団欒
太陽サンサンと輝き、今日も朝を告げる。
ここはマインデルタ…種族など在って無いように共存し、一緒に暮らす国。
そんな国の、とある4人の物語。
今日もまた……ドタバタ(厄介事)が始まる。
「Zzzzz………Zzzzzz……うう……」
その少年はうなされていた。この少年、つい昨日ホルスタウロスのお姉さん…エリーナに窒息させられかけた少年である。
彼の名はアルマ・ファウマ。
15歳でありながら史上最年少で騎士となり、そのトップである四聖にまで上り詰めた少年である。
「助けて…胸に……胸に潰される……!」
……なにやら変な寝言だが彼も健全な男子。仕方の無い事だろう。
「……ハッ!?……夢か……」
どうやら、城下町の方の家にいるようだと、彼は辺りを見回し、気づいた。
四聖ともなれば城の方で部屋を用意されるがやはり我が家が一番。
「そういえば、父さんも母さんも今仕事中なんだっけか・・・」
成り行きで帰ってきたとは言え、両親のいない我が家というのも嬉しさ半分である。四聖という肩書きがあろうが彼はまだ15歳。甘えたがりなのだ。
「…………」
気になることがあった…たしかにここは僕の部屋だ。そうアルマは思っている。しかし………
「僕の部屋は……いつの間にジャングルになったんだい?」
彼の部屋は…何かの例えではなく、木で埋め尽くされていた…
「姉様。起きて下さい…そろそろ準備して行きますよ」
ノースエリア…通称、貴族街のとある屋敷では妹が姉を起こしていた。
「ん…もうそんな時間か…?」
昨日の任務の報告書をまとめ、城に送った彼女は妹との約束のため、家で寝ることにしたのだ。
彼女、リデル・シュテンリヒは寝てもなお乱れない青みのある銀髪を手櫛で軽く整えながら、
「そういえば、父上の方は説得したのか?弱み………を知っているのだろう?]
妹はもう人化の魔法を使って人間の姿になっている。こうでもしないとマーメイドである妹のリリーは外出することができない。
リデルは少し心配だった……そもそも自分の父の弱みなど全く知らないし気にもしていない。
あまり家庭を揺るがすような事では無い事を祈りたいが…
「あ・な・たぁ〜…このなが〜〜〜い黒髪は一体誰の髪かしらねぇ〜〜?」
「ご、誤解だ!わ、私は何も知らない!!そんな髪の女性など知らん!!」
……………
「今の声は…?」
「先日、お父様を訪ねに来た女性の方がいたのでその人の髪に似せて私の髪を
黒く塗って寝ているお父様の胸に乗せておいたんですよ」
妹の行いに目を丸くする姉、リデル……両親の会話を聞き、クスクスと笑いながらいそいそと外出の準備をする妹、リリー・シュテンリヒ。
「お父様問わず、妻のいる男性の方の弱点は既成事実でも妻の知らない女性と関係を持たせる事なんですよ♪」
妹のやり方を諌めたかったが…そういえば彼女も先日、似た事をしたのを思い出し強く出る事ができない…リデルも女…ということだ。
「では、お父様の事はお母様に任せて、早くトオルさんの家にいきましょ♪」
「あ、ああ…そうだ……な」
ここまで妹が腹黒いとは思わなかったリデルは軽いショックを受けている。
とりあえず彼女は、男性というのは肩身の狭いものだな…と思う事した
「……ところでお姉さま。なぜ鎧を着ているのですか?」
鎧を着ているイメージが強いデュラハンとはいえこれから友人の家に赴くには
鎧はあまりにも仰々しすぎる。
しかし、リデルはそれに答えず遠い目をして、
「や、やめてくれ!!それ以上は!!」
「あ〜らぁ?私に巻き付かれてこ〜んなにバッキバキにしちゃってる変態さん
に拒否権などあると思ってるのかしらぁ?」
そんな両親の痴話喧嘩?…を聞きながら……
「あやつの家に行く前に……私は一度死地に赴く必要があるのでな……」
「トオル。そろそろ起きるがよい…今日は特別な日なのだろう?」
サウスエリアのとある夫婦の日常。それは夫が妻に起こされることから始まる。
「うう…あと………2時間……」
その夫の言葉を予想通りのように聞いていた妻のアヌビス……落ち込んだように耳や尻尾をダランと下げていたがすぐに立て、
「昨日の今日だ…三十分ぐらいなら許してやろうと思ったが……もう一度やら
れたいようだな………」
「スミマセン、今起きます」
妻、ルーシーの脅迫にも似た言葉で飛び起きる。
長く深い欠伸をしながらこのルーシーの夫、トオルは眠たそうな目を擦り
「う…う〜ん…別に準備することでもないからこのまま寝ててもいいんだけどよ…まあ何が遭っても良いようにしておくか…」
気だるそうにベッドから起き上がりそそくさと着替え始める。
「特別な日というのは…そんなに危険な日なのか?」
カレンダーについている印をみてルーシーが質問すると…
「ああ…まあ基本は何でもアリの大乱tじゃなくて宴会みたいなもんだからなぁ……なにがおこるか運次第ってやつだ」
その答えにフム…と相槌を打ちながらルーシーは
「何か私にできることはないか…そもそも宴会というのは…?」
そういえば伝えるの忘れてた…そうトオルは思い、説明しようとすると…
チリンチリン…
呼び鈴が鳴った。
「お、早速来たみたいだな。…いつも早く来るのはアルマだけど…」
丁度着替え終わったトオルとルーシーは玄関の戸を開ける。
「おっはよ〜、兄ちゃん。それにルーシーさん……」
トオルの予想通り、アルマだった………のだが……
「…………………」
「…………………」
夫婦は無言だった……太陽に照らされた彼は…植物の蔦で絡まっていたのだから……
「あれぇ?どうしたのお二人とも。僕の顔に何か付いてるの?アハ…アハハハ
ハ………」
白々しい笑い方をする少年…
「アルマ…一体どうしたのだ……?」
沈黙を破ったのはルーシーだった…明らかに異常事態なので放っておけない。
アルマが何を言えばいいのか迷っている素振りを見せていると…彼の背中からヒョコっと何かが顔を出した。
「…………?」
なにか人見知りをしているような素振りを見せているのはアルマよりも小さい、まだ10代にも達していないような少女……下半身が花弁で覆われているアルラウネという種族だった。
「…その娘は?」
「うん…なんかね……この娘を昨日、ゴロツキから助けたら……その…」
「懐かれたのか…」
アルマの言葉を察し、ルーシーが繋ぐと彼は母親付きで…と頷く。
「あの……精一杯恩返しします…だから、ずっとずっとついて行きます…」
頬を赤らめながら…そのアルラウネの少女は後ろから抱き付いてる状態でアルマに言う。それにアルマが、
