読切小説
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指圧師の罠
 金曜の夜――。
 それは一般労働者の多くにとって解放の福音であろう。
 帰宅一直線、趣味に没頭する者、職場の仲間達と夜の街へ飲みに繰り出す者、晩酌のつまみを買って上機嫌に帰る者、週末の予定を聞き合う若者ら…あるいは恋人との夜を過ごす者も居るだろうが、まぁ自分には関係の無い話だ。

 そして今週の自分はといえば…
 
 スマホの地図を頼りに目的地に着いた。


『マカーイクリニック〜全身揉みほぐし〜』


 以前から興味があったが何だかんだ忙しかったりなんだりで行く機会の無かった整体マッサージ。男性でまだ割と若い筈の自分がこういう所に来るのは若干の気恥ずかしさも伴うが……、デスクワークな上運動する習慣も無いため腰や肩の筋肉はカチカチに凝り固まって悲鳴を上げている。
 一応、ネット広告には『男性会員大歓迎!!』『男性割引サービスあり!』などと大々的に書かれてあったので店員に変な目で見られる事は無いだろう。更に店の位置は大通りからやや小道を外れた微妙に分かりづらい所にある。余程運が悪くなければ知り合いに出くわす事も無さそうだ。
 更に加えて、ここは最近急に増えてきた魔物が経営する店だそうだ。スタッフも全員が魔物との事だが、逆に気負いしなくていいかもしれない。
 …などと、たかが整体マッサージに何を神経質になっているのかと自分でも思うが仕方ない。そういう性分なのである。



 ――十数年前、異界から魔物と呼ばれる者達がこの世界へ侵入してきてから世界は結構変わった。交流初期の頃こそ色々と事件もあったようだが、今では自然に社会に溶け込み始めている。この期に及んで国は公式な見解を示しては居ないが、彼女らの存在を否定する者は最早市井には居ない。


「あのー今日予約をしていた者ですが…」

 正面扉を押し恐る恐る中に入る。入店を知らせるベルが鳴った。

「あ、いらっしゃいませー♪ご予約の○○様ですね?2番のお部屋へどうぞ。入って右手のカゴに施術衣が備えてありますので中で着替えてお待ちください。」

 受付の女性がにこやかにそう案内してくれる。彼女も魔物なのだろうが外見上種族は分からない。しかしながら凄まじい美人である。
 彼女に導かれるがまま、指定された個室に入った。


 備え付けの簡易な衣類に着替えて待つこと数十秒…
 
「お待たせしましたー♪本日担当させていただきますメリアでーす!宜しくお願いしますね♪」

 何やらやたらとテンションの高い女性スタッフが入ってきた。その勢いに少々圧倒される。
 女性としてはかなりの長身…男性の中では比較的小柄であるとはいえ、少なくとも自分よりは背が高そうだ。
 そして流石魔物というべきか彼女もやはり目を見張る様な美人であった。種族の特徴を表す翼や尾・角等は魔法で隠しているのか確認出来ないが、豊満な肢体をややサイズの小さな衣装に無理やり押し込めたようなその格好ははっきり言って目の毒である。大胆に開いた胸の谷間や腰のラインに思わず視線を吸い寄せられそうになり慌てて目を逸らす。

 ――そしてそんな自分の様子を見て彼女がにんまりと口元を歪めた。だがそのことに気付く余裕など、この時の自分には無かったのだ。

「ではではー、早速始めていきますのでこちらにうつ伏せになってください♪あ…60分のコースでご予約頂いておりますが、男性の方ですのでサービスで120分追加しますね♪」
「い!?」

 いきなり時間が3倍に増えた!?
 しかしマッサージは案外体力の要る重労働である。女性にそんな事をさせて大丈夫なのだろうか…

「そんなそんな!魔物の体力を舐めて貰っちゃあ困りますよ。男性相手なら一日中だって余裕ですとも!そうですとも!!」

 あ、男性限定なの…

「因みに私種族はサキュバスなんですけどー…何か苦手な種族とか特に好きな種族とかあります?」
「いえ、特には……」
 
 正直まだそこまで魔物に詳しくはなかった。ただサキュバスが最もポピュラーな種族だということは聞いている。

「やった!実はスタッフ内のルールでー…もしそういうのがあると他に希望を満たす子が居ればその子に担当譲らなきゃいけないんですよねー。…それじゃ、始めていきますね♪」

