暗闇
「響ちゃん、ご苦労様。今日はもういいよ?」
「はい。ありがとうございます……」
今日の仕事を終えた私、貴水 奏(たかみ かなで)は店を出て、店の近くの私みたいなソープ嬢が住んでいる店の寮へと向かった。そして、自室に着くと一日の四度の性行為で体力を消耗したこともあり、私はすぐに眠りに落ちることになるだろう
どんどん……自堕落になっていくわね……私……
不規則で自堕落な生活を送ることしかできないことに私は不安と恐怖を抱いている。私は今ではソープ嬢になっているが、以前までは普通の女性よりも真面目に規則正しく生きていたつもりだが、今の私は普通の女性と比べることすらおこがましいほど、女性として最低最悪な部類に入るだろう
どうして……こうなっちゃたんだろう……
私は寮への道の中で朝の陽ざしの中でこれまでの自分の行いを振り返った。私は一年前のバレンタインデーに想いを寄せていた上司に告白し、彼に断られた。しかし、その年の3月になると彼は妙にやつれていた。そして、今からちょうど一年前である8月近くにある噂が私の元職場で流れた
『ねえ?知ってる?加藤課長、離婚したんだって』
それは先輩の『離婚話』と
『うそ!?それ本当なの?』
『本当らしいわ、それも……原因が課長のDVなんですって……』
『離婚原因』である課長の『DV』の噂だった。私はその噂を聞いた時、信じることはしなかった。なぜなら、私の知っている先輩は愛妻家で子煩悩で部下思いで優しくて誠実な人だったからだ。だから、私は初めは噂を信じようとしなかった。しかし、あるプロジェクトが私達の職場で持ち上がった時に先輩はいつものように指揮を執ろうとしたが、噂によって求心力を失った先輩には誰も従わず、逆に先輩の長年の片腕と言えたあの男に皆、従うようになった。そして、彼は次第に一人でしかできない仕事ばかりをするようになっていった
少しでも、先輩の支えになってあげるべきだったのに……私……
私はあの時の自分の行動を悔やんだ。私は彼を支えるどころか、自分の身に被害が及ぶことを恐れて、彼を避けてしまったのだ。だけど、それは自己保身のためだけではなく、心のどこかで私は先輩を疑いこう思ってしまったのだ
『私の告白を断ったのは私に魅力がなかったからだったの?あなたにとって……奥さんや息子さんは自分を良き夫や父親にするための装飾品だったの?』
以前、彼が告白を断ったのは自分の経歴に『浮気』と言う汚点をつけないためと考え、彼の優しさは全部自分が可愛いためのものと疑い、何よりも私の『恋』を彼が踏みにじったと私は完全に逆恨みをしてしまったのだ
どうして……私、あの人のことを助けなかったんだろう……そうすれば、あの人はいなくならずにすんだかもしれないのに……
彼はプロジェクトが完遂する寸前の11月に突然、失踪してしまった。私はそれを聞いた瞬間、何も考えられなくなった。そして、私は本当の意味で失恋してしまったのだ
あの時から私はおかしかったわ……
初恋の人を半信半疑のまま失ってしまった私は自分で言うのもどうかと思うが精神が不安定になってしまっていた。そんな時、私のことを慰めるかのようにあの男は近づいてきた。私は最初、鬱陶しく思い軽くあしらってきたがそれでもあの男は私に近づき、優しい言葉を呟いてきた。それでも、私はあの男に心を許そうとしなかった。それはあの男が信じられなかったからではない
加藤先輩のこと……まだ、好きだったのよね……私……
私は彼を完全に信じることはできなかったが同時に完全に疑うこともできなかったのだ。だから、彼への『恋心』は捨てることはできなかったのだ
『私は加藤先輩のことが好きだったんです……いえ、今でもあの人が好きなんです……だから、今はそっとしておいてください』
そう言って、私はあの男にあきらめさせようとした
先輩……本当は私……先輩に自己弁護でもいいから、何か言って欲しかったんです……なのに……どうして……!
