止まっていた時
「う・・・」
目を覚ました僕はあることに気づいた・・・
「ここは・・・病院?」
僕はどうやら病院のベッドで寝ていたらしい・・・そして、目が覚めた僕を初めに迎えたのは
「うっ・・・!!」
頭痛だった・・・
「そうか、僕は昨日・・・」
僕は昨夜のことを思い出し胸を締め付けられるような感覚に襲われた・・・そして、片手で顔の上半分を覆いながら・・・僕はこう呟いた・・・
「どうして・・・彼女を思い出すとこんなに苦しむんだ・・・僕は・・・彼女を・・・」
僕は呟き続けようとするが・・・続けられなかった・・・いや、正確にはその先を言うことが怖くて・・・考えることができなかった・・・
「総一郎さん・・・なんで、私が怒っているか分かってる?」
「はい・・・」
私が少し、怒りを混ぜながら尋ねたら夫は恐る恐る返事をした
「よりによって、昨日あんなに体調が悪そうだった明君を飲み会の口実にするなんて配慮が足らないと思うんだけど?」
「はい・・・」
「それに・・・よりによってその明君が病院に搬送されるなんて・・・何があったの?」
私は可愛い弟のような存在が見せた昨日の姿と夫が飲みに誘い、その後倒れて病院に搬送されたことについて疑問を抱き、夫に問いただした・・・すると・・・
「すまん・・・それは・・・」
夫は声を濁らせた・・・私は
「ふざけないでよ!!」
「恵美?」
声を荒げてしまった・・・
「知ってるのよ・・・昨日だけじゃなく、明君がたまにあんな風に苦しむのは私だって・・・」
「な!?」
そう、私は明君がたまに苦しそうにしているのを見たことがある・・・その理由は分からなかった・・・だけど、昨日明君の姿を見て分かった・・・勘だけど持病とかそんな生やさしいものじゃないとは私でも理解した・・・
「どうして、私には何も教えてくれないの!?私だって、明君のことは小さいころから知っている大切な友達なのよ!?」
「・・・」
私は夫と友人に隠し事をされていることに苛立ちを感じ、それを夫にぶつけた・・・そして、
「お願い・・・総一郎さん・・・お願いだから・・・教えて・・・」
「恵美・・・」
私は涙を流しながら懇願した・・・自分だけが何も知らず、大切な友人があんなに苦しみ、そして・・・最愛の夫だけにそれを背負わせることに耐えられなかった・・・
(私が知ったところで何の解決にもならないことぐらいは理解してるど・・・せめて、そのことを共に背負うことでその痛みを分かち合うことだけでもさせて・・・)
「すまん・・・お前に心配をかけたくないと思って、逆に君に辛い思いをさせてしまった・・・」
「あなた・・・」
総一郎さんは私の想いに気づき、覚悟を決めたらしく本心から謝罪をして私に向き直った
「俺は3年前に九条君の祖父である政宗さんに明君のことを任されたんだ・・・」
「政宗さんに?」
明君の祖父である政宗さんは私も知っている・・・というよりは彼は総一郎さんと私を結ばせてくれた私達にとっての恩人・・・
「13年前の明君の状態は俺よりもお前の方が詳しいよな」
「ええ・・・」
13年前の明君は今と違い非常に屈託のない笑顔をしておりかなり明るかった・・・
「実は彼には『婚約者』がいた・・・」
「え?」
私は一瞬、理解することができず混乱した・・・
明君に・・・『婚約者』・・・?じゃあ、なんで彼は結婚していないの?
「じゃあ、明君はどうして未だに独身なの?」
私が質問すると夫は
「それも今から話す・・・まずは彼がこの町を訪れなくなった理由が分かるか?」
「え?」
逆に質問してきた。そして、総一郎さんの質問で私は彼が2年前までこの町を訪れなかったことを理由を初めて考えた・・・だけど、私にはわからなかった・・・
「普通ならわからないと思うが・・・九条君が真面目な性格なのは知っているだろ?」
「ええ・・・」
明君が基本的に真面目で何事も一生懸命なのは知っている・・・政宗さんも『自慢の孫だ』といつも嬉しそうにしていた・・・
だけど、それが何か関係あるのだろうか?
