連載小説
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後編
 「お待ちしておりましたお客様――。」

 扉を開けた先で不意打ちの出迎えを受け、一瞬思考が固まった。
 その隙に腕を抱かれ、部屋の奥へと連れ込まれる。背後でドアの自動ロックの音が響いた。

「ささ、こちらへ。お布団の準備はもう出来ておりますよ。」

 連れ込まれた床の間、机は端に除けられ、彼女の言う通り中央に広めの布団が敷いてある。
 しゅるりと帯を解く音が聞こえた。振り返れば浴衣をはだけたカオンが居る。そのまま絡みつくように手を取られ腕を包まれ、彼女のそのしなやかな指先が股の間へと……

「あら…?」

 そこに触れて気づく。

「もうお疲れですか?あの後、何回精を搾られました?」

 温泉から出た後のマッサージチェアで1回、食堂で2回の計3回である。普段の自慰の頻度を思えば、この短時間の間に過剰な搾精を受けたと言えるだろう。

「うーん…少ない方ですね。普段からの疲れが溜まっているのでしょうか…。」

 少ないんだ…。

「少々休憩いたしましょうか。お茶を入れますね♪」

 カオンがいったんその身体を離した。彼女が茶の用意をしている間、窓付近に移されたちゃぶ台の前で待つ。外を見れば月の輝く夜空に雪が舞っていた。

「どうぞ♪」
「あ、どうも…。」

 程よい濃さの緑茶で満たされた湯飲が目の前に置かれる。そのまま彼女は右隣に腰かけてきた。その距離は妙に近く、油断すると腕が柔らかなものに触れそうになる。
 その感触から逃げる様に、手を湯飲へと伸ばした。

「ところで…本日は私のほかに部屋へ招待した方はいらっしゃいますか?」
「いえ…部屋を教えたのはあなただけで……」
「まあ!では今夜は私が独り占めですか♪」

 彼女は喜びに尻尾を振る。
 部屋番号を教える事の意味を理解していなかっただけでそういう意図はなかったのだが、今さらそんなことを言える雰囲気ではなかった。

「あ、もしかしてほかにも招待しておけばよかったと思ってます?大丈夫ですよ、ほら♪」

 隣で軽い爆発音がする。
 と、左腕が柔らかな感触に包まれた。慌ててそちらを向けばもう一人のカオンと目が合う。

 左右から同じ姿の妖狐に挟まれる形となっていた。

「尻尾の数だけ分身が出来ますので。お客様が頑張り次第では更に増やせるかもしれませんね♪ささ、お茶をどうぞ。」

 促されるまま湯飲に口をつける。その間も左右のカオンは身体を押し付けつつ、忍ばせた手で内腿や胸元を擽りこちらの性感を煽り続けていた。



「…では、まずはマッサージから始めましょうか。私が丹精込めて『回復』させて差し上げますので♪さ、そこにうつ伏せになってください。」

 茶を飲み終え、布団の上にうつ伏せに寝かせられる。大き目の枕に顔を埋めると、甘い香りが鼻に抜けた。

「その枕にはアルラウネの蜜を原料にした香水が染み込ませてあるんですよ。素の蜜程効果は激しくありませんが、一応香りには性欲増進、感度向上の効果があるのでたくさん嗅いでくださいね♪」
「んん!?」
 
 そして間髪入れず彼女は寝そべった体を跨ぐように腰の上に座ってくる。柔らかな感触が尻の上を包み込んだ。
 身動きを封じられ、否応なく枕に染み付いた香りを吸引させられる格好となった。その間に、彼女の手が首に伸び首筋から肩を指圧してゆく。同時に下半身にも手が触れられる感触…そちらは分身の方である。浴衣の下をめくり、足裏から太ももまでを軽く揉み解す動作は、やがて擽るようなフェザータッチへと変わっていった。



 どれほど経っただろうか、今度は身体をひっくり返され仰向けにされる。念入りな全身への愛撫により肉体は完全に脱力させられており、まるで抵抗できなかった。

「香気の吸引は十分そうですので…枕を変えましょうか♪」

 身体を仰向けにされると同時に枕を退けられ、代わりに頭頂部側から差し込まれたのは上半身を指圧していた方のカオンの膝だった。沈み込むような柔らかさに後頭部が包まれる。
 見上げれば、腕で持ち上げられた双丘が逆さに見える筈の彼女の顔を隠していた。

