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今日の仕事は?

「こ、この奥に…あの部隊が…」

青年は、扉の前に立っていた。

ここは傭兵団『アルモニア』本拠地。
傭兵団と銘打って置きながらも中身は便利屋やギルドとそう変わらない。
戦争だろうがなんだろうが…はたまた薬草摘みだろうが利益があればやる…そんなところだ。
今回、青年が来たのも依頼をするため。

(でも…異質って言われているぐらいだ……もしかしたら命の危険があるかも…)

その中でも戦闘から雑務まで何でもこなすのはここの遊撃隊だった。
実際、戦争では多岐に渡る役割を果たす部隊のため、様々な依頼が来るのは致仕方ないのだろう。

しかし、ここの部隊は……

『異質』

という二文字で噂されているのだ。

(あ〜どうしよ、でも依頼しないと村長に怒られるし…で、でも)

「あらぁ、どうしたのですか?」

「うわひゃぁぁぁ!?」

扉の前でまごついている青年に突如、女性の声が後ろから聞こえた。

「あらあら、ごめんなさい。扉の前でそわそわしていらっしゃっていたのでて
っきりお客様かと思ってしまいました」

青年が振り返ると、そこには容姿端麗の…年上のお姉さんを連想させるような女性が立っていた。チャイナの様な深いスリットが二つも入っている服…を着て、たくさんの書類を抱えている。

「あ、あの…アナタはここの遊撃隊の秘書か何かですか?」

彼女はお客様と言った。つまりここに関係のある人物だと思って間違いないと青年は踏んだのだ。

「秘書……一応隊員ですが、そう思ってもらわれても構いませんよ」

お姉さんスマイルでにこやかに話している彼女を見ていると、青年の猜疑心も揺らいだ…案外普通なんじゃないかと……

「あの、依頼したいことがありまして…」

まだここの部隊の真相をわかっていないため、恐る恐る尋ねた。

「あらぁ…やっぱりお客様でしたかぁ」

そう言うと、女性は扉を開く…遊撃隊の隊員が集まっている部屋…

「御主人様ぁ〜…お客様ですよ」

…御主人様?青年は心の中で呟く。

「キャッハハハハハ!おもしろ〜〜い♪」

「Zzzzz………Zzzzz」

「…………」

ソファーに寝転がって何かを読んで笑っている…見た目は普通だが時々体が粘液上になる少女。

うとうとして目の焦点が合っていない尻尾と耳の付いている少女

黙々と弓を磨いている長耳の女性……

いずれも女…いや、人ならざる者だった。

誰一人、青年の隣にいる女性の声も…青年の事にも気づいて(気づこうとして)いなかった。

そんな中、一人だけさらに奥の扉から出てくる…

「ん?新しい依頼人か……」

青年と同い年ぐらいの隻眼の男性……見た目は軽装で体型も別段、筋骨隆々と言うわけではなくバランスが良い。声音からは冷静さと若者らしさが伺える。

「……まあ…すまん。ここはそういうとこなんだ…」

男性は彼の言おうとしていることを察し、溜息交じりに言った

「あ、はぁ…そうなんですか…」



ここの隊員達が依頼人に気づいたのは修道服の女性が手を叩いた時だった。

「俺はヴェン・ケルストミール…ここの部隊長を務めている…」

彼…ヴェンは何度もやってきた自己紹介を淡々とこなす。

「依頼内容を聞こうか」

「ねぇねぇヴェ〜ン、この人食べても良いの?」

「ライム…お前少し黙ってろ…」

「お腹すいたよぉ〜…セシルお姉ちゃん、なにかある?」

「あらあら…コロちゃん待っててねぇ…今御主人様が話してるから」

「……………(チラッ)」

青年の依頼を聞こうとしているのは…ヴェンとお姉さんスマイルで固めているセシルと呼ばれる女性だけだ…
弓を磨いている女性は…時々こちらを睨むだけでまた視線を外し、今度は弦の調整にかかっている。

