ドールズ・システム
「其処の君、人形<ドール>に興味は無いかね?」
「…はい?」
道を歩いていたところ、すれ違った男に突然呼び止められた。
古びたコートに古びた帽子、その色は共に黒く。更にその影から鋭い眼光と髭面覗く……。
正直なところ、とてつもなく胡散くさい。関わってはいけない雰囲気が満ち満ちていた。
「人形<ドール>はいいぞ。」
「あの…ちょっとこれから用事があるので私はこれで……」
「待てや!」
「何だこのおっさん!?」
がしりと肩を掴まれる。無駄に力が強い。
「いや暇だろう。私の工房がすぐそこにあるのだ。まぁ見るだけでもしていきたまえ。」
実のところ用事など無い。今日は非番だ。この場から離れる為の方便だったが何故か見破られたようだ。
本当になんなんだこのオジサンは…。
………。
そして連れられ歩くこと数分。古びた木造の店に案内された。
案内されるがまま扉をくぐると…
「お帰りなさいませマスター。…あら、お客様ですか?ようこそいらっしゃいました♪」
小柄な少女に出迎えられた。背丈は腰程までしかないが人形のように整った顔立ちに金色の髪と青い瞳、白を基調としたドレスから伸びる足には球体間接……
…。
「…人形だコレ!」
「はい♪リビングドールのエリーゼと申します♪」
あっさりと魔物であることを認めた生ける人形の少女は優雅な動作でお辞儀をしてみせた。
魔物がこの世界へと襲来してもう10年余り経つ。
結果、魔物に完全支配された地域や、いまだ彼女らを排斥し続けている地域、そして彼女らとの共存を選んだ地域等々…場所によってその顛末は分かれたが、この町はおおむね良好な関係を築けているように思う。だが、そんな地域に住んでいながらリビングドールを見るのは初めてだった。
どうやらこの怪しい男の言うドールというのはこういうことだったらしい。店内には彼女のような人形がそこかしこに立ち並び、様々な部品が収まった棚が陳列されていた。
「どうだ。すばらしいだろう!家事に、商売のお供に、護身用に!主人を愛し主人に尽くす、まさに生涯のパートナー!更に、パーツを換装する事で見た目も機能も思うがままだ!さぁ君も君だけの人形<ドール>を創り上げようではないか!………さて、さっそく作ってみようか。」
「ゑ…見るだけって話じゃ……」
「大丈夫ですわ。わたくし達がしっかりサポートいたしますので♪」
二人の圧に圧され、強引にドールの作製工程へと誘導されてしまう。
「ドールの取り扱いは初めてだな?…なに、私の言うとおりにやれば簡単だ。まずは素体を選ぶ。基本は木製だが、魔界より取り寄せた魔界の森の木材を使用しているので耐久性、魔力伝導性は抜群!戦闘用等で特に能力を高めたければ搾精植物や流体金属を素材としたものもある。更にこだわるなら素体から自分で組み上げる事も可能だが、どうするね?」
「普通でいいです…。」
「そうか。まぁ1体目だし無難なものにしておくのもいいだろう。ではそこ枠内から好きな体格のものを選びたまえ。」
指示された場所には大小さまざまな木製の人形が積み上げられていた。膝上程度しかないものから自分の身長を越えるようなものまで…ざっと全体を見わたし、その中からエリーゼと名乗ったドールと同じくらいのものを選んだ。
「決まったな。ならば次は眼球だ。基本モデルでは単なる光学センサーだが、目的によって色々と追加機能を持たせることも出来る。温度、ガス、放射線等々…何を視覚的に観測させたいかによるが…あぁ、勿論ビームも出るぞ。」
「いや、普通ので……」
「…ならばそこの一番左の瓶から二つ選んで取り付けるのだ。特に同じものを選ぶ必要は無いぞ。」
やりたければオッドアイのようにすることも可能だということだろうか…。だが特にそういった趣味も無いので、直感的に綺麗だと感じたもの…明るいブルーに輝くそれをとった。吸収した室内光が内部で乱反射する様はまるで宝石のような美しさだ。
素体の顔に設けられた二つの窪みにそれらを嵌め込む。ガチリと鈍い音が響き、瞳が固定された。
