1週間の招待状
月曜日
「ああ、今日も疲れたなぁ」
ボロという程でもないが綺麗かというと肯定出来ないアパートに帰ってきて、自居である102号室のドアを開ける。
郵便受け見ると幾つか封筒やハガキが入っていた、何かの支払いに関する物は無さそうだ。
「……見るのは後でいいか」
とりあえず封筒をテーブルの上に投げておく。1つ床に落ちたが気にしない。
それよりも汗を流したい。鞄とコンビニで買った弁当をそこらに置いて足早に風呂場へと向かう。
「ゴクッ…ゴクッ……ぷはぁー、やっぱ風呂上がりの一杯は美味いなぁ」
ちなみに牛乳ではなく水。牛乳は飲むとお腹がフィーバーである。
コンビニ弁当をレンジに突っ込んで、リモコンを手に取る。
テレビの電源を入れザッピングを行うが、最近の番組はどれもこれも同じように見える。
適当なバラエティにしたがまともに観る気は起きない。
電子音が鳴ったので弁当を取り出し、冷蔵庫からも酒を取り出してテーブルに並べる。
涙が出るほどに立派な夕食だ。
「いただきますー、っと」
それに誰も応える事はないが、習慣として身に付いてしまっている。
可も無く不可も無いコンビニシェフのディナーを堪能しつつ、先程投げた封筒の中身を確認する。
1つ目は……家電屋のチラシだった。2,3回の買い物で使ったのみだがたまに来るようになってきた。今欲しいものは無いし捨てるか。
2つ目は……役所の書類か?流し見した限り期限が近い訳でもなさそうだ。休日にじっくり見よう。
3つ目は……同窓会?なんでこんな中途半端な時期に……別に当時は仲の良い友達も居なかったし、今更話すことも無いだろう。一応欠席の返信はしておこうか。
郵便物は一通り見終わり、弁当も食べ終わったのでチビチビと酒を飲みつつテレビを眺める。
やっぱり分からん。何が面白いのだろうか、観客のSEも白々しい。
「……もう寝るか」
残りの酒も流し込み、ディナーの食器もゴミ袋へシューゥ、超エキサイティン。
目覚まし時計を確認していたら床に落ちている封筒を見つけた。そういえばさっき落としたな。
床にあるそれを拾い上げ、ベッドに寝転ぶ。おもむろに封を切り、中身を取り出すと妙に色彩がピンクなチラシが入っていた。
「なになに、『貴方の生涯の伴侶を探しましょう!婚活パーティー開催!』だって?」
俺が独身なのはどうやって知ったのだろうか。
というか胡散臭い。行く気にはなれない。
別に結婚やら恋愛やらに興味が無い訳ではないが、今までそういう事に縁は無かったし、今も自分の事でいっぱいいっぱいで余裕は無い。
こういうのは収入が多くて生活に余裕がある人が行くものじゃなかろうか。
相手方の女性もこんな冴えない男に時間を割くのは迷惑だろう。
「それに会場も立派なホテルじゃないか……俺なんかが行った日には悪目立ちするな」
となるとやはり行かない事になる訳だが、同梱されていた返信用ハガキを使うと逆にまた来るかも知れない。
無視を決め込もう。
ゴミ箱に向ってロングシュート!ゴール。3ポイント。優勝だ。
ゴールの余韻に浸りながら俺は眠りについた。
火曜日
「うへぇ、今日もちかれた」
いつもの通りアパートに帰って風呂に入り晩飯の準備を済ました。
そしてまたいつもの通りバラエティ番組を流しつつコンビニシェフ自慢のディナーに舌鼓を打つ。実際に打ったら痛そう。
今日の郵便は……封筒1つだ。中身は……見覚えのあるピンク色のチラシ。
『今だけのビッグチャンス!貴方の人生のパートナーを見つけましょう!』
またか、2日連続で送ってくるとは。余程男性側が居ないのだろうか。
今草食系が流行ってるからなのかも知れない、いやもうその流行は終わったのか。
しかも今度は参加者の顔写真まで乗っている。
しかし写真を見る限り全員美人に見える。これほどの美人なら引く手あまただと思うのだが……逆に怪しい。
主催はどこだろう、『リリー・コーポレーション』?