「あ、あの…自分はクレアル地方の最南端の村から来たのですが…先日、村の近くの洞窟に異変が起こりまして…」

青年の話をまとめれば…要は調査だ。

「なるほどな…それなら偵察隊に任せれば良いだろうに…まあどうせいつもみたいに人員不足で受けられないとかだろうけど」

ヴェンは溜息をついて…

「報酬は前払い…それでオーケーだな?」



「はい、それでは準備を始めましょうね」

青年の依頼を受けて、セシルがポンっと手を叩くと共に隊員は準備にとりかかる。

「ねぇねぇ〜たしかクレアル地方って果物がおいしい場所だよねぇ?」

さっき青年を食って良いかと尋ねた…ライムがたくさんのお金を財布に入れている。

「果物ってたべやすいのよね〜」

本人の主張によると、唾液も汗も結局は水分とか塩分だからアタシでも食べ物
は食えるのよ。後は消化の仕方ね。
と、言うことらしい。

「では村に着いたら果物をいっぱい買いましょうね」

「コロロ、桃食べた〜〜い!」

コロロ…セシルにはコロちゃんと呼ばれている10代前後の女の子は元気いっぱいに返事をする…

「ライム…コロロ…お前ら…遊びに行くんじゃねぇんだぞ…」

ヴェンの注意もこの二人は全く聞こうとしない…

「御主人様、良いではないですか。あまり根を詰めすぎるのもお体に良くありませんよ」

その代わり、セシルが二人をお母さんのごとく注意する。

「二人共…あまり御主人様を困らせないでくださいね」

「「はぁ〜い」」

ヴェンの言うことは聞かないが…セシルの言うことは聞く…
部隊長としては形無しである…

「あ、それとおやつは銀貨三枚までですよ」

「んな注意はどうでもいい!!」

セシルの本気とも言えなくもない言葉にヴェンは突っ込みを入れ、深く溜息をついた…

「話は終わった…?」

そこで弓の調整をしていた長耳の…エルフが口を開く…

「行くならさっさとしなさい…」

ぼそりと冷たく言って、部屋の外に出る。

「もう…エルフィンったら……すみません、あの娘…人見知りが激しいんです」

セシルが目を伏せながらエルフィンの後姿を見ながら謝った。

「は…はぁ……」

皆のやり取りに置いてけぼりだった青年にやっと声がかかる…
確かに……傭兵部隊としては…『異質』であった。





「そういえば自己紹介がまだでしたね。わたくしはセシル・テンタシオン…ダークブリーストです。そしてこの子がワーウルフの…」

「コロロ!!」

本拠地から外に出る道中、簡単な自己紹介を済ませた。

「アタシはライム。今は姿変えてるけどダークスライムよ。んで…アンタっておいしい?」

ライムと言う少女…今は普通の肉体に女の子らしい服を着ているが紫色の液体を人間で言う涎のようにジュルリ…と口から垂らしている。

「ライム…何でも食おうとするのはやめてくれ…それと人化の術が解けかかってる…」

それをヴェンが注意した。この傭兵団は実力さえあれば種族構わず入ることもできる…そのため魔物が基地内にいてもおかしくはない…

「俺には人化の術が窮屈かどうかはわからないが、誤解を生まないように努力してくれ…」

ヴェンの何度もした注意…ライムはおっとっと…と声を出し、すぐに紫の液体を口の中にしまいこんだ。

「も〜、冗談だってばぁ。心配しなくてもアタシが狙ってるのはヴェンだけだよぉ〜」

歩きながらヴェンに抱きつくライム…ヴェンとしては過剰に反応するのも彼女の思うツボと判断したため、冷静を装って対処しようとするが…

「あ〜ライムお姉ちゃんズルイぃ〜。コロロもお兄ちゃんに抱っこしてもらう〜♪」

コロロが跳んでヴェンに負ぶってもらう形で抱きつく……
……やはりこうなるのか…

「もう…コロちゃん、御主人様が困っていますよ」

それをセシルが引き剥がす……これでは家族旅行している団体だ。

そんな風にやりとりをしていると、本拠地の外に出た
本拠地は外から見れば砦に近い、たまたまあった砦を改装したらしいが、ここまで立派だと国だと思ってしまう。
エルフェンと呼ばれたエルフの女性は既に本拠地の外の木にもたれかかっていた。

