影と約束

医者が言った…


「あの子は……もう助かりませんよ…」



やめろ…



期待していない言葉…ありえない…信じたくない言葉……
まるで夢だ。そう………これは夢なんだ。そう自分に言い聞かせる…

あいつの父はそう言った…

「せめて……娘になにかしてやりたいな…」



やめろ…



あいつの母はそう言った…

「最後ぐらい…皆で一緒にいたいわね…」




やめろ…




「いなくなってよかったんじゃないのか……あの子はお前に悪影響だ…」

「いなくなってよかったのよ……あなたには必要ないのですし…」

俺の両親は…そう言った…


やめろ……やめろ……


「「あの子はお前(あなた)とは………違うのだから(な)…」」


やめろ…やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!!!




それ以上言うなぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!







ドサッ・・・・・・



「………ぁ…」


どうやら、ベッドから落ちてしまったらしい。
寝相の悪さは昔から一級品のようだ。

そして、俺の寝覚めは悪い…

「………」

何度目だろうか…いや、数えなくてもいい。あの日から毎日みているんだ。
一年は365日…それさえわかっていれば何度目の夢なのかは簡単に計算できる。
俺は適当に歯を磨き、適当に朝食を取る…

時計は午後9時を指していた。少し寝すぎた…


挨拶をしてきた使用人たちに挨拶を返す。
…ここにいるのは屋敷を……貴族の生まれである俺を世話してくれる使用人だけだ…



あの頃から何一つ変わっちゃいない…
いや、一つだけ変わったことがあるか…それもとびっきりのもの…

両親が死んだ……俺にとっては忌むべき……憎むべき存在だった…父と母と呼ぶのも煩わしい二人が…ついに死んだ。ちょうど一年前のことだ。


思い出して…自嘲気味の笑みがこぼれる…俺も人間だ…死んだと聞けば一抹の寂しさもあるし動揺もする。
だけど、あの時…そんなものはすぐに吹き飛んだ。

なにせ、両親はその死ぬ間際…俺との面会を断り、葬式にも俺は呼ばれることはなかったから…
血が繋がっているのに……なんとも冷え切った親子。
当たり前ではあるかもしれない。

あの日から…俺は両親との関係を可能な限り切り崩し、ひたすらに修練と勉学を積み重ねてきた。
親に会ったのは…あの日から数えれば大体9年も間があるのに片手の指で数えられる程だろう…


「…全ては…守るため……」


結果的に俺は若くして…年齢17にしてこの家の当主となった。死ぬ間際に面会することも許されなかった俺が…だ…
過信するわけではないが、当然といえば当然だろう。
どんな過程であれ、俺はあの腐った両親の息子……そして、その剣術も知識も、俺より秀でる権力者はこの街にはいなかった。


俺はこの街の政治を任された。そして今日までの一年…俺が真っ先に行ったのはこの街の人々の暮らしを豊かにすること。
両親が貪っていた民への異常な税金制度を廃止し、どんな人でも苦にならないような税金制度を考えた。

使用人たちのこれからの給金に困らない程度に、貧困に苦しむ住民にも財産をばら撒いた。これも元はこの街の人たちの者だ…
俺が持つ道理も義理もない。

そして、無駄に広いこの屋敷…正直に言えば広すぎて雇う使用人もばかにならない…だから一部の部屋を宿として売り、俺の屋敷の70%ぐらいは宿泊室と娯楽施設になった。それでも使用人と俺の部屋はまだ十分に余っている。
もちろん宿の方の施設の管理は宿屋の人と使用人の分野だ。俺がどうこうするわけじゃない。


この街は変わった…そう皆が言ってくれる。

全ては貴方様のおかげだと…街の年配の人たちは言ってくれる…

お兄ちゃん、ありがとうって…子供が言ってくれる。

両親がいたころの圧制を知っている人たちは口々に俺を褒め称えた…
感謝してくれた…



だけど…


「せめて…これからの…この街を…守る…」


俺はそんな大それた器をもっていない。街の人たちが言うほど立派じゃない。
冷めた関係とはいえ、両親が死んだことに悲しむことすらできないんだ。
街のためとは思って手は尽くしてはいても、それは結局俺の自己満足なんだ…



『約束だよ………わたしの分まで…生きてね…』




大好きだった幼馴染も救えず、死にたくてもその約束を守ろうとした…いや、本当は自殺すらも恐かっただけなのかもしれない。



そんな臆病者で、弱虫で、無力なただのガキなんだ。









そんな俺は今、趣味と称して狩りをしていた。
子供の頃から遊び場所として選んでいた森だ。いたるところには秘密基地なんてものもある。

そんな子供でも遊べる森だが、奥は危険だ。この街の政治を任せられてる領主という者がこんなことをしてるというのは危険だとか、娯楽にしてはやりすぎだとか問題があるようだ。使用人には未だに止められている。

でも、やめなかった。
狩りなら狩ったら狩ったで、娯楽として楽しめる。
途中で災害などで事故にでも遭えば死ぬ事が出来る。
要するに俺は、守るだのなんだの自分に誓っておきながらその実、街を守ろうとしていることも、アイツとの約束もあわよくば破るつもりなんだ…明らかに矛盾している。もう、どうしようもない人間なんだ…

いや、それでいい。
俺のやることはもう終わっている。
後は、俺の両親達がした事を繰り返さないように、その痛みを知っている人達が皆で意見を出し合って、国の代表を決めればいい。

(そういえば、昨日の夜は月が見えなかったな…新月だっけか…)

なんて意味のない事を思い出しながら、いつもの日課で森を歩いていると…

パキッ…ポキッ…


…?

