ふたりの夢
「起きて、ミーリエル」
「う……ううん」
遠くにユージの声が聞こえた
「今日は出かけるのだろう?早く起きないと置いて行くよ?」
「あと5分…」
「ほらほらそんなに待てないよー。愛しのユージさんは愛する恋人さんを置いてって出かけてしまうような薄情者なのだ!」
そういいながらしっぽを掴むと“かぷっ”と口に含んであま噛みを始めるユージ
「ユージはそんなことしないもの!って、しっぽを噛まないで?くすぐったい…」
普段だったら絶対に言わないようなこと言うユージにちょっと反論
それにしても、最近ユージはこうやってしっぽに何かするようになった
「なら、愛しのミーリエル?そんなユージをいつまでも困らせないで?せっかくの朝食が冷めてしまうじゃないか!さもないと空腹のユージはしっぽを味わうのをやめないぞー」
「もう!…って、そんな時間?」
「そうだよ?今日は私が先に起きて、君のために特別な朝食にしたんだよ?」
特別…そんな言葉につられて、眠い目を擦りながらベッドから起きる
ちゅっ!
「おはよう!ミーリエル?さあ、起きた起きた!」
天井の紐を引っ張ると電気の灯りが点いた
ううっまぶしい…
おでこにキスするとユージは台所から、料理をちゃぶ台へと移しはじめた
「おでこじゃなくて口にキ〜ス〜じゃないとまた寝る〜」
「ほらほら、起きてよ」
「お姫様は王子様のキスで目覚めるの〜♪」
「はいはい。姫?朝でございます……ん…」
ちゅっ♪
仕方がない起きてあげよう…
ベッドを降りるとそこにはちゃぶ台があり、朝食が並べられている
見ると、そこには和食が並んでいる
ごはん、味噌汁、納豆、おひたし、鯵のヒラキ…
いたって和風な朝食
「「いただきます」」
箸を持って手を合わせる
二本の棒…お箸を手に持ち…
そして、ご飯を食べてみた
「おいしい!」
甘い!
噛めば噛むほど甘みが出てくる
味噌汁を飲んでみた
やわらかな味…
新鮮なわかめの歯ごたえ
しっかりと味噌汁を吸った油揚げ
噛むとじゅわっと出てくる味噌汁と油揚げのうまみが溶け合った味…
わかめと油揚げのうまみが溶け出したまろやかな味噌汁がのどを通り過ぎていく…はぁ〜♪
次に納豆…
だし汁を入れて、かき混ぜる…一心不乱にかき混ぜる…
かの有名な魯山人もよくかき混ぜて食したらしい
ただの豆の塊だったのが、よく泡だって空気を含みおいしそうな茶色のねばねばを作り出している
箸についた粘りをねぶる
大豆…納豆のうまみとだし汁のうまみ、醤油と味醂の味がうまみのハーモニーを…
ユージの精もおいしいけど、これもなかなか…
噛まなくてもつるつるっと入ってしまう
ほうれん草?のおひたし…
青臭い感じは茹でてあることで消え、だし汁と醤油の味がよく絡まっている
上にかかっている鰹節のうまみもあいまって…これもおいしい
鯵のヒラキ…
身を箸で開くと魚のあのおいしそうな匂いが鼻腔に飛び込んできた
ほっくほくの身を丁度いい大きさにして口の中へと入れる
ふわっとした食感
海の匂いと焼きたての魚のいい匂いが鼻から抜けていく
噛んでみればじゅわっと融け出てくる魚の油とうまみ…
ここで醤油をかける
そのままではない、醤油のうまみと鯵のうまみが融けあったなんともいえない味が舌に口の中にとろけ出す
何もかけてない大根おろしを摘んで舌を休ませる…
今度は、骨のある方だ。ヒラキの骨を丁寧に取り除く
白いほくほくとした身が出てきて、さっきと同じように食す
歓喜だった
「……」
「…どう?ミーリエル?これが私の故郷の朝ごはん。まあここまで凝って出てくることはあまりないだろうけど、一般的に朝食といえばこんなのと言われるかな」
「っ!」
ワタシは思わず合掌した
「?」
「おぉいしい♪」
まるで、とろけてしまうようなおいしさにワタシは歓喜した
ユージは片手を握り締めてガッツポーズをした
「姫!ご満足いただけましたでしょうか?」
「うむ。余は満足だった!近こう寄れ!」
満腹になった幸福感にユージを抱きしめて昼寝?いや二度寝をしようと横になろうとした
「ちょっと!ミーリエルっ!寝ちゃダメだ!!これから出かけるって言ったじゃないか!」
「どこへじゃ?」
「デート!」
「デートはいつでも出来る!余はそなたを抱き枕にしとうぞ?」
こんな幸福感と共にユージを抱き枕に寝たらどんなに幸せだろう?
「ミーリエル!お姫様ごっこはいいから起きて!!」
・・・・・・
ワタシは普段のラフな格好をするとユージの家を出た
家の前の雑木林からは、朝の深緑の匂いが漂っていてだんだんとすっきりしてくる
キュカカカッ ブルンッ!
ユージが車のエンジンをかけている
「さあミーリエル乗って!」
わざわざ助手席のドアーを開けてくれたユージ
席はワタシの身長に丁度いい具合に調整されていて、とてもすわり心地がいい
「シートベルトはきちんと締めてね?」
まるでソファに横になっているかのようなすわり心地
シートベルトの丁度いい締め付け具合が、さっきごはんを食べたばかりのワタシを眠らせようと誘う
「ミーリエル!ほらほら、寝ちゃダメだぞ?あんなにも車に乗ってみたいって言っていたんだから!」
確かにそんなことも言ったような気がする
なんとか起きると車はすでに走り出していた
車内を見てみる
ユージはちょっと真剣な顔をして車を操っている
なにかいい匂いがほのかに漂っている
柑橘系だろうか?
目が冴えてすっきりとしてくるようだ
ワタシの足元と席の後ろの方から音楽が聞こえてくる
サックスの心地よく渋い音。ピアノのなめらかで艶のある豊かな音
一定のテンポで曲にアクセントを刻むリズム
ゆったりとしていて、心が休まるようなそんな曲…
それを聞きながら車外へと目を向ける
なめらかに景色がすぎていく
等間隔に建てられている電柱や街路樹がやってきては過ぎ、やってきては過ぎていく。街を歩く人々、自転車に乗る人、携帯で話しながら歩く人
前を走る車…。バックミラーを覗き込むと後ろにも車がいる
「ねえユージ。運転中って退屈じゃない?」
「そんなことないよ?事故らないように注意しなければいけないし、暇ならラジオなり音楽かければいいもの」
信号が赤になって車は止まった
ユージがこちらを見ながら言った
「それに、バックミラーを覗いてみて?」
言葉に従ってミラーを覗いてみると、後のおじさんが顔に手を当てて何かやっている
「なにしてるんだろう?」
「鼻くそほじっているんだよ」
「鼻?!」
「ああ、運転しているとねよくああいうの見かけるんだ。ほら、前の女の人なんて日よけに付いている鏡見ているだろう?あれは化粧を直したりしているんだ。だから人を見ていると結構おもしろいよ?」
「確かに面白いかも…ユージも気をつけてね?」
ワタシは、他の人に見られているだろうユージの様子を心配した
「ああ。大丈夫。そうやってる人のこと見ているから、私はやらないよ?危ないしね」
ちょっと寂しそうな顔をしてそう言った。なんでだろうか?その顔が気になった
「さて、着いたよ?」
目の前には大きな建物
「どこここ?」
「映画館だよ」
「何見るの?」
「“レンズの向こう側”さ!」
「どんなストーリー?」
「うーんとね…。なぜか違う世界を覗けるカメラを持ってしまった男と同じように異世界から男の世界を覗けるようになってしまった女のラブストーリー?」
「?」
あれ?…どこかで聞いたことあるような気がした…
暗い館内
映写機が話を紡ぐ
“ミーーーリエルーーーーー!”