「これ…」

不意にいきなり何かを投げてくる。ヴェンがそれを受け取ると、それは地図とコンパスだった。

「どうせあんた達のことだから地図もコンパスも忘れてるんでしょ?あと、馬車の手配をしておいたわ」

皆は急いで荷物を確認すると、彼女の予想は的中しており誰一人地図もコンパスも持っていなかった。

「毎度毎度のことだけど、良くわかるな…ありがとな」

エルフィンは口数も少ないし、つい毒舌になってしまう…だがこういう気の利いたことができる人物であるため、隊員達もそれほど悪く思っていない。

「…フン」

ヴェンの礼を一息で一蹴し、彼女が手配したという馬車にさっさと乗って手綱を握った。
コレには彼も苦笑するしかない。




一行は森を開拓した街道を馬車で移動している。
整備された道の両側は木が並んでいた。

「はぁ〜…やっと人化解いていいんだぁ〜!」

ライムは既に人化を解いていた。…やはり人間の姿でいるのは窮屈なようだ。

「ねぇねぇ〜ヴェ〜ン……いつでも触って良いんだからね〜♪」

「断る…少しは自重してくれ……」

「わ〜い、ライムお姉ちゃんプニプニ〜♪」

各々、馬車の中でそれぞれのやり方でリラックスしている。
街道を馬車で渡る事十数分経過した時、セシルはエルフィンに提案した。

「エルフィン、アナタは自己紹介していませんでしたね。それではお客様に失礼ですよ。」

馬車の先頭の席に座り、手綱を握っているエルフ…エルフィンは目だけを彼女に向けて

「名前だったらあんたが言ってるじゃない…それでいいわよ」

かなり投げ槍な態度でエルフィンはセシルの催促を断る。さすがのセシルも困った顔をし、ライムも呆れていた。

「あのねぇ…アンタがとにかく誰かと話すのは嫌いだってわかってんだけどさ…もうちょっと愛想よくしたら?」

「なんで私がそんな事しないといけないのよ…」

彼女の態度はかなりマイナスだ…たとえ気が利いてもこれではプラスマイナスでマイナスの方かもしれない。
ヴェンも隊長としてこれを注意する。

「エルフィン…無理強いはしないが……もう少しお前は人と接するべきだ。他人と触れ合うのも重要だぞ…お前の事情は……少しは知ってるつもりでいるがな……」

別に人を差別しているわけではないが、彼女は意識的に避けている節があると彼は思っている。
少なからず事情を知っているヴェンは少しでも……種族問わず誰かと触れ合わせたかった。

