「私と一緒に、『王の谷』に行ってくれないかしら？」
冒険者のたむろする、冒険者への依頼仲介人を兼ねた酒場。
しかし、今となってはあまり人がいない。
一人でカウンターに座ってビールを煽っていると、女が俺にこう話しかけてきた。
見たところ、美女。そうとしか表現できない。
緑色の長い髪を後ろで結んで垂らしているのだろう。ちらちらと腰のあたりから髪が左右に揺れているのが見える。
服装はかなり軽装だ。肩が出ていて、その豊満な胸だけを隠すような、露出度の高いものだ。
下はといえば、これまたタイトなホットパンツ。下手をすれば痴女、と言われてもおかしくない。
「『王の谷』？」
「そう、ここから歩いて二日ほどの距離にある『王の谷』」
『王の谷』。
昔にこの近辺に栄えた王国の王が葬られたと言われている谷。
確かに、あそこは貴重な金品がたくさんあったようだ。
俺は、長い緑の髪の女を見ながら質問を投げかける。
「確か、あそこはもう探しつくされたはずだが」
そう。
『王の谷』には、たくさんの王墓があったのは事実だ。
だが、そこに眠っていた財宝はほとんどが盗掘者は冒険者によって回収されたはずだ。
歴史的な意味合いでも、物好きな歴史家達が探索をほとんどし終えたと聞いている。
この酒場は、『王の谷』の発掘の時はもう盛況、などという次元ではなかったらしい。
が、冒険者たちの興味が失せると、自然とこの店からも足を向けなくなる。
自然と、客が俺と目の前の女しかいないようなさびれた店になる。
目の前の女は、俺の隣に座って、ビールを一杯マスターに頼む。
「確かめたいことがあるの」
「その内容は？」
「……申し訳ないけど、言えないわ」
その人目をひくであろう、大きい金色の瞳は、伏せがちだった。
普段の俺なら、普通はこんな依頼は受けない。
だが。
「仕方ない、付き合ってやる」
「ほんと！？」
女の伏せられていた眼が、大きく開いた。美女の顔に似つかわしい、いい笑顔だ。
「それと、金は要らん。俺の単純な興味だ」

歩くこと、二日。
道自体は過去の発掘のために整えられていたため、非常に歩きやすかった。
道中、魔物に出くわすこともなかった。
山に近くなればハーピーぐらいは出てきてもおかしくないのだが、今回ばかりは出てこなかった。
「あなた、変な人ね」
『王の谷』へ向かう途中、彼女とは多少の話をした。
「どういう意味だ？」
「路銀にもならないのに、私の依頼を受けるなんて」
彼女は、前を見たまま、歩いている。
「単純な興味、だと言っただろう」
「その、左手」
俺の左手にまかれた包帯を彼女は指さした。
魔法をつかさどるルーン文字が描かれた包帯。
しかも、それを聖水で清められた針で留めている。
「その呪いのせいなのかしら、あなたの変人ぶりは」
「好奇心が強いだけだ」
そう、好奇心が強いだけ。
その分、大きすぎる「代償」も払ったのだが。
「何の呪いなの？」
彼女は、「呪い」の話題を気兼ねなく質問してくる。
「お前も充分変わってるな」
「そうかしら？」
眼をぱちくりさせた。
「普通の人間は『呪い』なんて話題でも触れたくないからな」
「あら、少しばかりは『呪い』に明るくてよ？」
彼女は、にこ、と笑う。
その笑顔に毒気を抜かれた俺は、軽く息を吐いてから言葉を紡ぐ。
「簡単に言えば、『死』の呪いだ」
「『死』の呪いねえ……『デアスの呪い』かしら？」
「よく一発で出たな」
『デアスの呪い』。
非常に簡単で、そして非常に強力な『死』の呪い。
方法さえ知っていれば、それこそ誰でも使える、簡単な呪い。
呪いを受けたものは、身体の末端の一つから徐々に呪いが進行する。
その呪いは、肌が黒い紋様に覆われるため、発見も簡単だ。
そして、黒い紋様が胸、心臓に達した時、死にいたる。
『デアスの呪い』が与えるのは、絶対的な『死』だ。
しかし、この『デアスの呪い』の真の恐ろしさは、そこではない。
もちろん、こんな呪法はそうそう知られていない。知られるわけにはいかない。
それが一発で出る、ということは、確かに「呪い」に明るいようだ。
「見たことあったから」
「……そうか」
彼女の顔は、彼女が少し足を速めたせいで見えなかった。