私は彼が失踪する前に彼に対して暗い感情を抱いていたが本当は彼自身の口から『真実』を語って欲しかったのだ。だけど、彼はいなくなってしまった。私は初恋の人を失った悲しみと彼が本当のことを話してくれなかった憤りを抱き、それに囚われていたのだ。だから、あの時は私は誰にも関わって欲しくなかったのだ。だが、あの男は
『そうか、でも……辛かったね』
私の頭を撫でながらそう言ってきた
『えっ……』
私はそれに戸惑うことしかできなかった。しばらくすると
『俺は貴水さんのことが好きだから君が辛そうにしてるのは見たくない。もしも、俺にできることがあれば何でもするよ?』
―ギュ―
私のことを抱きしめてそう呟いた。私はその時、頭が真っ白になり胸の鼓動が高まってしまい思考が止まってしまった。しかし、私の脳裏にあることが思い浮かんできた
『ごめん……貴水さん……それはできない……』
それは初恋の人の拒絶の言葉だった。私はそれを思い出した瞬間、無意識の内に
『抱いて下さい……』
と言葉を漏らしてしまった。今になってみると、どうして私はあのようなことを言ってしまったのか自分でもわからない。もしかすると、先輩に振られたことに対するあてつけなのかもしれない。そして、男はそれを聞くと
『いいよ』
了承した。そして、その日の夜、私達は駅前のラブホテルに行って、私は自らの処女をあの男に捧げた。その後、私はあの男と交際を始めて『失恋』の傷を癒そうとした
私……本当に最低ね……どうかしていたわ……
あの頃は失恋から早く立ち直りたいがために私はあの男との交際に熱を上げていた。そして、次第に私は本当の意味で私はあの男に好意を持つようになっていった。あの時の私は本当に幸せの中にいたと錯覚していた。あの時までは
『いや〜、あいつがいなくなって焦ったが……なんとかなって良かった、良かった……』
私は夜勤から帰る途中にたまたま、会社の出口に私がかつて勤めていた会社の社長が女と2人で一緒にいたのを偶然目撃した。そして、社長と一緒にいた女は
『本当よね……まったく、最後まで仕事をしてから消えなさいよ……』
先輩の妻、いや、正確には妻であった女だった。私はその時、どうしてあの2人が一緒にいたのか理解できずにいた。しかし、社長とあの女が言っていた『あいつ』が誰なのかはわかってしまった
『まあ、士郎の養育費はあいつが残してくれたから良かったわ』
『しっかし、馬鹿だよな〜……自分がハメられたことも知らないで俺のために働くなんて……』
『……!?』
あの2人は恐ろしい『真実』を明かした。そして、それは私がとんでもない『過ち』を犯したことを意味していた。あの人は無実だったのだ。それなのに私はあの人を支えるどころか信じることもしなかったのだ。私はあの2人の会話を聞き続けたが、それは彼らの恐ろしさを私に植え付けるだけだった
『ところでグランツシュタットさんてどんな人だったの?』
あの女はある女性の名前を言った。グランツシュタットさんは先輩がいなくなった後に先輩のコネがなくなったことであのプロジェクトが資金不足で頓挫しそうになった時に私達に資金を提供してくれた資産家だ
『すごい美人だったよ……あ〜あ、あんな女を奥さんにするなんてどんな奴だよ』
どうやら、社長はグランツシュタットさんを口説こうとしていたらしい。実は社長にはあまり良い噂がなく、かなりの女好きと言われていたほどだ。私は以前、グランツシュッタットさんが会社に来た時に一度、彼女のことを目にしたが彼女は本当に綺麗な人だった。恐らく、私が今まで見てきた女性の中では最も綺麗な女性だと思う。しかし、その時の彼女はかなり気が立っていたこともあり、近寄りがたい雰囲気を纏っていた
『女遊びはほどほどにしなさいよ?面倒なことになるし……』
グランツシュタットさんの話をするとあの女はそう言って社長に忠告するが
『なんだ?妬いたのか?』
社長は笑いながらそう言った
『まあ、それもあるけど……約束は守りなさいよ?』
あの女はそれだけを確認した。すると社長はめんどくさそうに頷いて
『はいはい……まあ、女なんて甘い言葉と金と権力、快楽さえあればいくらでもモノにできるしな……半年前も清純そうな新入社員を口説いたが俺が快楽を教えたらなんでも言うことを聞くようになったよ……今じゃ、『接待役』を嬉しそうな顔でやってるけどな』
私はそれを聞いた瞬間、震えが止まらなかった。だが、私を恐怖させることはまだ多くあった
『本当、ひどい人ね?』
『お前が言うか?』
あの2人は軽く応対した。その後
『別にいいじゃない?あなたのことを邪魔していた口うるさいあの男を静かにさせたんだし』
『まったくだな……あいつ、会計費を見てその出資先を見つけそうだったし、前にクビを切った的場(まとば)のことについてもおかしいと思って探ってたしな』
的場と言うのはかつて、先輩の部下で私の同僚であった男性だ。しかし、先輩がいなくなる前の一年前に会社のお金を横領したとされてクビにされた人間だ。先輩は彼が責任を問われた際に彼の無実を主張していたが結局は彼はクビになってしまった。だけど、社長の話からすると的場さんも社長にハメられ、先輩は彼の無実を追求しようとしていたのだ
『馬鹿よね?的場さんがクビになったんだから、その時点で探ったら自分も危ない目に遭うのは目に見えいているのに……それも的場さんをハメた本人に相談するなんて』
何を言っているの……?この女……あの人のことを……馬鹿……?