「よし。では次は胸部パーツを取り付ける。大中小とあるがこれは好みで決めてもいい。体格との均衡を重視するも良し、敢えてアンバランスな美を追求するも良しだ。ただ大魔術を連射させたい場合には第二魔力炉を搭載したモデルが…」
「あの、普通の……」
「ならばその箱の中だ。」
示された大きめの木箱の中は3つに区切られ、それぞれ大中小のサイズの人工乳房が詰まっていた。…のだが小は薄いはんぺんのようなサイズ、逆に大は大玉スイカの如き大きさとあまりにも極端すぎる。
結局、中の枠の中からグレープフルーツ大のものを選んだ。だがこれでも素体のサイズを考えればかなり大きい方だ。
エリーゼの指示のもと、素体の胸部に設けられた窪みに裏面を合わせると吸い込まれるように貼り付いて外れなくなった。
「ふむ。では最後に髪と衣装を取り付けるぞ。そこの棚から好きなものを選びたまえ。基本性能として自動修復機能が全てに搭載されているが+αで魔術反射、衝撃無効、機動性強化、消費魔力軽減等の効果を……」
「だから普通でいいんですってば!」
「………。」
先程から人形を使っていったい何をさせる気なのか。
「まぁ色々と…な?」
「………。」
詳しく聞くと面倒なことになりそうなのでここでやめておく。
どちらにしろ今日はドール作製を体験しに来ているだけだ。本当は見るだけのつもりだったのだがどうしてこうなった。
「ではこれで…」
迷った末、髪は腰ほどまである白金に輝くストレート。衣装は白地に青の刺繍が入ったドレスを選んだ。エリーゼに教わりながら取り付け、着せてゆく…。
「…よし、完成だ。」
男が手を叩き、それに合わせて改めて全身を眺めてみる。
直感でパーツを選択して取り付けていっただけだったのだが、やはり素材がいいからなのか目を見張るほど美しく仕上がった。まるで童話に出てくるお姫様のような出で立ちである。
まずい、少し欲しくなってきてしまった…。
「では、最後に仕上げとしてこれを…」
男が腰から何やら桃色に光る宝石のようなものを取り出した。
「魔力結晶だ。本来、リビングドールとはある程度の期間にわたって強い情念が注がれた人形が魔力に晒されることで変異するケースが多いのだが…主人となる者が自ら組み上げるという工程を以ってその念に代え、更に魔力親和性の高い素材を使用した上で高純度の魔力を直接撃ち込む事により簡易に魔物化を引き起こす方法を私たちは考案した。」
「んん゛?」
その言葉の意味を理解するより早く、男は宝石を出来上がった人形の額に押し付ける。
宝石がひとたび光を放ち、人形に吸い込まれるようにして消滅した。
「……。」
一拍遅れて人形がひとりでに瞬きをし、微笑んだ。
彼女は滑らかな動作でこちらに歩み寄ると目の前で立ち止まり、優雅にお辞儀をしてみせる。
「御創造いただきましてありがとうございます、ご主人様♪これから末永く、よろしくお願いいたしますね♪」
「うむ、上手くいったようだな。」
「なっ…………!」
男は満足げに頷き、生まれたばかりの人形の少女は全身を見せるようにくるりと回った。
そしてそのまま、笑顔で隣に身体を寄せてくる。
「…さて、その子だがしめて14万5150円(税込)だ。この際買っていかんかね?」
「えぇ…………」
突然始まる売り込み。なるほど、こういう魂胆だったか…。
1か月の手取り給与のほとんどを占める額だ。そんな簡単に決めていいものではない。
唖然としたままそこで固まっていると…
「そ…そんな、ご主人様!わたくしを連れて行ってはくださらないのですか!?わたくしなんでもいたしますわ!お料理も!お掃除も!もちろん夜の御奉仕も喜んで!!ご主人様の為でしたら戦場にも出ましょう!ですからどうか…!どうか………っ!!」
一転、絶望に染まった表情で腕に縋り付いてくるドール。
………。
おい。
これは卑怯だろう…。
こちらを見上げる、碧く輝く両の瞳に涙が滲んできた。…そんな機能があるとは聞いてなかったぞ!