「………エルフィン……エルフィン・E・エルフォリオ…これで良い?」

仕方ないわね…という声が聞こえた後、彼女は言ってくれた。
何とか彼女が答えてくれたことに…ヴェンも安堵する…
そういえば、聞きたい事もあった。

「さて、自己紹介も済んだ事だし…さっきの依頼についての詳細を訊こうか」

「あ、はい」

馬車の隅で縮こまっている青年の方に視線が集まる。

彼の話では、村の近くには鉱石を採掘する洞窟があるらしい。そこの調査らしいのだが…



「洞窟から洪水並の水が出て…山火事のような火が出て…木がいきなり出現する…ですか?」

彼の話にセシルがオウム返しに聞き返す。

「そうなんです…突然洞窟がそんな風になってしまい、村の自警団でもどうにもならなくなってしまったんです」

確かに…そんな洞窟があるというのなら不思議だし、明らかに自然的な現象ではない……人為的なものだと疑うのはもっともだ。

「不思議洞窟なの?楽しそうだねお兄ちゃん♪」

コロロの基本、楽観的思考の通りにいけばいいのだが…

「不思議洞窟だったら楽なんだがな〜……」

やはり楽観視できないのが隊長を務めるヴェンだ。
常に最悪の展開を予想して、いかにそれを乗り切るか…隊長である彼はそれが身にしみている…。

「この大陸の最南端の村の近くの洞窟と言ったら……スズナリの洞窟ですね…」

セシルは言った。

「かなり深い洞窟みたい。それなりにその村で情報を集めて準備しないと危険だと私は思うわ…」

不意にエルフィンが会話に加わる。手綱を片手で器用に持ち、もう片方で本を読んでいた。

「エルフィお姉ちゃん…?何読んでるの?」

「最低限、今から向かう場所の知識がないと…私達は土地勘がないんだから」

「へぇ〜…アンタも本読むんだ…いっがい〜〜」

本をパタンっと閉じ、彼女は嘆息する。

「私の他には、名前だけの隊長に」

…今何つった……ヴェンの胸中に怒りがこみ上げる…

「いつもあらあらうふふってお姉さんを気取っている年齢詐称のオバサンに」

ピクッ……笑顔で固められたセシルの眉が一瞬だけ動いた……

「辺り構わず食べ散らかす暴食スライムに…」

「ねえ。それってアタシの事……?」

しかし、ソレを無視して、

「媚び媚びして尻尾を振る以外できない駄犬に」

「?」

…意味をわかっていなかった……

「………待てもロクにできないダメ犬に…」

「むう!コロロ待てぐらいできるもん!!!」

言い直した言葉に素直に反応するコロロ…
こいつらを見てどう思う?…というような視線で振り向き、

「こんなんじゃ私がしっかりするしかないでしょ…全く……」

「うがぁぁぁ!!!アタシ知ってるんだからね!!アンタの実年齢おぶぁぁ!?」

ライムが何か言おうとすると、エルフィンは彼女の首を掴み一気に倒す……そしてその上に乗った…

「スライムって乗り心地良いのね…中々だわ…」

ライムに座り、再び手綱を握り、馬を巧みに誘導している。首を掴まれた衝撃なのか…彼女は紫色の泡を口からコポコポと出していた。

「エルフィン…別に若さだけが全てではないと俺は」

「………(ギロッ)」

「すみません………」

「もう、落ち着いてください……エルフィンも少しは言う言葉を選びなさいね……じゃないと、今晩のおかずがどうなるかわかりませんよ〜?」

やはりと言うべきか、セシルも内心ではかなり怒っていた…
依頼でどこかに行こうとすると、やはりこうなってしまう。いい加減に彼女の毒舌を直さないと、いつか本当の喧嘩になるかもしれない…

「あっ!?お兄ちゃんお兄ちゃん!」

何かを察知した犬の様に耳を立たせ、コロロは馬車から顔をだし、辺りを見回した。

「………囲まれたわね。ライムの相手をしてたから気付かなかったわ…」

「ハァ!?アタシのせいにするわけ!?アンタがいけないんでしょうが!」

エルフィンに乗られたままのライムは必死の抗議する。
皆で言い争っていて気付かなかったが……盗賊に囲まれてしまっていたのだ…








「大人しく武器と金目の物を置いていけば命はとらねぇぜ」

馬車から出た青年を除く隊員を待っていたのは、そんなお決まりの台詞を吐いて来た盗賊達……癇に障る笑い方で隊員達をみている奴もいる。

「ひい、ふう、みい、………8人ですかね?」

「ねね。こいつら食べちゃっtアダッ!?」

ライムがまた妙な事を言いそうだったのでヴェンは殴った。
セシルは盗賊達の視線を気にせず、冷静に分析する。
ざっと見て8人程はいる盗賊達……ヴェン達の実力なら簡単にあしらえるであろう相手だが…

「依頼人もいることですし、ここは素直に従っておきましょう…命あっての物種とも言いますしね」

下手に動いて依頼人を危険にさらすわけにもいかない。
それで油断したところを狙うってところか…ヴェンはセシルの提案を無言で承知し、腰に携えていた剣を地面に置く。
エルフィンも、本当なら一気に片付けたいところなのだろう…かなり不服そうに弓を置いた…

「え、待ってよ…アタシの武器はこのカラダだから………アタシをおいていけってこと!?いやん、盗賊さんのえっちぃ♪」

キャーキャーと一人勝手な妄想をしている魔物が一名いるが…

「あ、この馬鹿一名は気にしないでくれ……」

念のためヴェンは盗賊達に言う…多分彼女も本気ではないのだろうが…

「コロロも…武器……脚だから置いていかないといけないんだよね………?お兄ちゃん……グス…」

いや、馬鹿二名だった……

「コロロ。何もないのなら何も置かなくて良いんだぞ……」

できるだけ優しくコロロに言うが、彼女は今も泣き続けている…拾われて親のいないコロロを実の兄のように接してきたヴェンは…このアホの子をなだめるべきか厳しくするべきか……複雑な気持ちである…

「あんちゃん……そんな頭の足りてない女達の世話して……大変だな……」

ついにはリーダー格の様な男に同情される始末………

「同情するなら教師になって教育してくれ………」

ヴェンはもう溜息しかでない……もはや盗賊の事などどうでも良いかもしれない…

「では、最後にわたくしですね…よいしょ」

ガシャン!ガチャガシャ!

