プチ物語  〜海を漂う彼女〜

あらしさんいっちゃいましたー
いいてんきですー
おひさまはきょうもげんきですねー
あ、なんかいいにおいがします
さがしてみようかなー






〜〜〜〜〜〜〜〜
う…
ここは、どこだ?
目を開けてみると、眩しい日光と青くて広い空が目に映った。
海風がうるさいな。
試しに立ち上がろうとしたら、足場がひどく揺れた。
どうやら俺は今、何かの板みたいなものだけで海のど真ん中を漂流しているようだ。
いったい何があった?
落ち着け。
とにかく何があったか思い出さないと。
確かに俺は、一人の勇者だ。
そして、クラーケンを討つ依頼を受けて、海に出た。
だが、標的と出遭った記憶は無い…
そうか、途中で嵐に出会ったんだ。
「それで、この絶望的な状況になりやがったか」
周りを見てみる。
こんな海のど真ん中では、食物はおろか、淡水さえ入手できない。
「流石にこれは笑えねぇ」
こんなところで死んで堪るか。
とにかく、どうやって水を調達するか…


「おはよー」


「ああ、おはよう…て、テメェは何者だ」
「しーなですよー」
「名まえ聞いてんじゃねぇよ」
目の前には、なぜかシースライムがいた。
しかも手を板の上に乗せて、興味津々にその単純な目で俺を見つめている。
「あなた、だれなの?」
「…ただの勇者だ」
「ゆうしゃ?」シーナは首を傾けた。
「まものを、ころすひとなの?」
「間違ってはねぇな」
「しーなを、ころすの?」
「…見逃してやる。気が変わらねぇうちに消えろ」
そもそも、殺したくても体力が無いが。
「あはは、やさしいんだー」
「だからさっさと消えろ」
「やだですー」
「…好きにしろ。だがこれ以上しゃべったら殺す」
もう、会話もできないほど苦しい。
少し体を休んだほうがいい。
そう思いながら、俺は目を閉じた。





体がこの渇きに慣れてきた。
このまま救援がくるまで持てるか…
「おきたのですかー?」
「テメェまだいたのか…」
シーナは心配そうに俺の顔を見ていた。
「のど、かわいた?」
「うるせぇ」
鏡が無くても、顔色が悪い事ぐらい解かっている。
「うーん…」シーナは少し悩んだ後、何処から一つのビンを取り出した。
「おみず、のんで」
その言葉は渇きと戦い続けてきた俺にとって、実に耐え難い誘惑だった…が。
「…いらない」
「なんで?」
「俺は勇者で、テメェは魔物だからだ」
「…」
シースライムでも、その言葉の意味を解かったらしい。
俺たちは敵対関係だ。敵からの援助を受けるわけにはならない。
…でも、本当の理由は、そんなくだらない物じゃないけどな。





翌日の朝。
意識が遠くなっている。
水がないと、そろそろ厳しいか。
手を伸ばしてみた。
そんな事やっても淡水を入手することできないけど…
「ん」
手は、ひんやりとした何かの液体に触れた。
慌てて体を起こす。
水だ。
板の凹んだ所に溜まっているその水は、朝の雫かもしれない…いや、今はそんな事などどうでもいい。
少し飲んでみた。間違いなく淡水だ。
餓狼の様に残っている水を飲み干した。
僅かの量だが、確実にこの体を潤った。
これなら、もう少し持てるだろう…
「だいじょうぶ?」
「テメェは…シーナか」
「えへへ、なまえおぼえてくれたのね」シーナは嬉しそうに言った。
「あなたの、なまえは?」
「ユウだ」
「ゆうしゃのゆう!」
「どうしてこうなったんだ。と言うか、勇者と解かっててくっ付くのもどうかとは思うが」
「だってゆうはゆうしゃのかんじないし、まものにもふつうにはなしてる」
「…」言い返せないのは何故だろう。
「ねーねー、ゆうしゃってなにをやるひとなの?」
「…解かっているだろう。魔物を殺す野郎共だ」
「なんで?」
「魔物も人間を殺すからだ」
「え!?」シーナは酷く驚いた様だ。
「まものは、にんげんころさない…」
「んなこたぁ解かってる。テメェら魔物は、本気で人間を愛している事くらい。こんなくだらなくてド下手な嘘は、ただ教会が人々を騙す為の道具だ」
「そんなうそをつくなんて、ひどい」シーナは少し落ち込んでいる様だ。
「なんで、ゆうはわかっててもゆうしゃになるの?」
「…」
俺は空を見上げた。
「確かに今は、魔物と人間はイチャイチャしている。サキュバスの魔王さんのお陰でな。だが、魔王が変わって魔物は人間に友好になっても、もし魔王がまた変わったら?その時、魔物達と交わった人々は、どうなるんだ?」
シーナの上に浮んでいる「?」を見て、俺はため息をついた。
「まぁ、結局ただ魔物を駆逐しているアホらしい勇者だが」
「ころさないの?」
「…」
「やさしいんだ」
「うるせぇ」