ぽりぽり…

森の中で不自然に響く何かが折れる音。
その音はとても懐かしく感じた。

……俺が子供の時から流行ってる菓子だろう。
カリカリした食感で、独特の甘さが大人気だった。唯一の難点は、食べるととても大きい音が鳴ること。
口を閉じても近ければ周りに聴こえる。
先生に気付かれずに授業中に何本食べられるかで競ったものだ

駄菓子店でも未だに売られている・・・懐かしいな…
あいつも…好きだった…



「誰かいるのか…? 子供がこんな森にまで来るものじゃないぞ…」


ポリポリポリポリ…

「おい、きいてい……っ…!!?」

木陰の中で見た子供は…

忘れるはずもない。

純真無垢を体現したような瞳。
長い金髪をストレートに整えている。

なにより、あのお菓子をとてもおいしそうに頬張っているのが印象に残る。

「そ…そんな…」

似ている?

いや、似ているなんてレベルではなかった。
本人?

だ、だが本人なら俺と同い年…18だ。
この子は当時の…7…8ぐらいのものだ。

「る……ルネ……」

俺はその幼馴染の…死んだはずの幼馴染の名前を言った。

「ほむ? …ん…ん〜〜!…(ごっくん!)……あれ……ルー君…?」

俺…ルークをその呼び方で呼ぶのは…あいつだけだった…

「ルー君なの? なんだかすっごく大きいけど…?」

ずいっと身を乗り出し、俺の顔を凝視する…その彼女の顔はやはり想い出と一致してしまう。
だが、ルネと断定できるはずがない。彼女は10年前に死んだ。
なのに…俺にはもう彼女…ルネとしか思えない…

「ルネ…ルネなのか…?だって…お前は…それにその姿……」

「……ルネ…うん…ルネだよ…わたしは…うん。じゃあ、やっぱりルー君なんだぁ…♪」

「だが…どうして…まさか…ゴーストという魔物として…」

「ゴーストなんかじゃないよ!ほら…!」

「っ!!?  ///」

いきなり俺の手を掴んだ彼女は、いきなり胸に手を当ててきた…!

トクン…トクン…

「ほら…わたしの鼓動だよ…感じるでしょ……わたしはルネ……本当だよ…ルー君…」

たしかに鼓動が感じられた…だけど…

「10年前から…なにがあったんだ…!?」

俺はそれを聞かずにはいられない。……死んでゴーストになったというのならまだわかる。魔物娘のいるこの世の中じゃそれがかえって普通だ。

「お父さんとお母さんね…わたしが死んだと思って…お墓に埋めたんだよね…気が付いたらわたし…起きちゃってて…」

そっか、10年経ってるんだ…と彼女は独り言のように呟いた。

他に考えられるのが、ゾンビやグール…少なくとも魔物のであることは確かだろうと思う。

それで…今さっき目が覚めたばかりだとか。お菓子は拾ったものだとか…

「なんだかお腹も空いてないし…年も取ってないみたいだね……」

ただ彼女が無自覚なだけで、別の魔物なのか? 腐敗なども全く見られない…やはり異常だ……新種?

だけど………

「ルネ……」

「な〜に? ルー君♪」

「俺………お前に…謝りたい…」


俺はひざまずいて…彼女の手をとった
もしこれが幻…あまりにも現実味を帯びているが、俺の夢や幻覚ならそれでもいい。

「ごめんな……助けられなくて…何もしてやれなくて……」

「………ルー…君…」


枯れたと思っていた涙がこぼれる…
両親が死んだ時…一滴も出る事もなかったモノだ…

こんな俺が泣いている…滑稽だろうな…
だが、ルネはその小さい体で、俺を抱きしめてくれた…

「わたしの方こそごめんね…ずっと離れちゃって……これからは…ずっと一緒だからね……」

彼女にしてみれば、ふと眼が覚めたら幼馴染が成長していたというものだろう。つい最近まで会っていた相手だ。
でも、彼女の言葉は…そんな立場でも俺を気遣ってくれていることが…その温かさで伝わる…

これは夢?

夢じゃないとしたら。彼女はなんなのか…

「ルー君…わたしはここにいるからね……」

その言葉は…俺になのか…自分になのか…











それから、俺とルネの生活が始まった。
ルネについては疑問が残るが、彼女も詳しくはわからないそうだ。とりあえず、彼女の両親に伝えるのは混乱を避ける為にもう少し分かってからでいいだろう。
本音をいえば、彼女が俺の傍にいてくれることが心地よくてそんな事務的な考えは今は忘れたかっただけだが…。

あの頃に…すこしでも戻れたような気もする。

「ルー君…変わっちゃったね…」

「…何がだ……?」

俺の部屋の中、ベッドに座って話し合っていた。
こうやって、まともに人と話すのも久しぶりかもしれない。

「背とか…声とか…」

確かに、成長していない彼女には異常に見えるかもしれない。

「あれから10年だからな……さすがに変わりもするさ…」

それに彼女は、悲しそうな目で…俺を見つめ、目を伏せた。

「そ、そうだよね…変わっちゃうよね……わたしが異常なんだ…よね…」

瞳に涙が浮かぶ…俺にはそれが耐えられなかった。

「やっぱり…魔物なのかな…わたし…」

ぽろぽろと…
自分はいてはいけないのか…本当にここにいるのか。
俺はルネが不安に思って欲しくはない、悲しんで欲しくもない…


「ほらっ!」

「きゃっ!?」

俺は自然とルネの手を引いて、屋敷の中庭へ連れていき、彼女を肩車して、辺りに広がる花を見せた。

「ふぁ…すっごぉおい! すごいやルー君!!たっかーーーい!」

涙も薄れ、花畑を見渡すルネ…
この花畑だけは…俺の自慢だった。

花が好きだったルネへの供物のように、毎日使用人の手も借りずに手入れした中庭の花畑だ…
その彼女が…たしかな実体を持って俺の肩に乗っている…
彼女の涙も消え失せてくれた。

「お前はここにいる。そして俺は…そもそも魔物と人は共存するものだって考えてる……だからそんなこと気にしないでくれ…お前が魔物であっても、俺は全然構わないからな…」

