時間がくれる贈り物
「はあ……一週間後どうしよう?」
僕、九条 明(くじょう あきら)は今、非常に困っている。その理由は一週間後の翌日のとあるイベントの前夜祭にある。さらに詳しく述べると、僕が悩んでいるのはその前夜祭における大切なものについてだ
「マリちゃんへのプレゼント……どうしよう……」
それは僕の妻である九条 茉莉(くじょう まり)に対する贈り物についてだ。そう、その日は恐らく、宗教に関して普段無関心な日本人が自分達に関係ないのになぜか祝うとある『聖人』の生誕祭の前夜であるクリスマスイヴだ
まあ、そこが日本人の良い所かもしれないけど……
僕はなぜか、そのイベントを日本人が祝うのか?と悩んでしまったが、そこは
『日本人だから、仕方ない』
と無理矢理結論付けた。と言うか、今はそれどころではない
「どうすればいいんだ……僕は……」
実は僕はクリスマスもしくは、クリスマスイヴを心の底から楽しんだことがない。なんと、夢がない人間かと自分でも思うがあの頃の僕は親族以外の人間とはあまり親しくなく、逆に親族に心配をかけてしまい、むしろ、親族はそんな僕のことを可愛がり過ぎたので僕はその度に申し訳なさを感じてしまい、心の底からクリスマスを楽しめる余裕がなかったのだ。ちなみに僕が小学生時代にサンタに願ったことは
『クリスマス・キャロルに出てくる三人の精霊と出会うこと』
であった。だから、他人が何を贈ってもらうと嬉しいかがわからない
「ぶっちゃけると、マリちゃんは僕からのプレゼントだったら、なんでも喜んでくれると思うけど」
これは決して、惚気ではないがマリちゃんは実際僕のことが大好きだから恐らく僕がプレゼントを贈っただけで喜んでくれるのは間違いないだろう。あと、もちろん僕もマリちゃんのことが大好きだ
「だけど、だからこそ困るんだよね……」
そう、たとえどんなものを贈っても喜んでくれるのは嬉しいけど、どうせなら、彼女のさらに喜ぶ顔を見たいのだ。まあ、つまりは『欲が出た』と言うことだ
「さすがに魔物娘だからと言って、一日中セックスし続けると言うのは……ちょっと……」
魔物娘からしてみれば、それはかなりの『幸福』だと思うけど、僕はそれは流石に止めた。それはいつでもできることだし、せっかくの一年に一度の特別な日なんだから、どうせなら『性夜』ではなく、『聖夜』として彼女と過ごしたい
「はあ……どうしよう……」
「〜♪」
「えらくご機嫌ですね。茉莉?」
「はい♪」
教会の掃除を鼻歌を交えながらしていた私に友人であるダークエンジェルのステラは声をかけてきました。そして、私は自分がかなりご機嫌であることを強調するかのように明るく返事をしました
「だって、一週間後はクリスマスイヴですよ?これを喜ばないでどうするんですか?」
「いや、普通はその翌日のクリスマスを喜ぶべきでしょう……あなた、一応は修道女ですよね?どうなんですか、そういうところ?」
確かに私は表向きは修道女でありながら、クリスマスよりもイヴの方を楽しみに思っています。えらく俗まみれな考えだと思いますが仕方ありません。なぜなら
「だって、一週間後は初めて明さんと過ごすクリスマスなんですよ〜?これを喜ばないでどうするんですか?」
そう、今年のクリスマスとイヴは私の夫である九条明さんと初めて過ごす特別なものです。私はそれだけで非常に喜びを感じ、頭の中は興奮で一杯です
「それに……久しぶりに家族と過ごすクリスマスですし……」
「茉莉……」
私は両親を幼い頃に亡くしてからこの教会の孤児院で毎年、クリスマスを他の孤児達と共に過ごしていました。私の父の実家はかなりの旧家でした。しかし、父は当時、使用人一家の娘であり、幼馴染でもあった私の母を愛し、母もまた身分があるとは言え父を愛しました。そして、両家の強い反対を受けこのままでは結ばれないことを考えて、駆け落ちして結ばれました。そして、2人の間に生まれたのが私でした。2人は貧しい暮らしの中でも私のことを深い愛情を注いで育ててくれました。私もそんな両親が大好きでした。クリスマスの時はプレゼントはありませんでしたが、クリスマスだからと言って、普段家事をこなしていた母もパートに出てケーキやフライドチキンなど普段の食事では御馳走とも言えるものを私に食べさせてくれました。私はそれだけで幸せでした
お父さん……お母さん……
しかし、家族三人のクリスマスは私が9歳の時まででした。私の両親は私が10歳の秋に飲酒運転の自動車にはねられて、帰らぬ人になりました。私はその時、両親の死が理解できませんでした。そして、しばらくした後に父方の祖父と祖母に生まれて初めて出会いましたが、その時に彼らは私に対して肉親としての愛情を一欠けらも見せず、私を引き取るどころか私の両親への罵倒を私にぶつけ、そのまま、私を追い出すかのように孤児院に預けました。しかし、幸いにも孤児院の手配は父方の伯父であり、父の弟である人が配慮してくれて神父様は非常に優しい方でした
信二伯父さんには感謝してもしたりませんね
私のことを預けた叔父である進藤 信二(しんどう しんじ)さんは三人兄弟の次男で私の親族で唯一、私のことを気にかけてくれました。あの時、信二伯父さん以外の親族は私が長男の嫡出子であることから、祖父母が亡くなった時の遺産配分の一部が私に行くことを恐れて、私のことを引き取ろうとしませんでした。この場合、信二伯父さんが私を引き取ればいいと思いますが当時、信二伯父さんは結婚したばかりで私のことを引き取る余裕がなかったのです。そして、何よりも
もしかすると、信二伯父さんは私のことを遺産争いから守るために孤児院を探してくれたのかもしれませんね……
仮にも私は祖父母に嫌われているとは言え、長男の嫡出子でした。もしかすると、親族の中には私の相続権を狙って引き取ろうとした者もいたかもしれません。信二伯父さんはそれを防ぐために私に相続権を放棄させてから、信頼できる孤児院に預けたのでしょう
「あの……茉莉?」
「はい、何でしょう?」
私が昔のことに思い耽っているとステラが何かを言いたそうでした。私はそれを聞いて、我に返って彼女の言葉を聞こうとしました。すると、彼女は
「茉莉にとって……私は『家族』じゃないんですか?」
「え……?」
寂しそうにそう聞いてきました。私はその言葉を聞いて自分の失言に気がつきました。彼女はこの時期になると堕落神様の教えを広げるために忙しいですが、仕事を終えると私にとっては共にクリスマスを過ごす仲でもあります
「ふ〜ん……いいんですよ〜、どうせ私なんて……」
「あの……その……ステラ?」
ステラはいじけたように卑屈になってしまい、私は彼女にかける言葉に困ってしまいながらもなんとか弁解しようと声をかけました
「なんですか……?」
彼女はむくれながら、私の方を向いてきました。私はそれに引け目を感じながらも弁解を始めようと口を開きました
「いえ……その……さっきのは言葉のあやと言うものでして……その……」
「ふ〜ん……」
私が弁解をし始めると、彼女は明らかに不機嫌そうな声を出してきました。しかし、それでも私は彼女にあることを伝えたかったので情けなくも自己弁護を続けました
「ステラは私にとっては家族と同じくらい大事な友達ですよ?」
「………………」
私にとってはステラは家族と同じぐらい大切な友人です。私が明さんと13年間会うことができなかった間、彼女はずっと私の傍にいてくれました。本当は彼女も辛い過去もあるのにそれでも彼女は私のことをずっと支えてくれました。本当に感謝してもしきれません
「ですから―――」
私は弁解を続けようとしましたが
「ぷっ……」
「……え?」
それは彼女が吹き出して、続きませんでした。そして、
「あはははははははははははははははははははははははは!!」
「す、ステラ?」
彼女は突然、大きな声で笑い出しました。私は訳がわからず呆気に取られてしまいした。しかし、その理由はすぐに理解できました。なぜなら
「いや〜、本当に茉莉はからかうと面白いですね〜♪」
「……!?」
彼女自身がニヤニヤしながら、答えを明かしたからです。私はそれによって自分が彼女にはめられたことに気づきました
「ステラあああああああああああああああああああああああ!!」
「あらあら、怒った顔も可愛いですね♪茉莉?」
私は羞恥に駆られて、少し涙目に怒りました。しかし、ステラはそれを見てさらに面白がったようでした
「今日と言う今日は許しませんよ!!私のことをからかうのもいい加減にしなさい!!」
そう、彼女は13年間ずっと傍にいてくれましたが、同時に私のからかうことを趣味にしているらしく、私の羞恥心を煽ぐようなことを多くしてきました。例えば、私が思春期になると風呂に入って私の胸を揉んできたり、私の恥ずかしい写真を撮ってそれをアルバムにまとめてそれを明さんに見せたり、私と明さんの夫婦生活と夫婦の営みをデバガメしたりと数多くの所業を私にしでかしてきました
「あら、怖い♪じゃあ、私はこれで♪」
ステラは私の怒りを笑いながらいなして余裕を持って逃走しようとしました
「逃がしませんよ!!」
私は彼女を逃がすまいと拘束魔法を使用しようとしますが
「ふ〜ん……ちょっと、このままでは逃げるのは難しいですね……あ、そうだ!!茉莉に質問です。これはなんでしょう?」
「え?」
ステラは私が拘束魔法を行使しようとした瞬間、突然何かを取り出しました
ビデオカメラ……?
それはビデオカメラでした。そして、ステラはそれを操作して
『はあはあ……明さん……』
『あぁん!!』
『あぁん、明さん……もう、今日も寝かせませんよ〜』
「なあ!!?」
ビデオカメラにとある映像が流れ出しました。それはリリムであるアミさんのエステに行った時に明さんの声を聞きながら自慰をしている私の姿でした。私はそれを見た瞬間羞恥心で口が固まってしまい、同時に拘束魔法を行使できなくなりました
「ど、ど、ど、どうして、あなたがそれを!?」
私はあまりのことに動揺してしまい、口を動かすことも困難になりましたが彼女がどうして私の『痴態』を映像に収めたのかが理解できず、気になってしまい彼女に尋ねました。すると、彼女はにやけ顔をさらに深くして言いました
「実はですね〜、アミさんに茉莉をからかうネタが欲しいと言ったら……彼女、『良いわよ♪』と即答で隠しカメラを用意してくれたんですよ〜♪」
「なあ!?」
ステラは衝撃の事実を告げました。なんとアミさんは彼女と手を組んで私のことをからかう準備をしていたらしいです。ちなみにアミさんもステラと同じ様に私のことをからかうことを趣味にしている非常に困った方です。あの人はカリスマがほとばしる崇高さと女神のような神々しさを持っていますが、日常では人をからかう悪い癖を持っている人でもあります。ちなみにその悪癖の主な犠牲者は私を含めて3人で残りの2人は彼女の幼馴染のヴァンパイアとリザードマンです。あと、ステラさんとアミさんは『独身』です
―パッ―
突然、彼女の足元に魔法陣が現れました。そして、彼女は非常ににこやかな笑顔で
「ちなみに今、ここにある魔法陣は明さんの家へと直結している転送用の魔法陣です♪」
「えっ!?」
彼女はそう言いました。私はその時、今の状況を確認しました。まず、私のことをからかう性根の悪いダークエンジェル。次に彼女の手には私の痴態が記録されているビデオカメラ。そして、最後に私の夫がいるであろう家に直結している転送用魔法陣
「ま、まさか……」
私は嫌な予感しかしませんでした。彼女は無邪気な笑顔をして
「そ〜れ♪」
ビデオカメラから手を離しました。ビデオカメラは支えが無くなったことで重力に引き寄せられる形で魔法陣へと落下していきました。私はそれを見て
「だ、だめええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
全速力でビデオカメラに向かって走り出しました。さすがの魔物娘、それも堕落神様にお仕えする淫欲の信仰者とも言えるダークプリーストの私でもさすがにあの痴態だけは夫に見せられませんでした
でも……明さんに見られるなら……いえいえ!!さすがにこれは無理です!!