「彼は『婚約者』に恥じないような人間になろうと努力し続けたらしい・・・それも血の滲む努力をし続けた・・・そして、常に完璧であろうとあらゆる時間を犠牲にしたらしい・・・だから、この町を訪れなくなったらしい・・・」
「な!?」
衝撃の真実を知り、私は言葉を失った・・・明君がすごい努力家であることは知っていたけど・・・
「彼は全く『自分の感情』を持たなかった・・・政宗さんはそのことを後悔していた・・・『私が孫の人生を台無しにしてしまった』と・・・」
そう言えば、明君は子どもの頃から他人に対してすごく優しかった・・・だけど、それは度を超えたものだった・・・明らかに自分よりも相手が悪いときでも少しでも自分に非があれば謝るような性格をしていた・・・だけど、それはある意味彼の『脆さ』を感じさせた・・・実際、私は彼のことを叱ったのは彼が周囲の人間を心配させたことぐらいだった・・・
(そういうことだったの・・・)
私は明君がどうしてあんな苦しそうにしていたのかを今になって気づいた・・・誰よりも彼の『弱さ』を知りながら私は気づくこともできなかった・・・そして、私はあることに気づいた・・・
「ねえ、あなた?明君て『異性関係』の話になるとあんな風に苦しむのよね・・・まさか、彼の『婚約者』になにかあったの・・・?」
「それは・・・」
私は意を決して聞いた・・・しかし、総一郎さんはしばらく黙った・・・そして、苦しそうに重い口を開けた・・・
「・・・彼女は―――」
「え・・・」
しかし、私はその言葉が聞こえなかった・・・いや、正確には聞こえていたけど、それが真実だと理解したくなかった・・・だけど、それは紛れもない真実だった・・・
僕はしばらく、病院のベッドで黄昏ていた・・・病室の窓から見える風景はあまり、感動を覚えさせるものではないけど、今の僕には十分すぎる娯楽だった・・・
「娯楽か・・・」
僕は自嘲した・・・
「思えば僕の10年間はなんだったんだろうね・・・」
僕の学生生活はあまりにもつまらないものだった・・・ただ、僕は『ある女性』に恥じない存在になろうとあらゆることを捨ててきた・・・そして、だけど僕は大学に入ると時間が余り、色々な文学を読みふけるようになり・・・いつしか、小説家にもなりたいと考えるようになった・・・祖父と叔父は僕の初めての『わがまま』を歓迎した。父さんも最初は渋っていたけれどなんだかんだ喜んで応援してくれた・・・それで、ある雑誌の懸賞に送ったら見事に入選した・・・僕はあの時ほど幸せだった時期はなかったと思えた・・・だけど、あんなことがあってから僕は・・・
「自堕落ここに極まれりだね・・・あらゆることに惰性的になるなんて・・・全く、僕らしくない・・・」
そう、僕はあらゆることに興味を示さなくなった・・・むしろ、感動を覚えなくなった・・・僕に残ったのは・・・
「う・・・」
僕は突然気持ち悪くなり、病室を出て洗面所に向かい嘔吐した・・・
「はあはあ・・・」
次に襲いかかってきたのは動悸と息切れだった・・・
「くそ・・・!!」
いつまでもあのことを乗り越えることのできない自分に苛立ちと虚しさを感じた・・・
(なんで・・・僕は・・・)
洗面所から出た僕は近くの椅子に座り俯いていた・・・すると・・・
「九条さん・・・?」
僕を呼ぶ声が聞こえた・・・その声は耳に馴染んだものではない・・・だけど優しい声だった・・・その声を聞いて僕は顔を上げた・・・そこには
「進藤さん・・・?」
昨日出会った修道女が立っていた・・・
目を覚ました僕はあることに気づいた・・・
「ここは・・・病院?」
僕はどうやら病院のベッドで寝ていたらしい・・・そして、目が覚めた僕を初めに迎えたのは
「うっ・・・!!」
頭痛だった・・・
