魔界への招待
薄暗い裏路地を一人の男が走っていた。
まだかろうじて青年と呼べなくもない年にも見えるがその痩せ気味の体には体力などありそうも無い。しかし必死の形相で路地に積まれた木箱を飛び越え、日陰にたむろす少年達の脇を抜け、ただひたすらに駆けてゆく。
そしてその傍らには併走する一体の従者の姿があった。
「マスター、前方から5名来ます。回り込まれました。」
「ちっ、ならば上だ!」
「御意。」
前と後ろからの挟み撃ち、ならば上か下に逃げるしかない。男は従者にしがみつき、彼女はその内に組み込まれた『機構』を使い跳躍した。
破裂音と共に石畳が砕け、二人目の姿が空へと吸い込まれてゆく。
3階建ての宿屋の屋根を軽々と越え、眼下に住み慣れた街並みが広がった。その素晴らしき眺めも今は寂寞たることこの上ない。いずれ誰もがこの景色を見ることが出来るようになる筈だった…。そのような未来を夢見、そして確信して、これまでやってきたのだ。
滞空はピークを過ぎ、降下が始まる。屋根瓦を砕きながら通りを2本程飛び越え、反対側の小道へと着地。ここまではまだ追っ手も来れていないようだ。
「さて…、ここからどうするか……というより何とか身を隠して国境まで辿り着くしか無いが…。まさか本当に亡命する事になるとは…」
「お供いたします。私は…マスターとであればどこまででも…」
「貴方達を待っていたわ。」
………。
「「…あんた誰?」」
突然の第三者の声…振り返るとそこには、厚手の外套を纏った謎の仮面の女が立っていた。
……………………。
…この不審者の正体はさておき、事の起こりは半日程前に遡る。
「チクショーめぇ!!」
帝都から大分離れた辺境の街…その中心街にとある男の慟哭が響いた。
「あんな文官上がりの検査官に何が解る!目に見える成果を出せだと!?そもそも成果とは何だ?魔導ゴーレムの量産に繋がる技術だぞ!?これが成果で無いなら成果とは一体何なのだッ!言えるものなら言ってみろ!!」
「まったくです!マスターを解雇するなど、あの者達の目は節穴です!私の妹達がこの街を跋扈する日を楽しみにしていたというのにッ!!」
事情はご覧のとおりである。
ここは帝国技術省所管の研究所前。この男はこの場所に勤める研究員だったが監査の結果、研究成果が認められずクビになり、つい先程強制退去させられたところだった。
ちなみにその隣で主人と共に憤っているのは彼の作成したゴーレムである。名をエリス・マキナといい既に自我を持って久しい…、彼の助手にして相棒だ。
彼はゴーレムを専門とする魔導技師であった。
「ゴーレムの大量生産が成れば帝国の生産性は飛躍的に向上すると言うのに…何が不満なのだ!?」
「聞いた話では労働者組合の幹部が不安を漏らしていたそうですが。ゴーレムに職を奪われるとかなんとか…」
「そんなものは一人当たりの所有台数に制限を設ければ済む話だ。むしろ肉体労働者には助けになる筈だろうに。だいたいゴーレムは燃料に人間の精を要求するのだ、強欲な工場経営者が大量に所有などしようものならあっという間に干物になるのがオチだろう!」
「流石に主人を搾り殺すようなマネはしないとは思いますがまぁ家から出られなくはなるでしょうね。……ならば教会の圧力でしょうかね?魔に通ずる技術だと称して度々非難と妨害と脅しを加えてきましたし。ここは名目上中立とはいえ教会の勢力も大分入り込んでいますから…。上も教会に目を付けられたくはないでしょうし。」
「ありそうな話ではあるが…、そんな事だから魔界の軍勢には敗北を重ね、親魔領国家群には技術水準で遅れを取るのだ。」
「まったくその通りです。」
……。
「…帰ろうか。」
「はい♪」
日頃からの不満を少しばかりぶちまけ、やや気持ちが落ち着いた。まぁいつまでもここに居ても仕方がない。とりあえず自宅に帰る事にする。
「…さて、これからどうしようか。」
研究所から徒歩でしばらく、中心街の外れにある自宅へと着いた。ドアに鍵をかけ、ポツリとつぶやく。
