『輝き』との遭遇
「う〜ん……」
目が覚めた私は時計を見た。すると
「ん?」
『9:32』と時計は時間を示していた。私はしばらく、呆然とした。そして
「あああああああああああああああああああああああ!?」
私はそれを見てパニックに陥った。そして
「マズイ!!マズすぎる!!」
慌てて携帯電話を探し始めた
「携帯……携帯……」
と携帯電話を探すために周囲を見渡した
「あった!!」
携帯電話を手に取りすぐにアドレス帳から職場に電話をかけた
―――prpr―――
―――ドクンドクン―――
携帯の呼び出し音と共に私の心臓の鼓動も早まったと思う。と言うよりは上司が電話に出るまでかなりの緊張が走った
どうしよう……きっと、怒っているよね……
―――ガチャ―――
―――ビクッ!!―――
『瀬川さん、どうしたんだ?こんな時間に電話をかけて?』
相手が電話に出たことに私は一瞬、動揺したけど、すぐに呼吸を整えて
「すいません、課長!!無断遅刻なんてしてしまい……」
『は?』
謝罪を行った。そして、続けて私は
「大変申し訳ございません!!今からそちらに向かいます!!」
とすぐに職場に向かうことを告げると
『ちょ、ちょっと待て!!』
課長は声を荒げてきた
なんだろう……?
「はい、なんですか?」
と私が聞くと
『君は今日から三日間休暇だろう!!』
「え?」
課長はそう言った。私は一瞬呆気に取られたが
「あ」
と昨日のことを思い出した。確かに昨日、課長は私に『休暇』を促していたような気がした
『まったく、仕事熱心なのはいいが、休む時には休め……』
と課長は呆れながら言ってきた
「すいません……」
と私が言うと
『いや、別に謝らくてもいい……とりあえず、しっかりと休むこと……それが今の君にとっての『仕事』だ……まあ、君にはいつも助けてもらっているから今もうちの課は君の分まで働いてる』
―――ズキン―――
「そうですか……」
『うん、ゆっくりと休んでくれ……重ねて言うが、君はうちの課にとって大切な人材だ。絶対に無理をしないように……わかったか?』
課長は私を気遣いながら休暇のことを強調してきた
「わかりました……」
『じゃ、いい休暇を過ごすように』
「はい、ありがとうございます……」
―――ガチャ―――
私は電話を切った後に課長の
『今もうちの課は君の分まで働いてる』
と言う言葉を思い出し、胸を締め付けられた。私はその言葉が怖い。まるで自分の『存在価値』がなくなるようで
『私は妹が嫌いだ。妹の存在が私を傷つける。』
姉の日記のとある文章が私の頭の中で再生されていく。これは姉の勝手な『悪意』だ。だけど、私にとって自慢の存在であり、愛していた肉親である姉からの『存在の否定』は私を『無価値』以下の存在に思わせる
嫌だ……二度と誰にも否定なんかされたくない……誰にも拒絶なんてされたくない……誰にも必要にされなくなるなんて嫌だ……
私は自分の醜い『願望』を自覚していた。だけど、それが醜悪だと理解しながら私はそれを捨てることなんてできない
「ごめんなさい……」
再び、私はもう会うこともできない姉に謝罪した。大好きな姉に
「おはよう、マリちゃん」
「おはようございます、明(あきら)さん」
僕は自分の妻であるマリちゃんに挨拶をした。僕とマリちゃんは1か月前に偶然(?)再会し結ばれ、その後入籍したばかりだ。いわゆる世間で言う『新婚夫婦』と言ったものだ。まあ、僕とマリちゃんは世間一般の『新婚』さんとは少し違うけど、僕は非常に幸せだ
あの日から、1か月か……今、思えば僕は本当に馬鹿だったのに彼女は僕を救ってくれた……本当に僕は幸せだ……
「あの〜、明さん?」
「ん、何?」
マリちゃんは僕に恥ずかしそうに質問してきた
「今日の約束……覚えていますよね?」
と嬉しそうに質問してきた。僕はその嬉しそうな顔につられて笑いながら
「もちろんだよ、今日のデートのことだよね?」
と答えた。すると、彼女は満面の笑みで
「はい!!じゃあ、急いで準備してきます!!」
「うん、僕も朝の紅茶を淹れておくから、後で一緒に飲もうね」
彼女は嬉しそうに二階の自室へと向かって行った。僕は自分のお気に入りの紅茶である『アールグレイ』を取り出してそれを2人分予め温めていたポットに入れて、お湯を注いだ
あぁ……この待ち時間もいいな……やはり、茉莉がいるだけで―――
「はあ〜……本当、バカップルの称号がお似合いですね……あなた方は」
「!?」
僕は聞き覚えのある声が聞こえたので振り向くとそこには……黒い翼を生や
し、肌が薄紫で頭上の光輪が淡い紫の輝きを放つ明らかに『堕天使』と言う表現が似合う少女
「ス、ステラさん……おはようございます」
「おはようございます。明さん」
マリちゃんの友人であり、僕と彼女を結ばせてくれた『恩人』のダークエンジェルのステラさんがいた
「い、いつからここに……と言うか、ご用は?」
「いや〜、あなた達のあまりの甘々しい雰囲気を再び水晶で見させてもら
い……ちょっと、からかいにきちゃいました♪」
「なっ!?」
僕は一瞬にして顔が真っ赤になったと思う。そして、彼女はかなりにやにやしている
こ、この人……絶対に昨日の夜も覗いていた気が……
「お待たせしまし―――て、ステラ!?」
「あ、おはようございます、茉莉(まり)」
「ど、どうしてあなたが!?」
「いや、その……マリちゃん落ち着い―――」
ま、マズイ!!
僕はステラさんの突然の訪問に驚くマリちゃんを落ち着かせなるべくマリちゃんに恥ずかしい思いをかかせないように努力するが
「いや〜、昨夜はお楽しみでしたね〜?」
「なああああああああああああああああ!?」
なんでこの人はあえて虎の尻尾を踏むようなことをするんだあああああああああああああああああああああ!?
彼女はわざとからかうようにマリちゃんに言った
「いや〜、お二人とも毎晩毎晩本当に激しいことで……ふふふ……」
「な、な、な!?」
あぁ……マリちゃんが完全に顔から火が出そうなぐらい顔が真っ赤になってるよ……僕もかなり恥ずかしいけど……
たとえ、マリちゃんが『魔物娘』とは言え……根は『乙女』なマリちゃんがこんなことに耐えられる筈が……年齢?……マリちゃんは永遠の『乙女』だ!!異論は認めない!!
