さきゅホテル
「ふぅ、なんとか宿がとれて良かった…カプセルだけど。」
出張先で用事が長引き、終電を逃した。
やむを得ず宿を探したところ、運よく駅のすぐ近くに空室のあるカプセルホテルを見つけたのだ。幸い明日は休みである。今日はここで寝て明日の朝帰る事にした。
独身の1人暮らしなので帰りを待つ家族も居ない。
共同の浴室で身体を清め、レンタルの薄手のガウンを羽織り個室に横になる。
硬いマットにこれまた硬い枕、頭上にははめ込み型のテレビが備え付けられていた。
「そういえばあの店員…見放題とか言ってたな。」
・・・・・
『個室のAVは見放題なんで!結構数入ってるんで!!ぜひ見てみてください!あ、個室は完全防音なんで大音量で大丈夫ッスよ!』
受付の若い店員にやけに勧められた。
「せっかくだから…」
明日は別にチェックアウトギリギリまで寝ていても問題ない。いい夢が見られるかもしれないし、ちょっと夜更かしでもしようかとテレビのスイッチを入れた。
―ヴンッ…―
画面に光が灯り綺麗な女性の姿が映し出される。
チャンネルを送ると別の女性に切り替わった。どれもレベルが高い。むしろ異様なほどに…
「うーん、とりあえずこの子で…」
やがてその中でもなんとなく心の琴線に触れた一人を選び再生を押した。
その瞬間…
「やっほー♪ご氏名ありがとぉー!」
「…は?」
突然、仰向けに横たわった身体の前面に柔らかな重みがのしかかる。画面の中に映っていたはずの女性が、5割増しに美化された姿で自らの前に現れていた。
「………。」
「ありゃ…?固まってる…おーい?」
そりゃ固まる。画面の中の人物が突然現実に現れたのだから。一昔前のホラー映画でもあるまいし…。さらにこちらの胸板に押し付けられ潰れる豊かな肉双球の感触が思考を邪魔するのだ。
だがやがてとある1つの可能性に思い至り戦慄する。
「ま、まさか魔物…」
「ほ?あたしたちをご存知?せいかーい♪サキュバスのルシカでぇす!よろしくネ♪」
魔物…今ネット界隈でまことしやかに囁かれている噂である。じわじわとこの世界に侵入してきている彼女らは人間社会のいたるところに潜み、目をつけた人間を魔界へと連れ去ってしまうと言うのだ。
コレだけ聞けばただ子供を怖がらせるためだけの方便、作り話、オカルトである。都市伝説にもならないだろう。
しかし、どうやらこの魔物とやらが存在すること自体はどうも事実らしいのだ。知り合いが消えた…、同じ職場の先輩が消えた…、交友関係が少ない者、未婚の者ほど狙われやすい等々…。そんな書き込みは絶えず掲示板に上がり、しかし役所や警察は全く動かない。そしてそれらの書き込みも程なくして削除されるのだと言う。
何か大きな力や陰謀が働いているのではないかと匂わせるこれらの噂は得体の知れない不気味さをもって、今や人々の間に暗黙のうちに広まっていた。
「…俺を魔界へ連れ去るつもりか?」
「うん♪………ダメ?」
「ダメに決まっているだろ!?」
自分でも驚くほどの大声が出た。完全防音だというこの狭い個室の壁に反射し響き渡る。
しかし、彼女に動じた様子は無い。
「えー…じゃあ万魔殿でもいいよ?あたし一応堕落神信徒だし?」
なんだそれは…。
「んんー…、…それじゃあゲームしようか?」
「ゲーム?」
何か妥協した様子で彼女からの提案があった。
「そう、あたしたちが人間を魔界へ連れ出すにはまず契約を交わさなくちゃいけない。で、契約を結ぶにはその人間の精が必要なの。あたしが今からあなたの精を搾り取ろうとするから、朝まで我慢できたらあなたの勝ち。ここから逃がしてあげる♪」
精って…
「うん、精♪」
彼女の白くしなやかな指先がガウンの上から股間に触れてくる。
…おそらくそういうことなのだろう。
「んふふ、大サービスであたしの方からココには触らないであげる♪ハンデだよ?どうする?チャレンジする?」
「…チャレンジしなかったら?」
「本気で搾る♪」
選択の余地が無いじゃないか…。
「サキュバスの本気のテク、舐めない方がいいよ?たぶん5分ももたないから♪あと逃げようとしても無駄だから。この扉は外からロックされてて朝7時まで開かないんだってさー♪」
「ホテルごとグルかい…」
事実上受けざるを得ないこの状況。もともと罠に掛かった獲物に拒否権など無かったのだ。
「……わかった、やる。」
観念した。
「よしよし♪じゃあ始めね。悪いようにはしないからさっさと負けちゃっていいよ♪」
ブシュゥ―ッ!