「そしてお顔にはこれをこうして…♪」
「うぶっ!?」

 そしてそれが顔面へと落とされる。
 顔の全てを覆いつくす質量と重量感。そして後頭部に感じるそれよりもさらに柔らかな感触が襲う。それはさながら首から上を全方位から包み込む肉の牢獄であった。

「うふふ、お膝とおっぱいで包み込んじゃいました♪ここからは枕の香気の代わりに胸の間に溜まった淫気を吸い込んでくださいね。」

 首まで柔肉で覆われている状態では否応にも下乳の谷間のわずかな隙間から呼吸をせざるを得ない。異様なほど肌触りの良い浴衣の布地を通して、強烈に甘い香りが鼻を犯した。
 その瞬間、全身の力が抜け抵抗力を奪われる。同時に皮膚の感覚が急激に鋭敏化されてゆくのを感じた。もう一人の彼女が指先で撫ぜる両の足に耐え難い擽感が生まれるが、脱力した身体は抗する術を持たなかった。
 そしてもう一対の手が上半身に伸びる。
 頭上の方の彼女が浴衣合わせ目から手を入れ、胸周りをまさぐってきた。それに合わせ身体が少し前に倒されたことで顔面に更に強く胸が押し付けられる。

「いい機会ですからこちらの性感も開発してしまいましょう♪淫気を嗅ぎながらですからすぐに済みますよ。今夜のうちに胸への愛撫だけで絶頂できる身体にして差し上げますね♪」

 穏やかな口調でそら恐ろしい事を言ってきた。しかし淫気を嗅がされ脱力しきった体ではこの体勢から逃げ出すことも暴れることも出来ず、無抵抗にそれを受け入れるしかない。
 あまりたくましいとは言えない胸板の上で白く長い指が踊る。
 同時に下半身を責める手の方もだんだん上へと上ってきた。膝から内腿を通り、股関節へ…鼠径部を指圧しながら会陰と陰嚢を10本の指が擽ってゆく。
 開始時に疲れていると評された陰茎はとうにいきり立ち、先端から涙を流していた。

「ふふ、そこに触って欲しいですか?まだダメですよ。途中でまた疲れてしまっては大変ですから、ここは念入りに回復させて差し上げませんと♪」

 反応が悪かったことへの意趣返しだろうか、硬さを増してゆくそこへは決して触れず、焦らし責めと化したマッサージが続く。
 いくつもの工程がローテーションされる中、会陰を奥に向けてリズミカルに揺すられる刺激が続いたところで、不意に背筋をぞわりとした痺れが走った。
 この感覚には覚えがある。
 この施設に来て最初に受けたそれに似て…
 腰の奥に熱が生まれ、重く鈍い快感が膨らんでゆく。四肢の力が入らない中で背筋のみが反射的に収縮し背をのけ反らす。

「んむ―――ッ!?」

 思わず漏れた叫び声は顔面を覆う柔肉に吸収された。しかし突然生まれた快感は出口を求めて全身を駆け巡る。結果、深く、長く射精を伴わない絶頂がいつまでも続く。

「あら、イきましたね。ではついでにあと何回か繰り返しておきましょうか。」

 胸を擽る両の手がその先端を摘まみ上げ、ぐにぐにと捏ね上げる。
 会陰に押し込まれた指先からその奥へ熱が送られる…。

 程なくして、同じ絶頂を繰り返すことになった。





「…ぶはっ。……はぁっ………はっ…。」

 久方ぶりに視界が晴れる。
 少しでも新鮮な空気を取り込もうと肺が膨らむが、鼻を通り抜ける気体は尚も甘い。そして、それに合わせて再度腰の奥で快楽が弾けた。
 花の蜜とミルクの香りを絶妙に混ぜ合わせたようなその匂いを嗅ぐだけで先ほどまでの射精を伴わない快楽がフラッシュバックし、軽い甘イキを繰り返すように身体が躾けられてしまっていた。
 しかしあくまでもそれは甘イキ。射精の欲求は下腹部に蓄積されたまま、その熱で精神をあぶり続ける。
 腕が動けばすぐにでも股間に手を伸ばして陰茎をしごき、1秒も持たずに精を漏らしていただろう。
 だが念入りなマッサージで全身を脱力させられた上、彼女の淫気で首から上を蒸し上げられた状態ではそれも叶わない。