この家は借り家である。中心街から離れているため家賃は低めだが今後の収入によっては引越を考えなくてはならない。若干広めのスペースを生かして個人的な簡易工房も設置してあるのでなるべくなら移動したくはなかったが…
「マスター…」
今後のことについて思案を巡らせていると後ろに控えていたエリスに服を引っ張られた。
「どうした?」
「お腹が空きました。」
「………。」
そういえば今日はまだ補給をしていなかった。彼女らの燃料である精の補給は所有者の責務である。
常に携帯するようにしているポーチから小型の注射器を取り出し、腕に当てた。
「あのー…血じゃなくて…直接精液で頂いちゃダメですか?もう性能試験に気を遣う必要もない訳ですし…。」
「あー…、まぁ…言われてみればそれもそうだが……」
一応教会の勢力圏に属するこの街ではゴーレムの所有こそ研究用の特例措置として認められたものの彼女らとの性的行為については厳しく制限されていた。だが広義の魔物に属するゴーレムは人間から精を取り込み体内で魔力に変換することで動力を得る。そこで苦肉の策として血液に含まれる精を利用できるよう改造を施したのだ。精液を直接取り込んだ場合と比較して性能は大幅に落ちるが仕方がない。精液を使って出したデータは公式の記録として採用されないのだから……。
だが最早今となってはそんな事に気を遣う必要も無いのだ。一応性的行為自体が違法とされているがバレなければ犯罪ではない。
「分かった、そうしよう。」
「ありがとうございます♪」
彼女の顔が喜色に染まる。
…比喩ではなく、本当に彼女の白磁の肌に微かに朱が指したのだ。
彼女は一般的なゴーレムと異なり純白の肌を持っている。それは材料となる土について、わざわざとある砂漠のオアシスにまで出向き、そこにある白砂を用いた事による。しかもそれを更に細かく粉末状になるまで砕いてから使用した。それにより彼女の肌やその他各機関はシルクのような手触りを持ち、加えて流動するきめ細かな砂により限りなく人肌に近い…いや、それを超えた感触を会得するに至った。更に微量に混入してある色付きの砂によりある程度の色調変化すらも可能なのだ。
彼女を作り上げた時には特に意味の無いこだわりだった。単に他と違うものを創り出したかっただけなのだ。しかしそのこだわりの成果は今こうして思わぬ所で発揮される。
「では失礼して…使うのは久しぶりですが搾精機構自体は今日の日のために色々と自己改修を重ねてきたのです…覚悟してくださいね♪」
「お…お手柔らかにな……」
流れるような動作で下半身を脱がされ…目の前に跪いた彼女の、その肌と同じ色をした口腔に股間のものが飲み込まれる。同時に純白の腕が腰に回されがっちりと抱き締められた。…こうなれば最早人間の力では逃れることは出来ない。彼女が満足するまでひたすら精を搾り取られる事しか許されないのだ。
獲物をくわえ込んだ彼女の眼が淫猥に歪む。
「うおっ…!?」
内部の機構が活動を始めた。
スライムの如く流動する泥砂が肉棒を包み込み高速で回転し始める。極上の絹布で研磨されるようなその刺激に思わず腰が引けた。…が、後ろに回された彼女の腕が捕らえた獲物を逃がさない。表面を撫ぜるくすぐったい刺激が性感を高め続け、しかしあまりに緩い締め付けが決して射精に導かない。そのもどかしくも暴力的な淫虐に悶絶し無意識に彼女の頭を押さえつけるが、ゴーレムの強靭な身体はそんな事ではびくともしない。どうすることも出来ずただそのもどかしくも強烈な快感に悶える様を彼女は好色な笑みを浮かべて見つめている。
そしてどれだけ時間が経ったのか…性感が十分溜まったと判断されたらしく咥内の圧力が徐々に増し始める。まるで耐久性試験のように、段階的に上昇する締め付け…そして吸引刺激。その間も肉棒を取り巻く渦潮は一切その速度を緩めない。やがて加えられる快感がある閾値を超え、それまで溜め込まれていた大量の精が迸った。
「……ッ!?」
「……♪」
こちらが声にならない悲鳴を上げるのとは対照的に、彼女はただ喉奥に吐き出される精液を淡々と飲み込んでゆく。しかしその表情は恍惚に蕩けていた。