「ここが『王の谷』か」
着いた場所は、山の奥深く。
それこそ、切り立った崖に挟まれた、まさに「谷」そのもの。
今いる場所は、谷の入り口。
入口から、だんだんと下へ下へと降りて行き、その途中途中に発掘されたとおぼしき跡がある。
「あまり護衛の意味はなかったかもしれないわね」
「確かにな、だがこの光景を見られただけでも充分だ」
苦笑する彼女に、俺は言った。
俺の好奇心をくすぐるほどに、この光景は素晴らしかった。
下へ伸びていく、道。
その間に、綺麗に等間隔である横穴。おそらくは有力者の墓だろう。
そして、一番奥に伸びていく神殿。
左右が断崖絶壁であることも、この光景を印象的にする要素となっていた。
「それはよかったわ。私についてきて」
彼女は、坂をゆっくりと下って行く。
俺はその後ろを、彼女の様子をうかがいながらついていった。
ずっと気になっていた。彼女は「確かめたいこと」がある、と言っていた。
わざわざあらかた探しつくされた『王の谷』に赴くのだ。
何かしらの理由があるに違いない。
だが。
彼女は、この『王の谷』には初めてきたらしい。
周りをきょろきょろと見ている。これで、本当に目的地にまでいけるのだろうか。

とうとう、一番奥の神殿の入り口まできてしまった。
彼女は、壁に書かれた当時の文字を、指でなぞりながら眺めている。
「読めるのか？」
「ええ」
やはり、おかしい。
絵にしか見えない文字の一つ一つを、流れるように見ていく彼女。
それこそ、俺たちが今の文章を流し読みするかのように。
周囲を興味深げに見ていたことから、彼女はここに来たのは初めてのはず。
なのに、なぜ彼女はここに書かれた文字を、当時の文字を読める？
「この先みたいね」
「神殿の奥か？」
「ついてきてくれる？」
表情がころころ変わる彼女の、初めてみせた真剣な表情。
なんだ、この違和感は。
何が違う。認識してはいるが、気付けない。なんだ？
「……ああ」
だが、それもこの先に行けば、確かめられるはずだ。
証拠は何もない。だが確実な予感があった。

「そういえば」
前を歩く彼女が、俺に問いかける。
「ここに納められている王って、誰なの？」
「知らないできたのか？」
「確認したいだけよ」
彼女は、ずっと前を向いて歩いている。
「ここに納められているのは、１３代から１７代だ」
「そう」
「特に１７代は『悲劇の王』と言われている」
「どうして？」
「１７代は、誰もが認める王だったが若くして死んだからだな」
「そうなの」
「旅に出て、帰ってきて、すぐに亡くなった」
「……」
「旅先で病気に侵された、と言うのが一般的だ」
「そう、なの」
「そして、彼が侵された病気が王国中に蔓延し、この王国は滅んだと言われている」
彼女は、無言になった。