私はあの女の言葉の意味がわからなかった。あの人は自分の妻子を愛していたのにあの女はあの人のことを侮辱したのだ。私には理解できなかった。そして、あの2人の話を聞いて私は彼らのことをこう思った
悪魔……
それしか例えるものがなかった。あの2人の口から出てくる言葉は人間を人間として見ているのならば絶対に出すことのできないものだった。そして、私はこれ以上、あの2人の話を聞くのが恐くなり逃げるようにその場を去った。あの時の私の胸にはあの2人に対する憎しみや怒りよりも、『恐怖』と蘇ってしまったあの人を失ってしまった『喪失感』、そして、『罪悪感』が勝っていた
ごめんなさい……先輩……私……あなたのことが好きだと言ったのに私……私……
寮の階段を昇っている最中、私はもう会うことができない先輩への謝罪を繰り返し続けた。私はあの2人の会話を聞いた後の休日に先輩の実家へと向かった。もしかすると、先輩の居場所を掴めると思って。私はあの時、彼ともう一度だけ会って、話をしたくなり、独りよがりでもいいから謝罪がしたかったのだ。だけど、それは叶うことがなかった
『どうして優を信じなかったんですか!?』
先輩の実家の玄関の前に立つと玄関の中から大きな聞き覚えのある声が聞こえてきた。そして、その後
『何度言っても無駄だ九条君……あんなことをしでかしたあいつなど俺の息子じゃない!!』
その声に反撃するかのように違う人間の大きな声が聞こえてきた。どうやら、先輩の父親の声らしい。それを聞くともう1人の声の主は
『いいえ!!優はそんな奴じゃありません!!』
それを真っ向から否定した。どうやら2人は言い争っているようだった。そして、私はもう1人の声の主の正体に気づいた
九条(くじょう)先輩……?
彼は私の大学の先輩で加藤先輩の親友であった九条 暁(あかつき)先輩だった。彼は加藤先輩とは小学校の時からの親友で大学時代は加藤先輩と並んで優秀な成績を残していた人でもあった。性格は穏やかな加藤先輩と比べると少し激しい所があるが、本質的には優しい人だった。恐らくは彼は加藤先輩の話をどこかで聞いて加藤先輩の実家に駆けつけたのだろう
『はあ〜……九条君?どうして、君はそこまで優を信じるんだ?』
先輩の父親は彼にそう尋ねた。すると、九条先輩は何かに耐えるかのように苦しそうに
『あいつは……妻が……礼子(れいこ)が司(つかさ)と明(あきら)を残して死んだとき、一緒に泣いてくれたんです……』
彼にそう言った。礼子さんとは亡くなった九条先輩の奥さんであって、九条先輩と加藤先輩の幼馴染だった女性でもあった。そして、九条先輩の二人の子供をそれぞれ17歳と20歳で出産した母親でもある。なぜ、彼女がそんなに若くして母親になったかと言うと加藤先輩から聞いた話によると彼女は生まれつき身体が弱く、長くは生きられなかった女性だったらしくて彼女は九条先輩のことが好きだったが自分が長く生きられないことを知って16歳の時に九条先輩に
『私はあなたと同じ時間を生きられないから、違う人と一緒になって』
と言って、自分とは違う人と幸せになることを願ったらしい。しかし、彼女のことを愛していた九条先輩はそれを
『俺はお前と一緒じゃないと幸せになれないんだよ』
と言って断わり、彼女と生きることを願って、お互いの両親に相談の上で彼女が生きてられるうちに彼女に幸せな時間を与えたいと思って、若くして結婚したらしい。それがどれだけ辛くて険しい道だと知りながらも彼女を必死になって愛し続けた。そして、彼女は2人目の子供である長男を産んでから2年後に亡くなった
『そんなあいつが……自分の家族に暴力をふるうはずなんてありません……!!』
九条先輩は涙を流しながら必死になって加藤先輩の父親に対して説得しようとするが
『うるさい……!!』
先輩の父親はそれを遮って自分の耳に入らないようにと九条先輩のことを黙らせようとした。そして、
『もうそれ以上……何も言わないでくれ!!もう遅いんだ!!あいつはもう……どこに行ったのか……』
それを聞いた瞬間、私は自分の足元が崩れるかのような気分に陥った。そして、私はそのまま顔を俯けながら自宅へと向かった
「ただいま……」
あの時のように暗い声で今の寮の自室に着いた私はカギを閉めるとすぐに布団へと向かった。そして、私の今の現状を決定づけるあの日のことを思い出した。あの日、私はあの男との交際を終わりにしようと思っていた。理由としては本当に最低だが、結局、私は加藤先輩への『想い』と『罪悪感』を捨てきれなかったのだ。そして、同時に私はあの男のことを利用している気がしたのだ。だから、私はそんな自分に嫌悪感を抱いていた
本当にあの時は自分が最低だと思っていたのに……
私はあの男への罪悪感で一杯だった。しかし、
『貴水、社長がお前のことを呼んでいたから言ってくれないか?』
『え?……あ、はい……』
加藤先輩の片腕であったあの男は既にその地位に就いていた。私はあの男の言葉を聞いて、社長室へと向かった
嫌な予感はしていた……だけど、あんなことになるなんて……
―コンコン―
社長室の前に着いた私は社長たちの会話を思い出し恐る恐るドアをノックした。すると、
『入りたまえ』
声が聞こえたので私は
『失礼します』
社長室へと入った。社長に入るとそこには顔を険しくした社長が私を待ち受けていた。私はあの夜のことを思い出して恐怖に駆られるも自分が呼ばれた理由を知りたくなり口を開いて
『あの、社長……ご用件は?』
と尋ねると社長は
『貴水君……まさか、君がこんなことをするとは……非常に残念だよ』
ため息をつきながらそう言った
『え?社長、何のことですか?』
私が訳もわからず混乱していると社長さらに残念そうな顔をして私が呼び出された理由を口にした
『とぼけるとはね……まさか、君が横領をするとは思わなかったよ』
『え……横領?』
私は身に覚えのない罪状を突きつけられた。だけど、私はあることを思い出した
『前にクビを切った的場(まとば)のことについてもおかしいと思って探ってたしな』
……!?まさか……!?