本当に昔に戻ったみたいだ…
こんなに人に向かって喋るのは何年ぶりだろうな…

「ルー君…」

肩車されていた彼女は、脚と腕で俺の頭をぎゅっと強く抱いて精一杯の愛情を表してくれた…




ルネが駆け回ったり、花で戯れること数刻
直に夕暮れになる。

眠いと言った彼女はそそくさと俺のベッドで大の字に寝てしまった。

「ルー君の匂いぃ…♪」

…恥ずかしいからやめてくれ…

「スゥゥ……スゥ……」

幸せそうに寝やがって………こうも何も変わっていないとは…



コンッ…コンッ…



「…俺が出る。入らなくていい…」

使用人の中で一番の年長。…俺が幼少の頃から世話をしてくれた人だ。
幼少の頃の癖で、未だに『じいや』と呼んでしまう…

「すまん、じいや……ルネは今寝ている。別の部屋で話そう…」

自分の部屋から出た俺は、少し不安そうな顔をしたじいやを見た。
しかし、いつもの執事姿が相変わらず様になっている。

「そう…ですな坊ちゃま……別のところで話しましょう…あまりルネお嬢様のお耳には入れたくない話でございますゆえ…」

…そうだろうな…
俺だって彼女がいるからといって腑抜けていいわけではない。
むしろ大切だからこそ、考えなければならないだろう。










「坊ちゃま…やはりお嬢様は……」

客室にあたるところで、俺とじいやは話し合った。

「分かっている…それ以上言わないでくれ…」

彼女が異常だということはわかっている…
死んでから10年後にひょっこり当時のままの顔を出して…
それで『はいそうですか』っていられるわけはない。

「では、魔物だということを前提にして、坊ちゃまはお嬢様と…?」

「…………守れなかったんだ……その罪滅ぼしができるなら…」

それに俺自身にとっては種族は些細な問題だ。

「今度こそ…あいつを幸せにしたいんだ……!」

これだけは本心だ…
荒んだ俺が見つけた、たった一つの希望。

「そう…でございますか…」

じいやは柔らかに笑った・・・

「坊ちゃまは本当は優しいお方・・・あの時以来、昔のような坊ちゃまの顔をお目にかかることはもうないと思っていましたが・・・」

じいやは本当に俺のことを見ていてくれている…

「少し前の坊ちゃまは…まるで死に場所を求めているかのような出で立ちでございました…」

やはり、じいやは分かっていた。
俺は心を許している相手にしか見せる事のない笑みを見せた。

「じいやに隠し事はできないな…俺は死に場所を求めていた…もう、俺の役目は終わったからな…」

自嘲気味にそう伝えたが、じいやの反応は俺がおもっているのと少し違った。

「なりませんぞ坊ちゃま…坊ちゃまはこの街に必要な御方……決して…そのような事は許せませぬ…」

「す、すまない…」

諭されているはずなのに、じいやの声音は穏やかだ……

「ですが、今の坊ちゃまなら自決などという下らないことはしなさそうではございますが……」

そして、ほっほっほ、と……打って変わって陽気に笑っている。





「…話しを戻すが……もう一つの可能性も考えよう…」

俺はなるべく低い声音で話した。これからの話についての重要性を指し示すために…
さきほどまで笑っていたじいやの表情も厳しくなる。

「ルネお嬢様が……偽者だった場合…そうでございますね…?」

話しが早くて助かる…

「ああ、俺は確かに悔いている…罪滅ぼしがしたい…ルネも見ての通り、俺と遊んだことを…何もかも覚えている。俺と遜色がないほどに……だからその可能性は低いと思うのだが…」

拳を握る…

「もし、なんの理由にせよ…アイツの死を弄んでいるのなら…俺は許さない……!」

俺はアイツの事が好きだ…だが、だからといって盲目的になるわけにはいかない…
思わずテーブルに握り拳を叩きつけてしまった……


「……もしそうだった場合は…」


「もし俺が冷静でいられたなら…最悪だったら追放だ。変装してる理由にもよるがな…。 だが、その時俺が怒りで我を忘れてしまった時は…俺を止めてくれ…」

じいやの問いに俺は答えた…

「承知致しました…」

じいやは深々と頭を下げた…













その次の夜…月が明るい……


「月…綺麗だね…」

「ああ…」

俺の部屋で、ルネはベッドから窓越しに月を見る。
月明かりに照らされていた彼女は子供の肢体でも艶かしくみえた…

「ルー君……わたしね…新聞読んだから……少しは分かったんだけど…」

「なんだ…?」

ルネが珍しく…いや、今となっては頻繁にする暗い表情を見せた…

「あの病気…治るようになったんだね……」

……ルネがかかっていた病気のことだろう。
皮肉にも、彼女が死んでから数日後に特効薬が見つかったのだ。

「ルネ……」

盲目的になってはいけない…
だけど、俺には彼女が悲しむ顔を我慢することはできなかった…

「ゴメン…」

この一言しかでなかった…的外れな言葉でもあると思う…
ただ、これ以外の言葉がみつからなかった…

「え、ううん! 違うよ……わ、わたしの根性がなかったのがいけなかったんだよ!」

そうやって、彼女は笑う……
俺なんかのために笑ってくれる…哀しげな表情をその裏に隠し、それでも我慢して笑っている…
昔からそうだった…

「…ゴメン……」

ただ、俺は彼女を抱き締める事しかできなかった。
あの頃の彼女を…その細い身体を抱きしめる。

「泣かないで…ルー君」

抱きしめている俺の頬に柔らかなものが押し付けられる…

「る、ルネっ…!?」

思わず引き離してしまった……

「えへへ……ほっぺだけど…シちゃった…♪」

ペロッと舌を出して、恥ずかしげに笑う…
自分でも分かる…耳まで熱くなってるな……俺…


「………ルー君……大丈夫だよ…」

今度は彼女の方から俺を抱き締めた。

「わたしはもう死んじゃってるのかもしれないけど……こうしてここにいるの……でも、これから先もしかしたら…わたし、ルー君を困らせちゃうかもしれない…それでも……」

その後の言葉は…予想が付く……
だけど俺は…


「わたしのこと…好きでいてくれる…?」


俺はただ、彼女を抱き締め返すことしかできなかった…






それから、何も変わらない日常が繰り返される。

「ルネお嬢様…お茶を…」

彼女はお茶受けにいつものお菓子を食べていた。
いくら好きとはいえ、毎日食べてて飽きないのだろうか…

「あ、ありがと〜! じいやの淹れてくれるお茶だ〜いすき!」

それはそれは…と、ほっほっほと笑っているじいや。
本当に、何一つ変わらない。
まるで10年前に戻ったかのように…

しかし、こんなところでも俺はルネが偽者かどうか…そこに悩んでしまう。
10年よりさらに前。俺と遊んでいた記憶は全て記憶していた。
記憶も仕草も匂いも…全てにおいて彼女はルネだった。
やはり偽者の可能性なんてない…淡い希望をもっていた。