「う〜〜ん…気持ちは嬉しいんだけどね、女の子がそんな男にベタベタ抱きつくもんじゃないよ。せめてこの蔦を解いてくれないかい?」
やんわりと頼むのだが…
「………離れたくないです…」
これにはさすがの彼も溜息をつくしかない…
何とかアルラウネ…ルウを説得して、離れてもらった頃、また呼び鈴が鳴った。
「クッ……流石エリーナさんと言ったところか…私の鎧にヒビを入れるとは…」
「姉さま…大丈夫ですか?」
そこには重厚な鎧にヒビをいれたリデルと大量のパンを袋に入れて持ってきたリリーがいた。
「あ、今日はリリーさんも一緒なんだぁ」
「っ!?リデル!!」
彼女の登場を一番驚いたのはトオルだった。毎回来ているが今回は、事情が違う。
昨日、トオルがルーシーに罰せられた原因を作った張本人であるリデル…トオルはもう水に流しているのだが問題はルーシーである。
やめろよ…問題だけは起こすなよ……問題だけは…
そんな胸中にあるトオル…
「青みの銀髪…貴殿がリデルとお見受けするが……」
そう言って、ルーシーは言葉に棘を持たずに歩み寄る。
「む……ということは貴方がエリーナさんが言っていたルーシーさんですね」
リデルは鎧を脱ぎ、二人はお互いに歩み寄る。お互いを見つめた後…静かに手を差し出す。
「自己紹介が遅れて済まなかった…トオルの友人と聞いた時は早く会うべきだと思ったが、この街に慣れるのに手間取ってな…ルーシーと呼んでくれ」
「気にする事はありません。私も多忙だったため、彼に貴方が伴侶になったと聞いたのは先日なもので…不出来な友人ですので、遠慮なく処罰したい時はしてください」
二人は、とても柔らかく微笑み差し出し合った手を握り、握手をした。
「夫の友人なのだ。敬語ではむず痒いではないか」
「では、これから私達は友だな」
その光景にトオルはホッとした。どうやらルーシーももう水に流しているらしい…と…
(私の夫を誑かそうとは良い度胸だな……幼馴染だからといって何でも許されるとは大間違いだぞ。今回はトオルだけだがいずれお前も罰せねばならんな……)
(フン…貴様こそ、たった数回肌を重ね合わせたからといっていい気になってもらわれては困るな。この落とし前はいつかつけせてもらうぞ…尻尾を振るしか脳の無い雌犬風情が…)
(黙れ……無い首を真の意味で失くしたいのか…?)
ギリ………ギリギリギリ…ミシ…ミシミシ………
そんな小言でのやり取りをトオルは知る由も無く、聞こえたのはアルマ、ルウ…リリーだった……
「面白いことになってきたねぇ♪」
「ですね♪」
「…………(ガクガクブルブルガクガク)」
アルマとリリーはこれからの二人の関係を期待しているようだが…どうやら子供には刺激が強すぎたようだ。
ドンガラガッシャ〜〜〜ン!
「やっべぇ寝坊したぁぁ!皆もうやってるか?」
次にやってきたのはフレイ。トオルの家の扉を微塵に砕き、スライディングの要領で輪の中に滑り込んだ。
「まだ始まってはないけど…姉ちゃん遅いよ」
アルマは呆れた様に…扉を壊したことは一切気にせずフレイに注意する。
まだ宴会が始まってない事に彼女は安堵して、リリーが持っているパンを目にし、
「おぉ、リリーちゃんナイス!やっぱこれがないとね」
やはりトオルに一言も謝ることなくパンに手を伸ばす。
しかし、その手をリデルは払い、
「待て、まず言うことがあるだろう……全く…」
(そうだ、そうだよ…まず俺に謝るのが先だろ……)
フレイの恐ろしさを知っているため、口には出さないが、トオルの胸中は不満でいっぱいだ。
「乾杯をしていないではないか」
「そっかぁ、悪ぃ悪ぃ」
「ちっげぇぇだろうがぁぁ!!!」
ついにトオルの不満が爆発した。
「なにお前!俺に謝ること無しか!!玄関を微塵に砕かれた俺の気持ちはどうなる!?だいたいお前はいっつmヘブッ!!?」
彼の文句は途中で中断され、いきなり前のめりに倒れる。
そんな彼の背中にいるのは…
「むう?少し位置を間違えたかのう……?トオルの頭上に転移してサプライズをプレゼントしようと思ったのじゃが…」
見慣れた金の屏風の中心に立つ女性…この国を統べる妖狐の…王妃が立っていた。
「ゲェッ!?王妃様!!」
フレイとアルマ…リデルも驚く。リリーは面識が無いので、キョトンとしている。
「祭りあるところに妾あり。全く、宴会を始めようとしているのに妾を呼ばな
いとは…四聖失格じゃぞ」
扇子を広げ、九本の尻尾で器用に椅子を作りそこに佇む…トオルの上で。
「……むう………」
「…?」
この破天荒な来客達の登場っぷりにルーシーもルウも置いてけぼりになりかけていた…ルウはともかくルーシーは皆が集まった理由を聞きそびれていたのだ。
「僕らは兄ちゃんが四聖を抜けてから、こうやって定期的に兄ちゃんの家で宴会をしてるんだよ」
それに気づいたアルマは二人にそっと教える。王妃様が来たのは今日が始めてだけどねっと最後に付け足したが。
「こうやって皆で騒いで……笑って……」
「……本当に仲が良いのだな…」
そして、ついに宴会が始まる。
料理はアルマとリデル、ルーシーが即席で作った物がテーブルに置かれ、パン屋のパンは中心に置かれる。
「では、今は昼じゃが今夜は無礼講!!明日まで騒ごうではないかぁ!!」
いつの間にか中心になっていた王妃の声に合わせ…
「カンパ〜〜〜〜〜〜〜イ!!!!」
「一番、アルマ・ファウマ!歌いま〜〜〜す!」
アルマがなにか熱唱しているところに、
「歌も良いがなにか芸が欲しいのう……ほれ、誰かやらぬか…トオル。命令じゃ」
「俺!?」
愚痴を言いながらも命令には忠実なのがトオルだ。
何をしようかかんがえていると
「芸かどうかは知らぬが…我が夫の並外れた生命力を見せようではないか」
そう言って、ルーシーはトオルを連れ、別の部屋に移った…
数分後…干からびてしなしなになっているトオルがずるりと部屋からでる。
倒れているにルーシーが水をかけると…
「水をかけるとハイ元通りってか?そんなわけ…っておぉ!戻った!?」
皆も驚く明らかに人間を超越している吸収速度…つい先日、アルマにも見せたものだ。
「おぬし…人間か……?」
芸と呼ぶにはあまりにも超人的…そんなものを見せられた王妃も目を丸くする。
「次は私が歌いますね。魔力が出ないように気をつけるので…」
「よっ!待ってました、アタシ達の歌姫リリーちゃん!!」
そんなこんなで宴が続き…
「オラァ!!」
バリィィィン…!!