私は一瞬、魔物娘の本能に負けて明さんが自分の痴態に興奮してくれることを妄想してしまい、それもいいかな?と思いましたが流石にこれは無理でした。そして、私は
―ガシ―
「はあはあ……」
ビデオカメラをなんとか受け止めました。しかし、
―ピカーン―
「え?」
突然、魔法陣が輝き出しました。そして、ステラは
「じゃあ、茉莉……明さんによろしく言っておいてくださいね♪」
ニッコリと笑っていました。私は
「は、謀りましたね!?ステラああああああああああああああああああああ!?」
彼女の計算通りになったことを悟り、彼女の転送魔法で明さんの家に送られていきました
「はあ〜、どうしよう……」
僕は未だに答えが見つからず悩み続けている
「仕方ない……紅茶でも飲んで落ち着こう」
僕は紅茶を淹れようと椅子から立ち上がった。すると、
―ピカーン―
「え?」
突然、僕の頭上に幾何学的模様が現れ光り出した。そして、
「きゃあああああああああああああああああああああああああ!!」
「えっ!?マリちゃん―――!?ぐおっ!!?」
―ドサ―
突然、模様の中心から僕の妻であるマリちゃんが現れ、そのまま僕の下へと向かって落ちてきた。そして、僕は受け止めることができず、そのまま彼女の下敷きになった
「いたた……て、明さん!?大丈夫ですか!?」
偶然、僕にのしかかる体勢になってしまった彼女は自らの身体の下にいる僕に気づいて、僕のことを気にかけてきた。僕は彼女に心配をかけまいと多少、身体を打ったがそれを隠して
「大丈夫だよ?マリちゃんは身体が軽いし、それに事故とは言えマリちゃんに押し倒されるのは悪くないよ?」
僕は彼女に本音を告げた。実際、僕は彼女と服越しに肌を密着させるのは悪くないと思っている。と言うよりはむしろ、非常に喜ばしいことだ。だから、この程度の痛みは軽いものだ。僕がそう言うと彼女は
「やだ……明さんたら……」
顔を赤らめて嬉しそうな表情をした
「マリちゃん……」
「明さん……」
僕らは互いに名前を呼び合い顔を近づけた
―ゴトン―
「ん?」
「え?」
しかし、それは何かが落下する音によって中断された。僕と彼女はその音がした方向を見た。そこには
「ビデオカメラ?」
そこにはビデオカメラが落ちていた。僕はそれに手を伸ばそうとした
「なんでこんなところに……?」
僕がビデオカメラがそこにあることに疑問を抱いていると
「だ、だめええええええええええええええええええええええええええええ!!」
突然、マリちゃんが叫び出して
―ドゴッ!!―
「ごふっ!!?」
僕の左頬に渾身の右ストレートが叩き込まれた。そして、僕はその威力によって、視界が暗くなっていき薄れゆく意識の中マリちゃんが僕の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした
「いや〜、やっぱり茉莉はからかうと面白いわね?ねえ、ステラ?」
「そうですね、アミさん」
私は友人の1人であり、恩人でもあるアミさんと水晶玉を通して、茉莉さんと明さんの様子を見て、一緒に面白がりました。茉莉は本当に魔物娘、それもダークプリーストでありながら羞恥心はが高く、他の魔物娘からは
『体はダークプリースト、中身はナイトメア』
とよくからかわれています
まあ……明さんとのセックスの時はダークプリーストそのものですけどね……
「さてと、じゃあ私はこれで」
アミさんは椅子から立ち上がり、帰ろうとしました
「あれ?もうお帰りですか?」
私がそう言うと彼女は
「いや、実はね……そろそろ、クリスマスでしょ?この時期はエステの方のお客さんが増えるのよ……」
「あ〜、確かにアミさんのお店てある意味『都市伝説』並みに有名ですもんね?特に女子高生に」
「『都市伝説』て……ベルンの『財力』じゃあるまいし……」
私がアミさんのお店の噂を口にすると、彼女は不満そうに言いました。ちなみにベルンさんとはアミさんの御友人のヴァンパイアです。彼女はこの世界に来た時にとても希少な金属を私達が元々いた世界から大量に持ってきて、それによって得た資金をやりくりして、この世界の経済界において多大な影響を及ぼす存在でもあります
確かにあの人の『財力』は下手したら、小さな国一個は支配できる程ですしね……
本当にあの人の『財力』は冗談レベルとも言えるものです。彼女の個人資産だけでも茉莉の夫である明さんの実家の『九条家』、明さんの元婚約者の実家の『藤堂家』、茉莉の父親の実家の『進藤家』の全財産を集めても彼女の個人資産の半分にも満たない程で、さらには彼女はこの世界の表舞台で生活する全ての魔物娘達の労働組合の長でもあり、彼女はそのコネクションを使って、世界経済を裏で操れる程の権限は持っています。まあ、彼女はそんなことはしないと思いますが。また、彼女には労働組合に所属する魔物娘や彼女直属の魔物娘以外にも最強の『懐刀』がいますので簡単には彼女の財力は潰すことなどできません。一見すると、途方もない話にしか聞こえませんが
恐ろしいことに……これ、全部本当の話なんですよね……
話はずれてしまいましたが、実際アミさんのエステは女子高生や恋人のいる女性には人気があります。なぜなら、
必ず意中の異性と結ばれると言うジンクスがありますからね……
そう、彼女のエステに行くと美容効果があるどころか、必ず意中の男性と恋仲になる。もしくは必ず結婚するのです。なぜなら、
「まあ、私からすればお母様とお父様の理想郷の実現に近づくし、愛し合うカップルが増えるし、悪いことはないわね」
彼女がエステに来る女性を全員、魔物娘に変えているからです。それによって、積極的になった女性は意中の男性を自らのものにするのです。そして、それによってこの世界とラインでで繋がっている私達の世界にその魔力は送られて魔王様夫妻の、いえ、私達魔物娘達の理想の実現へと一歩ずつ近づくのです。さらには、夫を得た魔物娘達によって、噂は広まっていき、さらに客足は伸びると言うあらゆる面でプラスにしか働かないのです。しかし、このシステムには最大の欠点があります。それは
「だけど……問題は……忙しすぎて私が夫を見つける時間が無いのよね……」
彼女は愚痴をこぼすことでその答えを言いました
「アミさん……」
その欠点とは彼女自身の夫となる男性を見つける時間が削られることです。一応、彼女は木曜日と金曜日に定休日を設けていますが、それでも、他の魔物娘達が火急の要件で彼女にお客さんを紹介する時間があり、他にも彼女自身の『責任感』が災いして魔物娘の起こす問題を処理しようとすることなど暇な時間が取れないこともあり、夫を探す余裕がないのです。ちなみに私も独身です
「それじゃあ……ステラ、お互いに頑張りましょう?」
「はい、そうですね……アミさんも頑張ってください」
実は私もこの時期は忙しいのです。私はダークエンジェルなので世間の女性の方々に堕落神様による『堕落』による素晴らしさを教える役目があります、いわゆる、『恋のキューピッド』です。本来ならば、私もこの時期を狙って『夫』を探すべきなのですが、茉莉との約束で13年間夫を得ようとしなかったこととどうしても恋のことで困っている女性、もしくはカップルがいると放っておけず、相談に乗ったり、堕落させたりしてしまうのです。我ながらお人好しが過ぎると思います。私とアミさんは互いに励まし合いながら別れました
「さてと、では私は……」
私は水晶玉を覗き込み
「ふふふ……さてと、世話が焼けるカップルに最高のプレゼントを用意しませんとね……」
友人夫婦を見て、あることを企んで笑いました
「見て下さい!明さん、綺麗ですよ!!」
「うん、そうだねマリちゃん」
僕の隣で腕を組みながら明るい茶色のダッフルコートを着たマリちゃんが嬉しそうに街を飾るイルミネーションを見て、興奮しながら言ってきた。あれから、一週間が経って今日はクリスマスイヴだ
一応、姉さんや恵美(めぐみ)さんに協力してもらったけど……プレゼント、あれでよかったかな?
僕は姉と恵美さんに意見を聞いて、なんとかクリスマスプレゼントを用意したが、それでもやはり不安だった。マリちゃんはきっと、僕からのプレゼントだったらなんでも喜んでくれるとは思うけど、どうせならとびっきりの笑顔が見たい。だから、僕は12月に入ってから悩み続けていたんだ。僕らが一緒に街を歩いていると
「あれ?九条さんじゃないですか?」
「ん?」
僕の名前を呼ぶ声がしたので振り向くとそこには
「やっぱり、九条さんじゃないですか。こんばんわ」
「あれ?仙田(せんだ)君?」
「仙田さん?なんでこんな時間帯に?」
警官の制服をした知り合いの仙田 仁(せんだ ひとし)君がいた。彼と僕達は以前、トラブルに巻き込まれた時にお世話になり、そのお礼がてらに彼と彼の恋人である瀬川 静香(せがわ しずか)さんの相談に乗った仲だ。まあ、ほぼお節介だと思うけど。すると、仙田君はため息を漏らして
「はあ〜……実はですね……今日、非番だったんですけど、いきなり同僚が有給を取ったんですよ……」
「え……」
「うわ……」
愚痴をこぼした。僕とマリちゃんはそれだけで大体は理解できた。どうやら、彼は同僚がこの聖夜を恋人と楽しむために取った有給休暇による空白を埋めるために上司に呼び出しをくらったらしい
「仙田さん……静香さんはどうでした?」
マリちゃんは彼の恋人である瀬川さんの様子を尋ねた。どうやら、マリちゃんは同じ魔物娘である瀬川さんの様子が気になったようだ。魔物娘にとっては、現代日本で男女が公然といちゃつけるバレンタインデーとホワイトデー、そして、クリスマスとその前夜祭は魔物娘からすればかなりの重要イベントだろう。それを愛する人と楽しめないということはかなり辛いことだろう。すると、仙田君はそれを聞くとさらに落ち込んで
「静香は聞いた瞬間にかなり落ち込みましたよ……」
「やっぱり……」
そして、彼は寒空を仰ぎ見て
「青い炎……投げられたらどうしよう……」
彼はそう呟いた。別に仙田君は浮気などしていないと思うけど、他のカップルがいちゃいちゃしているのを見て、それによって寂しさと対抗心を感じた白蛇である瀬川さんが仙田君とクリスマスイヴを共に過ごせない鬱憤を晴らすために彼と激しく交わりたいがために青い炎を投げてこない保証はどこにもない
「と、とりあえず……瀬川さんによろしく……」
「はい……お二人も良いクリスマスを……」
僕達の前を去っていく仙田君の背中は寂しそうだった。そして、それは街を行き交い、クリスマスイヴを楽しむカップル達によってさらに引き立たれた。その時、僕は改めてこう思った
大切な人とクリスマスイヴとクリスマスを過ごせるのって……本当に何気ないことだけど大事なことなんだね……
「明さん……こうなったら、今日は楽しみましょ?」
マリちゃんも仙田君と瀬川さんの様子を知って、愛する人と過ごすクリスマスの大切さを感じたらしくそう言った
「うん、そうだね……」
僕はそれに頷くしかなかった
「明さん、この鶏肉美味しいですね!」
私はメインディッシュのローストチキンを食べ終えるとそう言いました
「うん、本当に美味しいね」
すると、彼もまた感想は同じらしくそう言いました。私達が食事をしているのは一般家庭でも三ヶ月に一度の贅沢なら手を出せる全国チェーン店のフレンチレストランです。明さんはお金持ちですけど、舌は決してセレブのような偏食家のものではなく、高級品よりも庶民的な味が好きな人です。まあ、だからこそ、お坊ちゃま学校の中では孤立してしまったらしいのですが
「さてと、デザートはなんでしょうね?」
「そうだね……季節が季節だから苺のムースとかじゃないかな?」
「そうですね、それはありえますね」
私はデザートを楽しみにしていることを包んで隠さずに明さんにデザートのことについて会話しました。すると、彼は軽く考えて私に自らの予想を告げてきました。実は今日のクリスマスディナーはお店がお客さんに事前にアレルギーや苦手なものを尋ねてからコースを決めてくれるクリスマスシーズン限定のサプライズディナーです。だから、お店の人が料理を持ってくるまで何が来るかはわかりません
「お客様、お皿をお下げしてもよろしいでしょうか?」
ウェイトレスさんがそう尋ねてきました。すると、明さんは
「お願いします」
と答えました。ウェイトレスさんは続けて
「では、デザートをお持ちしてよろしいでしょうか?」
と尋ねてきました
「はい、お願いします」
「かしこまりました。では、しばらくお待ちください」
ウェイトレスさんはそう言うと厨房に入っていきました
「楽しみですね、明さん♪」
私はウェイトレスさんが去ってから明さんにデザートを待ちきれないことをさらに隠さずに告げてしまいました。すると、明さんは
「あはは……良かった」
「え?」
微笑みながらそう言いました
「いや、だってさ……僕って基本的に受身な人間だから、マリちゃんのことを喜ばせることができたか不安だったんだ」
明さんは自嘲気味にいいながらも嬉しそうにそう言いました
「明さん……」
彼の言う通り、彼は子どもの頃から『天才』と呼ばれるほどにあらゆる分野において、才能を発揮していましたが、学校などでは与えられた課題を必要最低限しか力を出さず、本人の意思で動くことはありませんでした。また、彼の実家の財力と彼自身の才能を嫉む人も多くいたので、あまり他人と関わってこなかったこともあり、他人の感情に対して過敏になってしまう癖があり、相手が嬉しく思っているか不安になるところがあります。ですが、
「……明さん?あの時の『誓い』を覚えていますか?」
「え……」
私達はあの2人だけの婚礼の時に誓ったのです。どんな時でも2人で『時間』を分かち合うと
