サイレン計画
「〜♪〜〜♪♪……うーん…」
……、
「♪〜……むぅー…」
…、
「…何をやっているんだ?」
…ついに我慢出来ずに尋ねてしまった。
…ここは魔王軍の所有する砦の一室。僕…名をリィルという…と、今そこで歌いながら唸るという器用な芸を繰り返し、部屋をうろついているセイレーンの、二人の私室である。ちなみに彼女の名はリィンという。
…同じ部屋で生活している僕らだが、別に夫婦という訳ではない。何となく気が合ったのでよく二人で行動している内にいつの間にか周囲から恋人認定され、僕が魔王軍に入ってからも二人して同じ拠点に飛ばされ、飛ばされた先のこの砦でも主が勝手に気を利かせて同室にしてしまったのだ。更には出勤日まで同じに合わせるという徹底ぶりである。
ちなみに僕は砦内の砲座待機任務が、彼女は近隣の空からの哨戒任務が、それぞれ週一回の頻度で回ってくる。…怒濤の週休6日制である。ここが特に激戦区という訳ではないということもあるが一応これもカップル用の措置だ。
…しかしなんか申し訳ないのだがお互い恋人と言うよりはまだ仲の良い友人のような感覚だった。僕自信そういった関係になるのはまだ早いと思っているし、彼女の方も特に手を出してくる様子も無いのでおそらくそういうことなのだろう。それでも休日はこうして一緒にお茶を飲みながらとりとめもなく話したり、市街へ出掛けたりはする。
しかしここ数日、彼女の様子がおかしい…今日のように歌っては唸りを繰り返しては部屋の中をうろつくのだ。元々歌を歌ったり作ったりは好きな魔物なのだが、目の前でこうされるとさすがに気になる。
そこで冒頭の質問に戻るわけだが…
「うーん…、リィル今なんともない?」
「…は?」
何が…?
「むー…やっぱダメかぁー…いや、今作ってる歌が上手く行かなくて…」
「へー、珍しいな。リィンが手こずるなんて…一体どんな歌なんだ?」
突然だがリィンは歌が上手い。特に音楽の知識が無い僕でも分かる程に。それも単に歌うのが上手いというのとは別にセンスというか何か天性のものを感じるそれである。なにせ日常生活の中で即興で歌を作りその場で歌い上げるのだ、しかも上手い。セイレーンとは皆こうなのだろうか?
そしてそんな彼女が手こずるような曲とは果たして…
「ん…聞くとイク歌。」
「ぶっ!!?」
思わず口に含んでいたお茶を噴き出した。
「ゲホッゲホッ…な、なんだって!?」
「だからーこの歌を聞いた相手は性的なエクスタシー、オーガズムを感じるのよ!」
「そんなもの作ってどうするんだ…録音して売るのか?」
げんなりしながら一応聞いてみる。需要は…何気にありそうで怖い。
「違うわ!軍事転用よ!!」
「はあ!?」
えへんっ、とあんまり無い胸を張りながら自慢げに宣うセイレーンについスットンキョーな声を上げてしまう。が、予想通りのリアクションだったのか彼女は待ってましたとばかりに説明し始めた。
「つまりこの歌を大型拡声器を使って大音量で敵軍に向けて流す訳。5分もすれば相手はみーんな腰砕け…あとは蹂躙するのみ捕虜取り放題!
戦争は…変わるわ!!」
そしてこのドヤ顔である。さては突っ込まれるのを待ってたな…
「…確かにそんな歌が出来るならそうなるかもしれないけど、実際問題出来てないんだろう?」
セイレーンの歌には聴いた相手を発情させる力があると聞くがそれとこれとは似て非なるモノ、いや、全くの別物なんじゃなかろうか。だとすればそう簡単に出来る筈が無い。それに本来そういうのはサバトとかの仕事だろう。
「だからこれからそれを完成させるのよ!…ふふ、これを見なさい!!」
そう言って懐よりピラリと一枚の紙を取り出して眼前に突き出してくる。
えーなになに…
「貴公の要望を受理…3ヶ月間の有給休暇を…許可する!?研究に邁進されたし…!!?
って…、えーーッ!!?しかも予算までついてる!ちょびっとだけど!!」
更に右下の端には方面軍総司令のリリム印が…
ちょっと…こんなのにゴーサイン出したのあの人!?
そしてもう一度立案者の顔を見た。
「(ドヤァァァァァ…)」
……、
大丈夫なんだろうかこの軍隊…
「という訳だから協力しなさい!!あ、リィルの分の休みも取ってあるから。」
「お前人のモノをッ!!」
…こうして見切り発車的にこの謎のプロジェクトはスタートしたのだった。
ーーーーー数日後…
「…つまり、音として受容した情報が脳内で別の情報に自動的に組み変わるように術式を組めばいいと思う訳よ。」
「脳に入ってから変質した所でもう遅いだろう…音の記憶が性感の記憶として残るだけだ。」
「じゃあ脳に到達する前のインパルスを?」
「そこを狙い撃つのは僕らの技量じゃ難しいんじゃないかな…。いっそ音にそういう術を乗せて放つというのは?その音が相手に伝わり脳に認識された所でその情報に仕込まれていた魔術が発動すると…」
「そうなると結構な魔力が要るわね…」
「そうでもないぞ。術を相手の体内で爆発させるようなモノだから威力自体は小さくても効果はバツグンだ。たぶん。」
…何だかんだで案外真面目にやっていた…。リィンが割と本気なのでこちらもついつられてしまうのだ。
「よし、それで行こう!」
そして二人で術の組み立てに取りかかる。
そして小一時間後…
「出来た!!」
組み上がった。
「あとはコレを歌うだけっと…それじゃ試し撃ちね、的役宜しく♪」
「僕がか!?」
「他に誰がいるの、では…♪〜」
「おい…」
止める間もなく歌い始める…
♪〜♪〜♪〜
…しかし何度聞いても綺麗な歌声だ…歌詞はいつもよく分からない謎の言語で歌うので歌の意味は全く理解できないのだが、そのハイセンスなメロディと澄み渡る声だけで十分に魅力的である。これが目の前の小柄な鳥人から出ているとは…自然とこの歌の出所であるピンク色の小さな唇に視線が吸い寄せられた。そして瑞々しく柔らかそうなそれから綺麗な形をしたシミ一つ無い顎と声に合わせて微かに震えている滑らかな首筋、地味に露出の高い服から覗く鎖骨のラインを通って片手にちょうどよく収まりそうなサイズの、小ぶりながらも形の良い美乳、そしてキュッと締まった腰の括れへと流れるように自然と視線が誘導され、再度目を上げると今度はこちらを見てちょっぴり背伸びをした感じの妖艶な笑みを浮かべながら歌い続ける彼女と目が合った。その顔はほんのりと紅潮しなんだか色っぽい。後ろで細く一本に纏めたブルーの髪は艶やかに流れサラサラと柔らかそうだ…
(……あれ…こいつ…こんなに可愛かったっけ…?)
心地よい歌声に酔った頭でふとそんな事を思った…
………、
……、
…ハッ!?
「ってコレ只の魅了の歌じゃねぇかーッ!!」スパーン
「あいだーッ!!」
「ハァ…ハア…、危なかった…理性飛んで襲い掛かったらどうするんだ…」
「…襲ってくれても良かったのに´;ω ;`」(ボソッ
「え、何か言った?」
「な、なんでもないにょ!?」
…あ、噛んだ。珍し…
……、
…。
「…で、何が駄目だったんだろうな?」
あの後まずは組んだ術式を徹底的に検証してみたが特にミス等は見当たらない。試しに知人のサキュバスにお願いし、捕虜の男を使って何回か実験を試みた。
彼女達に彼女ら自身の魔力を使用して僕らが作成した術を、十字架に拘束された対象に向けて撃ってもらう…
…結果は、特に問題なし。対象の男は皆、数十分に渡り連続で絶頂を繰り返し、やがて無抵抗になった。中にはあまりの快楽に途中で気絶してしまう者もいたがそれもまぁ想定の範囲内だ。術自体が効かなかった人間はゼロ。実験後、対象の服を脱がしてみるとズボンの中は見事に大惨事になっていた。溜め込んでいた精液を一滴残らず強制的に搾り出された形である。
…ちなみに彼等はその後、その光景を見て発情しきったサキュバスの皆さんにその場で頂かれる事になったのだが、それも彼女達への報酬ということで放っておいた。
…つまり、サキュバス級の魔力を込めて放てば外部から直接相手に浴びせても十分な効果を発揮するという事だ。この段階までは一応完成していると言える。
「ならば歌に載せる段階で何か失敗しているということではないのか?」
「検証してみる必要があるわね…」
…という訳で次の実験である。
まず前回と同じように術を音に組み込んで歌った歌を今度は録音した。そして密室に捕虜の男を放り込み、新しく募集したサキュバス――個体数が多くかつ安定して高い能力を持つ種族であるため(…ちなみに実験後はその男を好きにしていいという条件で有志を募ったところ応募が殺到したため抽選となった)―にその歌が記録された再生機を持たせ同じ部屋に入ってもらう。その中で彼女の魔力を込めて歌を再生してもらいながら一時間放置した。…彼女には決して強引に相手を犯さないように言ってある。
結果は…
…バカップルが一組生まれた。
「何故だッ!!?」
…どうやら密室中でお互いに激しく魅了され合った結果のようだ。しかも使用した魔力が強力だった事と密室で音が反響したことも手伝って必要以上に強烈に効いてしまったらしい。…まぁ本人達が幸せそうなので結果オーライということにしておこう…。重要なのは客観的な過程ではなく本人達の主観である。この魅了の歌の効果は基本的に相手の魅力に強制的に気付かせるタイプのモノのようだから例え魔法が解けた所でもう遅いだろう。何せ僕自身最近はリィンの事が…
…、
…いかんいかん。
慌て邪念を振り払う。
「…結局、問題はここだな。」
「私のせいかorz…」
「気を落とすな、何かいい方法を考えよう。」
問題は何故魅了の魔術が発動するかだ。そこを解明すれば原因と突破口が見えてくる筈…。
…もう一度術式を書き出して二人でそれとにらめっこすること一時間…
ふとある部分に目が留まった。
「…なぁ、これって…」
僕が指差したのはこの術式を構成する幾つもの小式の内の一つである。これらの式は一つにつき一個の限定的な効果を持つ、そしてそれらを互いに連動させながら組み合わせてゆく事により望んだ通りの現象を引き起こす一つの術が完成するのだ。そして今注目している小式は相手の性的な欲望を刺激するものである。これがある事により別の式による神経系への刺激を性感へと結び付け易くするのだが…。
「…似てないか?」
「…!?ちょっと待って!!」
すぐさまリィンは別の術式を紙に書き出し始める。そして完成したそれを先程の小式と比較すると…。
「ほとんど同じだ…」
彼女が今紙に起こしたのは、彼女の歌う魅了の歌を魔術の一つとして捉えた場合の術の構成式である。
「これか…」
…つまり仮説はこうだ。今回の術は彼女の発する「音」に術式を組み込んで歌にし、それを聴いた者を攻撃する術である。もし仮にその音に式のすべてが乗り切っていない場合、術が不完全な状態で発動するのではないか。そしてセイレーンの特性と親和性の高い部分―先程の小式―を彼女が無意識に優先して乗せてしまっているのかもしれない…
「魔術分析ッ!!」「ほいきたっ!!」
室内に彼女の魔力が拡散する。
―魔術分析―
相手の展開した術を瞬時に逆解析し、その場で対抗術式を組む為に用いられる技術である。対魔術師戦では特に重要な技能とされ、ついでに彼等の居た学校では必修科目でもあった…
……そして彼女の放散した魔力を使って僕が室内に術を組み上げた。その完了を目で伝えると彼女が歌を紡ぎ始める。
「♪♪〜♪…」
……あぁ…ほんとに綺麗な歌声だなぁ〜………
……、
…、
…ハッ!?