「そうか、僕は昨日・・・」
僕は昨夜のことを思い出し胸を締め付けられるような感覚に襲われた・・・そして、片手で顔の上半分を覆いながら・・・僕はこう呟いた・・・
「どうして・・・彼女を思い出すとこんなに苦しむんだ・・・僕は・・・彼女を・・・」
僕は呟き続けようとするが・・・続けられなかった・・・いや、正確にはその先を言うことが怖くて・・・考えることができなかった・・・
「総一郎さん・・・なんで、私が怒っているか分かってる?」
「はい・・・」
私が少し、怒りを混ぜながら尋ねたら夫は恐る恐る返事をした
「よりによって、昨日あんなに体調が悪そうだった明君を飲み会の口実にするなんて配慮が足らないと思うんだけど?」
「はい・・・」
「それに・・・よりによってその明君が病院に搬送されるなんて・・・何があったの?」
私は可愛い弟のような存在が見せた昨日の姿と夫が飲みに誘い、その後倒れて病院に搬送されたことについて疑問を抱き、夫に問いただした・・・すると・・・
「すまん・・・それは・・・」
夫は声を濁らせた・・・私は
「ふざけないでよ!!」
「恵美?」
声を荒げてしまった・・・
「知ってるのよ・・・昨日だけじゃなく、明君がたまにあんな風に苦しむのは私だって・・・」
「な!?」
そう、私は明君がたまに苦しそうにしているのを見たことがある・・・その理由は分からなかった・・・だけど、昨日明君の姿を見て分かった・・・勘だけど持病とかそんな生やさしいものじゃないとは私でも理解した・・・
「どうして、私には何も教えてくれないの!?私だって、明君のことは小さいころから知っている大切な友達なのよ!?」
「・・・」
私は夫と友人に隠し事をされていることに苛立ちを感じ、それを夫にぶつけた・・・そして、
「お願い・・・総一郎さん・・・お願いだから・・・教えて・・・」
「恵美・・・」
私は涙を流しながら懇願した・・・自分だけが何も知らず、大切な友人があんなに苦しみ、そして・・・最愛の夫だけにそれを背負わせることに耐えられなかった・・・
(私が知ったところで何の解決にもならないことぐらいは理解してるど・・・せめて、そのことを共に背負うことでその痛みを分かち合うことだけでもさせて・・・)
「すまん・・・お前に心配をかけたくないと思って、逆に君に辛い思いをさせてしまった・・・」
「あなた・・・」
総一郎さんは私の想いに気づき、覚悟を決めたらしく本心から謝罪をして私に向き直った
「俺は3年前に九条君の祖父である政宗さんに明君のことを任されたんだ・・・」
「政宗さんに?」
明君の祖父である政宗さんは私も知っている・・・というよりは彼は総一郎さんと私を結ばせてくれた私達にとっての恩人・・・
「13年前の明君の状態は俺よりもお前の方が詳しいよな」
「ええ・・・」
13年前の明君は今と違い非常に屈託のない笑顔をしておりかなり明るかった・・・
「実は彼には『婚約者』がいた・・・」
「え?」
私は一瞬、理解することができず混乱した・・・
明君に・・・『婚約者』・・・?じゃあ、なんで彼は結婚していないの?
「じゃあ、明君はどうして未だに独身なの?」
私が質問すると夫は
「それも今から話す・・・まずは彼がこの町を訪れなくなった理由が分かるか?」
「え?」
逆に質問してきた。そして、総一郎さんの質問で私は彼が2年前までこの町を訪れなかったことを理由を初めて考えた・・・だけど、私にはわからなかった・・・
「普通ならわからないと思うが・・・九条君が真面目な性格なのは知っているだろ?」
「ええ・・・」
明君が基本的に真面目で何事も一生懸命なのは知っている・・・政宗さんも『自慢の孫だ』といつも嬉しそうにしていた・・・
だけど、それが何か関係あるのだろうか?
