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第十回 「おっぱいサバト」
 前回"センシティブな"と言った、「マルーネ論争」だが、読者の過半数は少女と「お兄さん」だと著者は考える。いきなりだが、「乳房の大きさ」について考えてみたことはあるだろうか?

 あなたは、「何をバカげたことを質問しているのか」と考えただろう。私も、この論争を始めに知った時は、そういう所感を持った。しかし、資料を集め、関係者の話を聞いていくにつれ、「根深い」哲学的命題を孕んでいる問題と気づいた。

 実際のところ、性的嗜好や何らかの生理的な感性に基づいた「貧乳」や「巨乳」という俗語は、アンダーグラウンドな場でよく話題にあがる。関心の観点や度合いは個々人や性別により異なるだろうが、読者の方々も「胸」について一考したことはおそらくあると思われる。

 さて、「なぜ、マルーネは論争を引き起こしたか」の答えは、「彼女とその仲間が少女の身体に似つかわしくないほど巨乳であったから」という身も蓋もないものだ。

 聞いて損したと感じた方もおられよう。だが、著者やこの論争の当事者は至って真面目にこれに頭を悩ませた。なぜなら、「身体的特徴を理由にサバトに入ることや魔女になることを否定する」かという、サバトの理念に関わる問題に触れる必要があるのだ。

 個人的な思い入れを話すのは忍びないが、私が今ルーニャルーニャ大師匠のサバトの一員であるのは、「魔法が使えずとも、魔法への興味関心と熱意さえあれば歓迎する」という方針に救われたからに他ならない。

 翻って、今回の問題をみると、「少女の背徳性」から「発育の良い、成熟した女性性」を排除するのか、それを肯定するとして、「そのような人物をサバトは拒否するのか」という話になるのだ。

 また、仮にこれらの問題に合意形成が為されたとして、「どこまでが"少女"の範疇か」や、「そもそも、巨乳と貧乳の境界(ミッシングリンク)は何か」という命題が顔を覗かせた。今回の「おっぱいサバト」は、そのような過程で発足された。

概要:コムーネ・π・ν・リンは、バフォメット長老会議の「マルーネ論争」において、「全ての乳に貴賤なし」を掲げ、一貫して中立派であり続けた。彼女は、巨乳否定派と肯定派による争いで、サバト間での分断が起こることを憂慮した。会議は、「巨乳の可否はともかくマルーネは可」として一致したが、コムーネは同じような事態が発生せぬよう「どこからを巨乳とするか」の発議や、その筋で有名な「巨乳と貧乳のパラドックス」を提唱した。いつしか、自らのサバトでの研究テーマとなり、彼女のグループは「おっぱいサバト」なる名前で呼ばれるようになった。

魔女コレクトラ(以下コレ):本日はご協力いただき感謝致します。

魔女ティット:ありがとうございます。我ら、コムーネ・サバトは研究テーマから、初見の方には忌避されやすく、こういった対談の場でお話できることに、まずはありがとうございます。

ブレアストお兄ちゃん(以下、ブレ:私の方からも、サバトを代表して感謝申し上げます。

コレ:早速ですが、お二人はどういった理由でご参加されたのですか?

ティット:私は、昔から自分の胸にコンプレックスがありました。だから、いつも厚着してました。

ブレ:私は、彼女とは家が隣同士で、よく遊んでいました。ただ、ある時を境にティットは私や男友達を避けるようになりました。

コレ:なるほど、お二人は別々の進路に進まれたとか?

ティット:はい、私はどうしても、運動すると胸部の靭帯が怪我してしまうので、だから勉強して、魔法人間工学部に進学しました。

コレ:専門分野は何ですか?

ティット:胸の大きさの運動への影響と空気抵抗、それを緩和するデザインについて、です。かわいい服でも、着れなくて、それに目立つし窮屈でと、前から不満がありました。

コレ:小さい頃からのコンプレックスをバネにということですね。

ティット:はい。

コレ:ありがとうございます。では、ブレアストお兄ちゃんは?

ブレ:私は、主に文化人類学を。特に、「人間が二足歩行に適応するなかでの精神的変容」について、です。

コレ:中々興味深い専攻ですね。

ブレ:まあ、といっても、かなり性的というか、下世話な内容に踏み込んでいましたけど。

コレ:と、言いますと?

ブレ:実は、ティットも関係あるのですが、私も幼少の頃より「乳房」に強い関心がありました。

ティット:端的に言うと、私の胸をじろじろ見ていたんですよ。

コレ:はあ…まあ、思春期とはそういうものでしょうか?

ブレ:そこは、あまり深掘りしていただきたくはないですけどね。ただ、"胸"という生物学的には、ある主セックスアピールとは本来遠いものが、ことに人間社会において「性的興奮を換気するもの」となることに興味が湧いたのです。

コレ:あっ、確かにそうですね。人間とカク猿のような類人猿型種族を比べると、「胸と尻」について性的な視座が異なると聞いたことがあります。

ブレ:そうなんですよ。人間は、彼女らと共通の祖先を持ちながら、分岐する過程で、何らかの要因でその意識が変化していると思われるんです。

ティット:言ってしまうと、オス個体が四足歩行で見る視点と、二足歩行のそれの違いから来るのではないかと、私達は仮定しています。

コレ:これはまた面白い着眼点ですね。おっと、では、お二人はサバトで再会されたということですか?

ティット:はい。お兄ちゃんとは、ミスラクティック大学でダブルスクールの研究室にてばったり。

ブレ:実際のところ、人間工学での機能美とファッション性、オフィシャルな場での服装の性差というテーマは、私の研究に関わりがあるので。でも、彼女がいたのは青天の霹靂でしたね。

ティット:お兄ちゃんは、胸にご執心の変態だけど、何だか悪い気分がしなかったんですよ。

ブレ:そして、その研究室は実はコムーネ先生が教授だったんです。

ティット:勢いで、二人して契約して、今に至ります。

コレ:興味深いですね。

追記:「巨乳と貧乳のパラドックス」とは、所謂「ハゲのパラドックス」の一種である。
25/06/28 10:51更新 / ズオテン
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