不思議の国クエスト ーチュートリアル失敗ー
「あー…、まことに残念にゃがらキミの冒険はここで終わってしまったにゃ…。」
自らを案内役と称していた猫耳を生やした美女が気まずそうにそう宣った。魔女の格好をした店主の方を向くも、何とも形容しがたい表情を浮かべ目を逸らされてしまう。
「どういうことなの……」
訳の分からぬこの展開。
しかしここは右も左も分からぬ異世界の店、二人に勧められて購入したパックから出てきた一枚のカードを手に、茫然と立ち尽くすしこなかった。
………、
…。
何の前触れもなく異世界に引き込まれ、右往左往していたところこの猫耳に出会ったのが半日前。チェシャ猫と名乗る彼女に案内されるがまま、この魔女の店に来たのだ。
案内の間、この世界の事や元の世界に帰る方法等についても話を聞いた。なんでもこの国の女王の下までたどり着けば元の場所、元の時間に帰して貰えるらしい。
が、しかし、大変に困難な道だというので、先ずは準備を整えるべくこの魔女の店に案内してもらったのだが…。
勧められるがままカードが入ったパックを購入し、それを開けると一人の女の子が描かれたトランプのようなカードが出てきた。
そして二人の表情が変わったのはこのときだった。慌てて二人何やら話し合ったのち、出てきた言葉がコレである。
いったい自分が何をしたというのだ…。
「まーこの際白状するとにゃ、あたしらはキミを騙してたにゃ…。」
「騙してたって……女王の所まで辿り着けば元の世界に帰れるって言ってたのは…」
「それはホントにゃ。ついでに言うと、一人でゴールまで行くのは難しいからここで準備を〜ってのも一応本当だにゃ。」
「じゃあ騙してたというのは…?」
「準備の内容よ。この店で魔物にまつわる商品を買って貰って、それを触媒に対応する娘と契約してもらうつもりだったのだけれど…」
猫耳に代わり店主の魔女が答えた。
「………。」
改めて手元に視線を落とす。
自分が彼女らに勧められて購入したのはカードの入ったパック。封入枚数、何とかセレクション等様々な種類がある中で、一枚しか入っていないかわりにレアなものが出やすいというシリーズを選んだ。
そしてそこから出てきたのは…
「まさか『それ』を引き当ててしまうとはにゃー…」
一枚のトランプカード。絵柄はハートのA。
真ん中には桃色の髪をした少女の絵が描かれている。
「……♪」
「うわ、動いた!?」
突然、描かれた少女がウインクを飛ばしてきた。
「そのカードに描かれた娘がキミと契約して、ナビゲーター兼パートナーとして冒険を助けてくれるという流れ…になる筈だったにゃ。」
「何か問題が……もしかしてこの子弱いの?」
「うんにゃ。めちゃくちゃ強いにゃよ?ぶっちゃけそいつだけで最後まで余裕で進めるにゃ。」
「だったら…」
「対価さえ支払えればね…。右下を見てみて?」
魔女の言葉にもう一度カードに視線を落とすと、右下に小さな文字で何か書いてあるのに気付いた。
「コスト……?」
見たことの無い文字だが何故か意味は分かる。そしてその横に並ぶ数字も…
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん…………130万!?こんなお金持ってないよ!!」
「その数字は金額じゃないわ。要求精量よ。」
「ゑ……」
ここに来るまでに 魔物と魔力と精の関係は話を聞いた。魔物がその力を振るうには魔力が必要であり、体内で魔力を生み出すにはその…人間の持つ精が必要なのだそうだ。
「ちなみに人によるけど概ね射精一回で1〜10ポイントね。」
「この子と契約するためにはこれだけの精力が必要だと…」
「いえ、契約自体はタダ。分かりづらいかもしれないけれど、その娘を使役する権利を得る為に必要な精といったところかしら。彼女たちの使役者〈マスター〉として認められる為の儀式というか…」
「加えて、契約しているだけでも毎日その下の数字分は要求されるにゃ。」
下の数字…よく見たら先程の130万の下にカッコ書きで更に小さく印字してある。一応桁は4つ程小さい、しかしそれが毎日…
「し、支払えなかったら…?」
「立場が逆転して精奴隷だにゃ。」
思わず白目を剥いた。
「他のエースならまだ何とかなったかもしれないのに、よりにもよってハートエースの魔術師タイプ。しかも淫魔術でエースの位をとった個体とはね。」
「運が無いにゃ。いや、逆にあり過ぎたのかにゃ?」
「あの…これ返品する訳には……」
恐る恐るそう言った途端、カードに描かれた少女が焦った表情で投げキスを何度も飛ばしてきた。カード表面にハート型のエフェクトが連続して散る。
更に彼女は胸元のボタンを幾つか開け、腕で胸を寄せ上げ谷間を見せつけてくる。魅惑のふくらみが柔らかそうにその形を変えた。
(お、大きい……。)
思わず視線が縫い付けられそうになるが慌てて目を逸らす。これに釣られて契約してしまえば本当に死んでしまいかねない。
「引き直しさせてあげたいのはヤマヤマなのだけれど私も命が惜しいのよね…」
「まぁ猫に喰われたと思って諦めるにゃ…」
死んでるじゃないか…
件のカードに目を落とせば、今も中の少女は必至に誘惑を続けていた。先程彼女のバストアピールに一瞬目を奪われたのがバレていたのか、両手で胸を揉みしだきながら誘ってくる。手の平に収まらないその豊かな双丘が婬猥に形を変え、再び視線を拘束しようと蠢く。
…その手に乗ってはならない。
慌てて目を逸らそうとして……だが今度は出来なかった。
意思と関係無く、カードから視線を外す事が出来ない。それどころか…
「え…身体が勝手に………!?」
それまで手ぶらだった右手まで意思を離れて動き出し、その指先をカードの裏面に当てた。
裏面に描かれていた魔法陣が桃色に輝き出す。
「……んなぁ!?こ、こいつカードの中から身体を操って強引に契約させる気だにゃ!!」
「ここで!?させないわ!緊急排除術式、起動!!」
店主の魔女が叫ぶと狭い店内の床に魔法陣が輝く。カウンターからこちら、売り場スペースの全てをカバーするそれはちょうど自分と猫耳を範囲内に収めていた。
猫耳が顔を青くする。
「にゃに!?ま、待つにゃ、あたしも今そっちに…!!」
「…ごめんなさい。貴女の事は忘れないわ。」
「この薄情者ォ―――ッ!!」
足下からの光が視界を覆い、次いで襲ってくる浮遊感…。
それらが治まった時にはもう、目の前は野原だった。
店内で魔女が発動した魔術によりここまで飛ばされたらしい。見渡せば遠くに先程の店が見える。
ピカ―ッ!
