のサバトとそうは変わらない。ただ、何かにつけて、花見を行い、桃の実を口にするのだ。このサバトは、特異なことに「お兄ちゃん、長女、次女」という班組を基本とする。かつて、桃園にて桃の精と兄の木を前に、三人の英雄が義兄弟の誓いを行った故事に由来するとか。構成は、「お兄ちゃん、魔女、魔女」や「お兄ちゃん、魔女、ファミリア」等だ。

魔女コレクトラ(以下、コレ):本日はご足労いただきありがとうございます。

魔女ジエジエ(以下、ジエ):很高兴见到您(始めまして)。

コレ:え?

ファミリアメイメイ(以下、メイ):アイヤー、ダージエ、首飾り付け忘れアル。

ジエ:真的吗?あー、すみません。ご招待に与り光栄です。

コレ:あっ、こちらこそ。母国語だったんですね。

ジエ:はい。この首飾りで翻訳してくれるんです。だから、今もそのように話しているし、貴女の言葉はこちらの言語に聞こえています。

メイ:まったく、ダージエはソソカシイヨ。

コレ:それでは、貴女はファミリアの方ということで?

メイ:ニンハオマ、ワタシ、メイメイ。ダージエとダーグのチョンウーヨ。

コレ:チョンウー?

ジウズー・グーグ(以下、ジウ):そうですね、貴女方の言葉で、「家禽」とか「愛玩動物」といったニュアンスですかね?何て言ったらいいか?

コレ:あっ、ペット!

ジウ:pet、「撫でる」「愛でる」、ペット、それが適切ですね。

ジエ:グーグ、挨拶がまだされていません。

ジウ:これは失礼。わたしは、ジウズー。二人の哥哥、所謂所の「お兄ちゃん」です。

コレ:これはご丁寧に。早速ですが、お三方はどうして、サバトに?

ジエ:私は「桃の精と兄の伝説」に憧れを持ちました。そして、その舞台となった桃園に向かいました。そこには、老師がいました。そのため、私は修行しました。

メイ:ワタシ、ラオシーにつくられたヨ。そんで、ダージエのヤンシンをやっているアル。

ジウ:ヤンシンとは、つまり妖精や使い魔という意味です。わたしは、元々農地の代官をやっていまして、桃の収穫量と耕地面積があまりに乖離しているもので、独自に調査していました。

コレ:え?では、元々はお役人をされていた?

ジウ:ええ。そして、結界に迷い込み、なし崩しでジエジエのグーグになりました。

ジエ:彼は、とても優しく勤勉です。彼はすぐに魔法を習得し、昼は研究、夜は妖気を補給します。私は兄を愛しています。

メイ:ホントヨ。ダーグーは、アッチもうまくて、頭良いアル。一生、ワタシとダージエと一緒にいるヨロシ。

コレ:まあ、お熱いですね!ちなみに、ジウズー・グーグは?

ジウ:官吏の職が懐かしくないと言えば嘘になります。しかし、この娘達との生活は、桃の花のように色めいていて、少なくとも不満はありません。

※脚注:東方での魔術師の一種。魔力操作に秀で、不老不死を目指す。
25/07/12 08:06更新 / ズオテン
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