いかんいかん…、
「ス、ストップ!!もう大丈夫だ!」
「え、もう?」
「ああ、出来た。…ビンゴだ。」
そう言って僕は解析結果を紙に書き出した物を彼女に渡す。
(…危なかった。また魅了されかけた…)
「…なるほどねー、やっぱり乗ってなかったか…」
結果の方は大方予想通り、彼女の歌には術の一部しか含まれていなかった。音という媒体の許容量を術の容量が超えてしまっていたのである。…こういう場合は通常魔術自体を圧縮するしかないのだが……しかしその圧縮率は術を扱う魔物自体の能力に完全に依存するわけで…
「どうしようか…」
「…とりあえず練習してみる…という訳で、協力よろしく♪」
「げ…」
(……それはマズイ…セイレーンの歌は聞けば聞くほどその魅了の魔力に対する耐性が下がってゆくという…これ以上聞くのはさすがにマズイ…何とか別の方法を…)
「どしたの?」
「…っ!!」
いつの間にかリィンが僕の目の前まで迫っていた。
…おい、やめろ…何気に頬を薄く染めながら上目遣いでこっちを見るな…かわいいから!
「な…なぁ、やっぱり別の方法を考えた方が良くないか?」
「えー、どうしてー…?」
「どうしてって…それは…」
そこで言い淀む、さて、どう説明したものか…
…、
「…もしかして……これ以上私の歌を聞くのが怖い?」
「!?」
「…やっぱりそうなんだ♪」
ニヤリと微笑む。肯定と受け取った彼女の次の行動は速かった。瞬時に背後に回り込むとその蒼い羽を纏った腕で後ろから抱きしめてくる。脇の下を通って回された腕が僕の顔に伸びその手が頬を優しく撫で回す。柔らかな羽毛が耳の後ろから首筋を擽った。そして耳元にその唇を寄せ、囁く。
「…ねぇ、もうそろそろ観念してさ…大人しく魅了されちゃいなよ。」
そこで一呼吸置いて…
「…私は大好きだよ?リィルのこと。」
その声はまさに脳を犯してくるかのように甘く、響く。唇を寄せられた耳許からぞくぞくとした痺れが背骨を、頸椎を通って全身へ回り、そして快楽へと変わる。身体から力が抜け、今にもその場に崩れ落ちそうになるが背中に張り付いた魔物の腕がそれを許さない。首筋を擽る羽毛の刺激すら、性的な快楽を伴って僕を恍惚へと誘おうとしていた。
…セイレーンの魔声、その凄まじさを今、身をもって実感していた。
「私たち…そろそろもう一つ上へ行っていい頃だと思うの…
…ほら、みんなも応援してくれているんだし…ね?」
そう言って抱きしめる腕にぎゅっと力を込め、より身体を密着させてくる。彼女の体温と、小さいながらもしっかりと自己主張している柔らかな膨らみが背中に押し付けられ、心音が跳ね上がった。…体温も1℃くらい上がった気がする…恐らく今自分の顔が真っ赤になっているであろうことが自分でも分かる。
「ねぇリィル…」
彼女の声に熱が篭る、心なしか耳に感じるその吐息も荒くなってきた気がした…。
「ほんとに…いいのかな…」
「うん…いいんだよ、きっと…」
……正直に言えば、さっき彼女に初めて直接好きだと言われた時、泣きたいほど嬉しかった。なんのことはない、もうとっくの昔から僕は彼女に魅了されていたのだ…彼女自身の魅力によって。そして歌によってそれが掘り起こされ露呈しただけのこと…。ならば何を今更迷うことがあるのか。
「……うん、僕も…大好きだよ。リィンのこと…」
「……ぅ…っ…」
後ろから彼女の嗚咽が聞こえる。…泣いてる?なぜ…
急いで彼女の腕をほどいて僕は振り向いた。そこにはぼろぼろと涙をこぼす彼女の姿が…しかしその顔は幸せそうに笑っている。
「ふふ…ごめんね…っ、嬉し過ぎて涙が出てきちゃって…」
気付いた時にはもう、彼女の華奢な身体を、今度は正面から抱きしめていた。それに反応して、今度はリィンの腕が僕の動作の流れを引き継ぐ様に頭に伸び、顔の向きを固定する。そして次の瞬間には、唇を奪われ…
「ん……む、……」
…背丈がほぼ同じくらいなお陰で互いにキスがしやすい。ここ一つ取っても僕らの相性はいいのかも知れない…名前も似てるし……そう言えばそれがきっかけで付き合い始めたんだっけか…
…などと動転した思考をごまかすかの様にアホな考えが浮かんでは消えてゆく…大好きな女性に抱きしめられキスされ…、こちらも感情が暴走しているらしい…。
「…ん、ぷぁっ」
…長かった口づけが終わり、もう一度互いを見詰め合った。頬を紅潮させ、潤んだ瞳でこちらを見詰めてくる彼女…互いにやや荒く息をしながら呼吸を整える…と再び唇を奪われた。同時に僕を抱きしめている腕に力が籠りその柔らかな肢体を擦り付けるように密着させてくる。薄い部屋着越しのその感触は割とダイレクトに肌に伝わり、更に興奮を加速させた。
…それにしてもあのリィンがやけに積極的だ。…いや、もちろんそれはとても嬉しいのだが、明らかに彼女は発情している。もしかすると…
「…っぷは…」
漸く口が解放された。思いきって聞いてみることにする。
「…リィン…あの歌もしかして…」
「…うん、魔物にも効いちゃうみたい…前の実験で予想はしてたけど…でも、歌に後押ししてもらったとしても私の気持ちは本物だよ?」
「わかってる。」
「臆病でごめんね…?」
「お互い様だよ。」
そう言ってもう一度唇を重ねた。今度はこちらから…
……、
…。
「だからね…もっと歌ってもいい?」
唐突に彼女が言う。
「もっと私に魅了されて…?私ももっともっとリィルに魅了されるから……二人でもっと「好き」合おう?」
…一瞬例の実験の結果生まれたバカップルの事を思い出した。公衆の面前で見ている方が恥ずかしくなる程にイチャついていたあの姿が目に浮かぶ。
これを聴いてしまったら自分達も「ああ」なるのだろうか。…いや、むしろあの程度で済むかどうか…何せ初対面の男女が一時間聴いただけであのザマである。元から恋愛感情のある恋人同士が聴いたらどうなるか…一生解けない暗示を互いに掛けようとしているのだ。或いは洗脳と言ってもいい。…しかし、
「いいよ。お願い…」
僕は了承した。今感じている「好き」の気持ちが無限に大きくなってゆく…それはとても素晴らしいことに感じた。自分の感情に自ら手を加える事はなんだか恐ろしい事の様に感じるが、その結果が善いものならば恐れることなど何もないのだ。
「ありがと…。じゃあ…
♪〜〜…」
部屋の中に再度彼女の歌が響く。同時に音に組み込まれ魅了の魔術が効果を示し始めた。
「う…く、…」
今自分の目の前にいる少女の全てがいとおしくなり、狂いそうになる。沸き上がる様々な衝動を必死に押さえつけ、歌の音色に酔いしれた。
「〜♪。」
歌が終わる。
「…あ、ぁ…どうしよう…好き過ぎておかしくなりそう…」
今にも泣き出しそうな顔でそんなことを言う彼女に自分も同じだと伝えようとするも感情が高ぶり過ぎて口が上手く回らない…代わりに彼女の身体を強く抱きしめた。リィンの方も同じく身体で応える。
……、
…、
……どれ程の時間そうしていただろうか。既に歌の副次的な効果による気分の高揚は治まり、後には何十倍にも増幅された「好き」の気持ちだけが残った。
そして僕らはまだ互いに抱き合ったまま床に転がっている…。
「…外…もう暗くなってるな…」
「うん…そうだね…」
「……、」
「……。」
「研究の続き…しないとな…」
「…うん、そだね…」
「……、」
「……。」
「…ずっとこうしていたいのは山々なんだけど…そろそろ腕を解かないか?」
「…うん、じゃあリィルの方から…」
「…いや、リィンの方から…」
「……、」
「……。」
…お互い気持ちは一緒らしい。一秒でも長く相手にしがみついていたいのだ。
「…じゃあ同時に離そうか。」
「…りょーかい。じゃあ」
「「せーの…」」
「「……、」」
あぁ…やっぱり今回もダメだったよ。
「離してよ。」
「離しなさいよ。」
「「………。」」
「「…ぷっ!!」」
暫く見詰め合うと同時に吹き出した。
「くく、なにやってんだろ僕達…」
「あは、ふふふ…」
…。
「また明日やればいっか…」