「すっごい!瓦を握りつぶした!!次リデルさんね」
「…私の芸など……地味だぞ…?」
リデルは恥ずかしそうにしながらアルマの催促を受け入れる
そう言って皆の前にでると…
「えいっ」
ザッパァァァン!
「い、イヤァァァァァァァァァ!!!???」
アルマに水をかけられた…もちろんこれは彼女のやろうとしている芸ではない。
四聖の中で一番落ち着きのある彼女の女の子らしい悲鳴を聞いて、全員が苦笑する……ついには部屋の隅で縮こまってしまった……
「ね……姉様…」
さすがのリリーも歌を中断して心配そうに呟く。
「アッハハハ。やっぱリデルさん面白いやぁ〜」
腹を抱え、笑い転げるアルマ……
「……ふふ…フフフ…アルマ……次はお前の番だな…」
立ち直ったリデルが不意に転がっている彼の胸ぐらを掴む…
「アハ…やだなぁリデルさん……ほ、本気にしないでよぉ………僕は皆を笑わ
そうと思って…」
そんなアルマを優しい……だがなにか意思を感じさせる瞳で彼女は見つめ…
「そうだな…お前は優しいムードメーカーだ…だからお前の芸に私も一役買わせてくれ…」
もう…何も言うまい……
ゴオオオォォォォォォォォォ………ン
「ふむ…アルマの額は鐘のような音がするのだな…」
「いや、本気にするなよ…」
……アルマが目覚めるころ………部屋は一変していた…
「…………」
まるで今朝の自分の部屋を思い出すように緑で覆いつくされ…
国立図書館にあった龍玉という物語に出てくるモブキャラのような倒れ方をしているトオル。
女王の笑い声に、リデルの溜息……トオルを介護しているルーシー。
部屋の隅で怯えきっているルウ……そして…
明らかに酔っているフレイ。
「ああ…なんだ……いつものことね」
部屋が木で覆いつくされてるのはルウの仕業だろう…恐らく酔ったフレイが催促したのだ。
そしてトオルと腕相撲をして勢い余って投げたのだ。
酔ったフレイならありえる。
昔から酔うと誰かと腕相撲するのがフレイで…この前の宴会ではアルマを投げ飛ばし、壁を数個貫通してトオルの家を半壊させた。
要するに…フレイは酒乱なのだ。元々酒に強いおかげもあってか飲み過ぎなければ普段の性格から少し荒々しくなるだけなのだが…
「あぁ〜…らんらろおる〜……ららひれ〜ら〜(あぁ〜?なんだトオル……だらしねぇな〜)」
ふしゅう〜と酒臭い息をしながら呂律の回ってない舌で話すフレイ。
「クフフフフ…やはりおぬしらは面白いのう♪」
「フレイさんたら……姉様が言ってたことはこういうことなんですね…」
見てる分には楽しいかもしれない…だが以前投げ飛ばされたアルマにしろ、今のトオルにしろとても楽しめる出来事ではない。
「ちょうど良かった。アルマ、フレイを止めるのを手伝ってくれ…」
リデルが臨戦態勢でアルマに協力を要請するが…
「いや、あれ無理…さすがの僕でも無理です」
できることなら助力したい…
しかし、あのフレイを正攻法で止めるには万全な状態のトオルも必要だ。
「トオル…!しっかりしろ!!傷は浅いぞ!!」
だが、龍玉のモブキャラのように倒れている今のトオルは…使い物にならないと二人は踏んでいる。ルーシーのあの取り乱しようから容易に起きないであろう事が想像できる。
しょうがない……あれを使うか…と二人は一斉に声を上げた…!