「ステラ……いい加減にしないと……」
「あら?やりますか?」
あ、マズイ……これは完全に喧嘩モード突入だ……ここは僕が止めないと……なるべくなら、こんな手は使いたくないけど……仕方ない……
「ところで、ステラさん……一ついいですか?」
「ん?なんですか?」
「明さん、邪魔しないでください!!私は今からこのデバガメ痴女堕天使の腐った性根を叩き直す必要があるんです!!」
マリちゃん……『痴女』て……下手するとそれは『魔物娘』全体に当てはまるよ……
「とりあえず、マリちゃんも落ち着こう?今から暴れるとせっかくの洋服も汚れるよ?」
「そ、それはそうですけど……」
僕はこれからのデートのことを指摘することで抑えた。まあ、魔法があるから汚れなんかすぐに落としたり、魔力によって服を変えることができるけどそこは誤魔化せた。
これは彼女に新しい服を買ってあげないと……
「ふ〜……とりあえず、ステラさんいいんですか?こんなことをしていて……」
「え?」
僕はあることを告げる。
『女性』には失礼であまり使いたくないが……仕方ない……争いを止めるためだ……
「だって、『覗き』が趣味とか、それ……完全に変態の趣味ですよ?」
「なあ!?」
僕は世間一般の『常識』を彼女に残酷に告げた。すると、彼女はすぐに
「いや、ですけど……」
と口答えしようとするが僕はそれを許さず
「『ですけど』じゃないですよ?それにあなたいい人は見つかったんですか?」
「がはっ!!」
あ、今のかなりクリーンヒットした気がする……
実はステラさんは『独身』だ。見た目的にはマリちゃんの方が年齢が上に見
えるけどそれは種族によるものだ。マリちゃんに貸してもらった『魔物娘図鑑』を呼んだ結果、ダークエンジェルは基本『幼女体型』だと理解した。ちなみにマリちゃんはダークプリーストだ。あの図鑑に書かれていた『万魔殿』のことで僕は基本的にマリちゃんに頭が上がらない。そして、僕はトドメとして
「そんなんじゃ……あなた……一生『独身』ですよ」
「…………………………………………」
彼女はしばらく、固まった。マリちゃんも余りの恐ろしさに固まっている。というか、先ほどまで興奮していたがステラさんに『同情』の目を向けている。
魔物娘にとって一生独身とは……それほど恐ろしいものなのだ!!あと、マリちゃんごめん……あと少しで僕は君もそうさせてた可能性があるのに……そして、ステラさんはプルプルと身体を小さく震わせて……
「うわあああああああああああああああああああああん!!」
と泣き叫びながら飛び去って行った……
ごめんなさい……ステラさん……あとでなにかお詫びの品を贈ります……
「とりあえず、紅茶を飲みましょ?」
「うん……」
僕たちは気を取り直すために紅茶を飲んだ……今日の紅茶は『幸せ』の価値がよく分かる味と香りだった……
「映画か……」
私は今日は何をしようか迷って結局映画を観に行くことにした。だけど、私
はそれがさらなる虚しさを生んだ。
だって……
「お母さん、早く早く!!」
「もう……少しは落ち着きなさいよ、お母さんが困るでしょ?」
「いいのよ、それよりチケットを買うからポップコーンでも買ってらっしゃ
い」
「うん!!」
「行こう!!お姉ちゃん!!」
「あ、待ってよ」
目の前に子ども連れの家族がいたからだ。そこには母親と姉、そして、弟の三人の親子がいた。私はその子たちを見ていると晴太が7歳ぐらいの頃母親に連れられて映画館に行った記憶を思い出す。あの時観た映画は子供向けのアニメ映画だったけど、内容は中学生の私も楽しめるぐらいのストーリーだった。そんなことを思い出しながら私は胸を抑えることしかできなかった
〜二時間後〜
私はあるアクション映画を観た。だけど、映画の中の爆音を聞いても映画に集中することができず呆然としていた。すると
「ねえ、お姉さん1人?俺らと遊ばない?」
「いえ、お断りします」
「そんなつれないこと言わないで、ねえ?」
映画館を出てすぐに一人の女性が高校生ぐらいの5人の男たちに絡まれている。この時間帯に高校生がいるはずがないことを考えるとどうやら不良らしい。女性の方はカーディガンとロングスカートと言う恰好をしており、よく見ると顔だちは非常に整っており服装もあいあまって清楚さに溢れていた
「すみませんが、夫が待っていますので」
と彼女は左手を彼らに向けた。そして、その薬指には小さな菫色の宝石がついた指環があった。その宝石は見る角度によって色が変わっていた。どうやら、記憶が正しければアイオライトと言う宝石らしい
「え〜、でもあんた1人を待たせるとかダメ旦那だな」
「そうだぜ、そんな旦那よりも俺たちと遊ぼ〜」
と彼らは彼女が人妻なのにそれでもしつこく迫ってきた。しかも、旦那を侮辱しながら……私はそれに憤りを感じて介入しようとするが
――バチン!!―――
とてもいい音がした。見て見ると女性が不良の1人にビンタをかましたようだ。そして、彼女の顔は先ほどまで迷惑そうにしているだけだったが明らかに怒っていた
「取消してくれませんか?たしかにあの人は私のことを13年間も待たせましたけど、私にとってはあなた達と比べることすらおこがましいぐらい最高の夫です!!」
と静かに怒りを込めながら啖呵を切った……しかし、不良はすぐに立ち上がり
「てめぇ……なめやがって!!」
と彼女に殴りかかろうとした。しかし、それが彼女を傷つけることは叶わなかった。なぜなら
―――ガシッ―――
彼女を傷つけようとした腕は別の誰かに手によって止められていたからだ
「んだ!?てめえ!!」
そして、それをよく見ると顔がよく整い、爽やかな顔をした男性だった
「彼女の旦那だよ」
と彼は自らの左手の薬指を見せた。そこには紫水晶がはめ込まれた指環があった。不良に冷静にそう冷静に言うがその目には目の前の女性を傷つけようとした存在に対して怒りが込められていた……
「明さん!!」