彼女がそう言うと同時に薄い桃色のガスが狭い個室に満ちた。ほのかな甘い匂いが拡がる。
「何これ…!?」
「あたしの淫気♪まぁ、媚薬みたいなものだと思ってくれていいよ。吸ってるとだんだんムラムラしてきてついでに快楽に対して敏感になっちゃうから気をつけてね♪」
ひ、卑怯な…
だがそう簡単にやられるつもりはない。生き残ってみせる。
彼女は直接的に手は出さないと言った。ならばさっさと寝てしまい、そのまま朝を待てばよいのだ。
目を覚ましたときは扉も開き、彼女は諦めて帰っていることだろう。
「…。」
無言で薄い枕を引き寄せ頭を乗せる。そして心を無にし、目を閉じた。
「そんな硬い枕じゃなくてさぁ、もっと柔らかいの使いなよ。ほら、わたしのおっぱい枕とか、さ!」
「んんっ!?」
だが敵はそう甘くなかった。
いつの間にか真横に移動し添い寝するような体勢になっていた彼女は、素早く後頭部と、枕の間に手を差し込むとそのまま、その細腕からは想像できないような力で彼女の巨大な胸へと抱き寄せてきた。
顔面が谷間に埋まる。個室に満ちる淫気を数倍濃くしたような甘ったるい臭いが鼻をつき、意識を持っていかれそうになった。
「どお?柔らかくていい匂いで…良く眠れそうでしょう?ココはあたしの身体の中でも一番濃く淫気が溜まるトコだから。この中で眠れば絶対に夢精できるよ♪って言っても寝かす前にいかせちゃうけど。…ほら、息を大きく吸ってー……、吐いてー…♪ふふ、上手上手♪」
危険だと分かっていながら、彼女の声に操られるかのように胸の間に溜まった空気を深く吸い込んでしまう。止めようにもどうしたらいいのかわからない。甘い臭いに脳が犯され、思考が纏まらない…
「それじゃあ次はもうちょっと気持ちよくなれる呼吸をしようか♪息を吸うのと同時に…あ、鼻だけで吸うんだよ?口はおっぱいで塞いじゃうからね?」
顔を覆う柔肉の圧迫が強まった。
「息を吸うのと一緒に、お股に軽く力を入れてみて?おちんちんの根元の更に奥…お尻の穴じゃないよ?はい、すうぅ―――…どう?ジワッとした気持ちよさ…わかった?じゃあ息を吐いて…そのまま何回も繰り返してみよっか♪」
声に促されるまま、深呼吸に合わせて力を込めて抜いてを繰り返してしまう。下腹部で膨らんでゆく淡い快感を楽しむように…
「ほら…気持ちイイのがどんどん大きくなってくるでしょ。怖がっちゃダメ、受け入れるの。さぁ続けて……そろそろ大きい波が来るから……3…2…1……はい、ぎゅー♪」
「――――ッ!?」
彼女のカウントダウンに合わせ、身体が浮き上がるような不思議な絶頂感が襲ってきた。
同時に顔面が更に強く抱き締められる。
「あっ…ぁ……ぁ…、」
それは十数秒間にわたって継続し、その両方から開放された時にはもう、全力のマラソンを走った後のような疲労感とともに全身の力が抜けてしまっていた。
「はい、ドライ達成〜♪気持ちよかったでしょ?」
隣に寝たルシカが無邪気に笑った。
「大丈夫、射精はしてない筈だよ。まだまだゲームを楽しみたいもんねぇ♪」
「………。」
完全に弄ばれている・
「もう一回ドライでいかせてあげる。…でもせっかくだから今度は別のところでやってみようか?」
「べ…つ……?」
無意識に彼女の言葉を繰り返す。その意味を頭が理解する前に、身体が宙に浮いた。
「わ…!?」
中に浮いた身体の下にすかさず彼女が滑り込んでくる。そして落下…
結果、今度は仰向けに背後から抱きすくめられるような体勢で拘束されてしまった。