 そう言うと彼女は施術台の前に回り込み背中へと両腕を伸ばした。その大きな胸が目の前でゆさりと揺れた。

「まずは背中から…」

 背骨に沿って細い指先が触れる。次いで掌が押し付けられ心地よい重みを加えてきた。

「さぁ力を抜いて下さいねぇ…♪」

 そして柔らかく揉むように指を蠢かせてくる。

「おふ…」

 凝り固まった筋肉がほぐされてゆく…。心地よい脱力感と共に微弱な快感の電流が脊髄を通って全身に走る。
思わず吐息が漏れた。

「これはーだいぶ凝ってますねぇ…ふふ、気持ちよくって声が出ちゃうでしょう?我慢しないでいいんですよ♪」
「うく……」

 そう言われると逆に恥ずかしくなってしまう。
 だが…

「あ、我慢しちゃうんですか?だったら…♪」
「ひぅっ!?」

 突然彼女の両手が脇腹に添えられた。反射的に腹筋が痙攣する。

「な、何を……!?」
「何って…マッサージですよ?お腹周りの余分な脂肪を溶かす効果があります。」
「いやでもこれ…」
「因みにくすぐったいのには強い方ですか?」
「いや、それほどでは…」
「じゃあこのままでいいですかね?強い人にはくすぐりに弱くなる暗示を掛けないといけないんですが…」
「いや、弱いです!超弱いですッ!!っていうかこれやっぱり!」
「えい♪」
「ぶほぉッ!?」

 脇腹に添えられていた彼女の両手が不意打ちで動き出した。

「ぐっ…くくふッ!?や、やめ…」
「やめません♪恥ずかしがらずにもっと思いっきり笑っちゃってください♪」

 素早く揉みほぐす動きの中に優しく撫で上げるような動作が不規則に交じり、刺激に慣れさせない。たまらず跳び起きそうになるもまるで不可視の手に捕まえられたかのようにいつの間にか両手両脚が動かせなくなっていた。

「暴れられると危ないのでー、手足は魔力で押さえさせて頂いております♪ご了承下さいね?」

 彼女は事も無げにニコリと言い放つ。そして一旦手を止めるとベッドの横に移動した。

「ではちょっと失礼して…」

 腰にずしりと重みが掛かる。彼女がこちらの腰を跨いで馬乗りに座ってきたのだ。その重量感ある尻肉の感触がダイレクトに伝わり心臓が高鳴る。

「続けて上の方もやっていきましょう♪」

 唯一動かせる首を限界まで振り返らせた先には両手をわきわきと高速で蠢かせながら蕩けた表情で微笑むメリアの姿があった。

「ふふ、そんなに脅えた顔をしなくて大丈夫ですよ♪優しくしますから♪」

 彼女の両手が今度は脇の下に伸びる。そのまままた激しい擽りが開始されるのかと思いきや、彼女は触れるか触れないかの力具合でその両手を撫で下ろした。

「んひゅゅゅゅゅぅ……」

 突然のフェザータッチ。風船から空気が抜けるように力と共に息が抜けてゆく。

「ほら、辛くないでしょう?このまま背中も…」

 彼女の手指が脇腹から背中、肩、首へと這い回る。なぞり上げる動作の中に時折指圧が混じり、擽ったさと快感の中間―ぞわぞわとした痺れにも似た感覚が手の動きに合わせ全身を駆け巡った。

「知ってます?擽ったさと快感は同じ感覚の延長線上にあるそうですよ?」

 彼女が体を倒し耳許で囁く。巨大な胸が背中で潰れ意識を誘われる。そしてその心の隙間にフェザータッチの刺激と彼女の言葉が容赦なく入り込んできた。

「『シてる』途中に擽られるとあっという間イッちゃう人も居たりして…そうやって癖を付けていけばそのうちこういう刺激だけでもイけるようになるかも……面白いと思いません?」