“ユージ!おねがい!目を覚まして!!”
ガクッ!
“ユージィィィ!!”
涙が止まらなかった
ユージの手を握り締める
彼もぎゅっと握り返してくれている
どうやら彼も泣いているようだった
「ふたりが会えてよかったわね」
「ああっ!まったくね」
そして、手を握りあって映画館を後にした
「いい時間だし、何か食べようか?何が食べたい?」
何がいいだろうか?わからない
「なんでもいい♪ 」
「一番困る返答をありがとう。とりあえず、レストランにでも行ってみようか?」
レストランに入り、メニューを見る
困った…どれも食べてみたいのだ
「ねえ、ユージ?言いにくいんだけれど…」
「なんだい?」
「どれもおいしそうで、全部食べてみたい!」
「……」
「ダメ?」
「…いいよ」
「本当?」
「ああ、挑戦してみるといい」
「やったー♪」
まるで子供のようにはしゃいでしまった
だってどれもおいしそうなんですもの!
次々に料理が運ばれてくる
いつかどこかで見たステーキ。メニューに食べきれないほどの料理がのっていてワタシは隅から順に頼んでみることにした。あとからあとから運ばれてくる料理。ワタシの食べっぷりを見て、笑顔であったユージの顔も次第にあきれ顔になってしまった
「…さて、次はデザートね!」
「うぇっぷ。見ているだけでおなかいっぱいだよ…。デザート?よく入るね…」
「女の子には別腹というものがあるのだよ?ユージ君」
「はいはい。で?なに食べる?」
「ここにあるものす・べ・て!!」
「…頑張ってください」
「はい!」
メニューには、やはりどれもおいしそうなものが並んでいる
いつか見たイチゴショート…うーん!あまーい!!イチゴの酸味がまたクリームの甘みを引き立てて!…次は…etc…etc…
ああっ!おいしいかった
「ごちそうさま!ユージ♪」
「……」
「ん?どうしたの?」
「いや…」
ユージの顔はあきれ返っていた
「こんなにおいしいものが溢れているなんて、幸せよねユージ♪」
「ああ、そうだね…」
ユージはまた少し寂しそうに笑った
?
さっきから、どうしたんだろうか?
「これからどこ行く?」
「遊園地かな」
「遊園地?!行ってみたい!話しに聞いたハイランドとか…?まうすーランド…とか?」
「まっ、とにかく行ってみよう…」
車に乗るといつの間にか遊園地が見えてきた
「車って早いのね?」
「ミーリエルも運転してみる?」
「え?!出来るの?」
「やってみようか」
車を止めると、ユージは降りてワタシに席を譲り、自分は助手席に乗り込んだ
ベルトを締め深呼吸…
ブレーキペダルを踏み
ギアをドライブに入れる
「ドキドキする!」
「大丈夫。ブレーキを離してアクセルをゆっくり踏むんだ」
ゆっくりと進み始める車
「はい、左に曲がるよ?ブレーキを踏みながら歩道とかに人がいないか確認。対向車は?後からバイクは?来てないね?よーしハンドルを回していって!」
ぎこちなくハンドルを回す…
思ったほど重くなく簡単に回ってしまう
「ミーリエル!きりすぎっ!ハンドル戻して!!」
「えっ!きゃあ!!」
ガリガリ!
どうやら歩道に接触したみたいだ
ブレーキを踏み込む!
「ごめんなさい…」
「いいって、いいって大丈夫!」
やっぱりワタシには無理…
「ほら、ミーリエル?今度は落ち着いてやってみよう?」
「でも、ユージ…車…」
「車は簡単には壊れないよ?さあ、大丈夫だからもう一度チャレンジしてみよう?深呼吸、深呼吸!」
スーハー…言われるがまま深呼吸。今度は出来そうな気がする…
ブレーキを離してアクセル…
スムーズに走り出した車
いつの間にか、ユージがやっていたように余裕を持って走っていた
「ユージ!車って楽しいんだね!」
「ああ、最初は怖いかも知れないけど大丈夫になるものだよ?」
ああ!こんなに早い。馬とかじゃ味わえない!ハーピーのヒナちゃんとかだったら飛べるからこんなスピード出せるんだろうな
「じゃぁ、このまま遊園地へと行こうじゃないか!」
颯爽と駐車場に乗り入れて、バックで車を止めた
「うまいよ!ミーリエル!!」
「ありがとう!ユージ」
ワタシは腕を組んで遊園地へと繰り出した
「あれに乗ろう!」
ユージが指差した先にはジェットコースター
「いいわよ?ユージ?泣いたりしないでね?」
「ミーリエルこそ!」
最前列が開いていた
そこにいく…
こんなので泣くものですか!ワタシだって昔は戦士だったのよ?今だって負けないわよ?
立ったままで安全バーが下がり体を固定する
横のユージを見ればちょっと緊張しているのか表情は少し硬い
「ユージ?大丈夫?あなたの泣き顔期待しちゃうわよ?」
「ミーリエル…君こそ泣くなよ?もし、泣いちゃったらカメラに撮って記念にして、そのあとでキスして慰めてあげるんだからさ!」
「そんなことにはなりません〜♪ワタシこそユージを慰めちゃうんだから♪」
ガタゴトとゆっくり坂を昇っているコースター
ぜんぜん余裕だなと思っていたら、突然止まった
ガタン!!
一気に走り出す!
坂を下っていく!!
地面にぶつかるっ!!!
「キィャャャァァァァァァァァァ!!!」
一気に上昇・下降・上昇・下降を繰り返す
突然、右に傾くかと思うほど曲がったら上昇…いや一回転
「イヤッ!イヤァァァァァァ!!」
ある程度で下に下がったと思ったら、頭の上のほうを中心にロールする
放り出される!と思うような横の遠心力…怖かった
「もういい!もういいよっ!!…キャァァァァァ!!」
気が付けば涙と鼻水でぐしょぐしょになっていた
「ユージィィィ…怖かったの…怖かったよう…」
安全バーが上がるとワタシはユージにすがり付いてしまっていた
「ミーリエル…ほらっ大丈夫だから!」
体をさすって震えを何とかしようとしてくれるユージ
「ミーリエル?こっち向いて?」
ん…ちゅっ
ちゅっ…んちゅ……ちゅる…ちゅちゅ…
その場で抱いてキスしてくれた
泣き顔、ユージに見られたけどこれはこれでいいか…
「ミーリエル……」
「ジェットコースターはもういい」
「うん…観覧車に乗ろう?」
「観覧車?」
「ほら、あれ」
ユージの指差す先…見ればゆっくりと回るものがあった
「あれなら、怖くないよ?」
「うん…あれなら怖くなさそう…」
回ってきた個室に入る
ゆっくりと空を昇っていく観覧車
空は夕日がオレンジ色に染めていた
窓の外には遊園地の敷地…
街並み…
海…
夕日がゆっくりと海に沈もうとしていて遊具や街並みに長い影を作り出していく
空はオレンジから赤のような色へと移ろい、徐々に闇へと移っていった
「きれい!」
「ああ、そうだろう?」
ワタシはユージと寄り添うと黙って窓の外の景色を眺めていた
隣にあるユージのぬくもりがとてもやさしくてあたたかい
夜の街並み。電飾の灯り、街の明かり、遠くのビル群の灯り
そんな明かりをゆっくりと二人で見つめていると、とても幸せな気分になる
…今日はとても楽しかった
いろいろとしてみたかったことも出来たし、食べたかったものも食べれた
でも…疑問が残る。なんで…?