先程まで顔面が囚われていた胸の間には今は後頭部が埋まり、両腕は腹に回されびくともしない。
「この部屋マットも硬いよねぇ…だから、あたしが敷布団になってあげる♪」
「今度は何を…」
「乳首でイったことある?」
「…ゑ?」
腹部を拘束していた彼女の両腕がガウンの下にもぐり込み、胸へと這う。
皮膚が粟立つようなくすぐったい快感を残して、その指先はそこに至った。
「普通なら長い時間をかけて開発するかぁ、特殊なお薬でも使わないとそこだけで絶頂するほど敏感にはならないんだけど…濃い淫気を嗅がせた上で軽い催眠をかければ案外簡単に開発できちゃうんだよねぇ♪服に擦れるだけでアヘっちゃうようなエッチなお胸にしてあ・げ・る♪」
「ひぇぇ……」
………、
……、
…。
「…どうかな?もう天国なんじゃない?」
「ぁ………ぁ……」
あれから何時間が経っただろうか。彼女の上に寝かせられたまま、延々と上半身への愛撫を受け続けた。この間、数え切れないほどの射精を伴わない絶頂を繰り返し極めさせられ、息も絶え絶えの状態。パンツには先走りの汁で大きな染みが出来ていることだろう。
いつ気を失ってもおかしくない状況なのだが彼女の指がそれを許さない。
そしてその上半身はと言えば彼女の言うとおり『開発』されてしまったのか、もう指先が先端に触れるだけで背筋が仰け反るほどの快楽が走るようになってしまっている。これが一時的なものなのか、あるいは永遠にこのままなのか…快楽に蕩けた頭の片隅が警報を鳴らすが既に肉体は言うことを聞かない。いずれにしろ意識が眠りに落ちようとするたび、両の突起が引っ掻かれ揉み潰され、強制的に覚醒させられるのだ。
「淫気もだいぶ濃くなってきたし…これからどんどん敏感になってくよ♪」
気付けば視界は桃色に染まり、甘い臭いも濃くなっていった。身体の感度が上がっているのはこの影響もあるのだろう。
疲労感が積み重なり強烈な眠気が襲ってきていた。柔らかな肉のベッドの上で甘い香りと快楽に包まれ、このまま眠ることが出来たらどれだけ幸福だろうか。しかしこのまま寝てしまえば夢精は避けられないだろう。そもそも、背中に張り付く彼女が寝かせてくれない。
「ふふ……もうおネムかなぁ♪寝たい?もう寝たい?」
こちらの感情を読んでいるかのような絶妙なタイミングで彼女が耳元に囁いてくる。
「このまま眠りにつけたら気持ちいいよねぇ…?一回だけ、一回だけ精を吐き出してくれたらこのまま寝かせてあげるんだけどなぁ…♪」
そうは言っても射精したらその瞬間魔界行き決定である。
…しかしもうそれでもいいような気もしてきた。睡眠欲は全てに勝る。
「魔界はいいトコだよ?大事にするからさぁ…、ね?」
そしてダメ押しの甘言。
「……。」コクリ
気付いたときには、甘く誘う睡魔と彼女の言葉に釣られるように、小さく頷いてしまっていた。
「やったぁ♪じゃあそのまま動かないでね?すぐやっちゃうから♪」
彼女の両手が下半身へと伸びる。脇腹、鼠径部をなぞり硬く震えるペニス…を通り過ぎ内腿へと至った。
「ここは触らないって約束したでしょ?触らずにお漏らしさせてあげる♪」
指先が淫気で更に敏感になった大腿部の内側と袋を擽り、同時に両の親指が陰茎の付け根を優しくマッサージした。その瞬間、急激に射精感が沸きあがり始める。
「…な、なんで………!?」
「ふふ、なんでだろうねぇ?でも分かるんだぁ♪どこをどうすれば相手がイっちゃうのか。今の君は淫気のせいで全身の性感帯が開発されてるから、いろんなところに射精のスイッチが出来ちゃってるんだよ。魔界に行ったら一つ一つ試しながら教えてあげる♪さぁ、もう耐えられないでしょ、そのまま漏らしちゃっていいよ♪」