精を取り込んだ土の身体に力が漲ってゆく…。
「ふぅ…ごちそうさまでした♪あぁ〜やっぱり精はこうやって生で頂くのが最高です♪さて…今の搾精でマスターの性感帯と耐久力のデータが更新出来ましたので、次からは常に快感を最大化した状態で射精に導く事が可能です。ここからが本番ですよぉ♪マスターのためにご用意した機構がたくさんあるんです!口だけではなく胸や手、髪、足…そしてお股の搾精ユニット。そしてそれぞれについて形状の変化が可能で…先程のスタンダードタイプからイボ、襞、吸盤、触手…更にそれらを組み合わせ……」
嬉々として自らの機能を紹介するエリス…。まさか知らないうちに彼女がここまで性機能を充実させていたとは思わなかった。対してこちらは先程の単なる動作確認とデータ収集を兼ねた搾精でほぼ腰砕けになってしまっている。彼女が腰に回した腕を解けばその瞬間に床に崩れ落ちるだろう。
「ではマスター、次はどの機構をお試しになりますか?私的にお勧めなのは…」
「いや、続きは夜にしよう。」
「ええッ!?そんなー……」
エリスの顔が絶望に染まる。
少々心が痛むがさしあたり精の補給は出来た、少なくとも半日以上は持つだろう。このまま続けていたら午後丸々動けなくてはなりそうだ。
「さて、これからどうするか考えなければ…」
衣服を整えながら思案する。
実際、エリスの改修に私費もかなり投じていたため蓄えはあまり無い。すぐにでも次の仕事を探しに行かなければならなかった。
「…いっそ親魔領に移住してしまおうか。あちらなら非合理的な制約など無く研究が進められるだろうし…」
「そ、それがいいと思います!マスターの精を吸い放題…じゃなくてご研究も進展するでしょうし!」
そのやや投げやりな提案にエリスが驚くほどの食いつきを示す。若干個人的な欲望が垣間見えたが、研究者として生きるならそれが合理的な選択だ。政治にはあまり詳しくは無いが、このままではおそらく主神教団と反魔領に先は無い。魔導関係を筆頭に技術力では親魔領に大きく水をあけられ、しかもその差は年々拡がるばかり…、頼みの綱の勇者達も近頃は魔王軍の強者に敗北が相次いでいるという。
だが…
「…いや、無理か。蓄えが無い。」
「はう……」
そう。親魔領へ行くとなれば殆ど亡命に近い形となる。長旅に耐えうる準備、装備と信頼の出来る案内が要る…いずれにしろある程度の金が必要だった。また、目指す親魔領についての情報も不足している。技術的に進んだ親魔領で自分の魔導工学が果たして通用するのか…せっかく着いても技術レベル差があり過ぎて職に就けないのでは野垂れ死にである。それを避けるためにも資金には余裕を持っておきたい。
…結局、どうするにしても金を稼がねばならないのだ。
「申し訳ありません。私の改修費用が…」
「気にするな。君は特別な存在なのだ。私の最初の作品であり最高の相棒だと思っている。だからこそ思い付く限り、出来得る限りの改良を重ねてきた。私がそうしたかったからそうしただけの事…むしろ私のエゴだ。そのせいで不便をかけることをこそ謝りたい。」
「あぁマスター…♥そのようなこと仰らないでください……、私のこの身体も心も全てマスターのもの…。お側に置いて頂けるだけで私はこの上なく幸せなのでごさいます…。どうか末永く使ってくだされば他に望むことなど…」
「私も君さえ居れば何処だって生きていけるんだ…着いてきてくれるか?」
「はい…マスターとなら例え魔界の果てまでも!」
「エリス…」
「マスター…」
「……。」
「……。」
「……まぁ茶番はこの位にして当面の仕事を探しに行くとしようか。」
「はい。でもそろそろお昼ですから昼食をとってからにしましょう。何か軽いものでも作りますね。」
「あぁ、すまないが頼む。」
エリスが台所へと向かう。…と途中で足を止め振り向いた。
「でもマスター、先程の気持ちは本当です。亡命するのでしたらいつでも仰ってくださいね?」
「そうだな…そうせざるを得ない状況になったらその時は頼りにさせてもらうよ。」
「はい♪」
バァン!!