「ふふ、そだね…」
今は任務より愛する者と抱き合っている事の方が大事だ。
…そう言えば人間の世界じゃ「明日やろうは馬鹿野郎」だなんて言うそうだが、そんなことを言っている限り彼らは魔物に勝つ事など出来ないだろう。そんなに必死にならなければ今日を生きる事すら出来ないような奴等に、負ける気などしない。
…などと「まだ」人の身でそんなことを思いつつ、今日の所は眠りに落ちる事にしたのだった…
…この日遂に僕らは恋仲になった…
―そして翌日―
「……、んん!?」
とある刺激で目が覚める。局部に感じる温かくヌメった感触…これは…
「んむっ…おあよう、あむ…」
視線を下へ向けると案の定?男性器の先端部を口に含み舌で転がしているリィンと目が合った。
「リィ…っ!?なっ、何を……うあぁっ!!」
意識が完全に覚醒した事で感じる快楽が跳ね上がった。相方の反応に気を良くした彼女は咥内の運動を加速させる。同時に両手の羽根で竿とその周辺の下腹部全体を擽るように撫で回してきた。刺激が性器全体に及んだことにより急激に射精感が沸き上がる。
「う、――っ、やめっ、でるっ、出るからぁっ!!」
「んふっ、…らひて♪…ちゅぅっ…」
今まで性的な関わりが無かったせいで油断していたが、ここにきて自分の相棒がやはり魔物なのだと思い知らされる。限界を告げる男の声に彼女は精緻にして無慈悲な舌の動きによる更なる追撃を以て応えた。
「ひいぃっ――!!」
彼女の咥内でその舌が高速で蠢き、雁首に絡み付き裏スジを擽り、尿道口とその周りを撫で回すに至った所で遂に決壊する。
「んむっ!?…ん…んぐっ……ん!?んんーーーーーっ!!」
「うああっ!!」
射精が始まると同時に強烈な吸引まで加えられ、起きて早々意識が飛びそうになった。だが射精中の肉棒をなぶる舌と羽根の動きは止む事なく、一滴でも多く精を搾り取ろうと持てる技巧の全てを尽くして蠢き続ける。そして、そうして搾り出された精はすぐさま彼女に吸い込まれ、飲み込まれていった。唯の一滴すら溢すことなくキレイに…
「んぐっ……ごく、…ん!?んを!!んむ゛を゛お゛ぉぉぉ――――っ!!!?」
やがて出された分全てを飲み込んだところで彼女はびくりと身体を震わせ背筋を反らせて悲鳴を上げた…
…まさか、イッた?…しかしそれでもその口に咥えたモノは放さない、…なんという執念…
…結果、咥内で響くくぐもった悲鳴による振動がダイレクトにペニスを直撃し、僕もまた射精直後の男性器に加えられる強烈な刺激に悶絶させられる事となる。
「……ん…ちゅぅ…、ぷは、はぁっ…はぁ…」
ようやく絶頂が治まったらしいリィンが顔を上げ僕のものもその凶悪な搾精器官から解放される…が、彼女の方はまだ二種類以上の快楽で幸せそうにとろけていた。
「…だ…大丈夫?」
「……んはぁっ、はぁ…はぁ…、スゴぃ…なにこれ……私イッた…味だけでイッたぁっ…」
…駄目だ…聞こえてない…何かヤバい術にでもかかったかの様にふらふらとしながら誰にともなく呟き続けている…
「…はぁっ…どうしよぉ……癖になる…美味し過ぎて癖になるぅっ…」
…しかもなんか恐い。
…そしてここではない何処かをさ迷っていた彼女の瞳が再び僕を捕らえた。…捕食者の目で。
…目が合うこと数瞬、彼女が口を開く。そして出てきた言葉は半ば予想通りのそれであった。
「もっとぉ…」
にじり寄る彼女の、その気迫に思わず後ずさる。だが狭い部屋の中、あっという間に壁際に追い詰められた。
「なんで逃げるのぉ?いいじゃないもっと吸わせてくれても〜減るもんじゃないし…」
いや、減るわ…
「うふ、それじゃいただき…」
「ちょっと待って!!今イッたばかりだから…休ませ…」
「だーめぇー、まだ一回目だよー?そんな弱音を吐く子はワタシが鍛えてあげるー♪」
(ひーっ…)
……すみません、魔物と恋仲になる事…少し甘く見ていたみたいです…
………、
……、
…。
「……あ…う…あぅ……」←満身創痍
「……はぁ…はふぅ……」←ヘヴン状態
この始末。
…初めての精の味に狂ったリィンによって最早透明な液も出なくなるまで搾り取られ、僕は完全に腰砕けの状態で床に伸びていた。片や隣にはいまだにその味を反芻しながら恍惚としているリィン本人がいる。
「…はふぅ…みんな夢中になる訳だわ……これは…、こんなに美味しいならもっと早くに襲っちゃえばよかった…」
「…あぁ…それは……よかったな…」
「…だって、味だけで私イッちゃったんだよ?味だけで!」
「…あぁ…それはー…よかったな…」
「ん?味だけで…!?。あ、あーーーっ!!」
「どうした…」
「だから味だけでイッたんだってば!!」
「それはさっき聞いたわ!!」
「だから!触覚以外の刺激で絶頂に達したのよ!!」
…、
「あ……!!」
「味覚で逝けるなら聴覚でだってイける筈!つまり、あの時の現象をを再現すればいいんだわ!!あとは味覚を聴覚に差し替えた場合の信号のルートを加算して……ちょっと待って!すぐ式に起こすから!!」
「…今更だが…お前天才か?」
「ふふふ…ハーピーとは違うのだよハーピーとは!!」
…その言い方はハーピーの皆さんに色々と失礼だろう…
\誠に遺憾である/
byハーピー一同
ほら……
「出来た!!」
「おお早い…だが…これをどうするんだ?術式の一部をこっちに差し替えた事でだいぶ短くはなったがそれでもまだ長い。どっちにしろ音には乗りきらないぞ?しかも威力が落ちてる…」
「と…そこで考えたんだけど、音で駄目なら歌にすればいいじゃなぁい?」
「ん?」
音じゃなくて歌?…音に術を組み込んで歌うって話じゃなかったか?
「…それぞれの音に意味を持たせるんじゃなくて歌全体を一つの術として捉えるの。音によって歌が構成されるように…音に術を組み込むんじゃなく音で一つの術を組めばいいんだわ。それを聴いた相手の脳内に直接ね!」
「……つまり、その歌を最初から最後まで全て聴く事により初めて効果を発すると…最後の一音を聴き終えた瞬間に相手の記憶の中に術式が完成し、発動する訳か…」
「これなら音の容量限界なんて関係無い、術の情報量が大きいなら歌を長くすればいいだけ。魔術の詠唱と一緒ね!」
なるほど…かなり変則的だが一般的な魔術との共通点があれば確かにやりやすい……しかし…
「そうなると問題はどうやって最初から最後まで聴かせるかだな。これでは途中一瞬でも耳を塞がれたら意味がない。」
「その辺は音域と音量で…、いや、いっそ音自体に貫通式でも組んじゃおうか、このやり方なら音の容量にも余裕が出るし」
「おお、あとは…歌が長くなるならその間敵の動きを妨害する効果を付けたいな…装置を発見され破壊される可能性がある…」
「そこでさっきの式ですよ」
「味だけでイッたってやつ?」
「そう!音には乗らなくてもあの程度なら威力を抑えれば一小節位に収まるわ。それをたくさん混ぜ込みながら歌を作ればいい。…敵も10秒毎にほぼイキかけてれば流石に他の事に集中できないでしょ。」
「よし、あとは途中で解除されないよう解析避けのプロテクトを掛けて…」
「ついでに付けたい効果が幾つかあるんだけど……例えば前にメロウの子に貸してもらった本にあった…『相手の体感時間を止めてその間に加えた愛撫の刺激が術を解除した後一気に来る』ってやつ、出来ないかな?」
「…歌が終わった瞬間にそれまで感じてた性感がリフレインするようにしたらどうだろ?さっきの1小節分の快楽でも受けた分全部を1秒に凝縮すれば結構な量になるんじゃないか?」
「それだ!!…あと最初のコンセプトで行くならその状態を継続させなきゃいけないよね…一時間位でいっか……それに捕縛中に抵抗されても困るだろうからその後は……うひひひ、楽しくなってきたわ…」
「…最初5分で〜とか言ってなかったか?」
「もし無駄に精神力の強い奴が居て油断して近付いた味方を攻撃してきたら困るでしょ?徹底的にやらなきゃ…このテの話は詰めが甘いとラスト数ページで謎の奇跡が起きて逆転されちゃうのよ?」
何の話だ…?