一拍遅れて操られていた右手が解放され、カード全体が輝き出した。同時に右手の人差し指――先程カードの裏をなぞった指に桃色の宝石をあしらった指輪が現れ嵌まる。反射的に思わず手を離してしまい、カードは地面に落ちた。
「あぁ…間に合わなかったにゃ……。」
チェシャ猫ががくりと膝をつき、次の瞬間、空気の質が変わった。
それまで特に気にすることもなかったそれが突然粘度を増し、ねっとりとまとわりついてきたのだ。まるで蜂蜜の海の中にいるかのような感覚に囚われる。
同時に立ち込める甘い匂いと味。
「あはぁ…やっと会えたね♪ダーリン♪」
地に落ちて尚光輝くカードから 一人の少女が現れる。
それはまさしくカードに描かれていた少女。喜悦に蕩けた表情を浮かべ両腕を拡げなから此方へ歩いてくる。粘体と化した空気の中を事も無げに平然と…。
彼女の身体から放たれる不可視の波動のようなものが全身を甘く擽り、彼女が近づく程にそれは強く、濃くなってゆく。
片や重い空気に体を捕らわれ動くことは出来ず、目の前の光景をどこか現実感を欠いたまま眺めるうちに、あっという間に距離を詰められてしまった。
「つーかまえた♪」
目前までやって来た彼女は腰と背中に腕を回し、包み込むように抱き締めてくる。
その瞬間、脳が絶頂した。
性感が高まってゆく過程を全てすっ飛ばして、突然性的絶頂感を叩き込まれたのだ。
一拍遅れて体が絶頂を迎え、失禁したかのような感覚と共に精液が漏れ出した。
「ぁっ……ぁっ…ぁ…………」
「…あ、ゴメン。一応魔力は抑えてたんだけど…」
彼女が腕を解き解放する。
支えを失い、弛緩した身体が変質した空気の中をゆっくりと沈んでゆく。
「ちょっとそこで休んでいてね☆ボクとキミを出会わせてくれた素敵な猫さんにお礼をしなきゃ♪」
「ギクゥッ!?」
気付けば、向こうでこっそりと地面を這い離れていこうとしていた猫耳がその声に背筋を震わせた。
「あ、あたしの事はお気遣いにゃく……二人でしっぽりと楽しむといいにゃ…」
「まぁ遠慮しない♪」
冷や汗を滝の如く垂れ流しながら後退る猫耳の許へ平然と近づいてゆく。この変質した空気も彼女には影響しないようだ。さらに彼女の歩いた足跡は紫色に変色している。
よく見れば何の変哲も無い草原の雑草だったものがその部分だけ毒々しい色をした肉厚の謎の植物へと変化しているのだ。
「面白いでしょ?ボクの魔力に侵されたモノはみんなああなるの♪」
不意に耳許で生まれた声。飛び上がって振り向くとそこにはもう一人居た。
同じ人物が。
「あはは♪そんなに驚かなくても、簡単な分身魔法だよ。」
何事でもないかのようにそう言ってのけるとするりと背後に回り、そのまま腕を回してくる。重量感のある柔らかな感触が背中で潰れた。
「大丈夫大丈夫。今度はさっきよりもーっと気をつけて魔力を抑えてるからさ。ほらほら、なんともないでしょ?」
なんともないなんてことはない。
服越しであろうと、彼女の肉体が触れた箇所からはまるで無数の濡れた舌で舐め回されているような、あるいは乾いた羽毛で擽り回されているような奇妙な刺激が絶えず送り込まれ、こちらの抵抗力をこれでもかと削ぎにかかっていた。
これが彼女の言う魔力によるものなのだとしたら極限まで抑えに抑えてもなおコレだということである。気を抜けばすぐにでも崩れ落ちそうになるところを、膝を震わせて必死に耐える。
「て、立ってるのも何だしとりあえず座ろっか?」
…が、そんなこちらの努力などどこ吹く風、優しく足払いをかけられると、背後から彼女に抱きすくめられるような形で草の上に座らされてしまった。
「ボクの魔力はそこに在るだけで世界を淫らな形に改変する。水は媚薬に、空気は淫気に、植物は淫草に動物は淫獣に…この特性に神性を認められてボクはエースのクラスを得た。エースになるには少なくとも何か一つ神域に至らなきゃいけないってルールがあってねー。」
ならばこの異様な空気も…
「うん、この空気もそう。スキル『ハニー×2フィールド』。ボクがそこ居るだけでボク以外全員のすばやさを下げる。実際は勝手に溢れてく魔力で空気をちょっと変質させただけなんだけどさ。」
「うひっ…!?」
背後から回された彼女の手が胸元を妖しく撫ぜた。先程から背中で感じているぞわぞわとした感覚、それが彼女の手が触れた箇所に残り、内部へと染み込んでゆく。
「そして身体に魔力を流せばそこは性感帯に…ってね♪ほらあっちも、面白いものが見れるよ。」
彼女の声に導かれ地を這うチェシャ猫の方を見ると、ちょうど分身したもう一人のエースが彼女の下半身に跨がりその動きを拘束した所だった。そしてエースの両の手が紫色の燐光を放ち始める。
「さぁ…おっぱいとお尻、好きな方を選んでねー♪」
「そ、それをどうする気にゃ…まさか…」
「はい、時間切れー♪」
「ぎに゛ゃ―――――――ッ!?」
チェシャ猫の返答を待たずしてエースの分身はその両手を目の前の双丘へと押し当てた。
「にょ゛ほお゛お゛お゛おお――!?お尻が――ッ!あ゛だしのお―し―り―がぁ―――!!」
「さっきはすごーく手加減してたけど本来はあんな感じ。もちろん全力じゃないし分身してるから威力は単純に2分の1だけどねー。」
目の前の光景は淫媚というよりは凄惨という表現がしっくり来るものだった。のたうつチェシャ猫の尾は逆立ち両手はがむしゃらに地を掻き毟る。顔は涙と涎と鼻水に塗れ、その表情は喜悦を通り越し狂気へと変わってゆく…。
「え・・えへっ・・・・・へ・・ぇ・・」
そして動かなくなった。
「はい完成♪キミには椅子に座るだけでアヘっちゃう素敵なお尻をプレゼント♪喜んでくれたかな?」
当然、返事は無い。ただの猫耳のようだ。
「あとは…♪」
続けて彼女は手で銃の形を作るとその指先を彼方へと向けた。
指先に桃色と黒が混じったような色の魔力が集まり、発射される。
その向かう先には…
「あ…」
先程の魔女の店があった。
その瞬間、店の窓が割れ箒に乗った魔女が飛び出す。どうやら何らかの魔術でこちらの様子を見ていたらしい。
「逃げても無駄ァ♪」
が、放たれた魔弾はエース(分身)の指の動きに合わせてホーミングし、命中。
空中でキラキラと飛沫を撒き散らしながら魔女はあっけなく墜落した。そして墜落地点を中心に黒い森が生まれ、広がってゆく…。
「あ…魔力を込めすぎたかな?ここもじきに触手の森に沈むね。ま、気持ちいいからいいよね♪あーそれともいっそ…」
背後のエースが何かを思案している。
「何を…?