「そろそろ、お前が魔物だって事が前提だとは言え、両親に言ってもいいかもな…」

あれから1ヶ月が経過した。時刻は夕方。
そろそろ両親に話しても良いかもしれない。彼女が魔物である恐れはあるが、受け入れてくれるのなら問題はない。
受け入れてくれなければこちらが引き取るだけだ。
俺とじいやとルネはお茶を飲みながら相談した。

「え…お父さんとお母さん?」

ああ、と俺は頷いた。
しかし、彼女は気まずそうな顔をしている。自分がまだ良く分からない存在…少なくとも魔物であるのだから両親に遠慮しているのかもしれない。

「だけど、驚くだろうな……死んだと思っていた娘が10年経って帰ってくるなんて…」

「え、ああ! うん…そうだろうね…」

やはり遠慮しているのか。彼女の反応は少し鈍い…

「やっぱり…遠慮しておくか?」

「う…うん……ごめんね…やっぱりまだだめ…」

バツが悪そうに目を伏せた…

「そうか……」

正直、俺は彼女がここで自分から断わるのは予想外だった。
いつもの彼女なら、たしかに戸惑うだろうが、現状を少しでも進展させるために動くだろう。
違和感を感じた。

だが、断わったことで俺がホッとしたのも事実だ。
しかし俺の心中を察しているのだったら、それはしてほしくない。

「お嬢様…坊ちゃま…お茶を…」

「あ、ありがと…?」

いえいえ、冷めてしまうので…と、どこか楽しげに…
ほっほっほといつもどおりの笑いを浮かべながらじいやは微笑んだ。

「あ、ああ…すまないな。じいや…」

カップに口を付け、ゆっくりと味わう…
ルネもそれにならってなるべく下品にならずに茶を啜ろうとしている…

「………甘っ!!!?」

「苦っっ!!?」

「おやおや、どうやら坊ちゃまとお嬢様のを間違えてしまったようですな…」

ほっほっほ…と…わざとらしい……


「ひどいようじいやぁ……」

苦いというのは彼女にこたえたらしい…ぺっぺっぺと瞼をぎゅっと閉じて舌を出していた。

「じいや…なんでこんな事を……」

「だんだんと場の雰囲気が暗くなってしまっていたので…つい…」

つい…で悪戯されるとは…じいやもルネに似ているところがあるのか…

「……すまない…」

「謝るほどのことではございませぬ…年をとってから、暗い雰囲気というものは苦手になりましてなぁ…」

くすくすとルネも笑った…



「もうすぐ日が暮れるな……今日は新月だと思うが…」

「っ………!」

その時のルネの表情は、少し強張っていたことを俺は見逃さなかった。
ちょこんと椅子に座り、スカートの裾を膝のあたりで掴んでる…

「ルネ…ちょっと外で見てみるか? 何か面白いことがあるかもしれないぞ?」

「え、ええっと……ごめんね…今日はもう眠いから寝ちゃおうかなぁ…なんて…」

「そうか…」

ごめんねと付け足して、ルネはそそくさと俺の部屋に行ってしまった…

「夜の散歩というのもまた良いものですが……さすがのルネ様も眠気には勝てませぬか…」

「じゃあ、俺は散歩してくる。ルネのことは頼んだぞ」

いってらっしゃいませという声を後ろで聞き、俺は屋敷の外へ出た。














…屋敷の中…



俺は外に出て暫くした後に家戻った…
実際のところ、俺は外に出てはいたが全く家から離れてはいない。
俺が新月と言った時、彼女は緊張していた…恐れていた…
何にかはわからない…

俺の知らない魔物だろうか。俺の家にある文献は少し古い。知らない魔物だっているだろう。ルネが多分それだ…

俺は考えたくない事を考えながら自分の部屋へと静かに向かった。

「ルネ…?」

俺の部屋…眠いから寝ると言っていたルネはベッドにいなかった…
彼女なら寝るといったら幸せそうな顔して寝るに決まっている。

眠れないにしてもいないのはおかしい…トイレにでもいったのか…?


「…………」


だが…誰かがいる…やはりルネだろうか。
しかし、そのいるであろう気配はずっと俺を見ているのにも関わらず、何もしてこない。
ルネなら飛びこんできたり声をかけていてもおかしくはないが…俺は胸騒ぎを感じていた。

気配のある方向に俺が進む、決まってそいつは離れて一定の距離を保つ…

「フッ!」

俺は一瞬で距離を詰め、その影の腕を捕まえた

「イヤッ!!」

その声は、ルネのモノではなかった…
俺は近くにあったランプでその影を照らす…

「…ぁ………」

そこにいたのはやはりルネではない…
だが、影の来ていた服は、今日ルネが来ていた服と同じもの……

「………誰だ…」

怒りが込み上げた…同時に自分を呪った…

何が偽者の可能性なんてない…だ。

何がルネは何も変わっていない…だ。

何がルネは生きている…だ。

ただの別人じゃないか………


「………ぁ……ぁ…」

影は少女だと分かった…ただそれだけ…

その少女とルネには全く似ている所がない…

ただ嗚咽を漏らしているとても儚そうな少女だ…

「お前は…誰なんだと訊いているんだっ!!!」

苛立ちが募り、俺は叫んでしまった…
もし、冷静なままでいられたのなら、少女がどれほど悲しい表情をしていたのかわかっていたのだろうか。だが、今の俺にはそんな事など関係ない。

