読切小説
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デュラハンさんが勝てない理由
「旦那にベッドの上で勝てないんだけど」
「よし表出ろこの野郎」
友人のネルの拳が力いっぱい振り下ろされる。
安酒場のテーブルが悲鳴を上げ、床までビリビリと振動する。
どうやら相当ご立腹のようだ。
「『話したいことがある』って神妙な顔で呼び出しといて惚気か!
 独り身の私に対するあてつけか何かかこの贅沢者!爆発しろ!!」
そう言って酒を煽り飲み、椅子にどっかと座る。
羽と尻尾が不機嫌そうにせわしなく動いている。
むくれてそっぽを向いた頭には黒い角が。
ネルは人間ではない。サキュバス種の魔物だ。
そんな相手が友人の私も、また人ではないわけで。
「大体、なんでマリーみたいな無骨者のデュラハンが旦那持ちなのよ。
 普通ないすばでーでフェロモンたーっぷりなサキュバスのほうが先でしょー?」
「そんなオヤジみたいなことばっか言ってるから男できないのよ、アンタ」
無骨者こと私マリーがそう答えると、ネルがぴたっ、と動きを止めた。
即座に目が潤みだし、ぷるぷると震えだす。
あ、地雷踏んだ。
「百(ピー)歳のサキュバスが処女で悪いか!?どうせ今まで旦那どころか彼氏だって
 いたことないわよ!世の中不公平だ不平等だ格差社会だコンチクショー!!」
「あーもう自分で暴露してりゃ世話ないわよいい加減落ち着け―!!」

数十分後。
「……落ち着いた?」
「何とかね……」
なだめすかしてやっとまともに話ができる状態にまでこぎつけた。
そもそも相談にきたんだ、私は。
「で?例の旦那君にベッドの上で勝てないと」
「まあ、そういうことなんだけど、ね」
「でも正直そんなタイプには見えないんだけどなー。
 マリーがハグするたびに真っ赤になるじゃない、彼」
ネルの言うとおり、普段の旦那は初心というか、女性に対して免疫がない。
ハグどころか手を繋いだだけでさえ顔が赤くなる。
そんな彼が何故ベッドの上でだけ暴君と呼んで差支えなくなるほどになってしまうのか。
「『ちょっとギャップが凄くて、つい』ってことらしいんだけど。多分首が外れた時だと思う」
「へー、ギャップ、ねえ」
にやり、とネルが薄く笑うのが見えた。
刹那、彼女の手が恐ろしい速さで私の首を外しに来た。
だがしかし。
「現役武官の私に力任せは通用しないわよ?」
彼女の手は首に届くことなく、逆に私の手によってがっちりと掴まれている。
まさか両手で来るとは思わなかったが。
それでも、ネルは薄く笑ったままだった。
「そんなのわかってるってば、力じゃ絶対に敵うわけないし」
でも、と彼女は続ける。
「両手が塞がっちゃってるわよねぇ、マリー?」
次の瞬間、何かに首を引っ張られる感触。
目まぐるしく変わる視界の中、捉えたのは、
「尻尾か!?」
ご名答、と小さく呟くのが聞こえた。
いやまて、それよりこの状況は。
“旦那様に乱暴にシてもらうのがたまらなく気持ちいいのぉ……”
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!?」
私の体からなにやら声が出ている。
あんなのが私の本音だとは断じて認めない、断じて。
「うわー、マリーって旦那限定でドMかー。確かにこりゃ男心をくすぐるわー」
今度私もこんなキャラでいってみようかしら、などとネルが言っている。
「んなことより早く首戻して!何この羞恥プレイ!?」
未だに私の首はマリーの尻尾に掴まれたままである。
「いや、惚気話してくれたお返しにね、溜まってた本音ぶっちゃけてもらおうかと」
「待ってお願いだからそれだけはやめてぇ!?」
そんなやり取りをしている間にも、私の体からは精気とともに声が漏れだしている。
“もっと乱暴に、壊れるくらい目一杯ガンガン突いてもらいたいよぉ……”
「うわぁぁぁ!?もう許してぇぇぇ!!」

「もうお嫁にいけない……」
「既に旦那持ちでしょうが」
二時間に及ぶ羞恥プレイの後、よしよしとネルに頭をなでられている。
「それにしてもあんなにMっ気が強かったなんてねー。正直意外だわ」
「あれは私の本音じゃないって何回も言ってるでしょ!?」
あーはいはい、とネルが軽くいなす。絶対納得してない。
「そんなに嫌だったら首を取らせなければいいじゃない。アンタの力じゃ簡単でしょ?」
「う、確かにそうだけど……」
こんなこと言うのは流石に恥ずかしすぎる。が、ネルは何が何でも聞きだすつもりのようだ。
それならば、
「ちょっと、耳、貸して」
せめて他には聞かれないように、最大限譲歩して、
「彼に触ってもらうだけで、何かもう嬉しすぎて、抵抗できなくなる、の」
言ってしまった。
体から漏れた言葉なんかより、遥かに恥ずかしいことを。
まぎれもない本音を、言ってしまった。
「……ちょっと、何か反応してよ」
ネルはなおも黙りこくったまま、動かない。
どうしたものか、と考えていると、彼女が顔をこちらに向けた。
「こりゃ旦那君の気持ちがわかるわ。アンタ可愛すぎ」
そのまま頭をわしわしと撫でてくる。
「いかにもクールビューティです、って見た目をしててこの可愛さは反則よ!?あーもう本当
 可愛いなぁ、お前は!!」
「あ、ちょっと、痛い、痛いし首外れる!」
「そのまま本音さらけ出しちゃいなさいっての!旦那君が妬ましいわ!!」
そう言いつつ、頭を撫でさするのをやめてくれた。
こういうところだけは友人やっていてよかったと思うところだ。
「で、旦那君に主導権握られっぱなしな訳が知りたいんだっけ?」
ああそういえば、本音暴露大会になっていて忘れていたが、その相談をしていたんだったっけ。
まあこればっかりは旦那君も我慢できるわけないわよね、とネルが言う。
「マリーが可愛すぎるのが原因ね。これからも多分握られっぱなしだと思うわよー?」
「うう、せめて一回くらいは主導権握りたい……」
そう言う自分の中に、彼に愛されるならそれでもいい、と考える自分もいて。
「ちょっと複雑、かも」
ネルがうんざりしたように「ごちそうさまでした」と言った気がした。
11/08/06 03:54更新 / めきゃべつ。

■作者メッセージ
デュラハンさんは可愛いよね、ね!(挨拶)
どうも、デュラハンスキーなめきゃべつ。です。
なんで旦那に勝てないのか、そんな悶々するデュラハンさんもいいじゃない!
……まあ、旦那が負けっぱなしな気もしますが。
でもデュラハンさんみたいな可愛い娘に勝てるわけないよね!(

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