「そうだ、ここに城を建てよう!」
「は!?」
突然そう言うや否や、彼女は立ち上がり足を一度踏み鳴らす。…と、そこを中心に緑の草原が一瞬で黒く染まった。そして触手状にうねる奇妙な植物が生えだし、成長してゆく。
それらは互いに絡み合い、癒合し、複雑な構造物へと換わっていった。
あっという間に外が見えなくなり辺りは暗闇に包まれた。
「ぎにゃ――ッ!!?」
あ、どうやら外で猫耳が触手に呑まれたようだ。
「それじゃあ、お城が完成するまでちょっと休んでてね☆これからキミにはすんごく頑張ってもらわないといけない訳だし♪」
「ゑ?」
「ボクの使役コスト…見たでしょ?ボクは一応魔術師タイプに分類されてるんだけど、魔力をそのまま使うから燃費がちょっと悪いんだよね。おかげで杖も魔本も必要ない訳だけどその分コストも高めに設定されてて…ゴメンね☆」
「あ………ん゛む!?」
そうだった。と、そもそもの話を思い出すと同時に唇が彼女のそれで塞がれた。
接触面を通して電撃のような快感が流され、一瞬で思考を持っていかれる。その威力にひとたまりも無く、股間で暖かいものが漏れ出す感触を感じながら意識を手放すことになった。
………、
……、
…。
奇妙な部屋で目を覚ました。
壁や床、天井は有機的に脈打つ肉で構成され、窓は無い。そして扉と思しき構造が一つ。
窓が無いので外の光は入ってこないが、天井付近から生えた枝がカンテラ状に変形し、内部の明かりが部屋を薄暗く照らしていた。
そしてそんな部屋の中央に置かれた異物…白い天蓋つきの寝台。自分はそこに寝かされていたのだ。
しかも裸である。
「ここは…」
生物の体内を思わせる気味の悪い見た目に反し、室内は甘く爽やかな香りで満たされている。
良く見れば壁に開いている小さな孔が呼吸をするように開閉し、桃色のガスを噴出していた。また、天井や壁からぶら下がる白色の肉塊がその先端から白い液体を垂れ流している。その乳液は床に空いた窪みに溜まると揮発し、これまた白いガスとなって部屋に拡散してゆく。あれらが混ざり合ってこの匂いを作り出しているようだ。
「とりあえず外に…」
「ベッドから出ないほうがいいと思うよ♪」
寝台の周囲を覆う白い薄布に手を掛けたところで部屋の扉(?)が開きニコニコ顔のエースが入ってきた。
「あ…」
彼女はそのまま寝台へ上がってくると隣に腰掛けた。
「出ないほうがって…というよりここは…?」
「ここはさっき建てたボクのお城の最上階。今ちょうど内装の整備が終わったんだ。まだ手を加えたいところは色々あるけどとりあえずは完成かな♪ここから出ないほうがいいっていうのは……いや、試しに足の先だけカーテンの外に出してみてよ。すぐに分かるから♪」
「…?」
なんだか嫌な予感がするが、おそるおそる彼女の言うとおりにしてみる。
天蓋から垂れ下がる薄布の合わせ目へと足を伸ばし、その先を外へ出した。
ほんの少し、親指の先だけ…
「う゛あっ…!?」
そしてその瞬間、指先に感じた刺激に仰け反ることとなった。
ぬるりと舐められるような感触と共に肌の粟立つような快感が拡がる。慌てて足を引くももう遅く、数秒後には勝手に射精が始まってしまった。
「な、なにこれ…」
「あはは、イッちゃった♪このお城の中には淫気が充満しててね…あ、あの桃色と白のガスね。その中でもこの部屋のある最上階は一番淫気が濃いの。で、このベッドはそれの侵入を防ぐ結界という訳。」
つまり…
「キミはもうこのベッドの上から逃げられない♪さぁ、始めよっか♪とりあえず1回分だけでもボクの使役権を手に入れてもらわないと冒険が始まらないしね☆大丈夫、キミの不老化処置は済ませてあるからたとえ何百年、何千年かかってもボクは付き合うよ。気長にやっていこうじゃないか♪」
そう言って満面の笑顔でにじり寄ってくる彼女。
「は、はは…はい、よろしくおねがいします…」
もはや観念するしかなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・
「ただいま―♪帰ったよー。」
「お疲れ様です。どうでした?」
侵入者捕獲のベルが鳴り、確認に出て行ったエースだが程なくして戻ってきた。
「5階で野良アリスがトラップに掛かってた。ソロだったし、本気で攻略に来たんじゃなくて宝探しのつもりだったんじゃないかな?」
「はぁ…で、その子はどうしたんです?」
「拘束して搾乳植物と一緒に拷問部屋に入れておいたよー♪とりあえず1ヶ月くらい乳搾りの刑かなー。これでしばらくは美味しいミルクが飲めるね♪」
「えぇ…」
あれから1週間経った。話を聞かされるうちにこの世界の事や彼女の立ち位置についても色々と分かってきた。チェシャ猫からはただ、仲間を得て女王に会うことが出来れば元の世界に帰れるとしか聞いていなかったのだ。
女王主催の催し。参加者は自分のように異界から引き込まれた者以外にも色々と居るらしい。
今、この城と周辺を取り囲む森は一つのダンジョンとしての役割を与えられているのだそうだ。そして彼女はそこのボスキャラクター。自分が彼女の使役権を得るまでの暫定的な措置とのことだ。
なお、『本筋には係わらない裏ボス的な立ち位置だけどねー。』とは彼女の弁。
とはいえ、挑戦者が現れないなんて事は無い。
「まぁ…スタート地点のすぐ傍にレベル制限付きのダンジョンがあれば、気になって後で戻ってこようと思うよねぇ。」
「タチの悪い罠ですね…」
「どうかなー?同格のハートエースか…ハート以外でもエースが同時に2人とか来たら流石に負けちゃうかもよ?戦力増強の為にさっきのアリスをパーティに入れる?あの森を突破できた訳だから実力はまぁまぁだと思うけど。使役コストは見たところ5,000位かな?」
「…逃がしてあげましょう。」
「んふ、そう?じゃあ1ヶ月後にね♪」
そして彼女の眼が淫らに笑う。
「さて、続きをしよっか♪気長にとは言ったけど流石に1週間でコスト50も稼げないのは問題だよねー♪」
エースはニヤニヤとこちらを見ながらその胸元のボタンをはずし始める。豊かな谷間が覗いた。
そう、彼女の『コスト稼ぎ』はとうとして進んでいなかった。その理由というのも…
「まずはなるべく長く意識を保てるように特訓しなきゃね。」
彼女と肌を重ねる度に毎度意識を刈り取られているからである。それも一日に複数回。
ちなみに今の自分の立場はといえばその『使役コスト』が支払えなかった為、当然のこと彼女の精奴隷である。故に、彼女からの要求があれば基本的に断ることは出来ない。
この状況を脱する為には早く未払いのコストに相当する精を彼女に提供しなければならないのだが、上記の理由によりまったく進展していなかった。
「契約維持コストの未達成分も毎日積み上がってくから、このままだと永遠にここから出られなくなっちゃうよ?まぁボクとしてはこのお城の中でずっとこうやって暮らしていくのも悪くないと思ってるんだけど…やっぱ外にも出たいでしょ?」
「ぅ、それは……」
進展していないどころか後退していた。
「…だからいっしょに頑張ろうね♪はい、ふぅー…」
「はう…」
エースはするりと身体を押し付けるように絡みつくと顔を寄せ、耳に息を吹きかけてくる。
ぞくりとした痺れが背筋を走り、ふにゃりと力が抜けてしまった。一拍遅れて、緩やかな快感を伴いながら精が漏れ出す。
「お耳も完全に性感帯になっちゃったねぇ♪お漏らし射精気持ちいーい?」
彼女が下半身に手を這わす。内腿から表面を触れるか触れないかのフェザータッチで上へ…漏れ出た精液はその手指に触れた先から吸収され乾く。が、程なくして次の吐精が始まった。
「我慢しないでいいからね?我慢させることも出来るけど…こうやってとろとろ漏らすように出したほうが楽に回数稼げる気がしない?」
わからない…。
…と言うか脱力を誘う彼女の指使いにいつの間にか口を動かすことすら出来なくなっていた。
だが、性技を極めた彼女がそう言うのならばきっとそうなのだろう。曰く、『クイーンまでのトランパートならば魔力も魔術も使わず性技のみで倒せる』のだそうだ。
彼女の手はそのまま股間周辺を擽るように撫でてくる。やがてその手がペニスを包み、やわやわと揉み込むような動作を始める至って、ようやく通常の脈打ちを伴う射精が始まった。
「いい感じにとろとろになってきたね♪もう身体動かせないでしょ。…そろそろ次行ってみよっか?」
(次…?)