 反対側の耳周りをこちょこちょと擽りながら彼女は囁いてくる。
思考を蕩かす快感…いつの間にか開いていた口元からはだらしなく涎が垂れていた。



「ふふ…なんちゃって♪良い具合に力が抜けましたね。」

 しばらくその状態が続いた後、彼女はそう言って身体を起こした。這い回っていた両の手も一旦離れていく。

「どうですか?少しは凝りが解れたでしょう?」
「……!」
 
 言われて、放心状態から目を醒ます。慌てて涎を舐め取り身体の各所に意識を向けた。
 確かに、首筋や背中にこびり付いていた鈍痛が軽くなっている。ただ擽られていた訳ではなかったようだ。

「はい、指先から微弱な魔力を発しながら皮膚と筋肉を刺激することにより凝りをほぐす技法です。同時に疲労を回復させつつ心の緊張も解きほぐすことも出来るんですよ。」

 魔力…名前はよく聞くが結局それが何なのか、人間にはいまだ解明できていない。とりあえず魔物が扱うエネルギーの一種であり、その用途により様々形と効果を変化させるという。この場合においては低周波か何かだと思っていればよいだろうか…。

「さて、準備はこれくらいにして…そろそろ本格的な施術に移りましょうか♪」

 再び掌が背中に降ろされた。
 今度は親指でしっかりと、やや強めの指圧を加えてくる。腰から背骨に沿ってじっくりと上へ…まるでこちらの心を読んでいるかのように的確な強さと位置。思わずため息が漏れた。
 しかし今度はそれを指摘することも無く、彼女は淡々とマッサージを続けてゆく。やがてその手は肩と首に至り、指圧の仕方も全ての指を同時に使うものへと変わった。10本の指先を器用に操りながら、肩の筋肉から首筋までを満遍なく押し撫でてゆく…。

「…♪」

 そしてその手指は更に上、頭皮のマッサージに移った。指先を立て、髪を梳くようにしながら側頭部から後頭部に至るまでを優しく刺激…。意識が遠のくような快感に再び涎が垂れそうになった。

……、

…。


「はい!次は足のほうをやっていきますね。」

 あまりの快感にまどろみへと落ちていた意識がその声で引き戻された。気付けば頭部への施術は終わり、腕、掌とひとしきり上半身を彼女の指が這った後である。
 そして彼女はそう言って一旦腰を上げ、180度方向を変えたのだ。今度は足の裏からふくらはぎ、太股へと手が進んでいく…
 時折内腿などの敏感な箇所に指が触れ、図らずも股間が反応してしまう。幸いうつ伏せの体勢なため気付かれはしないだろうが変な気まずさがあった。

「…ではでは、最後に腰のほういきますね♪ちょっと特殊なツボを押すのでびっくりするかもしれませんが…我慢してください♪」
「ゑ?」

 再び方向を変え、腿の上辺りに腰を移動させた彼女が気になる事を言った。
 が、疑問を挟む前に腰椎の下部分が強く押し込まれる。

「ぐふっ、……?」

 これまでと違う何か妙な感覚…力が肉体を突き抜けて奥まで届くような……

「…いいお尻ですね。柔らかくて揉み応えがあって……このマッサージでもっと触り心地が良くなりますよ♪」

 尻たぶを揉みしだきながら彼女が言う。
いや、男の尻の触り心地が良くなったところで誰が得をするというのか…
 
「私です♪」
「…。」

 とりあえず勝手にこちらの思考を読むのはやめて欲しい。

 そしてそう言っている間にも腰から尻への指圧は続く。始めに感じた奇妙な感覚はじわじわと蓄積してゆき、今でははっきりと快楽として感じられるようになっていた。
 腰の奥で膨らみ続ける性感。それは意識した途端、あっという間に切羽詰ったものへと変わる。
 