彼女の言うとおり、最早自分の意思では止められないところまであっという間に精液が上ってきてしまっていた。そして、程なくして溢れ始める。その射精に勢いは無く、まさに漏らすと言う表現がしっくりくる穏やかなものだった。
快感と安らぎとともに、眠気が意識を刈り取りに来る。
「おやすみ…。目が覚めたら次は魔界で…ね♪」
カプセルの照明が濃い桃色に切り変わった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――時刻は午前2時をまわった頃だろうか。個室のカプセルが並ぶ廊下に1人分の足音が響く。
「ありゃー、今日はあんまりビデオ見てくれなかったかぁ…。」
そうぼやくのはフロントで受付をしていた青年。いつもより照明が落ちているカプセルが多い。テレビを点けずにそのまま寝てしまった客が多かったということだ。
「勝手に連れてってくれた方が朝の作業が楽なんだけどなぁ。」
誰にとも無く呟きながら、彼はカプセル横に備え付けられたパネルを弄る。親指の指紋をかざしスイッチを入れると個室の照明が点灯し、同時に濃い桃色のガスがカプセル内に噴出した。中で寝ていた客が目を覚ましたか、或いは反射的な肉体の反応か、バタンと床を打つ音が聞こえたがすぐに静かになった。まぁ、仮に目を覚ましていようがこの強化ガラス製の扉は朝の7時まで決して開くことは無い。その間ガスで無限に絶頂を繰り返し、規定の時間が経つ頃には四肢の筋肉が完全に弛緩し動けなくなっている筈だ。
そして、そうやって『出来上がった』男たちを回収する為のトラックが朝の8時に来る。それまでなるべく長く寝ておきたい為、この作業は手早く終わらせたかった。彼は淡々と照明が消えているカプセルのスイッチを操作してゆく。
「………。」
自分がかなりヤバイ事に関わっているのは分かっている。しかしこれまで役所も警察も何も言ってこなかった。それどころか以前市役所の職員が視察に来て労われたことさえある。その職員の様子がとにかく異様だったのでよく覚えている。腫れ物に触るような、何かに脅えている様な…とにかく一刻も早く此処を立ち去りたいのだけは伝わってきた。
そして彼が案内していた男性はたまにテレビで見かける代議士に良く似ていた…ような気がする。更にその隣に居た白髪の美女は……
……、
……やめておこう。
下手に首を突っ込めば今度は自分がこのカプセルの中に入ることになる。……前任の先輩のように。
これは割りのいいバイト。それだけでいい。
「……よし。」
客の入っている全ての個室の処置を終え、彼は足早に仮眠室へと向かった。
出張先で用事が長引き、終電を逃した。
やむを得ず宿を探したところ、運よく駅のすぐ近くに空室のあるカプセルホテルを見つけたのだ。幸い明日は休みである。今日はここで寝て明日の朝帰る事にした。
独身の1人暮らしなので帰りを待つ家族も居ない。
共同の浴室で身体を清め、レンタルの薄手のガウンを羽織り個室に横になる。
硬いマットにこれまた硬い枕、頭上にははめ込み型のテレビが備え付けられていた。
「そういえばあの店員…見放題とか言ってたな。」
・・・・・
『個室のAVは見放題なんで!結構数入ってるんで!!ぜひ見てみてください!あ、個室は完全防音なんで大音量で大丈夫ッスよ!』
受付の若い店員にやけに勧められた。
「せっかくだから…」