『・・・九条明さん・・・あなたは・・・健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、私を愛し、私を敬い、私を慰め、私を助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?』
『新郎となる私は、新婦となるあなたを妻とし、良いときも悪いときも、富めるときも貧しきときも、病めるときも健やかなるときも、死がふたりを分かつまで、愛し慈しみ貞節を守ることをここに誓います』
『進藤茉莉さん・・・あなたは・・・健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、私を愛し、私を敬い、私を慰め、私を助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?』
『新婦となる私は、新郎となるあなたを夫とし、良いときも悪いときも、富めるときも貧しきときも、病めるときも健やかなるときも、死がふたりを分かつまで、愛し慈しみ貞節を守ることをここに・・・誓います!!』
私の脳裏にあの時の情景が思い浮かびました。そして、私は
「私はクリスマスを明さんと祝える……それだけで幸せなんですよ?」
そう告げました。あの『誓い』は裏を返せば、
『どんな時でも、どんな状況でも、どんな場所でも私は明さんと一緒にいられる』
と言うだけで私は幸せと言うことです
「それに私……今まではクリスマスは教会の用事ばかりだったので、本当に嬉しいんです」
「マリちゃん……」
私は明さんと再会するまでの13年間は『万魔殿』に行った神父様達の代わって、表向きは元からの教会の祭事などを行っていました。けれど、今では私は還俗したので普段は恩がある教会を大切にしたいので、整備をするだけで祭事などは特別に他の教会から派遣される聖職者の方に頼んで行ってもらっています。ですから、私にとっては今日は16年ぶりに『家族』と過ごすクリスマスの夕食です。だから、本当にそれだけで私は嬉しいんです
「ありがとう、明さん……」
私は精一杯の気持ちを込めて彼に感謝しました。彼は
「うん、どういたしまして」
ニッコリと笑みを浮かべてこれ以上何も言いませんでした。しばらくの間、私達は見つめ合いました
「お客様、デザートをお持ちいたしました」
それはウェイトレスさんが来るまで続きました
「あ、すいません。お願いします」
明さんはウェイトレスに気がつくと、軽く会釈しました。ウェイトレスさんはそれを確認すると
「では、こちら―――」
―カチャ―
左手に乗せたお盆の上に乗せているデザートの乗ったお皿を手に取り、そして、
「苺のショートケーキにございます」
テーブルの上にケーキの生地を白い生クリームで包み、生地の間にカットしたカットした苺と生クリームをサンドした一番上に大きな赤い苺を乗せたシンプルなショートケーキを置きました
「へえ……ショートケーキか。珍しいですね」
「はい、せっかくのクリスマスなのですから、家族と過ごすクリスマスの雰囲気を楽しんでもらおうと思いましたので、ショートケーキにさせて頂きました」
「確かにクリスマスのケーキと言えばショートケーキと言うイメージがありますね。ね、マリちゃ―――ん?」
「………………」
明さんがウェイトレスさんと話をしている中、私はショートケーキを見てあることを思い出していました
『茉莉、ほらケーキよ』
『うわあ……!』
『今日はクリスマスだからね、茉莉のためにたくさん、美味しいものを用意したよ?』
『ふふふ……茉莉の嬉しそうな顔を見れて私達は幸せよ?』
『メリークリスマス、茉莉』
『ありがとう、お父さん!!お母さん!!』
「マリちゃん?」
「お客様?」
私を呼ぶ声がしたので、私は我に返りました
「あ、すいません……」
「では、お客様ごゆっくりと……」
「はい、何から何かとすいません」
ウェイトレスさんは私に何もないことを知るとその場を後にしました。私は苺のショートケーキを見て、両親とのクリスマスを思い出して少し物思いに耽ってしまいました。私の父は裕福な家庭から貧しい生活になっても、それに決して文句を言わずに一生懸命に働き、私と母のことを愛してくれました。クリスマスの夕食はそんな父の愛情の表れの一つだったと私は思います。そして、母もそんな父をよく理解して、父と同じくらい私のことを愛して私の幸福を願ってくれました。ウェイトレスさんが去ってから私がボーッとしていると
「大丈夫?」
明さんが心配そうに私の様子を尋ねてきました
「はい、大丈夫です……だから、安心してください」
私は明さんに心配をさせまいとそう言い、フォークを右手に取りショートケーキの一部を切り取り、口に運びました。そして、
「明さん……クリスマスのケーキて本当に美味しいですね」
私は口に広がる生クリームの甘さと苺の甘酸っぱさと生地に染み込んだ生クリームと苺、そして、生地本来の味を味わいながら感想を言いました
僕らは今、デートを終えて自宅への帰路に着いている。普通のカップルなら、食事を終えたら、その後はその辺をぶらぶらすると思うけど、僕とマリちゃんは基本的に2人でゆっくりと家で過ごす方が大好きなので、この後はイヴを過ごすつもりだ
「寒いですね」
「そうだね」
マリちゃんと僕は腕を組みながら、自宅まで道を歩いている。冬の寒さが僕らを包み、コートで覆われていない手や首に冷たさを感じるが、僕とマリちゃんが互いに腕を組んでいる部分から彼女の温もりを感じられるのだから、これぐらいは軽い対価だ。しばらく、彼女と腕を組んで彼女の温もりを感じながら歩いていると自宅まで辿りついた
「ただいま」
「おかえりなさい」
僕が『ただいま』と言うとマリちゃんが『おかえりなさい』と言ってくれた。このやり取りだけで外と比べると多少はまだ暖かいがそれでも冷え切った空気がy漂うこの家も少しは暖かくなっただろう。リビングに着くと僕は暖房を入れようとするが
―ガシッ―
「明さん、早く寝室に行きましょ♪」
―パタパタ―
―クネクネ―
「ま、マリちゃん……」
僕がリビングに暖房を入れようとした瞬間、マリちゃんは突然、僕の腕を掴み目を妖しく光らせて、人化の術を解いて『ダークプリースト』の服装と姿に戻って、尻尾を振り、腰の羽根を羽ばたかせながら僕を寝室へと誘おうとした。僕は一瞬、その誘惑に負けそうになるが
「マリちゃん、ちょっとその前に待っててくれないかな?」
あることをしたくて、僕は彼女に制止を呼びかけた
「え、どうしたんですか?」
彼女は僕のそんな対応にきょとんとした顔をした
「少しだけでいいから待ってて」
「あ、はい」
僕はリビングを出て、自分の書斎へとなるべく急いで向かった。書斎に着くと僕は書斎の机に置いてある横の長さが30p、縦の長さが15p程の長方形の形をした丁寧に包装され、赤いリボンをつけた箱を手に持った。そして、それを持って僕はリビングへと引き返した
「ごめん、マリちゃん。待たせちゃって」
「明さん、どうしたんですか?」
僕がリビングに戻ると彼女は不思議そうな表情をしていた
「ごめん、ごめん……じゃあ、はい、これ」
「え……?」
僕は彼女に先ほど書斎から持ってきた箱を差し出した、彼女はそれを見ると目を開いて驚いた。そして、僕は
「メリークリスマス、マリちゃん」
彼女にそう告げた。普通、クリスマスプレゼントはイヴの中に寝ている人の枕元に置くものだけど、僕らは魔物娘とインキュバスのカップルだから、夜は眠れないと思う。だから、今のうちに彼女にプレゼントを渡したかった。ちなみに海外じゃ、クリスマスは既にイヴの日の入りから始まっており、別に『メリークリスマス』と言う言葉を今、使っても間違いではない。僕がこのクリスマスプレゼントを差し出すと彼女は
「明さん……」
僕の顔を見つめながら、嬉しそうな表情をしてプレゼントにゆっくりと手を伸ばそうとした
「はい、2人ともストップです」
「「!?」」
しかし、彼女の手がプレゼントに届く前に彼女の手はある声によって、止まってしまった
こ、この声は……
と言うか、僕らはその声がした方に同時に振り向いた。そこには、
「ふふふ……」
「ステラ!?」
「ステラさん!?」
マリちゃんの友人にして、天敵にして、僕らの恩人でもある黒い烏のような生やし、頭上に紫色の怪しい光を放つ光輪を戴き、妖しく輝く赤い瞳を持ち、紫色の肌をした幼児体型にボンデージのような露出の激しい服装をした淫靡さを感じさせる天使のような姿をした女性、ダークエンジェルのステラさんがいた
「ステラさん、どうしてここにいるんですか?」
僕は彼女に尋ねた。今日はステラさんはマリちゃんの話によると、多くの人々に愛と快楽と堕落の素晴らしさを広げ、多くのカップルの成立を手伝っているらしく、彼女がそれから解放されるのは今日の10時以降らしい。しかし、今は9時半だ。まだ、30分も時間はあるのにどうして彼女がいるのかが僕にはわからなかった。すると、彼女は顔をにやけながら
「あ〜、それなんですけどね……実は2人に私からのクリスマスプレゼントを贈りたい思いまして」
そう言った
「え……!?」
僕はそれを聞いて、少し嫌な予感がした。なぜなら、彼女はアミさんと並ぶマリちゃんの天敵だ。彼女はマリちゃんをからかうのが生き甲斐と言えるほどマリちゃんをよくからかって楽しんでいる。恐らく、一週間前のビデオカメラの件も彼女だろう
「ステラ……さすがの私でもクリスマスを台無しにしたら……本気で……怒りますよ?」
マリちゃんが笑顔でステラさんにそう言った。しかし、その声には静かな怒りが込められており、目は笑っておらず、妙な迫力を僕は感じた。彼女からしてみれば、僕といる時にステラさんが現れると言うことは自分をからかいに来ると言うことで確定しているらしい
悲しいことに……否定できない……
僕はマリちゃんを落ち着かせようとしたが、彼女の迫力に圧されてしまい、情けないことに身を退いてしまった。ここだけの話、マリちゃんはかなり魔法の腕が優れているらしく、拘束呪文や相手の罪の重さによって温度が変わる炎の魔法『煉獄の炎』などと言った炎系の魔法を得意としている。ちなみに『煉獄の炎』は相手を絶対に殺しはしないが相手が罪を本当の意味で悔やまない限りはその罪による重さに比例する激痛と熱を感じさせ続けるらしく、相手は自らの本当の過ちに気づかない限りは死ぬことも許されず絶対に解放されないある意味死よりも恐ろしい呪文らしい。例えるなら、本で読んで知ったことだけど『カエンタケ』と言う毒キノコの死亡率を0にして、相手の体内時間を停止させて症状を倍以上にしたようなものだろう。しかも、際限なく。流石にとんでもなく非人道的な魔法なので使用するには『堕落神』の許可が必要らしいけど
そもそも、魔物娘がそんな魔法使うなんてありえないと思うし、そもそも堕落神がそんな魔法使う許可を出すとは思わないけど……
対するステラさんもかなりの魔法のスペシャリストだ。彼女は回復魔法とよく使用する転送呪文に加えて、純粋な魔力を収束してそれを発射して、相手をしびれさせる光線呪文を得意としている。しかも、彼女は他の呪文との組み合わせが得意らしく、その中でも彼女の転送呪文は脅威だ。彼女は先述の光線呪文を転送呪文の魔法陣に発射して、あらゆる角度から相手に浴びせることが可能らしい。また、対象は一つだけではなく複数の対象に一斉に浴びせることができるらしい。ちなみに光線呪文のほうだけど、実は彼女は、不殺のために本来は熱を帯びる光線呪文からわざわざ熱を持たないように改良したらしい。つまりは彼女の意思次第で彼女は一瞬にして、大量の対象を抹殺する光線呪文を放つこともできるらしい
まあ、こっちも永遠にそんな使い方がされることはないと思うけど……
だが、一つだけ疑問がある。それは
『ただのダークエンジェルの彼女がそんな強大な力を持っているのか』
と言うことだ。マリちゃんの場合はステラさんが堕落させたこととステラさんが魔法の師匠と言う点で理解できるけど。僕は一度、その理由を聞こうとしたが、彼女はすぐに黙ってしまう。よほど、触れられたくない過去らしい。そんな彼女達を見て、僕はこう思った
2人が……魔物娘でよかった……
もしも、彼女達が僕が聞いた、もしくは調べた旧世代の魔物だったら、彼女達は周囲への被害を顧みず両者とも本気の殺し合いをしている可能性がありえる
ありがとうございます……アミさんの御両親方……
僕はアミさんの御両親である魔王様夫妻に感謝した。しかし、それでも家の中が散らかるのは変わりないけど。ちなみに後始末は一応、2人ともやってくれるけど心臓に悪いからやめてほしい
「あらあら、怖いですね〜、私はただクリスマスプレゼントを持ってきただけですよ?」
ステラさんはマリちゃんの威圧に圧されることなく、普段通りの態度をしていた。そう言う点では僕は彼女がすごいと思う
「本当ですか……?」
マリちゃんは未だにステラさんを怪しんでいる。まあ、それも当然だと思う。その原因はステラさんの日頃の行いのせいだろう
「もう、本当ですよ……ほら♪」
―ヒュ―
「えっ!?」
―パっ―
彼女は突然、マリちゃんに向かって何かを投げつけてきた。マリちゃんはそれを慌ててそれを手でキャッチした。僕らはそれが何かを確認した。それは
「あれ?それっていつも、ステラさんが通信とかに使ってる水晶玉じゃないですか?」
彼女が通信や遠くのものを見るために使っている水晶玉だった。ちなみに彼女は僕とマリちゃんの夫婦の営みをこれで覗いてるらしい。昼も夜も
「ステラ……?」
マリちゃんはステラさんのこのプレゼントを不思議に思っているらしく、先ほどまで持っていた警戒心を捨ててステラさんのことを不思議そうに見つめた。すると、ステラさんは
―ピカーン―
「それじゃ、2人とも―――」
「ちょっと、ステラ!?」
「え、え……え!?」
「よいクリスマスを♪」
魔法陣を展開して、そこに飛び込んで行った
一体……何がしたかったんだろう……?