「マリちゃん、ごめんね待たせちゃって……少し、チケット買うのに時間がかかちゃって……」
と彼は優しく、自分の妻に言った。しかし、その手は彼女を傷つけようとした腕を決して離そうとしない
「てめえ……とっとと離し―――いてててててて!!」
「あぁ……ごめん、今の僕……ものすごく機嫌が悪いんだ……なにせ僕……
『人間』だから」
と彼はどうやら力を少し込めたらしい。不良の顔は痛みに歪んだ。他の不良たちも目の前の男性の底知れない何かに恐怖を抱き、固まるしかなかった事態
は膠着するが
「そこのお前ら何してる!!」
「げ!!サツだ逃げんぞ!!」
「お、おう」
「あ、おい待ってくれ!!」
と警察官が来たことで不良たちは散を乱して逃げ出した。男の人は不良の腕を離した。そして、警察官は彼の前に立ち
「失礼ですが、少しお話を伺っても?」
質問するが
「ええ、どうぞ」
彼は紳士的にそれに協力した
「あと、あなたも一応お話を……」
「あ、はい」
と彼女にも職質をしようとした。しかし、彼らには非はないと言うと嘘になるが先に原因を作ったのはあの不良たちだ。私は彼らを放っておくことができず
「あの、すいません……」
「なんですか?」
と警察官にことの次第を話そうとした。すると
「ん?」
警察官は私の顔を見た瞬間、なにかに気づいたらしい。そして
「もしかすると……瀬川……?」
「え?」
と警察官は私の名前を言ってきた。彼の顔をよく見るとある人を思い出し
「仙田(せんだ)君……?」
と高校時代の同級生の名前を言った。すると彼は嬉しそうに
「やっぱり、瀬川か!!久しぶり!!」
「う、うん……久しぶり」
私は懐かしい友達に会えたことに喜びを感じた
「ところでどうしたんだ?」
「あ、実はね……」
私は彼にこの状況について説明した。すると、彼は
「ふ〜ん、なるほどね……なら、今回は不問にするよ」
と軽く言った
「いいんですか?」
それに件の男性は尋ねてきた。すると彼は
「俺は善良な一般市民を守るのが仕事ですから」
と何の屈託もなく答えた。しかし、男性は申し訳なさそうな顔をした
「そうですか……ですけど、それだと僕の気が収まらない……そうだ、お聞きしたいのですが今日の夕食の予定は?」
「いえ、別にありませんが?」
「なら、ご一緒にいかがですか?そこの彼女も交えて」
「え、ですが……」
私は仲睦まじい夫婦のデートを邪魔する気がしたので断ろうとするが
「いいんですよ?私は夫と一緒にいられれば……ですよね?」
と奥さんの方からフォローしてきた、そして夫にそのことを確認させ
「うん、僕も君といられればいい……ダメですか?」
夫の方もそれを『是』と答えた……こうなると、断ることができず私たちは頷いた……
「九条さんてもしかすると紅茶好きですか?」
「そ、そうだけど……どうしてわかったの?」
「いえ、その……私はある通商会社に勤めていて……」
「あ〜、あの会社の人か……」
「す、すいません」
「いや、別に気にしていないから大丈夫だよ」
「すみません……」
今、私たちは明さんが見つけたレストランで少し夕食を食べています。明さんは仙田さんに配慮して彼が仕事を終えてからこの場所に誘いました
今日は散々です……朝はステラにからかわれ、先ほどは不良に絡まれ、挙句には夫を馬鹿にされて……もし、あの時、明さんが来てくれなかったら確実に魔法を使ってでもボコボコにしているところでした……まあ、そのお陰で新しい友人である瀬川さんたちに出会えたことを考えると悪いことばかりじゃないのですが……でも、瀬川さんにはなぜか、かつての明さんと同じ雰囲気が漂っている気がします……
「そうだ、仙田君……少し男同士で話をしたいんだけどいいかな?」
「え?まあいいですけど……」
「じゃあ、茉莉……僕は少し、席を離れるけど……いいかい?」
と彼は私になにかを伝えるように言ってきました。私はその『意図』を理解して……
「はい、大丈夫です」
と返しました
「ありがとう、じゃあ行こうか?」
「はい」
と彼らが去ってから私は目の前の瀬川さんに
「大丈夫ですか?」
と彼女に言いました
「え……」
彼女はなにか核心を突かれたかのように目を開けました
「な、なにがですか?」
と彼女は慌てて聞き返してきました。私は
「あなたはなにか、心の中に隠しています……それがなにかは理解はできません。ですが、とても大きくて暗い何かです……」
「……!?」
私は少し魅了の魔力を軽く応用して、彼女の心を開けようとしました。これは私がかつて明さんに使ったものです。明さんも1か月前は彼女のように心を閉ざしていました。そして、彼女は
「実は……」
彼女は自らの心に秘められた『歪み』を話しだしました。それはなんとも恐ろしい彼女の姉の『狂気』でした……
僕は今、仙田君を店の外に連れ出した僕は彼に対して単刀直入に
「ところで、仙田君・・・君・・・瀬川さんのことが好きなのかな?」
「ぶっ!!」
聞いたが反応からするとどうやら『あたり』らしい……ここまでわかりやすいとは……
「な、なにいってんですか!?何を根拠に……」
「あ〜、少し落ち着いて……だって、君、瀬川さんを見るたびに顔を赤らめてるよ?で……どうなんだい?」
「いや……その……」
彼は少し落ち着いてから彼は言った。どうやら、僕の押しに勝てないと理解できたらしい
「す、好きですよ……」
「へえ、やっぱり、どうして君はアドレスを聞かないのかい?」
「え、その……」
僕は自分の失敗談からなるべく彼には失敗してほしくなくて、聞いた。すると、彼は真摯な表情を僕の顔に向けてきた
「あの……九条さんは……七年前の『姉弟失踪事件』はご存じですか?」
「あ〜、あの確か世間が妙に騒いでたあれかい……?」
僕はその事件を知っている。と言うか、僕はあの事件が嫌いだ当時高校生だった僕は周囲が変に勝手な推測やらを立てて遊んでいたことを見ており、当時『感情』を押し殺してた僕でさえ、気に喰わなかった記憶がある。それと彼らがどう関係するのだろうか?