明日は別にチェックアウトギリギリまで寝ていても問題ない。いい夢が見られるかもしれないし、ちょっと夜更かしでもしようかとテレビのスイッチを入れた。
―ヴンッ…―
画面に光が灯り綺麗な女性の姿が映し出される。
チャンネルを送ると別の女性に切り替わった。どれもレベルが高い。むしろ異様なほどに…
「うーん、とりあえずこの子で…」
やがてその中でもなんとなく心の琴線に触れた一人を選び再生を押した。
その瞬間…
「やっほー♪ご氏名ありがとぉー!」
「…は?」
突然、仰向けに横たわった身体の前面に柔らかな重みがのしかかる。画面の中に映っていたはずの女性が、5割増しに美化された姿で自らの前に現れていた。
「………。」
「ありゃ…?固まってる…おーい?」
そりゃ固まる。画面の中の人物が突然現実に現れたのだから。一昔前のホラー映画でもあるまいし…。さらにこちらの胸板に押し付けられ潰れる豊かな肉双球の感触が思考を邪魔するのだ。
だがやがてとある1つの可能性に思い至り戦慄する。
「ま、まさか魔物…」
「ほ?あたしたちをご存知?せいかーい♪サキュバスのルシカでぇす!よろしくネ♪」
魔物…今ネット界隈でまことしやかに囁かれている噂である。じわじわとこの世界に侵入してきている彼女らは人間社会のいたるところに潜み、目をつけた人間を魔界へと連れ去ってしまうと言うのだ。
コレだけ聞けばただ子供を怖がらせるためだけの方便、作り話、オカルトである。都市伝説にもならないだろう。
しかし、どうやらこの魔物とやらが存在すること自体はどうも事実らしいのだ。知り合いが消えた…、同じ職場の先輩が消えた…、交友関係が少ない者、未婚の者ほど狙われやすい等々…。そんな書き込みは絶えず掲示板に上がり、しかし役所や警察は全く動かない。そしてそれらの書き込みも程なくして削除されるのだと言う。
何か大きな力や陰謀が働いているのではないかと匂わせるこれらの噂は得体の知れない不気味さをもって、今や人々の間に暗黙のうちに広まっていた。
「…俺を魔界へ連れ去るつもりか?」
「うん♪………ダメ?」
「ダメに決まっているだろ!?」
自分でも驚くほどの大声が出た。完全防音だというこの狭い個室の壁に反射し響き渡る。
しかし、彼女に動じた様子は無い。
「えー…じゃあ万魔殿でもいいよ?あたし一応堕落神信徒だし?」
なんだそれは…。
「んんー…、…それじゃあゲームしようか?」
「ゲーム?」
何か妥協した様子で彼女からの提案があった。
「そう、あたしたちが人間を魔界へ連れ出すにはまず契約を交わさなくちゃいけない。で、契約を結ぶにはその人間の精が必要なの。あたしが今からあなたの精を搾り取ろうとするから、朝まで我慢できたらあなたの勝ち。ここから逃がしてあげる♪」
精って…
「うん、精♪」
彼女の白くしなやかな指先がガウンの上から股間に触れてくる。
…おそらくそういうことなのだろう。
「んふふ、大サービスであたしの方からココには触らないであげる♪ハンデだよ?どうする?チャレンジする?」
「…チャレンジしなかったら?」
「本気で搾る♪」
選択の余地が無いじゃないか…。
「サキュバスの本気のテク、舐めない方がいいよ?たぶん5分ももたないから♪あと逃げようとしても無駄だから。この扉は外からロックされてて朝7時まで開かないんだってさー♪」
「ホテルごとグルかい…」
事実上受けざるを得ないこの状況。もともと罠に掛かった獲物に拒否権など無かったのだ。
「……わかった、やる。」
観念した。
「よしよし♪じゃあ始めね。悪いようにはしないからさっさと負けちゃっていいよ♪」
ブシュゥ―ッ!