「挟んでいい?」
彼女は股間から離した手をその豊満な胸に寄せ、片方を持ち上げる。ボタンを外された衣装の隙間から覗くシミ一つ無い純白の塊が、重そうにその形を歪める。
その光景につかの間の淫欲を感じるも、それはそれを上回る恐怖のフラッシュバックに一瞬でかき消された。
「あれ?最初の時のこと思い出しちゃった?大丈夫大丈夫、今は魔力も完全に切ってるし上手にやるからさー。それにキミも少しずつ訓練していった方がいいと思うんだよねー♪」
冗談ではない。最初、ここに連れてこられた初日に彼女のパイズリを受けた際、自分は死を覚悟した。…いや、実は実際に一度死んだのではないかとすら疑っている。なにしろ次に目覚めた時にはもう2日経っていたのだ。
「じゃあゲームしよっか。今からボクがキミに抱きついて密着するから、その状態で10秒射精を我慢できたらキミの勝ち♪訓練の必要なしって事にしてあげる。あ、もちろんお股には触れないよ?いい?ダメだったらダメって言ってね♪」
「ぅぁ……。」
明らかにこちらが先程までの行為で喋れなくなっているのを分かってやっている。
「はい、OKだね♪じゃ、スタート!ぎゅー…」
彼女が両腕を回し、その柔らかな身体を押し付けてくる。
あれ、なんだかデジャヴを感じる…
…。
あ、ダメなやつだこれ…
「数えるよー、じゅ…」
ぴゅ…
「ゑ…?」
「……。」
…気まずい沈黙が流れた。
呆然としていた彼女の顔がジト目に変わる。
「ねぇ…いくらなんでもこれは無いんじゃないかなー?せっかく残り1秒のところで射精させて『残念だったね〜』ってしようと思ってたのにー」
(えぇ…)
「これはもうおしおきも兼ねて挟むしか無いよね。」
天使のような笑顔。しかしその奥には確かな怒気を感じる。
何も言えないうちに流れるような動作で股の間に入り込まれると、あっと今に腰を引き寄せられ準備が完了してしまう。
そして…
「いただきます。」
彼女の双球がその谷間を開き、目の前の獲物を捕食した。
「ごがっ………!?」
力の抜けた筈の身体が勝手に仰け反り、肺の中の空気を吐き出す。やけにゆっくりと登って来る奇妙な快感…時間が引き延ばされてゆくような感覚に襲われる。強過ぎる性感の情報量に脳がエラーを起こしていた。
視界が明滅する中、必死に彼女の方を見ればちょうど胸でペニスを挟み込んだ体勢で静止していた。そして自分の体も、視界を含めて完全に動かなくなる。引き延ばされきった時間がついに止まったらしい。
静止した時間の中、確実に自分を壊すであろう快楽が無制限に膨らみ、脳を目指して緩慢に進んでくることだけを知覚する。首元に迫るギロチンの刃をただ仰向けに眺めている、そんな感覚…。
やがて純粋な快感に他の感覚が混じり始める。
乳肉の肌触り、魔性の感触、彼女の体温…下腹部で発生した快楽の塊が脳に届くまでの永遠とも思える時間の中、それらが交互に襲い来りそれぞれのポテンシャルを嫌と言うほど味わわせてくる。
そしていつの間にかすべては交じり合い、自我を飲み込む大波と化す。気付かぬうちに目の前まで迫っていたそれにひとたまりも無く溺れ、そこで意識が途絶えた。
………、
……。
「あー……うん、よし生きてる。」
胸に挟んだ瞬間爆発するように精液を噴出し、そのまま動かなくなったマスター(予定)の胸に耳を当て、エースは息をついた。
部屋中に張り巡らせた生命力強化術式、念の為寝台に仕込んでおいた緊急蘇生術式、万が一の時の時間遡行術式その他諸々…。魔力操作による世界改変を覚えてからめっきりと扱わなくなった術式魔術を久方ぶりに組み、アレコレと対策を講じてはいたが、どうやら2つ目以降は使わずに済んだようだ。
予定では胸で数回搾り取った後、あわよくば直接の交合まで試してみたいと考えていたのだが現実は甘くなかった。
「でもまぁ、上出来かな。」
結果はこの状況だが彼は確実に進歩している。体感時間を引き延ばし、一瞬とはいえ失神をこらえたのだ。これは賞賛に値することである。
そもそも彼女はこの『ゲーム』のクリアにさほど興味は無い。彼が元居た世界に戻りたいと言うならば協力はするが、絶対にこちらの世界のほうが楽しいし気持ちがいい筈なのだ。一旦一緒に彼の世界に行った後はすぐに連れ戻すつもりだった。或いは逆にそっちの世界を改変してしまおうか…それなら多少は面白いかもしれない。
他には達成の暁には女王が何かくれるらしいが、金も装備も新たな能力もこれ以上必要ないのだ。何より一番欲しかったものはもう手に入れてしまったのだから。
ただ、一緒に世界を冒険することには少し憧れている。そしてこの世界の様々な快楽を共に味わって欲しい。もちろんそれは彼女自身がこれまで磨き上げてきた肉体と性技、そして魔術も含めてである。
性の快楽を最上の幸福と定義する彼女にとって、それを満足に享受できないことは不幸以外の何者でもなかった。
「ボクが絶対にキミを幸せにするからね、ダーリン♪」
頬に軽い口づけ。夢の中にいる筈のマスター(予定)の体がその刺激に反応する。彼の見ている夢が淫夢に変わったのを確信し嬉しそうに目を細めると、彼女はそこに混ざるべく隣に身を横たえた。
―――――――――――――――――――――。
スタート地点からやや外れた場所に広がる漆黒の森。序盤の実力ではとても太刀打ちできない強力な淫獣や淫蟲、魔界植物がひしめき、中央には巨大な城がそびえ建つ。無数の罠が張り巡らされたその城を上り詰めた先には、強大な魔物が待ち構えるという。
推奨レベル100オーバー、『黒き森の淫宮』。
このダンジョンを踏破するものが果たして現れるのか否か、いずれにしろその結果が分かるのは遥か未来の話である。
「え、えらい目に遭ったにゃ……にゃふ…」
「えろい目に遭うのはむしろこれからな気がするのだけれど……淫獣の群れに取り囲まれてるの、気付いてる?」
「……。」
ついでにこの二人が森を脱出するのもまた、だいぶ先の話である。
自らを案内役と称していた猫耳を生やした美女が気まずそうにそう宣った。魔女の格好をした店主の方を向くも、何とも形容しがたい表情を浮かべ目を逸らされてしまう。
「どういうことなの……」