「実は……あの事件の被害者は瀬川の姉と弟なんですよ……」
「……!」
彼はそう言った。
なるほど……そう言うことか……
「あの事件からあいつの周りにはマスコミが付き纏って、学校の連中も瀬川のことを変な風に見たんですよ……」
「………………」
僕はそれを聞くたびに彼女がいかにして7年間も苦しんだのか理解できた。そして、目の前の彼も……
「あの時から瀬川は笑わなくなったんですよ……」
「……そうか」
『笑わなくなった』……人間にとっては『笑顔』とは大切なものだ……彼女はそれを失ってしまった……無理もない……自分にとって大切な肉親を二人も失ったんだ……そうなるのも仕方がない……
「俺……瀬川の笑顔が好きだったんですよ……あいつが笑うと俺も幸せだ気持ちになれた……」
「仙田君……」
彼はそう言った。僕はあの事件が巻き起こした『悲劇』を目の前にして理解できた
「俺が警察官になったのも二度と瀬川みたいな奴を作りたくないからなんですよ……」
彼は高潔な精神の持ち主だった
「だから、俺はあいつがまた、昔みたいに笑顔を向けられるようになるまでは……」
「それではダメだ……仙田君」
「え……」
僕は彼に敬意と共にある種の『苛立ち』を感じた。それはまるでかつてのマリちゃんと僕のようだった。互いを苦しめないために本当に互いが望んでいた『幸せ』を遠ざけた。そして、結局は僕は13年間もマリちゃんを苦しめた。
「いいかい?君は彼女を支えるべきだ」
僕はかつての自分を思い出して彼に言った
あの時の僕は『鬼』になろうとして『苦しみ』を耐えようとした。しかし、僕にはそれができず結局は『死』に逃げようとしようとした。だけど、そんな僕を救ってくれたのは……マリちゃんだった……だから、瀬川さんには『誰か』が必要だ……
「僕はかつての瀬川さんのように『感情』をなくしていた……いや、彼女より愚かで自分から『感情』を捨てようとしていたほどだ……だけど、そんな僕だから言える……手遅れになる前に動かなければ後悔することになる……」
恐らく、僕の勘が正しければ瀬川さんもかつての僕と……いや、それ以上の
『苦しみ』を背負っている気がした……だから、目の前の彼には後悔なんてして欲しくない……
『私はあなたが幸せなら、それだけで十分なんです……あなたが生きてるだけで十分良いんです……!!』
かつて僕が死の淵をさまよっている時にかすかに聞こえた夢だったかもしれないが確かに聞こえた僕の大切な女性の嘆き。それが今の僕の脳内に響いている。
今、彼女を救えるのは……目の前の彼しかいない……そして、最も後悔するのも彼だ……
「………………」
彼はしばらく、黙った。そして、
「九条さん……あなたがどんな人生を歩んできたかはわかりません……」
黙々と言ってきた
「だけど……これだけは言えます……俺は甘えていました……」
彼はそう、はっきりと言った……僕は
「そうか……」
と言うしかなかった……後は彼次第だ……
「そうだったのですか……」
私は瀬川さんの話を聞き終えました。彼女もかつての明さんと同じ哀しい過去を背負ってきたのです。いえ、明さんは裏切られたことはありますが彼を愛する人から拒絶されたことなどはありませんでした。
『存在の否定』……これは明さんも私も経験したことはありません……私は孤児でしたがそれでも両親が存命の時は愛されていましたから……まあ、父母双方の祖父母に拒絶されましたが……
「すみません……こんなことを初対面の人に話してしまって……」
「いえ、大丈夫ですよ……私は明さんと結婚する前までは教会で修道女をしていましたので……」
「そうだったんですか……あれ?修道女て結婚てできるんですか?」
彼女は疑問に思っていたので私は
「普通は結婚できませんが、還俗をすればできるんですよ?」
「そうなんですか……」
私は世間一般の修道女の話をしました。まあ、わたしは堕落神様に仕えているので、還俗なんてしなくても結婚はできますが。そして、私は非常に悩んでいます。仮に彼女をダークプリーストにしてもきっと彼女は家族のために『万魔殿』に行くことができません。彼女は優しすぎます。もしくは家族を捨ててまで『万魔殿』に向かってしまいます。しかし、それは魔物娘の『本能』で夫を愛することはできても自分の中の『罪悪感』に押しつぶされ余計に苦しめられるだけです。かつて、私が明さんの『幸福』を願って彼を見守ってきたことを考えると……『魔物娘』の『本能』を抑えるのはかなりの『苦痛』です……
どうすれば……そうだ!!
「瀬川さん、実はですね……おすすめのエステがあるのですがどうでしょう?少しは心の痛みが取れるかもしれませんよ?」
私はある知人が経営するエステを彼女に紹介しました。彼女とはステラを介して出会いましたが、この場合は彼女に任せる方が得策でしょう
「え、エステですか?……だけど……」
彼女はエステと聞いて値段を気にしたようです。ですが、ここで断られれば二度と目の前の女性を救うことができません
「大丈夫ですよ?私、そこのオーナーと友人でよく半額券をもらいますので」
私は13年間明さんを見守り続ける間に多くの女性を堕落神様に仕えるようにするために培った説得術で彼女を説得しました
「じゃあ……遠慮なく……」
よし!!
私は心の中でガッツポーズをしました
「茉莉、ただいま」
「あ、明さん」
明さんと仙田さんが帰ってきました。そして
「せ、瀬川……その……」
「なに?」
仙田さんがどうも緊張しながら瀬川さんに声をかけました。どうやら、明さんの方も成功したようです
「め、メアドを交換してくれないか……?」
彼は勇気を込めてそう言いました
「……いいよ?」
彼女は快く応えました。そして
「じゃあ、そろそろお別れとしない?茉莉?」
「ええ、そうですね……じゃ、瀬川さん……また」
「あ、はい……茉莉さん、その時はよろしくお願いします……」
私はそう言うと彼女は少し恭しく返しました。私たちが席を離れようとすると
「あ、九条さん!!」
仙田さんは明さんを呼び止めました
「どうしたんだい?」
「その……ありがとうございます!」
彼は明さんにお礼を言いました。すると、明さんは
「どういたしまして……じゃあ、後は君次第だよ?」
「はい!!」
と受け答えをして私たちは別れました。彼女たちと別れてからしばらくして
「ごめんね、マリちゃん……今日はデートだったのに……」
と明さんは私に謝ってきました。しかし、私はそんなことどうでもよかったです。なぜなら
「いえ、それよりも……まさか、あんな『過去』を持ってるなんて私が明さんでも放っておけませんよ……」
あの人たちを見ていると昔の私たちを思い出してしまい、ついお節介をやきたくなるんですよ……きっと、明さんも同じだったのでしょう……それに私は家族を失ったことがあります……だから、瀬川さんの気持ちは痛いほど理解できます……それに……これ以上、彼女の家族から家族を奪う訳にはいきません……
「そうだね……それじゃ、帰ろうか」
「はい……そうだ、明さん……」
私はあることを思いつき彼の腕を手に取り
「なに?」
「今日はデートが台無しになったので……夜は……」
と私は明さんを甘えるように誘惑しました。すると
「そうだね……わかったよ」
と彼は恥ずかしそうに笑顔で言いました
私は今日、自分の行動が信じられなかった。私は今日初対面の人に姉の『狂気』を話してしまった。だけど、私はなぜかそれに『不安』はなかった。なぜか彼女、いや、彼女たちには不信感が持てなかった。そして、私は今、困っていることがある。それは
『突然だけど、明後日どこかに遊びに行かない?』
と今日、久しぶりに再会した同級生から遊びに行くことを誘われてしまった。私は
『いいよ?』
と返信した。すると
『本当!?じゃあ、駅前に12時半に待ち合わせで』
と返ってきた
「これって……デートなのかな……?」
実は私は一度も男性と付き合ったことがない。だから、非常に困っている。
そして、鏡を見て
「大丈夫かな……」
私は女性として最低限の美容や化粧しかしてこなかった。だから、非常に不安だ。私は同時にあることを想像してしまった
『どうせ、好きになっても相手はどこかに行ってしまう』
―――ズキン―――
「嫌……嫌……嫌……嫌……!!」
私は頭を両手で抱えながらうずくまった。私は未だに怖かった。自分が好きになった人はどこかへ行ってしまうんじゃないの……と。そして、私はそれが怖くなりあることを思い出した
『おすすめのエステがあるのですがどうでしょう?少しは心の痛みが取れるかもしれませんよ?』
と言う言葉を……私は気休めでも良かった……少しでも、この『不安』を取り除けるなら……そして、今日教えてもらったばかりの茉莉さんの携帯に電話をかけた
目が覚めた私は時計を見た。すると
「ん?」
『9:32』と時計は時間を示していた。私はしばらく、呆然とした。そして
「あああああああああああああああああああああああ!?」
私はそれを見てパニックに陥った。そして
「マズイ!!マズすぎる!!」
慌てて携帯電話を探し始めた
「携帯……携帯……」
と携帯電話を探すために周囲を見渡した
「あった!!」
携帯電話を手に取りすぐにアドレス帳から職場に電話をかけた
―――prpr―――
―――ドクンドクン―――
携帯の呼び出し音と共に私の心臓の鼓動も早まったと思う。と言うよりは上司が電話に出るまでかなりの緊張が走った
どうしよう……きっと、怒っているよね……
―――ガチャ―――
―――ビクッ!!―――
『瀬川さん、どうしたんだ?こんな時間に電話をかけて?』
相手が電話に出たことに私は一瞬、動揺したけど、すぐに呼吸を整えて
「すいません、課長!!無断遅刻なんてしてしまい……」
『は?』
謝罪を行った。そして、続けて私は
「大変申し訳ございません!!今からそちらに向かいます!!」
とすぐに職場に向かうことを告げると
『ちょ、ちょっと待て!!』
課長は声を荒げてきた
なんだろう……?