「………………」
「………………」
彼女が去ってから、僕らはしばらく黙っていた
「あの……明さん……」
「あ、ごめん……はい、マリちゃん……これ」
僕はステラさんの突然の乱入によって、すっかりと渡しそびれたプレゼントを彼女に差し出した。そして、マリちゃんはそれを受け取るために先ほどステラさんに投げつけられた水晶玉をテーブルに置いた。しかし、、彼女が僕のプレゼントを受け取ろうとした瞬間
―ピカーン!!―
「え!?」
「うわ!?」
突然、ステラさんが残していった水晶玉が光り出した。そして、
『はあ……一週間後どうしよう?』
「!?」
次に僕の声が聞こえてきた。僕とマリちゃんは気になって水晶玉を覗くとそこには書斎の椅子に座って、何か悩んでいる僕の姿が映っていた
『マリちゃんへのプレゼント……どうしよう……』
これって……
『どうすればいいんだ……僕は……』
『ぶっちゃけると、マリちゃんは僕からのプレゼントだったら、なんでも喜んでくれると思うけど』
『だけど、だからこそ困るんだよね……』
『さすがに魔物娘だからと言って、一日中セックスし続けると言うのは……ちょっと……』
『はあ……どうしよう……』
水晶玉に映し出されたのはマリちゃんへのプレゼントを考えていた僕の姿だった。どうやら、これは過去の映像らしい。そして、
『珍しいわね、明君が相談に来るなんて』
『すいません……恵美さん』
『明君が来ると言ったら、桜(さくら)も楓(かえで)も喜んだと思うのに……本当にもったいないわね』
『あはは……すいません……』
突然、水晶玉に映る情景が変わるとそこには6日前にある意味、僕が実の姉以上に頭が上がらない女性である東(あずま)恵美さんに相談しに行った時の情景だった
『で、相談事て何かしら?』
彼女は僕の要件を尋ねてきた。僕はそれに対して
『実はですね……その……マリちゃんへのクリスマスプレゼントについてなんですけど……実はまだ、決まってなくて……』
相談したいことを彼女に向かって告げた。すると、彼女は
『え……まだ決めてなかったの?』
意外そうな顔をしてきた。僕は自分の優柔不断さに対して、恥ずかしくなってかしこまりながら
『あ、はい……』
僕がそう言うと恵美さんはどうやら、僕の相談の趣旨を察してくれたようだ
『なるほどね。つまり、茉莉さんと同じ既婚女性である私の意見を参考にしたいのね?』
『そうなんです』
僕がそう答えると彼女は困った顔をしながら
『う〜ん、私の場合はプレゼントを桜と楓が生まれてからは総一郎さんにもらってないから、最近の娘が何をもらったら嬉しいかわからないわ……』
恵美さんは自分の家庭のクリスマスのことを教えてくれた。桜ちゃんと楓ちゃんは恵美さんと恵美さんの夫である総一郎(そういちろう)さんとの間に生まれた、9歳と7歳の可愛らしい女の子達のことだ。2人は非常に可愛らしく、僕が散歩をしているとよく、同じように散歩をしている恵美さんと桜ちゃんと楓ちゃんに出会うのだが、僕の顔を見るとあの子達は
『明お兄さん!!』
と元気な声で僕の名前を呼んで笑顔で僕の元へと走って駆けてくる。その時にふと可愛いらしく思い頭を撫でると2人ともさらに喜んでくれるのも可愛らしいところだ。どうやら恵美さんは可愛らしい愛娘2人を授かってからは夫である総一郎さんからはクリスマスプレゼントをもらっていないらしい
『そうですか……』
僕は一番頼りになりそうな女性のアドバイスを得られなかったことに少し、失礼だが落胆してしまったがどうやらそれは早計だった。なぜなら
『だけど、明君……私は総一郎さんと桜と楓がいてくれるだけでそれだけで幸せよ?……それだけが私にとっての大切なクリスマスプレゼントよ?』
彼女はそれを迷いなく言い切った
『………………』
僕はそのことに感銘を覚えた。この人は魔物娘ではないのに、本当にそれだけを欲する本当に素晴らしい人だと僕は思った。いや、昔からそう思っている。そして、彼女の夫である総一郎さんも彼女にふさわしい男性だ。ある意味ではこの夫婦は魔物娘よりも素晴らしい存在なのかもしれない。魔物娘とその夫であるインキュバスは本能で互いをただ純粋に愛し合い、争いを望まないある意味ではあらゆる宗教や道徳、倫理が求める人間としては究極の理想像とも言える存在だと思える
さすがに風俗が乱れたりするのは道徳的には間違いかもしれないけど……まあ、お互いを求め合うのも愛の本質な気が……
しかし、東夫妻は数多くの選択肢の中で自らの『理性』で魔物娘が『本能』で選ぶ幸福を自らの意思と力だけで選んだのだ。彼らは『自由』と言うある意味では最も人間を堕落させ、最も人間を成長させる状況の中で最も素晴らしいものを選んだのだ。まさしく、この夫婦の姿こそが全ての人々が目指すべきものだと思う
『ごめんね、明君……参考にならなくて』
恵美さんは申し訳なさそうに言ったが
『いえ、そんなことはありません……ありがとうございます』
本心から僕はそう言った。彼女は確かにプレゼントのアドバイスはしてくれなかったが、それでも彼女は僕にクリスマスの素晴らしさを教えてくれた。そして、改めて僕にとってはマリちゃんがどれだけ大切な存在なのかも教えてくれた。僕が恵美さんに感謝すると、再び情景が変わり、次に映ったのは
『へえ、まだクリスマスプレゼント決めてなかったの?』
『そうなんだよ、姉さん』
この家のリビングで相談している僕と僕の姉である真田 司(さなだ つかさ)だった。ちなみに姉さんの苗字が『九条』じゃないのは姉さんが今年入籍したからだ。ちなみに2人の子供が同時期に結婚した僕達、姉弟を男手一つで育ててきた父である九条 暁(あかつき)は僕が知っている中では初めて涙を僕らの目の前で流した
『私は基本的に信作(しんさく)さんのプレゼントならなんでもいいけど?マリちゃんは?』
姉さんもどうやら、マリちゃんと同じで愛する夫からのプレゼントならなんでもいいらしい。ちなみに姉さんの夫であり、僕の義理の兄である信作さんと姉の結婚はある意味すごい逸話がある。姉さんはかなりの男勝りであり、身内の人間に対しては非常に優しいが身内を傷つける者がいたら、確実に情け容赦なく報復する過激さも持っている。姉さんは弟の僕から見てもかなりの美人で、頭もよく、スポーツ万能、正しく『才色兼備』を絵に描いた様な女性だ
だけど……
しかし、先述の気性の激しさと姉さんの恐ろしい逸話も加わり、男が寄り付かず、姉さん本人も恋愛に興味がないことから、正しく『難攻不落の女』でもある。心配した父と叔父がお見合いの話を持ってくるがその度に『九条家』の力の恐ろしさで相手を脅し、相手の虚栄心を刺激して、相手に恥をかかせることをしてきたほどだ。本人曰く、
『くだらない男と結婚するなら、一生、明のことを可愛がる方が私の人生は最高だわ』
とのことらしい。ちなみに姉さんは弟の僕から見てもかなりのブラコンだ。もしも、姉さんがリリムであるアミさんの手で魔物娘になったら、気性からしてドラゴンかアマゾネスになるだろう。アミさん曰く、
『彼女……相当、強い魔物娘になるわ……』
とのことだ。そんな、魔王の娘の太鼓判のついた姉さんの心を陥落させたのが真田信作さんだ。話によると、彼は叔父の取引先の社員らしく、叔父が彼に見所があると見て叔父がわざわざ頭を下げてまで、彼にお見合いのことを頼んだらしい。そして、運命のお見合いの日、姉さんはいつも通り、1時間もお見合いの席に遅刻してきた。その際、大体の人間は『九条家』の力を恐れて何も言わないが、信作さんは
『遅刻する女性など話になりません』
と叔父と姉さんの目の前で言い放ち、すぐにお見合いの席から離れようとしたが、その態度が姉さんの心に響いたらしく、さらに話してみるとかなり温厚な人柄でありながらも言うべきことは言う質実剛健な人物だ。なぜなら、姉さんの心を掴み、姉さんが直々に自分で交際を申し込んだほどである。そして、僕は思った。我が姉ながら本当に勇ましい人と
『たぶん、マリちゃんも姉さんと同じだと思うよ?』
僕は先ほどの問いに対して、率直な考えを伝えた。すると、
『ふ〜ん?じゃあ、大丈夫じゃないの?』
姉さんは気楽に言うが
『いや、だからこそ……その……』
『ん?』
僕は口を少し濁らせながら、姉さんになぜ僕がクリスマスプレゼントのことでこんなに悩んでいるのかを伝えようとした
『マ、マリちゃんの……その中でもとびっきりの笑顔を見たいから……その……』
『………………』
僕が少し、恥ずかしく言うと姉さんはしばらく黙った。そして、
『……ぷっ』
『……?』
『あはははははははははははははははははははははははははははははははははは』
『ね、姉さん……?』
突然、姉さんは大きな声で笑い出した。僕は訳が分からず困惑してしまった。すると、
『ごめん、ごめん……いや〜、まさか、明がそう言うことを言うようになるなんて、ちょっと想像できなかったから……つい』
『うっ……それは……』
姉さんの言う通り、少し前までの僕ならこんなことを言うことはなかっただろう。マリちゃんと結ばれる前までの僕なら、恐らくはクリスマスの贈り物はただの義務程度にしか思わなかっただろう。それを一番に理解しているのは僕が3歳の頃に母を亡くしてから、母代りとして僕を見てきた姉さんぐらいだろう。姉さんが笑ったのは恐らく、僕の心情の変化を嬉しく思っているからだろう
『う〜ん、なら明がこれから、どんな風にマリちゃんと過ごしていきたいのかをマリちゃんに伝えられるものをプレゼントにしたらどうかしら?』
『……!』
姉さんが教えてくれたプレゼントに僕はあることを思いつき
『ありがとう!!姉さん』
すぐに感謝した。すると、
『ふふふ……どういたしまして』
―プツン―
久しぶりに見ることのできた姉さんの穏やかな笑顔で水晶玉の映像は終わった。映像が終わってから、しばらくして僕は意を決して
「あの……マリちゃん?」
「はい」
プレゼントを渡すべく彼女に向き合った。そして、
「これ……その……」
僕は緊張してしまい、少し言葉がつまりながらも彼女にクリスマスプレゼントを渡そうと勇気を振り絞って
「メリークリスマス!!マリちゃん!!」
僕は大きな声で彼女に色々と遅れてしまったが悩みに悩んで選んだクリスマスプレゼントを彼女の前に差し出した。すると、
―ポタ―
「マリちゃん……?」
突然、マリちゃんの頬に涙が伝った
「え……あ、ごめんなさい……私、その……」
彼女自身も自分が涙を流していることに驚き、慌てて涙を止めようと目をこするがそれでも、涙は止まらなかった。そして、
「私……その……本当に……嬉しくて……」
「え……?」
彼女は僕のことを真っ直ぐと見つめながらそう言った。その目は涙に溢れていたが同時に喜びに満ちていた
「私……両親がいなくなってからは……クリスマスがちょっと寂しかったんです……」
「マリちゃん……」
彼女は涙を流しながらそう言った。僕はそれに対して何も言えなかった。僕は幼い頃に彼女が孤児だと知ったが、よく考えれば僕も物心つく前に母を亡くしたが、父さんや姉さんがいた僕と比べれば彼女は本当に辛かったのはよくわかることだ。何よりも彼女は両親のことが大好きだったのにその両親との離別を理解したくないのに理解しなくてはならかったのだ。彼女にはステラさんがいたがそれでも、クリスマスイヴとクリスマスの夜はステラさんも忙しく、そして、マリちゃんも堕落神の教えと彼女の教会が所属している教会の用事で忙しかったのだ。だからこそ、クリスマスを寂しく感じるのも無理はない
「それに……私……プレゼントをもらうのも初めてなんです……」
「………………」
彼女の両親が存命の時でも貧しかったこともあり、プレゼントをもらうことはなかったことがないのは彼女の話と経歴を考えると容易に考えられる。また、孤児院の頃にも確かにクリスマスのイベントがあったであろうが、その時に慈善団体や彼女が預けられていた教会に寄贈されたクリスマスプレゼントがあったとは思うが、それは彼女に宛てられたプレゼントではない。また、彼女の話を聞くと彼女の父方の叔父は彼女のことを気にかけてはいてくれたようであったが彼女の父方の実家の圧力があり、プレゼントを贈れなかったらしい。そう考えると、今、僕が渡そうとしているクリスマスプレゼントこそが彼女にとって、初めてのクリスマスプレゼントになるのかもしれない
いや……それは違うか……
「マリちゃん?それは違うと思うよ?」
「え……?」
僕のその一言に彼女は目を開いて、戸惑った。それでも、僕は言いたいことがあった。それは
「マリちゃんは……マリちゃんのお父さんやお母さんに毎年、プレゼントをもらっていたはずだよ?」
「あ……」
ただそれだけだった。だけど、僕は恵美さんのアドバイスを聞いて、その些細なことだけどとてもかけがえのない大切なことに気づくことができた
大好きな人と過ごすこと自体が大切なクリスマスプレゼントなんだよね……
僕がありふれた言葉だけど、それでもすごく大切な言葉によって感傷に浸っているとマリちゃんが
「そうでしたね……お父さんも……お母さんも……私にたくさん、大切なものをくれたんですよね……」
泣きながらそう言ってきた。僕はただそれに黙って頷くことしかできなかった。そして、すっかりと遅くなってしまったが僕は
「マリちゃんのお父さんとお母さんには勝てないけど、はい。メリークリスマス!!マリちゃん」
僕は改めて彼女にクリスマスプレゼントを差し出した。すると、マリちゃんは
「ありがとうございます……そして、メリークリスマス!!明さん」
―ギュ―
涙を流して、満面の笑みを浮かべてクリスマスプレゼントを受け取り、そして、その後に僕に抱きついてきた。そして、僕も彼女のことを抱きしめた
マリちゃんのお父さん、お母さん……あなた達の大切な娘さんは必ず、僕が幸せにします……
「あ〜あ……すっかりと遅くなっちまったよ……」
俺、仙田仁は同僚がいちゃつくために休暇を入れたおかげで、その尻拭いのためにクリスマスイヴを恋人がいるのに、わざわざ非番なのに仕事が入ってしまい、帰るのがすっかりと遅くなってしまい、独り寂しくアパートまでの帰路に着いている
「九条さん達、いいな〜……はあ〜……」
パトロール中に偶然、出会ったデート中の知り合いの夫婦を思い出して俺はため息をついてしまった
「俺も……有給を使えばよかったかな……?」
実際、有給をあまり使ってない俺は休暇を取ろうと思えば取れたのだが、尊敬する上司のあまりにも頑張る姿を見て断れなかったのだ
「はあ〜……静香、怒ってるかな?」
俺は恋人である女性のことが気になってしまった。俺はまだ、大丈夫だが魔物娘である静香からすれば、ある意味では恋人同士が公然といちゃつくことが常識になりつつあるクリスマスイヴを恋人と過ごせないのはかなり辛いだろう
「もしかすると、青い炎を投げられるかもな……あはは……」
俺は苦笑いしながらいつの間にか着いていたアパートの自室のドアを開けた。すると、
「おかえり」
「……!?」