彼女がそう言うと同時に薄い桃色のガスが狭い個室に満ちた。ほのかな甘い匂いが拡がる。
「何これ…!?」
「あたしの淫気♪まぁ、媚薬みたいなものだと思ってくれていいよ。吸ってるとだんだんムラムラしてきてついでに快楽に対して敏感になっちゃうから気をつけてね♪」
ひ、卑怯な…
だがそう簡単にやられるつもりはない。生き残ってみせる。
彼女は直接的に手は出さないと言った。ならばさっさと寝てしまい、そのまま朝を待てばよいのだ。
目を覚ましたときは扉も開き、彼女は諦めて帰っていることだろう。
「…。」
無言で薄い枕を引き寄せ頭を乗せる。そして心を無にし、目を閉じた。
「そんな硬い枕じゃなくてさぁ、もっと柔らかいの使いなよ。ほら、わたしのおっぱい枕とか、さ!」
「んんっ!?」
だが敵はそう甘くなかった。
いつの間にか真横に移動し添い寝するような体勢になっていた彼女は、素早く後頭部と、枕の間に手を差し込むとそのまま、その細腕からは想像できないような力で彼女の巨大な胸へと抱き寄せてきた。
顔面が谷間に埋まる。個室に満ちる淫気を数倍濃くしたような甘ったるい臭いが鼻をつき、意識を持っていかれそうになった。
「どお?柔らかくていい匂いで…良く眠れそうでしょう?ココはあたしの身体の中でも一番濃く淫気が溜まるトコだから。この中で眠れば絶対に夢精できるよ♪って言っても寝かす前にいかせちゃうけど。…ほら、息を大きく吸ってー……、吐いてー…♪ふふ、上手上手♪」
危険だと分かっていながら、彼女の声に操られるかのように胸の間に溜まった空気を深く吸い込んでしまう。止めようにもどうしたらいいのかわからない。甘い臭いに脳が犯され、思考が纏まらない…
「それじゃあ次はもうちょっと気持ちよくなれる呼吸をしようか♪息を吸うのと同時に…あ、鼻だけで吸うんだよ?口はおっぱいで塞いじゃうからね?」
顔を覆う柔肉の圧迫が強まった。
「息を吸うのと一緒に、お股に軽く力を入れてみて?おちんちんの根元の更に奥…お尻の穴じゃないよ?はい、すうぅ―――…どう?ジワッとした気持ちよさ…わかった?じゃあ息を吐いて…そのまま何回も繰り返してみよっか♪」
声に促されるまま、深呼吸に合わせて力を込めて抜いてを繰り返してしまう。下腹部で膨らんでゆく淡い快感を楽しむように…
「ほら…気持ちイイのがどんどん大きくなってくるでしょ。怖がっちゃダメ、受け入れるの。さぁ続けて……そろそろ大きい波が来るから……3…2…1……はい、ぎゅー♪」
「――――ッ!?」
彼女のカウントダウンに合わせ、身体が浮き上がるような不思議な絶頂感が襲ってきた。
同時に顔面が更に強く抱き締められる。
「あっ…ぁ……ぁ…、」
それは十数秒間にわたって継続し、その両方から開放された時にはもう、全力のマラソンを走った後のような疲労感とともに全身の力が抜けてしまっていた。
「はい、ドライ達成〜♪気持ちよかったでしょ?」
隣に寝たルシカが無邪気に笑った。
「大丈夫、射精はしてない筈だよ。まだまだゲームを楽しみたいもんねぇ♪」
「………。」
完全に弄ばれている・
「もう一回ドライでいかせてあげる。…でもせっかくだから今度は別のところでやってみようか?」
「べ…つ……?」
無意識に彼女の言葉を繰り返す。その意味を頭が理解する前に、身体が宙に浮いた。