「ねぇ、ユージ?」
「なんだい?」
「あなたに聞きたいことが…あるの」
「……」
「ワタシ、いつユージのいた世界に来たのかしら?それになんでこんなにいろいろなモノとか事に対して疑問を持たないでいられるのかしら…?」
「……」
ユージは何かを考えるように黙っている…
「その先はボクが教えようじゃないか!!」
メル?どこからともなく声がした
ガタン!!
個室が大きく揺れた
「メルっ!あぶないからやめてくれよ!」
「すまんすまんユージ!」
何もない空間からいきなり出てきたメル
空間転移魔法?!いつの間に?どうやって??
「種明かしをするとね?ここはユージの夢の中なんだ」
「ユージの?」
ユージを見ると、はにかんだ顔をして微笑んでいる
「そう。ミーリエルが私の世界に行ってみたいっていつも言っていただろう?だから、どうにかしてこの私の生まれた世界を味わってもらう術はないかな?と、いつも思っていたのさ。まさか、異空間の壁を無理に突き破るなんて出来ないだろう?」
「あるとき、ボクの元にユージが来てねこう言ったのさ“この世界にはナイトメアという魔物さんが、人の夢の中に入ることができると聞きました。私にもそういうことは出来ないでしょうか?”とね」
「夢の中?」
ゆっくりとうなずくと言った
「そう、ユージはね?“夢とは、人が起きている時に見た情報を寝ている間に処理をするものだと…。人が見た情報は脳に記憶される。本人は忘れてしまっていても脳の中にはそれは残るものである。その人の人格は、それらの情報を元に形成されているから、体験や知識、常識とかさまざまなものが記憶されている。だから、記憶の扉である夢の中であるなら、ミーリエルにあの世界を追体験させることが出来るんじゃないか”っていうんだよ」
どこか得意そうにそういうメル。それから、ユージが後を引き継ぐように言った
「そう、脳には体験した時のさまざまな情報が記憶されていると聞いたことがあるんだ。さまざまな、視覚とかの五感…他にもさまざまな感覚と共に、私が感じたことをそのまま、ミーリエルが追体験出来ると思ったんだ。夢の中だから、いろいろと都合のいいことが出来てしまったのさ。例えば朝食…納豆を初めて食べたらあんな感想は持たないんじゃないかな?ミーリエルの初運転。いくらなんでも初めて見て、初めて触った人がいきなり運転なんて出来ないよ?あれには私の常識とか体験とかが付与されているから出来たことなんだ。それから…ジェットコースターね、私はあれ好きなんだよ。だから、やってみたんだけど…まさか、ミーリエルがあんなにも泣いちゃうとは思わなかったんだ。ゴメンね?でも…とても可愛かったよ?」
「ユージのバカァ!本当に怖かったのよ!なんであんなもの好きなのよ!振り落とされるかと思ったじゃない!!」
「ハーピーさんに摑まって飛んだことがあるとか言っていたから大丈夫なんじゃないか?と思ったんだけれど…」
「ヒナちゃんはあんな無茶しないわよ!!」
ワタシは思い出してまたちょっと涙が出てしまった
ユージはそんなワタシの涙をふき取ると抱きしめていつまでも背中を撫でてくれた
「ミーリエル?改めて私の世界へようこそ!」
そんなワタシ達に、メルが言った
「さて、ユージ?いろいろと興味深い記憶とかが詰まっていて、大変面白そうなんだが?見てもいいかい?」
「…記憶は人格の根幹です。だから今回は、勘弁してください。まだ、朝にはなっていないでしょう?だったら、もう少しミーリエルと遊んで行きたいな」
「ふふ、そんなに警戒しなくてもいいんじゃないか?ボクが記憶を書き換えて君をロリコンにするとでも?」
にしし!と意地悪い顔をしてそんなこというメル
「メル!ワタシのユージになんて事をしようとしているの!!」
「…ありえそうだから怖いんですよ。なんて言ったってメルは、魔女さんでそっち方面に詳しそうですからね…。だから、ミーリエルを必ず連れて行くことが最低条件です」
「ふふふ、懸命な判断だね。では、今度君にアクセス出来るときを楽しみにしようじゃないか!」
「まってメル!行く前に教えて!」
「どうしたんだい?ミーリエル」
ここは夢の中だという。…ワタシはどうしても聞いておきたいことが出来てしまった
「今このまま、ワタシは自分のの夢の中に行けるの?」
「ああ行けるさ。君たちは今、ボクが作った魔法石の夢見の石で同じ夢を見ていることになっている。この夢見の石は、ナイトメアと同じように他人の夢に入れるようにした魔法石なんだよ。今、君たちはお互いの手を合わせて石を握り締めてる状態だ。だから、望めばミーリエルの夢にユージを招待することもできるはずだよ?」
「そう!よかったぁ〜」
「ふふ!なにかよからぬことでも考え付いたかい?では、そういう事でボクは失敬するよ!」
「メル?ユージに悪戯しないでよね!!」
「これは…手厳しいな。大丈夫だ!恋人同士の睦み事にちょっかい出すほど野暮じゃないさ!じゃあね!」
そう言うと、メルは夢の中からいなくなった
「ユージ?メルがあなたの記憶になにか操作したって感じはあるの?というか、今ア…アクセス?されているっているの?」
「いや、大丈夫だよ。そこまで信用がないわけじゃないし、後で見せるって言っているんだからさ。もし、不安ならそのとき君も同行すればいいじゃないか?」
「うん…そうなんだけれど…。朝、目が醒めたら、ユージがワタシに興味を持たなくなっていたって思うと怖くて…」
「大丈夫だよ!さぁミーリエル?どこかに案内したいんだろう?行こう?」
観覧車の個室は丁度よく下に着いた
「あれ?」
と、予想外のところに来てしまったかのような声を上げたユージ。
扉を開けるとそこは…どこかのマンションの屋上だった
ユージはふらふらと歩いていく…
多分、この景色は深夜なのだろう。ここから見えるどこの家庭も明かりが消えている
遠くに、東から西へと伸びカーブして北へと伸びる高速道路のオレンジ色した明かりが点々と、光の列となって街を囲むように伸びているのが見える…
碁盤の目みたいに規則正しく輝く街並み
そこから見える他の家やマンションの明かりは所々点々と灯っているところがあった
下を走る車のヘッドライトが道を照らし舐めるように移動する
後の赤いライトの光が車を追いかけるようについていき消えていった
昼間の喧騒は消え、そこは本当に静かに聞こえる
ワタシにはそんなに静かには聞こえないけど、これはユージの感覚だからだろう
ユージは、屋上の縁に立って、ぼぅっと街並みを見ていた
「ユージ…?」
ワタシの声に、ふっと振り向いたユージ
「っ…本当に…本当に懐かしいなぁ」
ユージは少し振り向くと泣きそうな顔で本当に懐かしそうに言った。そして、また街並みの景色へと頭を戻してしまった
「あっ…」
もう帰ることが出来ない故郷…
それを思い出して泣きそうになってしまっているのだと気が付いた
「ユージ!」
ワタシは彼の後ろから抱きしめた
「…ミーリエルっ!こんなにも君の事が好きで、もう故郷のことは大丈夫って思っていたのにっ…」
彼はワタシの回した腕を大切そうに握り締めると、顔を伏せた
後からだと表情は見えないけど、すこし、震えている…泣いているの?