ドアを開けると玄関には白い長い髪を生やした赤い瞳を持った下半身が白い蛇のある種の神聖さをかもし出す姿をした俺の恋人である女性、瀬川静香がいた
「し、静香!?どうしてここにいるんだ!?」
俺は恋人の予想外の待ち伏せに戸惑い、驚いてしまった
「ふふふ♪仁のことを驚かせようとずっと待ってたんだよ?」
静香は無邪気な明るい笑顔でそう言った。どうやら、彼女は俺が仕事を終えるまでずっと、俺の部屋で待っていたようだ。俺は男としてそれに対して嬉しく思うが同時に一つの懸念が生まれた
「そっちのご両親は何か言ってないのか?」
静香は両親と実家で暮らしている。さすがに娘が1人で男の家に泊まるのはマズイと俺は思うし、何よりも彼女の両親が心配してないか不安だった。すると、
「うんうん、ただお父さんもお母さんも『楽しんできなさい』て言ってたよ」
「そうか……」
俺はその一言で、俺は安心すると共にあることを誓った
静香のことを大切にしないとな……
「じゃあ、仁?お腹減っていると思うから、ご飯用意したよ?今夜は鍋にケーキだよ?だから、楽しみにしていてね♪」
「あぁ、楽しみにしているよ」
俺は最高のクリスマスプレゼントを静香からもらったと思う
俺はもう一度、お前の笑顔見れて……本当に幸せだよ
「う〜ん……」
私はクリスマスの朝に夫婦の寝室のベッドで目を覚ました。昨日の夜は明さんとのクリスマスイヴを楽しめたこと、クリスマスの素晴らしさと尊さを身に感じて、いつもよりお互いを求め合う気持ちが高まり、普段以上に激しかったと思います
「………………」
私は昨晩、明さんにもらったクリスマスプレゼントに手を伸ばして、それを膝の上に置くとプレゼントの箱を包んでいるラッピングを丁寧にはがしながら、胸を高まらせながらプレゼントの箱を開けました。そして、箱の中身を確認しました
「これは……」
プレゼントの中身は二対のティーカップでした。そして、私はすぐにその意味を理解しました
「すー……すー……」
「明さん……」
明さんはこのティーカップを一種の夫婦茶碗のように見立てたのでしょう。私達は毎朝、明さんが淹れた紅茶を一緒に飲んでいます。明さんがこのティーカップに込めた願いとはそんな毎日をこれからも2人で歩んでいきたいと言うものなのでしょう。だからこそ、彼はこのプレゼントを選んだのでしょう
「ありがとうございます……」
―チュ―
私はそっと、寝ている彼の頬にキスをしました。実は私はこのプレゼントの中身を知った時と彼からプレゼントをもらった瞬間と同じくらい昨日、ステラに渡された水晶で見せてもらった明さんの様子を見ただけで私は嬉しかったのです
プレゼントを選ぶ時間も大切なプレゼントなんですよね……
「まったく……ステラには今回も感謝しませんとね……」
私はいつもは私を困らせる親友に対して、再びいつもとは違う困った想いを抱きました。そして、最後に
「お父さん……お母さん……茉莉は幸せだよ?」
私のことを見守っていてくれるであろう大切な両親に自分が幸せなことを伝えたくなり、そう呟きました
僕、九条 明(くじょう あきら)は今、非常に困っている。その理由は一週間後の翌日のとあるイベントの前夜祭にある。さらに詳しく述べると、僕が悩んでいるのはその前夜祭における大切なものについてだ
「マリちゃんへのプレゼント……どうしよう……」
それは僕の妻である九条 茉莉(くじょう まり)に対する贈り物についてだ。そう、その日は恐らく、宗教に関して普段無関心な日本人が自分達に関係ないのになぜか祝うとある『聖人』の生誕祭の前夜であるクリスマスイヴだ
まあ、そこが日本人の良い所かもしれないけど……
僕はなぜか、そのイベントを日本人が祝うのか?と悩んでしまったが、そこは
『日本人だから、仕方ない』
と無理矢理結論付けた。と言うか、今はそれどころではない
「どうすればいいんだ……僕は……」
実は僕はクリスマスもしくは、クリスマスイヴを心の底から楽しんだことがない。なんと、夢がない人間かと自分でも思うがあの頃の僕は親族以外の人間とはあまり親しくなく、逆に親族に心配をかけてしまい、むしろ、親族はそんな僕のことを可愛がり過ぎたので僕はその度に申し訳なさを感じてしまい、心の底からクリスマスを楽しめる余裕がなかったのだ。ちなみに僕が小学生時代にサンタに願ったことは
『クリスマス・キャロルに出てくる三人の精霊と出会うこと』
であった。だから、他人が何を贈ってもらうと嬉しいかがわからない
「ぶっちゃけると、マリちゃんは僕からのプレゼントだったら、なんでも喜んでくれると思うけど」
これは決して、惚気ではないがマリちゃんは実際僕のことが大好きだから恐らく僕がプレゼントを贈っただけで喜んでくれるのは間違いないだろう。あと、もちろん僕もマリちゃんのことが大好きだ
「だけど、だからこそ困るんだよね……」
そう、たとえどんなものを贈っても喜んでくれるのは嬉しいけど、どうせなら、彼女のさらに喜ぶ顔を見たいのだ。まあ、つまりは『欲が出た』と言うことだ
「さすがに魔物娘だからと言って、一日中セックスし続けると言うのは……ちょっと……」
魔物娘からしてみれば、それはかなりの『幸福』だと思うけど、僕はそれは流石に止めた。それはいつでもできることだし、せっかくの一年に一度の特別な日なんだから、どうせなら『性夜』ではなく、『聖夜』として彼女と過ごしたい
「はあ……どうしよう……」
「〜♪」
「えらくご機嫌ですね。茉莉?」
「はい♪」
教会の掃除を鼻歌を交えながらしていた私に友人であるダークエンジェルのステラは声をかけてきました。そして、私は自分がかなりご機嫌であることを強調するかのように明るく返事をしました
「だって、一週間後はクリスマスイヴですよ?これを喜ばないでどうするんですか?」
「いや、普通はその翌日のクリスマスを喜ぶべきでしょう……あなた、一応は修道女ですよね?どうなんですか、そういうところ?」
確かに私は表向きは修道女でありながら、クリスマスよりもイヴの方を楽しみに思っています。えらく俗まみれな考えだと思いますが仕方ありません。なぜなら
「だって、一週間後は初めて明さんと過ごすクリスマスなんですよ〜?これを喜ばないでどうするんですか?」
そう、今年のクリスマスとイヴは私の夫である九条明さんと初めて過ごす特別なものです。私はそれだけで非常に喜びを感じ、頭の中は興奮で一杯です
「それに……久しぶりに家族と過ごすクリスマスですし……」
「茉莉……」
私は両親を幼い頃に亡くしてからこの教会の孤児院で毎年、クリスマスを他の孤児達と共に過ごしていました。私の父の実家はかなりの旧家でした。しかし、父は当時、使用人一家の娘であり、幼馴染でもあった私の母を愛し、母もまた身分があるとは言え父を愛しました。そして、両家の強い反対を受けこのままでは結ばれないことを考えて、駆け落ちして結ばれました。そして、2人の間に生まれたのが私でした。2人は貧しい暮らしの中でも私のことを深い愛情を注いで育ててくれました。私もそんな両親が大好きでした。クリスマスの時はプレゼントはありませんでしたが、クリスマスだからと言って、普段家事をこなしていた母もパートに出てケーキやフライドチキンなど普段の食事では御馳走とも言えるものを私に食べさせてくれました。私はそれだけで幸せでした
お父さん……お母さん……
しかし、家族三人のクリスマスは私が9歳の時まででした。私の両親は私が10歳の秋に飲酒運転の自動車にはねられて、帰らぬ人になりました。私はその時、両親の死が理解できませんでした。そして、しばらくした後に父方の祖父と祖母に生まれて初めて出会いましたが、その時に彼らは私に対して肉親としての愛情を一欠けらも見せず、私を引き取るどころか私の両親への罵倒を私にぶつけ、そのまま、私を追い出すかのように孤児院に預けました。しかし、幸いにも孤児院の手配は父方の伯父であり、父の弟である人が配慮してくれて神父様は非常に優しい方でした
信二伯父さんには感謝してもしたりませんね
私のことを預けた叔父である進藤 信二(しんどう しんじ)さんは三人兄弟の次男で私の親族で唯一、私のことを気にかけてくれました。あの時、信二伯父さん以外の親族は私が長男の嫡出子であることから、祖父母が亡くなった時の遺産配分の一部が私に行くことを恐れて、私のことを引き取ろうとしませんでした。この場合、信二伯父さんが私を引き取ればいいと思いますが当時、信二伯父さんは結婚したばかりで私のことを引き取る余裕がなかったのです。そして、何よりも
もしかすると、信二伯父さんは私のことを遺産争いから守るために孤児院を探してくれたのかもしれませんね……
仮にも私は祖父母に嫌われているとは言え、長男の嫡出子でした。もしかすると、親族の中には私の相続権を狙って引き取ろうとした者もいたかもしれません。信二伯父さんはそれを防ぐために私に相続権を放棄させてから、信頼できる孤児院に預けたのでしょう
「あの……茉莉?」
「はい、何でしょう?」
私が昔のことに思い耽っているとステラが何かを言いたそうでした。私はそれを聞いて、我に返って彼女の言葉を聞こうとしました。すると、彼女は
「茉莉にとって……私は『家族』じゃないんですか?」
「え……?」
寂しそうにそう聞いてきました。私はその言葉を聞いて自分の失言に気がつきました。彼女はこの時期になると堕落神様の教えを広げるために忙しいですが、仕事を終えると私にとっては共にクリスマスを過ごす仲でもあります
「ふ〜ん……いいんですよ〜、どうせ私なんて……」
「あの……その……ステラ?」
ステラはいじけたように卑屈になってしまい、私は彼女にかける言葉に困ってしまいながらもなんとか弁解しようと声をかけました
「なんですか……?」
彼女はむくれながら、私の方を向いてきました。私はそれに引け目を感じながらも弁解を始めようと口を開きました
「いえ……その……さっきのは言葉のあやと言うものでして……その……」
「ふ〜ん……」
私が弁解をし始めると、彼女は明らかに不機嫌そうな声を出してきました。しかし、それでも私は彼女にあることを伝えたかったので情けなくも自己弁護を続けました
「ステラは私にとっては家族と同じくらい大事な友達ですよ?」
「………………」
私にとってはステラは家族と同じぐらい大切な友人です。私が明さんと13年間会うことができなかった間、彼女はずっと私の傍にいてくれました。本当は彼女も辛い過去もあるのにそれでも彼女は私のことをずっと支えてくれました。本当に感謝してもしきれません
「ですから―――」
私は弁解を続けようとしましたが
「ぷっ……」
「……え?」
それは彼女が吹き出して、続きませんでした。そして、
「あはははははははははははははははははははははははは!!」
「す、ステラ?」
彼女は突然、大きな声で笑い出しました。私は訳がわからず呆気に取られてしまいした。しかし、その理由はすぐに理解できました。なぜなら
「いや〜、本当に茉莉はからかうと面白いですね〜♪」
「……!?」
彼女自身がニヤニヤしながら、答えを明かしたからです。私はそれによって自分が彼女にはめられたことに気づきました
「ステラあああああああああああああああああああああああ!!」
「あらあら、怒った顔も可愛いですね♪茉莉?」
私は羞恥に駆られて、少し涙目に怒りました。しかし、ステラはそれを見てさらに面白がったようでした
「今日と言う今日は許しませんよ!!私のことをからかうのもいい加減にしなさい!!」
そう、彼女は13年間ずっと傍にいてくれましたが、同時に私のからかうことを趣味にしているらしく、私の羞恥心を煽ぐようなことを多くしてきました。例えば、私が思春期になると風呂に入って私の胸を揉んできたり、私の恥ずかしい写真を撮ってそれをアルバムにまとめてそれを明さんに見せたり、私と明さんの夫婦生活と夫婦の営みをデバガメしたりと数多くの所業を私にしでかしてきました
「あら、怖い♪じゃあ、私はこれで♪」
ステラは私の怒りを笑いながらいなして余裕を持って逃走しようとしました
「逃がしませんよ!!」
私は彼女を逃がすまいと拘束魔法を使用しようとしますが
「ふ〜ん……ちょっと、このままでは逃げるのは難しいですね……あ、そうだ!!茉莉に質問です。これはなんでしょう?」
「え?」
ステラは私が拘束魔法を行使しようとした瞬間、突然何かを取り出しました
ビデオカメラ……?
それはビデオカメラでした。そして、ステラはそれを操作して
『はあはあ……明さん……』
『あぁん!!』
『あぁん、明さん……もう、今日も寝かせませんよ〜』
「なあ!!?」
ビデオカメラにとある映像が流れ出しました。それはリリムであるアミさんのエステに行った時に明さんの声を聞きながら自慰をしている私の姿でした。私はそれを見た瞬間羞恥心で口が固まってしまい、同時に拘束魔法を行使できなくなりました
「ど、ど、ど、どうして、あなたがそれを!?」
私はあまりのことに動揺してしまい、口を動かすことも困難になりましたが彼女がどうして私の『痴態』を映像に収めたのかが理解できず、気になってしまい彼女に尋ねました。すると、彼女はにやけ顔をさらに深くして言いました
「実はですね〜、アミさんに茉莉をからかうネタが欲しいと言ったら……彼女、『良いわよ♪』と即答で隠しカメラを用意してくれたんですよ〜♪」
「なあ!?」
ステラは衝撃の事実を告げました。なんとアミさんは彼女と手を組んで私のことをからかう準備をしていたらしいです。ちなみにアミさんもステラと同じ様に私のことをからかうことを趣味にしている非常に困った方です。あの人はカリスマがほとばしる崇高さと女神のような神々しさを持っていますが、日常では人をからかう悪い癖を持っている人でもあります。ちなみにその悪癖の主な犠牲者は私を含めて3人で残りの2人は彼女の幼馴染のヴァンパイアとリザードマンです。あと、ステラさんとアミさんは『独身』です
―パッ―
突然、彼女の足元に魔法陣が現れました。そして、彼女は非常ににこやかな笑顔で
「ちなみに今、ここにある魔法陣は明さんの家へと直結している転送用の魔法陣です♪」
「えっ!?」
彼女はそう言いました。私はその時、今の状況を確認しました。まず、私のことをからかう性根の悪いダークエンジェル。次に彼女の手には私の痴態が記録されているビデオカメラ。そして、最後に私の夫がいるであろう家に直結している転送用魔法陣
「ま、まさか……」
私は嫌な予感しかしませんでした。彼女は無邪気な笑顔をして
「そ〜れ♪」
ビデオカメラから手を離しました。ビデオカメラは支えが無くなったことで重力に引き寄せられる形で魔法陣へと落下していきました。私はそれを見て
「だ、だめええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
全速力でビデオカメラに向かって走り出しました。さすがの魔物娘、それも堕落神様にお仕えする淫欲の信仰者とも言えるダークプリーストの私でもさすがにあの痴態だけは夫に見せられませんでした
でも……明さんに見られるなら……いえいえ!!さすがにこれは無理です!!