訳の分からぬこの展開。
しかしここは右も左も分からぬ異世界の店、二人に勧められて購入したパックから出てきた一枚のカードを手に、茫然と立ち尽くすしこなかった。
………、
…。
何の前触れもなく異世界に引き込まれ、右往左往していたところこの猫耳に出会ったのが半日前。チェシャ猫と名乗る彼女に案内されるがまま、この魔女の店に来たのだ。
案内の間、この世界の事や元の世界に帰る方法等についても話を聞いた。なんでもこの国の女王の下までたどり着けば元の場所、元の時間に帰して貰えるらしい。
が、しかし、大変に困難な道だというので、先ずは準備を整えるべくこの魔女の店に案内してもらったのだが…。
勧められるがままカードが入ったパックを購入し、それを開けると一人の女の子が描かれたトランプのようなカードが出てきた。
そして二人の表情が変わったのはこのときだった。慌てて二人何やら話し合ったのち、出てきた言葉がコレである。
いったい自分が何をしたというのだ…。
「まーこの際白状するとにゃ、あたしらはキミを騙してたにゃ…。」
「騙してたって……女王の所まで辿り着けば元の世界に帰れるって言ってたのは…」
「それはホントにゃ。ついでに言うと、一人でゴールまで行くのは難しいからここで準備を〜ってのも一応本当だにゃ。」
「じゃあ騙してたというのは…?」
「準備の内容よ。この店で魔物にまつわる商品を買って貰って、それを触媒に対応する娘と契約してもらうつもりだったのだけれど…」
猫耳に代わり店主の魔女が答えた。
「………。」
改めて手元に視線を落とす。
自分が彼女らに勧められて購入したのはカードの入ったパック。封入枚数、何とかセレクション等様々な種類がある中で、一枚しか入っていないかわりにレアなものが出やすいというシリーズを選んだ。
そしてそこから出てきたのは…
「まさか『それ』を引き当ててしまうとはにゃー…」
一枚のトランプカード。絵柄はハートのA。
真ん中には桃色の髪をした少女の絵が描かれている。
「……♪」
「うわ、動いた!?」
突然、描かれた少女がウインクを飛ばしてきた。
「そのカードに描かれた娘がキミと契約して、ナビゲーター兼パートナーとして冒険を助けてくれるという流れ…になる筈だったにゃ。」
「何か問題が……もしかしてこの子弱いの?」
「うんにゃ。めちゃくちゃ強いにゃよ?ぶっちゃけそいつだけで最後まで余裕で進めるにゃ。」
「だったら…」
「対価さえ支払えればね…。右下を見てみて?」
魔女の言葉にもう一度カードに視線を落とすと、右下に小さな文字で何か書いてあるのに気付いた。
「コスト……?」
見たことの無い文字だが何故か意味は分かる。そしてその横に並ぶ数字も…
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん…………130万!?こんなお金持ってないよ!!」
「その数字は金額じゃないわ。要求精量よ。」
「ゑ……」
ここに来るまでに 魔物と魔力と精の関係は話を聞いた。魔物がその力を振るうには魔力が必要であり、体内で魔力を生み出すにはその…人間の持つ精が必要なのだそうだ。
「ちなみに人によるけど概ね射精一回で1〜10ポイントね。」
「この子と契約するためにはこれだけの精力が必要だと…」
「いえ、契約自体はタダ。分かりづらいかもしれないけれど、その娘を使役する権利を得る為に必要な精といったところかしら。彼女たちの使役者〈マスター〉として認められる為の儀式というか…」
「加えて、契約しているだけでも毎日その下の数字分は要求されるにゃ。」
下の数字…よく見たら先程の130万の下にカッコ書きで更に小さく印字してある。一応桁は4つ程小さい、しかしそれが毎日…
「し、支払えなかったら…?」
「立場が逆転して精奴隷だにゃ。」
思わず白目を剥いた。
「他のエースならまだ何とかなったかもしれないのに、よりにもよってハートエースの魔術師タイプ。しかも淫魔術でエースの位をとった個体とはね。」
「運が無いにゃ。いや、逆にあり過ぎたのかにゃ?」
「あの…これ返品する訳には……」
恐る恐るそう言った途端、カードに描かれた少女が焦った表情で投げキスを何度も飛ばしてきた。カード表面にハート型のエフェクトが連続して散る。
更に彼女は胸元のボタンを幾つか開け、腕で胸を寄せ上げ谷間を見せつけてくる。魅惑のふくらみが柔らかそうにその形を変えた。
(お、大きい……。)
思わず視線が縫い付けられそうになるが慌てて目を逸らす。これに釣られて契約してしまえば本当に死んでしまいかねない。
「引き直しさせてあげたいのはヤマヤマなのだけれど私も命が惜しいのよね…」
「まぁ猫に喰われたと思って諦めるにゃ…」
死んでるじゃないか…
件のカードに目を落とせば、今も中の少女は必至に誘惑を続けていた。先程彼女のバストアピールに一瞬目を奪われたのがバレていたのか、両手で胸を揉みしだきながら誘ってくる。手の平に収まらないその豊かな双丘が婬猥に形を変え、再び視線を拘束しようと蠢く。
…その手に乗ってはならない。
慌てて目を逸らそうとして……だが今度は出来なかった。
意思と関係無く、カードから視線を外す事が出来ない。それどころか…
「え…身体が勝手に………!?」
それまで手ぶらだった右手まで意思を離れて動き出し、その指先をカードの裏面に当てた。
裏面に描かれていた魔法陣が桃色に輝き出す。
「……んなぁ!?こ、こいつカードの中から身体を操って強引に契約させる気だにゃ!!」
「ここで!?させないわ!緊急排除術式、起動!!」
店主の魔女が叫ぶと狭い店内の床に魔法陣が輝く。カウンターからこちら、売り場スペースの全てをカバーするそれはちょうど自分と猫耳を範囲内に収めていた。
猫耳が顔を青くする。
「にゃに!?ま、待つにゃ、あたしも今そっちに…!!」
「…ごめんなさい。貴女の事は忘れないわ。」
「この薄情者ォ―――ッ!!」
足下からの光が視界を覆い、次いで襲ってくる浮遊感…。
それらが治まった時にはもう、目の前は野原だった。
店内で魔女が発動した魔術によりここまで飛ばされたらしい。見渡せば遠くに先程の店が見える。
ピカ―ッ!