…まぁいいや、これ食らうのはどうせ敵だし…向こうは殺す気で来てるんだから情けは無用か…
―そして次の日の午後―
調子に乗ったリィンの暴走によりなんだか余計な効果が色々付いた気もするが一応モノは完成した。最終調整で実験に使われた教団の女兵士は…まぁ色々と可哀想な事になっていたが…効果の程は実証出来た訳だ。
僕らの仕事はここまでである。そして与えられた休暇はまだかなり余っている…
ということで…
「「Let's バカンス!!」」
旅に出る事にした。
………、
…
部下サキュ「司令、どうやら『あの二人』に作らせていた例のブツが完成したようです。」
司令リリム「ほぅ……ならば早速使ってみましょうか!!」
(あら…ホントに完成させちゃったの…
…あの子達がいつまで経ってもくっつかないからそれを口実に休みをあげただけのつもりだったのに…)
こうしてあっさりと実戦投入が決まってしまったのである。
―――――――
「―敵兵確認、数およそ500」
「500!?ナメられたモノだわ!!……まぁ『コレ』の試験には丁度いいか…」
そう呟いて隊長のデュラハンは傍らにそびえる直方体を見上げた。
「上手く行けば双方被害ゼロで敵を全滅させられる新兵器…果たしてどれ程のものか、……そして私は無事に男を手に入れられるのか…」
――彼女、実はリィルとリィンの上司でありついでに独身である。…今回の戦、戦わずに男が手に入るかもしれないとのことであまり腕に自信の無い独身の魔物娘が味方の多くを占めているのだが、保険としてある程度の(独身の)実力者も投入されている…彼女もその一人だ。なまじ地位が高いせいで戦線に立つ事が少なく、反面自分の部隊の事に気を遣いすぎる真面目でお人好しな性格が災いし、ゆとりの無い生活を余儀なくされていた。おかげで彼氏居ない歴は…もう数えたくない域に達している。
…そうこうするうちに敵軍の全てがこの装置の射程範囲内に入ったとの報告が上がった。
「…よし。起動しろ!!」
「了解。広域音響兵器SI-REN、起動します!」
ヴン…♪〜
音が鳴り始めた。
これだけ装置の近くに居るのに特にうるさい訳でもなく心地よい音量を保っている。効果範囲内ならば何処に居ても一定の音量に聞こえるよう調節されているようだ。…この辺の気配りは流石と言える。
「…一応問題なく起動はしたようだな、さて後は…」
敵軍も突然鳴り始めた音楽に戸惑っているようだ。そして…
だが次の瞬間彼女の身体に衝撃が走った。
「え…?うっひゃああっ!!…え…何、今の…?」
「にゃ…なんれすか今の…」
先程装置を起動させた技官の魔女と顔を見合わせる。彼女の方も今同じ感覚を体験した様だ。
と、突然その魔女が手を自身のスカートの中に突っ込む。
「ん…どうした?」
「…パンツが濡れてます」
…自分は今日下着を着けていないので何とも言えないがそれが意味するところはつまり…
「まさか魔物にも効果があるのコレ…?」
「…みたい…ですね…っひあ!!また来たぁ!!」
え…聞いてない…
ふと実戦投入前の最終調整に立ち会った際に見た、実験台の少女の惨状が目に浮かぶ…
自分が窓から実験の様子を覗いた時、彼女は椅子に座らされた状態で拘束され、頭に耳当ての様な装置を取り付けられていた。…その装置から直接耳に歌を流しているらしい、既に曲の再生は始まっており時折ビクッと体を震わせて快楽に悶えている。
…だかそれはほんの下準備に過ぎなかった。歌の再生が終わってからその真の効果は発揮されたのである。機材の操作を担当した技官の魔女が歌の終了を告げた1、2秒後に突然被検体が絶叫を上げた。股座からは体が干からびるのではと心配になるほどの潮と小水が噴き出し椅子の下に大きな水溜まりを作る…。その状態は一時間近くも続き…声は途中から聞こえなくなったが…、ようやく効果が収まった頃には元々凛々しく整っていたその顔は涙と涎と鼻水でドロドロになり、その表情は狂喜に歪んでいた。係員が急いで耳当て状の装置を取り外し、声を掛けるがどんな刺激に対しても笑い声と嬌声を以て返すのみで既に正気は失っていると判断され、現在は療養中である。…その後の魔女達による魔術を用いたケアにより何とか正気は取り戻したものの、全身が極度に敏感な性感帯となり日常生活に支障が出るどころの話ではないとか…
…そんな話を思い出し、隊長デュラハンの元々色白だった顔がサーッと青ざめる。そして慌てて耳を塞ぐ……が、ダメ!聞こえる音の大きさは全く変わらない。
「無駄です!貫通式が組まれてます!!」
技官の魔女が叫んだ。
「く…無駄に優秀な奴等め!取り敢えず一旦停止を…」
「それが…停止スイッチが付いてないんですが…っひい!!」
えー……
「ならばっ、術式を解析して逆転式で効果を打ち消せばっ…」
「さっきからやってますが…あっ、プロテクトがっ…何重にもっ…かけられててえっ、解析出来まっ、しぇん!!」
既に取り掛かっていた別の魔女が涙目で叫ぶ。
「誰がここまでやれと言ったァ!!」
既に残りの休暇を使って何処かへと旅立っている二人に対して思わず叫んでいた。……当然返事はない。
「かくなる上は…」
スラリと腰に帯びた剣を抜き放ち段々とペースを上げて襲い来る快楽に耐えつつ、装置へと近付いてゆく。
「隊長?なっ、何をっ…」
技官の魔女が叫んだ。
「斬ってでも止めるしかあるまい、…心配するな、こんなもの無くとも、たかが500の敵兵など私一人で片付ける!!」
そう言うやいなや振りかぶった剣を渾身の力で装置に叩きつけた。
バキィン…!!
「…は?」
デュラハンの目が点になる…魔女の目も点になった。彼女の握る大剣はちょうど真ん中辺りで真っ二つになっている。
…ドスッ
後方で飛んでいった剣の上半分が落ちる音がした…。
「なん…だと……」
「そんな馬鹿な…この装置一体何で出来て……
…、
あーっ!こんな所にドワーフ印がっ!!…は、はは……ぁっ…」
直方体の隅に刻まれた印を見つけた魔女がついにへなへなと地面にへたり込んだ。そして泣き笑いの、しかしどこか悟ったような表情で隊長の方を向いて笑い掛けてくる。
「隊長、諦めましょう。」
「…え…ぇ…やだ……やだやだっ、…やだあぁぁ!!」
…こちらは剣と同時に心まで折られたのか、余りの恐怖に首も外してないのに地が出ていた。自分の立場も忘れて部下の前で駄々を捏ね始める…
…そんな隊長を慈母の如き優しさに満ちた眼差しで見守っていた魔女(見た目ロリ)が優しく抱きしめた。
「大丈夫ですよ…ほんのしばらくの間、廃人になるだけです。……もし後遺症が残ったらそれを理由にもう退職しましょう。それで労災申請して補償費でずっと生活するんです…もう働かなくていいんですよ?…あ、そうだ!そしたら退職金で一緒に旅行に行きましょう!!ね!?」
「…う、ふえぇぇぇ…」
そこには…見た目ロリの少女がよしよしと頭を撫でながら、甲冑に身を包んだ、成熟した大人の女性を胸に抱き慰めるという謎の光景が展開されていた…
「…歌が終わります!残り5、4…」
別の魔女から声が上がる。見れば彼女もまた地面にへたり込んでいた。だがこちらは単純に蓄積してきた快楽に耐えられなくなった為のようだ。これからが本番だというのに…
「…2、1……あぁっ!!」
秒読みが終わるのを聞いて魔女にしがみついた隊長のデュラハンはぎゅっと目を瞑り衝撃に備える…。
…次の瞬間、世界が白く染まった。
………、
……、
…。
「はい、リィル、あーん♪」
「…あ、あー…ん…」
…美味しい、が流石にまだ気恥ずかしさが抜けない…でも周りも似たような事やってるし…
…ここは魔界のとあるリゾート地である。目の前には見渡す限りの水平線、穏やかな波が白い砂浜に打ち寄せている。…海かと思うが実際は巨大な湖らしい。水面は夕焼けの、黄昏時のような魔界の空の光を受けて黄金色にキラキラと輝いていた。ちなみにそのせいで分かりにくいがその水はただの透明の水ではなく魔界の特性に漏れず薄く桃色に染まり、媚薬の効果を持っているらしい。が、なんとその中に入って水遊びしている猛者達も居る。…流石魔界…。まぁ僕らにはそんな勇気は無いが……なんでも一度入ると3日は服が着れなくなるとかなんとか……。
…そして僕らは今、そんな美しい?光景を見下ろせる位置に構えられたカフェの、野外テーブルで食事をしているのだ。
「…あっちではそろそろ現場での試験運転がされてる頃かもね。」
…奇しくもちょうど今、その試験運転によって敵味方の両軍が全滅したところであった。
「それにしても…ホントに付いてかなくて大丈夫だったのかな…」
「大丈夫でしょ!基礎理論の開発が私達の仕事だったんだし、実際の運用は上に任せましょ?そんなことより…今夜は寝かさないんだから♪いっぱい食べて精力つけてね?はい、あーん♪」
(…うーん、なんだか嫌な予感がするんだが…
…まぁいいか、今は仕事の事は忘れよう。まさかアレをそのまま部隊で運用するなんて事はしないだろうし…まあ敵軍の進行ルートにトラップとして設置するか…或いは部隊で使うなら音に指向性を持たせるか選択性を持たせる改良が必用になるな…戻ったら提案してみよう…)
………。
残念ながら手遅れである。
……実際のところ、ある意味では大丈夫だったがある意味大丈夫じゃなかった。
一見敵はもとより味方も全滅したかに見えた…が、そこは流石魔物と言うべきか、数時間後に何とか正気を取り戻した者が数名いたのだ。そして彼女らが最後の力を振り絞り、近くの拠点へ援軍を要請し敵と味方を回収させたのである。
…だが、救援に向かった魔物でさえ現場の惨状には戦慄せざるを得なかった、そしてそれが口コミで広まったため各地で運用する兵士の側が恐れをなし、その音響兵器が配備された拠点では脱走する兵まで現れる始末。結局…兵器自体は改良が必用ということでお蔵入りとなってしまったのである。
…ちなみに…実験で使われた個人用の装置がとある魔界の都市では刑罰の一つとして採用され、罪人達を震え上がらせたとかそうでないとか噂されたが、それはまた別の話…
――――――――――
一方魔王城にて…
とある幹部「魔王様…あそこの部隊またあんなことやってますけど…」
魔王「…、気にするな!!」
……、
「♪〜……むぅー…」
…、
「…何をやっているんだ?」
…ついに我慢出来ずに尋ねてしまった。
…ここは魔王軍の所有する砦の一室。僕…名をリィルという…と、今そこで歌いながら唸るという器用な芸を繰り返し、部屋をうろついているセイレーンの、二人の私室である。ちなみに彼女の名はリィンという。
…同じ部屋で生活している僕らだが、別に夫婦という訳ではない。何となく気が合ったのでよく二人で行動している内にいつの間にか周囲から恋人認定され、僕が魔王軍に入ってからも二人して同じ拠点に飛ばされ、飛ばされた先のこの砦でも主が勝手に気を利かせて同室にしてしまったのだ。更には出勤日まで同じに合わせるという徹底ぶりである。
ちなみに僕は砦内の砲座待機任務が、彼女は近隣の空からの哨戒任務が、それぞれ週一回の頻度で回ってくる。…怒濤の週休6日制である。ここが特に激戦区という訳ではないということもあるが一応これもカップル用の措置だ。
…しかしなんか申し訳ないのだがお互い恋人と言うよりはまだ仲の良い友人のような感覚だった。僕自信そういった関係になるのはまだ早いと思っているし、彼女の方も特に手を出してくる様子も無いのでおそらくそういうことなのだろう。それでも休日はこうして一緒にお茶を飲みながらとりとめもなく話したり、市街へ出掛けたりはする。
しかしここ数日、彼女の様子がおかしい…今日のように歌っては唸りを繰り返しては部屋の中をうろつくのだ。元々歌を歌ったり作ったりは好きな魔物なのだが、目の前でこうされるとさすがに気になる。
そこで冒頭の質問に戻るわけだが…
「うーん…、リィル今なんともない?」
「…は?」
何が…?