突然、扉が吹き飛んだ。それと同時に数人の男がわらわらと入って来る。
「憲兵隊だ!!ロニーム・エヴァン、教会の名により貴様のゴーレムを回収する!」
「「……。」」
「エリス…早速で悪いが亡命しようか。」
「はい、マスター。」
ーーーーーーーーーーー。
そして彼女に装備させていた超近接砲により押し入ってきた兵隊を吹き飛ばしたのち、逃走を続けて今に至るという訳である。
「…で、あんたは一体誰なんだ。」
突然現れた不審な女…仮面で表情は隠され、まるで雪国から来たかのような厚手のコートを羽織っている。顔は分からないが自分にこんな知り合いはいなかったはずだ。
女は答えず、頭を覆うフードを取り払った。雪のような純白の長髪と魔族特有の長い耳が露わになる。
「魔物…!?しかもあんたまさか……」
頭の露出と同時に襲い来る圧倒的なプレッシャー…たがそんな存在がこんなところに居る筈が…。
「私は魔王軍南方第72司令部司令メルウィーナ。お察しの通り種族はリリムよ。」
……居た。
「その魔王軍幹部様がなんでこんなところに…?」
「貴方たちをスカウトに来たの。」
「……は?」
「今私の所で進めているプロジェクトの為にゴーレムを扱える魔導技師が必要なのよ。貴方たちここから逃げようとしているんでしょう?ならば魔王軍に来なさい、相応の待遇は保障するわ。」
…親魔領を目指して逃げようとしたのだが、それを飛び越えまさかの魔界からのお誘いである。
しかしこの場を切り抜ける事だけを考えたら正に渡りに船、願ったり叶ったりだ。
「マスター、私は賛成です。先ずはここを離れなければ…」
エリスもそう言っている。
「……わかった。よろしく頼む。」
「ふふ、賢明ね。」
「居たゾォ!!」
そうしている間にも追っ手に見つかった。途中で別の隊と合流したのかその人数は十数人に増えている。
「とりあえずあの子たちを何とかしなきゃね。ここは私に任せてちょうだい。」
リリムが前に出た。
彼女は顔を覆った仮面を外し、その身体に纏ったコートに手をかける。
「ズボンを汚したくなかったら後ろに居た方がいいわ。私今これの下に何も着てないの。」
「ゑ?」
その言葉を理解するより早く、彼女はコートの前を押っ広げた。
「「「のほおおおおおおおおおーッ!?」」」
彼女が全裸を晒したその瞬間、追っ手の男達がもんどり打って倒れ込む。皆一様に股間を押さえ、地面をのたうち回っている。ついでに射線上に居た一般通行人も老若男女共々巻き込まれ全滅した。
「ふっ…、地上最強の痴女たる私の前に立つなど…あら?」
見れば地面に伏し、終わらない絶頂に悶え続ける男達の中にあってただ一人立ち上がり、此方を睨みつける者が居た。
「この変態女が…大人しくその男とゴーレムをこちらへ渡せ!」
此方を指さし気丈に怒鳴り声を上げるもその脚はやや内股になりガクガクと震えている。
全く効いていない訳でもないようだ。
「…遅漏?それとも不感症?いずれにしろ良くないわ。私が治療してあげる♪」
そう言って彼女はそのイキ残りの男に近づくと彼の股間へと手を向ける。その手指は心なしか淡く青白に輝いているように見えた。
「や…やめ……」
「えい♪」
「はひいいいいいいぃーッ!!?」
そして彼女がその手で彼の股間を軽く撫で上げると男はひとたまりも無く膝から崩れ落ちる。
「これで貴男も明日からちゃんと気持ちよくなれるはずだわ。ふふ…なり過ぎちゃうかも知れないけどネ♪」
その声が聞こえたいるのかいないのか…その哀れな被害者は全身を弛緩させたまま、時折ヒクヒクと痙攣を繰り返すのみだった。
「…さて、邪魔者も無力化出来たことだし、行きましょうか。」
(マスター…さっきは賛成しておいてなんですが本当について行って大丈夫なんでしょうか?)
(そうは言ってもこちらがどうこう言える状況ではない。とりあえず話を合わせておくのだ!)