ワタシは彼をギュッとしながら落ち着くのを待った
どのくらいそうしていたかわからない…
「…はぁ。ミーリエルありがとう。落ち着いたよ…」
「大丈夫?」
「ああ、この景色はね一時期…新聞配達していた頃、仕事が終わった後によく眺めていた景色なんだ。ここからだとあのあたりに私の昔住んでいた実家がある…あぁ本当に懐かしい…」
彼が指差した先には大きな木々が生える雑木林が見える。その向こうに暗くてよく見えないけど、平屋の家が少し見えていた
「ユージのあの家に似ているね」
「ああ、あの家は私の実家によく似てたんだ。だから、あの平屋に移ったときなんかすごい懐かしい気持ちになったものだよ。雑木林はあるし、昔の家に戻ったような懐かしさがあって…ね。本当にいいところに移れたってね思ってた。そして、今のミーリエルの石の家。もし、田舎暮らしが出来るようになったらああいう家を建ててのんびりしたいなぁって思っていたのさ。夢が叶ったということなんだろうね?心から愛せる奥さんと子供達に囲まれた愛と笑顔に包まれた幸せいっぱいの家庭…いつかそれを築ければいいなって思ってた。今は、ミーリエルっていうすばらしい奥さんを見つけることができた。子供はまだだけれどいつかきっと!」
そんなふうに考えていたんだ…
愛と笑顔に包まれた幸せいっぱいの家庭…ユージとの子供…
それを聞いてワタシはいてもたってもいられなくなった
「ねえユージ?これから行くとこあるの?ないんだったらワタシの夢に来ない?」
「ミーリエルの夢?いいの?」
「ユージだったら大歓迎よ!ワタシも見せたい夢があるの!」
「うん!是非連れて行ってくれな?」
「じゃあ、さっそく行こう?」
ワタシは自分が見た夢へアクセスするイメージを浮かべた
目の前にはワタシの家の扉が浮かび上がる
開けるとそこは白い世界だった…
扉の向こうへ踏み出すと辺りは白かった
一面の雪だ
その先にはワタシの家…
辺りの森を見渡すと、木々の葉は落ち枝に雪が付いている
空は曇っていていつ雪が降ってきてもおかしくない天気
ワタシの家の、二階の円錐の屋根にも、一階の屋根にも降り積もっていた
軒下には融けた雪が氷柱になっている
円錐の屋根から飛び出した煙突からは、もくもくと煙が上がっている
玄関まで来ると、扉の横には雪だるまがいくつも置かれていた
大きい雪だるまが2体…一体にはしっぽが付いていて
二体は寄り添うようにくっついている
しっぽがない雪だるまの上には小さくてしっぽがある雪だるま
そして、2体の足元にも小さくてしっぽがある雪だるまが2体ある
「ミーリエル?これは?」
「…うん。ちょっと待ってね」
バタン!
勢いよく扉が開く
そして、何かが飛び出してきた
「ととさま〜!!」「ととしゃん!」「おかえりおとうさん!」
ワタシを小さくしたようなチビが3人出てきた
ユージは目を丸くしている
「「「おかあさん!」」」
「おかあさん?ととさま?…じゃあこの子達は?!」
ゆっくりとうなずく
「ととさま!さむい!!なかはいろ〜」
「あ?ああ」
3人に引っ張られるように家に入るユージ
居間につくと途端に、ユージの取り合いが始まった
「あたたっ…こらこら私は逃げないよ。だからもう少し落ち着きなさい」
「「「ハーイ」」」
室内にはキャッキャッと子供達が笑う声が絶えない
「ととさま!抱っこ〜!」「あっずる〜い!おとうさんわたしも抱っこ〜♪」「ととしゃん!おんぶ〜♪」
ユージはソファに座るとふたりをひざに座らせて、一番チビな子を肩車した
「ははは!こらこらひざの上で暴れない!こらこら頭の上で暴れない!落ちちゃうぞ?」
さっき、マンションの上で涙を流していたユージとはうって変わって、本当に幸せそうに笑ってる
「ミーリエル…この子達?…まさか?」
「うん。最近ね、よく見るようになったのこの夢。たぶん現実になるわよ?ワタシ、ユージが雷にうたれてこちらに来るちょっと前にねあなたと一緒に寝ている夢を見ていたときがあったの。あの時は、会いたい会いたい!って言う気持ちがそういう夢を見せたんだと思っていたんだけど、すぐにあなたがこっちに来てその夢は現実になったわ。だから、この夢も現実になると思う」
「…そうか。この子達、君にそっくりだよ。幼い時の君もこんな感じだったのかな?」
「ふふっ!そうかもね!」
「おとうさん!おかあさんと出会った時のこととか、一緒になれたときの話聞かせて?」「おはなし!おはなしっ!」「おはなひ…おはなひ!」
「ははは!そうだな。ミーリエル?もっとこっち寄って?」
ワタシはユージの隣に行く。するとユージは腕を腰に回して引き寄せた
手をユージのお腹にまわしてもたれかかる
ひざの上に乗る長女と次女の間に3女のチビを抱えるとゆっくりと話し始めるユージ…
遠い昔を思い出すように目を閉じゆっくりと静かに語りだす
彼の温もりを顔と体に、そして子供たちのあたたかさを感じながら物語に耳を傾ける…
…だんだんと目がまぶしくなってきた
?
「ミーリエル?どうやら目覚めの時間のようだよ?彼女達に私たちの物語を聞かせるのは彼女達が産まれてからにしよう?」
「ユージ…。うん!早く夢を現実にしなくちゃね!!」
ワタシは、三人とワタシを抱きしめて幸せそうなユージを、目に…心に焼き付ける
幸せな光景がだんだんと…光に包まれていく……
目覚めるとユージとつなぎ合った手が見えた
手の間には水色の石が朝日を浴びてキラリと輝いている
顔を上げるとすぐ近くでユージがワタシを見ていた
「おはよう」
「うん。おはよう」
「君の夢…いい夢だったな…」
「ユージの夢も本当に楽しかったわ」
ユージは手を離すと起き上がって夢見の石を朝日に透かして見ている
「3人か…」
「多すぎる?」
「いいや。何人でも歓迎さ。いっぱいいればたくさん楽しくなるしね!君に似てみんな美人になるんだろうしね」
目を閉じてさっきの夢を思い出しているのだろう。ユージは穏やかな笑顔を浮かべている
「ユージ…」
「ミーリエル…」
ちゅ…
お互いを見つめあう…
そうして、ワタシ達は夢で見たことを現実にしようとベッドに寝直したのだった…
「う……ううん」
遠くにユージの声が聞こえた
「今日は出かけるのだろう?早く起きないと置いて行くよ?」
「あと5分…」
「ほらほらそんなに待てないよー。愛しのユージさんは愛する恋人さんを置いてって出かけてしまうような薄情者なのだ!」
そういいながらしっぽを掴むと“かぷっ”と口に含んであま噛みを始めるユージ
「ユージはそんなことしないもの!って、しっぽを噛まないで?くすぐったい…」
普段だったら絶対に言わないようなこと言うユージにちょっと反論
それにしても、最近ユージはこうやってしっぽに何かするようになった
「なら、愛しのミーリエル?そんなユージをいつまでも困らせないで?せっかくの朝食が冷めてしまうじゃないか!さもないと空腹のユージはしっぽを味わうのをやめないぞー」
「もう!…って、そんな時間?」
「そうだよ?今日は私が先に起きて、君のために特別な朝食にしたんだよ?」
特別…そんな言葉につられて、眠い目を擦りながらベッドから起きる
ちゅっ!