私はあの言葉を思い出して、自分が何をされるか想像してしまった。そして、それは残酷なことに現実になった
『本当に残念だよ……』
社長は何かしらの手段で私があの時の会話を聞いたことに気づいたのだ。そして、的場さんと同じように私をハメようとしているのだ
『知りません……私、そんなことしてません……!!』
私は無駄だと理解しながらも自分の無実を訴えた。しかし、相手は自分達のためならば何でもするような『悪魔』だ。『真実』を知っている私を放っておくはずがない
『残念だけど、君しか今回のことはできないのだよ……それに証人もいる』
『……え?しょ、証人……?』
社長はそう言ってきた。私は自分が無実で社長にハメられていることに気づいていたのでその『証人』が社長のグルだと気づいていた。だが、社長は私の予想していなかった人物の名前を口にした
『君が不正をしていることを斉木(さいき)君が報告したよ』
『……え?』
その名前は加藤先輩の片腕であった人物であり、その後釜にすわり私のことを慰め、私が『初めて』を捧げた男の名前だった。そして、その瞬間、私は気づいてしまったのだ。あの男は最初から私のことを愛していなかったのだ
『ところで貴水君……君の処分についてなのだが』
私は裏切られたショック既に心がボロボロであったがその言葉を聞いて
『……!?なんでしょうか……』
あることを恐れて無理矢理立ち直った。社長は男ならば自分の『奴隷』にして、女なら、いや、考えることすら恐ろしいことを平気でやる人間だった
『悲しいことだが、さすがに今回のことは庇うことができない……それと横領したお金は君の退職金から引かせてもらうよ?』
『………………』
私は何も言葉にすることができなかった。恐らく、この『悪魔』のことだ。もしここで泣いて懇願するとようなことをしたら、私はクビは免れるとは思うがそれ以上に最悪な目に遭うのは目に見えている。だから、私は黙ることしかできなかった。しかし、たとえ黙っていても『悪魔』は私を奈落へと引きずり込もうとした
『だが、それでも君の横領した金額には届かない……君には返す当てがあるのかい?』
『……え!?その……』
『悪魔』は私のことを逃がそうとしなかった。恐らく、私が横領した金額は普通の手段では返しきれないものだろう。そして、そんな私に待ち受ける運命は悲惨なものでしかない。私はそれを回避するためにあることを『悪魔』に告げた
『ちゃんと……自分の『手』でお金は返します……』
そして、私はなんとか『悪魔』の手から逃れることはできたが、会社をクビになり、再就職しようにも女であることと経歴に傷がついたこともありそれは不可能であった。バイトやパートなどでお金を返し続けたが、生活費も加わって生活や返済が困難になり、やむを得ず借金をしてしまった。しかし、今度はその借金に苦しめられることになりある日違うところからお金を借りようと借金取りに言うと借金取りはそれに対して怒鳴って
『馬鹿野郎!!そんなことすればもっとひでえことになるぞ!!』
私のことを止めて、あることを提案してきた
『いいか、姉ちゃん……俺らは基本的に金さえ返せば何も文句は言わねえが他の同業者はわからねえぞ?今からある仕事を紹介するからそこでケジメをつけろ』
そして、借金取りに紹介されたのが今の仕事だ。借金取りは一応、住まいとしてこの寮を紹介し、生活費は考慮したり、紹介した店も借金取り達が顔を効かせてくれるので身の安全は保たれており、借金取り曰く借金も一年以内には返済できると言ってはいたが
だけど……その後は……?