(はい…)
かくして一人と一体の魔界生活が始まった。
まだかろうじて青年と呼べなくもない年にも見えるがその痩せ気味の体には体力などありそうも無い。しかし必死の形相で路地に積まれた木箱を飛び越え、日陰にたむろす少年達の脇を抜け、ただひたすらに駆けてゆく。
そしてその傍らには併走する一体の従者の姿があった。
「マスター、前方から5名来ます。回り込まれました。」
「ちっ、ならば上だ!」
「御意。」
前と後ろからの挟み撃ち、ならば上か下に逃げるしかない。男は従者にしがみつき、彼女はその内に組み込まれた『機構』を使い跳躍した。
破裂音と共に石畳が砕け、二人目の姿が空へと吸い込まれてゆく。
3階建ての宿屋の屋根を軽々と越え、眼下に住み慣れた街並みが広がった。その素晴らしき眺めも今は寂寞たることこの上ない。いずれ誰もがこの景色を見ることが出来るようになる筈だった…。そのような未来を夢見、そして確信して、これまでやってきたのだ。
滞空はピークを過ぎ、降下が始まる。屋根瓦を砕きながら通りを2本程飛び越え、反対側の小道へと着地。ここまではまだ追っ手も来れていないようだ。
「さて…、ここからどうするか……というより何とか身を隠して国境まで辿り着くしか無いが…。まさか本当に亡命する事になるとは…」
「お供いたします。私は…マスターとであればどこまででも…」
「貴方達を待っていたわ。」
………。
「「…あんた誰?」」
突然の第三者の声…振り返るとそこには、厚手の外套を纏った謎の仮面の女が立っていた。
……………………。
…この不審者の正体はさておき、事の起こりは半日程前に遡る。
「チクショーめぇ!!」
帝都から大分離れた辺境の街…その中心街にとある男の慟哭が響いた。
「あんな文官上がりの検査官に何が解る!目に見える成果を出せだと!?そもそも成果とは何だ?魔導ゴーレムの量産に繋がる技術だぞ!?これが成果で無いなら成果とは一体何なのだッ!言えるものなら言ってみろ!!」
「まったくです!マスターを解雇するなど、あの者達の目は節穴です!私の妹達がこの街を跋扈する日を楽しみにしていたというのにッ!!」
事情はご覧のとおりである。
ここは帝国技術省所管の研究所前。この男はこの場所に勤める研究員だったが監査の結果、研究成果が認められずクビになり、つい先程強制退去させられたところだった。
ちなみにその隣で主人と共に憤っているのは彼の作成したゴーレムである。名をエリス・マキナといい既に自我を持って久しい…、彼の助手にして相棒だ。
彼はゴーレムを専門とする魔導技師であった。
「ゴーレムの大量生産が成れば帝国の生産性は飛躍的に向上すると言うのに…何が不満なのだ!?」
「聞いた話では労働者組合の幹部が不安を漏らしていたそうですが。ゴーレムに職を奪われるとかなんとか…」
「そんなものは一人当たりの所有台数に制限を設ければ済む話だ。むしろ肉体労働者には助けになる筈だろうに。だいたいゴーレムは燃料に人間の精を要求するのだ、強欲な工場経営者が大量に所有などしようものならあっという間に干物になるのがオチだろう!」
「流石に主人を搾り殺すようなマネはしないとは思いますがまぁ家から出られなくはなるでしょうね。……ならば教会の圧力でしょうかね?魔に通ずる技術だと称して度々非難と妨害と脅しを加えてきましたし。ここは名目上中立とはいえ教会の勢力も大分入り込んでいますから…。上も教会に目を付けられたくはないでしょうし。」
「ありそうな話ではあるが…、そんな事だから魔界の軍勢には敗北を重ね、親魔領国家群には技術水準で遅れを取るのだ。」
「まったくその通りです。」
……。
「…帰ろうか。」
「はい♪」
日頃からの不満を少しばかりぶちまけ、やや気持ちが落ち着いた。まぁいつまでもここに居ても仕方がない。とりあえず自宅に帰る事にする。
「…さて、これからどうしようか。」
研究所から徒歩でしばらく、中心街の外れにある自宅へと着いた。ドアに鍵をかけ、ポツリとつぶやく。