「おはよう!ミーリエル?さあ、起きた起きた!」
天井の紐を引っ張ると電気の灯りが点いた
ううっまぶしい…
おでこにキスするとユージは台所から、料理をちゃぶ台へと移しはじめた
「おでこじゃなくて口にキ〜ス〜じゃないとまた寝る〜」
「ほらほら、起きてよ」
「お姫様は王子様のキスで目覚めるの〜♪」
「はいはい。姫?朝でございます……ん…」
ちゅっ♪
仕方がない起きてあげよう…
ベッドを降りるとそこにはちゃぶ台があり、朝食が並べられている
見ると、そこには和食が並んでいる
ごはん、味噌汁、納豆、おひたし、鯵のヒラキ…
いたって和風な朝食
「「いただきます」」
箸を持って手を合わせる
二本の棒…お箸を手に持ち…
そして、ご飯を食べてみた
「おいしい!」
甘い!
噛めば噛むほど甘みが出てくる
味噌汁を飲んでみた
やわらかな味…
新鮮なわかめの歯ごたえ
しっかりと味噌汁を吸った油揚げ
噛むとじゅわっと出てくる味噌汁と油揚げのうまみが溶け合った味…
わかめと油揚げのうまみが溶け出したまろやかな味噌汁がのどを通り過ぎていく…はぁ〜♪
次に納豆…
だし汁を入れて、かき混ぜる…一心不乱にかき混ぜる…
かの有名な魯山人もよくかき混ぜて食したらしい
ただの豆の塊だったのが、よく泡だって空気を含みおいしそうな茶色のねばねばを作り出している
箸についた粘りをねぶる
大豆…納豆のうまみとだし汁のうまみ、醤油と味醂の味がうまみのハーモニーを…
ユージの精もおいしいけど、これもなかなか…
噛まなくてもつるつるっと入ってしまう
ほうれん草?のおひたし…
青臭い感じは茹でてあることで消え、だし汁と醤油の味がよく絡まっている
上にかかっている鰹節のうまみもあいまって…これもおいしい
鯵のヒラキ…
身を箸で開くと魚のあのおいしそうな匂いが鼻腔に飛び込んできた
ほっくほくの身を丁度いい大きさにして口の中へと入れる
ふわっとした食感
海の匂いと焼きたての魚のいい匂いが鼻から抜けていく
噛んでみればじゅわっと融け出てくる魚の油とうまみ…
ここで醤油をかける
そのままではない、醤油のうまみと鯵のうまみが融けあったなんともいえない味が舌に口の中にとろけ出す
何もかけてない大根おろしを摘んで舌を休ませる…
今度は、骨のある方だ。ヒラキの骨を丁寧に取り除く
白いほくほくとした身が出てきて、さっきと同じように食す
歓喜だった
「……」
「…どう?ミーリエル?これが私の故郷の朝ごはん。まあここまで凝って出てくることはあまりないだろうけど、一般的に朝食といえばこんなのと言われるかな」
「っ!」
ワタシは思わず合掌した
「?」
「おぉいしい♪」
まるで、とろけてしまうようなおいしさにワタシは歓喜した
ユージは片手を握り締めてガッツポーズをした
「姫!ご満足いただけましたでしょうか?」
「うむ。余は満足だった!近こう寄れ!」
満腹になった幸福感にユージを抱きしめて昼寝?いや二度寝をしようと横になろうとした
「ちょっと!ミーリエルっ!寝ちゃダメだ!!これから出かけるって言ったじゃないか!」
「どこへじゃ?」
「デート!」
「デートはいつでも出来る!余はそなたを抱き枕にしとうぞ?」
こんな幸福感と共にユージを抱き枕に寝たらどんなに幸せだろう?
「ミーリエル!お姫様ごっこはいいから起きて!!」
・・・・・・
ワタシは普段のラフな格好をするとユージの家を出た
家の前の雑木林からは、朝の深緑の匂いが漂っていてだんだんとすっきりしてくる
キュカカカッ ブルンッ!
ユージが車のエンジンをかけている
「さあミーリエル乗って!」
わざわざ助手席のドアーを開けてくれたユージ
席はワタシの身長に丁度いい具合に調整されていて、とてもすわり心地がいい
「シートベルトはきちんと締めてね?」
まるでソファに横になっているかのようなすわり心地
シートベルトの丁度いい締め付け具合が、さっきごはんを食べたばかりのワタシを眠らせようと誘う
「ミーリエル!ほらほら、寝ちゃダメだぞ?あんなにも車に乗ってみたいって言っていたんだから!」
確かにそんなことも言ったような気がする
なんとか起きると車はすでに走り出していた
車内を見てみる
ユージはちょっと真剣な顔をして車を操っている
なにかいい匂いがほのかに漂っている
柑橘系だろうか?
目が冴えてすっきりとしてくるようだ
ワタシの足元と席の後ろの方から音楽が聞こえてくる
サックスの心地よく渋い音。ピアノのなめらかで艶のある豊かな音
一定のテンポで曲にアクセントを刻むリズム
ゆったりとしていて、心が休まるようなそんな曲…
それを聞きながら車外へと目を向ける
なめらかに景色がすぎていく
等間隔に建てられている電柱や街路樹がやってきては過ぎ、やってきては過ぎていく。街を歩く人々、自転車に乗る人、携帯で話しながら歩く人
前を走る車…。バックミラーを覗き込むと後ろにも車がいる
「ねえユージ。運転中って退屈じゃない?」
「そんなことないよ?事故らないように注意しなければいけないし、暇ならラジオなり音楽かければいいもの」
信号が赤になって車は止まった
ユージがこちらを見ながら言った
「それに、バックミラーを覗いてみて?」
言葉に従ってミラーを覗いてみると、後のおじさんが顔に手を当てて何かやっている
「なにしてるんだろう?」
「鼻くそほじっているんだよ」
「鼻?!」
「ああ、運転しているとねよくああいうの見かけるんだ。ほら、前の女の人なんて日よけに付いている鏡見ているだろう?あれは化粧を直したりしているんだ。だから人を見ていると結構おもしろいよ?」
「確かに面白いかも…ユージも気をつけてね?」
ワタシは、他の人に見られているだろうユージの様子を心配した
「ああ。大丈夫。そうやってる人のこと見ているから、私はやらないよ?危ないしね」
ちょっと寂しそうな顔をしてそう言った。なんでだろうか?その顔が気になった
「さて、着いたよ?」
目の前には大きな建物
「どこここ?」
「映画館だよ」
「何見るの?」
「“レンズの向こう側”さ!」
「どんなストーリー?」
「うーんとね…。なぜか違う世界を覗けるカメラを持ってしまった男と同じように異世界から男の世界を覗けるようになってしまった女のラブストーリー?」
「?」
あれ?…どこかで聞いたことあるような気がした…
暗い館内
映写機が話を紡ぐ
“ミーーーリエルーーーーー!”