……。
…うん、貯金を考えれば決して出せない額ではないかな?
ドールの表情にほだされたせいかは定かでないが、気持ちが購入に傾きかけてきたそのとき、
「…ふむ。持ち合わせが無いというのであれば、魔力払いというのはどうかね?」
男がある提案をしてきた。
「魔力払い?」
「そうだ。リビングドールも一般的な魔物と同じように、人間から精を吸収して体内で魔力を精製し力とする。その精製した魔力の一部を代金代わりに私が頂くという契約だ。代金分の魔力を払い終えるまではドールの最大出力がやや落ちるというデメリットはあるが…通常の使用の範囲内であればまぁ問題あるまい。ただし、ドールを2体以上購入することが条件なのだが…。」
「そ、それがいいと思いますわ!妹ともども、精一杯御奉仕いたしますわ!!」
その話を聞いて、それまで涙を浮かべて自身の購入を請うていたドールも必死に勧めてくる。
魔術や魔法といった分野には詳しくない。しかし、なんだかもうそれでいいような気がしてきた。
「じゃあそれで…。」
「ありがとう!ではさっそく専用の回路を取り付ける。その間エリーゼと一緒に2体目を組み上げていてくれたまえ。」
やがて2体目が組みあがり、その子にも魔力払い用の回路取り付けが終わる。
色々あったが結果だけ見れば、既に日は傾き薄暗くなった中を2体の動く人形を連れ帰路につく事となったのだ。
それを見送る男と人形の、その笑顔に混じった色に気付かないまま……。
真冬の空にかすかに粉雪が舞った。
―――そしてその夜―――――・・
「さぁ、ご主人様♪このままもう一回ですよぉ♪」
「す、ストップ!もう…うぶっ!?」
静止を求める声はのしかかる柔らかな感触に押し潰された。
そしてその『もう一回』が始まる。
食事と入浴を済ませた後、寝室に今日購入した2体のドールがやってきた。
彼女らの目的は精の補給…。魔物がそういう存在だということは知識としてはあったし、彼女らがもたらす快楽にまつわる噂は色々と聞いていたので期待と共に受け入れたのだったが…
…正直侮っていた。
1体目のドール―リリィと名づけた―にペニスを咥えられたその瞬間、心が屈服してしまった。口内に備えられた舌状の器官が動作を開始すると同時に腰砕けとなり、結果抵抗も出来ないまま1分と経たずに一度目の射精を導かれることになったのだ。
そして当然それだけで終わるはずも無く、次いで流れるような動作で中サイズの胸部パーツに包み込まれると程なくして漏らすように2度目の吐精。取り付けた際はただ柔らかいだけだったその部品が、今では魔性の肌触りと感触と温かさを備えた搾精器へと変貌していた。
吐き出した精液は出した傍から彼女の身体に染み込む様に消えてゆき、そして今、3回目の精をねだりその柔組織が挟み込んだ肉棒を咀嚼している。
まもなくして、その谷間からあっけなく白旗が上がった。
「はい、三回目♪どうですか?気持ちいいですか?精を吸えば吸うほど、もっとご主人様を気持ちよくできるようになりますから…いっぱい出してくださいね♪」
「姉様、私の分…」
「分かってますよー、ではあと一回ここで搾ってから、一度交代しましょうか♪」
「うん。」
顔面の質量がどけられ視界が開ける。顔に座っていたのは2体目―ちなみにこちらはメリィと名づけた―である。エリーゼに勧められるがまま臀部増量パーツを付けてしまったのだが、こんな形でその威力を味わうことになるとは思っていなかった。
そうしている間に腰の上に跨ったリリィが股間に空いた穴で肉茎を飲み込んだ。
「ふぉっ…!?」
思わず間抜けな声が漏れる。
そしてこちらを見下ろす少女の目が淫蕩に笑った瞬間…
「おっ…おっ……おぉっ!?」
ひとりでに腰が跳ねた。
内部に設置された無数の触手状、いぼ状、繊毛状の搾性器官が一斉に絡みつき、嘗め回し、擽り犯してくる。更に全体が柔らかく揉みしだくような動作を始めるに至って、ひとたまりもなく4度目の精を搾り取られる。