仮に借金を全額返した時、私にはここ以外に居場所は存在しない。実家に帰ると言う手段もあるにはあるが、親からもらった身体を穢した私には両親に会わせる顔が無いし、自分がクビになった理由も話せることではない。何よりも私はもう、誰も信じることができない。そして、
ごめんなさい……先輩……
私は先輩を信じることができなかった自分が許せないのだ。さらには自分自身も騙されていたとは言え、人を利用していたことや『恋心』を持ちながらも簡単に自分の『初めて』を好きでもない人に捧げたことに自分自身の浅ましさと愚かしさを感じ、この現状こそが自分にふさわしい『現実』だと考えていた
仕方ないよね……私が最低なんだから……
外は朝なのに私は未だに明けることのない夜の中にいることに『諦め』を感じて、そのまま眠りへと落ちた
「はい。ありがとうございます……」
今日の仕事を終えた私、貴水 奏(たかみ かなで)は店を出て、店の近くの私みたいなソープ嬢が住んでいる店の寮へと向かった。そして、自室に着くと一日の四度の性行為で体力を消耗したこともあり、私はすぐに眠りに落ちることになるだろう
どんどん……自堕落になっていくわね……私……
不規則で自堕落な生活を送ることしかできないことに私は不安と恐怖を抱いている。私は今ではソープ嬢になっているが、以前までは普通の女性よりも真面目に規則正しく生きていたつもりだが、今の私は普通の女性と比べることすらおこがましいほど、女性として最低最悪な部類に入るだろう
どうして……こうなっちゃたんだろう……
私は寮への道の中で朝の陽ざしの中でこれまでの自分の行いを振り返った。私は一年前のバレンタインデーに想いを寄せていた上司に告白し、彼に断られた。しかし、その年の3月になると彼は妙にやつれていた。そして、今からちょうど一年前である8月近くにある噂が私の元職場で流れた
『ねえ?知ってる?加藤課長、離婚したんだって』
それは先輩の『離婚話』と
『うそ!?それ本当なの?』
『本当らしいわ、それも……原因が課長のDVなんですって……』
『離婚原因』である課長の『DV』の噂だった。私はその噂を聞いた時、信じることはしなかった。なぜなら、私の知っている先輩は愛妻家で子煩悩で部下思いで優しくて誠実な人だったからだ。だから、私は初めは噂を信じようとしなかった。しかし、あるプロジェクトが私達の職場で持ち上がった時に先輩はいつものように指揮を執ろうとしたが、噂によって求心力を失った先輩には誰も従わず、逆に先輩の長年の片腕と言えたあの男に皆、従うようになった。そして、彼は次第に一人でしかできない仕事ばかりをするようになっていった
少しでも、先輩の支えになってあげるべきだったのに……私……
私はあの時の自分の行動を悔やんだ。私は彼を支えるどころか、自分の身に被害が及ぶことを恐れて、彼を避けてしまったのだ。だけど、それは自己保身のためだけではなく、心のどこかで私は先輩を疑いこう思ってしまったのだ
『私の告白を断ったのは私に魅力がなかったからだったの?あなたにとって……奥さんや息子さんは自分を良き夫や父親にするための装飾品だったの?』
以前、彼が告白を断ったのは自分の経歴に『浮気』と言う汚点をつけないためと考え、彼の優しさは全部自分が可愛いためのものと疑い、何よりも私の『恋』を彼が踏みにじったと私は完全に逆恨みをしてしまったのだ
どうして……私、あの人のことを助けなかったんだろう……そうすれば、あの人はいなくならずにすんだかもしれないのに……
彼はプロジェクトが完遂する寸前の11月に突然、失踪してしまった。私はそれを聞いた瞬間、何も考えられなくなった。そして、私は本当の意味で失恋してしまったのだ
あの時から私はおかしかったわ……
初恋の人を半信半疑のまま失ってしまった私は自分で言うのもどうかと思うが精神が不安定になってしまっていた。そんな時、私のことを慰めるかのようにあの男は近づいてきた。私は最初、鬱陶しく思い軽くあしらってきたがそれでもあの男は私に近づき、優しい言葉を呟いてきた。それでも、私はあの男に心を許そうとしなかった。それはあの男が信じられなかったからではない
加藤先輩のこと……まだ、好きだったのよね……私……
私は彼を完全に信じることはできなかったが同時に完全に疑うこともできなかったのだ。だから、彼への『恋心』は捨てることはできなかったのだ
『私は加藤先輩のことが好きだったんです……いえ、今でもあの人が好きなんです……だから、今はそっとしておいてください』
そう言って、私はあの男にあきらめさせようとした
先輩……本当は私……先輩に自己弁護でもいいから、何か言って欲しかったんです……なのに……どうして……!