「わ…!?」
中に浮いた身体の下にすかさず彼女が滑り込んでくる。そして落下…
結果、今度は仰向けに背後から抱きすくめられるような体勢で拘束されてしまった。
先程まで顔面が囚われていた胸の間には今は後頭部が埋まり、両腕は腹に回されびくともしない。
「この部屋マットも硬いよねぇ…だから、あたしが敷布団になってあげる♪」
「今度は何を…」
「乳首でイったことある?」
「…ゑ?」
腹部を拘束していた彼女の両腕がガウンの下にもぐり込み、胸へと這う。
皮膚が粟立つようなくすぐったい快感を残して、その指先はそこに至った。
「普通なら長い時間をかけて開発するかぁ、特殊なお薬でも使わないとそこだけで絶頂するほど敏感にはならないんだけど…濃い淫気を嗅がせた上で軽い催眠をかければ案外簡単に開発できちゃうんだよねぇ♪服に擦れるだけでアヘっちゃうようなエッチなお胸にしてあ・げ・る♪」
「ひぇぇ……」
………、
……、
…。
「…どうかな?もう天国なんじゃない?」
「ぁ………ぁ……」
あれから何時間が経っただろうか。彼女の上に寝かせられたまま、延々と上半身への愛撫を受け続けた。この間、数え切れないほどの射精を伴わない絶頂を繰り返し極めさせられ、息も絶え絶えの状態。パンツには先走りの汁で大きな染みが出来ていることだろう。
いつ気を失ってもおかしくない状況なのだが彼女の指がそれを許さない。
そしてその上半身はと言えば彼女の言うとおり『開発』されてしまったのか、もう指先が先端に触れるだけで背筋が仰け反るほどの快楽が走るようになってしまっている。これが一時的なものなのか、あるいは永遠にこのままなのか…快楽に蕩けた頭の片隅が警報を鳴らすが既に肉体は言うことを聞かない。いずれにしろ意識が眠りに落ちようとするたび、両の突起が引っ掻かれ揉み潰され、強制的に覚醒させられるのだ。
「淫気もだいぶ濃くなってきたし…これからどんどん敏感になってくよ♪」
気付けば視界は桃色に染まり、甘い臭いも濃くなっていった。身体の感度が上がっているのはこの影響もあるのだろう。
疲労感が積み重なり強烈な眠気が襲ってきていた。柔らかな肉のベッドの上で甘い香りと快楽に包まれ、このまま眠ることが出来たらどれだけ幸福だろうか。しかしこのまま寝てしまえば夢精は避けられないだろう。そもそも、背中に張り付く彼女が寝かせてくれない。
「ふふ……もうおネムかなぁ♪寝たい?もう寝たい?」
こちらの感情を読んでいるかのような絶妙なタイミングで彼女が耳元に囁いてくる。
「このまま眠りにつけたら気持ちいいよねぇ…?一回だけ、一回だけ精を吐き出してくれたらこのまま寝かせてあげるんだけどなぁ…♪」
そうは言っても射精したらその瞬間魔界行き決定である。
…しかしもうそれでもいいような気もしてきた。睡眠欲は全てに勝る。
「魔界はいいトコだよ?大事にするからさぁ…、ね?」
そしてダメ押しの甘言。
「……。」コクリ
気付いたときには、甘く誘う睡魔と彼女の言葉に釣られるように、小さく頷いてしまっていた。
「やったぁ♪じゃあそのまま動かないでね?すぐやっちゃうから♪」
彼女の両手が下半身へと伸びる。脇腹、鼠径部をなぞり硬く震えるペニス…を通り過ぎ内腿へと至った。