「ああ!!エリーナさんが姉ちゃんを狙ってる!!」
「あ!!エリーナさんがフレイを狙っているぞ!!」
もちろん嘘だ…しかし、四聖は昔からエリーナに襲われているためこの言葉には過剰に反応する。
「あんらって!!?(なんだって!!?)」
酔ったフレイの顔が恐怖でみるみる強張り、後ろを振り返った瞬間。
「ハイパー○ロックアップ!!」
その一瞬を逃さず…アルマの周りの時間はまるで遅くなったかのように…否、彼があたかも時間を超越したかのように速く動いているのだ。
アルマがフレイを気絶させ、ホッと一息つく……
「あ、アルマ…今の技は……?」
さすがのリデルも驚きとなにかマズイものをみてしまったような焦りを見せる。
「気にしない気にしない」
それを笑い飛ばし、フレイをその場に寝かせる…
「いや、だが今のはどう見t」
「いちいち気にしてたら負けちゃうよ〜」
何に?と問いたかったがこれ以上はなにか危険な匂いがしたのでするのをやめる。
「ムウ……二人も気絶してしまったのか……これでは盛り上がらないのう…」
トオルもフレイも気絶してしまった今、ムードメーカーはアルマしかいない。
「Zzzz……」
ルウも興味で酒を飲み、そのまま寝てしまった。
「あらら…ルウも寝ちゃったよ…お酒なんて無理に飲むから…」
このままさっきのように盛り上げるのはさすがに無理というものだった。
「私は……別に宴会の様な建前がなくても………こうして外出できることが嬉しいです」
王妃の方は不満の様だがリリーは満足している。
気が付けば既に日は暮れていた。
「そろそろ戻るかのう…本当なら明日まで飲みたいのじゃが…そろそろ妾の妖術がばれてあの堅物男が気付き始めるじゃろう…」
窓から夕日を見る彼女の姿はどこか寂しげだった……
そもそもなぜこの人は国を統べる者でありながらこうも人をからかったり、騒ぐのが好きなのだろうか。
「私も…お母様とお父様に今朝の事はドッキリだと伝えないといけませんね」
どうやら宴会も終わるようだ……部屋がめちゃくちゃになるほど騒いでいた反
動なのか、この静けさがより一層静かな気がする。
「リリー。悪いが先に帰ってくれないか?…私達はもう少しここにいて、二人が起き次第、少し話すのでな」
リリーは頷き、トオルの家を後にする……王妃もいつの間にか転移魔法で…恐らく城に戻ったのだろう。
「さて……兄ちゃんと姉ちゃんが起きるまで待つのは良いけど…この部屋を直さないとね…」
アルマが口にした後始末の問題……部屋は木で埋め尽くされ、フレイが暴れてところどころが壊れている。ドンチャン騒ぎで意識していなかったが冷静になった頭で考えてみると宴会というより戦闘後といった感じであった。
「……もう…この部屋を直すには専門職ではないと駄目かもしれぬな…」
二人が起きるまで、できる限りの事はした…あとは専門に任せるしかないだろう。
「グッ………俺…何を…?」
「起きたか…全く、心配させおって……」
ちょうど起きたトオルに声をかけるルーシー……どうやらかなり心配していたようで少し涙ぐんでいた。
「あ…頭……いてぇ〜…」
トオルについでフレイが頭を押さえて起き上がる。
やっと起きたのかと言いたげな表情でリデルは彼女に近づく、
「飲みすぎるなと毎回言っているだろう!!」
頭の痛みに追い討ちをかけるように殴られ、フレイは悶絶する…
場を盛り上げるのは構わないが、さすがに家を破壊するのはやりすぎだ。だが本人が本人なので全く反省しないのがリデルの悩みの種だったりする。
二人が歩けるまでに回復し、とある場所に向かう。
ルウはトオルの家に預け、四聖は町を抜け出し、城壁の外に出る。
本当なら門限で城壁は閉まっているのだが、幼い頃に見つけた抜け穴を使い、見事に監視の目から逃れている。
南方面の城の外…満月に照らされた草原は心安らぐ光景だった。
そこを少し歩いた先に四人が目指していた所……小川と大樹…小さい頃からの遊び場だった場所だ。
「何度見ても…ここは変わらないな…」
リデルは、大樹の幹に手を触れる…
「何度も見てるはずなのに……飽きねぇんだよなぁ…」
フレイもそれに同意した。
「というか〜…この前よりもまた大きくなったような〜…」
アルマは大樹の頂上を見上げ、このまだ成長し続ける大樹に感嘆の息を漏らした。
「どこまででかくなるんだろうな……よっと」
樹に登り、トオルはいつもの特等席に座った。寝転がれるぐらいに枝は丈夫で彼は幹に背を預けている。
それから四人は何気ない会話をする。町で会って話をすればいいと思えるほど他愛も無い世間話だ。
でも…この場所で話すのは彼らにとって意味のあることだ。
「でも…なんつーか今回はかなり穴だらけの作戦だったね〜」
話は昨日の出来事に変わる。
「まあ、騎士は多忙でゴロツキ共には目をくれない奴が多いからな。そういう意味では灯台下暗しと言った感じであろう。…だが…」
リデルはトオルを見た…騎士…四聖から外れた身ではあるが誰かを守ろうとする気持ちは誰よりもある…そんな彼を、
「Zzzzz…グウ……」
「寝るなっ!!!」
「ウボァ!?」
トオルの寝ていた枝は彼女の頭辺りの高さ。見事なハイキックでトオルを蹴落とした。
「ホント相変わらずだなぁオマエ」
楽しそうに……だが内心呆れているフレイ。この万年寝不足が…と、憎々しげに呟いてリデルは話をつづける。
「トオルは外から現状を見て、定期的に王妃に報告している。私としては不本意だが、お前の選択は間違えてなかったとつくづく思うよ」
「褒めたって何もでねぇぞ…イテテ…」
トオルはアルマが令状を貰う前にもうマインデルタで何が起ころうとしているのか調査していた。
そして、一気に解決できるように四聖にそれぞれ令状を渡したのだ。
「どうせ、ルーシーさんが寝ているときに内緒で調べてたんでしょ?だからいっつも寝不足になるんだよ」
アルマの考えは的中していた。
「あいつに気づかれずに家から出るのがどんだけ至難の業か知ってんのかよ…マジで死ぬかと思った時もあったぞ……」
彼の顔は真っ青……宴会の時でもそうだがどうやらトオルの生命力は彼女によって鍛えられているらしい。
「まあまあ、いいんじゃないの。おかげでなんか楽しくなりそうだし(特にアタシ達がね)」
「うんうん(特に僕達ね)」
「そうだな(特に私達がな)」
「そう…なのか?(こいつらだけだろ…)」
積もる話も終わり、4人は大樹の頂上に登る…頂上まで登ると、自分達の身長の何十倍のマインデルタの城壁と同じ高さになる。
そこで彼らは、それぞれ身に付けていた飾りを外す。
「今回はちゃんと持ってきたからな」
フレイも懐から何かを分けたような彫刻が刻まれた首飾りを取り出した。
好戦的である彼女は常に持っていると何かの拍子で壊れかねない…だからいつもは城の自分の部屋に大切に保管している。
以前は部屋に忘れて取りに行った事もあった。
それぞれの首飾りを合わせた。四つに割れていた彫刻が元の形に戻る。
それを満月にかざし…
「一つ…我らは例え一時は離れ離れでも…」
「同じ大地を踏みしめ…」
「同じ空を見上げ…」
「この地でまた再び会うことを…」
「「「「四つの穢れ無き星に誓います」」」」
……種族も価値観も違えどそんなものは関係ない。
人間だって魔物だって…妖精だって天使だって心はある。
大切なのは分かり合うことだといまさらながら改めて彼らは思った。
「フム……妾に隠れてこんなことまでしておったか………仲の良いことじゃな」
4人が誓いを言っていた頃…樹の根元に人影があった…
「大事にするのじゃぞ……大切なものとは……失ってから気づくのが多いからの……もっとも、あやつらは気づいておるかもしれんが……」
そしてその影は…静かに消える。
月明かりに照らされ、風に木の葉が揺れる…
「んじゃあ…そろそろ戻るか…」
四人は……これからも歩み続ける……
〜fin〜
ここはマインデルタ…種族など在って無いように共存し、一緒に暮らす国。
そんな国の、とある4人の物語。
今日もまた……ドタバタ(厄介事)が始まる。
「Zzzzz………Zzzzzz……うう……」
その少年はうなされていた。この少年、つい昨日ホルスタウロスのお姉さん…エリーナに窒息させられかけた少年である。
彼の名はアルマ・ファウマ。
15歳でありながら史上最年少で騎士となり、そのトップである四聖にまで上り詰めた少年である。
「助けて…胸に……胸に潰される……!」
……なにやら変な寝言だが彼も健全な男子。仕方の無い事だろう。
「……ハッ!?……夢か……」
どうやら、城下町の方の家にいるようだと、彼は辺りを見回し、気づいた。
四聖ともなれば城の方で部屋を用意されるがやはり我が家が一番。
「そういえば、父さんも母さんも今仕事中なんだっけか・・・」
成り行きで帰ってきたとは言え、両親のいない我が家というのも嬉しさ半分である。四聖という肩書きがあろうが彼はまだ15歳。甘えたがりなのだ。
「…………」
気になることがあった…たしかにここは僕の部屋だ。そうアルマは思っている。しかし………
「僕の部屋は……いつの間にジャングルになったんだい?」
彼の部屋は…何かの例えではなく、木で埋め尽くされていた…
「姉様。起きて下さい…そろそろ準備して行きますよ」
ノースエリア…通称、貴族街のとある屋敷では妹が姉を起こしていた。
「ん…もうそんな時間か…?」
昨日の任務の報告書をまとめ、城に送った彼女は妹との約束のため、家で寝ることにしたのだ。
彼女、リデル・シュテンリヒは寝てもなお乱れない青みのある銀髪を手櫛で軽く整えながら、
「そういえば、父上の方は説得したのか?弱み………を知っているのだろう?]