私は彼が失踪する前に彼に対して暗い感情を抱いていたが本当は彼自身の口から『真実』を語って欲しかったのだ。だけど、彼はいなくなってしまった。私は初恋の人を失った悲しみと彼が本当のことを話してくれなかった憤りを抱き、それに囚われていたのだ。だから、あの時は私は誰にも関わって欲しくなかったのだ。だが、あの男は
『そうか、でも……辛かったね』
私の頭を撫でながらそう言ってきた
『えっ……』
私はそれに戸惑うことしかできなかった。しばらくすると
『俺は貴水さんのことが好きだから君が辛そうにしてるのは見たくない。もしも、俺にできることがあれば何でもするよ?』
―ギュ―
私のことを抱きしめてそう呟いた。私はその時、頭が真っ白になり胸の鼓動が高まってしまい思考が止まってしまった。しかし、私の脳裏にあることが思い浮かんできた
『ごめん……貴水さん……それはできない……』
それは初恋の人の拒絶の言葉だった。私はそれを思い出した瞬間、無意識の内に
『抱いて下さい……』
と言葉を漏らしてしまった。今になってみると、どうして私はあのようなことを言ってしまったのか自分でもわからない。もしかすると、先輩に振られたことに対するあてつけなのかもしれない。そして、男はそれを聞くと
『いいよ』
了承した。そして、その日の夜、私達は駅前のラブホテルに行って、私は自らの処女をあの男に捧げた。その後、私はあの男と交際を始めて『失恋』の傷を癒そうとした
私……本当に最低ね……どうかしていたわ……
あの頃は失恋から早く立ち直りたいがために私はあの男との交際に熱を上げていた。そして、次第に私は本当の意味で私はあの男に好意を持つようになっていった。あの時の私は本当に幸せの中にいたと錯覚していた。あの時までは
『いや〜、あいつがいなくなって焦ったが……なんとかなって良かった、良かった……』
私は夜勤から帰る途中にたまたま、会社の出口に私がかつて勤めていた会社の社長が女と2人で一緒にいたのを偶然目撃した。そして、社長と一緒にいた女は
『本当よね……まったく、最後まで仕事をしてから消えなさいよ……』
先輩の妻、いや、正確には妻であった女だった。私はその時、どうしてあの2人が一緒にいたのか理解できずにいた。しかし、社長とあの女が言っていた『あいつ』が誰なのかはわかってしまった
『まあ、士郎の養育費はあいつが残してくれたから良かったわ』
『しっかし、馬鹿だよな〜……自分がハメられたことも知らないで俺のために働くなんて……』
『……!?』
あの2人は恐ろしい『真実』を明かした。そして、それは私がとんでもない『過ち』を犯したことを意味していた。あの人は無実だったのだ。それなのに私はあの人を支えるどころか信じることもしなかったのだ。私はあの2人の会話を聞き続けたが、それは彼らの恐ろしさを私に植え付けるだけだった
『ところでグランツシュタットさんてどんな人だったの?』
あの女はある女性の名前を言った。グランツシュタットさんは先輩がいなくなった後に先輩のコネがなくなったことであのプロジェクトが資金不足で頓挫しそうになった時に私達に資金を提供してくれた資産家だ
『すごい美人だったよ……あ〜あ、あんな女を奥さんにするなんてどんな奴だよ』
どうやら、社長はグランツシュタットさんを口説こうとしていたらしい。実は社長にはあまり良い噂がなく、かなりの女好きと言われていたほどだ。私は以前、グランツシュッタットさんが会社に来た時に一度、彼女のことを目にしたが彼女は本当に綺麗な人だった。恐らく、私が今まで見てきた女性の中では最も綺麗な女性だと思う。しかし、その時の彼女はかなり気が立っていたこともあり、近寄りがたい雰囲気を纏っていた
『女遊びはほどほどにしなさいよ?面倒なことになるし……』
グランツシュタットさんの話をするとあの女はそう言って社長に忠告するが
『なんだ?妬いたのか?』
社長は笑いながらそう言った
『まあ、それもあるけど……約束は守りなさいよ?』
あの女はそれだけを確認した。すると社長はめんどくさそうに頷いて
『はいはい……まあ、女なんて甘い言葉と金と権力、快楽さえあればいくらでもモノにできるしな……半年前も清純そうな新入社員を口説いたが俺が快楽を教えたらなんでも言うことを聞くようになったよ……今じゃ、『接待役』を嬉しそうな顔でやってるけどな』
私はそれを聞いた瞬間、震えが止まらなかった。だが、私を恐怖させることはまだ多くあった
『本当、ひどい人ね?』
『お前が言うか?』
あの2人は軽く応対した。その後
『別にいいじゃない?あなたのことを邪魔していた口うるさいあの男を静かにさせたんだし』
『まったくだな……あいつ、会計費を見てその出資先を見つけそうだったし、前にクビを切った的場(まとば)のことについてもおかしいと思って探ってたしな』
的場と言うのはかつて、先輩の部下で私の同僚であった男性だ。しかし、先輩がいなくなる前の一年前に会社のお金を横領したとされてクビにされた人間だ。先輩は彼が責任を問われた際に彼の無実を主張していたが結局は彼はクビになってしまった。だけど、社長の話からすると的場さんも社長にハメられ、先輩は彼の無実を追求しようとしていたのだ
『馬鹿よね?的場さんがクビになったんだから、その時点で探ったら自分も危ない目に遭うのは目に見えいているのに……それも的場さんをハメた本人に相談するなんて』
何を言っているの……?この女……あの人のことを……馬鹿……?
