冬の息吹
「全く、ふざけたことだよ……」 白衣の男、和冬(かずと)は息を吐き出した。 彼は、ーー異世界の住人だ。もともとは魔物娘のいない、所謂、現実世界という場所にいた。 「図鑑世界……、魔物娘、か」 彼は何度目かわからない、ため息をつく。 向こうでも、自分を普通じゃ無い、とは思っていたが、まさか世界の方が自分に合わせてくれるとは……。ーーいや、この場合は追い出されたという方が正しいのかもしれない。 ーーーここは彼の診療所。こっちに飛ばされてきた彼に医学の知識があることを知った街の者たちが、彼 ”ら” のために用意した家と仕事。 「確かに、俺には医学知識は、ある。だが、魔物娘なんてものの知識はない」 とはいえ、こちらに飛ばされてきてから彼は勉強をして、そして、向こうでの知識があるために、街の中では腕のいい医者、として認識されていた。それが、彼を悩ませる一因ともなってはいるのだが……。 「向こうじゃ、ぺーぺーだったって言うのに、今じゃ一国一城の主、か。ま、嫌な気分じゃあないけどな……」 彼がもう一度ため息をつこうとした時に、声が届いた。 「せんせーい、患者さんが来られましたよー」 「ほいほい、今行きますよっ、と」 和冬は、重い腰をあげる。 救いといえば、彼女たちがついてきてくれた事か。いや、憑いてきてくれた事、か。 「いる、とは、思っていたが、まさか本当に顕れてくれる、とはね。生きていれば何があるのかは分からないというが、こんな事、分かるわけないだろう。それが、魔物娘になって、俺の嫁になってくれるとは、今だに信じられないさ。幸せには変わりないが」 和冬は、自分の現金さにくつくつと笑う。嫁は7柱、こっちでは単に、7人。 それだけでも頑張れるというものだ。 「さて、今日もお仕事、頑張りますか」 和冬は、自分を呼ぶ声の元に、足を運ぶのだった。 |
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