妹はもう人化の魔法を使って人間の姿になっている。こうでもしないとマーメイドである妹のリリーは外出することができない。
リデルは少し心配だった……そもそも自分の父の弱みなど全く知らないし気にもしていない。
あまり家庭を揺るがすような事では無い事を祈りたいが…
「あ・な・たぁ〜…このなが〜〜〜い黒髪は一体誰の髪かしらねぇ〜〜?」
「ご、誤解だ!わ、私は何も知らない!!そんな髪の女性など知らん!!」
……………
「今の声は…?」
「先日、お父様を訪ねに来た女性の方がいたのでその人の髪に似せて私の髪を
黒く塗って寝ているお父様の胸に乗せておいたんですよ」
妹の行いに目を丸くする姉、リデル……両親の会話を聞き、クスクスと笑いながらいそいそと外出の準備をする妹、リリー・シュテンリヒ。
「お父様問わず、妻のいる男性の方の弱点は既成事実でも妻の知らない女性と関係を持たせる事なんですよ♪」
妹のやり方を諌めたかったが…そういえば彼女も先日、似た事をしたのを思い出し強く出る事ができない…リデルも女…ということだ。
「では、お父様の事はお母様に任せて、早くトオルさんの家にいきましょ♪」
「あ、ああ…そうだ……な」
ここまで妹が腹黒いとは思わなかったリデルは軽いショックを受けている。
とりあえず彼女は、男性というのは肩身の狭いものだな…と思う事した
「……ところでお姉さま。なぜ鎧を着ているのですか?」
鎧を着ているイメージが強いデュラハンとはいえこれから友人の家に赴くには
鎧はあまりにも仰々しすぎる。
しかし、リデルはそれに答えず遠い目をして、
「や、やめてくれ!!それ以上は!!」
「あ〜らぁ?私に巻き付かれてこ〜んなにバッキバキにしちゃってる変態さん
に拒否権などあると思ってるのかしらぁ?」
そんな両親の痴話喧嘩?…を聞きながら……
「あやつの家に行く前に……私は一度死地に赴く必要があるのでな……」
「トオル。そろそろ起きるがよい…今日は特別な日なのだろう?」
サウスエリアのとある夫婦の日常。それは夫が妻に起こされることから始まる。
「うう…あと………2時間……」
その夫の言葉を予想通りのように聞いていた妻のアヌビス……落ち込んだように耳や尻尾をダランと下げていたがすぐに立て、
「昨日の今日だ…三十分ぐらいなら許してやろうと思ったが……もう一度やら
れたいようだな………」
「スミマセン、今起きます」
妻、ルーシーの脅迫にも似た言葉で飛び起きる。
長く深い欠伸をしながらこのルーシーの夫、トオルは眠たそうな目を擦り
「う…う〜ん…別に準備することでもないからこのまま寝ててもいいんだけどよ…まあ何が遭っても良いようにしておくか…」
気だるそうにベッドから起き上がりそそくさと着替え始める。
「特別な日というのは…そんなに危険な日なのか?」
カレンダーについている印をみてルーシーが質問すると…
「ああ…まあ基本は何でもアリの大乱tじゃなくて宴会みたいなもんだからなぁ……なにがおこるか運次第ってやつだ」
その答えにフム…と相槌を打ちながらルーシーは
「何か私にできることはないか…そもそも宴会というのは…?」
そういえば伝えるの忘れてた…そうトオルは思い、説明しようとすると…
チリンチリン…
呼び鈴が鳴った。
「お、早速来たみたいだな。…いつも早く来るのはアルマだけど…」
丁度着替え終わったトオルとルーシーは玄関の戸を開ける。
「おっはよ〜、兄ちゃん。それにルーシーさん……」
トオルの予想通り、アルマだった………のだが……
「…………………」
「…………………」
夫婦は無言だった……太陽に照らされた彼は…植物の蔦で絡まっていたのだから……
「あれぇ?どうしたのお二人とも。僕の顔に何か付いてるの?アハ…アハハハ
ハ………」
白々しい笑い方をする少年…
「アルマ…一体どうしたのだ……?」
沈黙を破ったのはルーシーだった…明らかに異常事態なので放っておけない。
アルマが何を言えばいいのか迷っている素振りを見せていると…彼の背中からヒョコっと何かが顔を出した。
「…………?」
なにか人見知りをしているような素振りを見せているのはアルマよりも小さい、まだ10代にも達していないような少女……下半身が花弁で覆われているアルラウネという種族だった。
「…その娘は?」
「うん…なんかね……この娘を昨日、ゴロツキから助けたら……その…」
「懐かれたのか…」
アルマの言葉を察し、ルーシーが繋ぐと彼は母親付きで…と頷く。
「あの……精一杯恩返しします…だから、ずっとずっとついて行きます…」
頬を赤らめながら…そのアルラウネの少女は後ろから抱き付いてる状態でアルマに言う。それにアルマが、
「う〜〜ん…気持ちは嬉しいんだけどね、女の子がそんな男にベタベタ抱きつくもんじゃないよ。せめてこの蔦を解いてくれないかい?」
やんわりと頼むのだが…
「………離れたくないです…」
これにはさすがの彼も溜息をつくしかない…
何とかアルラウネ…ルウを説得して、離れてもらった頃、また呼び鈴が鳴った。
「クッ……流石エリーナさんと言ったところか…私の鎧にヒビを入れるとは…」
「姉さま…大丈夫ですか?」
そこには重厚な鎧にヒビをいれたリデルと大量のパンを袋に入れて持ってきたリリーがいた。
「あ、今日はリリーさんも一緒なんだぁ」
「っ!?リデル!!」
彼女の登場を一番驚いたのはトオルだった。毎回来ているが今回は、事情が違う。
昨日、トオルがルーシーに罰せられた原因を作った張本人であるリデル…トオルはもう水に流しているのだが問題はルーシーである。