「…ぁ…わた…し……」

「お前は……!!」

「ひッ…!」

言葉を遮り、掴んだ腕をぎりぎりと締め……俺は放ってしまう…

「ルネじゃない!!!」

「ぁ……」

少女は…ただ涙を流し、嗚咽を漏らし…
言いたいことを言った俺の緩んだ腕を引き剥がして廊下を駆けていった…

「坊ちゃま!! 今の声は……」

そこでじいやがやってくる……
じいやがいてくれれば、もう少しは丸く収まっていたのだろうか…

「なんでもない……なんでもなかった…」

一人ごちに呟く……
そう、ルネは死んでいた。ただ事実が戻っただけのこと…


なのに、なんで涙が出るのか…

裏切られたからなのだろう。俺はそう思う…
じいやはただ…涙を流す俺を眺めていた…










やがて、朝を迎える……

一睡もしていない……

「クソッ…! 畜生…!!」

俺はまだ悔いていた。大切な幼馴染の偽者を見抜けなかった事を…
どうしてあんなのをルネだと思ったのかを…

そして…


「坊ちゃま…あの子を追いかけなくていいのですか…?」

「なぜそんなことをしなくてはならない…」」

どうして、あの儚そうな少女のことが頭から離れないのか…

「確かにあの子はルネお嬢様ではありませんでした……それは坊ちゃまにとってなにより憎いことでしょう」

ですが…とじいやは続ける…

「たしかにそれは事実ではありますが、その理由をまだ問うてはいませぬ…坊ちゃまにはそれを知る義務がおありだと私は思います…」

「……たしかにそうだとしても…俺は…!」

許せない……

「坊ちゃま…許そうなどとは私も言っていませぬ…ただ、知らないより、知っている方が良いでしょう…という話しでございます…」

確かに正論だ…
しかし、あの少女は屋敷の外に出ていった…あの体躯なら恐らくは近辺の森ぐらいまでしか走れないだろうが…それでも森を捜すのは困難だ…

「……わかった…じいやがそう言うのならな…」

困難だ…だが、仕方ない。ここまで言われて駄々をこねるほど子供じゃない…俺だって分かっている。ただああやって追い出すことが解決じゃないぐらいは…

そして、俺は家を出て森を目指した…あんなに頭に血が上っていたのに、ハッキリと覚えている少女の顔を頼りに…








森に入って、どれほどの時間が立っただろうか…
朝から捜して見たものの、今は太陽が傾き始めている…
森の木の葉も、ざわざわと音を立て、直に夜になると脅しているようだった。

「なんで…ここまで捜さなくてはいけないんだ…」

まさか、捜したくない相手を捜すのにここまで躍起になるとは…俺も案外子供なのかもな…などと朝とは逆のことを思ってみる…

しかし、もう森の全域で子供が来れそうな場所は捜したのだが…まさかさらに奥か…?
そして俺が向かった先は、ルネと俺がよく遊んでいた場所…

森の奥に二人でこっそり作った大樹の幹に空いた穴で作った秘密の家…

「…さすがにいないか……」

まさか、ルネでもないのにこんなところに隠れるわけがない…
そんなことを思い、苦笑しながら家を後にすると…


突然、轟…と音を立て、周りが揺れ始める…

「ッ…!? 地震!?」

しかもかなりデカイ! 

まともに立つ事も出来ず、俺は倒れてしまう…

「なっ!!?」

そして、家となった大樹を除いた周りの木々は倒れる……
一斉に俺を狙うように……

(逃げられない…!)

だが、これでいいのかとも思った。

だって、ルネはもういないのだから…

だったら、このまま俺が死ねば…俺の望みどおり、事故で死ねるじゃないか…

(死を受け入れるというのは、こんなにも安らかなものなのか…)






………………………………………………………………………









「ハッ……!」

起きた時、少しだけ時間が経っていたのだろう…土煙は既になかった…
しかし、あれだけの木が倒れて置きながら無傷…? 死んでないならまだ理解できるが…無傷だと?
汚れこそは残っているものの、外傷はないといっていい…

それに疑問を抱き、前を見ると…目の前にあの黒ずくめの少女が倒れていた…不幸中の幸い…倒れた木々は周りの地形と絶妙な位置で組み合わさり、、少女はギリギリで押し潰されなかった…だが、倒れた時につけられた傷は見るだけでもとても深い…黒かった全身に赤が入り混じっている…

「お前…!」

まさか…この小さな身体で俺を押し出して身代わりになったというのか…?

あの地震の中で…?

俺を…?

俺はすぐに少女を組まれた木から引っ張り出し、もしもの時にといつも携帯させられている小包から包帯と消毒をとりだし、すぐに患部の止血を行った。

「ぁ…う……ル……ク…さん……無事……です…か…」

「今は喋るな…! 言いたい事があるなら傷を治してから訊く!!」

少女が傷ついた姿は、俺を動揺させた…
その儚そうな顔が…最後のルネの表情と重なる…

「ごめ……ん……なさ…い…ごめん…なさい…」

涙が血に交じる……

「喋るなと言っただろう!!」

そんな顔しないでくれ……
お前はルネじゃないのに……なんで俺を助ける…どうして俺を動揺させる…!?

「ルネ…ちゃんに…も…あや…まらない…と…」

「だから…もういい!!」

俺が叫ぶ。そこで気力が尽きたのか、彼女は身体を弛緩させ…そのまま力なく俺の手に抱かれた…

彼女は何か、重要なことを言おうとしていた…俺はまず彼女の命を優先したかった…
心から、彼女を救いたいと思った。

あんなにも憎んでいた相手を…だ。滑稽だと思う。

(まだ…まだ生きてる……まだだ…!)