「ちょ…ちょっと止め…!」
「大丈夫ですよー。そのまま力を抜いて身を任せてくださーい♪」

 だが彼女は聞く耳を持たず、逆に臀部のとある一転を一際強く押し込んだ。同時に身体の奥底で快感がはじける。

「―――ッ!!」

 悲鳴を噛み殺し耐える。
 下着の中が濡れた感触は無い。だが、確かに性的絶頂感を感じたのだ。これが彼女の言っていた特殊なツボの効果だというのだろうか…。

「ふふ、気持ちよかったですか?」
「………。」

 …これは筋肉の凝りをほぐすマッサージが気持ちよかったかと聞かれているのだ。決して性的な意味ではない。
 そういうことにして肯定する。

「よかったです♪ではとりあえず仰向けになりましょうか。」
「え?」

 ぐるん。

 思わず聞き返すが問答無用とばかりに腹と腿の下に手を差し込まれ、ひっくり返されてしまった。

「基本的な施術はここまでで一通り終わりになります。…が、それとは別に当店では男性のお客様向けにちょっとした割引システムがありまして…少々ご説明させていただいてもよろしいでしょうか?」

 仰向けになった自分の隣、寝台の端に腰掛けた彼女が問いかけてくる。

 部屋の雰囲気が変わった。

 こちらを見下ろす彼女の顔には妖しい微笑が浮かび、獲物を逃がすまいとする肉食獣の眼光が宿っている。その雰囲気に気圧されたのか、気付いた時には首が勝手に頷いていた。

「はい、ありがとうございます♪」

 彼女の表情が喜色に染まる。

「ご存知かと思いますが私たち魔物は人間の精を摂取することでエネルギーとしています。ただパートナーの居ない魔物がそういった機会を得るのはなかなか難く……そこで当店では、お客様から少しばかり精を頂くことができればその内容に応じて料金を値引きさせていただくという割引制度を設定しているのです。どうですか?ちょっとここに溜まってるものを抜いて、スッキリしていきませんか?」

 …いつの間にか、彼女の手が股間に伸び施術衣の上からさわさわとまさぐっている。施術の最中に少しずつ高められた性感に先程のツボ圧しが止めになり、そこは既に硬くいきり立ってしまっていた。

「内容によってというのは…?」

 『そっち』方面に関する魔物の噂は一応聞いている。その上で、魔物に身を任せることへの不安と期待が自分の中でせめぎ合う。結果とりあえずその中身を聞いてみることにした。
 こちらが興味を示したことに気を良くしたのか、彼女の笑みが深くなる。

「はい、精を頂く際に身体のどこまで使っていいかということです。ちなみに両手のみであれば1割引、胸までであれば2割引…お口まで使ってもいいのでしたら4割まで値引き致します。私、胸とお口のテクには自信あるので…よかったら試してみませんか?あ、一応本番は無しなのでそこは安心してくださいね♪」

 そう言うと彼女は左手でその豊かな胸を持ち上げ、同時に唇を舐めた。その所作に視覚を刺激され、再度股間が反応する。
先程から彼女の右手で撫でられ続けているそこには既にいつ暴発してもおかしくないほどの快感が溜まっている筈だが、彼女の手がそれを許さない。絶妙な力加減で快楽を操作され、射精寸前の状態で焦らされ続けているのだ。…その手つきは言外に、首を縦に振るまでは決して逝かせないということを示していた。

……。

…いや、むしろ何を躊躇することがあるだろうか。料金が割引になりついでに快感が得られるのだ。まるでデメリットの無い美味しい条件…

「じ、じゃあ……おねがい…」

 快楽に蕩かされた思考はもはや警報を発することは無かった。
 
「うふ…、ありがとうございます♪」


……、

…。



「さぁ、力を抜いて…出したくなったら気にせず出しちゃってくださいね。我慢はさせませんので♪」

 白くなめらかな指が肉棒の上を滑る。

 精を提供することを承諾した次の瞬間、施術衣のズボンは脱がされその中のものは彼女の手に握られていた。
 元々後一歩の所まで高められていたところである。5本の指で竿を擽られながら掌の窪みで先端を包まれる刺激が止めとなり、始まってから1分も経たないうちに精が漏れ出した。
 彼女の手の中に溢れる精液は出される先から掌に吸収され、ペニスの脈動が収まる頃にはすっかりと乾いていた。