「むー…やっぱダメかぁー…いや、今作ってる歌が上手く行かなくて…」
「へー、珍しいな。リィンが手こずるなんて…一体どんな歌なんだ?」
突然だがリィンは歌が上手い。特に音楽の知識が無い僕でも分かる程に。それも単に歌うのが上手いというのとは別にセンスというか何か天性のものを感じるそれである。なにせ日常生活の中で即興で歌を作りその場で歌い上げるのだ、しかも上手い。セイレーンとは皆こうなのだろうか?
そしてそんな彼女が手こずるような曲とは果たして…
「ん…聞くとイク歌。」
「ぶっ!!?」
思わず口に含んでいたお茶を噴き出した。
「ゲホッゲホッ…な、なんだって!?」
「だからーこの歌を聞いた相手は性的なエクスタシー、オーガズムを感じるのよ!」
「そんなもの作ってどうするんだ…録音して売るのか?」
げんなりしながら一応聞いてみる。需要は…何気にありそうで怖い。
「違うわ!軍事転用よ!!」
「はあ!?」
えへんっ、とあんまり無い胸を張りながら自慢げに宣うセイレーンについスットンキョーな声を上げてしまう。が、予想通りのリアクションだったのか彼女は待ってましたとばかりに説明し始めた。
「つまりこの歌を大型拡声器を使って大音量で敵軍に向けて流す訳。5分もすれば相手はみーんな腰砕け…あとは蹂躙するのみ捕虜取り放題!
戦争は…変わるわ!!」
そしてこのドヤ顔である。さては突っ込まれるのを待ってたな…
「…確かにそんな歌が出来るならそうなるかもしれないけど、実際問題出来てないんだろう?」
セイレーンの歌には聴いた相手を発情させる力があると聞くがそれとこれとは似て非なるモノ、いや、全くの別物なんじゃなかろうか。だとすればそう簡単に出来る筈が無い。それに本来そういうのはサバトとかの仕事だろう。
「だからこれからそれを完成させるのよ!…ふふ、これを見なさい!!」
そう言って懐よりピラリと一枚の紙を取り出して眼前に突き出してくる。
えーなになに…
「貴公の要望を受理…3ヶ月間の有給休暇を…許可する!?研究に邁進されたし…!!?
って…、えーーッ!!?しかも予算までついてる!ちょびっとだけど!!」
更に右下の端には方面軍総司令のリリム印が…
ちょっと…こんなのにゴーサイン出したのあの人!?
そしてもう一度立案者の顔を見た。
「(ドヤァァァァァ…)」
……、
大丈夫なんだろうかこの軍隊…
「という訳だから協力しなさい!!あ、リィルの分の休みも取ってあるから。」
「お前人のモノをッ!!」
…こうして見切り発車的にこの謎のプロジェクトはスタートしたのだった。
ーーーーー数日後…
「…つまり、音として受容した情報が脳内で別の情報に自動的に組み変わるように術式を組めばいいと思う訳よ。」
「脳に入ってから変質した所でもう遅いだろう…音の記憶が性感の記憶として残るだけだ。」
「じゃあ脳に到達する前のインパルスを?」
「そこを狙い撃つのは僕らの技量じゃ難しいんじゃないかな…。いっそ音にそういう術を乗せて放つというのは?その音が相手に伝わり脳に認識された所でその情報に仕込まれていた魔術が発動すると…」
「そうなると結構な魔力が要るわね…」
「そうでもないぞ。術を相手の体内で爆発させるようなモノだから威力自体は小さくても効果はバツグンだ。たぶん。」
…何だかんだで案外真面目にやっていた…。リィンが割と本気なのでこちらもついつられてしまうのだ。
「よし、それで行こう!」
そして二人で術の組み立てに取りかかる。
そして小一時間後…
「出来た!!」
組み上がった。
「あとはコレを歌うだけっと…それじゃ試し撃ちね、的役宜しく♪」
「僕がか!?」
「他に誰がいるの、では…♪〜」
「おい…」
止める間もなく歌い始める…
♪〜♪〜♪〜
…しかし何度聞いても綺麗な歌声だ…歌詞はいつもよく分からない謎の言語で歌うので歌の意味は全く理解できないのだが、そのハイセンスなメロディと澄み渡る声だけで十分に魅力的である。これが目の前の小柄な鳥人から出ているとは…自然とこの歌の出所であるピンク色の小さな唇に視線が吸い寄せられた。そして瑞々しく柔らかそうなそれから綺麗な形をしたシミ一つ無い顎と声に合わせて微かに震えている滑らかな首筋、地味に露出の高い服から覗く鎖骨のラインを通って片手にちょうどよく収まりそうなサイズの、小ぶりながらも形の良い美乳、そしてキュッと締まった腰の括れへと流れるように自然と視線が誘導され、再度目を上げると今度はこちらを見てちょっぴり背伸びをした感じの妖艶な笑みを浮かべながら歌い続ける彼女と目が合った。その顔はほんのりと紅潮しなんだか色っぽい。後ろで細く一本に纏めたブルーの髪は艶やかに流れサラサラと柔らかそうだ…
(……あれ…こいつ…こんなに可愛かったっけ…?)
心地よい歌声に酔った頭でふとそんな事を思った…
………、
……、
…ハッ!?
「ってコレ只の魅了の歌じゃねぇかーッ!!」スパーン
「あいだーッ!!」
「ハァ…ハア…、危なかった…理性飛んで襲い掛かったらどうするんだ…」
「…襲ってくれても良かったのに´;ω ;`」(ボソッ
「え、何か言った?」
「な、なんでもないにょ!?」
…あ、噛んだ。珍し…
……、
…。
「…で、何が駄目だったんだろうな?」
あの後まずは組んだ術式を徹底的に検証してみたが特にミス等は見当たらない。試しに知人のサキュバスにお願いし、捕虜の男を使って何回か実験を試みた。
彼女達に彼女ら自身の魔力を使用して僕らが作成した術を、十字架に拘束された対象に向けて撃ってもらう…
…結果は、特に問題なし。対象の男は皆、数十分に渡り連続で絶頂を繰り返し、やがて無抵抗になった。中にはあまりの快楽に途中で気絶してしまう者もいたがそれもまぁ想定の範囲内だ。術自体が効かなかった人間はゼロ。実験後、対象の服を脱がしてみるとズボンの中は見事に大惨事になっていた。溜め込んでいた精液を一滴残らず強制的に搾り出された形である。
…ちなみに彼等はその後、その光景を見て発情しきったサキュバスの皆さんにその場で頂かれる事になったのだが、それも彼女達への報酬ということで放っておいた。
…つまり、サキュバス級の魔力を込めて放てば外部から直接相手に浴びせても十分な効果を発揮するという事だ。この段階までは一応完成していると言える。
「ならば歌に載せる段階で何か失敗しているということではないのか?」
「検証してみる必要があるわね…」
…という訳で次の実験である。
まず前回と同じように術を音に組み込んで歌った歌を今度は録音した。そして密室に捕虜の男を放り込み、新しく募集したサキュバス――個体数が多くかつ安定して高い能力を持つ種族であるため(…ちなみに実験後はその男を好きにしていいという条件で有志を募ったところ応募が殺到したため抽選となった)―にその歌が記録された再生機を持たせ同じ部屋に入ってもらう。その中で彼女の魔力を込めて歌を再生してもらいながら一時間放置した。…彼女には決して強引に相手を犯さないように言ってある。
結果は…
…バカップルが一組生まれた。
「何故だッ!!?」
…どうやら密室中でお互いに激しく魅了され合った結果のようだ。しかも使用した魔力が強力だった事と密室で音が反響したことも手伝って必要以上に強烈に効いてしまったらしい。…まぁ本人達が幸せそうなので結果オーライということにしておこう…。重要なのは客観的な過程ではなく本人達の主観である。この魅了の歌の効果は基本的に相手の魅力に強制的に気付かせるタイプのモノのようだから例え魔法が解けた所でもう遅いだろう。何せ僕自身最近はリィンの事が…
…、
…いかんいかん。
慌て邪念を振り払う。
「…結局、問題はここだな。」
「私のせいかorz…」
「気を落とすな、何かいい方法を考えよう。」
問題は何故魅了の魔術が発動するかだ。そこを解明すれば原因と突破口が見えてくる筈…。
…もう一度術式を書き出して二人でそれとにらめっこすること一時間…
ふとある部分に目が留まった。
「…なぁ、これって…」
僕が指差したのはこの術式を構成する幾つもの小式の内の一つである。これらの式は一つにつき一個の限定的な効果を持つ、そしてそれらを互いに連動させながら組み合わせてゆく事により望んだ通りの現象を引き起こす一つの術が完成するのだ。そして今注目している小式は相手の性的な欲望を刺激するものである。これがある事により別の式による神経系への刺激を性感へと結び付け易くするのだが…。
「…似てないか?」
「…!?ちょっと待って!!」
すぐさまリィンは別の術式を紙に書き出し始める。そして完成したそれを先程の小式と比較すると…。
「ほとんど同じだ…」
彼女が今紙に起こしたのは、彼女の歌う魅了の歌を魔術の一つとして捉えた場合の術の構成式である。
「これか…」
…つまり仮説はこうだ。今回の術は彼女の発する「音」に術式を組み込んで歌にし、それを聴いた者を攻撃する術である。もし仮にその音に式のすべてが乗り切っていない場合、術が不完全な状態で発動するのではないか。そしてセイレーンの特性と親和性の高い部分―先程の小式―を彼女が無意識に優先して乗せてしまっているのかもしれない…
「魔術分析ッ!!」「ほいきたっ!!」
室内に彼女の魔力が拡散する。
―魔術分析―
相手の展開した術を瞬時に逆解析し、その場で対抗術式を組む為に用いられる技術である。対魔術師戦では特に重要な技能とされ、ついでに彼等の居た学校では必修科目でもあった…
……そして彼女の放散した魔力を使って僕が室内に術を組み上げた。その完了を目で伝えると彼女が歌を紡ぎ始める。
「♪♪〜♪…」
……あぁ…ほんとに綺麗な歌声だなぁ〜………
……、
…、
…ハッ!?