ここから彼女を運んでも間に合わない……さらに、彼女を背負って走れば、弱った身体はその衝撃に耐えられないだろう…

俺は、今ある道具で懸命に彼女に呼びかけ、自分にできる限りの治療を行った…





(感じる魔力は魔物のものだ…救われたな…)

治療は終わった…まさかいらないと思っていた医学書の知識がここで役に立つとは…
だが、もし彼女が生身の人間だったなら、恐らく死んでいた…
魔物の生命力に助けられたな……


すぅすぅと安らかな寝息を立てて寝ている…その顔はとても愛しいものだった。

(よかっ…た…)

気が付けば夜だ…新月に続き、ほとんどみえない三日月だ…
森がざわめく……それがまるで子守唄のよう…

俺は…この少女を抱きながら、大人の身体には少し窮屈な秘密基地の中で…その子守唄を聞きながら身体を休めたのだった。
















「もうすぐ…わたし…死ぬんだね…お医者さんがパパとママに言ってたこと聞いちゃった…」

「うん……」

夢……?

「ルー君…心配だなぁ……だって、意外と泣き虫さんなんだもん…」

見覚えのある病室…その声はルネだ……じゃあもう一人の声は…?

「ルーク君は……大丈夫だよ…絶対…いざとなったら私がなんとかするから……」

あの少女の声だ…少し幼いが間違いない…

「でも、ルー君ってにぶちんだよね〜……わたし達…毎日入れ替わってたのに…」

「あはは…バレたら困るよ……」

二人の少女は昔を思いだすように笑う。

一人は楽しげに、一人は儚げに…

「ルー君も心配だけど……あなたも心配……いつまでもわたしになんてなれないんだよ…?」

だって、もう少しで死ぬんだもん…そうルネは告げた…

「……うん…」

少女はまた、儚げに頷いた。

「そだ……じゃあルー君にラブレターでも残そっかな…」

そう言って、ルネは少女の耳に輪にした両手を当て、ひそひそと話した。

「えっ!?」

「じゃあ、よろしくね…絶対伝えてよね?」

「レター…じゃないよ………分かった…絶対届けるからね…」

少女はこれ以上なく、しっかりと答えた…

「うん…お願い…」

ルネも笑って応えた…




この後のことは大体分かる。

ルネが息を引き取って、そこから誰と挨拶する間もなく俺は両親との関係を可能な限り崩すために遠い親戚の家へ出てお世話になっていた。
それから9年目にして両親が他界。屋敷に住んで政治の改革を行ったのは1年前である…そこから最近になってようやく多忙の日々から開放されたのだ…

少女は…10年待ち続けたのか…










「ん……」

そこで俺の視界は夜の森へと移った。身体が気だるい…寝ていたのか…
しかも、うっすらの夜空が明るい…直に朝になるだろうな

気が付くと少女が俺に抱かれたまま、俺の顔をまじまじと見つめながら微笑んでいた…
ふと、彼女の身体を見ると、包帯こそは赤かったものの傷口は塞がっていた…
さすがは魔物というところだろうか…

「ルークさん……あったかい……」

少女は傷つけた俺に臆する事なく、抱きつく…
俺の方も既にこの少女に対する憎しみはなくなったのだが…とりあえずわだかまりぐらいは解消させておこう…

「その…なんだ……昨日はあんな事言ってすまない…」

「いえ…私が悪いんです……自分に自信がなくて、結局ルネちゃんに頼った自分が…」

ごめんなさい…ルークさん…と、また謝った…

「ルークさんなんてもう呼ばなくていいぞ…昔からの友達だったみたいだしな…」

「えっ…? もしかして気付いていたんですか!?」

敬語…友人だとするならやめてほしいところだが…
……俺は、ハッキリと覚えている夢の内容を伝えた…



「そうだったんですか…じゃあ気付かれてなかったと……」

「ああ…ルネとお前が度々入れ替わって俺と遊んでいたなんてな…」

だから、なんで友達だったのに敬語なのかと訊いた。

「いや、だって…ルークさんからしたら私は初対面ですし……その、初めは昔っぽくルーク君から始めようって思ったんですけど、10年も経って大人になりすぎてて……恥ずかしくて…恐くて…」

「その10年だ……」

「えっ?」

「すまない…お前の事も気付いてやれず、ルネが死んだ後…誰にも会わずに遠出したからな…」

それが今回のことに繋がったんだ…
もし、俺が少しでも挨拶する時間さえ作っていれば、この子はルネの幻影なりなんなり演じて子供だった俺に無事に伝えられただろう。10年も経ってしまったから、俺も大人になって臆病な彼女に恐れを抱かせてしまい、ここまで引き伸ばしてしまったと思うと…溜息がでる…

「こう言っちゃなんだが…恐い顔…だったからな…俺…」

「で、でも…本当に悪いのは私なんです…私達ドッペルゲンガーは、意中の男性の理想の女性…容姿も、記憶も、性格も、全て変身によって手に入れる事ができます…本当なら私本来の意思で解除は自由自在なんですけど…」


俯いたまま話しを続ける…

「ルークさんは罪悪感を自ら負って、同時にそれを許されたいとも思っていた…その10年も募った想いが強すぎてあなたの理想になった時、ルネちゃんのままでいたい…ルークさんとずっと一緒にいたいという気持ちを抑えられなかったんです…」

