読切小説
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【週刊マモノジャーナル】今日の人魔夫婦:マーシャークの愛は空を舞う
ここはとある街の居酒屋さん。仕事帰りの人々や、
魔物と人の夫婦で賑わう街の憩いの場所。

今日もまた一人、お客さんが来たようです。
彼は魔界雑誌「週刊マモノジャーナル」の記者の一人。
彼は魔物と人の馴れ初めを方々で聞いて回っているようですが……。

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俺の名は仁藤真司。故郷であるこの街で漁師なんかしながら、
幼馴染のマーシャーク「白庭楓」と結婚して幸せにやってるもんだ。

お前さんは記者だって言ってたが……何?
人魔のカップルの馴れ初めを聞いて回ってるのか?
なんとも変わった取材だな......

飲みの席だが、俺たちの馴れ初めを聞くか?

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「えーと、ここが面接を受ける会社か。」


15年前の秋、大学3年の俺は就活に明け暮れていた。

今でこそこの町で働いてる俺だが、元々地元に戻って来るつもりは
無く、都心で就職しようと考えていた。将来のビジョンとかいう
高尚なものもなく、やりたいことも無く、ただ流されるままに。
ただ「地元に戻るのはなんとなく嫌だ」って考えてた。まあ田舎だからな。

んで15年前と言えばアンタも何が起きた年か知ってるだろ?

そう。日本……というか地球のあちこちに「魔界へのゲート」が
突然開かれた時だ。あの時は俺もびびったね。
いきなり「空」が割れてそこから黒くてドロドロした……いやこの話はいいか。
すまん脱線した。話を戻すぞ。

つまり俺が就活をしていた時期には「まだ」ブラック企業とかが存在して
いたんだよ。俺が面接を受けたその企業もその類だったらしくて……

俺もブラック企業とかは口分でしか聞いたこと無いが、まあ受けた
面接の酷さと来たら


「それ、別にウチの会社じゃなくていいよね?」
「キミ、うちの会社向いてないよ?」
「ごめん、そのままだと落とすけどどうする?」


所謂「圧迫面接」って奴だ。

……いや?今の時代だとダークエルフとかのねーちゃんが顔面騎乗しながら
面接してくる事をそういうがそうじゃない。わざと失礼な態度を取って
ストレスへの耐性を試す面接方法の事な。

……もちろんそんな面接が常態化してる企業なんざ碌なもんじゃない。
なんなら後から調べたらその会社、労働基準法完全に無視してる
ヤバい企業だったしな。

俺は必死に耐えた。

こんな所就職したくないなーって思ったから気が抜けてしまってな。
目の前のキツい面接官に対してふざけた態度を取りたくて
仕方が無くなっていたんだよ。まあ後々の就活に響くから必死に耐えた。

「キミみたいなレベルの人なんていくらでも居るからさ」
(今ここで服を脱いで踊りだしたらどうなるんだろう……)

「それで?それが君である必要ある?」
(うわっ面接官カツラじゃん……外してえ……)

その面接では無難な事ばっか言ってお茶を濁しつつ、なんとか
この「ある意味」地獄のような面接が終わりを迎えようとしていたんだが……

その時、会場の窓を突き破りながら「鮫のような人魚の様な生き物」
……つまりマーシャークが、俺の嫁さんが突っ込んで来たんだよ。

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「真司くーんお待たせ―、今お金を卸して来……って誰よその男!」

この人は……なんか人と魔物の夫婦の馴れ初めを聞いてる記者だってよ。
紹介するぜ。こいつが俺の嫁。「白庭楓」その人だ。
面接をしてたビルの窓を割って登場してきたマーシャークだ。

「あっもしかして「週刊マモノジャーナル」の奴?

そうなんだー、それじゃあ私からもしゃべらせてよ!」

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私と真司君は幼稚園からの幼馴染で、どこに行くのも一緒だったの。
小学校に上がってからも、中学校に入っても、いつも一緒に遊んでいたっけ。
でも高校から彼、突然地元から出ていくって言い出して、そのまま都心の
大学に受験していってしまったのよ。

それまでいつも一緒にいたから気づかなかったんだけど、私ずっと
真司君の事好きだったの。ホントバカみたいな話だけどね。

それで……15年前の秋頃だったかな。

私がこの街で就職して、抜け殻みたいな気持ちになりながら生きていた
あの昼下がりの公園で。出会ったの……「魔物娘」に。

白い髪と白い肌。真っ赤な目をしていて悪魔みたいな角と翼があったわ。

「貴方の恋を、実らせに来たわ」

あの人はそう言いながら、なんかぬるぬるした黒い塊を私に浴びせてきて......
気が付いたら私は人間から「マーシャーク」へと変化していたの。
なんでこんな姿になったのか、最初は意味が分からなかったけど、すぐにわかったわ。

鮫は鼻が利く。特に私は特定の人の匂いをかぎ分けるのが得意みたいでね?

マーシャークになった私はその時から、真司がどこに居るのか、何をしようとしているのかを
なんとなく理解できるようになっていたのよ。

それで、私はその魔物娘さんから聞いたの

「明日には全世界に魔物娘が現れて、この星を征服する」
「貴方の思い人が他の子に取られる前に、急いだほうが良い」

そうやってせかされたら、なんだか居てもたっても居られなくなって、思いきりその場で
地団駄踏むみたいに尾びれを地面に叩きつけちゃったの。


飛んだわ。私。


魔物のパワーはすさまじいものね。まるで水中でジャンプするみたいに私の体は宙に浮かんだ。
さらに私の鮫肌は……生き物を傷つける事はしないけど、無機物は切り裂ける。空気を
切り裂きながら空を舞い、風の渦を纏った私は

完全に「飛ぶ方法」をマスターしてしまったの。所謂「シャー〇ネード」っていう奴ね。

嵐を身にまとって真司の方に泳ぎだす私。

ああ一秒でも早く会いたい。

一秒でも長く一緒に居たい。

そんな思いで、私はビルに突っ込んだの。


砕け散るガラスは光を反射して、風によって面接官のおっさんのカツラが飛び立ち、
真空の刃で切り刻まれる様は……ロマンチックだったわ。

「いやロマンチックではないだろ。滅茶苦茶怖かったぞ」

何よ。こうしておしどり夫婦が出来上がったんだからいいじゃない!
「まあ……俺もお前と結婚出来た事は最高だよ。」

真司君……!
「楓……!」

――――――――――――――――――――――――――――――――

「ありがとうございましたー!」
居酒屋の従業員に見送られながら、涼しい店外へと出る。
あたり一面すっかりと夜だ。

夫婦水入らずを邪魔する程僕もバカでは無い。お会計を済ませて、
そそくさとその場から退散させてもらった。

軽く挨拶をしたが、やはりというか「二人の世界」に入り込んだ
人魔の夫婦が効く耳を持つ事等あるわけがないだろう。

さて。今回もいい記事が書けそうだ

「週刊マモノジャーナル 人気コーナー:今日の魔物カップル」
この大役を務められるのは、僕だけだからな!
23/07/02 21:14更新 / なめろう(二代目)

■作者メッセージ
お久しぶりです。なめろうです。
普段ニコニコで「魔物娘図鑑はいいぞ」してる人です。
小説とかも再び書き始めました。よろしくお願いします。l

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