いかんいかん…、
「ス、ストップ!!もう大丈夫だ!」
「え、もう?」
「ああ、出来た。…ビンゴだ。」
そう言って僕は解析結果を紙に書き出した物を彼女に渡す。
(…危なかった。また魅了されかけた…)
「…なるほどねー、やっぱり乗ってなかったか…」
結果の方は大方予想通り、彼女の歌には術の一部しか含まれていなかった。音という媒体の許容量を術の容量が超えてしまっていたのである。…こういう場合は通常魔術自体を圧縮するしかないのだが……しかしその圧縮率は術を扱う魔物自体の能力に完全に依存するわけで…
「どうしようか…」
「…とりあえず練習してみる…という訳で、協力よろしく♪」
「げ…」
(……それはマズイ…セイレーンの歌は聞けば聞くほどその魅了の魔力に対する耐性が下がってゆくという…これ以上聞くのはさすがにマズイ…何とか別の方法を…)
「どしたの?」
「…っ!!」
いつの間にかリィンが僕の目の前まで迫っていた。
…おい、やめろ…何気に頬を薄く染めながら上目遣いでこっちを見るな…かわいいから!
「な…なぁ、やっぱり別の方法を考えた方が良くないか?」
「えー、どうしてー…?」
「どうしてって…それは…」
そこで言い淀む、さて、どう説明したものか…
…、
「…もしかして……これ以上私の歌を聞くのが怖い?」
「!?」
「…やっぱりそうなんだ♪」
ニヤリと微笑む。肯定と受け取った彼女の次の行動は速かった。瞬時に背後に回り込むとその蒼い羽を纏った腕で後ろから抱きしめてくる。脇の下を通って回された腕が僕の顔に伸びその手が頬を優しく撫で回す。柔らかな羽毛が耳の後ろから首筋を擽った。そして耳元にその唇を寄せ、囁く。
「…ねぇ、もうそろそろ観念してさ…大人しく魅了されちゃいなよ。」
そこで一呼吸置いて…
「…私は大好きだよ?リィルのこと。」
その声はまさに脳を犯してくるかのように甘く、響く。唇を寄せられた耳許からぞくぞくとした痺れが背骨を、頸椎を通って全身へ回り、そして快楽へと変わる。身体から力が抜け、今にもその場に崩れ落ちそうになるが背中に張り付いた魔物の腕がそれを許さない。首筋を擽る羽毛の刺激すら、性的な快楽を伴って僕を恍惚へと誘おうとしていた。
…セイレーンの魔声、その凄まじさを今、身をもって実感していた。
「私たち…そろそろもう一つ上へ行っていい頃だと思うの…
…ほら、みんなも応援してくれているんだし…ね?」
そう言って抱きしめる腕にぎゅっと力を込め、より身体を密着させてくる。彼女の体温と、小さいながらもしっかりと自己主張している柔らかな膨らみが背中に押し付けられ、心音が跳ね上がった。…体温も1℃くらい上がった気がする…恐らく今自分の顔が真っ赤になっているであろうことが自分でも分かる。
「ねぇリィル…」
彼女の声に熱が篭る、心なしか耳に感じるその吐息も荒くなってきた気がした…。
「ほんとに…いいのかな…」
「うん…いいんだよ、きっと…」
……正直に言えば、さっき彼女に初めて直接好きだと言われた時、泣きたいほど嬉しかった。なんのことはない、もうとっくの昔から僕は彼女に魅了されていたのだ…彼女自身の魅力によって。そして歌によってそれが掘り起こされ露呈しただけのこと…。ならば何を今更迷うことがあるのか。
「……うん、僕も…大好きだよ。リィンのこと…」
「……ぅ…っ…」
後ろから彼女の嗚咽が聞こえる。…泣いてる?なぜ…
急いで彼女の腕をほどいて僕は振り向いた。そこにはぼろぼろと涙をこぼす彼女の姿が…しかしその顔は幸せそうに笑っている。
「ふふ…ごめんね…っ、嬉し過ぎて涙が出てきちゃって…」
気付いた時にはもう、彼女の華奢な身体を、今度は正面から抱きしめていた。それに反応して、今度はリィンの腕が僕の動作の流れを引き継ぐ様に頭に伸び、顔の向きを固定する。そして次の瞬間には、唇を奪われ…
「ん……む、……」
…背丈がほぼ同じくらいなお陰で互いにキスがしやすい。ここ一つ取っても僕らの相性はいいのかも知れない…名前も似てるし……そう言えばそれがきっかけで付き合い始めたんだっけか…
…などと動転した思考をごまかすかの様にアホな考えが浮かんでは消えてゆく…大好きな女性に抱きしめられキスされ…、こちらも感情が暴走しているらしい…。
「…ん、ぷぁっ」
…長かった口づけが終わり、もう一度互いを見詰め合った。頬を紅潮させ、潤んだ瞳でこちらを見詰めてくる彼女…互いにやや荒く息をしながら呼吸を整える…と再び唇を奪われた。同時に僕を抱きしめている腕に力が籠りその柔らかな肢体を擦り付けるように密着させてくる。薄い部屋着越しのその感触は割とダイレクトに肌に伝わり、更に興奮を加速させた。
…それにしてもあのリィンがやけに積極的だ。…いや、もちろんそれはとても嬉しいのだが、明らかに彼女は発情している。もしかすると…
「…っぷは…」
漸く口が解放された。思いきって聞いてみることにする。
「…リィン…あの歌もしかして…」
「…うん、魔物にも効いちゃうみたい…前の実験で予想はしてたけど…でも、歌に後押ししてもらったとしても私の気持ちは本物だよ?」
「わかってる。」
「臆病でごめんね…?」
「お互い様だよ。」
そう言ってもう一度唇を重ねた。今度はこちらから…
……、
…。
「だからね…もっと歌ってもいい?」
唐突に彼女が言う。
「もっと私に魅了されて…?私ももっともっとリィルに魅了されるから……二人でもっと「好き」合おう?」
…一瞬例の実験の結果生まれたバカップルの事を思い出した。公衆の面前で見ている方が恥ずかしくなる程にイチャついていたあの姿が目に浮かぶ。
これを聴いてしまったら自分達も「ああ」なるのだろうか。…いや、むしろあの程度で済むかどうか…何せ初対面の男女が一時間聴いただけであのザマである。元から恋愛感情のある恋人同士が聴いたらどうなるか…一生解けない暗示を互いに掛けようとしているのだ。或いは洗脳と言ってもいい。…しかし、
「いいよ。お願い…」
僕は了承した。今感じている「好き」の気持ちが無限に大きくなってゆく…それはとても素晴らしいことに感じた。自分の感情に自ら手を加える事はなんだか恐ろしい事の様に感じるが、その結果が善いものならば恐れることなど何もないのだ。
「ありがと…。じゃあ…
♪〜〜…」
部屋の中に再度彼女の歌が響く。同時に音に組み込まれ魅了の魔術が効果を示し始めた。
「う…く、…」
今自分の目の前にいる少女の全てがいとおしくなり、狂いそうになる。沸き上がる様々な衝動を必死に押さえつけ、歌の音色に酔いしれた。
「〜♪。」
歌が終わる。
「…あ、ぁ…どうしよう…好き過ぎておかしくなりそう…」
今にも泣き出しそうな顔でそんなことを言う彼女に自分も同じだと伝えようとするも感情が高ぶり過ぎて口が上手く回らない…代わりに彼女の身体を強く抱きしめた。リィンの方も同じく身体で応える。
……、
…、
……どれ程の時間そうしていただろうか。既に歌の副次的な効果による気分の高揚は治まり、後には何十倍にも増幅された「好き」の気持ちだけが残った。
そして僕らはまだ互いに抱き合ったまま床に転がっている…。
「…外…もう暗くなってるな…」
「うん…そうだね…」
「……、」
「……。」
「研究の続き…しないとな…」
「…うん、そだね…」
「……、」
「……。」
「…ずっとこうしていたいのは山々なんだけど…そろそろ腕を解かないか?」
「…うん、じゃあリィルの方から…」
「…いや、リィンの方から…」
「……、」
「……。」
…お互い気持ちは一緒らしい。一秒でも長く相手にしがみついていたいのだ。
「…じゃあ同時に離そうか。」
「…りょーかい。じゃあ」
「「せーの…」」
「「……、」」
あぁ…やっぱり今回もダメだったよ。
「離してよ。」
「離しなさいよ。」
「「………。」」
「「…ぷっ!!」」
暫く見詰め合うと同時に吹き出した。
「くく、なにやってんだろ僕達…」
「あは、ふふふ…」
…。
「また明日やればいっか…」