それで新月の日になり、ようやく自分本来の意思を取り戻した矢先…俺が彼女を脅すように問い詰め、追い出してしまった…ということか…


「…お互い様…だな…」

「違いますって…!」

こいつは、どうやら自分のせいにしないと気がすまない性質らしい…

「もういい…!」

俺は、彼女をきつく抱き締めた…

「お互い様だ…あと、敬語はやめろ……ルー君でも何でも良い」

「え…えっと…じゃあ、ルーク……君…」

それでいい…彼女の頭を撫でると、幸せそうに微笑んだ…

「ねえ…ルーク君…」

「なんだ?」

「あと、もう一回だけ…ルネちゃんになっていい?」

……俺は静かに頷いた。

彼女は少しだけ俺から離れ、スゥっと深呼吸し…手を胸に当てた時には黒い霧が彼女を包んでいた。
そのまま彼女はルネになる…

俺の記憶と寸分違わないルネだ…


「えへへ…10年ぶりだね……♪」

彼女の姿で…

彼女の声で…

彼女の笑顔で…

それは何一つ変わらない……少し前まで一緒にいたルネと同じはずなのに…
心からその姿を認めることができた…

「ああ…久しぶり…」

やっと会えたというのに、俺は淡白なことしか言えない…

「コホン…いろいろ長話したいけど、それはあっちの子の話しだから、わたしはこれだけ伝えるね」

そう言って、彼女は一呼吸おいた…

「わたしは、ず〜〜っと傍にいるよ! だから私達は…ずっと一緒だよ!!」

元気にそう言った…
達というのは、当然あの子も入っているのだろう…

「ああ……わかってる…」

そう…当然だ…いなくなったって、俺の心の中にちゃんといる…
そして、あの子の心の中にもちゃんといる…

「じゃあね…ルー君♪ あの子を泣かせちゃだめなんだから…!」

手を振って、彼女は闇に溶けていく……そしてまた黒ずくめの少女が立っていた…

「伝えたよ…ルネちゃん…」

彼女もようやく、ルネに報いることができたのだ…











「森だからまだ真っ暗だけど、もう少ししたら明るくなるかな…?」

ルネと本当に別れを告げてから、ほどなくして話しかけてきた。森の暗さも、夜の暗さはなく、うっすらと周りが見えるようになってきた。

「そうだな。わざわざ暗いうちに歩く事もないだろう……傷は……あんなに血を流していたのにもうそこまで治ってるのか…」


まだ半日すら経っていないはずだが……

「えへへ…ルーク君が寝てる間に…少しね……」

「エ…?」


こいつ…いまなんて言った。

「魔物だからって…私はドラゴンさんみたいに丈夫じゃないんだから……さすがに精がないとあの傷を回復できないよ…」

まあ…たしかにそうだよな……じゃあ俺…知らない間に…

「寝てる間だったから覚えてないよね……じゃあ、今度はちゃんと気持ち良くしてあげよっか…?」

さっきまでど打って変わって…妖艶な笑みを浮かべながら、じりじりと近づいてくる…まるで女豹だ…
そのまま彼女はちょうど対面座位のような形で俺に抱き付き、妖艶な微笑みを俺の眼前にまでもっていった…

「どうせ森が明るくなるまで動けないんだもん……シテあげる…♪」

「ちょっとまてまてまて!! なんだかよくわからんがさっきと性格が違うような気がするぞ!?」

明らかに別人なような気がする…いや、本当に気がするだけなのだが…

「当たり前だよ……私達魔物は………一度欲しがっちゃったら積極的なんだよ…?」

布越しに彼女の手が俺をなぞる…

ふぅ…と、甘い吐息を俺の首筋に吹き…なぞっていた手は俺の下半身へと…

「ふふふ…♪ ルーク君の……おっきい………期待してるんだね…? …じゃあ…♪」

「ま、待て!!」

すぐに下着まで脱がしにきたところで…なんとか彼女を止める…

「いや…なの……? ルネちゃんのほうがやっぱりいいの…?」

「いや…そうじゃない…!!」

今まで成り行きでここまで話しが進んでしまったが…俺はまだ重要な事を知らないのだ。

「名前……」

「え…?」

そう、重要なことだ…

「お前の名前…まだ訊いていない…」

「あっ…」

少女もやっと思い当たったのだろう。

「ご、ごめんなさい…」

「なんで謝るんだよ……いや、いいけど…」

……またごめん…といってから

「シオン……だよ…」

「良い名前じゃないか……」

率直な感想を述べる。

「え、えと…そ…そうかな……」

面と向かって自分自身を褒められるのに慣れていないのか、名前を褒めただけでさっきまでの雰囲気がなくなり、もじもじと顔を俯かせている。
なんとも愛らしい子だ…


「あ…あの! それじゃぁ…するね…?」

恥ずかしさに耐えられなかったのだろうか。そそくさと俺の下半身を露出させる…
今度はこっちが恥ずかしくなるのだが…

「わぁ…さっき出したばかりなのに…まだおっきぃ…♪」

「…あんまりまじまじと見つめられると…その、困るんだが…」

少なくとも誰かにこうして見せたことはない…
しかも、知らなかった事とはいえほぼ幼馴染とも言える子にみられている…

「ん……ちゅ…レロ……えへへ…♪」

幸せそうに舌を這わし…小さな口で一生懸命に俺のモノを奉仕してくれている…

「くちゅ…んじゅ…はぷ……ひもひいい?」

「ぐぁ…く、咥えたままいきなり喋るな…」

変な風に振動して…我慢ができなくなる…

「らんぇ? こんないも…じゅ…るるる…ひくんひくんひへるんらよ?」

わざとだ…絶対わざとやっている…
しかし、このようなことはされたことはないが…とても我慢できるものじゃない…

「も、もう…」

「ん…♪ いいよ…らひて…♪ ち、ちゅうううぅぅ!!!」

口いっぱいに頬張りながら、強い吸引刺激を送られる…
そのまま俺は彼女の口の中に白濁を吐き出してしまった。

「ん〜! …んくっ…ゴクッ…ぷはぁ…♪」

そのまま全部飲み干されてしまう…
自分の出した精液をこうも美味しそうに飲むその扇情的な姿が…

「また…大きくなってきたね…でもまだ半分かな…」

………愚息とはよくいったものだ……こうも正直に反応してしまうものなんだな…

「今度はこうしてあげる…ちょっと細く見えるけど…自信あるんだよ…?」」

少し体勢を変え、彼女の太腿が俺の愚息を挟んだ…
きゅっと引き締まり…しかし柔らかいその感触…

そのまま愛液の滴るその割れ目と擦り合わせる…

「ぐっ…はぁ……」

感じている俺の姿を見るのがそこまで嬉しいのか、俺の目の前でずっと笑みを絶やさない…
少しずつ、太腿の感触が大きくなってるように感じる…

「大きくなってきた……じゃあ…挿入れちゃうね…?」

またお互いに抱き合いながら座る体勢になり、シオンは花弁を亀頭に擦り合わせる。


「っ……せまっ……い…」

本当に入るのか…?
シオンが何歳なのかわからないが…少なくともサイズは子供だ…
だが、そんな大きさの差をものともしてないのか…シオンは微笑を称えたままに腰を落とそうとしている…