私はあの女の言葉の意味がわからなかった。あの人は自分の妻子を愛していたのにあの女はあの人のことを侮辱したのだ。私には理解できなかった。そして、あの2人の話を聞いて私は彼らのことをこう思った
悪魔……
それしか例えるものがなかった。あの2人の口から出てくる言葉は人間を人間として見ているのならば絶対に出すことのできないものだった。そして、私はこれ以上、あの2人の話を聞くのが恐くなり逃げるようにその場を去った。あの時の私の胸にはあの2人に対する憎しみや怒りよりも、『恐怖』と蘇ってしまったあの人を失ってしまった『喪失感』、そして、『罪悪感』が勝っていた
ごめんなさい……先輩……私……あなたのことが好きだと言ったのに私……私……
寮の階段を昇っている最中、私はもう会うことができない先輩への謝罪を繰り返し続けた。私はあの2人の会話を聞いた後の休日に先輩の実家へと向かった。もしかすると、先輩の居場所を掴めると思って。私はあの時、彼ともう一度だけ会って、話をしたくなり、独りよがりでもいいから謝罪がしたかったのだ。だけど、それは叶うことがなかった
『どうして優を信じなかったんですか!?』
先輩の実家の玄関の前に立つと玄関の中から大きな聞き覚えのある声が聞こえてきた。そして、その後
『何度言っても無駄だ九条君……あんなことをしでかしたあいつなど俺の息子じゃない!!』
その声に反撃するかのように違う人間の大きな声が聞こえてきた。どうやら、先輩の父親の声らしい。それを聞くともう1人の声の主は
『いいえ!!優はそんな奴じゃありません!!』
それを真っ向から否定した。どうやら2人は言い争っているようだった。そして、私はもう1人の声の主の正体に気づいた
九条(くじょう)先輩……?
彼は私の大学の先輩で加藤先輩の親友であった九条 暁(あかつき)先輩だった。彼は加藤先輩とは小学校の時からの親友で大学時代は加藤先輩と並んで優秀な成績を残していた人でもあった。性格は穏やかな加藤先輩と比べると少し激しい所があるが、本質的には優しい人だった。恐らくは彼は加藤先輩の話をどこかで聞いて加藤先輩の実家に駆けつけたのだろう
『はあ〜……九条君?どうして、君はそこまで優を信じるんだ?』
先輩の父親は彼にそう尋ねた。すると、九条先輩は何かに耐えるかのように苦しそうに
『あいつは……妻が……礼子(れいこ)が司(つかさ)と明(あきら)を残して死んだとき、一緒に泣いてくれたんです……』
彼にそう言った。礼子さんとは亡くなった九条先輩の奥さんであって、九条先輩と加藤先輩の幼馴染だった女性でもあった。そして、九条先輩の二人の子供をそれぞれ17歳と20歳で出産した母親でもある。なぜ、彼女がそんなに若くして母親になったかと言うと加藤先輩から聞いた話によると彼女は生まれつき身体が弱く、長くは生きられなかった女性だったらしくて彼女は九条先輩のことが好きだったが自分が長く生きられないことを知って16歳の時に九条先輩に
『私はあなたと同じ時間を生きられないから、違う人と一緒になって』
と言って、自分とは違う人と幸せになることを願ったらしい。しかし、彼女のことを愛していた九条先輩はそれを
『俺はお前と一緒じゃないと幸せになれないんだよ』
と言って断わり、彼女と生きることを願って、お互いの両親に相談の上で彼女が生きてられるうちに彼女に幸せな時間を与えたいと思って、若くして結婚したらしい。それがどれだけ辛くて険しい道だと知りながらも彼女を必死になって愛し続けた。そして、彼女は2人目の子供である長男を産んでから2年後に亡くなった
『そんなあいつが……自分の家族に暴力をふるうはずなんてありません……!!』
九条先輩は涙を流しながら必死になって加藤先輩の父親に対して説得しようとするが
『うるさい……!!』
先輩の父親はそれを遮って自分の耳に入らないようにと九条先輩のことを黙らせようとした。そして、
『もうそれ以上……何も言わないでくれ!!もう遅いんだ!!あいつはもう……どこに行ったのか……』
それを聞いた瞬間、私は自分の足元が崩れるかのような気分に陥った。そして、私はそのまま顔を俯けながら自宅へと向かった
「ただいま……」
あの時のように暗い声で今の寮の自室に着いた私はカギを閉めるとすぐに布団へと向かった。そして、私の今の現状を決定づけるあの日のことを思い出した。あの日、私はあの男との交際を終わりにしようと思っていた。理由としては本当に最低だが、結局、私は加藤先輩への『想い』と『罪悪感』を捨てきれなかったのだ。そして、同時に私はあの男のことを利用している気がしたのだ。だから、私はそんな自分に嫌悪感を抱いていた
本当にあの時は自分が最低だと思っていたのに……
私はあの男への罪悪感で一杯だった。しかし、
『貴水、社長がお前のことを呼んでいたから言ってくれないか?』
『え?……あ、はい……』
加藤先輩の片腕であったあの男は既にその地位に就いていた。私はあの男の言葉を聞いて、社長室へと向かった
嫌な予感はしていた……だけど、あんなことになるなんて……
―コンコン―
社長室の前に着いた私は社長たちの会話を思い出し恐る恐るドアをノックした。すると、
『入りたまえ』
声が聞こえたので私は
『失礼します』
社長室へと入った。社長に入るとそこには顔を険しくした社長が私を待ち受けていた。私はあの夜のことを思い出して恐怖に駆られるも自分が呼ばれた理由を知りたくなり口を開いて
『あの、社長……ご用件は?』
と尋ねると社長は
『貴水君……まさか、君がこんなことをするとは……非常に残念だよ』
ため息をつきながらそう言った
『え?社長、何のことですか?』
私が訳もわからず混乱していると社長さらに残念そうな顔をして私が呼び出された理由を口にした
『とぼけるとはね……まさか、君が横領をするとは思わなかったよ』
『え……横領?』
私は身に覚えのない罪状を突きつけられた。だけど、私はあることを思い出した
『前にクビを切った的場(まとば)のことについてもおかしいと思って探ってたしな』
……!?まさか……!?