「ふふ、そだね…」
今は任務より愛する者と抱き合っている事の方が大事だ。
…そう言えば人間の世界じゃ「明日やろうは馬鹿野郎」だなんて言うそうだが、そんなことを言っている限り彼らは魔物に勝つ事など出来ないだろう。そんなに必死にならなければ今日を生きる事すら出来ないような奴等に、負ける気などしない。
…などと「まだ」人の身でそんなことを思いつつ、今日の所は眠りに落ちる事にしたのだった…
…この日遂に僕らは恋仲になった…
―そして翌日―
「……、んん!?」
とある刺激で目が覚める。局部に感じる温かくヌメった感触…これは…
「んむっ…おあよう、あむ…」
視線を下へ向けると案の定?男性器の先端部を口に含み舌で転がしているリィンと目が合った。
「リィ…っ!?なっ、何を……うあぁっ!!」
意識が完全に覚醒した事で感じる快楽が跳ね上がった。相方の反応に気を良くした彼女は咥内の運動を加速させる。同時に両手の羽根で竿とその周辺の下腹部全体を擽るように撫で回してきた。刺激が性器全体に及んだことにより急激に射精感が沸き上がる。
「う、――っ、やめっ、でるっ、出るからぁっ!!」
「んふっ、…らひて♪…ちゅぅっ…」
今まで性的な関わりが無かったせいで油断していたが、ここにきて自分の相棒がやはり魔物なのだと思い知らされる。限界を告げる男の声に彼女は精緻にして無慈悲な舌の動きによる更なる追撃を以て応えた。
「ひいぃっ――!!」
彼女の咥内でその舌が高速で蠢き、雁首に絡み付き裏スジを擽り、尿道口とその周りを撫で回すに至った所で遂に決壊する。
「んむっ!?…ん…んぐっ……ん!?んんーーーーーっ!!」
「うああっ!!」
射精が始まると同時に強烈な吸引まで加えられ、起きて早々意識が飛びそうになった。だが射精中の肉棒をなぶる舌と羽根の動きは止む事なく、一滴でも多く精を搾り取ろうと持てる技巧の全てを尽くして蠢き続ける。そして、そうして搾り出された精はすぐさま彼女に吸い込まれ、飲み込まれていった。唯の一滴すら溢すことなくキレイに…
「んぐっ……ごく、…ん!?んを!!んむ゛を゛お゛ぉぉぉ――――っ!!!?」
やがて出された分全てを飲み込んだところで彼女はびくりと身体を震わせ背筋を反らせて悲鳴を上げた…
…まさか、イッた?…しかしそれでもその口に咥えたモノは放さない、…なんという執念…
…結果、咥内で響くくぐもった悲鳴による振動がダイレクトにペニスを直撃し、僕もまた射精直後の男性器に加えられる強烈な刺激に悶絶させられる事となる。
「……ん…ちゅぅ…、ぷは、はぁっ…はぁ…」
ようやく絶頂が治まったらしいリィンが顔を上げ僕のものもその凶悪な搾精器官から解放される…が、彼女の方はまだ二種類以上の快楽で幸せそうにとろけていた。
「…だ…大丈夫?」
「……んはぁっ、はぁ…はぁ…、スゴぃ…なにこれ……私イッた…味だけでイッたぁっ…」
…駄目だ…聞こえてない…何かヤバい術にでもかかったかの様にふらふらとしながら誰にともなく呟き続けている…
「…はぁっ…どうしよぉ……癖になる…美味し過ぎて癖になるぅっ…」
…しかもなんか恐い。
…そしてここではない何処かをさ迷っていた彼女の瞳が再び僕を捕らえた。…捕食者の目で。
…目が合うこと数瞬、彼女が口を開く。そして出てきた言葉は半ば予想通りのそれであった。
「もっとぉ…」
にじり寄る彼女の、その気迫に思わず後ずさる。だが狭い部屋の中、あっという間に壁際に追い詰められた。
「なんで逃げるのぉ?いいじゃないもっと吸わせてくれても〜減るもんじゃないし…」
いや、減るわ…
「うふ、それじゃいただき…」
「ちょっと待って!!今イッたばかりだから…休ませ…」
「だーめぇー、まだ一回目だよー?そんな弱音を吐く子はワタシが鍛えてあげるー♪」
(ひーっ…)
……すみません、魔物と恋仲になる事…少し甘く見ていたみたいです…
………、
……、
…。
「……あ…う…あぅ……」←満身創痍
「……はぁ…はふぅ……」←ヘヴン状態
この始末。
…初めての精の味に狂ったリィンによって最早透明な液も出なくなるまで搾り取られ、僕は完全に腰砕けの状態で床に伸びていた。片や隣にはいまだにその味を反芻しながら恍惚としているリィン本人がいる。
「…はふぅ…みんな夢中になる訳だわ……これは…、こんなに美味しいならもっと早くに襲っちゃえばよかった…」
「…あぁ…それは……よかったな…」
「…だって、味だけで私イッちゃったんだよ?味だけで!」
「…あぁ…それはー…よかったな…」
「ん?味だけで…!?。あ、あーーーっ!!」
「どうした…」
「だから味だけでイッたんだってば!!」
「それはさっき聞いたわ!!」
「だから!触覚以外の刺激で絶頂に達したのよ!!」
…、
「あ……!!」
「味覚で逝けるなら聴覚でだってイける筈!つまり、あの時の現象をを再現すればいいんだわ!!あとは味覚を聴覚に差し替えた場合の信号のルートを加算して……ちょっと待って!すぐ式に起こすから!!」
「…今更だが…お前天才か?」
「ふふふ…ハーピーとは違うのだよハーピーとは!!」
…その言い方はハーピーの皆さんに色々と失礼だろう…
\誠に遺憾である/
byハーピー一同
ほら……
「出来た!!」
「おお早い…だが…これをどうするんだ?術式の一部をこっちに差し替えた事でだいぶ短くはなったがそれでもまだ長い。どっちにしろ音には乗りきらないぞ?しかも威力が落ちてる…」
「と…そこで考えたんだけど、音で駄目なら歌にすればいいじゃなぁい?」
「ん?」
音じゃなくて歌?…音に術を組み込んで歌うって話じゃなかったか?
「…それぞれの音に意味を持たせるんじゃなくて歌全体を一つの術として捉えるの。音によって歌が構成されるように…音に術を組み込むんじゃなく音で一つの術を組めばいいんだわ。それを聴いた相手の脳内に直接ね!」
「……つまり、その歌を最初から最後まで全て聴く事により初めて効果を発すると…最後の一音を聴き終えた瞬間に相手の記憶の中に術式が完成し、発動する訳か…」
「これなら音の容量限界なんて関係無い、術の情報量が大きいなら歌を長くすればいいだけ。魔術の詠唱と一緒ね!」
なるほど…かなり変則的だが一般的な魔術との共通点があれば確かにやりやすい……しかし…
「そうなると問題はどうやって最初から最後まで聴かせるかだな。これでは途中一瞬でも耳を塞がれたら意味がない。」
「その辺は音域と音量で…、いや、いっそ音自体に貫通式でも組んじゃおうか、このやり方なら音の容量にも余裕が出るし」
「おお、あとは…歌が長くなるならその間敵の動きを妨害する効果を付けたいな…装置を発見され破壊される可能性がある…」
「そこでさっきの式ですよ」
「味だけでイッたってやつ?」
「そう!音には乗らなくてもあの程度なら威力を抑えれば一小節位に収まるわ。それをたくさん混ぜ込みながら歌を作ればいい。…敵も10秒毎にほぼイキかけてれば流石に他の事に集中できないでしょ。」
「よし、あとは途中で解除されないよう解析避けのプロテクトを掛けて…」
「ついでに付けたい効果が幾つかあるんだけど……例えば前にメロウの子に貸してもらった本にあった…『相手の体感時間を止めてその間に加えた愛撫の刺激が術を解除した後一気に来る』ってやつ、出来ないかな?」
「…歌が終わった瞬間にそれまで感じてた性感がリフレインするようにしたらどうだろ?さっきの1小節分の快楽でも受けた分全部を1秒に凝縮すれば結構な量になるんじゃないか?」
「それだ!!…あと最初のコンセプトで行くならその状態を継続させなきゃいけないよね…一時間位でいっか……それに捕縛中に抵抗されても困るだろうからその後は……うひひひ、楽しくなってきたわ…」
「…最初5分で〜とか言ってなかったか?」
「もし無駄に精神力の強い奴が居て油断して近付いた味方を攻撃してきたら困るでしょ?徹底的にやらなきゃ…このテの話は詰めが甘いとラスト数ページで謎の奇跡が起きて逆転されちゃうのよ?」
何の話だ…?