私は一瞬、魔物娘の本能に負けて明さんが自分の痴態に興奮してくれることを妄想してしまい、それもいいかな?と思いましたが流石にこれは無理でした。そして、私は
―ガシ―
「はあはあ……」
ビデオカメラをなんとか受け止めました。しかし、
―ピカーン―
「え?」
突然、魔法陣が輝き出しました。そして、ステラは
「じゃあ、茉莉……明さんによろしく言っておいてくださいね♪」
ニッコリと笑っていました。私は
「は、謀りましたね!?ステラああああああああああああああああああああ!?」
彼女の計算通りになったことを悟り、彼女の転送魔法で明さんの家に送られていきました
「はあ〜、どうしよう……」
僕は未だに答えが見つからず悩み続けている
「仕方ない……紅茶でも飲んで落ち着こう」
僕は紅茶を淹れようと椅子から立ち上がった。すると、
―ピカーン―
「え?」
突然、僕の頭上に幾何学的模様が現れ光り出した。そして、
「きゃあああああああああああああああああああああああああ!!」
「えっ!?マリちゃん―――!?ぐおっ!!?」
―ドサ―
突然、模様の中心から僕の妻であるマリちゃんが現れ、そのまま僕の下へと向かって落ちてきた。そして、僕は受け止めることができず、そのまま彼女の下敷きになった
「いたた……て、明さん!?大丈夫ですか!?」
偶然、僕にのしかかる体勢になってしまった彼女は自らの身体の下にいる僕に気づいて、僕のことを気にかけてきた。僕は彼女に心配をかけまいと多少、身体を打ったがそれを隠して
「大丈夫だよ?マリちゃんは身体が軽いし、それに事故とは言えマリちゃんに押し倒されるのは悪くないよ?」
僕は彼女に本音を告げた。実際、僕は彼女と服越しに肌を密着させるのは悪くないと思っている。と言うよりはむしろ、非常に喜ばしいことだ。だから、この程度の痛みは軽いものだ。僕がそう言うと彼女は
「やだ……明さんたら……」
顔を赤らめて嬉しそうな表情をした
「マリちゃん……」
「明さん……」
僕らは互いに名前を呼び合い顔を近づけた
―ゴトン―
「ん?」
「え?」
しかし、それは何かが落下する音によって中断された。僕と彼女はその音がした方向を見た。そこには
「ビデオカメラ?」
そこにはビデオカメラが落ちていた。僕はそれに手を伸ばそうとした
「なんでこんなところに……?」
僕がビデオカメラがそこにあることに疑問を抱いていると
「だ、だめええええええええええええええええええええええええええええ!!」
突然、マリちゃんが叫び出して
―ドゴッ!!―
「ごふっ!!?」
僕の左頬に渾身の右ストレートが叩き込まれた。そして、僕はその威力によって、視界が暗くなっていき薄れゆく意識の中マリちゃんが僕の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした
「いや〜、やっぱり茉莉はからかうと面白いわね?ねえ、ステラ?」
「そうですね、アミさん」
私は友人の1人であり、恩人でもあるアミさんと水晶玉を通して、茉莉さんと明さんの様子を見て、一緒に面白がりました。茉莉は本当に魔物娘、それもダークプリーストでありながら羞恥心はが高く、他の魔物娘からは
『体はダークプリースト、中身はナイトメア』
とよくからかわれています
まあ……明さんとのセックスの時はダークプリーストそのものですけどね……
「さてと、じゃあ私はこれで」
アミさんは椅子から立ち上がり、帰ろうとしました
「あれ?もうお帰りですか?」
私がそう言うと彼女は
「いや、実はね……そろそろ、クリスマスでしょ?この時期はエステの方のお客さんが増えるのよ……」
「あ〜、確かにアミさんのお店てある意味『都市伝説』並みに有名ですもんね?特に女子高生に」
「『都市伝説』て……ベルンの『財力』じゃあるまいし……」
私がアミさんのお店の噂を口にすると、彼女は不満そうに言いました。ちなみにベルンさんとはアミさんの御友人のヴァンパイアです。彼女はこの世界に来た時にとても希少な金属を私達が元々いた世界から大量に持ってきて、それによって得た資金をやりくりして、この世界の経済界において多大な影響を及ぼす存在でもあります
確かにあの人の『財力』は下手したら、小さな国一個は支配できる程ですしね……
本当にあの人の『財力』は冗談レベルとも言えるものです。彼女の個人資産だけでも茉莉の夫である明さんの実家の『九条家』、明さんの元婚約者の実家の『藤堂家』、茉莉の父親の実家の『進藤家』の全財産を集めても彼女の個人資産の半分にも満たない程で、さらには彼女はこの世界の表舞台で生活する全ての魔物娘達の労働組合の長でもあり、彼女はそのコネクションを使って、世界経済を裏で操れる程の権限は持っています。まあ、彼女はそんなことはしないと思いますが。また、彼女には労働組合に所属する魔物娘や彼女直属の魔物娘以外にも最強の『懐刀』がいますので簡単には彼女の財力は潰すことなどできません。一見すると、途方もない話にしか聞こえませんが
恐ろしいことに……これ、全部本当の話なんですよね……
話はずれてしまいましたが、実際アミさんのエステは女子高生や恋人のいる女性には人気があります。なぜなら、
必ず意中の異性と結ばれると言うジンクスがありますからね……
そう、彼女のエステに行くと美容効果があるどころか、必ず意中の男性と恋仲になる。もしくは必ず結婚するのです。なぜなら、
「まあ、私からすればお母様とお父様の理想郷の実現に近づくし、愛し合うカップルが増えるし、悪いことはないわね」
彼女がエステに来る女性を全員、魔物娘に変えているからです。それによって、積極的になった女性は意中の男性を自らのものにするのです。そして、それによってこの世界とラインでで繋がっている私達の世界にその魔力は送られて魔王様夫妻の、いえ、私達魔物娘達の理想の実現へと一歩ずつ近づくのです。さらには、夫を得た魔物娘達によって、噂は広まっていき、さらに客足は伸びると言うあらゆる面でプラスにしか働かないのです。しかし、このシステムには最大の欠点があります。それは
「だけど……問題は……忙しすぎて私が夫を見つける時間が無いのよね……」
彼女は愚痴をこぼすことでその答えを言いました
「アミさん……」
その欠点とは彼女自身の夫となる男性を見つける時間が削られることです。一応、彼女は木曜日と金曜日に定休日を設けていますが、それでも、他の魔物娘達が火急の要件で彼女にお客さんを紹介する時間があり、他にも彼女自身の『責任感』が災いして魔物娘の起こす問題を処理しようとすることなど暇な時間が取れないこともあり、夫を探す余裕がないのです。ちなみに私も独身です
「それじゃあ……ステラ、お互いに頑張りましょう?」
「はい、そうですね……アミさんも頑張ってください」
実は私もこの時期は忙しいのです。私はダークエンジェルなので世間の女性の方々に堕落神様による『堕落』による素晴らしさを教える役目があります、いわゆる、『恋のキューピッド』です。本来ならば、私もこの時期を狙って『夫』を探すべきなのですが、茉莉との約束で13年間夫を得ようとしなかったこととどうしても恋のことで困っている女性、もしくはカップルがいると放っておけず、相談に乗ったり、堕落させたりしてしまうのです。我ながらお人好しが過ぎると思います。私とアミさんは互いに励まし合いながら別れました
「さてと、では私は……」
私は水晶玉を覗き込み
「ふふふ……さてと、世話が焼けるカップルに最高のプレゼントを用意しませんとね……」
友人夫婦を見て、あることを企んで笑いました
「見て下さい!明さん、綺麗ですよ!!」
「うん、そうだねマリちゃん」
僕の隣で腕を組みながら明るい茶色のダッフルコートを着たマリちゃんが嬉しそうに街を飾るイルミネーションを見て、興奮しながら言ってきた。あれから、一週間が経って今日はクリスマスイヴだ
一応、姉さんや恵美(めぐみ)さんに協力してもらったけど……プレゼント、あれでよかったかな?
僕は姉と恵美さんに意見を聞いて、なんとかクリスマスプレゼントを用意したが、それでもやはり不安だった。マリちゃんはきっと、僕からのプレゼントだったらなんでも喜んでくれるとは思うけど、どうせならとびっきりの笑顔が見たい。だから、僕は12月に入ってから悩み続けていたんだ。僕らが一緒に街を歩いていると
「あれ?九条さんじゃないですか?」
「ん?」
僕の名前を呼ぶ声がしたので振り向くとそこには
「やっぱり、九条さんじゃないですか。こんばんわ」
「あれ?仙田(せんだ)君?」
「仙田さん?なんでこんな時間帯に?」
警官の制服をした知り合いの仙田 仁(せんだ ひとし)君がいた。彼と僕達は以前、トラブルに巻き込まれた時にお世話になり、そのお礼がてらに彼と彼の恋人である瀬川 静香(せがわ しずか)さんの相談に乗った仲だ。まあ、ほぼお節介だと思うけど。すると、仙田君はため息を漏らして
「はあ〜……実はですね……今日、非番だったんですけど、いきなり同僚が有給を取ったんですよ……」
「え……」
「うわ……」
愚痴をこぼした。僕とマリちゃんはそれだけで大体は理解できた。どうやら、彼は同僚がこの聖夜を恋人と楽しむために取った有給休暇による空白を埋めるために上司に呼び出しをくらったらしい
「仙田さん……静香さんはどうでした?」
マリちゃんは彼の恋人である瀬川さんの様子を尋ねた。どうやら、マリちゃんは同じ魔物娘である瀬川さんの様子が気になったようだ。魔物娘にとっては、現代日本で男女が公然といちゃつけるバレンタインデーとホワイトデー、そして、クリスマスとその前夜祭は魔物娘からすればかなりの重要イベントだろう。それを愛する人と楽しめないということはかなり辛いことだろう。すると、仙田君はそれを聞くとさらに落ち込んで
「静香は聞いた瞬間にかなり落ち込みましたよ……」
「やっぱり……」
そして、彼は寒空を仰ぎ見て
「青い炎……投げられたらどうしよう……」
彼はそう呟いた。別に仙田君は浮気などしていないと思うけど、他のカップルがいちゃいちゃしているのを見て、それによって寂しさと対抗心を感じた白蛇である瀬川さんが仙田君とクリスマスイヴを共に過ごせない鬱憤を晴らすために彼と激しく交わりたいがために青い炎を投げてこない保証はどこにもない
「と、とりあえず……瀬川さんによろしく……」
「はい……お二人も良いクリスマスを……」
僕達の前を去っていく仙田君の背中は寂しそうだった。そして、それは街を行き交い、クリスマスイヴを楽しむカップル達によってさらに引き立たれた。その時、僕は改めてこう思った
大切な人とクリスマスイヴとクリスマスを過ごせるのって……本当に何気ないことだけど大事なことなんだね……
「明さん……こうなったら、今日は楽しみましょ?」
マリちゃんも仙田君と瀬川さんの様子を知って、愛する人と過ごすクリスマスの大切さを感じたらしくそう言った
「うん、そうだね……」
僕はそれに頷くしかなかった
「明さん、この鶏肉美味しいですね!」
私はメインディッシュのローストチキンを食べ終えるとそう言いました
「うん、本当に美味しいね」
すると、彼もまた感想は同じらしくそう言いました。私達が食事をしているのは一般家庭でも三ヶ月に一度の贅沢なら手を出せる全国チェーン店のフレンチレストランです。明さんはお金持ちですけど、舌は決してセレブのような偏食家のものではなく、高級品よりも庶民的な味が好きな人です。まあ、だからこそ、お坊ちゃま学校の中では孤立してしまったらしいのですが
「さてと、デザートはなんでしょうね?」
「そうだね……季節が季節だから苺のムースとかじゃないかな?」
「そうですね、それはありえますね」
私はデザートを楽しみにしていることを包んで隠さずに明さんにデザートのことについて会話しました。すると、彼は軽く考えて私に自らの予想を告げてきました。実は今日のクリスマスディナーはお店がお客さんに事前にアレルギーや苦手なものを尋ねてからコースを決めてくれるクリスマスシーズン限定のサプライズディナーです。だから、お店の人が料理を持ってくるまで何が来るかはわかりません
「お客様、お皿をお下げしてもよろしいでしょうか?」
ウェイトレスさんがそう尋ねてきました。すると、明さんは
「お願いします」
と答えました。ウェイトレスさんは続けて
「では、デザートをお持ちしてよろしいでしょうか?」
と尋ねてきました
「はい、お願いします」
「かしこまりました。では、しばらくお待ちください」
ウェイトレスさんはそう言うと厨房に入っていきました
「楽しみですね、明さん♪」
私はウェイトレスさんが去ってから明さんにデザートを待ちきれないことをさらに隠さずに告げてしまいました。すると、明さんは
「あはは……良かった」
「え?」
微笑みながらそう言いました
「いや、だってさ……僕って基本的に受身な人間だから、マリちゃんのことを喜ばせることができたか不安だったんだ」
明さんは自嘲気味にいいながらも嬉しそうにそう言いました
「明さん……」
彼の言う通り、彼は子どもの頃から『天才』と呼ばれるほどにあらゆる分野において、才能を発揮していましたが、学校などでは与えられた課題を必要最低限しか力を出さず、本人の意思で動くことはありませんでした。また、彼の実家の財力と彼自身の才能を嫉む人も多くいたので、あまり他人と関わってこなかったこともあり、他人の感情に対して過敏になってしまう癖があり、相手が嬉しく思っているか不安になるところがあります。ですが、
「……明さん?あの時の『誓い』を覚えていますか?」
「え……」
私達はあの2人だけの婚礼の時に誓ったのです。どんな時でも2人で『時間』を分かち合うと