“ユージ!おねがい!目を覚まして!!”
ガクッ!
“ユージィィィ!!”
涙が止まらなかった
ユージの手を握り締める
彼もぎゅっと握り返してくれている
どうやら彼も泣いているようだった
「ふたりが会えてよかったわね」
「ああっ!まったくね」
そして、手を握りあって映画館を後にした
「いい時間だし、何か食べようか?何が食べたい?」
何がいいだろうか?わからない
「なんでもいい♪ 」
「一番困る返答をありがとう。とりあえず、レストランにでも行ってみようか?」
レストランに入り、メニューを見る
困った…どれも食べてみたいのだ
「ねえ、ユージ?言いにくいんだけれど…」
「なんだい?」
「どれもおいしそうで、全部食べてみたい!」
「……」
「ダメ?」
「…いいよ」
「本当?」
「ああ、挑戦してみるといい」
「やったー♪」
まるで子供のようにはしゃいでしまった
だってどれもおいしそうなんですもの!
次々に料理が運ばれてくる
いつかどこかで見たステーキ。メニューに食べきれないほどの料理がのっていてワタシは隅から順に頼んでみることにした。あとからあとから運ばれてくる料理。ワタシの食べっぷりを見て、笑顔であったユージの顔も次第にあきれ顔になってしまった
「…さて、次はデザートね!」
「うぇっぷ。見ているだけでおなかいっぱいだよ…。デザート?よく入るね…」
「女の子には別腹というものがあるのだよ?ユージ君」
「はいはい。で?なに食べる?」
「ここにあるものす・べ・て!!」
「…頑張ってください」
「はい!」
メニューには、やはりどれもおいしそうなものが並んでいる
いつか見たイチゴショート…うーん!あまーい!!イチゴの酸味がまたクリームの甘みを引き立てて!…次は…etc…etc…
ああっ!おいしいかった
「ごちそうさま!ユージ♪」
「……」
「ん?どうしたの?」
「いや…」
ユージの顔はあきれ返っていた
「こんなにおいしいものが溢れているなんて、幸せよねユージ♪」
「ああ、そうだね…」
ユージはまた少し寂しそうに笑った
?
さっきから、どうしたんだろうか?
「これからどこ行く?」
「遊園地かな」
「遊園地?!行ってみたい!話しに聞いたハイランドとか…?まうすーランド…とか?」
「まっ、とにかく行ってみよう…」
車に乗るといつの間にか遊園地が見えてきた
「車って早いのね?」
「ミーリエルも運転してみる?」
「え?!出来るの?」
「やってみようか」
車を止めると、ユージは降りてワタシに席を譲り、自分は助手席に乗り込んだ
ベルトを締め深呼吸…
ブレーキペダルを踏み
ギアをドライブに入れる
「ドキドキする!」
「大丈夫。ブレーキを離してアクセルをゆっくり踏むんだ」
ゆっくりと進み始める車
「はい、左に曲がるよ?ブレーキを踏みながら歩道とかに人がいないか確認。対向車は?後からバイクは?来てないね?よーしハンドルを回していって!」
ぎこちなくハンドルを回す…
思ったほど重くなく簡単に回ってしまう
「ミーリエル!きりすぎっ!ハンドル戻して!!」
「えっ!きゃあ!!」
ガリガリ!
どうやら歩道に接触したみたいだ
ブレーキを踏み込む!
「ごめんなさい…」
「いいって、いいって大丈夫!」
やっぱりワタシには無理…
「ほら、ミーリエル?今度は落ち着いてやってみよう?」
「でも、ユージ…車…」
「車は簡単には壊れないよ?さあ、大丈夫だからもう一度チャレンジしてみよう?深呼吸、深呼吸!」
スーハー…言われるがまま深呼吸。今度は出来そうな気がする…
ブレーキを離してアクセル…
スムーズに走り出した車
いつの間にか、ユージがやっていたように余裕を持って走っていた
「ユージ!車って楽しいんだね!」
「ああ、最初は怖いかも知れないけど大丈夫になるものだよ?」
ああ!こんなに早い。馬とかじゃ味わえない!ハーピーのヒナちゃんとかだったら飛べるからこんなスピード出せるんだろうな
「じゃぁ、このまま遊園地へと行こうじゃないか!」
颯爽と駐車場に乗り入れて、バックで車を止めた
「うまいよ!ミーリエル!!」
「ありがとう!ユージ」
ワタシは腕を組んで遊園地へと繰り出した
「あれに乗ろう!」
ユージが指差した先にはジェットコースター
「いいわよ?ユージ?泣いたりしないでね?」
「ミーリエルこそ!」
最前列が開いていた
そこにいく…
こんなので泣くものですか!ワタシだって昔は戦士だったのよ?今だって負けないわよ?
立ったままで安全バーが下がり体を固定する
横のユージを見ればちょっと緊張しているのか表情は少し硬い
「ユージ?大丈夫?あなたの泣き顔期待しちゃうわよ?」
「ミーリエル…君こそ泣くなよ?もし、泣いちゃったらカメラに撮って記念にして、そのあとでキスして慰めてあげるんだからさ!」
「そんなことにはなりません〜♪ワタシこそユージを慰めちゃうんだから♪」
ガタゴトとゆっくり坂を昇っているコースター
ぜんぜん余裕だなと思っていたら、突然止まった
ガタン!!
一気に走り出す!
坂を下っていく!!
地面にぶつかるっ!!!
「キィャャャァァァァァァァァァ!!!」
一気に上昇・下降・上昇・下降を繰り返す
突然、右に傾くかと思うほど曲がったら上昇…いや一回転
「イヤッ!イヤァァァァァァ!!」
ある程度で下に下がったと思ったら、頭の上のほうを中心にロールする
放り出される!と思うような横の遠心力…怖かった
「もういい!もういいよっ!!…キャァァァァァ!!」
気が付けば涙と鼻水でぐしょぐしょになっていた
「ユージィィィ…怖かったの…怖かったよう…」
安全バーが上がるとワタシはユージにすがり付いてしまっていた
「ミーリエル…ほらっ大丈夫だから!」
体をさすって震えを何とかしようとしてくれるユージ
「ミーリエル?こっち向いて?」
ん…ちゅっ
ちゅっ…んちゅ……ちゅる…ちゅちゅ…
その場で抱いてキスしてくれた
泣き顔、ユージに見られたけどこれはこれでいいか…
「ミーリエル……」
「ジェットコースターはもういい」
「うん…観覧車に乗ろう?」
「観覧車?」
「ほら、あれ」
ユージの指差す先…見ればゆっくりと回るものがあった
「あれなら、怖くないよ?」
「うん…あれなら怖くなさそう…」
回ってきた個室に入る
ゆっくりと空を昇っていく観覧車
空は夕日がオレンジ色に染めていた
窓の外には遊園地の敷地…
街並み…
海…
夕日がゆっくりと海に沈もうとしていて遊具や街並みに長い影を作り出していく
空はオレンジから赤のような色へと移ろい、徐々に闇へと移っていった
「きれい!」
「ああ、そうだろう?」
ワタシはユージと寄り添うと黙って窓の外の景色を眺めていた
隣にあるユージのぬくもりがとてもやさしくてあたたかい
夜の街並み。電飾の灯り、街の明かり、遠くのビル群の灯り
そんな明かりをゆっくりと二人で見つめていると、とても幸せな気分になる
…今日はとても楽しかった
いろいろとしてみたかったことも出来たし、食べたかったものも食べれた
でも…疑問が残る。なんで…?