…まぁいいや、これ食らうのはどうせ敵だし…向こうは殺す気で来てるんだから情けは無用か…
―そして次の日の午後―
調子に乗ったリィンの暴走によりなんだか余計な効果が色々付いた気もするが一応モノは完成した。最終調整で実験に使われた教団の女兵士は…まぁ色々と可哀想な事になっていたが…効果の程は実証出来た訳だ。
僕らの仕事はここまでである。そして与えられた休暇はまだかなり余っている…
ということで…
「「Let's バカンス!!」」
旅に出る事にした。
………、
…
部下サキュ「司令、どうやら『あの二人』に作らせていた例のブツが完成したようです。」
司令リリム「ほぅ……ならば早速使ってみましょうか!!」
(あら…ホントに完成させちゃったの…
…あの子達がいつまで経ってもくっつかないからそれを口実に休みをあげただけのつもりだったのに…)
こうしてあっさりと実戦投入が決まってしまったのである。
―――――――
「―敵兵確認、数およそ500」
「500!?ナメられたモノだわ!!……まぁ『コレ』の試験には丁度いいか…」
そう呟いて隊長のデュラハンは傍らにそびえる直方体を見上げた。
「上手く行けば双方被害ゼロで敵を全滅させられる新兵器…果たしてどれ程のものか、……そして私は無事に男を手に入れられるのか…」
――彼女、実はリィルとリィンの上司でありついでに独身である。…今回の戦、戦わずに男が手に入るかもしれないとのことであまり腕に自信の無い独身の魔物娘が味方の多くを占めているのだが、保険としてある程度の(独身の)実力者も投入されている…彼女もその一人だ。なまじ地位が高いせいで戦線に立つ事が少なく、反面自分の部隊の事に気を遣いすぎる真面目でお人好しな性格が災いし、ゆとりの無い生活を余儀なくされていた。おかげで彼氏居ない歴は…もう数えたくない域に達している。
…そうこうするうちに敵軍の全てがこの装置の射程範囲内に入ったとの報告が上がった。
「…よし。起動しろ!!」
「了解。広域音響兵器SI-REN、起動します!」
ヴン…♪〜
音が鳴り始めた。
これだけ装置の近くに居るのに特にうるさい訳でもなく心地よい音量を保っている。効果範囲内ならば何処に居ても一定の音量に聞こえるよう調節されているようだ。…この辺の気配りは流石と言える。
「…一応問題なく起動はしたようだな、さて後は…」
敵軍も突然鳴り始めた音楽に戸惑っているようだ。そして…
だが次の瞬間彼女の身体に衝撃が走った。
「え…?うっひゃああっ!!…え…何、今の…?」
「にゃ…なんれすか今の…」
先程装置を起動させた技官の魔女と顔を見合わせる。彼女の方も今同じ感覚を体験した様だ。
と、突然その魔女が手を自身のスカートの中に突っ込む。
「ん…どうした?」
「…パンツが濡れてます」
…自分は今日下着を着けていないので何とも言えないがそれが意味するところはつまり…
「まさか魔物にも効果があるのコレ…?」
「…みたい…ですね…っひあ!!また来たぁ!!」
え…聞いてない…
ふと実戦投入前の最終調整に立ち会った際に見た、実験台の少女の惨状が目に浮かぶ…
自分が窓から実験の様子を覗いた時、彼女は椅子に座らされた状態で拘束され、頭に耳当ての様な装置を取り付けられていた。…その装置から直接耳に歌を流しているらしい、既に曲の再生は始まっており時折ビクッと体を震わせて快楽に悶えている。
…だかそれはほんの下準備に過ぎなかった。歌の再生が終わってからその真の効果は発揮されたのである。機材の操作を担当した技官の魔女が歌の終了を告げた1、2秒後に突然被検体が絶叫を上げた。股座からは体が干からびるのではと心配になるほどの潮と小水が噴き出し椅子の下に大きな水溜まりを作る…。その状態は一時間近くも続き…声は途中から聞こえなくなったが…、ようやく効果が収まった頃には元々凛々しく整っていたその顔は涙と涎と鼻水でドロドロになり、その表情は狂喜に歪んでいた。係員が急いで耳当て状の装置を取り外し、声を掛けるがどんな刺激に対しても笑い声と嬌声を以て返すのみで既に正気は失っていると判断され、現在は療養中である。…その後の魔女達による魔術を用いたケアにより何とか正気は取り戻したものの、全身が極度に敏感な性感帯となり日常生活に支障が出るどころの話ではないとか…
…そんな話を思い出し、隊長デュラハンの元々色白だった顔がサーッと青ざめる。そして慌てて耳を塞ぐ……が、ダメ!聞こえる音の大きさは全く変わらない。
「無駄です!貫通式が組まれてます!!」
技官の魔女が叫んだ。
「く…無駄に優秀な奴等め!取り敢えず一旦停止を…」
「それが…停止スイッチが付いてないんですが…っひい!!」
えー……
「ならばっ、術式を解析して逆転式で効果を打ち消せばっ…」
「さっきからやってますが…あっ、プロテクトがっ…何重にもっ…かけられててえっ、解析出来まっ、しぇん!!」
既に取り掛かっていた別の魔女が涙目で叫ぶ。
「誰がここまでやれと言ったァ!!」
既に残りの休暇を使って何処かへと旅立っている二人に対して思わず叫んでいた。……当然返事はない。
「かくなる上は…」
スラリと腰に帯びた剣を抜き放ち段々とペースを上げて襲い来る快楽に耐えつつ、装置へと近付いてゆく。
「隊長?なっ、何をっ…」
技官の魔女が叫んだ。
「斬ってでも止めるしかあるまい、…心配するな、こんなもの無くとも、たかが500の敵兵など私一人で片付ける!!」
そう言うやいなや振りかぶった剣を渾身の力で装置に叩きつけた。
バキィン…!!
「…は?」
デュラハンの目が点になる…魔女の目も点になった。彼女の握る大剣はちょうど真ん中辺りで真っ二つになっている。
…ドスッ
後方で飛んでいった剣の上半分が落ちる音がした…。
「なん…だと……」
「そんな馬鹿な…この装置一体何で出来て……
…、
あーっ!こんな所にドワーフ印がっ!!…は、はは……ぁっ…」
直方体の隅に刻まれた印を見つけた魔女がついにへなへなと地面にへたり込んだ。そして泣き笑いの、しかしどこか悟ったような表情で隊長の方を向いて笑い掛けてくる。
「隊長、諦めましょう。」
「…え…ぇ…やだ……やだやだっ、…やだあぁぁ!!」
…こちらは剣と同時に心まで折られたのか、余りの恐怖に首も外してないのに地が出ていた。自分の立場も忘れて部下の前で駄々を捏ね始める…
…そんな隊長を慈母の如き優しさに満ちた眼差しで見守っていた魔女(見た目ロリ)が優しく抱きしめた。
「大丈夫ですよ…ほんのしばらくの間、廃人になるだけです。……もし後遺症が残ったらそれを理由にもう退職しましょう。それで労災申請して補償費でずっと生活するんです…もう働かなくていいんですよ?…あ、そうだ!そしたら退職金で一緒に旅行に行きましょう!!ね!?」
「…う、ふえぇぇぇ…」
そこには…見た目ロリの少女がよしよしと頭を撫でながら、甲冑に身を包んだ、成熟した大人の女性を胸に抱き慰めるという謎の光景が展開されていた…
「…歌が終わります!残り5、4…」
別の魔女から声が上がる。見れば彼女もまた地面にへたり込んでいた。だがこちらは単純に蓄積してきた快楽に耐えられなくなった為のようだ。これからが本番だというのに…
「…2、1……あぁっ!!」
秒読みが終わるのを聞いて魔女にしがみついた隊長のデュラハンはぎゅっと目を瞑り衝撃に備える…。
…次の瞬間、世界が白く染まった。
………、
……、
…。
「はい、リィル、あーん♪」
「…あ、あー…ん…」
…美味しい、が流石にまだ気恥ずかしさが抜けない…でも周りも似たような事やってるし…
…ここは魔界のとあるリゾート地である。目の前には見渡す限りの水平線、穏やかな波が白い砂浜に打ち寄せている。…海かと思うが実際は巨大な湖らしい。水面は夕焼けの、黄昏時のような魔界の空の光を受けて黄金色にキラキラと輝いていた。ちなみにそのせいで分かりにくいがその水はただの透明の水ではなく魔界の特性に漏れず薄く桃色に染まり、媚薬の効果を持っているらしい。が、なんとその中に入って水遊びしている猛者達も居る。…流石魔界…。まぁ僕らにはそんな勇気は無いが……なんでも一度入ると3日は服が着れなくなるとかなんとか……。
…そして僕らは今、そんな美しい?光景を見下ろせる位置に構えられたカフェの、野外テーブルで食事をしているのだ。
「…あっちではそろそろ現場での試験運転がされてる頃かもね。」
…奇しくもちょうど今、その試験運転によって敵味方の両軍が全滅したところであった。
「それにしても…ホントに付いてかなくて大丈夫だったのかな…」
「大丈夫でしょ!基礎理論の開発が私達の仕事だったんだし、実際の運用は上に任せましょ?そんなことより…今夜は寝かさないんだから♪いっぱい食べて精力つけてね?はい、あーん♪」
(…うーん、なんだか嫌な予感がするんだが…
…まぁいいか、今は仕事の事は忘れよう。まさかアレをそのまま部隊で運用するなんて事はしないだろうし…まあ敵軍の進行ルートにトラップとして設置するか…或いは部隊で使うなら音に指向性を持たせるか選択性を持たせる改良が必用になるな…戻ったら提案してみよう…)
………。
残念ながら手遅れである。
……実際のところ、ある意味では大丈夫だったがある意味大丈夫じゃなかった。
一見敵はもとより味方も全滅したかに見えた…が、そこは流石魔物と言うべきか、数時間後に何とか正気を取り戻した者が数名いたのだ。そして彼女らが最後の力を振り絞り、近くの拠点へ援軍を要請し敵と味方を回収させたのである。
…だが、救援に向かった魔物でさえ現場の惨状には戦慄せざるを得なかった、そしてそれが口コミで広まったため各地で運用する兵士の側が恐れをなし、その音響兵器が配備された拠点では脱走する兵まで現れる始末。結局…兵器自体は改良が必用ということでお蔵入りとなってしまったのである。
…ちなみに…実験で使われた個人用の装置がとある魔界の都市では刑罰の一つとして採用され、罪人達を震え上がらせたとかそうでないとか噂されたが、それはまた別の話…
――――――――――
一方魔王城にて…
とある幹部「魔王様…あそこの部隊またあんなことやってますけど…」
魔王「…、気にするな!!」
12/02/16 21:00更新 / ラッペル