「はい、なんですか?」
と私が聞くと
『君は今日から三日間休暇だろう!!』
「え?」
課長はそう言った。私は一瞬呆気に取られたが
「あ」
と昨日のことを思い出した。確かに昨日、課長は私に『休暇』を促していたような気がした
『まったく、仕事熱心なのはいいが、休む時には休め……』
と課長は呆れながら言ってきた
「すいません……」
と私が言うと
『いや、別に謝らくてもいい……とりあえず、しっかりと休むこと……それが今の君にとっての『仕事』だ……まあ、君にはいつも助けてもらっているから今もうちの課は君の分まで働いてる』
―――ズキン―――
「そうですか……」
『うん、ゆっくりと休んでくれ……重ねて言うが、君はうちの課にとって大切な人材だ。絶対に無理をしないように……わかったか?』
課長は私を気遣いながら休暇のことを強調してきた
「わかりました……」
『じゃ、いい休暇を過ごすように』
「はい、ありがとうございます……」
―――ガチャ―――
私は電話を切った後に課長の
『今もうちの課は君の分まで働いてる』
と言う言葉を思い出し、胸を締め付けられた。私はその言葉が怖い。まるで自分の『存在価値』がなくなるようで
『私は妹が嫌いだ。妹の存在が私を傷つける。』
姉の日記のとある文章が私の頭の中で再生されていく。これは姉の勝手な『悪意』だ。だけど、私にとって自慢の存在であり、愛していた肉親である姉からの『存在の否定』は私を『無価値』以下の存在に思わせる
嫌だ……二度と誰にも否定なんかされたくない……誰にも拒絶なんてされたくない……誰にも必要にされなくなるなんて嫌だ……
私は自分の醜い『願望』を自覚していた。だけど、それが醜悪だと理解しながら私はそれを捨てることなんてできない
「ごめんなさい……」
再び、私はもう会うこともできない姉に謝罪した。大好きな姉に
「おはよう、マリちゃん」
「おはようございます、明(あきら)さん」
僕は自分の妻であるマリちゃんに挨拶をした。僕とマリちゃんは1か月前に偶然(?)再会し結ばれ、その後入籍したばかりだ。いわゆる世間で言う『新婚夫婦』と言ったものだ。まあ、僕とマリちゃんは世間一般の『新婚』さんとは少し違うけど、僕は非常に幸せだ
あの日から、1か月か……今、思えば僕は本当に馬鹿だったのに彼女は僕を救ってくれた……本当に僕は幸せだ……
「あの〜、明さん?」
「ん、何?」
マリちゃんは僕に恥ずかしそうに質問してきた
「今日の約束……覚えていますよね?」
と嬉しそうに質問してきた。僕はその嬉しそうな顔につられて笑いながら
「もちろんだよ、今日のデートのことだよね?」
と答えた。すると、彼女は満面の笑みで
「はい!!じゃあ、急いで準備してきます!!」
「うん、僕も朝の紅茶を淹れておくから、後で一緒に飲もうね」
彼女は嬉しそうに二階の自室へと向かって行った。僕は自分のお気に入りの紅茶である『アールグレイ』を取り出してそれを2人分予め温めていたポットに入れて、お湯を注いだ
あぁ……この待ち時間もいいな……やはり、茉莉がいるだけで―――
「はあ〜……本当、バカップルの称号がお似合いですね……あなた方は」
「!?」
僕は聞き覚えのある声が聞こえたので振り向くとそこには……黒い翼を生や
し、肌が薄紫で頭上の光輪が淡い紫の輝きを放つ明らかに『堕天使』と言う表現が似合う少女
「ス、ステラさん……おはようございます」
「おはようございます。明さん」
マリちゃんの友人であり、僕と彼女を結ばせてくれた『恩人』のダークエンジェルのステラさんがいた
「い、いつからここに……と言うか、ご用は?」
「いや〜、あなた達のあまりの甘々しい雰囲気を再び水晶で見させてもら
い……ちょっと、からかいにきちゃいました♪」
「なっ!?」
僕は一瞬にして顔が真っ赤になったと思う。そして、彼女はかなりにやにやしている
こ、この人……絶対に昨日の夜も覗いていた気が……
「お待たせしまし―――て、ステラ!?」
「あ、おはようございます、茉莉(まり)」
「ど、どうしてあなたが!?」
「いや、その……マリちゃん落ち着い―――」
ま、マズイ!!
僕はステラさんの突然の訪問に驚くマリちゃんを落ち着かせなるべくマリちゃんに恥ずかしい思いをかかせないように努力するが
「いや〜、昨夜はお楽しみでしたね〜?」
「なああああああああああああああああ!?」
なんでこの人はあえて虎の尻尾を踏むようなことをするんだあああああああああああああああああああああ!?
彼女はわざとからかうようにマリちゃんに言った
「いや〜、お二人とも毎晩毎晩本当に激しいことで……ふふふ……」
「な、な、な!?」
あぁ……マリちゃんが完全に顔から火が出そうなぐらい顔が真っ赤になってるよ……僕もかなり恥ずかしいけど……
たとえ、マリちゃんが『魔物娘』とは言え……根は『乙女』なマリちゃんがこんなことに耐えられる筈が……年齢?……マリちゃんは永遠の『乙女』だ!!異論は認めない!!