一拍遅れて操られていた右手が解放され、カード全体が輝き出した。同時に右手の人差し指――先程カードの裏をなぞった指に桃色の宝石をあしらった指輪が現れ嵌まる。反射的に思わず手を離してしまい、カードは地面に落ちた。
「あぁ…間に合わなかったにゃ……。」
チェシャ猫ががくりと膝をつき、次の瞬間、空気の質が変わった。
それまで特に気にすることもなかったそれが突然粘度を増し、ねっとりとまとわりついてきたのだ。まるで蜂蜜の海の中にいるかのような感覚に囚われる。
同時に立ち込める甘い匂いと味。
「あはぁ…やっと会えたね♪ダーリン♪」
地に落ちて尚光輝くカードから 一人の少女が現れる。
それはまさしくカードに描かれていた少女。喜悦に蕩けた表情を浮かべ両腕を拡げなから此方へ歩いてくる。粘体と化した空気の中を事も無げに平然と…。
彼女の身体から放たれる不可視の波動のようなものが全身を甘く擽り、彼女が近づく程にそれは強く、濃くなってゆく。
片や重い空気に体を捕らわれ動くことは出来ず、目の前の光景をどこか現実感を欠いたまま眺めるうちに、あっという間に距離を詰められてしまった。
「つーかまえた♪」
目前までやって来た彼女は腰と背中に腕を回し、包み込むように抱き締めてくる。
その瞬間、脳が絶頂した。
性感が高まってゆく過程を全てすっ飛ばして、突然性的絶頂感を叩き込まれたのだ。
一拍遅れて体が絶頂を迎え、失禁したかのような感覚と共に精液が漏れ出した。
「ぁっ……ぁっ…ぁ…………」
「…あ、ゴメン。一応魔力は抑えてたんだけど…」
彼女が腕を解き解放する。
支えを失い、弛緩した身体が変質した空気の中をゆっくりと沈んでゆく。
「ちょっとそこで休んでいてね☆ボクとキミを出会わせてくれた素敵な猫さんにお礼をしなきゃ♪」
「ギクゥッ!?」
気付けば、向こうでこっそりと地面を這い離れていこうとしていた猫耳がその声に背筋を震わせた。
「あ、あたしの事はお気遣いにゃく……二人でしっぽりと楽しむといいにゃ…」
「まぁ遠慮しない♪」
冷や汗を滝の如く垂れ流しながら後退る猫耳の許へ平然と近づいてゆく。この変質した空気も彼女には影響しないようだ。さらに彼女の歩いた足跡は紫色に変色している。
よく見れば何の変哲も無い草原の雑草だったものがその部分だけ毒々しい色をした肉厚の謎の植物へと変化しているのだ。
「面白いでしょ?ボクの魔力に侵されたモノはみんなああなるの♪」
不意に耳許で生まれた声。飛び上がって振り向くとそこにはもう一人居た。
同じ人物が。
「あはは♪そんなに驚かなくても、簡単な分身魔法だよ。」
何事でもないかのようにそう言ってのけるとするりと背後に回り、そのまま腕を回してくる。重量感のある柔らかな感触が背中で潰れた。
「大丈夫大丈夫。今度はさっきよりもーっと気をつけて魔力を抑えてるからさ。ほらほら、なんともないでしょ?」
なんともないなんてことはない。
服越しであろうと、彼女の肉体が触れた箇所からはまるで無数の濡れた舌で舐め回されているような、あるいは乾いた羽毛で擽り回されているような奇妙な刺激が絶えず送り込まれ、こちらの抵抗力をこれでもかと削ぎにかかっていた。
これが彼女の言う魔力によるものなのだとしたら極限まで抑えに抑えてもなおコレだということである。気を抜けばすぐにでも崩れ落ちそうになるところを、膝を震わせて必死に耐える。
「て、立ってるのも何だしとりあえず座ろっか?」
…が、そんなこちらの努力などどこ吹く風、優しく足払いをかけられると、背後から彼女に抱きすくめられるような形で草の上に座らされてしまった。
「ボクの魔力はそこに在るだけで世界を淫らな形に改変する。水は媚薬に、空気は淫気に、植物は淫草に動物は淫獣に…この特性に神性を認められてボクはエースのクラスを得た。エースになるには少なくとも何か一つ神域に至らなきゃいけないってルールがあってねー。」
ならばこの異様な空気も…
「うん、この空気もそう。スキル『ハニー×2フィールド』。ボクがそこ居るだけでボク以外全員のすばやさを下げる。実際は勝手に溢れてく魔力で空気をちょっと変質させただけなんだけどさ。」
「うひっ…!?」
背後から回された彼女の手が胸元を妖しく撫ぜた。先程から背中で感じているぞわぞわとした感覚、それが彼女の手が触れた箇所に残り、内部へと染み込んでゆく。
「そして身体に魔力を流せばそこは性感帯に…ってね♪ほらあっちも、面白いものが見れるよ。」
彼女の声に導かれ地を這うチェシャ猫の方を見ると、ちょうど分身したもう一人のエースが彼女の下半身に跨がりその動きを拘束した所だった。そしてエースの両の手が紫色の燐光を放ち始める。
「さぁ…おっぱいとお尻、好きな方を選んでねー♪」
「そ、それをどうする気にゃ…まさか…」
「はい、時間切れー♪」
「ぎに゛ゃ―――――――ッ!?」
チェシャ猫の返答を待たずしてエースの分身はその両手を目の前の双丘へと押し当てた。
「にょ゛ほお゛お゛お゛おお――!?お尻が――ッ!あ゛だしのお―し―り―がぁ―――!!」
「さっきはすごーく手加減してたけど本来はあんな感じ。もちろん全力じゃないし分身してるから威力は単純に2分の1だけどねー。」
目の前の光景は淫媚というよりは凄惨という表現がしっくり来るものだった。のたうつチェシャ猫の尾は逆立ち両手はがむしゃらに地を掻き毟る。顔は涙と涎と鼻水に塗れ、その表情は喜悦を通り越し狂気へと変わってゆく…。
「え・・えへっ・・・・・へ・・ぇ・・」
そして動かなくなった。
「はい完成♪キミには椅子に座るだけでアヘっちゃう素敵なお尻をプレゼント♪喜んでくれたかな?」
当然、返事は無い。ただの猫耳のようだ。
「あとは…♪」
続けて彼女は手で銃の形を作るとその指先を彼方へと向けた。
指先に桃色と黒が混じったような色の魔力が集まり、発射される。
その向かう先には…
「あ…」
先程の魔女の店があった。
その瞬間、店の窓が割れ箒に乗った魔女が飛び出す。どうやら何らかの魔術でこちらの様子を見ていたらしい。
「逃げても無駄ァ♪」
が、放たれた魔弾はエース(分身)の指の動きに合わせてホーミングし、命中。
空中でキラキラと飛沫を撒き散らしながら魔女はあっけなく墜落した。そして墜落地点を中心に黒い森が生まれ、広がってゆく…。
「あ…魔力を込めすぎたかな?ここもじきに触手の森に沈むね。ま、気持ちいいからいいよね♪あーそれともいっそ…」
背後のエースが何かを思案している。
「何を…?