やめろよ…問題だけは起こすなよ……問題だけは…
そんな胸中にあるトオル…
「青みの銀髪…貴殿がリデルとお見受けするが……」
そう言って、ルーシーは言葉に棘を持たずに歩み寄る。
「む……ということは貴方がエリーナさんが言っていたルーシーさんですね」
リデルは鎧を脱ぎ、二人はお互いに歩み寄る。お互いを見つめた後…静かに手を差し出す。
「自己紹介が遅れて済まなかった…トオルの友人と聞いた時は早く会うべきだと思ったが、この街に慣れるのに手間取ってな…ルーシーと呼んでくれ」
「気にする事はありません。私も多忙だったため、彼に貴方が伴侶になったと聞いたのは先日なもので…不出来な友人ですので、遠慮なく処罰したい時はしてください」
二人は、とても柔らかく微笑み差し出し合った手を握り、握手をした。
「夫の友人なのだ。敬語ではむず痒いではないか」
「では、これから私達は友だな」
その光景にトオルはホッとした。どうやらルーシーももう水に流しているらしい…と…
(私の夫を誑かそうとは良い度胸だな……幼馴染だからといって何でも許されるとは大間違いだぞ。今回はトオルだけだがいずれお前も罰せねばならんな……)
(フン…貴様こそ、たった数回肌を重ね合わせたからといっていい気になってもらわれては困るな。この落とし前はいつかつけせてもらうぞ…尻尾を振るしか脳の無い雌犬風情が…)
(黙れ……無い首を真の意味で失くしたいのか…?)
ギリ………ギリギリギリ…ミシ…ミシミシ………
そんな小言でのやり取りをトオルは知る由も無く、聞こえたのはアルマ、ルウ…リリーだった……
「面白いことになってきたねぇ♪」
「ですね♪」
「…………(ガクガクブルブルガクガク)」
アルマとリリーはこれからの二人の関係を期待しているようだが…どうやら子供には刺激が強すぎたようだ。
ドンガラガッシャ〜〜〜ン!
「やっべぇ寝坊したぁぁ!皆もうやってるか?」
次にやってきたのはフレイ。トオルの家の扉を微塵に砕き、スライディングの要領で輪の中に滑り込んだ。
「まだ始まってはないけど…姉ちゃん遅いよ」
アルマは呆れた様に…扉を壊したことは一切気にせずフレイに注意する。
まだ宴会が始まってない事に彼女は安堵して、リリーが持っているパンを目にし、
「おぉ、リリーちゃんナイス!やっぱこれがないとね」
やはりトオルに一言も謝ることなくパンに手を伸ばす。
しかし、その手をリデルは払い、
「待て、まず言うことがあるだろう……全く…」
(そうだ、そうだよ…まず俺に謝るのが先だろ……)
フレイの恐ろしさを知っているため、口には出さないが、トオルの胸中は不満でいっぱいだ。
「乾杯をしていないではないか」
「そっかぁ、悪ぃ悪ぃ」
「ちっげぇぇだろうがぁぁ!!!」
ついにトオルの不満が爆発した。
「なにお前!俺に謝ること無しか!!玄関を微塵に砕かれた俺の気持ちはどうなる!?だいたいお前はいっつmヘブッ!!?」
彼の文句は途中で中断され、いきなり前のめりに倒れる。
そんな彼の背中にいるのは…
「むう?少し位置を間違えたかのう……?トオルの頭上に転移してサプライズをプレゼントしようと思ったのじゃが…」
見慣れた金の屏風の中心に立つ女性…この国を統べる妖狐の…王妃が立っていた。
「ゲェッ!?王妃様!!」
フレイとアルマ…リデルも驚く。リリーは面識が無いので、キョトンとしている。
「祭りあるところに妾あり。全く、宴会を始めようとしているのに妾を呼ばな
いとは…四聖失格じゃぞ」
扇子を広げ、九本の尻尾で器用に椅子を作りそこに佇む…トオルの上で。
「……むう………」
「…?」
この破天荒な来客達の登場っぷりにルーシーもルウも置いてけぼりになりかけていた…ルウはともかくルーシーは皆が集まった理由を聞きそびれていたのだ。
「僕らは兄ちゃんが四聖を抜けてから、こうやって定期的に兄ちゃんの家で宴会をしてるんだよ」
それに気づいたアルマは二人にそっと教える。王妃様が来たのは今日が始めてだけどねっと最後に付け足したが。
「こうやって皆で騒いで……笑って……」
「……本当に仲が良いのだな…」
そして、ついに宴会が始まる。
料理はアルマとリデル、ルーシーが即席で作った物がテーブルに置かれ、パン屋のパンは中心に置かれる。
「では、今は昼じゃが今夜は無礼講!!明日まで騒ごうではないかぁ!!」
いつの間にか中心になっていた王妃の声に合わせ…
「カンパ〜〜〜〜〜〜〜イ!!!!」
「一番、アルマ・ファウマ!歌いま〜〜〜す!」
アルマがなにか熱唱しているところに、
「歌も良いがなにか芸が欲しいのう……ほれ、誰かやらぬか…トオル。命令じゃ」
「俺!?」
愚痴を言いながらも命令には忠実なのがトオルだ。
何をしようかかんがえていると
「芸かどうかは知らぬが…我が夫の並外れた生命力を見せようではないか」
そう言って、ルーシーはトオルを連れ、別の部屋に移った…
数分後…干からびてしなしなになっているトオルがずるりと部屋からでる。
倒れているにルーシーが水をかけると…
「水をかけるとハイ元通りってか?そんなわけ…っておぉ!戻った!?」
皆も驚く明らかに人間を超越している吸収速度…つい先日、アルマにも見せたものだ。
「おぬし…人間か……?」
芸と呼ぶにはあまりにも超人的…そんなものを見せられた王妃も目を丸くする。
「次は私が歌いますね。魔力が出ないように気をつけるので…」
「よっ!待ってました、アタシ達の歌姫リリーちゃん!!」
そんなこんなで宴が続き…
「オラァ!!」
バリィィィン…!!