「ここ、ね」
彼女が立ち止まったのは、王の遺体が納められていた石室。
「ここは……１７代の王だな」
少なくともそれくらいは分かる。
何も言わず、彼女は石室の中へ入って行く。俺も続いて入る。
「これはすごいな」
中の壁は、文字でいっぱいだった。
確か、王は死ぬ前に自らが納められる石室に、メッセージを刻むはずだ。
古代では魂の清純なものは「復活」することが信じられていた。
その「復活」した際の自分に残す、メッセージ。
一体なんなのだろうか。
彼女は、石室の中心にある棺には眼もくれず、周囲の文字を読みだした。
棺の中には、ぽつんと、この石室の住人が横たわっていた。
俺は、棺の縁に腰をかけ、彼女を見つめた。
一心不乱に、壁に刻まれたメッセージを読む彼女。
何を読んでいるのだろう。
彼女は、何を確かめたいのだろう。
「あぁ……ッ！」
文字を解読していた彼女が、棺を向いた。
「な、どうした！？」
彼女は俺の言葉に意を介さない。そのまま、棺にすがりつき、泣き崩れる。
いや、意に介さなかった、のではない。
俺の言葉など、入っていない。
おそらく、答えを返す余裕もないのだろう。
俺は、彼女が漏らす嗚咽を、ただ聞くことしかできなかった。

「……そう」
泣きやんだ彼女は、一言だけつぶやいた。
「なあ」
俺は、棺の縁から降りて彼女に言う。
「この依頼の『報酬』の話なんだが」
「……何？」
「お前は、何を知りにここへ来た？　それを教えてくれ」
彼女は、ずっとこちらを見ない。
「……分かったわ」
す、とたちあがる彼女。
「でもその前に、私が『何か』を知っておくべきね」
その言葉と共に、彼女が光り始めた。
そして光と共に、彼女の身体、特に足が変わり始めた。
「な！？」
光が収束する。現れたのは、
「エキドナ……！？」
目の前には、大きな蛇の下半身を持った、エキドナがいた。
顔は、あの美女だ。
違和感の正体は、これか。目の前の『人間』は、人間ではなかったのだ。
だが、まだ違和感はぬぐえない。
普通、エキドナはダンジョンの奥で待ち構えているはず。
人間の街へ出てきても、冒険者を欺いて自らの住処であるダンジョンにおびきよせるぐらいだ。
だが、目の前の彼女は違った。
自分の住処でもない『王の谷』へ、「何かを確かめる」目的だと言ったのだ。
何を確かめるというのだ。
「……ここに眠っていた王は、私の、かつての恋人よ」
「なっ！？」
「といっても、初夜もなかったから恋人、と言っていいのかどうかもわからないのだけどね」
彼女は、自嘲めいた笑顔を見せた。
美しいから、笑顔は様になる。だが、心に突き刺さる笑顔だ。
「彼は、確かに素晴らしい人だったのよ。でも、ある人間の『呪い』から、私を守って」
「代わりに、『呪い』を受けた」
「そう。そして、『君にうつすわけにはいかない』と言って、私の下から去ってしまった」
「……呪いを『うつす』？　……まさか！」
この１７代が死んだ、理由は。
この王国が滅んだという、彼が持ち込んだ「病気」は！
「『デアスの呪い』だってのか！？」
そう。
『デアスの呪い』の、真の恐ろしさは「感染する」ことだ。
黒い紋様の浮かんだ箇所に「触る」と、触れた箇所にも『デアスの呪い』がうつるのだ。
手で触ったら手に、足で触ったら足に、顔が触れたなら顔に。
しかも、うつした側の呪いは消えることはない。
それこそ、解呪の方法がなければ、爆発的に「感染者」は増える。
「ってことは、この王国を滅ぼしたのは――」
「間接的に、私、でしょうね」
彼女は言った。
おそらくは、自らに対する自傷。
「私は、去っていった彼の『呪い』を治すために、ありとあらゆる『呪い』を必死になって調べた」
彼女が「呪い」に明るかった理由。
「呪い」と聞いて、あまり有名ではない『デアスの呪い』が真っ先に出た理由。
全ては、かつての恋人がかかったのが、『デアスの呪い』だったからなのだ。
「そして、彼を探した」
俺は、黙って彼女の独白を聞いている。
「でも、その王国は『どこにもなかった』」
「滅んでいたから、か」
彼女は首肯する。
「そして、王が葬られた土地は厳重に秘匿されていて、私にはわからなかった」
大きな金色の瞳からは、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
「でも、やっと見つけたのよ！　彼が眠る、この場所を！！」
彼女の思いの丈が、言葉を強くした。
「……俺を連れてきた理由は、なんだ？」
「それは」
彼女は、視線を俺から外した。
「私にも、分からない。でも、あなたなら、きっと」
何を言おうとしているのかが分からない。あまりに漠然としすぎている。
が、今の彼女に、そのことを言うことはためらわれた。