「はい、お疲れ様でした♪ではメリィ、4回搾ったらまた交代ですよ。その間は私が上半身を責めますから……うふふ、今夜はぐっすり眠れそうですねご主人様♪」
2体のドールが位置を交代し、そしてすぐさま搾精が再開される。
このループは主人が失神するように眠りにつくまで続き、そしてこれから毎晩繰り返される事になるのだ。
―――所変わってかの男の工房では―――・・
『チーン…!』
工房の最奥、隠し扉で区切られた部屋にベルの音が響く。
するとそこに据えられた巨大な装置からジャラジャラと色とりどりの宝石が排出されてきた。
「くはははは!笑いが止まらんなぁ!!待っているだけで次々と魔力結晶が出来上がるぞ!」
「今日も上手くいきましたねマスター♪」
「ほぼ素組みだったがな…。もっと高性能なパーツを使って貰った方がより長く魔力を戴けるのだが…まぁいい。数を売ればいいことだ。」
装置の前で笑い声を上げるのは昼間ドールを売りつけた男とその従者である生き人形。彼らは次々と排出されてくる宝石を満足げに眺めながら、ただその輝きに酔いしれる。
「我ながら上手い方法を考えたものだ。あの魔力徴収回路さえ付けてしまえばあとは精補給の都度勝手に魔力が転送されてくるのだからな。まぁ、副作用として『少々』ドールの性格が淫乱になってしまうかもしれんが…私の知ったことではない!わはははははは!!」
「まぁ、悪い人♪アハハハハハハ!!」
二人は自らの作り出したこのシステムをそう自賛する。事実、これを作り上げて以降の短期間で彼らの力は飛躍的に向上していた。
更にこの工房を訪れた者には条件によって自動的に認識阻害の魔術か掛かるようになっている。具体的にはドールを返品しようとして工房を探したとしても決して見つからないようになっているのだ。故に彼らの行為が世間にバレる心配は無い。もっともそのようなこと、一度主人を定めたドールが許す筈も無いのだが…。
なんにせよ、この街では今後も人形遣いが人知れず増え続けるのだろう。
真夜中の工房に、二人の高笑いがいつまでも響き渡っていた。
「…はい?」
道を歩いていたところ、すれ違った男に突然呼び止められた。
古びたコートに古びた帽子、その色は共に黒く。更にその影から鋭い眼光と髭面覗く……。
正直なところ、とてつもなく胡散くさい。関わってはいけない雰囲気が満ち満ちていた。
「人形<ドール>はいいぞ。」
「あの…ちょっとこれから用事があるので私はこれで……」
「待てや!」
「何だこのおっさん!?」
がしりと肩を掴まれる。無駄に力が強い。
「いや暇だろう。私の工房がすぐそこにあるのだ。まぁ見るだけでもしていきたまえ。」
実のところ用事など無い。今日は非番だ。この場から離れる為の方便だったが何故か見破られたようだ。
本当になんなんだこのオジサンは…。
………。
そして連れられ歩くこと数分。古びた木造の店に案内された。
案内されるがまま扉をくぐると…
「お帰りなさいませマスター。…あら、お客様ですか?ようこそいらっしゃいました♪」
小柄な少女に出迎えられた。背丈は腰程までしかないが人形のように整った顔立ちに金色の髪と青い瞳、白を基調としたドレスから伸びる足には球体間接……
…。
「…人形だコレ!」
「はい♪リビングドールのエリーゼと申します♪」
あっさりと魔物であることを認めた生ける人形の少女は優雅な動作でお辞儀をしてみせた。
魔物がこの世界へと襲来してもう10年余り経つ。
結果、魔物に完全支配された地域や、いまだ彼女らを排斥し続けている地域、そして彼女らとの共存を選んだ地域等々…場所によってその顛末は分かれたが、この町はおおむね良好な関係を築けているように思う。だが、そんな地域に住んでいながらリビングドールを見るのは初めてだった。
どうやらこの怪しい男の言うドールというのはこういうことだったらしい。店内には彼女のような人形がそこかしこに立ち並び、様々な部品が収まった棚が陳列されていた。