「すっごい!瓦を握りつぶした!!次リデルさんね」
「…私の芸など……地味だぞ…?」
リデルは恥ずかしそうにしながらアルマの催促を受け入れる
そう言って皆の前にでると…
「えいっ」
ザッパァァァン!
「い、イヤァァァァァァァァァ!!!???」
アルマに水をかけられた…もちろんこれは彼女のやろうとしている芸ではない。
四聖の中で一番落ち着きのある彼女の女の子らしい悲鳴を聞いて、全員が苦笑する……ついには部屋の隅で縮こまってしまった……
「ね……姉様…」
さすがのリリーも歌を中断して心配そうに呟く。
「アッハハハ。やっぱリデルさん面白いやぁ〜」
腹を抱え、笑い転げるアルマ……
「……ふふ…フフフ…アルマ……次はお前の番だな…」
立ち直ったリデルが不意に転がっている彼の胸ぐらを掴む…
「アハ…やだなぁリデルさん……ほ、本気にしないでよぉ………僕は皆を笑わ
そうと思って…」
そんなアルマを優しい……だがなにか意思を感じさせる瞳で彼女は見つめ…
「そうだな…お前は優しいムードメーカーだ…だからお前の芸に私も一役買わせてくれ…」
もう…何も言うまい……
ゴオオオォォォォォォォォォ………ン
「ふむ…アルマの額は鐘のような音がするのだな…」
「いや、本気にするなよ…」
……アルマが目覚めるころ………部屋は一変していた…
「…………」
まるで今朝の自分の部屋を思い出すように緑で覆いつくされ…
国立図書館にあった龍玉という物語に出てくるモブキャラのような倒れ方をしているトオル。
女王の笑い声に、リデルの溜息……トオルを介護しているルーシー。
部屋の隅で怯えきっているルウ……そして…
明らかに酔っているフレイ。
「ああ…なんだ……いつものことね」
部屋が木で覆いつくされてるのはルウの仕業だろう…恐らく酔ったフレイが催促したのだ。
そしてトオルと腕相撲をして勢い余って投げたのだ。
酔ったフレイならありえる。
昔から酔うと誰かと腕相撲するのがフレイで…この前の宴会ではアルマを投げ飛ばし、壁を数個貫通してトオルの家を半壊させた。
要するに…フレイは酒乱なのだ。元々酒に強いおかげもあってか飲み過ぎなければ普段の性格から少し荒々しくなるだけなのだが…
「あぁ〜…らんらろおる〜……ららひれ〜ら〜(あぁ〜?なんだトオル……だらしねぇな〜)」
ふしゅう〜と酒臭い息をしながら呂律の回ってない舌で話すフレイ。
「クフフフフ…やはりおぬしらは面白いのう♪」
「フレイさんたら……姉様が言ってたことはこういうことなんですね…」
見てる分には楽しいかもしれない…だが以前投げ飛ばされたアルマにしろ、今のトオルにしろとても楽しめる出来事ではない。
「ちょうど良かった。アルマ、フレイを止めるのを手伝ってくれ…」
リデルが臨戦態勢でアルマに協力を要請するが…
「いや、あれ無理…さすがの僕でも無理です」
できることなら助力したい…
しかし、あのフレイを正攻法で止めるには万全な状態のトオルも必要だ。
「トオル…!しっかりしろ!!傷は浅いぞ!!」
だが、龍玉のモブキャラのように倒れている今のトオルは…使い物にならないと二人は踏んでいる。ルーシーのあの取り乱しようから容易に起きないであろう事が想像できる。
しょうがない……あれを使うか…と二人は一斉に声を上げた…!