「はい。ご馳走様でした♪では…次はこちらで頂きますね♪」

 続けさま、今度は服の胸元を広げ覆い被さって来る。開いた両足の間にうつ伏せに寝そべり、射精したばかりでやや硬度を失いつつあるそれをその両胸で挟み込んだ。
 しっとり柔らかな柔肉に包まれ、不思議な脱力感と共に恍惚のため息が漏れる。

「このままゆっくり動かしていきます。甘く漏らすような射精をどうぞお楽しみください。」

 先程精を搾り取った彼女の両手が、今度は両側から乳肉をこね回し始めた。むにゅむにゅとスライムのように形を変えるその双球は擦るのではなく揉むような刺激を与えてくる。摩擦ではなく圧力――優しさに満ちたその柔らかな圧迫はゆっくりと静かに…しかし確実に射精感を高めてゆく。それは真綿でじわじわと締め上げられてゆくように…。
 そして抵抗は出来ない。乳房の柔らかさが抗う心ごと抵抗力を蕩かしてしまったのだ。結果、刺激をあるがまま、無防備に受け入れさせられてしまう。

 やがて彼女の言うとおり精が漏れ始めた。半分萎えたまま、まさに漏らすという表現は正鵠を射ている。ゆっくり、時間をかけ、蕩けるような快感と共に長い吐精を味わった。

「…どうでしたか?こういうのもいいものでしょう?」

 射精後の余韻に浸るペニスを乳肉であやす様にマッサージしながら彼女が言う。
 いまだ加えられ続ける柔らかな快感につられる様に、首が勝手に縦に動いてしまう。完全に脱力した今の身体では少し震えた程度にしか見えなかったかもしれない。しかし彼女は満足げに頷き、尿道内に残った精液を搾り出すように今一度圧迫を強め、2度の射精でふにゃりと力を失ったペニスを胸の谷間から開放した。

「さて、それでは…今度はお口のほうで味わあせて頂きますね♪」

 息をつく間も無く、今度は口の中へと飲み込まれる。
「うひっ…!?」

 肌が粟立つ。

 そこは快楽による処刑場であった。
 咥内へ飲み込まれた瞬間、渦を巻くように激しく動き回る舌と精巣から強引に精液を吸いだそうとするような強烈な吸引刺激が歓迎してきたのだ。先程の胸での搾精とは対照的な苛烈な責め…脱力していた全身が強張り背筋が仰け反る。
 反射的に両手が股間に吸い付いた彼女の頭へ伸びるがびくともしない。いつの間にか両腕が腰に回され、がっちりと固定されていた。
 彼女の眼が淫らに笑う。

「うひょおおおおお!?」

 間抜けな悲鳴が漏れた。
 動き回る舌先が先端部を重点的に嘗め回してきたのだ。同時に唇が強く締まり小刻みに扱く様な動作を加えてくる。
 勢い良く3回目の精が発射された。

「――ッ!?止、止め…!!」

 射精したにも関わらず舌先の動きが止まらない。尿道口付近を円を描くように強く擦り続ける。射精後の鋭敏化した神経へと加えられる無慈悲な追撃…男性にとってこの刺激は拷問である。
 反射的に腰が引けるが当然ベッドに阻まれ意味を成さない。