「どうだ。すばらしいだろう!家事に、商売のお供に、護身用に!主人を愛し主人に尽くす、まさに生涯のパートナー!更に、パーツを換装する事で見た目も機能も思うがままだ!さぁ君も君だけの人形<ドール>を創り上げようではないか!………さて、さっそく作ってみようか。」
「ゑ…見るだけって話じゃ……」
「大丈夫ですわ。わたくし達がしっかりサポートいたしますので♪」
二人の圧に圧され、強引にドールの作製工程へと誘導されてしまう。
「ドールの取り扱いは初めてだな?…なに、私の言うとおりにやれば簡単だ。まずは素体を選ぶ。基本は木製だが、魔界より取り寄せた魔界の森の木材を使用しているので耐久性、魔力伝導性は抜群!戦闘用等で特に能力を高めたければ搾精植物や流体金属を素材としたものもある。更にこだわるなら素体から自分で組み上げる事も可能だが、どうするね?」
「普通でいいです…。」
「そうか。まぁ1体目だし無難なものにしておくのもいいだろう。ではそこ枠内から好きな体格のものを選びたまえ。」
指示された場所には大小さまざまな木製の人形が積み上げられていた。膝上程度しかないものから自分の身長を越えるようなものまで…ざっと全体を見わたし、その中からエリーゼと名乗ったドールと同じくらいのものを選んだ。
「決まったな。ならば次は眼球だ。基本モデルでは単なる光学センサーだが、目的によって色々と追加機能を持たせることも出来る。温度、ガス、放射線等々…何を視覚的に観測させたいかによるが…あぁ、勿論ビームも出るぞ。」
「いや、普通ので……」
「…ならばそこの一番左の瓶から二つ選んで取り付けるのだ。特に同じものを選ぶ必要は無いぞ。」
やりたければオッドアイのようにすることも可能だということだろうか…。だが特にそういった趣味も無いので、直感的に綺麗だと感じたもの…明るいブルーに輝くそれをとった。吸収した室内光が内部で乱反射する様はまるで宝石のような美しさだ。
素体の顔に設けられた二つの窪みにそれらを嵌め込む。ガチリと鈍い音が響き、瞳が固定された。
「よし。では次は胸部パーツを取り付ける。大中小とあるがこれは好みで決めてもいい。体格との均衡を重視するも良し、敢えてアンバランスな美を追求するも良しだ。ただ大魔術を連射させたい場合には第二魔力炉を搭載したモデルが…」
「あの、普通の……」
「ならばその箱の中だ。」
示された大きめの木箱の中は3つに区切られ、それぞれ大中小のサイズの人工乳房が詰まっていた。…のだが小は薄いはんぺんのようなサイズ、逆に大は大玉スイカの如き大きさとあまりにも極端すぎる。
結局、中の枠の中からグレープフルーツ大のものを選んだ。だがこれでも素体のサイズを考えればかなり大きい方だ。
エリーゼの指示のもと、素体の胸部に設けられた窪みに裏面を合わせると吸い込まれるように貼り付いて外れなくなった。
「ふむ。では最後に髪と衣装を取り付けるぞ。そこの棚から好きなものを選びたまえ。基本性能として自動修復機能が全てに搭載されているが+αで魔術反射、衝撃無効、機動性強化、消費魔力軽減等の効果を……」
「だから普通でいいんですってば!」
「………。」
先程から人形を使っていったい何をさせる気なのか。
「まぁ色々と…な?」
「………。」
詳しく聞くと面倒なことになりそうなのでここでやめておく。
どちらにしろ今日はドール作製を体験しに来ているだけだ。本当は見るだけのつもりだったのだがどうしてこうなった。
「ではこれで…」
迷った末、髪は腰ほどまである白金に輝くストレート。衣装は白地に青の刺繍が入ったドレスを選んだ。エリーゼに教わりながら取り付け、着せてゆく…。
「…よし、完成だ。」
男が手を叩き、それに合わせて改めて全身を眺めてみる。
直感でパーツを選択して取り付けていっただけだったのだが、やはり素材がいいからなのか目を見張るほど美しく仕上がった。まるで童話に出てくるお姫様のような出で立ちである。
まずい、少し欲しくなってきてしまった…。
「では、最後に仕上げとしてこれを…」
男が腰から何やら桃色に光る宝石のようなものを取り出した。