「彼は『婚約者』に恥じないような人間になろうと努力し続けたらしい・・・それも血の滲む努力をし続けた・・・そして、常に完璧であろうとあらゆる時間を犠牲にしたらしい・・・だから、この町を訪れなくなったらしい・・・」
「な!?」
衝撃の真実を知り、私は言葉を失った・・・明君がすごい努力家であることは知っていたけど・・・
「彼は全く『自分の感情』を持たなかった・・・政宗さんはそのことを後悔していた・・・『私が孫の人生を台無しにしてしまった』と・・・」
そう言えば、明君は子どもの頃から他人に対してすごく優しかった・・・だけど、それは度を超えたものだった・・・明らかに自分よりも相手が悪いときでも少しでも自分に非があれば謝るような性格をしていた・・・だけど、それはある意味彼の『脆さ』を感じさせた・・・実際、私は彼のことを叱ったのは彼が周囲の人間を心配させたことぐらいだった・・・
(そういうことだったの・・・)
私は明君がどうしてあんな苦しそうにしていたのかを今になって気づいた・・・誰よりも彼の『弱さ』を知りながら私は気づくこともできなかった・・・そして、私はあることに気づいた・・・
「ねえ、あなた?明君て『異性関係』の話になるとあんな風に苦しむのよね・・・まさか、彼の『婚約者』になにかあったの・・・?」
「それは・・・」
私は意を決して聞いた・・・しかし、総一郎さんはしばらく黙った・・・そして、苦しそうに重い口を開けた・・・
「・・・彼女は―――」
「え・・・」
しかし、私はその言葉が聞こえなかった・・・いや、正確には聞こえていたけど、それが真実だと理解したくなかった・・・だけど、それは紛れもない真実だった・・・
僕はしばらく、病院のベッドで黄昏ていた・・・病室の窓から見える風景はあまり、感動を覚えさせるものではないけど、今の僕には十分すぎる娯楽だった・・・
「娯楽か・・・」
僕は自嘲した・・・
「思えば僕の10年間はなんだったんだろうね・・・」
僕の学生生活はあまりにもつまらないものだった・・・ただ、僕は『ある女性』に恥じない存在になろうとあらゆることを捨ててきた・・・そして、だけど僕は大学に入ると時間が余り、色々な文学を読みふけるようになり・・・いつしか、小説家にもなりたいと考えるようになった・・・祖父と叔父は僕の初めての『わがまま』を歓迎した。父さんも最初は渋っていたけれどなんだかんだ喜んで応援してくれた・・・それで、ある雑誌の懸賞に送ったら見事に入選した・・・僕はあの時ほど幸せだった時期はなかったと思えた・・・だけど、あんなことがあってから僕は・・・
「自堕落ここに極まれりだね・・・あらゆることに惰性的になるなんて・・・全く、僕らしくない・・・」
そう、僕はあらゆることに興味を示さなくなった・・・むしろ、感動を覚えなくなった・・・僕に残ったのは・・・
「う・・・」
僕は突然気持ち悪くなり、病室を出て洗面所に向かい嘔吐した・・・
「はあはあ・・・」
次に襲いかかってきたのは動悸と息切れだった・・・
「くそ・・・!!」
いつまでもあのことを乗り越えることのできない自分に苛立ちと虚しさを感じた・・・
(なんで・・・僕は・・・)
洗面所から出た僕は近くの椅子に座り俯いていた・・・すると・・・
「九条さん・・・?」
僕を呼ぶ声が聞こえた・・・その声は耳に馴染んだものではない・・・だけど優しい声だった・・・その声を聞いて僕は顔を上げた・・・そこには
「進藤さん・・・?」
昨日出会った修道女が立っていた・・・
13/08/06 22:02更新 / 秩序ある混沌
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