 程なくして、奇妙な脱力感と共に何かが漏れ出した。

「……♪」

 咥内に出されたその何かを啜ってようやく満足したのか、腰から腕がはずされ開放された。

「ふう…ご馳走様でした♪あら、ちょっと疲れちゃいました?流石に直後責めからの潮噴きは初めてだときつかったですかね…?じゃあ次はまた優しいのでいきましょうか♪」

 開放されたペニスが再度胸の谷間に囚われた。
 再び始まる脱力感を伴う甘いマッサージ……

「…え!?ちょっとこれ…何回続けるんです?」

 当然のように搾精を続けようとした彼女を慌てて制止した。
 止められたほうはといえばきょとんとした表情を浮かべさもそれが当然であるかのように続ける。

「何回といいますか…時間いっぱいですが?まだ1時間以上残っていますし…。」
「あ……」

 愕然とする。
 施術時間は確か入店時のサービスで3時間に増えたのだ。時計を見れば開始してからまだ1時間半と少ししか経過していなかった。
 あと1時間以上……今続けられているこの柔らかな刺激であればまだしも、先程の口と舌を使った責めを何度も繰り返されると思うと血の気が引く。

「いや…もう無理…」
「無理と言われましても割引の条件ですし……あ、そうだ!会員登録しませんか?入会金・年会費無料の登録制度があるのですが、それに登録していただければ口での搾精に換えさせていただきますよ?」

 いや、もはや2割引分を辞退してもいいと思ってしまっているのだが、ここに来て彼女は次なる提案をしてきた。

「さて、どうされますか?」

 胸の圧迫を強めその谷間へと人間離れした長い舌を伸ばしてくる。舌先が谷間に潜り込み、亀頭の先に触れる。その感触は先程のトラウマを想起させ、ビクリとペニスが跳ねた。

「わ、わかりました!登録します!!」

 脅迫めいた舌先の動きに精神を追い詰められ登録を宣言してしまう。まんまと彼女の意に嵌ってしまった。

「では、残りの時間はこの胸のみを使って精を搾らせていただきます。…存分に蕩けて、存分にお漏らしください♪あ、でも…」

 彼女の両手が動きを開始し、乳肉が再び蠢き始める。捏ね回し揉みしだき、間に挟んだ肉竿をすり潰すかのように激しく擦る。1回目の優しく漏らさせる動きとは打って変わった、激しく、素早く精を搾り取る為の動き…もう4回目にもかかわらずあっという間に精液がこみ上げ、我慢する間も無く乳内に吐き出してしまった。

 遅まきながら理解する。舌だろうと胸だろうと変わりない…。彼女はそのどちらでも同じことが出来るのだ。

「このような感じで強めに搾ることも出来るのですが…どちらがお好みでしょうか?」
「さ、さっきので……」

 幸い選択権はあったようだ。

「わかりました!ではこちらで…」

 柔肉から圧力が抜ける。その運動もふよふよと柔らかく揺らすような動作に変わり、蕩けるような甘い快感の中で谷間の中を泳がされた。
 柔らかな肉は形を変えてペニスの凹凸に隙間無く纏わり付き、その感触と肌触りを余す事なく伝えてくる。全身の力が抜け、あっという間に身も心も無抵抗にされる。

(あっ…これはこれでやばい……)

「たっぷり甘イキしてくださいね♪」

……。

 結局、その後1時間にわたって涎を垂らしながら逝き続けることとなった。






「あの…大丈夫ですか?よろしければご自宅までご一緒しますが…」
「いや、それは大丈夫……です…」

 メリアさんに見送られ、ふらつく足で店を出る。
 筋肉の凝りは完全に取れたのに疲労感は増した。魔物の店を舐めていたと言われればそれはその通りである。
 だが、腕は確かで値段は安い。そして2重の意味で気持ちよかったのは事実。ただし次来る時は体力的に余裕があるときにしようと固く誓ったのであった。


………、

……、

…。






――夜間、店内にて…

 事務室の一角、いくつかあるデスクのうち一つだけまだ電灯が点いていた。
机の主はメリアである。…別に残って仕事をしている訳ではない。彼女は机に乗せた一枚の紙に手を這わせ、ただうっとりとそれを眺めていた。

『入会申込書』

 今日施術したとある人物のものである。そこにはその人物の名前、住所、年齢……独り身の魔物娘にとって喉から手が出るほど欲しい情報が羅列してあった。魔物独自の闇ネットワークに流せばおそらく高く売れるだろう。
 だが、彼女にはそんな気はさらさら無かった。どこの馬の骨とも分からない魔物にくれてやる気は無い。『これ』は自分の獲物である。
 今日何度も味わった精の味を思い返せば咥内に涎が溢れ、左手が股間に伸びる。