『・・・九条明さん・・・あなたは・・・健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、私を愛し、私を敬い、私を慰め、私を助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?』
『新郎となる私は、新婦となるあなたを妻とし、良いときも悪いときも、富めるときも貧しきときも、病めるときも健やかなるときも、死がふたりを分かつまで、愛し慈しみ貞節を守ることをここに誓います』
『進藤茉莉さん・・・あなたは・・・健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、私を愛し、私を敬い、私を慰め、私を助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?』
『新婦となる私は、新郎となるあなたを夫とし、良いときも悪いときも、富めるときも貧しきときも、病めるときも健やかなるときも、死がふたりを分かつまで、愛し慈しみ貞節を守ることをここに・・・誓います!!』
私の脳裏にあの時の情景が思い浮かびました。そして、私は
「私はクリスマスを明さんと祝える……それだけで幸せなんですよ?」
そう告げました。あの『誓い』は裏を返せば、
『どんな時でも、どんな状況でも、どんな場所でも私は明さんと一緒にいられる』
と言うだけで私は幸せと言うことです
「それに私……今まではクリスマスは教会の用事ばかりだったので、本当に嬉しいんです」
「マリちゃん……」
私は明さんと再会するまでの13年間は『万魔殿』に行った神父様達の代わって、表向きは元からの教会の祭事などを行っていました。けれど、今では私は還俗したので普段は恩がある教会を大切にしたいので、整備をするだけで祭事などは特別に他の教会から派遣される聖職者の方に頼んで行ってもらっています。ですから、私にとっては今日は16年ぶりに『家族』と過ごすクリスマスの夕食です。だから、本当にそれだけで私は嬉しいんです
「ありがとう、明さん……」
私は精一杯の気持ちを込めて彼に感謝しました。彼は
「うん、どういたしまして」
ニッコリと笑みを浮かべてこれ以上何も言いませんでした。しばらくの間、私達は見つめ合いました
「お客様、デザートをお持ちいたしました」
それはウェイトレスさんが来るまで続きました
「あ、すいません。お願いします」
明さんはウェイトレスに気がつくと、軽く会釈しました。ウェイトレスさんはそれを確認すると
「では、こちら―――」
―カチャ―
左手に乗せたお盆の上に乗せているデザートの乗ったお皿を手に取り、そして、
「苺のショートケーキにございます」
テーブルの上にケーキの生地を白い生クリームで包み、生地の間にカットしたカットした苺と生クリームをサンドした一番上に大きな赤い苺を乗せたシンプルなショートケーキを置きました
「へえ……ショートケーキか。珍しいですね」
「はい、せっかくのクリスマスなのですから、家族と過ごすクリスマスの雰囲気を楽しんでもらおうと思いましたので、ショートケーキにさせて頂きました」
「確かにクリスマスのケーキと言えばショートケーキと言うイメージがありますね。ね、マリちゃ―――ん?」
「………………」
明さんがウェイトレスさんと話をしている中、私はショートケーキを見てあることを思い出していました
『茉莉、ほらケーキよ』
『うわあ……!』
『今日はクリスマスだからね、茉莉のためにたくさん、美味しいものを用意したよ?』
『ふふふ……茉莉の嬉しそうな顔を見れて私達は幸せよ?』
『メリークリスマス、茉莉』
『ありがとう、お父さん!!お母さん!!』
「マリちゃん?」
「お客様?」
私を呼ぶ声がしたので、私は我に返りました
「あ、すいません……」
「では、お客様ごゆっくりと……」
「はい、何から何かとすいません」
ウェイトレスさんは私に何もないことを知るとその場を後にしました。私は苺のショートケーキを見て、両親とのクリスマスを思い出して少し物思いに耽ってしまいました。私の父は裕福な家庭から貧しい生活になっても、それに決して文句を言わずに一生懸命に働き、私と母のことを愛してくれました。クリスマスの夕食はそんな父の愛情の表れの一つだったと私は思います。そして、母もそんな父をよく理解して、父と同じくらい私のことを愛して私の幸福を願ってくれました。ウェイトレスさんが去ってから私がボーッとしていると
「大丈夫?」
明さんが心配そうに私の様子を尋ねてきました
「はい、大丈夫です……だから、安心してください」
私は明さんに心配をさせまいとそう言い、フォークを右手に取りショートケーキの一部を切り取り、口に運びました。そして、
「明さん……クリスマスのケーキて本当に美味しいですね」
私は口に広がる生クリームの甘さと苺の甘酸っぱさと生地に染み込んだ生クリームと苺、そして、生地本来の味を味わいながら感想を言いました
僕らは今、デートを終えて自宅への帰路に着いている。普通のカップルなら、食事を終えたら、その後はその辺をぶらぶらすると思うけど、僕とマリちゃんは基本的に2人でゆっくりと家で過ごす方が大好きなので、この後はイヴを過ごすつもりだ
「寒いですね」
「そうだね」
マリちゃんと僕は腕を組みながら、自宅まで道を歩いている。冬の寒さが僕らを包み、コートで覆われていない手や首に冷たさを感じるが、僕とマリちゃんが互いに腕を組んでいる部分から彼女の温もりを感じられるのだから、これぐらいは軽い対価だ。しばらく、彼女と腕を組んで彼女の温もりを感じながら歩いていると自宅まで辿りついた
「ただいま」
「おかえりなさい」
僕が『ただいま』と言うとマリちゃんが『おかえりなさい』と言ってくれた。このやり取りだけで外と比べると多少はまだ暖かいがそれでも冷え切った空気がy漂うこの家も少しは暖かくなっただろう。リビングに着くと僕は暖房を入れようとするが
―ガシッ―
「明さん、早く寝室に行きましょ♪」
―パタパタ―
―クネクネ―
「ま、マリちゃん……」
僕がリビングに暖房を入れようとした瞬間、マリちゃんは突然、僕の腕を掴み目を妖しく光らせて、人化の術を解いて『ダークプリースト』の服装と姿に戻って、尻尾を振り、腰の羽根を羽ばたかせながら僕を寝室へと誘おうとした。僕は一瞬、その誘惑に負けそうになるが
「マリちゃん、ちょっとその前に待っててくれないかな?」
あることをしたくて、僕は彼女に制止を呼びかけた
「え、どうしたんですか?」
彼女は僕のそんな対応にきょとんとした顔をした
「少しだけでいいから待ってて」
「あ、はい」
僕はリビングを出て、自分の書斎へとなるべく急いで向かった。書斎に着くと僕は書斎の机に置いてある横の長さが30p、縦の長さが15p程の長方形の形をした丁寧に包装され、赤いリボンをつけた箱を手に持った。そして、それを持って僕はリビングへと引き返した
「ごめん、マリちゃん。待たせちゃって」
「明さん、どうしたんですか?」
僕がリビングに戻ると彼女は不思議そうな表情をしていた
「ごめん、ごめん……じゃあ、はい、これ」
「え……?」
僕は彼女に先ほど書斎から持ってきた箱を差し出した、彼女はそれを見ると目を開いて驚いた。そして、僕は
「メリークリスマス、マリちゃん」
彼女にそう告げた。普通、クリスマスプレゼントはイヴの中に寝ている人の枕元に置くものだけど、僕らは魔物娘とインキュバスのカップルだから、夜は眠れないと思う。だから、今のうちに彼女にプレゼントを渡したかった。ちなみに海外じゃ、クリスマスは既にイヴの日の入りから始まっており、別に『メリークリスマス』と言う言葉を今、使っても間違いではない。僕がこのクリスマスプレゼントを差し出すと彼女は
「明さん……」
僕の顔を見つめながら、嬉しそうな表情をしてプレゼントにゆっくりと手を伸ばそうとした
「はい、2人ともストップです」
「「!?」」
しかし、彼女の手がプレゼントに届く前に彼女の手はある声によって、止まってしまった
こ、この声は……
と言うか、僕らはその声がした方に同時に振り向いた。そこには、
「ふふふ……」
「ステラ!?」
「ステラさん!?」
マリちゃんの友人にして、天敵にして、僕らの恩人でもある黒い烏のような生やし、頭上に紫色の怪しい光を放つ光輪を戴き、妖しく輝く赤い瞳を持ち、紫色の肌をした幼児体型にボンデージのような露出の激しい服装をした淫靡さを感じさせる天使のような姿をした女性、ダークエンジェルのステラさんがいた
「ステラさん、どうしてここにいるんですか?」
僕は彼女に尋ねた。今日はステラさんはマリちゃんの話によると、多くの人々に愛と快楽と堕落の素晴らしさを広げ、多くのカップルの成立を手伝っているらしく、彼女がそれから解放されるのは今日の10時以降らしい。しかし、今は9時半だ。まだ、30分も時間はあるのにどうして彼女がいるのかが僕にはわからなかった。すると、彼女は顔をにやけながら
「あ〜、それなんですけどね……実は2人に私からのクリスマスプレゼントを贈りたい思いまして」
そう言った
「え……!?」
僕はそれを聞いて、少し嫌な予感がした。なぜなら、彼女はアミさんと並ぶマリちゃんの天敵だ。彼女はマリちゃんをからかうのが生き甲斐と言えるほどマリちゃんをよくからかって楽しんでいる。恐らく、一週間前のビデオカメラの件も彼女だろう
「ステラ……さすがの私でもクリスマスを台無しにしたら……本気で……怒りますよ?」
マリちゃんが笑顔でステラさんにそう言った。しかし、その声には静かな怒りが込められており、目は笑っておらず、妙な迫力を僕は感じた。彼女からしてみれば、僕といる時にステラさんが現れると言うことは自分をからかいに来ると言うことで確定しているらしい
悲しいことに……否定できない……
僕はマリちゃんを落ち着かせようとしたが、彼女の迫力に圧されてしまい、情けないことに身を退いてしまった。ここだけの話、マリちゃんはかなり魔法の腕が優れているらしく、拘束呪文や相手の罪の重さによって温度が変わる炎の魔法『煉獄の炎』などと言った炎系の魔法を得意としている。ちなみに『煉獄の炎』は相手を絶対に殺しはしないが相手が罪を本当の意味で悔やまない限りはその罪による重さに比例する激痛と熱を感じさせ続けるらしく、相手は自らの本当の過ちに気づかない限りは死ぬことも許されず絶対に解放されないある意味死よりも恐ろしい呪文らしい。例えるなら、本で読んで知ったことだけど『カエンタケ』と言う毒キノコの死亡率を0にして、相手の体内時間を停止させて症状を倍以上にしたようなものだろう。しかも、際限なく。流石にとんでもなく非人道的な魔法なので使用するには『堕落神』の許可が必要らしいけど
そもそも、魔物娘がそんな魔法使うなんてありえないと思うし、そもそも堕落神がそんな魔法使う許可を出すとは思わないけど……
対するステラさんもかなりの魔法のスペシャリストだ。彼女は回復魔法とよく使用する転送呪文に加えて、純粋な魔力を収束してそれを発射して、相手をしびれさせる光線呪文を得意としている。しかも、彼女は他の呪文との組み合わせが得意らしく、その中でも彼女の転送呪文は脅威だ。彼女は先述の光線呪文を転送呪文の魔法陣に発射して、あらゆる角度から相手に浴びせることが可能らしい。また、対象は一つだけではなく複数の対象に一斉に浴びせることができるらしい。ちなみに光線呪文のほうだけど、実は彼女は、不殺のために本来は熱を帯びる光線呪文からわざわざ熱を持たないように改良したらしい。つまりは彼女の意思次第で彼女は一瞬にして、大量の対象を抹殺する光線呪文を放つこともできるらしい
まあ、こっちも永遠にそんな使い方がされることはないと思うけど……
だが、一つだけ疑問がある。それは
『ただのダークエンジェルの彼女がそんな強大な力を持っているのか』
と言うことだ。マリちゃんの場合はステラさんが堕落させたこととステラさんが魔法の師匠と言う点で理解できるけど。僕は一度、その理由を聞こうとしたが、彼女はすぐに黙ってしまう。よほど、触れられたくない過去らしい。そんな彼女達を見て、僕はこう思った
2人が……魔物娘でよかった……
もしも、彼女達が僕が聞いた、もしくは調べた旧世代の魔物だったら、彼女達は周囲への被害を顧みず両者とも本気の殺し合いをしている可能性がありえる
ありがとうございます……アミさんの御両親方……
僕はアミさんの御両親である魔王様夫妻に感謝した。しかし、それでも家の中が散らかるのは変わりないけど。ちなみに後始末は一応、2人ともやってくれるけど心臓に悪いからやめてほしい
「あらあら、怖いですね〜、私はただクリスマスプレゼントを持ってきただけですよ?」
ステラさんはマリちゃんの威圧に圧されることなく、普段通りの態度をしていた。そう言う点では僕は彼女がすごいと思う
「本当ですか……?」
マリちゃんは未だにステラさんを怪しんでいる。まあ、それも当然だと思う。その原因はステラさんの日頃の行いのせいだろう
「もう、本当ですよ……ほら♪」
―ヒュ―
「えっ!?」
―パっ―
彼女は突然、マリちゃんに向かって何かを投げつけてきた。マリちゃんはそれを慌ててそれを手でキャッチした。僕らはそれが何かを確認した。それは
「あれ?それっていつも、ステラさんが通信とかに使ってる水晶玉じゃないですか?」
彼女が通信や遠くのものを見るために使っている水晶玉だった。ちなみに彼女は僕とマリちゃんの夫婦の営みをこれで覗いてるらしい。昼も夜も
「ステラ……?」
マリちゃんはステラさんのこのプレゼントを不思議に思っているらしく、先ほどまで持っていた警戒心を捨ててステラさんのことを不思議そうに見つめた。すると、ステラさんは
―ピカーン―
「それじゃ、2人とも―――」
「ちょっと、ステラ!?」
「え、え……え!?」
「よいクリスマスを♪」
魔法陣を展開して、そこに飛び込んで行った
一体……何がしたかったんだろう……?