「仕上がりましたね。どうですか、今ならちゃんとココでも気持ちよくなれるでしょう?」
「ふぃっ…!?」

 胸の先を軽く擽られ悲鳴が漏れる。そこから発生するのはもはやむず痒さではなく、明確な快感であった。脳がそう認識してしまっているのだ。

「こちらの感度の引き上げは十分そうですね。そしてそっちも…元気になったでしょうか?」

 視線が股間へ向けられるのを感じる。
 上半身を責める手は止まったものの下半身への指技はいまだ続いていた。鼠径部と会陰への指圧、そして陰嚢へのフェザータッチが性感と性欲を高め続けている。

「出したいですか?出したいですよねぇ?…ふふ、でもまだダメですよ♪もうちょっと頑張りましょうね♪」

 不意に身体が浮く。
 不思議な力で宙に持ち上げられた身体は、空中で半回転し膝をついた格好で着地する。そして頭の方を待ち構えていたのは彼女の豊乳だった。

「わぷっ」

 先ほどとは上下逆であるものの、再びその感触に囚われる。
 そしてその瞬間、またもや射精を伴わない絶頂を迎えた。
 顔面を包む魔性の感触と鼻腔を犯す甘い匂いが、先ほどまで執拗に与えられていた快楽を一気にフラッシュバックさせたのだ。

「ふふ、完全に癖が付いちゃいましたね♪今後はこうやっておっぱいにお顔を埋められるだけで甘イキを繰り返すようになっちゃいますから、気をつけてくださいね♪」
「……!?」

 腰の奥が蕩けるような快感が止まらない。
 流石に恐怖を覚え、力の抜けた身体に鞭打ってもがこうとするもすぐに後頭部に腕を回され固定されてしまった。

「さぁ、仕上げにもうちょっとだけ感度を高めますよ。」  

 彼女がそう言うと同時、両腕と両腿にふわりとした何かが触れた。分身した事で4本に増えた彼女の尾である。
 うっとりとするほどの肌触りを持つそれは肌の上をゆっくりと這いまわった。

「性欲を高めた状態で淫気を嗅がせながら、魔力を纏わせた尻尾で肌を撫でることでそこの性感を発達させることが出来るんです。ふふ、全身性感帯にして差し上げますね♪」

 背中に触れる尾がじんわりと熱を持ち、それが動いた瞬間、そこに鳥肌が立つほどの快感が走った。そして残り3本の尾も同様の効果を得て、全身を撫でまわす。
 身動きが取れない中、蠢く4本の尾が好き勝手に性感帯を増やしてゆく。しかしその工程に伴う快楽の凄まじさから意識する暇もない。
 時間の感覚が狂い、それが数分間の出来事だったのか数時間経っているのかも分からないまま…




……処置が終わった。

「はい、お疲れさまでした。では…そろそろ精をいただきましょうか♪」

 ようやく解放の時が訪れる。
 再度仰向けにされ、先ほどと同じように頭を彼女の膝に乗せられていた。しかし今度は顔面に乳房を落とされてはいない。
 故に、焦らされに焦らされた下半身がこれからどうされるのか、見ることが出来る。…いや、見せられているのだ。
 膝の開き具合により頭の向きを補正され、視線が自ずとそこへ向くように調整されている。
 そして視線のその先には、開いた両足の間に正座で座り、浴衣の上半身をはだけているもう一人のカオンの姿があった。

「今のお客様の状態であればどのような刺激であろうともそこに触れた瞬間に精をお漏らしになられるかと思いますが…せっかくなので私が一番得意な方法で搾って差し上げますね♪」

 一番得意な方法…彼女の体型と今の体勢から想像がつく。
 そしてその想像通り、腰が持ち上げられ股の間に座る彼女の膝の上に乗せられた。

「はい。ご想像の通り、この胸で挟んで捏ねて…お漏らしさせちゃいます♪たぶん即イキですが…、せっかくなのでちょっとゲームをしましょうか。」
「…?」 
「出来るだけ我慢してみてください。5秒以内に出してしまったら…そうですね。もう一度おっぱいで顔面パック♪そしてすべての尻尾で全身を擽ってあげましょう♪同時にお胸も手で弄ってあげます。今の状態でも弄るだけで相当な快感を得ることができるように開発は済んでいますが、…これをされたら今後は胸への刺激だけで吐精するようになってしまうかも知れませんね♪」
「ひぃ…!?」
「では、始めますよ。はい♪」