「ねぇ、ユージ?」
「なんだい?」
「あなたに聞きたいことが…あるの」
「……」
「ワタシ、いつユージのいた世界に来たのかしら?それになんでこんなにいろいろなモノとか事に対して疑問を持たないでいられるのかしら…?」
「……」
ユージは何かを考えるように黙っている…
「その先はボクが教えようじゃないか!!」
メル?どこからともなく声がした
ガタン!!
個室が大きく揺れた
「メルっ!あぶないからやめてくれよ!」
「すまんすまんユージ!」
何もない空間からいきなり出てきたメル
空間転移魔法?!いつの間に?どうやって??
「種明かしをするとね?ここはユージの夢の中なんだ」
「ユージの?」
ユージを見ると、はにかんだ顔をして微笑んでいる
「そう。ミーリエルが私の世界に行ってみたいっていつも言っていただろう?だから、どうにかしてこの私の生まれた世界を味わってもらう術はないかな?と、いつも思っていたのさ。まさか、異空間の壁を無理に突き破るなんて出来ないだろう?」
「あるとき、ボクの元にユージが来てねこう言ったのさ“この世界にはナイトメアという魔物さんが、人の夢の中に入ることができると聞きました。私にもそういうことは出来ないでしょうか?”とね」
「夢の中?」
ゆっくりとうなずくと言った
「そう、ユージはね?“夢とは、人が起きている時に見た情報を寝ている間に処理をするものだと…。人が見た情報は脳に記憶される。本人は忘れてしまっていても脳の中にはそれは残るものである。その人の人格は、それらの情報を元に形成されているから、体験や知識、常識とかさまざまなものが記憶されている。だから、記憶の扉である夢の中であるなら、ミーリエルにあの世界を追体験させることが出来るんじゃないか”っていうんだよ」
どこか得意そうにそういうメル。それから、ユージが後を引き継ぐように言った
「そう、脳には体験した時のさまざまな情報が記憶されていると聞いたことがあるんだ。さまざまな、視覚とかの五感…他にもさまざまな感覚と共に、私が感じたことをそのまま、ミーリエルが追体験出来ると思ったんだ。夢の中だから、いろいろと都合のいいことが出来てしまったのさ。例えば朝食…納豆を初めて食べたらあんな感想は持たないんじゃないかな?ミーリエルの初運転。いくらなんでも初めて見て、初めて触った人がいきなり運転なんて出来ないよ?あれには私の常識とか体験とかが付与されているから出来たことなんだ。それから…ジェットコースターね、私はあれ好きなんだよ。だから、やってみたんだけど…まさか、ミーリエルがあんなにも泣いちゃうとは思わなかったんだ。ゴメンね?でも…とても可愛かったよ?」
「ユージのバカァ!本当に怖かったのよ!なんであんなもの好きなのよ!振り落とされるかと思ったじゃない!!」
「ハーピーさんに摑まって飛んだことがあるとか言っていたから大丈夫なんじゃないか?と思ったんだけれど…」
「ヒナちゃんはあんな無茶しないわよ!!」
ワタシは思い出してまたちょっと涙が出てしまった
ユージはそんなワタシの涙をふき取ると抱きしめていつまでも背中を撫でてくれた
「ミーリエル?改めて私の世界へようこそ!」
そんなワタシ達に、メルが言った
「さて、ユージ?いろいろと興味深い記憶とかが詰まっていて、大変面白そうなんだが?見てもいいかい?」
「…記憶は人格の根幹です。だから今回は、勘弁してください。まだ、朝にはなっていないでしょう?だったら、もう少しミーリエルと遊んで行きたいな」
「ふふ、そんなに警戒しなくてもいいんじゃないか?ボクが記憶を書き換えて君をロリコンにするとでも?」
にしし!と意地悪い顔をしてそんなこというメル
「メル!ワタシのユージになんて事をしようとしているの!!」
「…ありえそうだから怖いんですよ。なんて言ったってメルは、魔女さんでそっち方面に詳しそうですからね…。だから、ミーリエルを必ず連れて行くことが最低条件です」
「ふふふ、懸命な判断だね。では、今度君にアクセス出来るときを楽しみにしようじゃないか!」
「まってメル!行く前に教えて!」
「どうしたんだい?ミーリエル」
ここは夢の中だという。…ワタシはどうしても聞いておきたいことが出来てしまった
「今このまま、ワタシは自分のの夢の中に行けるの?」
「ああ行けるさ。君たちは今、ボクが作った魔法石の夢見の石で同じ夢を見ていることになっている。この夢見の石は、ナイトメアと同じように他人の夢に入れるようにした魔法石なんだよ。今、君たちはお互いの手を合わせて石を握り締めてる状態だ。だから、望めばミーリエルの夢にユージを招待することもできるはずだよ?」
「そう!よかったぁ〜」
「ふふ!なにかよからぬことでも考え付いたかい?では、そういう事でボクは失敬するよ!」
「メル?ユージに悪戯しないでよね!!」
「これは…手厳しいな。大丈夫だ!恋人同士の睦み事にちょっかい出すほど野暮じゃないさ!じゃあね!」
そう言うと、メルは夢の中からいなくなった
「ユージ?メルがあなたの記憶になにか操作したって感じはあるの?というか、今ア…アクセス?されているっているの?」
「いや、大丈夫だよ。そこまで信用がないわけじゃないし、後で見せるって言っているんだからさ。もし、不安ならそのとき君も同行すればいいじゃないか?」
「うん…そうなんだけれど…。朝、目が醒めたら、ユージがワタシに興味を持たなくなっていたって思うと怖くて…」
「大丈夫だよ!さぁミーリエル?どこかに案内したいんだろう?行こう?」
観覧車の個室は丁度よく下に着いた
「あれ?」
と、予想外のところに来てしまったかのような声を上げたユージ。
扉を開けるとそこは…どこかのマンションの屋上だった
ユージはふらふらと歩いていく…
多分、この景色は深夜なのだろう。ここから見えるどこの家庭も明かりが消えている
遠くに、東から西へと伸びカーブして北へと伸びる高速道路のオレンジ色した明かりが点々と、光の列となって街を囲むように伸びているのが見える…
碁盤の目みたいに規則正しく輝く街並み
そこから見える他の家やマンションの明かりは所々点々と灯っているところがあった
下を走る車のヘッドライトが道を照らし舐めるように移動する
後の赤いライトの光が車を追いかけるようについていき消えていった
昼間の喧騒は消え、そこは本当に静かに聞こえる
ワタシにはそんなに静かには聞こえないけど、これはユージの感覚だからだろう
ユージは、屋上の縁に立って、ぼぅっと街並みを見ていた
「ユージ…?」
ワタシの声に、ふっと振り向いたユージ
「っ…本当に…本当に懐かしいなぁ」
ユージは少し振り向くと泣きそうな顔で本当に懐かしそうに言った。そして、また街並みの景色へと頭を戻してしまった
「あっ…」
もう帰ることが出来ない故郷…
それを思い出して泣きそうになってしまっているのだと気が付いた
「ユージ!」
ワタシは彼の後ろから抱きしめた
「…ミーリエルっ!こんなにも君の事が好きで、もう故郷のことは大丈夫って思っていたのにっ…」
彼はワタシの回した腕を大切そうに握り締めると、顔を伏せた
後からだと表情は見えないけど、すこし、震えている…泣いているの?