彼女が左袖を叩いたり揺すったりする……そして出てくる出てくる…鎖鎌や、仕込み針、クナイ……様々な形の投げナイフ

「ここも……」

右袖を叩くと……様々な種類の銃に…こちらも投げナイフが落ちてきた。

「最後に……」

修道服の裾を掴み、バサバサと洗濯物を乾かすように振ると……

小型のガトリングや小型のランチャーなど、およそ仕込み武器とは思えない物が落ちてきた。

「………………」

盗賊達はもちろん、ヴェン達も驚いていた……彼女は暗器を使うため、様々な物をその修道服に仕込んでいるがここまでとは予想外だったのだ。

「これで全部です♪」

にっこりと笑って、礼をするセシル……

コロン………

「?」

ボン!!

彼女が出した武器の中から…煙玉が爆発した…!
辺りは白色の煙で覆われている。

「あらあら…すみません。煙玉が暴発してしまったみたいです…」

その機を逃さず、それぞれが動く!

「ヴェンは依頼人を!」

その中、エルフィンはヴェンに指示を出す。確かにそれは最優先にするべき行動なのだが、ヴェンはこれをセシルあたりにやらせようかとおもっていたのだが……

「ったく……俺の命令は聞かないクセにこういう時は命令するのかよ……」

煙幕の中、探っていると既に3人とも動いている…依頼人を護ろうとしているのはヴェンっだけである。

「あら……3人が動くなら私が行く必要もないですね」

確かにそうだ…かく言う俺もこいつらが動けば盗賊8人ぐらいで動く必要が無い。
そう考え、依頼人の青年の様子を見た……

どうやら気絶している………

「セシル……お前がやったのか?」

「いえ?…恐らくエルフィンだと思いますけど…」

喚かれると面倒くさいからですね…と付け足し、武器をせっせと戻している…
ホントに…なんでアイツは荒っぽく解決させるんだろうか…




煙幕の中、三人は盗賊と交戦していた。

「ほれほれぇ〜♪ここがいいのかい?ここがいいんでしょ?」

「あ、ちょ、そこは……やめ、アッーーーーーーーーーー!!?」

ライムは腕を鞭に変形させ、盗賊二人を拘束し、弄んでいる…
エルフィンも弓を構え…矢の無いままに盗賊達に向けた。

「食らいなさい…」

矢の無い弓…彼女が弦を引くと、そこに空気が収束する。
肉眼でハッキリと見えるほどの空気の矢が形成され、

…撃つ!