 彼女が両の胸を広げ、膝上に乗せたそれを挟み込む。
 陰茎どころか腰全体が包み込まれるような感触が拡がり…そしてただそれだけの刺激で、あっけなく決壊した。
 条件だった5秒は、数え始めてすらいなかった。

「あっ……」

 彼女の最初の予想通り、即イキであった。
 我慢以前の問題、勝手に出てしまった感覚…。自身の身体に対する支配権など、とうに無かったのだ。

「くふふ、ふふふふふ…。残念でした。では罰ゲームですね♪」

 頭上からそう聞こえた直後、顔面に乳房が落とされる。
 再び顔を覆う感触と匂いに、ひとたまりもなく絶頂した。しかし今度は射精を伴うそれである。股間を包み込む柔肉が同時に蠢き、搾る動作を開始したためだ。
 次いで胸の上で指が躍る。
 足を、脇腹を、4本の尾が走る…。

「―――――ッ!!」

 悲鳴は再び囚われた肉の檻の中で吸収された。
 あまりの快楽に背筋がのけ反る。しかしのけ反った先で突き出した胸と腹は、指と尻尾の餌食となる。増やされ過ぎた性感帯がそれぞれに快楽を発し混ざり合うため、絶頂から降りてこられない。

 そして継続する絶倒とと射精感がついに呼吸を忘れさせたのか、いつしか意識は闇に落ちて行った。


…………、


……、


…。







 瞼の向こう側に光を感じる。
 意識が覚醒し、四肢に力が戻ってきた。夜が明けたのだ。

 …と、股間に滑った感触が触れるのを感じる。

「……!?」

 慌てて上体を起こし布団をめくり上げると、そこには股の間に顔を埋めているカオンの姿があった。

「何を…」

 彼女は答えず、ただその眼を淫猥に歪めるのみ。そしてその代わりとばかり、舌が動きを激しくした。
 
「…っ!?」

 不意打ちのようなその責めに、あっという間に射精まで導かれる。口内に吐き出された精液は一滴も余す事無く、喉の奥へと消えてゆく。
 射精の脈打ちが収まった後も残った僅かな精を求めて舌が陰茎を這い回り、尿道内のそれを一際強く吸引するに至って彼女はようやく顔を離した。

「おはようございます。朝の一番搾り、ごちそうさまでした♪」

 清々しくも起き掛けの第一声でそう宣われ、ここがどういった施設なのか思い出す。昨日彼女に部屋番号を教えたところ、想像だにしなかったような激しい吸精を受けそのまま気絶するように眠ってしまったのだ。その際の淫惨な光景が思い出され、ぞくりと背筋が震えた。

「昨晩は申し訳ございませんでした。興奮して少々やりすぎてしまったようです。」

 カオンは膝をついて謝罪し、こちらの手を取った。

「……?」

 そしてそのまま自らの胸元へと導く。

「……うぁっ、え?」

 浴衣を押し上げるその膨らみに手の平を押し当てられた瞬間、全身に痺れるような快楽が生まれ、気付けば股の間が濡れていた。

「このように女性の胸に身体が触れるだけで精を漏らし…」

 放心状態のところ今度は自分の胸に鋭い快感が走る。見れば彼女のもう片方の手が浴衣の上からこちらの胸の先を捕えていた。

「胸を弄られれば快感で身動きが出来なくなるようお身体を作り替えてしまいました。」
「あ……ぁ………、」

 手の平に押し付けられる柔肉の感触を引き金として全身に走る快感、そして胸の先から生まれ続ける快感…それらに身動きを封じられ、情けなくも涎を垂らしながら後ろへと倒れ込む。

「ですので、その責任を取りまして…今後の貴方様の生活は私が全力でサポートさせていただきたいと考えております。」

 倒れ込んだ身体を追いかける様に、彼女は身体を寄せのしかかってきた。
 胸板に双丘を押し当てられ、ゆっくりと擦り付けられる。
 2種類の快楽が同じ場所で生まれた。
 硬く膨れ上がった乳頭が柔肉に咀嚼されるような感覚に襲われる。

「……ということで、貴方様のお名前とご住所、教えてはいただけないでしょうか♪」
「……………。」

 狂気的な快楽の中、自分が逃れられぬ所まで来てしまったことを悟る。
 笑顔で問いかける彼女に対し、頷くよりほかにはなかった。
21/09/11 09:51更新 / ラッペル
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■作者メッセージ
どういうわけか本番なしになってしまったので未完結です

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