この家は借り家である。中心街から離れているため家賃は低めだが今後の収入によっては引越を考えなくてはならない。若干広めのスペースを生かして個人的な簡易工房も設置してあるのでなるべくなら移動したくはなかったが…
「マスター…」
今後のことについて思案を巡らせていると後ろに控えていたエリスに服を引っ張られた。
「どうした?」
「お腹が空きました。」
「………。」
そういえば今日はまだ補給をしていなかった。彼女らの燃料である精の補給は所有者の責務である。
常に携帯するようにしているポーチから小型の注射器を取り出し、腕に当てた。
「あのー…血じゃなくて…直接精液で頂いちゃダメですか?もう性能試験に気を遣う必要もない訳ですし…。」
「あー…、まぁ…言われてみればそれもそうだが……」
一応教会の勢力圏に属するこの街ではゴーレムの所有こそ研究用の特例措置として認められたものの彼女らとの性的行為については厳しく制限されていた。だが広義の魔物に属するゴーレムは人間から精を取り込み体内で魔力に変換することで動力を得る。そこで苦肉の策として血液に含まれる精を利用できるよう改造を施したのだ。精液を直接取り込んだ場合と比較して性能は大幅に落ちるが仕方がない。精液を使って出したデータは公式の記録として採用されないのだから……。
だが最早今となってはそんな事に気を遣う必要も無いのだ。一応性的行為自体が違法とされているがバレなければ犯罪ではない。
「分かった、そうしよう。」
「ありがとうございます♪」
彼女の顔が喜色に染まる。
…比喩ではなく、本当に彼女の白磁の肌に微かに朱が指したのだ。
彼女は一般的なゴーレムと異なり純白の肌を持っている。それは材料となる土について、わざわざとある砂漠のオアシスにまで出向き、そこにある白砂を用いた事による。しかもそれを更に細かく粉末状になるまで砕いてから使用した。それにより彼女の肌やその他各機関はシルクのような手触りを持ち、加えて流動するきめ細かな砂により限りなく人肌に近い…いや、それを超えた感触を会得するに至った。更に微量に混入してある色付きの砂によりある程度の色調変化すらも可能なのだ。
彼女を作り上げた時には特に意味の無いこだわりだった。単に他と違うものを創り出したかっただけなのだ。しかしそのこだわりの成果は今こうして思わぬ所で発揮される。
「では失礼して…使うのは久しぶりですが搾精機構自体は今日の日のために色々と自己改修を重ねてきたのです…覚悟してくださいね♪」
「お…お手柔らかにな……」
流れるような動作で下半身を脱がされ…目の前に跪いた彼女の、その肌と同じ色をした口腔に股間のものが飲み込まれる。同時に純白の腕が腰に回されがっちりと抱き締められた。…こうなれば最早人間の力では逃れることは出来ない。彼女が満足するまでひたすら精を搾り取られる事しか許されないのだ。
獲物をくわえ込んだ彼女の眼が淫猥に歪む。
「うおっ…!?」
内部の機構が活動を始めた。
スライムの如く流動する泥砂が肉棒を包み込み高速で回転し始める。極上の絹布で研磨されるようなその刺激に思わず腰が引けた。…が、後ろに回された彼女の腕が捕らえた獲物を逃がさない。表面を撫ぜるくすぐったい刺激が性感を高め続け、しかしあまりに緩い締め付けが決して射精に導かない。そのもどかしくも暴力的な淫虐に悶絶し無意識に彼女の頭を押さえつけるが、ゴーレムの強靭な身体はそんな事ではびくともしない。どうすることも出来ずただそのもどかしくも強烈な快感に悶える様を彼女は好色な笑みを浮かべて見つめている。
そしてどれだけ時間が経ったのか…性感が十分溜まったと判断されたらしく咥内の圧力が徐々に増し始める。まるで耐久性試験のように、段階的に上昇する締め付け…そして吸引刺激。その間も肉棒を取り巻く渦潮は一切その速度を緩めない。やがて加えられる快感がある閾値を超え、それまで溜め込まれていた大量の精が迸った。
「……ッ!?」
「……♪」
こちらが声にならない悲鳴を上げるのとは対照的に、彼女はただ喉奥に吐き出される精液を淡々と飲み込んでゆく。しかしその表情は恍惚に蕩けていた。