「そうだ、ここに城を建てよう!」
「は!?」
突然そう言うや否や、彼女は立ち上がり足を一度踏み鳴らす。…と、そこを中心に緑の草原が一瞬で黒く染まった。そして触手状にうねる奇妙な植物が生えだし、成長してゆく。
それらは互いに絡み合い、癒合し、複雑な構造物へと換わっていった。
あっという間に外が見えなくなり辺りは暗闇に包まれた。
「ぎにゃ――ッ!!?」
あ、どうやら外で猫耳が触手に呑まれたようだ。
「それじゃあ、お城が完成するまでちょっと休んでてね☆これからキミにはすんごく頑張ってもらわないといけない訳だし♪」
「ゑ?」
「ボクの使役コスト…見たでしょ?ボクは一応魔術師タイプに分類されてるんだけど、魔力をそのまま使うから燃費がちょっと悪いんだよね。おかげで杖も魔本も必要ない訳だけどその分コストも高めに設定されてて…ゴメンね☆」
「あ………ん゛む!?」
そうだった。と、そもそもの話を思い出すと同時に唇が彼女のそれで塞がれた。
接触面を通して電撃のような快感が流され、一瞬で思考を持っていかれる。その威力にひとたまりも無く、股間で暖かいものが漏れ出す感触を感じながら意識を手放すことになった。
………、
……、
…。
奇妙な部屋で目を覚ました。
壁や床、天井は有機的に脈打つ肉で構成され、窓は無い。そして扉と思しき構造が一つ。
窓が無いので外の光は入ってこないが、天井付近から生えた枝がカンテラ状に変形し、内部の明かりが部屋を薄暗く照らしていた。
そしてそんな部屋の中央に置かれた異物…白い天蓋つきの寝台。自分はそこに寝かされていたのだ。
しかも裸である。
「ここは…」
生物の体内を思わせる気味の悪い見た目に反し、室内は甘く爽やかな香りで満たされている。
良く見れば壁に開いている小さな孔が呼吸をするように開閉し、桃色のガスを噴出していた。また、天井や壁からぶら下がる白色の肉塊がその先端から白い液体を垂れ流している。その乳液は床に空いた窪みに溜まると揮発し、これまた白いガスとなって部屋に拡散してゆく。あれらが混ざり合ってこの匂いを作り出しているようだ。
「とりあえず外に…」
「ベッドから出ないほうがいいと思うよ♪」
寝台の周囲を覆う白い薄布に手を掛けたところで部屋の扉(?)が開きニコニコ顔のエースが入ってきた。
「あ…」
彼女はそのまま寝台へ上がってくると隣に腰掛けた。
「出ないほうがって…というよりここは…?」
「ここはさっき建てたボクのお城の最上階。今ちょうど内装の整備が終わったんだ。まだ手を加えたいところは色々あるけどとりあえずは完成かな♪ここから出ないほうがいいっていうのは……いや、試しに足の先だけカーテンの外に出してみてよ。すぐに分かるから♪」
「…?」
なんだか嫌な予感がするが、おそるおそる彼女の言うとおりにしてみる。
天蓋から垂れ下がる薄布の合わせ目へと足を伸ばし、その先を外へ出した。
ほんの少し、親指の先だけ…
「う゛あっ…!?」
そしてその瞬間、指先に感じた刺激に仰け反ることとなった。
ぬるりと舐められるような感触と共に肌の粟立つような快感が拡がる。慌てて足を引くももう遅く、数秒後には勝手に射精が始まってしまった。
「な、なにこれ…」
「あはは、イッちゃった♪このお城の中には淫気が充満しててね…あ、あの桃色と白のガスね。その中でもこの部屋のある最上階は一番淫気が濃いの。で、このベッドはそれの侵入を防ぐ結界という訳。」
つまり…
「キミはもうこのベッドの上から逃げられない♪さぁ、始めよっか♪とりあえず1回分だけでもボクの使役権を手に入れてもらわないと冒険が始まらないしね☆大丈夫、キミの不老化処置は済ませてあるからたとえ何百年、何千年かかってもボクは付き合うよ。気長にやっていこうじゃないか♪」
そう言って満面の笑顔でにじり寄ってくる彼女。
「は、はは…はい、よろしくおねがいします…」
もはや観念するしかなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・
「ただいま―♪帰ったよー。」
「お疲れ様です。どうでした?」
侵入者捕獲のベルが鳴り、確認に出て行ったエースだが程なくして戻ってきた。
「5階で野良アリスがトラップに掛かってた。ソロだったし、本気で攻略に来たんじゃなくて宝探しのつもりだったんじゃないかな?」
「はぁ…で、その子はどうしたんです?」
「拘束して搾乳植物と一緒に拷問部屋に入れておいたよー♪とりあえず1ヶ月くらい乳搾りの刑かなー。これでしばらくは美味しいミルクが飲めるね♪」
「えぇ…」
あれから1週間経った。話を聞かされるうちにこの世界の事や彼女の立ち位置についても色々と分かってきた。チェシャ猫からはただ、仲間を得て女王に会うことが出来れば元の世界に帰れるとしか聞いていなかったのだ。
女王主催の催し。参加者は自分のように異界から引き込まれた者以外にも色々と居るらしい。
今、この城と周辺を取り囲む森は一つのダンジョンとしての役割を与えられているのだそうだ。そして彼女はそこのボスキャラクター。自分が彼女の使役権を得るまでの暫定的な措置とのことだ。
なお、『本筋には係わらない裏ボス的な立ち位置だけどねー。』とは彼女の弁。
とはいえ、挑戦者が現れないなんて事は無い。
「まぁ…スタート地点のすぐ傍にレベル制限付きのダンジョンがあれば、気になって後で戻ってこようと思うよねぇ。」
「タチの悪い罠ですね…」
「どうかなー?同格のハートエースか…ハート以外でもエースが同時に2人とか来たら流石に負けちゃうかもよ?戦力増強の為にさっきのアリスをパーティに入れる?あの森を突破できた訳だから実力はまぁまぁだと思うけど。使役コストは見たところ5,000位かな?」
「…逃がしてあげましょう。」
「んふ、そう?じゃあ1ヶ月後にね♪」
そして彼女の眼が淫らに笑う。
「さて、続きをしよっか♪気長にとは言ったけど流石に1週間でコスト50も稼げないのは問題だよねー♪」
エースはニヤニヤとこちらを見ながらその胸元のボタンをはずし始める。豊かな谷間が覗いた。
そう、彼女の『コスト稼ぎ』はとうとして進んでいなかった。その理由というのも…
「まずはなるべく長く意識を保てるように特訓しなきゃね。」
彼女と肌を重ねる度に毎度意識を刈り取られているからである。それも一日に複数回。
ちなみに今の自分の立場はといえばその『使役コスト』が支払えなかった為、当然のこと彼女の精奴隷である。故に、彼女からの要求があれば基本的に断ることは出来ない。
この状況を脱する為には早く未払いのコストに相当する精を彼女に提供しなければならないのだが、上記の理由によりまったく進展していなかった。
「契約維持コストの未達成分も毎日積み上がってくから、このままだと永遠にここから出られなくなっちゃうよ?まぁボクとしてはこのお城の中でずっとこうやって暮らしていくのも悪くないと思ってるんだけど…やっぱ外にも出たいでしょ?」
「ぅ、それは……」
進展していないどころか後退していた。
「…だからいっしょに頑張ろうね♪はい、ふぅー…」
「はう…」
エースはするりと身体を押し付けるように絡みつくと顔を寄せ、耳に息を吹きかけてくる。
ぞくりとした痺れが背筋を走り、ふにゃりと力が抜けてしまった。一拍遅れて、緩やかな快感を伴いながら精が漏れ出す。
「お耳も完全に性感帯になっちゃったねぇ♪お漏らし射精気持ちいーい?」
彼女が下半身に手を這わす。内腿から表面を触れるか触れないかのフェザータッチで上へ…漏れ出た精液はその手指に触れた先から吸収され乾く。が、程なくして次の吐精が始まった。
「我慢しないでいいからね?我慢させることも出来るけど…こうやってとろとろ漏らすように出したほうが楽に回数稼げる気がしない?」
わからない…。
…と言うか脱力を誘う彼女の指使いにいつの間にか口を動かすことすら出来なくなっていた。
だが、性技を極めた彼女がそう言うのならばきっとそうなのだろう。曰く、『クイーンまでのトランパートならば魔力も魔術も使わず性技のみで倒せる』のだそうだ。
彼女の手はそのまま股間周辺を擽るように撫でてくる。やがてその手がペニスを包み、やわやわと揉み込むような動作を始める至って、ようやく通常の脈打ちを伴う射精が始まった。
「いい感じにとろとろになってきたね♪もう身体動かせないでしょ。…そろそろ次行ってみよっか?」
(次…?)
