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第八回 第三セクターサバト
 魔物の価値観としては、国や社会という観念が希薄だと、一部人間の研究者や専門家の論文でしばしば論じられる。実際のところ、名著『魔物娘図鑑』の著者や当の魔物である第十八王女殿下「文筆の姫」の論文でも言われているので、ある程度は傾向として存在するだろう。

 だがより小さな共同体、特に血族や一個の都市・集落規模では、人間と魔物の帰属意識の強さはむしろ逆転することがある。非魔物においても、エルフやドワーフは諸氏族の自立性と団結力が高く、国家を形成せずとも人類と勢力で渡り合えてきている。

 さて、魔王軍が実質的に悪魔族(とりわけサキュバス属)の軍閥であるのは、もはや疑いようがないが、一応魔物の国家中枢と一定の立法・行政能力がある。彼女らは、人間のそれと似ていると言える。

 そして、歴代の魔王はこの私兵と傘下種族の協力で、魔王城と王魔界の開発と発展を行ってきた。研究者は、これを「第一セクター」とした。次に、種族ごと、あるいは都市ごとの魔物集団が、それぞれの支配域を自力で開墾・整備していく。これを「第二セクター」と言う。人間界のギルドや商会などもこれだ。

 サバトは、バフォメット(仮)様の「魔王軍サバト」を除き、概ね第二セクターに属するが、研究設備や人員規模から、場合によっては魔王軍と共同で当たることも少なくない。今回は、そんな「第三セクターサバト」の一つを紹介する。

概要:「建築公社シエンナ工務店」と名乗る会社を経営する、シエンナ社長の設立したサバト。バフォメットでありながら、魔法を公共事業に使うことを目的としている。ジャイアントアント、ドワーフ、鬼族等の肉体労働が得意な魔物はもちろん、建築デザインのリャナンシーや経理事務のアヌビス等、幅広い種族が参加している。落下物からの保護と照明機能のある三角帽子に、防水・防塵のドレスアップ、厚手の手袋と長靴が制服である。精霊との協力で基礎工事から火災予防、環境に配慮した作業が評判である。

魔女コレクトラ(以下コレ)「本日はご協力に感謝致します」

魔女バウアリン(以下バウ)「こんにちは。シエンナの宣伝・広報のバウアリンと申します」名刺を渡す。

コレ「これはどうもご丁寧に、まあかわいいデザインですね!」ヘルメットを被り、金槌と杖を持ったヤギの社章が印字されていた。

アルヒテクト兄さん(以下アル)「そうだろい?ウチは、そんじょそこらの土方とは違うんでい」ノースリーブのシャツに汗染みを作り、作業着をはだけたお兄さんは自慢気に鼻を擦った。

コレ「最近は、どのような建築物を手掛けたのですか?」

バウ「弊社では、夢のある建物、かわいらしいデザインの追及と魔法を活かした建築を行っています。具体的には、"お菓子の家"やアルトランド・テュルムが、直近の作品です」我が魔女が、一瞬目を輝かせていたのは特筆に値するか。

アル「魔術ってなぁ、人の思いと相関すんでえ。オイラたちゃ、元は単なる大工だけどよ、依頼者の願いや住み心地を考え、叶えてやんのも一種の魔法みてえなもんよな」気っ風のいい親分肌だが、彼の設計書を見せてもらうと、かなり緻密で動線や空間利用がよく考えられていた。

バウ「兄さんの言う通り、基本的にわが社の男性社員は、皆元々魔法とは無関係な職人が多数です。しかし、建築は研究と設計、見積りと試行錯誤の連続です。魔法使いと、素養と熱意ではかなり似通っていると言えます」
コレクトラと新居を構えるなら、こちらに依頼するのも一考だな。

コレ「なるほど、ではやはり工具も魔道具を応用したりとか」

アル「あだぼうよ。現場に合わせて、エレメントの割合や出力を調整した一品もんをバカスカ作りやがんだぜ?ウチの魔女サンたちにゃ、男衆もシャッポを脱いじまあな!」

バウ「褒めても何も出ませんよ」

アル「へっ!そんなケチくせえ了見はしてねえやい」

コレ「興味深いお話ありがとうございます」
25/06/21 16:55更新 / ズオテン
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