精を取り込んだ土の身体に力が漲ってゆく…。
「ふぅ…ごちそうさまでした♪あぁ〜やっぱり精はこうやって生で頂くのが最高です♪さて…今の搾精でマスターの性感帯と耐久力のデータが更新出来ましたので、次からは常に快感を最大化した状態で射精に導く事が可能です。ここからが本番ですよぉ♪マスターのためにご用意した機構がたくさんあるんです!口だけではなく胸や手、髪、足…そしてお股の搾精ユニット。そしてそれぞれについて形状の変化が可能で…先程のスタンダードタイプからイボ、襞、吸盤、触手…更にそれらを組み合わせ……」
嬉々として自らの機能を紹介するエリス…。まさか知らないうちに彼女がここまで性機能を充実させていたとは思わなかった。対してこちらは先程の単なる動作確認とデータ収集を兼ねた搾精でほぼ腰砕けになってしまっている。彼女が腰に回した腕を解けばその瞬間に床に崩れ落ちるだろう。
「ではマスター、次はどの機構をお試しになりますか?私的にお勧めなのは…」
「いや、続きは夜にしよう。」
「ええッ!?そんなー……」
エリスの顔が絶望に染まる。
少々心が痛むがさしあたり精の補給は出来た、少なくとも半日以上は持つだろう。このまま続けていたら午後丸々動けなくてはなりそうだ。
「さて、これからどうするか考えなければ…」
衣服を整えながら思案する。
実際、エリスの改修に私費もかなり投じていたため蓄えはあまり無い。すぐにでも次の仕事を探しに行かなければならなかった。
「…いっそ親魔領に移住してしまおうか。あちらなら非合理的な制約など無く研究が進められるだろうし…」
「そ、それがいいと思います!マスターの精を吸い放題…じゃなくてご研究も進展するでしょうし!」
そのやや投げやりな提案にエリスが驚くほどの食いつきを示す。若干個人的な欲望が垣間見えたが、研究者として生きるならそれが合理的な選択だ。政治にはあまり詳しくは無いが、このままではおそらく主神教団と反魔領に先は無い。魔導関係を筆頭に技術力では親魔領に大きく水をあけられ、しかもその差は年々拡がるばかり…、頼みの綱の勇者達も近頃は魔王軍の強者に敗北が相次いでいるという。
だが…
「…いや、無理か。蓄えが無い。」
「はう……」
そう。親魔領へ行くとなれば殆ど亡命に近い形となる。長旅に耐えうる準備、装備と信頼の出来る案内が要る…いずれにしろある程度の金が必要だった。また、目指す親魔領についての情報も不足している。技術的に進んだ親魔領で自分の魔導工学が果たして通用するのか…せっかく着いても技術レベル差があり過ぎて職に就けないのでは野垂れ死にである。それを避けるためにも資金には余裕を持っておきたい。
…結局、どうするにしても金を稼がねばならないのだ。
「申し訳ありません。私の改修費用が…」
「気にするな。君は特別な存在なのだ。私の最初の作品であり最高の相棒だと思っている。だからこそ思い付く限り、出来得る限りの改良を重ねてきた。私がそうしたかったからそうしただけの事…むしろ私のエゴだ。そのせいで不便をかけることをこそ謝りたい。」
「あぁマスター…♥そのようなこと仰らないでください……、私のこの身体も心も全てマスターのもの…。お側に置いて頂けるだけで私はこの上なく幸せなのでごさいます…。どうか末永く使ってくだされば他に望むことなど…」
「私も君さえ居れば何処だって生きていけるんだ…着いてきてくれるか?」
「はい…マスターとなら例え魔界の果てまでも!」
「エリス…」
「マスター…」
「……。」
「……。」
「……まぁ茶番はこの位にして当面の仕事を探しに行くとしようか。」
「はい。でもそろそろお昼ですから昼食をとってからにしましょう。何か軽いものでも作りますね。」
「あぁ、すまないが頼む。」
エリスが台所へと向かう。…と途中で足を止め振り向いた。
「でもマスター、先程の気持ちは本当です。亡命するのでしたらいつでも仰ってくださいね?」
「そうだな…そうせざるを得ない状況になったらその時は頼りにさせてもらうよ。」
「はい♪」
バァン!!