ワタシは彼をギュッとしながら落ち着くのを待った
どのくらいそうしていたかわからない…
「…はぁ。ミーリエルありがとう。落ち着いたよ…」
「大丈夫?」
「ああ、この景色はね一時期…新聞配達していた頃、仕事が終わった後によく眺めていた景色なんだ。ここからだとあのあたりに私の昔住んでいた実家がある…あぁ本当に懐かしい…」
彼が指差した先には大きな木々が生える雑木林が見える。その向こうに暗くてよく見えないけど、平屋の家が少し見えていた
「ユージのあの家に似ているね」
「ああ、あの家は私の実家によく似てたんだ。だから、あの平屋に移ったときなんかすごい懐かしい気持ちになったものだよ。雑木林はあるし、昔の家に戻ったような懐かしさがあって…ね。本当にいいところに移れたってね思ってた。そして、今のミーリエルの石の家。もし、田舎暮らしが出来るようになったらああいう家を建ててのんびりしたいなぁって思っていたのさ。夢が叶ったということなんだろうね?心から愛せる奥さんと子供達に囲まれた愛と笑顔に包まれた幸せいっぱいの家庭…いつかそれを築ければいいなって思ってた。今は、ミーリエルっていうすばらしい奥さんを見つけることができた。子供はまだだけれどいつかきっと!」
そんなふうに考えていたんだ…
愛と笑顔に包まれた幸せいっぱいの家庭…ユージとの子供…
それを聞いてワタシはいてもたってもいられなくなった
「ねえユージ?これから行くとこあるの?ないんだったらワタシの夢に来ない?」
「ミーリエルの夢?いいの?」
「ユージだったら大歓迎よ!ワタシも見せたい夢があるの!」
「うん!是非連れて行ってくれな?」
「じゃあ、さっそく行こう?」
ワタシは自分が見た夢へアクセスするイメージを浮かべた
目の前にはワタシの家の扉が浮かび上がる
開けるとそこは白い世界だった…
扉の向こうへ踏み出すと辺りは白かった
一面の雪だ
その先にはワタシの家…
辺りの森を見渡すと、木々の葉は落ち枝に雪が付いている
空は曇っていていつ雪が降ってきてもおかしくない天気
ワタシの家の、二階の円錐の屋根にも、一階の屋根にも降り積もっていた
軒下には融けた雪が氷柱になっている
円錐の屋根から飛び出した煙突からは、もくもくと煙が上がっている
玄関まで来ると、扉の横には雪だるまがいくつも置かれていた
大きい雪だるまが2体…一体にはしっぽが付いていて
二体は寄り添うようにくっついている
しっぽがない雪だるまの上には小さくてしっぽがある雪だるま
そして、2体の足元にも小さくてしっぽがある雪だるまが2体ある
「ミーリエル?これは?」
「…うん。ちょっと待ってね」
バタン!
勢いよく扉が開く
そして、何かが飛び出してきた
「ととさま〜!!」「ととしゃん!」「おかえりおとうさん!」
ワタシを小さくしたようなチビが3人出てきた
ユージは目を丸くしている
「「「おかあさん!」」」
「おかあさん?ととさま?…じゃあこの子達は?!」
ゆっくりとうなずく
「ととさま!さむい!!なかはいろ〜」
「あ?ああ」
3人に引っ張られるように家に入るユージ
居間につくと途端に、ユージの取り合いが始まった
「あたたっ…こらこら私は逃げないよ。だからもう少し落ち着きなさい」
「「「ハーイ」」」
室内にはキャッキャッと子供達が笑う声が絶えない
「ととさま!抱っこ〜!」「あっずる〜い!おとうさんわたしも抱っこ〜♪」「ととしゃん!おんぶ〜♪」
ユージはソファに座るとふたりをひざに座らせて、一番チビな子を肩車した
「ははは!こらこらひざの上で暴れない!こらこら頭の上で暴れない!落ちちゃうぞ?」
さっき、マンションの上で涙を流していたユージとはうって変わって、本当に幸せそうに笑ってる
「ミーリエル…この子達?…まさか?」
「うん。最近ね、よく見るようになったのこの夢。たぶん現実になるわよ?ワタシ、ユージが雷にうたれてこちらに来るちょっと前にねあなたと一緒に寝ている夢を見ていたときがあったの。あの時は、会いたい会いたい!って言う気持ちがそういう夢を見せたんだと思っていたんだけど、すぐにあなたがこっちに来てその夢は現実になったわ。だから、この夢も現実になると思う」
「…そうか。この子達、君にそっくりだよ。幼い時の君もこんな感じだったのかな?」
「ふふっ!そうかもね!」
「おとうさん!おかあさんと出会った時のこととか、一緒になれたときの話聞かせて?」「おはなし!おはなしっ!」「おはなひ…おはなひ!」
「ははは!そうだな。ミーリエル?もっとこっち寄って?」
ワタシはユージの隣に行く。するとユージは腕を腰に回して引き寄せた
手をユージのお腹にまわしてもたれかかる
ひざの上に乗る長女と次女の間に3女のチビを抱えるとゆっくりと話し始めるユージ…
遠い昔を思い出すように目を閉じゆっくりと静かに語りだす
彼の温もりを顔と体に、そして子供たちのあたたかさを感じながら物語に耳を傾ける…
…だんだんと目がまぶしくなってきた
?
「ミーリエル?どうやら目覚めの時間のようだよ?彼女達に私たちの物語を聞かせるのは彼女達が産まれてからにしよう?」
「ユージ…。うん!早く夢を現実にしなくちゃね!!」
ワタシは、三人とワタシを抱きしめて幸せそうなユージを、目に…心に焼き付ける
幸せな光景がだんだんと…光に包まれていく……
目覚めるとユージとつなぎ合った手が見えた
手の間には水色の石が朝日を浴びてキラリと輝いている
顔を上げるとすぐ近くでユージがワタシを見ていた
「おはよう」
「うん。おはよう」
「君の夢…いい夢だったな…」
「ユージの夢も本当に楽しかったわ」
ユージは手を離すと起き上がって夢見の石を朝日に透かして見ている
「3人か…」
「多すぎる?」
「いいや。何人でも歓迎さ。いっぱいいればたくさん楽しくなるしね!君に似てみんな美人になるんだろうしね」
目を閉じてさっきの夢を思い出しているのだろう。ユージは穏やかな笑顔を浮かべている
「ユージ…」
「ミーリエル…」
ちゅ…
お互いを見つめあう…
そうして、ワタシ達は夢で見たことを現実にしようとベッドに寝直したのだった…
12/03/12 22:07更新 / 茶の頃
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