「ステラ……いい加減にしないと……」
「あら?やりますか?」
あ、マズイ……これは完全に喧嘩モード突入だ……ここは僕が止めないと……なるべくなら、こんな手は使いたくないけど……仕方ない……
「ところで、ステラさん……一ついいですか?」
「ん?なんですか?」
「明さん、邪魔しないでください!!私は今からこのデバガメ痴女堕天使の腐った性根を叩き直す必要があるんです!!」
マリちゃん……『痴女』て……下手するとそれは『魔物娘』全体に当てはまるよ……
「とりあえず、マリちゃんも落ち着こう?今から暴れるとせっかくの洋服も汚れるよ?」
「そ、それはそうですけど……」
僕はこれからのデートのことを指摘することで抑えた。まあ、魔法があるから汚れなんかすぐに落としたり、魔力によって服を変えることができるけどそこは誤魔化せた。
これは彼女に新しい服を買ってあげないと……
「ふ〜……とりあえず、ステラさんいいんですか?こんなことをしていて……」
「え?」
僕はあることを告げる。
『女性』には失礼であまり使いたくないが……仕方ない……争いを止めるためだ……
「だって、『覗き』が趣味とか、それ……完全に変態の趣味ですよ?」
「なあ!?」
僕は世間一般の『常識』を彼女に残酷に告げた。すると、彼女はすぐに
「いや、ですけど……」
と口答えしようとするが僕はそれを許さず
「『ですけど』じゃないですよ?それにあなたいい人は見つかったんですか?」
「がはっ!!」
あ、今のかなりクリーンヒットした気がする……
実はステラさんは『独身』だ。見た目的にはマリちゃんの方が年齢が上に見
えるけどそれは種族によるものだ。マリちゃんに貸してもらった『魔物娘図鑑』を呼んだ結果、ダークエンジェルは基本『幼女体型』だと理解した。ちなみにマリちゃんはダークプリーストだ。あの図鑑に書かれていた『万魔殿』のことで僕は基本的にマリちゃんに頭が上がらない。そして、僕はトドメとして
「そんなんじゃ……あなた……一生『独身』ですよ」
「…………………………………………」
彼女はしばらく、固まった。マリちゃんも余りの恐ろしさに固まっている。というか、先ほどまで興奮していたがステラさんに『同情』の目を向けている。
魔物娘にとって一生独身とは……それほど恐ろしいものなのだ!!あと、マリちゃんごめん……あと少しで僕は君もそうさせてた可能性があるのに……そして、ステラさんはプルプルと身体を小さく震わせて……
「うわあああああああああああああああああああああん!!」
と泣き叫びながら飛び去って行った……
ごめんなさい……ステラさん……あとでなにかお詫びの品を贈ります……
「とりあえず、紅茶を飲みましょ?」
「うん……」
僕たちは気を取り直すために紅茶を飲んだ……今日の紅茶は『幸せ』の価値がよく分かる味と香りだった……
「映画か……」
私は今日は何をしようか迷って結局映画を観に行くことにした。だけど、私
はそれがさらなる虚しさを生んだ。
だって……
「お母さん、早く早く!!」
「もう……少しは落ち着きなさいよ、お母さんが困るでしょ?」
「いいのよ、それよりチケットを買うからポップコーンでも買ってらっしゃ
い」
「うん!!」
「行こう!!お姉ちゃん!!」
「あ、待ってよ」
目の前に子ども連れの家族がいたからだ。そこには母親と姉、そして、弟の三人の親子がいた。私はその子たちを見ていると晴太が7歳ぐらいの頃母親に連れられて映画館に行った記憶を思い出す。あの時観た映画は子供向けのアニメ映画だったけど、内容は中学生の私も楽しめるぐらいのストーリーだった。そんなことを思い出しながら私は胸を抑えることしかできなかった
〜二時間後〜
私はあるアクション映画を観た。だけど、映画の中の爆音を聞いても映画に集中することができず呆然としていた。すると
「ねえ、お姉さん1人?俺らと遊ばない?」
「いえ、お断りします」
「そんなつれないこと言わないで、ねえ?」
映画館を出てすぐに一人の女性が高校生ぐらいの5人の男たちに絡まれている。この時間帯に高校生がいるはずがないことを考えるとどうやら不良らしい。女性の方はカーディガンとロングスカートと言う恰好をしており、よく見ると顔だちは非常に整っており服装もあいあまって清楚さに溢れていた
「すみませんが、夫が待っていますので」
と彼女は左手を彼らに向けた。そして、その薬指には小さな菫色の宝石がついた指環があった。その宝石は見る角度によって色が変わっていた。どうやら、記憶が正しければアイオライトと言う宝石らしい
「え〜、でもあんた1人を待たせるとかダメ旦那だな」
「そうだぜ、そんな旦那よりも俺たちと遊ぼ〜」
と彼らは彼女が人妻なのにそれでもしつこく迫ってきた。しかも、旦那を侮辱しながら……私はそれに憤りを感じて介入しようとするが
――バチン!!―――
とてもいい音がした。見て見ると女性が不良の1人にビンタをかましたようだ。そして、彼女の顔は先ほどまで迷惑そうにしているだけだったが明らかに怒っていた
「取消してくれませんか?たしかにあの人は私のことを13年間も待たせましたけど、私にとってはあなた達と比べることすらおこがましいぐらい最高の夫です!!」
と静かに怒りを込めながら啖呵を切った……しかし、不良はすぐに立ち上がり
「てめぇ……なめやがって!!」
と彼女に殴りかかろうとした。しかし、それが彼女を傷つけることは叶わなかった。なぜなら
―――ガシッ―――
彼女を傷つけようとした腕は別の誰かに手によって止められていたからだ
「んだ!?てめえ!!」
そして、それをよく見ると顔がよく整い、爽やかな顔をした男性だった
「彼女の旦那だよ」
と彼は自らの左手の薬指を見せた。そこには紫水晶がはめ込まれた指環があった。不良に冷静にそう冷静に言うがその目には目の前の女性を傷つけようとした存在に対して怒りが込められていた……
「明さん!!」