やばい。
毎朝雫があるとは言え、限界だ。
シーナも元気がなさそう…て、幻覚だろう。
「ねぇ、ゆうほんとにだいじょうぶ?」
「ああ…」
「うそつけ」
「だま…れ」
シーナは何かを考えている。そして、何かを決めたようにいった。
「しーな、ゆうのよめになる」
「…はぁ?」
「そうすれば、ゆうもだいじょうぶになる」
「冗談いってん…じゃねぇ」
「じょうだんじゃない」
突然、誘惑に満ちた香りが意識を襲った。
仮でも魔物か。
ぐ…これは、耐え切れない…が、必死に反抗する。シーナを襲う衝動を抑えながら。
抑え切れない左手を、右手で何とか握り締める。
赤い血が流れても。
…でも、俺は何故そんなに必死なんだろう。
「俺みたいな奴…助ける為に、勝手に自分の夫決めるんじゃねぇ…」
そして、意識は霞んだ。


「…かってなんか、じゃない。すきだからなのに…ゆうのばか…」


シーナはなにかを呟いている。
だけどはっきりと聞こえない。
意識が消えて行く。
クク…笑える死に方だ。





「ハッ」
眩しい日光と青くて広い空。
死んで…無い?
一体どういう事なのだ…
体を起こした。
左手の傷も治った。
渇きなど、跡形も無く消えた。
「まさか…」
いやな予感がする。
急いで周りを見回す。
そして、シーナが目に映った…
いや…
「シー…ナ?」
「う…ゆう?おきたんだね、よかった」
「良かったじゃねぇよ…」
シーナの体は、酷く乾いている。
常に水に覆われている皮膚さえ水分を失っている。
「テメェ、ずっと俺を騙しやがったな!?あの雫は、テメェの体液なのか!?」
「…ごめん、しーなのたいえきのんで、きぶんわるくしたの?」
「そーゆーくだらねぇ事言ってんじゃねぇよ!!毎日あんな量の水を消耗しながら、そんなに淡水を使って、テメェはどうなるんだ!?」
シースライムだってスライムだ、体のほとんどが淡水で出来上がっている。シースライムはこの広い海の中でも淡水を作れるが、魔力を使っている限り限度がある筈だ。
「淡水はテメェらにとって途轍もなく大切だから、助けを断ったのに…何故…」
「あのとき…しーなをきづかって…ことわったの?」
シーナは微笑んだ。
「やっぱりやさしいひとなんだ…たすけてよかった」
「だから何故そんな無茶を…」
「ゆうをたすけたのは…ゆうのことだいすきだから」
思わず目を丸くした。
「だから…さいごにいわせて」


「ゆう、だいすき」


今まで何をやっているんだ。
シーナを気遣っているつもりで、シーナに気遣わせて。
シーナの為にと思いながら、シーナの本意を気付かなくて。
シーナの命が消えてゆくのを目の前にして、何もできずに。
だから、今まで何をやっているんだ。
何をやれば、シーナを救えるのか…!!






そして、思いついた。
シーナを助ける最後の方法を。






〜〜〜〜〜〜〜〜
あれからどれ程経ったのだろう…と言いつつ、あんまり時間経ってないけどな。
あの後俺たち二人は通り過ぎた親魔物領の船に発見され、何とか無事に生き残った。
ついでにそこのシー・ビショップさんに頼んで結婚した。
そして今、二人で穏やかな日常を送っている。





…いずれか、魔王は変えるだろう。
そして、人間も危ない目に合うかもしれない。
だが、きっと大丈夫だ。
だって、結ばれた人々と魔物は、決してお互いを裏切らないから。
俺たちのように。


どうも、ランタンです。
初めてのss投稿です。と言うか初めての日本語でのssです。
文法とかいろいろミスがあるかもしれませんので、ガツンと言ってください!



スー「ユウもバカだね、今の魔王様は魔物と人間の絆から力を得て、史上最強の魔王とも言えるよ。」
ランタン「そうだな、人間滅ぼうぜ!!みたいな魔物が魔王様に勝つわけないし、そもそもそんな魔物もいないし。」
スー「そーいやさ、アンタいったいなに?ランタンのくせに喋れるし、魔物でもないし。」
ランタン「まぁ、大きい世界の一つの小さな謎?という感じで。」
スー「グタグタじゃん。とにかく、次回も期待してね!」
[エロ魔物娘図鑑・SS投稿所]
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33