聞いたことが無い。
結婚やらこの手の事は調べた事が無いから単に自分が無知なだけかもしれないが。
何にせよ怪しいのじゃ事実。君子危うきに近寄らず。これも処分しよう。
ゴミ箱にシュー!あっ外した。
この外して拾いに行く時に感じる虚しさったらないね。
悔しさにも似たモヤモヤを感じながら俺は眠りについた。
水曜日
今日もお疲れの俺は帰宅ルーチンを済ませ、今はテーブルの上に鎮座している1つの封筒を睨み付けている。
「今日も来てるしコレ…」
封筒には「リリー・コーポレーション」と印刷されいている。
手違いで複数送られたにしても3日連続というのは不自然に感じる。もしくは恣意的なものだろうか。
中身を一応取り出す。今回は小冊子だ。
内容は……昨日載っていた参加者のプロフィールらしい。料理が上手とか色々書かれている。
昨日はあんまり見なかったがもう少し読んでみよう。この清楚そうな黒髪ロングの人は結構好みだ。
この人の特技は……なんだ床上手って。
この人だけでなく、他の人も割とこういう事が書かれている。
最近の若人は大胆なのだろうか、ジェネレーションギャップである。見る限り同年代が多いけども。
これ程の人材?が集まる催しだ、むしろ男側にもそれなりの条件が課せられるのではなかろうか。年収うん万とか。
表面上はとても魅力的だが、やはり胡散臭い。
それに、とてもじゃないが俺の収入は勝ち組とは言い難いので、お断り申し上げるしかないだろう。
「もうちょっと金のある人に送れば良いのになぁ」
今日も捨てよう。冊子と封筒を丸める。
今日こそは……ゴミ箱にシュー!……ゴォール!
今この瞬間だけは勝ち組になった俺は眠りについた。
木曜日
今日の仕事の疲れを風呂で癒し、弁当を酒で流し込んで今はテレビを眺めている。今日はクイズ番組だ。全部わからん。
今日は郵便物は無かった。4日連続で来たら受取拒否しようと思っていたが、流石に来なかった。やはり手違いだったのだろう。
自分には全く分からない問題をスラスラと解く芸能人を眺めながら缶に残ったアルコールをチロチロしていると、玄関のチャイムが鳴った。
「なんだこんな時間に、はいはーい」
相手は宅急便の人だった。しかも若い女性だ、珍しい。
「お荷物ですー。判子お願いしますー」
「はーい」
荷物は薄めのダンボールだ。中身はなんだろうか、通販で何か頼んだ記憶はないけれど。
ともかく伝票に判を押し荷物を受け取る。
「失礼しましたー」
お辞儀して車に乗っていった。まだ配達があるのだろうか、お疲れさまです。
さて荷物はどこから来たのか、送り主は……。
『リリー・コーポレーション』
またか、小冊子に飽き足らず更なる何かを送り付けて来たようだ。
箱を開封すると、中には例の婚活パーティーのチラシと数冊の本が入っていた。取り出してみると、これは……お見合い写真、か?
実物は見たことが無いが、こんな感じのイメージがある。しかし1冊の中に複数の女性の写真が入っている。さながら写真集のようだ。
小冊子より写真が大きいのでより綺麗に映っている。
「改めて見ると美人ばかりだなぁ、俺とは不釣り合いすぎる」
ここまで凝ったものが作られているとなると、よほど大きいイベントなのか。もしくは特定の相手にのみ配っているのか。
前者なら余計に自分には分不相応だし、後者なら気味が悪い。あるいは惨めな独身男性として業界に名が知れてしまっているのだろうか、もっと嫌だ。
詐欺にしては大掛かり過ぎるが怪しい以上に恐怖すら感じる。無視し続けても良いものかと考えたが、悩めば相手の思う壷ではなかろうか。
余計な考えは振り払いベットに潜り込んだ。
ゴミ箱に入れるのを忘れたが、どうせ入る大きさでもない。明日新聞と一緒に纏めてしまおう。
そう思い俺はかすかな不安と共に眠りについた。
金曜日
今日は変な郵便物はないだろうか、そう思いながら我が家のドアを開ける。
「ただいまー、っと。………?」
なんだろうか、違和感を感じる。靴が整頓されている。今朝はそこそこ乱れていたような。
リビングもこころなしか綺麗になっているような気がする。なんだこれ。
気になってトイレや台所など見て回ったが、明らかに朝よりも綺麗になっている。どういうことだ?