「挟んでいい?」
彼女は股間から離した手をその豊満な胸に寄せ、片方を持ち上げる。ボタンを外された衣装の隙間から覗くシミ一つ無い純白の塊が、重そうにその形を歪める。
その光景につかの間の淫欲を感じるも、それはそれを上回る恐怖のフラッシュバックに一瞬でかき消された。
「あれ?最初の時のこと思い出しちゃった?大丈夫大丈夫、今は魔力も完全に切ってるし上手にやるからさー。それにキミも少しずつ訓練していった方がいいと思うんだよねー♪」
冗談ではない。最初、ここに連れてこられた初日に彼女のパイズリを受けた際、自分は死を覚悟した。…いや、実は実際に一度死んだのではないかとすら疑っている。なにしろ次に目覚めた時にはもう2日経っていたのだ。
「じゃあゲームしよっか。今からボクがキミに抱きついて密着するから、その状態で10秒射精を我慢できたらキミの勝ち♪訓練の必要なしって事にしてあげる。あ、もちろんお股には触れないよ?いい?ダメだったらダメって言ってね♪」
「ぅぁ……。」
明らかにこちらが先程までの行為で喋れなくなっているのを分かってやっている。
「はい、OKだね♪じゃ、スタート!ぎゅー…」
彼女が両腕を回し、その柔らかな身体を押し付けてくる。
あれ、なんだかデジャヴを感じる…
…。
あ、ダメなやつだこれ…
「数えるよー、じゅ…」
ぴゅ…
「ゑ…?」
「……。」
…気まずい沈黙が流れた。
呆然としていた彼女の顔がジト目に変わる。
「ねぇ…いくらなんでもこれは無いんじゃないかなー?せっかく残り1秒のところで射精させて『残念だったね〜』ってしようと思ってたのにー」
(えぇ…)
「これはもうおしおきも兼ねて挟むしか無いよね。」
天使のような笑顔。しかしその奥には確かな怒気を感じる。
何も言えないうちに流れるような動作で股の間に入り込まれると、あっと今に腰を引き寄せられ準備が完了してしまう。
そして…
「いただきます。」
彼女の双球がその谷間を開き、目の前の獲物を捕食した。
「ごがっ………!?」
力の抜けた筈の身体が勝手に仰け反り、肺の中の空気を吐き出す。やけにゆっくりと登って来る奇妙な快感…時間が引き延ばされてゆくような感覚に襲われる。強過ぎる性感の情報量に脳がエラーを起こしていた。
視界が明滅する中、必死に彼女の方を見ればちょうど胸でペニスを挟み込んだ体勢で静止していた。そして自分の体も、視界を含めて完全に動かなくなる。引き延ばされきった時間がついに止まったらしい。
静止した時間の中、確実に自分を壊すであろう快楽が無制限に膨らみ、脳を目指して緩慢に進んでくることだけを知覚する。首元に迫るギロチンの刃をただ仰向けに眺めている、そんな感覚…。
やがて純粋な快感に他の感覚が混じり始める。
乳肉の肌触り、魔性の感触、彼女の体温…下腹部で発生した快楽の塊が脳に届くまでの永遠とも思える時間の中、それらが交互に襲い来りそれぞれのポテンシャルを嫌と言うほど味わわせてくる。
そしていつの間にかすべては交じり合い、自我を飲み込む大波と化す。気付かぬうちに目の前まで迫っていたそれにひとたまりも無く溺れ、そこで意識が途絶えた。
………、
……。
「あー……うん、よし生きてる。」
胸に挟んだ瞬間爆発するように精液を噴出し、そのまま動かなくなったマスター(予定)の胸に耳を当て、エースは息をついた。
部屋中に張り巡らせた生命力強化術式、念の為寝台に仕込んでおいた緊急蘇生術式、万が一の時の時間遡行術式その他諸々…。魔力操作による世界改変を覚えてからめっきりと扱わなくなった術式魔術を久方ぶりに組み、アレコレと対策を講じてはいたが、どうやら2つ目以降は使わずに済んだようだ。
予定では胸で数回搾り取った後、あわよくば直接の交合まで試してみたいと考えていたのだが現実は甘くなかった。
「でもまぁ、上出来かな。」
結果はこの状況だが彼は確実に進歩している。体感時間を引き延ばし、一瞬とはいえ失神をこらえたのだ。これは賞賛に値することである。
そもそも彼女はこの『ゲーム』のクリアにさほど興味は無い。彼が元居た世界に戻りたいと言うならば協力はするが、絶対にこちらの世界のほうが楽しいし気持ちがいい筈なのだ。一旦一緒に彼の世界に行った後はすぐに連れ戻すつもりだった。或いは逆にそっちの世界を改変してしまおうか…それなら多少は面白いかもしれない。
他には達成の暁には女王が何かくれるらしいが、金も装備も新たな能力もこれ以上必要ないのだ。何より一番欲しかったものはもう手に入れてしまったのだから。
ただ、一緒に世界を冒険することには少し憧れている。そしてこの世界の様々な快楽を共に味わって欲しい。もちろんそれは彼女自身がこれまで磨き上げてきた肉体と性技、そして魔術も含めてである。
性の快楽を最上の幸福と定義する彼女にとって、それを満足に享受できないことは不幸以外の何者でもなかった。
「ボクが絶対にキミを幸せにするからね、ダーリン♪」
頬に軽い口づけ。夢の中にいる筈のマスター(予定)の体がその刺激に反応する。彼の見ている夢が淫夢に変わったのを確信し嬉しそうに目を細めると、彼女はそこに混ざるべく隣に身を横たえた。
―――――――――――――――――――――。
スタート地点からやや外れた場所に広がる漆黒の森。序盤の実力ではとても太刀打ちできない強力な淫獣や淫蟲、魔界植物がひしめき、中央には巨大な城がそびえ建つ。無数の罠が張り巡らされたその城を上り詰めた先には、強大な魔物が待ち構えるという。
推奨レベル100オーバー、『黒き森の淫宮』。
このダンジョンを踏破するものが果たして現れるのか否か、いずれにしろその結果が分かるのは遥か未来の話である。
「え、えらい目に遭ったにゃ……にゃふ…」
「えろい目に遭うのはむしろこれからな気がするのだけれど……淫獣の群れに取り囲まれてるの、気付いてる?」
「……。」
ついでにこの二人が森を脱出するのもまた、だいぶ先の話である。
19/08/18 02:28更新 / ラッペル