「だいじょ…ぶ……ちゃんと入る…か…ら……ん…あ…はぁ……♪」

「なっ…ぐぅっ……本当に…!?」

小さな蜜壷がこれでもかとぐらいに締め付ける…
中で絡み付くように…慈しむように…

「はぁ……ルーク…君…きもちいい…?」

「あ……あぁ…気持ち良いよ…」

シオンは抱き締めている腕の力をさらに強める…
ついに背中まで回された腕は、さらにつよい密着を生む…

「ね、ね、…ルーク君…はっ…あふ……キス…してぇ…」

そのまま、一回は感触を確かめるように唇を重ねる…
二回目は少し唇を動かしてみる…
三回目は舌を絡める…

「ちゅ…はむ…ん…ちゅぴ…れろ……ルーク君…ルークくぅん!!」

「はぁ…はぁ…シオン…」

ついに感極まったのか…シオンの上下の動きも、腰の振りも激しさを増していった。

「な、名前…もっと呼んで…!! シオンって…呼んでぇ!!」

自分を偽ってきたシオンが、自分を求めている…
その愛しい姿は…俺の理性を吹き飛ばすのに十分だった…

「シオン…シオン…!!」

「あっ…うあっ…ひゃん…! うれしい…もっと……もっと呼んで…! 突いてェ!!」

俺達は、お互いの名前を呼び合い…屋外であることも気にせず激しく交わる…
留まる事を知らないと言わんばかりにどんどん早くなっていく…

「ふぁ…あふ……ひぐう!!? そこ……よわ…ひ…か……ぁああああ!!」

性交を続けていくうちに、だんだんと彼女の反応がわかってきた…
その反応一つ一つが…あまりにも扇情的で…

「あひゃぁ…! こりぇ……らめぇ……」

快感に包まれた彼女の身体は痙攣をしっぱなしで…顔は蕩け切っていた…
イっている状態が続いているのか断続的に締め付けてさらに快楽を与え、悦ばせてくる…

「シオン……も、もう…」

小さな身体をきつく抱き締め、壊れてしまいそうなほどに欲望をぶつける…

「いい…よぉ…出して……! 膣内にいっぱい射精してぇぇ!!」

抱き締め返してくれるシオンの最奥…亀頭を包み込み、ねだるかのように吸い付いてくる…
その貪欲で優しい刺激に、ついに我慢の限界に達した。

「シオン…! で、出るっ…! ぐっ…あ…ぁぁ…」

「ルーク……くん! ひゃ…あぁぁぁ!!!」

そして、俺達は互いに絶頂を迎える…
まるで生命力を吸われているかのような感覚。彼女の膣中は最後まで締め付け、根こそぎ精を吸い取ってくる。

「あ…はぁ………ルーク君……大好きぃ…♪」

「はぁ……シオン……」

シオンの言葉を返す暇もなく、俺の視界は真っ暗になった…












目が覚めると、俺の部屋にいた…
どうやらシオンが先にじいやのところまで行き、ここまで運ばせたようだった。
じいやには既に過去の事、今の事を洗いざらい話したらしい。どうなるかと思ったが、まるで予想は付いていましたと言わんばかりにすんなり受け入れたようだ……じいやの懐の大きさを改めて感じた。

「では、これからはシオン様ですな…坊ちゃまをよろしくお願いします…」

だなんて深々と頭を下げている……何をどうお願いしているのか…

「シオン……」

「なぁに? ルーク君」

元気を取り戻した彼女は、そのままの姿で俺に甘えてくる。それは嬉しい。

「ルネには……また変身したりするのか?」

恐らく、もうしないだろうが一応聞いておく、もし…すると答えたならそれはやめてほしかったからだ。

「えっと……秘密…♪」

「はぁ?」

思いもよらない答えだった……

「だって……ルーク君……ふふふ♪」

俺の顔を見ながら愛想良く笑う…
シオンも彼女なりに考えているのだろうが、どうしても気になる…

「なんだっていうんだ……?」

「ほっほっほ……坊ちゃまもまだまだお鈍い……そんなことでは女性のハートは掴むどころか、読むことも適いませんぞ?」

「いきなり何を言うんだ…じいや…」

俺が聞くと、またいつものように笑う……
シオンも自然に笑っている…

(……シオンと…ルネか……)

こうしてシオンと巡り会って……傷つけてしまったが、こうしてまた笑い合うことができるようになった…ルネからのメッセージは…ありふれた言葉であったけど、それは深く心に刻まれた…

「救われたんだな……俺…」

そう、呟いた……

「……?」

俺の呟きに怪訝そうな顔を浮かべるシオン…

「シオン…」

「なに?」

まだ言ってなかったな…
そんなことを思いながら彼女と手を繋ぎ、言った。

「おかえり…」

うんっと頷いて、彼女は満面の笑みで応えてくれた

「ただいま…!」



精一杯……お前の分まで生きていく……だから…一緒にいてくれ…
約束は破らないから。お前も見守っていてくれ…




頑張るから……皆と一緒に…








〜fin〜

久しぶりの投稿です。今回はドッペルゲンガー。
作ってる最中に何回も展開を変えてたりするのでもしかしたらとりとめのない文章になってるかもしれないです。

とりあえず言わせてもらいます。ドッペルたんの太ももさいこおおおおお!!!

12/06/03 04:25 zeno

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