「………………」
「………………」
彼女が去ってから、僕らはしばらく黙っていた
「あの……明さん……」
「あ、ごめん……はい、マリちゃん……これ」
僕はステラさんの突然の乱入によって、すっかりと渡しそびれたプレゼントを彼女に差し出した。そして、マリちゃんはそれを受け取るために先ほどステラさんに投げつけられた水晶玉をテーブルに置いた。しかし、、彼女が僕のプレゼントを受け取ろうとした瞬間
―ピカーン!!―
「え!?」
「うわ!?」
突然、ステラさんが残していった水晶玉が光り出した。そして、
『はあ……一週間後どうしよう?』
「!?」
次に僕の声が聞こえてきた。僕とマリちゃんは気になって水晶玉を覗くとそこには書斎の椅子に座って、何か悩んでいる僕の姿が映っていた
『マリちゃんへのプレゼント……どうしよう……』
これって……
『どうすればいいんだ……僕は……』
『ぶっちゃけると、マリちゃんは僕からのプレゼントだったら、なんでも喜んでくれると思うけど』
『だけど、だからこそ困るんだよね……』
『さすがに魔物娘だからと言って、一日中セックスし続けると言うのは……ちょっと……』
『はあ……どうしよう……』
水晶玉に映し出されたのはマリちゃんへのプレゼントを考えていた僕の姿だった。どうやら、これは過去の映像らしい。そして、
『珍しいわね、明君が相談に来るなんて』
『すいません……恵美さん』
『明君が来ると言ったら、桜(さくら)も楓(かえで)も喜んだと思うのに……本当にもったいないわね』
『あはは……すいません……』
突然、水晶玉に映る情景が変わるとそこには6日前にある意味、僕が実の姉以上に頭が上がらない女性である東(あずま)恵美さんに相談しに行った時の情景だった
『で、相談事て何かしら?』
彼女は僕の要件を尋ねてきた。僕はそれに対して
『実はですね……その……マリちゃんへのクリスマスプレゼントについてなんですけど……実はまだ、決まってなくて……』
相談したいことを彼女に向かって告げた。すると、彼女は
『え……まだ決めてなかったの?』
意外そうな顔をしてきた。僕は自分の優柔不断さに対して、恥ずかしくなってかしこまりながら
『あ、はい……』
僕がそう言うと恵美さんはどうやら、僕の相談の趣旨を察してくれたようだ
『なるほどね。つまり、茉莉さんと同じ既婚女性である私の意見を参考にしたいのね?』
『そうなんです』
僕がそう答えると彼女は困った顔をしながら
『う〜ん、私の場合はプレゼントを桜と楓が生まれてからは総一郎さんにもらってないから、最近の娘が何をもらったら嬉しいかわからないわ……』
恵美さんは自分の家庭のクリスマスのことを教えてくれた。桜ちゃんと楓ちゃんは恵美さんと恵美さんの夫である総一郎(そういちろう)さんとの間に生まれた、9歳と7歳の可愛らしい女の子達のことだ。2人は非常に可愛らしく、僕が散歩をしているとよく、同じように散歩をしている恵美さんと桜ちゃんと楓ちゃんに出会うのだが、僕の顔を見るとあの子達は
『明お兄さん!!』
と元気な声で僕の名前を呼んで笑顔で僕の元へと走って駆けてくる。その時にふと可愛いらしく思い頭を撫でると2人ともさらに喜んでくれるのも可愛らしいところだ。どうやら恵美さんは可愛らしい愛娘2人を授かってからは夫である総一郎さんからはクリスマスプレゼントをもらっていないらしい
『そうですか……』
僕は一番頼りになりそうな女性のアドバイスを得られなかったことに少し、失礼だが落胆してしまったがどうやらそれは早計だった。なぜなら
『だけど、明君……私は総一郎さんと桜と楓がいてくれるだけでそれだけで幸せよ?……それだけが私にとっての大切なクリスマスプレゼントよ?』
彼女はそれを迷いなく言い切った
『………………』
僕はそのことに感銘を覚えた。この人は魔物娘ではないのに、本当にそれだけを欲する本当に素晴らしい人だと僕は思った。いや、昔からそう思っている。そして、彼女の夫である総一郎さんも彼女にふさわしい男性だ。ある意味ではこの夫婦は魔物娘よりも素晴らしい存在なのかもしれない。魔物娘とその夫であるインキュバスは本能で互いをただ純粋に愛し合い、争いを望まないある意味ではあらゆる宗教や道徳、倫理が求める人間としては究極の理想像とも言える存在だと思える
さすがに風俗が乱れたりするのは道徳的には間違いかもしれないけど……まあ、お互いを求め合うのも愛の本質な気が……
しかし、東夫妻は数多くの選択肢の中で自らの『理性』で魔物娘が『本能』で選ぶ幸福を自らの意思と力だけで選んだのだ。彼らは『自由』と言うある意味では最も人間を堕落させ、最も人間を成長させる状況の中で最も素晴らしいものを選んだのだ。まさしく、この夫婦の姿こそが全ての人々が目指すべきものだと思う
『ごめんね、明君……参考にならなくて』
恵美さんは申し訳なさそうに言ったが
『いえ、そんなことはありません……ありがとうございます』
本心から僕はそう言った。彼女は確かにプレゼントのアドバイスはしてくれなかったが、それでも彼女は僕にクリスマスの素晴らしさを教えてくれた。そして、改めて僕にとってはマリちゃんがどれだけ大切な存在なのかも教えてくれた。僕が恵美さんに感謝すると、再び情景が変わり、次に映ったのは
『へえ、まだクリスマスプレゼント決めてなかったの?』
『そうなんだよ、姉さん』
この家のリビングで相談している僕と僕の姉である真田 司(さなだ つかさ)だった。ちなみに姉さんの苗字が『九条』じゃないのは姉さんが今年入籍したからだ。ちなみに2人の子供が同時期に結婚した僕達、姉弟を男手一つで育ててきた父である九条 暁(あかつき)は僕が知っている中では初めて涙を僕らの目の前で流した
『私は基本的に信作(しんさく)さんのプレゼントならなんでもいいけど?マリちゃんは?』
姉さんもどうやら、マリちゃんと同じで愛する夫からのプレゼントならなんでもいいらしい。ちなみに姉さんの夫であり、僕の義理の兄である信作さんと姉の結婚はある意味すごい逸話がある。姉さんはかなりの男勝りであり、身内の人間に対しては非常に優しいが身内を傷つける者がいたら、確実に情け容赦なく報復する過激さも持っている。姉さんは弟の僕から見てもかなりの美人で、頭もよく、スポーツ万能、正しく『才色兼備』を絵に描いた様な女性だ
だけど……
しかし、先述の気性の激しさと姉さんの恐ろしい逸話も加わり、男が寄り付かず、姉さん本人も恋愛に興味がないことから、正しく『難攻不落の女』でもある。心配した父と叔父がお見合いの話を持ってくるがその度に『九条家』の力の恐ろしさで相手を脅し、相手の虚栄心を刺激して、相手に恥をかかせることをしてきたほどだ。本人曰く、
『くだらない男と結婚するなら、一生、明のことを可愛がる方が私の人生は最高だわ』
とのことらしい。ちなみに姉さんは弟の僕から見てもかなりのブラコンだ。もしも、姉さんがリリムであるアミさんの手で魔物娘になったら、気性からしてドラゴンかアマゾネスになるだろう。アミさん曰く、
『彼女……相当、強い魔物娘になるわ……』
とのことだ。そんな、魔王の娘の太鼓判のついた姉さんの心を陥落させたのが真田信作さんだ。話によると、彼は叔父の取引先の社員らしく、叔父が彼に見所があると見て叔父がわざわざ頭を下げてまで、彼にお見合いのことを頼んだらしい。そして、運命のお見合いの日、姉さんはいつも通り、1時間もお見合いの席に遅刻してきた。その際、大体の人間は『九条家』の力を恐れて何も言わないが、信作さんは
『遅刻する女性など話になりません』
と叔父と姉さんの目の前で言い放ち、すぐにお見合いの席から離れようとしたが、その態度が姉さんの心に響いたらしく、さらに話してみるとかなり温厚な人柄でありながらも言うべきことは言う質実剛健な人物だ。なぜなら、姉さんの心を掴み、姉さんが直々に自分で交際を申し込んだほどである。そして、僕は思った。我が姉ながら本当に勇ましい人と
『たぶん、マリちゃんも姉さんと同じだと思うよ?』
僕は先ほどの問いに対して、率直な考えを伝えた。すると、
『ふ〜ん?じゃあ、大丈夫じゃないの?』
姉さんは気楽に言うが
『いや、だからこそ……その……』
『ん?』
僕は口を少し濁らせながら、姉さんになぜ僕がクリスマスプレゼントのことでこんなに悩んでいるのかを伝えようとした
『マ、マリちゃんの……その中でもとびっきりの笑顔を見たいから……その……』
『………………』
僕が少し、恥ずかしく言うと姉さんはしばらく黙った。そして、
『……ぷっ』
『……?』
『あはははははははははははははははははははははははははははははははははは』
『ね、姉さん……?』
突然、姉さんは大きな声で笑い出した。僕は訳が分からず困惑してしまった。すると、
『ごめん、ごめん……いや〜、まさか、明がそう言うことを言うようになるなんて、ちょっと想像できなかったから……つい』
『うっ……それは……』
姉さんの言う通り、少し前までの僕ならこんなことを言うことはなかっただろう。マリちゃんと結ばれる前までの僕なら、恐らくはクリスマスの贈り物はただの義務程度にしか思わなかっただろう。それを一番に理解しているのは僕が3歳の頃に母を亡くしてから、母代りとして僕を見てきた姉さんぐらいだろう。姉さんが笑ったのは恐らく、僕の心情の変化を嬉しく思っているからだろう
『う〜ん、なら明がこれから、どんな風にマリちゃんと過ごしていきたいのかをマリちゃんに伝えられるものをプレゼントにしたらどうかしら?』
『……!』
姉さんが教えてくれたプレゼントに僕はあることを思いつき
『ありがとう!!姉さん』
すぐに感謝した。すると、
『ふふふ……どういたしまして』
―プツン―
久しぶりに見ることのできた姉さんの穏やかな笑顔で水晶玉の映像は終わった。映像が終わってから、しばらくして僕は意を決して
「あの……マリちゃん?」
「はい」
プレゼントを渡すべく彼女に向き合った。そして、
「これ……その……」
僕は緊張してしまい、少し言葉がつまりながらも彼女にクリスマスプレゼントを渡そうと勇気を振り絞って
「メリークリスマス!!マリちゃん!!」
僕は大きな声で彼女に色々と遅れてしまったが悩みに悩んで選んだクリスマスプレゼントを彼女の前に差し出した。すると、
―ポタ―
「マリちゃん……?」
突然、マリちゃんの頬に涙が伝った
「え……あ、ごめんなさい……私、その……」
彼女自身も自分が涙を流していることに驚き、慌てて涙を止めようと目をこするがそれでも、涙は止まらなかった。そして、
「私……その……本当に……嬉しくて……」
「え……?」
彼女は僕のことを真っ直ぐと見つめながらそう言った。その目は涙に溢れていたが同時に喜びに満ちていた
「私……両親がいなくなってからは……クリスマスがちょっと寂しかったんです……」
「マリちゃん……」
彼女は涙を流しながらそう言った。僕はそれに対して何も言えなかった。僕は幼い頃に彼女が孤児だと知ったが、よく考えれば僕も物心つく前に母を亡くしたが、父さんや姉さんがいた僕と比べれば彼女は本当に辛かったのはよくわかることだ。何よりも彼女は両親のことが大好きだったのにその両親との離別を理解したくないのに理解しなくてはならかったのだ。彼女にはステラさんがいたがそれでも、クリスマスイヴとクリスマスの夜はステラさんも忙しく、そして、マリちゃんも堕落神の教えと彼女の教会が所属している教会の用事で忙しかったのだ。だからこそ、クリスマスを寂しく感じるのも無理はない
「それに……私……プレゼントをもらうのも初めてなんです……」
「………………」
彼女の両親が存命の時でも貧しかったこともあり、プレゼントをもらうことはなかったことがないのは彼女の話と経歴を考えると容易に考えられる。また、孤児院の頃にも確かにクリスマスのイベントがあったであろうが、その時に慈善団体や彼女が預けられていた教会に寄贈されたクリスマスプレゼントがあったとは思うが、それは彼女に宛てられたプレゼントではない。また、彼女の話を聞くと彼女の父方の叔父は彼女のことを気にかけてはいてくれたようであったが彼女の父方の実家の圧力があり、プレゼントを贈れなかったらしい。そう考えると、今、僕が渡そうとしているクリスマスプレゼントこそが彼女にとって、初めてのクリスマスプレゼントになるのかもしれない
いや……それは違うか……
「マリちゃん?それは違うと思うよ?」
「え……?」
僕のその一言に彼女は目を開いて、戸惑った。それでも、僕は言いたいことがあった。それは
「マリちゃんは……マリちゃんのお父さんやお母さんに毎年、プレゼントをもらっていたはずだよ?」
「あ……」
ただそれだけだった。だけど、僕は恵美さんのアドバイスを聞いて、その些細なことだけどとてもかけがえのない大切なことに気づくことができた
大好きな人と過ごすこと自体が大切なクリスマスプレゼントなんだよね……
僕がありふれた言葉だけど、それでもすごく大切な言葉によって感傷に浸っているとマリちゃんが
「そうでしたね……お父さんも……お母さんも……私にたくさん、大切なものをくれたんですよね……」
泣きながらそう言ってきた。僕はただそれに黙って頷くことしかできなかった。そして、すっかりと遅くなってしまったが僕は
「マリちゃんのお父さんとお母さんには勝てないけど、はい。メリークリスマス!!マリちゃん」
僕は改めて彼女にクリスマスプレゼントを差し出した。すると、マリちゃんは
「ありがとうございます……そして、メリークリスマス!!明さん」
―ギュ―
涙を流して、満面の笑みを浮かべてクリスマスプレゼントを受け取り、そして、その後に僕に抱きついてきた。そして、僕も彼女のことを抱きしめた
マリちゃんのお父さん、お母さん……あなた達の大切な娘さんは必ず、僕が幸せにします……
「あ〜あ……すっかりと遅くなっちまったよ……」
俺、仙田仁は同僚がいちゃつくために休暇を入れたおかげで、その尻拭いのためにクリスマスイヴを恋人がいるのに、わざわざ非番なのに仕事が入ってしまい、帰るのがすっかりと遅くなってしまい、独り寂しくアパートまでの帰路に着いている
「九条さん達、いいな〜……はあ〜……」
パトロール中に偶然、出会ったデート中の知り合いの夫婦を思い出して俺はため息をついてしまった
「俺も……有給を使えばよかったかな……?」
実際、有給をあまり使ってない俺は休暇を取ろうと思えば取れたのだが、尊敬する上司のあまりにも頑張る姿を見て断れなかったのだ
「はあ〜……静香、怒ってるかな?」
俺は恋人である女性のことが気になってしまった。俺はまだ、大丈夫だが魔物娘である静香からすれば、ある意味では恋人同士が公然といちゃつくことが常識になりつつあるクリスマスイヴを恋人と過ごせないのはかなり辛いだろう
「もしかすると、青い炎を投げられるかもな……あはは……」
俺は苦笑いしながらいつの間にか着いていたアパートの自室のドアを開けた。すると、
「おかえり」
「……!?」
ドアを開けると玄関には白い長い髪を生やした赤い瞳を持った下半身が白い蛇のある種の神聖さをかもし出す姿をした俺の恋人である女性、瀬川静香がいた
「し、静香!?どうしてここにいるんだ!?」
俺は恋人の予想外の待ち伏せに戸惑い、驚いてしまった
「ふふふ♪仁のことを驚かせようとずっと待ってたんだよ?」
静香は無邪気な明るい笑顔でそう言った。どうやら、彼女は俺が仕事を終えるまでずっと、俺の部屋で待っていたようだ。俺は男としてそれに対して嬉しく思うが同時に一つの懸念が生まれた
「そっちのご両親は何か言ってないのか?」
静香は両親と実家で暮らしている。さすがに娘が1人で男の家に泊まるのはマズイと俺は思うし、何よりも彼女の両親が心配してないか不安だった。すると、
「うんうん、ただお父さんもお母さんも『楽しんできなさい』て言ってたよ」
「そうか……」
俺はその一言で、俺は安心すると共にあることを誓った
静香のことを大切にしないとな……
「じゃあ、仁?お腹減っていると思うから、ご飯用意したよ?今夜は鍋にケーキだよ?だから、楽しみにしていてね♪」
「あぁ、楽しみにしているよ」
俺は最高のクリスマスプレゼントを静香からもらったと思う
俺はもう一度、お前の笑顔見れて……本当に幸せだよ
「う〜ん……」
私はクリスマスの朝に夫婦の寝室のベッドで目を覚ました。昨日の夜は明さんとのクリスマスイヴを楽しめたこと、クリスマスの素晴らしさと尊さを身に感じて、いつもよりお互いを求め合う気持ちが高まり、普段以上に激しかったと思います
「………………」
私は昨晩、明さんにもらったクリスマスプレゼントに手を伸ばして、それを膝の上に置くとプレゼントの箱を包んでいるラッピングを丁寧にはがしながら、胸を高まらせながらプレゼントの箱を開けました。そして、箱の中身を確認しました
「これは……」
プレゼントの中身は二対のティーカップでした。そして、私はすぐにその意味を理解しました
「すー……すー……」
「明さん……」
明さんはこのティーカップを一種の夫婦茶碗のように見立てたのでしょう。私達は毎朝、明さんが淹れた紅茶を一緒に飲んでいます。明さんがこのティーカップに込めた願いとはそんな毎日をこれからも2人で歩んでいきたいと言うものなのでしょう。だからこそ、彼はこのプレゼントを選んだのでしょう
「ありがとうございます……」
―チュ―
私はそっと、寝ている彼の頬にキスをしました。実は私はこのプレゼントの中身を知った時と彼からプレゼントをもらった瞬間と同じくらい昨日、ステラに渡された水晶で見せてもらった明さんの様子を見ただけで私は嬉しかったのです
プレゼントを選ぶ時間も大切なプレゼントなんですよね……
「まったく……ステラには今回も感謝しませんとね……」
私はいつもは私を困らせる親友に対して、再びいつもとは違う困った想いを抱きました。そして、最後に
「お父さん……お母さん……茉莉は幸せだよ?」
私のことを見守っていてくれるであろう大切な両親に自分が幸せなことを伝えたくなり、そう呟きました
14/02/26 23:14更新 / 秩序ある混沌