「ああ!!エリーナさんが姉ちゃんを狙ってる!!」
「あ!!エリーナさんがフレイを狙っているぞ!!」
もちろん嘘だ…しかし、四聖は昔からエリーナに襲われているためこの言葉には過剰に反応する。
「あんらって!!?(なんだって!!?)」
酔ったフレイの顔が恐怖でみるみる強張り、後ろを振り返った瞬間。
「ハイパー○ロックアップ!!」
その一瞬を逃さず…アルマの周りの時間はまるで遅くなったかのように…否、彼があたかも時間を超越したかのように速く動いているのだ。
アルマがフレイを気絶させ、ホッと一息つく……
「あ、アルマ…今の技は……?」
さすがのリデルも驚きとなにかマズイものをみてしまったような焦りを見せる。
「気にしない気にしない」
それを笑い飛ばし、フレイをその場に寝かせる…
「いや、だが今のはどう見t」
「いちいち気にしてたら負けちゃうよ〜」
何に?と問いたかったがこれ以上はなにか危険な匂いがしたのでするのをやめる。
「ムウ……二人も気絶してしまったのか……これでは盛り上がらないのう…」
トオルもフレイも気絶してしまった今、ムードメーカーはアルマしかいない。
「Zzzz……」
ルウも興味で酒を飲み、そのまま寝てしまった。
「あらら…ルウも寝ちゃったよ…お酒なんて無理に飲むから…」
このままさっきのように盛り上げるのはさすがに無理というものだった。
「私は……別に宴会の様な建前がなくても………こうして外出できることが嬉しいです」
王妃の方は不満の様だがリリーは満足している。
気が付けば既に日は暮れていた。
「そろそろ戻るかのう…本当なら明日まで飲みたいのじゃが…そろそろ妾の妖術がばれてあの堅物男が気付き始めるじゃろう…」
窓から夕日を見る彼女の姿はどこか寂しげだった……
そもそもなぜこの人は国を統べる者でありながらこうも人をからかったり、騒ぐのが好きなのだろうか。
「私も…お母様とお父様に今朝の事はドッキリだと伝えないといけませんね」
どうやら宴会も終わるようだ……部屋がめちゃくちゃになるほど騒いでいた反
動なのか、この静けさがより一層静かな気がする。
「リリー。悪いが先に帰ってくれないか?…私達はもう少しここにいて、二人が起き次第、少し話すのでな」
リリーは頷き、トオルの家を後にする……王妃もいつの間にか転移魔法で…恐らく城に戻ったのだろう。
「さて……兄ちゃんと姉ちゃんが起きるまで待つのは良いけど…この部屋を直さないとね…」
アルマが口にした後始末の問題……部屋は木で埋め尽くされ、フレイが暴れてところどころが壊れている。ドンチャン騒ぎで意識していなかったが冷静になった頭で考えてみると宴会というより戦闘後といった感じであった。
「……もう…この部屋を直すには専門職ではないと駄目かもしれぬな…」
二人が起きるまで、できる限りの事はした…あとは専門に任せるしかないだろう。
「グッ………俺…何を…?」
「起きたか…全く、心配させおって……」
ちょうど起きたトオルに声をかけるルーシー……どうやらかなり心配していたようで少し涙ぐんでいた。
「あ…頭……いてぇ〜…」
トオルについでフレイが頭を押さえて起き上がる。
やっと起きたのかと言いたげな表情でリデルは彼女に近づく、
「飲みすぎるなと毎回言っているだろう!!」
頭の痛みに追い討ちをかけるように殴られ、フレイは悶絶する…
場を盛り上げるのは構わないが、さすがに家を破壊するのはやりすぎだ。だが本人が本人なので全く反省しないのがリデルの悩みの種だったりする。
二人が歩けるまでに回復し、とある場所に向かう。
ルウはトオルの家に預け、四聖は町を抜け出し、城壁の外に出る。
本当なら門限で城壁は閉まっているのだが、幼い頃に見つけた抜け穴を使い、見事に監視の目から逃れている。
南方面の城の外…満月に照らされた草原は心安らぐ光景だった。
そこを少し歩いた先に四人が目指していた所……小川と大樹…小さい頃からの遊び場だった場所だ。
「何度見ても…ここは変わらないな…」
リデルは、大樹の幹に手を触れる…
「何度も見てるはずなのに……飽きねぇんだよなぁ…」
フレイもそれに同意した。
「というか〜…この前よりもまた大きくなったような〜…」
アルマは大樹の頂上を見上げ、このまだ成長し続ける大樹に感嘆の息を漏らした。
「どこまででかくなるんだろうな……よっと」
樹に登り、トオルはいつもの特等席に座った。寝転がれるぐらいに枝は丈夫で彼は幹に背を預けている。
それから四人は何気ない会話をする。町で会って話をすればいいと思えるほど他愛も無い世間話だ。
でも…この場所で話すのは彼らにとって意味のあることだ。
「でも…なんつーか今回はかなり穴だらけの作戦だったね〜」
話は昨日の出来事に変わる。
「まあ、騎士は多忙でゴロツキ共には目をくれない奴が多いからな。そういう意味では灯台下暗しと言った感じであろう。…だが…」
リデルはトオルを見た…騎士…四聖から外れた身ではあるが誰かを守ろうとする気持ちは誰よりもある…そんな彼を、
「Zzzzz…グウ……」
「寝るなっ!!!」
「ウボァ!?」
トオルの寝ていた枝は彼女の頭辺りの高さ。見事なハイキックでトオルを蹴落とした。
「ホント相変わらずだなぁオマエ」
楽しそうに……だが内心呆れているフレイ。この万年寝不足が…と、憎々しげに呟いてリデルは話をつづける。
「トオルは外から現状を見て、定期的に王妃に報告している。私としては不本意だが、お前の選択は間違えてなかったとつくづく思うよ」
「褒めたって何もでねぇぞ…イテテ…」
トオルはアルマが令状を貰う前にもうマインデルタで何が起ころうとしているのか調査していた。
そして、一気に解決できるように四聖にそれぞれ令状を渡したのだ。
「どうせ、ルーシーさんが寝ているときに内緒で調べてたんでしょ?だからいっつも寝不足になるんだよ」
アルマの考えは的中していた。
「あいつに気づかれずに家から出るのがどんだけ至難の業か知ってんのかよ…マジで死ぬかと思った時もあったぞ……」
彼の顔は真っ青……宴会の時でもそうだがどうやらトオルの生命力は彼女によって鍛えられているらしい。
「まあまあ、いいんじゃないの。おかげでなんか楽しくなりそうだし(特にアタシ達がね)」
「うんうん(特に僕達ね)」
「そうだな(特に私達がな)」
「そう…なのか?(こいつらだけだろ…)」
積もる話も終わり、4人は大樹の頂上に登る…頂上まで登ると、自分達の身長の何十倍のマインデルタの城壁と同じ高さになる。
そこで彼らは、それぞれ身に付けていた飾りを外す。
「今回はちゃんと持ってきたからな」
フレイも懐から何かを分けたような彫刻が刻まれた首飾りを取り出した。
好戦的である彼女は常に持っていると何かの拍子で壊れかねない…だからいつもは城の自分の部屋に大切に保管している。
以前は部屋に忘れて取りに行った事もあった。
それぞれの首飾りを合わせた。四つに割れていた彫刻が元の形に戻る。
それを満月にかざし…
「一つ…我らは例え一時は離れ離れでも…」
「同じ大地を踏みしめ…」
「同じ空を見上げ…」
「この地でまた再び会うことを…」
「「「「四つの穢れ無き星に誓います」」」」
……種族も価値観も違えどそんなものは関係ない。
人間だって魔物だって…妖精だって天使だって心はある。
大切なのは分かり合うことだといまさらながら改めて彼らは思った。
「フム……妾に隠れてこんなことまでしておったか………仲の良いことじゃな」
4人が誓いを言っていた頃…樹の根元に人影があった…
「大事にするのじゃぞ……大切なものとは……失ってから気づくのが多いからの……もっとも、あやつらは気づいておるかもしれんが……」
そしてその影は…静かに消える。
月明かりに照らされ、風に木の葉が揺れる…
「んじゃあ…そろそろ戻るか…」
四人は……これからも歩み続ける……
〜fin〜
10/07/03 11:10更新 / zeno
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