「マリちゃん、ごめんね待たせちゃって……少し、チケット買うのに時間がかかちゃって……」
と彼は優しく、自分の妻に言った。しかし、その手は彼女を傷つけようとした腕を決して離そうとしない
「てめえ……とっとと離し―――いてててててて!!」
「あぁ……ごめん、今の僕……ものすごく機嫌が悪いんだ……なにせ僕……
『人間』だから」
と彼はどうやら力を少し込めたらしい。不良の顔は痛みに歪んだ。他の不良たちも目の前の男性の底知れない何かに恐怖を抱き、固まるしかなかった事態
は膠着するが
「そこのお前ら何してる!!」
「げ!!サツだ逃げんぞ!!」
「お、おう」
「あ、おい待ってくれ!!」
と警察官が来たことで不良たちは散を乱して逃げ出した。男の人は不良の腕を離した。そして、警察官は彼の前に立ち
「失礼ですが、少しお話を伺っても?」
質問するが
「ええ、どうぞ」
彼は紳士的にそれに協力した
「あと、あなたも一応お話を……」
「あ、はい」
と彼女にも職質をしようとした。しかし、彼らには非はないと言うと嘘になるが先に原因を作ったのはあの不良たちだ。私は彼らを放っておくことができず
「あの、すいません……」
「なんですか?」
と警察官にことの次第を話そうとした。すると
「ん?」
警察官は私の顔を見た瞬間、なにかに気づいたらしい。そして
「もしかすると……瀬川……?」
「え?」
と警察官は私の名前を言ってきた。彼の顔をよく見るとある人を思い出し
「仙田(せんだ)君……?」
と高校時代の同級生の名前を言った。すると彼は嬉しそうに
「やっぱり、瀬川か!!久しぶり!!」
「う、うん……久しぶり」
私は懐かしい友達に会えたことに喜びを感じた
「ところでどうしたんだ?」
「あ、実はね……」
私は彼にこの状況について説明した。すると、彼は
「ふ〜ん、なるほどね……なら、今回は不問にするよ」
と軽く言った
「いいんですか?」
それに件の男性は尋ねてきた。すると彼は
「俺は善良な一般市民を守るのが仕事ですから」
と何の屈託もなく答えた。しかし、男性は申し訳なさそうな顔をした
「そうですか……ですけど、それだと僕の気が収まらない……そうだ、お聞きしたいのですが今日の夕食の予定は?」
「いえ、別にありませんが?」
「なら、ご一緒にいかがですか?そこの彼女も交えて」
「え、ですが……」
私は仲睦まじい夫婦のデートを邪魔する気がしたので断ろうとするが
「いいんですよ?私は夫と一緒にいられれば……ですよね?」
と奥さんの方からフォローしてきた、そして夫にそのことを確認させ
「うん、僕も君といられればいい……ダメですか?」
夫の方もそれを『是』と答えた……こうなると、断ることができず私たちは頷いた……
「九条さんてもしかすると紅茶好きですか?」
「そ、そうだけど……どうしてわかったの?」
「いえ、その……私はある通商会社に勤めていて……」
「あ〜、あの会社の人か……」
「す、すいません」
「いや、別に気にしていないから大丈夫だよ」
「すみません……」
今、私たちは明さんが見つけたレストランで少し夕食を食べています。明さんは仙田さんに配慮して彼が仕事を終えてからこの場所に誘いました
今日は散々です……朝はステラにからかわれ、先ほどは不良に絡まれ、挙句には夫を馬鹿にされて……もし、あの時、明さんが来てくれなかったら確実に魔法を使ってでもボコボコにしているところでした……まあ、そのお陰で新しい友人である瀬川さんたちに出会えたことを考えると悪いことばかりじゃないのですが……でも、瀬川さんにはなぜか、かつての明さんと同じ雰囲気が漂っている気がします……
「そうだ、仙田君……少し男同士で話をしたいんだけどいいかな?」
「え?まあいいですけど……」
「じゃあ、茉莉……僕は少し、席を離れるけど……いいかい?」
と彼は私になにかを伝えるように言ってきました。私はその『意図』を理解して……
「はい、大丈夫です」
と返しました
「ありがとう、じゃあ行こうか?」
「はい」
と彼らが去ってから私は目の前の瀬川さんに
「大丈夫ですか?」
と彼女に言いました
「え……」
彼女はなにか核心を突かれたかのように目を開けました
「な、なにがですか?」
と彼女は慌てて聞き返してきました。私は
「あなたはなにか、心の中に隠しています……それがなにかは理解はできません。ですが、とても大きくて暗い何かです……」
「……!?」
私は少し魅了の魔力を軽く応用して、彼女の心を開けようとしました。これは私がかつて明さんに使ったものです。明さんも1か月前は彼女のように心を閉ざしていました。そして、彼女は
「実は……」
彼女は自らの心に秘められた『歪み』を話しだしました。それはなんとも恐ろしい彼女の姉の『狂気』でした……
僕は今、仙田君を店の外に連れ出した僕は彼に対して単刀直入に
「ところで、仙田君・・・君・・・瀬川さんのことが好きなのかな?」
「ぶっ!!」
聞いたが反応からするとどうやら『あたり』らしい……ここまでわかりやすいとは……
「な、なにいってんですか!?何を根拠に……」
「あ〜、少し落ち着いて……だって、君、瀬川さんを見るたびに顔を赤らめてるよ?で……どうなんだい?」
「いや……その……」
彼は少し落ち着いてから彼は言った。どうやら、僕の押しに勝てないと理解できたらしい
「す、好きですよ……」
「へえ、やっぱり、どうして君はアドレスを聞かないのかい?」
「え、その……」
僕は自分の失敗談からなるべく彼には失敗してほしくなくて、聞いた。すると、彼は真摯な表情を僕の顔に向けてきた
「あの……九条さんは……七年前の『姉弟失踪事件』はご存じですか?」
「あ〜、あの確か世間が妙に騒いでたあれかい……?」
僕はその事件を知っている。と言うか、僕はあの事件が嫌いだ当時高校生だった僕は周囲が変に勝手な推測やらを立てて遊んでいたことを見ており、当時『感情』を押し殺してた僕でさえ、気に喰わなかった記憶がある。それと彼らがどう関係するのだろうか?