「とにかく、ここを出よう。話はそれからだな」
「……ええ」
俺は彼女より先に、石室の外へ出ようとした。
だが。
入口の上から、巨大な壁が落ちてきた。
「なっ！？」
その壁は、入口を塞ぐように落ちてきた。
発掘されたときは、こんなもの、落ちてこなかったはずだ。
今の今になって、なぜ落ちてきた。
「お前かッ！？」
俺は彼女に対し、敵意を向けた。腰に下げた剣の柄に手をかける。
彼女は、エキドナ。
ダンジョンの奥で、冒険者を待ち構える魔物。
「ち、違うわ！　私、こんなの知らない……！！」
だが、彼女の動揺の仕方からして、違うようだ。
そもそも、ここは「王の眠る石室」。彼女の住処とは、だいぶ違うはずだ。
と。
俺は、棺が淡く、紫色に光っているのを見た。
「おい、離れろ！！」
俺の言葉に反応したエキドナは、素早く棺から離れた。
入口のそば、俺の隣にきた彼女は、目の前の棺から浮かび上がる「モノ」を見た。
「あれは……！？」
その「モノ」の瞳は、ギラギラと光っていた。
横たわった状態から、ゆっくりと足を下に、立つような姿勢に動く。
死者が「復活」する。
これで見るのは、二度目か。
『サニー……』
「……！！」
目の前の、死者が喋った。彼女が「サニー」に反応する。
いや、正確に言えば「精神に語りかける」と言った方が分かりやすいかもしれない。
「私が、分かるの！？」
『……ああ……分かるとも……』
意外と言葉ははっきりとしている。
「彼」は、にたり、と笑った。
『私を、殺した魔物の名など、忘れるはずがないわァッ！！』
「！？」
どういうことだ。
彼女は、「彼が代わりに『呪い』を受けた」と言った。
だが、目の前の「彼」は違う。一体、どっちが正しい……？
「嘘、嘘よ」
へた、と、彼女が崩れる。茫然自失。
「こんなの、彼じゃ、ない」
彼女が嘘をついているようには、見えなかった。
「こんな彼、見たくない」
耐えきれずに顔を伏せた彼女に、「彼」は容赦なく襲いかかる。
『死ねィ！！』
「待て」
「！」
俺の言葉に、二人が止まった。
彼女は、顔をこちらに向けた。「彼」は、文字通り動きを止めた。
俺は、左手の「封印」を、解き始める。
聖なる釘を抜き、一つ一つを剣の鞘に巻いた布に挟む。
『なんだァ、貴様ァ』
数千年も前の「彼」が蘇った理由は分からない。
だが、今の言葉を聞く限り、「誰にでも認められる王」の面影はない。
死者が蘇生する際には、必ず精神に「ゆがみ」が生じる。
少なくとも精神が「ゆがんで」しまった者は、この目で見たことがある。
そして、彼は数千年も時を経ているのだ。ならば、記憶にも「ゆがみ」が発生したに違いない。
この周りに刻まれたメッセージは、「ゆがんだ」記憶を修正するためのものなのかもしれない。
「死者はな」
左手の包帯を取り終えた。
一気に、左手から瘴気があふれ出る。これが、『デアスの呪い』だ。
一気に彼我の距離を詰め、左拳を「彼」の胸へぶち当てる。
「死んでいるべきだッ！！」
もちろん、殴ることそれ自体が目的ではない。左拳にまとわりつく、『デアスの呪い』の「感染」。
それも、心臓に一番近い「胸」だ。
『……が……ァッ……！！』
胸を抑え、苦しむ「彼」。
即座に、包帯をきつく巻きあげ、釘で留める。少し呪いが進行してしまったか。
彼女は「彼」の姿を、声も出せずにただ見るしかできなかった。
数秒も経たないうちに、一気に紋様が全身を駆け巡った。
『デアスの呪い』が心臓にまで達した瞬間だ。それは絶対的な『死』を告げる瞬間。
そこで、「彼」はこちらに顔を向けた。
その顔は、死者のそれではなく、優しげな顔に見えた。
『すまない、サニー。そしてありがとう、旅の者』
投げかけられた言葉は、慈愛に満ちた、優しげな言葉だった。
そして、「彼」の身は崩れた。
「うわあああああああああ！！」
彼女は声をあげた。俺は、見ているだけしかできなかった。
『デアスの呪い』は、絶対的な『死』。
肉体も精神も『死』を迎える。「彼」は二度と「復活」することはないだろう。