私はあの言葉を思い出して、自分が何をされるか想像してしまった。そして、それは残酷なことに現実になった
『本当に残念だよ……』
社長は何かしらの手段で私があの時の会話を聞いたことに気づいたのだ。そして、的場さんと同じように私をハメようとしているのだ
『知りません……私、そんなことしてません……!!』
私は無駄だと理解しながらも自分の無実を訴えた。しかし、相手は自分達のためならば何でもするような『悪魔』だ。『真実』を知っている私を放っておくはずがない
『残念だけど、君しか今回のことはできないのだよ……それに証人もいる』
『……え?しょ、証人……?』
社長はそう言ってきた。私は自分が無実で社長にハメられていることに気づいていたのでその『証人』が社長のグルだと気づいていた。だが、社長は私の予想していなかった人物の名前を口にした
『君が不正をしていることを斉木(さいき)君が報告したよ』
『……え?』
その名前は加藤先輩の片腕であった人物であり、その後釜にすわり私のことを慰め、私が『初めて』を捧げた男の名前だった。そして、その瞬間、私は気づいてしまったのだ。あの男は最初から私のことを愛していなかったのだ
『ところで貴水君……君の処分についてなのだが』
私は裏切られたショック既に心がボロボロであったがその言葉を聞いて
『……!?なんでしょうか……』
あることを恐れて無理矢理立ち直った。社長は男ならば自分の『奴隷』にして、女なら、いや、考えることすら恐ろしいことを平気でやる人間だった
『悲しいことだが、さすがに今回のことは庇うことができない……それと横領したお金は君の退職金から引かせてもらうよ?』
『………………』
私は何も言葉にすることができなかった。恐らく、この『悪魔』のことだ。もしここで泣いて懇願するとようなことをしたら、私はクビは免れるとは思うがそれ以上に最悪な目に遭うのは目に見えている。だから、私は黙ることしかできなかった。しかし、たとえ黙っていても『悪魔』は私を奈落へと引きずり込もうとした
『だが、それでも君の横領した金額には届かない……君には返す当てがあるのかい?』
『……え!?その……』
『悪魔』は私のことを逃がそうとしなかった。恐らく、私が横領した金額は普通の手段では返しきれないものだろう。そして、そんな私に待ち受ける運命は悲惨なものでしかない。私はそれを回避するためにあることを『悪魔』に告げた
『ちゃんと……自分の『手』でお金は返します……』
そして、私はなんとか『悪魔』の手から逃れることはできたが、会社をクビになり、再就職しようにも女であることと経歴に傷がついたこともありそれは不可能であった。バイトやパートなどでお金を返し続けたが、生活費も加わって生活や返済が困難になり、やむを得ず借金をしてしまった。しかし、今度はその借金に苦しめられることになりある日違うところからお金を借りようと借金取りに言うと借金取りはそれに対して怒鳴って
『馬鹿野郎!!そんなことすればもっとひでえことになるぞ!!』
私のことを止めて、あることを提案してきた
『いいか、姉ちゃん……俺らは基本的に金さえ返せば何も文句は言わねえが他の同業者はわからねえぞ?今からある仕事を紹介するからそこでケジメをつけろ』
そして、借金取りに紹介されたのが今の仕事だ。借金取りは一応、住まいとしてこの寮を紹介し、生活費は考慮したり、紹介した店も借金取り達が顔を効かせてくれるので身の安全は保たれており、借金取り曰く借金も一年以内には返済できると言ってはいたが
だけど……その後は……?
仮に借金を全額返した時、私にはここ以外に居場所は存在しない。実家に帰ると言う手段もあるにはあるが、親からもらった身体を穢した私には両親に会わせる顔が無いし、自分がクビになった理由も話せることではない。何よりも私はもう、誰も信じることができない。そして、
ごめんなさい……先輩……
私は先輩を信じることができなかった自分が許せないのだ。さらには自分自身も騙されていたとは言え、人を利用していたことや『恋心』を持ちながらも簡単に自分の『初めて』を好きでもない人に捧げたことに自分自身の浅ましさと愚かしさを感じ、この現状こそが自分にふさわしい『現実』だと考えていた
仕方ないよね……私が最低なんだから……
外は朝なのに私は未だに明けることのない夜の中にいることに『諦め』を感じて、そのまま眠りへと落ちた
14/01/11 16:46更新 / 秩序ある混沌
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