「実は……あの事件の被害者は瀬川の姉と弟なんですよ……」
「……!」
彼はそう言った。
なるほど……そう言うことか……
「あの事件からあいつの周りにはマスコミが付き纏って、学校の連中も瀬川のことを変な風に見たんですよ……」
「………………」
僕はそれを聞くたびに彼女がいかにして7年間も苦しんだのか理解できた。そして、目の前の彼も……
「あの時から瀬川は笑わなくなったんですよ……」
「……そうか」
『笑わなくなった』……人間にとっては『笑顔』とは大切なものだ……彼女はそれを失ってしまった……無理もない……自分にとって大切な肉親を二人も失ったんだ……そうなるのも仕方がない……
「俺……瀬川の笑顔が好きだったんですよ……あいつが笑うと俺も幸せだ気持ちになれた……」
「仙田君……」
彼はそう言った。僕はあの事件が巻き起こした『悲劇』を目の前にして理解できた
「俺が警察官になったのも二度と瀬川みたいな奴を作りたくないからなんですよ……」
彼は高潔な精神の持ち主だった
「だから、俺はあいつがまた、昔みたいに笑顔を向けられるようになるまでは……」
「それではダメだ……仙田君」
「え……」
僕は彼に敬意と共にある種の『苛立ち』を感じた。それはまるでかつてのマリちゃんと僕のようだった。互いを苦しめないために本当に互いが望んでいた『幸せ』を遠ざけた。そして、結局は僕は13年間もマリちゃんを苦しめた。
「いいかい?君は彼女を支えるべきだ」
僕はかつての自分を思い出して彼に言った
あの時の僕は『鬼』になろうとして『苦しみ』を耐えようとした。しかし、僕にはそれができず結局は『死』に逃げようとしようとした。だけど、そんな僕を救ってくれたのは……マリちゃんだった……だから、瀬川さんには『誰か』が必要だ……
「僕はかつての瀬川さんのように『感情』をなくしていた……いや、彼女より愚かで自分から『感情』を捨てようとしていたほどだ……だけど、そんな僕だから言える……手遅れになる前に動かなければ後悔することになる……」
恐らく、僕の勘が正しければ瀬川さんもかつての僕と……いや、それ以上の
『苦しみ』を背負っている気がした……だから、目の前の彼には後悔なんてして欲しくない……
『私はあなたが幸せなら、それだけで十分なんです……あなたが生きてるだけで十分良いんです……!!』
かつて僕が死の淵をさまよっている時にかすかに聞こえた夢だったかもしれないが確かに聞こえた僕の大切な女性の嘆き。それが今の僕の脳内に響いている。
今、彼女を救えるのは……目の前の彼しかいない……そして、最も後悔するのも彼だ……
「………………」
彼はしばらく、黙った。そして、
「九条さん……あなたがどんな人生を歩んできたかはわかりません……」
黙々と言ってきた
「だけど……これだけは言えます……俺は甘えていました……」
彼はそう、はっきりと言った……僕は
「そうか……」
と言うしかなかった……後は彼次第だ……
「そうだったのですか……」
私は瀬川さんの話を聞き終えました。彼女もかつての明さんと同じ哀しい過去を背負ってきたのです。いえ、明さんは裏切られたことはありますが彼を愛する人から拒絶されたことなどはありませんでした。
『存在の否定』……これは明さんも私も経験したことはありません……私は孤児でしたがそれでも両親が存命の時は愛されていましたから……まあ、父母双方の祖父母に拒絶されましたが……
「すみません……こんなことを初対面の人に話してしまって……」
「いえ、大丈夫ですよ……私は明さんと結婚する前までは教会で修道女をしていましたので……」
「そうだったんですか……あれ?修道女て結婚てできるんですか?」
彼女は疑問に思っていたので私は
「普通は結婚できませんが、還俗をすればできるんですよ?」
「そうなんですか……」
私は世間一般の修道女の話をしました。まあ、わたしは堕落神様に仕えているので、還俗なんてしなくても結婚はできますが。そして、私は非常に悩んでいます。仮に彼女をダークプリーストにしてもきっと彼女は家族のために『万魔殿』に行くことができません。彼女は優しすぎます。もしくは家族を捨ててまで『万魔殿』に向かってしまいます。しかし、それは魔物娘の『本能』で夫を愛することはできても自分の中の『罪悪感』に押しつぶされ余計に苦しめられるだけです。かつて、私が明さんの『幸福』を願って彼を見守ってきたことを考えると……『魔物娘』の『本能』を抑えるのはかなりの『苦痛』です……
どうすれば……そうだ!!
「瀬川さん、実はですね……おすすめのエステがあるのですがどうでしょう?少しは心の痛みが取れるかもしれませんよ?」
私はある知人が経営するエステを彼女に紹介しました。彼女とはステラを介して出会いましたが、この場合は彼女に任せる方が得策でしょう
「え、エステですか?……だけど……」
彼女はエステと聞いて値段を気にしたようです。ですが、ここで断られれば二度と目の前の女性を救うことができません
「大丈夫ですよ?私、そこのオーナーと友人でよく半額券をもらいますので」
私は13年間明さんを見守り続ける間に多くの女性を堕落神様に仕えるようにするために培った説得術で彼女を説得しました
「じゃあ……遠慮なく……」
よし!!
私は心の中でガッツポーズをしました
「茉莉、ただいま」
「あ、明さん」
明さんと仙田さんが帰ってきました。そして
「せ、瀬川……その……」
「なに?」
仙田さんがどうも緊張しながら瀬川さんに声をかけました。どうやら、明さんの方も成功したようです
「め、メアドを交換してくれないか……?」
彼は勇気を込めてそう言いました
「……いいよ?」
彼女は快く応えました。そして
「じゃあ、そろそろお別れとしない?茉莉?」
「ええ、そうですね……じゃ、瀬川さん……また」
「あ、はい……茉莉さん、その時はよろしくお願いします……」
私はそう言うと彼女は少し恭しく返しました。私たちが席を離れようとすると
「あ、九条さん!!」
仙田さんは明さんを呼び止めました
「どうしたんだい?」
「その……ありがとうございます!」
彼は明さんにお礼を言いました。すると、明さんは
「どういたしまして……じゃあ、後は君次第だよ?」
「はい!!」
と受け答えをして私たちは別れました。彼女たちと別れてからしばらくして
「ごめんね、マリちゃん……今日はデートだったのに……」
と明さんは私に謝ってきました。しかし、私はそんなことどうでもよかったです。なぜなら
「いえ、それよりも……まさか、あんな『過去』を持ってるなんて私が明さんでも放っておけませんよ……」
あの人たちを見ていると昔の私たちを思い出してしまい、ついお節介をやきたくなるんですよ……きっと、明さんも同じだったのでしょう……それに私は家族を失ったことがあります……だから、瀬川さんの気持ちは痛いほど理解できます……それに……これ以上、彼女の家族から家族を奪う訳にはいきません……
「そうだね……それじゃ、帰ろうか」
「はい……そうだ、明さん……」
私はあることを思いつき彼の腕を手に取り
「なに?」
「今日はデートが台無しになったので……夜は……」
と私は明さんを甘えるように誘惑しました。すると
「そうだね……わかったよ」
と彼は恥ずかしそうに笑顔で言いました
私は今日、自分の行動が信じられなかった。私は今日初対面の人に姉の『狂気』を話してしまった。だけど、私はなぜかそれに『不安』はなかった。なぜか彼女、いや、彼女たちには不信感が持てなかった。そして、私は今、困っていることがある。それは
『突然だけど、明後日どこかに遊びに行かない?』
と今日、久しぶりに再会した同級生から遊びに行くことを誘われてしまった。私は
『いいよ?』
と返信した。すると
『本当!?じゃあ、駅前に12時半に待ち合わせで』
と返ってきた
「これって……デートなのかな……?」
実は私は一度も男性と付き合ったことがない。だから、非常に困っている。
そして、鏡を見て
「大丈夫かな……」
私は女性として最低限の美容や化粧しかしてこなかった。だから、非常に不安だ。私は同時にあることを想像してしまった
『どうせ、好きになっても相手はどこかに行ってしまう』
―――ズキン―――
「嫌……嫌……嫌……嫌……!!」
私は頭を両手で抱えながらうずくまった。私は未だに怖かった。自分が好きになった人はどこかへ行ってしまうんじゃないの……と。そして、私はそれが怖くなりあることを思い出した
『おすすめのエステがあるのですがどうでしょう?少しは心の痛みが取れるかもしれませんよ?』
と言う言葉を……私は気休めでも良かった……少しでも、この『不安』を取り除けるなら……そして、今日教えてもらったばかりの茉莉さんの携帯に電話をかけた
13/09/19 16:37更新 / 秩序ある混沌
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