空気の矢は当たった瞬間に弾け、人を貫通せず衝撃だけを与えた

「うわぁ!?何だこのガキ共!?」

さらに彼女が矢を放ち、二人を気絶させる。
その中、予想外の二人の強さに慌てた盗賊が剣を振り回し、コロロの髪を掠めた。

「わっ!?……コロロもう怒った!!お兄ちゃん言ってたもん…危ない物振り回す悪い人は…蹴って良いって!!」

瞬間、コロロが視界から消える…そして。

「アオン!!」

犬が吼えるように叫ぶと共に、何かが折れる音が聞こえた…

「え………剣が……?」

上段に構えていたはずの剣…の柄から先が折れていたのだ。
コロロは相手の武器を蹴った勢いで跳び、木に飛び移り…
その木の幹に足の裏を付け、盗賊めがけて突進した。

その勢いのまま、回転蹴りをお見舞いする。

「よっし!残り二人…何だけど……ヴェンの方に行っちゃったみたいね」

自分とエルフィン、コロロの相手をした数を合わせて6人…煙幕の中、それほど狭くも無い街道の脇に逃げ、裏側から馬車に向かったようだった。



「煙幕にしたのが…少し裏目に出てしまったようですね…」

馬車の中にいた二人は裏に現れた盗賊と対峙していた。
先程のリーダー格の男もいる。
別に前にいる三人との距離も近いから、それほど困る事でもないわけだが。

「あいつら…もう少し周りに気を配ってくれればなぁ…」

「実力はあるんですけどね…」

ヴェンとセシルは目の前の二人の行動に気を配りながら会話をする。

「御主人様のお手を煩わせるまでもありません。ここはわたくしが…」

妖艶な笑みを絶やさないセシルは右腕を振る。手には何も持ってなかったはずが、ナイフが数本射出されていた。
当然、これで倒せると彼女は思っていない。案の定リーダー格の男はそれを防いだ……がもう一人の方はまともに受けてしまった。
その隙を当然、見逃さない。
あの多数の暗器を服に忍ばせている(というレベルではないが)とは感じさせないほど…流れるような動きで怯んでいた一人を気絶させる。

首筋に手刀の一薙ぎだった。

「クソ…この女…」

セシルの動きを見て、彼女の相手をするのは分が悪いと踏んだのか…リーダー格の男はヴェンに切りかかろうとする。
しかし、ヴェンが剣を抜く前に…セシルは既に盗賊の目の前に移動していた。

そのまま、男をラリアットの要領で押し倒し、馬乗りになる。
そして袖から瞬時に抜いた鎖鎌を首筋に当てた…

「御主人様に……近づかないでいただけます?」

笑みを崩さず…首筋に当てた刃で薄皮を切る。

「ぁ……」

さすがの男も戦意を喪失した。
それを確認し、セシルはヴェンに歩み寄る。

「御主人様…お怪我はありませんか?どこか汚れてはいませんか?」

本当に心配そうに伺う。

「あ、ああ…(俺、結局……何もしてねぇ…)」

隊員達の実力を再確認できたのは隊長として良いことだ…だが、魔物(エルフィンは違うが)とは言え女性に任せっきりというのは男として大変不甲斐ない。
セシルはそんな事を気にするわけが無いが、やはりヴェンとしては不満である。
彼は溜息をついた…










「んで…エルフィン。依頼人を気絶させた理由は?」

「喚かれるのが面倒だったからよ」

ヴェンが聞けば、予想通りの返答だった。目も合わせず…聞く気もあまりないようだった。
ライムもコロロも頭の方で問題があるが、コミュニケーションでは彼女は正に欠落していると言っても良い。
盗賊達を蹴散らした後、一向は順調に目的地に向かっている。

「あ〜お腹空いた〜〜!何でもいいから食べたい〜!!」

ライムのいつもの我侭…スライム種は唾液とか汗とかそういうのを食べるのにな…ヴェンは魔物を変わり者程度にしかみてないがこのライムはさらに変わっている。

「ああもう我慢できない……ヴェン………欲しいよ…」

いつになく切ない表情をし、ヴェンに近づいてきた。
瞳はうるうるとしてて、もじもじと太ももを擦り合わせている。

「だが断る」

「あ、ひっどーい!!」

しかし、ヴェンはこういうのには慣れていた。
この隊の構成が隊長を除けば残りは人外…誘惑というのは日常茶飯事である。

「まあいいや、コロロちゃん。お兄ちゃんを捕獲しちゃいなさい。アタシが許すわ」

「え、いいの!?コロロ、お兄ちゃんと遊ぶ〜〜〜!!」

「おい!ちょ、コロロ!!やめろ!お前にはまだ早いって!!」

「あらあら。コロちゃん元気ですねぇ…あ、そこは違いますよ。男の方はココが弱いんですよ♪」

「だぁから!!お前ら少しは真面目にしてくれぇぇ!!!」


そんなやり取りの中…

「………馬鹿ばっか…………」

そう、嘆息して黙々とエルフィンは手綱を引く。
馬車の中…抵抗している男に群がる三人。

「ん……ハァ……」

その誰にも気付かれないように…甘い吐息を漏らした…





〜続く〜

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新しい新連載が始まりました。
今回は傭兵団のとある部隊の話です。まあやる事は
依頼を受ける→道中ハプニング→街(村)→ダンジョン→解決
が主な流れになると思います。
話の構成の方は、話が長くなると思ったら区切りを付けて次の話に進ませるので二話構成というわけではないです。

こんな拙い文ですが。どうかよろしくお願いします。

10/07/14 22:51 zeno

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