突然、扉が吹き飛んだ。それと同時に数人の男がわらわらと入って来る。
「憲兵隊だ!!ロニーム・エヴァン、教会の名により貴様のゴーレムを回収する!」
「「……。」」
「エリス…早速で悪いが亡命しようか。」
「はい、マスター。」
ーーーーーーーーーーー。
そして彼女に装備させていた超近接砲により押し入ってきた兵隊を吹き飛ばしたのち、逃走を続けて今に至るという訳である。
「…で、あんたは一体誰なんだ。」
突然現れた不審な女…仮面で表情は隠され、まるで雪国から来たかのような厚手のコートを羽織っている。顔は分からないが自分にこんな知り合いはいなかったはずだ。
女は答えず、頭を覆うフードを取り払った。雪のような純白の長髪と魔族特有の長い耳が露わになる。
「魔物…!?しかもあんたまさか……」
頭の露出と同時に襲い来る圧倒的なプレッシャー…たがそんな存在がこんなところに居る筈が…。
「私は魔王軍南方第72司令部司令メルウィーナ。お察しの通り種族はリリムよ。」
……居た。
「その魔王軍幹部様がなんでこんなところに…?」
「貴方たちをスカウトに来たの。」
「……は?」
「今私の所で進めているプロジェクトの為にゴーレムを扱える魔導技師が必要なのよ。貴方たちここから逃げようとしているんでしょう?ならば魔王軍に来なさい、相応の待遇は保障するわ。」
…親魔領を目指して逃げようとしたのだが、それを飛び越えまさかの魔界からのお誘いである。
しかしこの場を切り抜ける事だけを考えたら正に渡りに船、願ったり叶ったりだ。
「マスター、私は賛成です。先ずはここを離れなければ…」
エリスもそう言っている。
「……わかった。よろしく頼む。」
「ふふ、賢明ね。」
「居たゾォ!!」
そうしている間にも追っ手に見つかった。途中で別の隊と合流したのかその人数は十数人に増えている。
「とりあえずあの子たちを何とかしなきゃね。ここは私に任せてちょうだい。」
リリムが前に出た。
彼女は顔を覆った仮面を外し、その身体に纏ったコートに手をかける。
「ズボンを汚したくなかったら後ろに居た方がいいわ。私今これの下に何も着てないの。」
「ゑ?」
その言葉を理解するより早く、彼女はコートの前を押っ広げた。
「「「のほおおおおおおおおおーッ!?」」」
彼女が全裸を晒したその瞬間、追っ手の男達がもんどり打って倒れ込む。皆一様に股間を押さえ、地面をのたうち回っている。ついでに射線上に居た一般通行人も老若男女共々巻き込まれ全滅した。
「ふっ…、地上最強の痴女たる私の前に立つなど…あら?」
見れば地面に伏し、終わらない絶頂に悶え続ける男達の中にあってただ一人立ち上がり、此方を睨みつける者が居た。
「この変態女が…大人しくその男とゴーレムをこちらへ渡せ!」
此方を指さし気丈に怒鳴り声を上げるもその脚はやや内股になりガクガクと震えている。
全く効いていない訳でもないようだ。
「…遅漏?それとも不感症?いずれにしろ良くないわ。私が治療してあげる♪」
そう言って彼女はそのイキ残りの男に近づくと彼の股間へと手を向ける。その手指は心なしか淡く青白に輝いているように見えた。
「や…やめ……」
「えい♪」
「はひいいいいいいぃーッ!!?」
そして彼女がその手で彼の股間を軽く撫で上げると男はひとたまりも無く膝から崩れ落ちる。
「これで貴男も明日からちゃんと気持ちよくなれるはずだわ。ふふ…なり過ぎちゃうかも知れないけどネ♪」
その声が聞こえたいるのかいないのか…その哀れな被害者は全身を弛緩させたまま、時折ヒクヒクと痙攣を繰り返すのみだった。
「…さて、邪魔者も無力化出来たことだし、行きましょうか。」
(マスター…さっきは賛成しておいてなんですが本当について行って大丈夫なんでしょうか?)
(そうは言ってもこちらがどうこう言える状況ではない。とりあえず話を合わせておくのだ!)
(はい…)
かくして一人と一体の魔界生活が始まった。
18/02/18 02:13更新 / ラッペル
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