「うふふ…絶対に逃がしません。必ずや私の指技の虜にして差し上げます♪…そしていずれ専属契約を……うふふふふふ♪」

 いつか来るその日の事を妄想し、彼女は今日何度目かとも知れぬ自慰に耽った。




 一方、『獲物』の彼はといえば翌日から大量に送り付けられるクーポン券の束に震え上がる事となるのだが、それはまた別のお話…。






おまけ ―後日、とある客Aの場合―

「ここが噂の…」

 何日か前、興味深い情報をネットの掲示板で拾った。
 なんでも魔物の経営するマッサージ店が最近増えているらしく、その中にはちょっとエッチなスキンシップをしてくるような店もあるという。
 様々な種族…時には人間離れした異形の見た目を持つ者も居るとはいえ魔物は皆美人ぞろいであるし、そういった話を聞けば嫌でも期待してしまうというのが男というもの。掲示板にはわざわざ該当する店の地図のリンクまで張ってあり、その場所は簡単に分かった。
 料金も割安だというし、受け入れがたい種族が出てきたら普通のマッサージだけ受けて帰ればいいと軽く考えて、彼は股間を膨らませながら店の扉をくぐった。

「いらっしゃいませ♪ご予約のA様ですか?…はい、では5番の個室へどうぞ♪」

 案内に従い、指定された個室で施術衣に着替えて待つ。
 程なくしてスタッフが入ってきた。

「お待たせしました〜♪本日担当させていただきますネアリーです〜。よろしくおねがいしますねー♪あ、種族はサキュバスですよー♪」

 …当たりだ!

 来たのはおっとりとした感じのお姉さんタイプ。やや大柄ではあるが、その分を差し引いても圧倒的な存在感を誇る胸の膨らみが嫌でも視線を奪う。尻や露出した太もも柔らかそうで、何よりこれまで見たことの無いほどの美貌だった。

「お、おねがいします…!」

 見蕩れていたせいで思わず声が上ずってしまうほどである。

「さてさて〜今日のコースはお任せとのことですがーわたしとっても得意なマッサージがあるんですけどそれでもいいですかー?」
「は、はい!」

 なんだろう…。もしかしたら早速性的な施術が始まってしまうかと邪な期待を持ってしまう。

「ありがとうございますー!じゃあさっそくベッドに横になってお尻を出してくださいね♪」
「…へ?」

 意味が分からず聞き返した。
 しかし、体は勝手に動き寝台にうつ伏せに寝転がると膝を立てて尻を上げ、ズボンを下ろしてしまう。

「な、何で…!?」
「時間がもったいないですから姿勢とかはこちらで魔法を使って固定させていただきます♪…ジェル!」

 魔術により身体の自由を勝手に制御されているらしい。彼女の右手に突然湧いた水色の液体も魔法によるものなのだろう。そして彼女はその謎の液体に濡れた指先を露出した肛門に突き立ててきた。
 嫌な予感がする…。

「あの……得意なマッサージってまさか…」
「はぁ〜い、前立腺マッサージですよ〜♪」

 …ブスリ!

「アッ――!!」


「あら〜初めてですか〜?それではちゃんとここで気持ちよくなれるように徹底的に性感を開発して差し上げますね〜♪あ、そうそう。男性特割なので無料で2時間延長、さらにお任せコースの特典で1時間延長♪計5時間になりま〜す。…うふ、これなら今日一日だけで堕とせちゃうかもです♪」



 果たして…ネアリーの宣言通り彼は10分も経たずに尻穴だけで絶頂を迎えるほどに性感を開発され、そして5時間後には泣きながら専属契約を結ばされたのであった。


おわり。
18/03/11 14:44更新 / ラッペル

■作者メッセージ
さきゅホテルより更に侵略が進行した現代をイメージ。

実は1年以上前に書きかけで放置されていたネタのサルベージですが…

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