「ここは触らないって約束したでしょ?触らずにお漏らしさせてあげる♪」
指先が淫気で更に敏感になった大腿部の内側と袋を擽り、同時に両の親指が陰茎の付け根を優しくマッサージした。その瞬間、急激に射精感が沸きあがり始める。
「…な、なんで………!?」
「ふふ、なんでだろうねぇ?でも分かるんだぁ♪どこをどうすれば相手がイっちゃうのか。今の君は淫気のせいで全身の性感帯が開発されてるから、いろんなところに射精のスイッチが出来ちゃってるんだよ。魔界に行ったら一つ一つ試しながら教えてあげる♪さぁ、もう耐えられないでしょ、そのまま漏らしちゃっていいよ♪」
彼女の言うとおり、最早自分の意思では止められないところまであっという間に精液が上ってきてしまっていた。そして、程なくして溢れ始める。その射精に勢いは無く、まさに漏らすと言う表現がしっくりくる穏やかなものだった。
快感と安らぎとともに、眠気が意識を刈り取りに来る。
「おやすみ…。目が覚めたら次は魔界で…ね♪」
カプセルの照明が濃い桃色に切り変わった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――時刻は午前2時をまわった頃だろうか。個室のカプセルが並ぶ廊下に1人分の足音が響く。
「ありゃー、今日はあんまりビデオ見てくれなかったかぁ…。」
そうぼやくのはフロントで受付をしていた青年。いつもより照明が落ちているカプセルが多い。テレビを点けずにそのまま寝てしまった客が多かったということだ。
「勝手に連れてってくれた方が朝の作業が楽なんだけどなぁ。」
誰にとも無く呟きながら、彼はカプセル横に備え付けられたパネルを弄る。親指の指紋をかざしスイッチを入れると個室の照明が点灯し、同時に濃い桃色のガスがカプセル内に噴出した。中で寝ていた客が目を覚ましたか、或いは反射的な肉体の反応か、バタンと床を打つ音が聞こえたがすぐに静かになった。まぁ、仮に目を覚ましていようがこの強化ガラス製の扉は朝の7時まで決して開くことは無い。その間ガスで無限に絶頂を繰り返し、規定の時間が経つ頃には四肢の筋肉が完全に弛緩し動けなくなっている筈だ。
そして、そうやって『出来上がった』男たちを回収する為のトラックが朝の8時に来る。それまでなるべく長く寝ておきたい為、この作業は手早く終わらせたかった。彼は淡々と照明が消えているカプセルのスイッチを操作してゆく。
「………。」
自分がかなりヤバイ事に関わっているのは分かっている。しかしこれまで役所も警察も何も言ってこなかった。それどころか以前市役所の職員が視察に来て労われたことさえある。その職員の様子がとにかく異様だったのでよく覚えている。腫れ物に触るような、何かに脅えている様な…とにかく一刻も早く此処を立ち去りたいのだけは伝わってきた。
そして彼が案内していた男性はたまにテレビで見かける代議士に良く似ていた…ような気がする。更にその隣に居た白髪の美女は……
……、
……やめておこう。
下手に首を突っ込めば今度は自分がこのカプセルの中に入ることになる。……前任の先輩のように。
これは割りのいいバイト。それだけでいい。
「……よし。」
客の入っている全ての個室の処置を終え、彼は足早に仮眠室へと向かった。
17/12/10 03:36更新 / ラッペル