「魔力結晶だ。本来、リビングドールとはある程度の期間にわたって強い情念が注がれた人形が魔力に晒されることで変異するケースが多いのだが…主人となる者が自ら組み上げるという工程を以ってその念に代え、更に魔力親和性の高い素材を使用した上で高純度の魔力を直接撃ち込む事により簡易に魔物化を引き起こす方法を私たちは考案した。」
「んん゛?」
その言葉の意味を理解するより早く、男は宝石を出来上がった人形の額に押し付ける。
宝石がひとたび光を放ち、人形に吸い込まれるようにして消滅した。
「……。」
一拍遅れて人形がひとりでに瞬きをし、微笑んだ。
彼女は滑らかな動作でこちらに歩み寄ると目の前で立ち止まり、優雅にお辞儀をしてみせる。
「御創造いただきましてありがとうございます、ご主人様♪これから末永く、よろしくお願いいたしますね♪」
「うむ、上手くいったようだな。」
「なっ…………!」
男は満足げに頷き、生まれたばかりの人形の少女は全身を見せるようにくるりと回った。
そしてそのまま、笑顔で隣に身体を寄せてくる。
「…さて、その子だがしめて14万5150円(税込)だ。この際買っていかんかね?」
「えぇ…………」
突然始まる売り込み。なるほど、こういう魂胆だったか…。
1か月の手取り給与のほとんどを占める額だ。そんな簡単に決めていいものではない。
唖然としたままそこで固まっていると…
「そ…そんな、ご主人様!わたくしを連れて行ってはくださらないのですか!?わたくしなんでもいたしますわ!お料理も!お掃除も!もちろん夜の御奉仕も喜んで!!ご主人様の為でしたら戦場にも出ましょう!ですからどうか…!どうか………っ!!」
一転、絶望に染まった表情で腕に縋り付いてくるドール。
………。
おい。
これは卑怯だろう…。
こちらを見上げる、碧く輝く両の瞳に涙が滲んできた。…そんな機能があるとは聞いてなかったぞ!
……。
…うん、貯金を考えれば決して出せない額ではないかな?
ドールの表情にほだされたせいかは定かでないが、気持ちが購入に傾きかけてきたそのとき、
「…ふむ。持ち合わせが無いというのであれば、魔力払いというのはどうかね?」
男がある提案をしてきた。
「魔力払い?」
「そうだ。リビングドールも一般的な魔物と同じように、人間から精を吸収して体内で魔力を精製し力とする。その精製した魔力の一部を代金代わりに私が頂くという契約だ。代金分の魔力を払い終えるまではドールの最大出力がやや落ちるというデメリットはあるが…通常の使用の範囲内であればまぁ問題あるまい。ただし、ドールを2体以上購入することが条件なのだが…。」
「そ、それがいいと思いますわ!妹ともども、精一杯御奉仕いたしますわ!!」
その話を聞いて、それまで涙を浮かべて自身の購入を請うていたドールも必死に勧めてくる。
魔術や魔法といった分野には詳しくない。しかし、なんだかもうそれでいいような気がしてきた。
「じゃあそれで…。」
「ありがとう!ではさっそく専用の回路を取り付ける。その間エリーゼと一緒に2体目を組み上げていてくれたまえ。」
やがて2体目が組みあがり、その子にも魔力払い用の回路取り付けが終わる。
色々あったが結果だけ見れば、既に日は傾き薄暗くなった中を2体の動く人形を連れ帰路につく事となったのだ。
それを見送る男と人形の、その笑顔に混じった色に気付かないまま……。
真冬の空にかすかに粉雪が舞った。
―――そしてその夜―――――・・
「さぁ、ご主人様♪このままもう一回ですよぉ♪」
「す、ストップ!もう…うぶっ!?」
静止を求める声はのしかかる柔らかな感触に押し潰された。
そしてその『もう一回』が始まる。
食事と入浴を済ませた後、寝室に今日購入した2体のドールがやってきた。
彼女らの目的は精の補給…。魔物がそういう存在だということは知識としてはあったし、彼女らがもたらす快楽にまつわる噂は色々と聞いていたので期待と共に受け入れたのだったが…
…正直侮っていた。