そこから、十数分。
入口を塞いでいた壁を剣で切り崩した俺は、彼女の手を引き、神殿内部を外へ向かって歩いている。
二人とも、無言だ。
この沈黙は、痛い。
「ねえ」
その沈黙を破ったのは、彼女の方だった。
「『死者は死んでいるべきだ』って、どうして？」
彼女は、小さな、それこそ消えそうな声で、絞り出すように言った。
「昔、ある少年がいた」
彼女は黙って聞いている。
「その少年は、死んでしまった幼馴染の、心やさしい少女を、蘇らせようとした」
「！」
「それは『蘇ってほしい』という切なる願いではなく『蘇ったらどうなるのだろう』という下衆な好奇心」
「……」
「試行錯誤を重ねて、ようやくその少女は『復活』した」
俺は、今でも湧き上がる後悔の念を、押し殺して言う。
「そして少女は、少年に対して言ったのさ」
「何て……？」
「『一緒に、死ね』」
「！！」
「そして、少女は少年に『デアスの呪い』をかけ、『再び』死んだ」
「そん、な」
「少年は偶然その村に滞在していた神父に『封印』をしてもらって生き永らえた」
俺は、吐き出す。
「『死者は再び得た命を投げ捨てた。生者を殺すためだけに』」
声が震えた。
「少年は後悔し、恐怖した。『タブー』に対するあまりにも軽々しい己の好奇心に」
いや、「後悔し、恐怖している」と言った方が、正しいのかもしれない。
「そして、自らの無力さに」
彼女は、黙っている。
「少年はすぐに村から追放された。外法に手を染めた罪人として」
「……」
「その少年は、なんとかして生き永らえ、今ここに居る」
「そう、だったの」
外に出る。もうすでに夕暮れになっていた。
「俺は、人の死を弄んだ罪人さ」
「王国を滅ぼした大罪人より、幾らかマシね」
「ちげえねえ」
二人は、軽く笑いあった。

「さて、どうすっかな」
町に戻ってきて、背伸びをしながら俺はつぶやいた。
「そのことなんだけど」
「なんだ？」
緑髪の美女―すでに「人間になって」いる―は、言いにくそうに言葉を俺に投げる。
「『デアスの呪い』の解呪法なんだけど、私知ってるわ」
「なに！？」
「ただ、そのためには材料が必要なの」
彼女の言葉から、俺は真意を察知した。
「……何が必要だ？」
「『ティアマトの真珠』と『エンリルの羽根』、そして『ユグドラシルの実』」
「あー、独りじゃあ無理だなー」
しらじらしく言った俺の言葉に、彼女の顔が輝いた。
今までで、一番のいい顔だ。
「じゃあ！！」
俺は彼女に向けて、に、と笑う。
「付き合ってくれるか？」
「もちろん！　ありがとう！」
俺の手を両手で力強く握り、とびっきりの笑顔を見せる。
「私は、サンセット・トラジディよ。サニーと呼んでちょうだい」
「俺は、ハートロード・スケアリィだ。ロード、と呼んでくれ」
「よろしく頼むわね、相棒」
「ああ。よろしく頼む、相棒」