釈然としないまま夕食の準備は進める。何を思っても腹は減るものだ。
温めた弁当とビールをテーブルに置こうとすると、見覚えのない封筒が。宛名も切手も無い、ただの茶封筒だ。これも朝は無かったはず。
とりあえず夕食は食べ終えてから封筒の中身を確認することにした。
「ごちそうさまーっと。さて……」
恐る恐る封筒を手に取る。中身は紙のようだ。他に何かが入っている様子もない。カミソリとか入ってないかと心配した。それもそうか。
中身は例の桃色チラシ。内容は、
『貴方の生活をサポートする素敵なパートナーとの出会いを是非!
※参加者に条件はありません♪』
ゾッとした。全ての部屋を確認はしたので家に自分以外は居ない筈だが、誰かに見られている気がした。
改めて部屋を確認、戸締りもキチンと出来ていたはずだが再確認した。玄関もチェーンを掛けよう。
明日は休日で買い物の予定があったが止めにしよう。備蓄という名のカップラーメンもそれなりにあるし、引きこもりになろう。
月曜からは会社があるが、その頃には相手方に飽きて頂けるよう祈るしかない。
俺は布団を被り、丸まって眠りについた。
土曜日
朝だ。起きたくないが、下手に二度寝すると生活リズムが崩れるかもしれない、仕方なく体を起こす。
陽の光を浴びようとカーテンを開けると
『強情な貴方にも素敵な出会いを!きっと素敵な伴侶が見つかります』
慌てて窓を開け、貼り付けてあったチラシを手に取る。
いつの間に貼ったのか……ここは1階なので外からチラシ貼るのは容易だが、俺に見つかるリスクもあるのに直接来るだろうか。
それを言ったら昨日の掃除の方がリスクが高いのかもしれないが。
とりあえず雨戸を閉める、他の部屋も同様だ。玄関のチェーンも確認し、布団を被る。
怖い。何故にそこまで俺に婚活をプッシュするのか。別に諾々と従っても良かったのかも知れないが、ここまでされると恐怖心しか沸かない。
お腹がすくまでこうしていよう。そう思った俺は布団の中じっとしていたが、布団の暖かさと眠気に身を任せてしまい、そのまま眠ってしまった。
日曜日
随分と長い時間寝てしまっていたようだ。
今は朝……か?締め切っているので時間が分からない。ちなみにこの部屋には時計が無い。今はスマホの時代である……そうだ電話だ!警察に連絡しよう!
スマホを鞄から取り出しロック画面解除。今の時刻は9時48分か、ともかく連絡だ。
特別な部署に連絡すべきかと一瞬考えたが、調べるのも億劫なので例の3桁を入れる。
コール音もなく相手が出る
「もしもし、警さ」
『おはようございます!リリー・コーポレーション、コールセンターです!』
「……えっ?」
おかしい、確かに俺は例の3桁を入力した筈だ。しかし掛かった相手は違った。しかもあのリリーなんたらという会社に掛かってしまった。
「お客様は婚活パーティーに関するお問い合わせですね?少々お待ち下さいー」
放心していたら相手が勝手に話を進めてしまっている。ええと、警察にかけ直さなければ。
「お客様の登録は既になされていますね。会場は○○市△✕町、×丁目×番地××号102号室で、開始時刻は10時からになります。お待ちしておりますー」
そう電話は告げて通話が切れた。
えっ?登録済み?それにその住所は俺の家の
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。嘘だろ。スマホの画面に目を落とすとたった今10時になった事示している。手が震える。そんなはずはない。
ピンポーン
再びチャイムが鳴るが相手にしてられない。もう一度電話を掛けようと試みる。繋がらない。圏外?そんな訳ない、ここはいつも電波良好だったはずだ。そうだ家の電話を
ガチャガチャ
ドアノブを回す音が聞こえる。駄目だ間に合わない。鍵が掛かっていても、チェーンを掛けていても無駄だと直感的に分かった。窓から逃げよう。手足が震えて窓の鍵を開けられな
ガチャ、ギィィ
ドアが開いた。早く、早く逃げないと一刻も早く。窓が空いた。早く逃げないと。早く
トン トン
後ろから近付いている。早く早く早く開け早く開け開け早く
トン
肩に手が乗った。それと同時に雨戸が開かれる。向こう側には見覚えのある女性達。後ろをゆっくり振り向くと、また見た事のある黒髪ロングの女性。しかし格好はやたらと扇情的だ。魅入られたようにその顔を見つめる。そして彼女の唇がゆっくり開き
「はじめまして。末永くよろしくお願いしますね♥」
嫁が16人出来た
15/12/14 06:41更新 / ろれる