1体目のドール―リリィと名づけた―にペニスを咥えられたその瞬間、心が屈服してしまった。口内に備えられた舌状の器官が動作を開始すると同時に腰砕けとなり、結果抵抗も出来ないまま1分と経たずに一度目の射精を導かれることになったのだ。
そして当然それだけで終わるはずも無く、次いで流れるような動作で中サイズの胸部パーツに包み込まれると程なくして漏らすように2度目の吐精。取り付けた際はただ柔らかいだけだったその部品が、今では魔性の肌触りと感触と温かさを備えた搾精器へと変貌していた。
吐き出した精液は出した傍から彼女の身体に染み込む様に消えてゆき、そして今、3回目の精をねだりその柔組織が挟み込んだ肉棒を咀嚼している。
まもなくして、その谷間からあっけなく白旗が上がった。
「はい、三回目♪どうですか?気持ちいいですか?精を吸えば吸うほど、もっとご主人様を気持ちよくできるようになりますから…いっぱい出してくださいね♪」
「姉様、私の分…」
「分かってますよー、ではあと一回ここで搾ってから、一度交代しましょうか♪」
「うん。」
顔面の質量がどけられ視界が開ける。顔に座っていたのは2体目―ちなみにこちらはメリィと名づけた―である。エリーゼに勧められるがまま臀部増量パーツを付けてしまったのだが、こんな形でその威力を味わうことになるとは思っていなかった。
そうしている間に腰の上に跨ったリリィが股間に空いた穴で肉茎を飲み込んだ。
「ふぉっ…!?」
思わず間抜けな声が漏れる。
そしてこちらを見下ろす少女の目が淫蕩に笑った瞬間…
「おっ…おっ……おぉっ!?」
ひとりでに腰が跳ねた。
内部に設置された無数の触手状、いぼ状、繊毛状の搾性器官が一斉に絡みつき、嘗め回し、擽り犯してくる。更に全体が柔らかく揉みしだくような動作を始めるに至って、ひとたまりもなく4度目の精を搾り取られる。
「はい、お疲れ様でした♪ではメリィ、4回搾ったらまた交代ですよ。その間は私が上半身を責めますから……うふふ、今夜はぐっすり眠れそうですねご主人様♪」
2体のドールが位置を交代し、そしてすぐさま搾精が再開される。
このループは主人が失神するように眠りにつくまで続き、そしてこれから毎晩繰り返される事になるのだ。
―――所変わってかの男の工房では―――・・
『チーン…!』
工房の最奥、隠し扉で区切られた部屋にベルの音が響く。
するとそこに据えられた巨大な装置からジャラジャラと色とりどりの宝石が排出されてきた。
「くはははは!笑いが止まらんなぁ!!待っているだけで次々と魔力結晶が出来上がるぞ!」
「今日も上手くいきましたねマスター♪」
「ほぼ素組みだったがな…。もっと高性能なパーツを使って貰った方がより長く魔力を戴けるのだが…まぁいい。数を売ればいいことだ。」
装置の前で笑い声を上げるのは昼間ドールを売りつけた男とその従者である生き人形。彼らは次々と排出されてくる宝石を満足げに眺めながら、ただその輝きに酔いしれる。
「我ながら上手い方法を考えたものだ。あの魔力徴収回路さえ付けてしまえばあとは精補給の都度勝手に魔力が転送されてくるのだからな。まぁ、副作用として『少々』ドールの性格が淫乱になってしまうかもしれんが…私の知ったことではない!わはははははは!!」
「まぁ、悪い人♪アハハハハハハ!!」
二人は自らの作り出したこのシステムをそう自賛する。事実、これを作り上げて以降の短期間で彼らの力は飛躍的に向上していた。
更にこの工房を訪れた者には条件によって自動的に認識阻害の魔術か掛かるようになっている。具体的にはドールを返品しようとして工房を探したとしても決して見つからないようになっているのだ。故に彼らの行為が世間にバレる心配は無い。もっともそのようなこと、一度主人を定めたドールが許す筈も無いのだが…。
なんにせよ、この街では今後も人形遣いが人知れず増え続けるのだろう。
真夜中の工房に、二人の高笑いがいつまでも響き渡っていた。
18/12/29 19:03更新 / ラッペル