夕食に子牛のステーキを食べ、一息つくとこれからどうするか考える
あの事故以来見えるようになった、異世界
記事のネタにはなる
でも…
何かが腑に落ちないというか…足りないというか…
・・・
そういえば、メルに相談しようと思っていたんだっけ
ワタシは彼女の元へと足を向けた

「ミーリエル。あの時はすまなかった。お詫びといっては何だけど夕食でも一緒にどうだろう？」
「ごめんなさい。ごはん今食べてきたばかりなの」
「そうか…まあ仕方がない」
「それよりも、メルに見てもらいたいものがあって…」
「見てもらいたいもの？」
「うん。ごはんまだなら、話しながらでどうかしら？」
「わかった。面白いことかい？」
「とても！」
「そうか。ならいこうじゃないか」

ワタシはあの事故でカメラに映るようになった異変を話してみた
「なるほど？これはおもしろい！！」
ソーセージを食べながらカメラを覗くメル
カウンター席に腰掛けたワタシたちの目の前には、背を向けたマスターが料理を作っている姿がある
でも、カメラの中はおかしなものを映し出していた

白い光がまぶしいほどそこを照らしている
そして、人が座っている
その人は壁に向かっていた
壁についている丸いものを右手で掴んでいて、左手は人差し指と中指に白い棒状のものを挟んでいる。その白いものからは煙管のような煙が一筋立ち昇っていた
その人の手と手の間にはちょっとしたカウンターのような出っ張りがある。その中に銀色の小さな玉が入っていて、どんどん壁の中に吸い込まれていく
彼の見つける先には変なガラス張り。その中は赤とかの光がピカピカ忙しなく瞬いている。釘が打ち込んであってさっきの銀の玉が上から転がり落ちていく
真ん中にスロット見たいのがあって、中ではいろいろな魚みたいな絵が泳いでいるかのように回っている
と、魚の回転がゆっくりになって…
止まった…
彼はすごくがっかりした様子…
膝元にある銀の玉がたくさん入った箱から、玉をまた掴みカウンターに入れていく…
その人はその後も一心不乱に壁に向かっていた

「いやあ、なかなか面白いねこれは！彼がいったい何しているか気になるけど、これは間違いなく異世界だよ！」
「やっぱり？どこなのかしら？」
「それはわからない。ボクもいろいろな所を旅して回ったけどこんな所は初めて見たよ！」
「この世界のこと記事にしても大丈夫よね？」
「大丈夫さ！とくに害があるわけでもない。こんな奇跡みたいなことは起こりえないことだからね！」
奇跡かぁ…
頭の中に記事の見出しが浮かんでくる
“奇跡？幻の異世界！”
そんなんで、見えるようになった経緯と写真を載せて…
あとは…ヒナちゃんに確認とって…
「ねっ！メル？この世界についてもっと詳しくわからないかしら？」
「うーむ。それにはどうして見えるようになったのか？それを調べなければわからないよ。ここがどこなのかも調べなくちゃね！」
「でも、メルにいろいろと頼んでしまっていいのかしら…？」
「構わないよ？前に言ったけどボクは不思議な事を探しまくっていると言ったろ？こういうことは今のボクにとって最大の感心ごとなんだよ！前に君を怪我させてしまいそうになったお詫びでもあるから、どーんとまかせてよ！」
…そう言われたら任せちゃうわよ？
「じゃあ、お願いしますメルさん」
「ミーリエル！出来る限りのことはするよ！これからボクは異世界のこととか調べに行ってみるよ。なんで、このカメラがこの世界を見れるようになったかも調べなくちゃならないしね。うまくいえば、あちらとの何かしらコンタクトをとれる様になるかもしれない！」
「うん！その時はぜひ取材させてね！！」
むこうとのコンタクトかぁ！出来たらいいな！夢が広がる

次の日、街に行くことにした
ワタシが勤めているのはこの街の新聞屋さん
週間新聞。そのうちの一枠をもらっている
「ヒナちゃーん！いるー？」
「ミーリエル？ここにおるでー！」
部屋の中では、印刷機の調節をしているハーピーがいた
彼女は、ハーピー種で名はヒナ。ワタシの大先輩だ
彼女がいなかったら、ワタシは記者ではなく普通の戦士として今も世界を旅して回っていただろう
彼女は、この街で記者兼編集長兼出版者とかいろいろやっている
「ああ！もう！！鬱陶しいわこの羽！自分の羽ながらなんとかしたいわ！！」
印刷用の機械を調節しようとして、いろいろといらだっている様子
「ふふ！相変わらずね！もう少し落ち着けばいいのよ？ほら、貸してみて？」
焦って調節をしようとするから羽が機械の隙間に入っちゃうのよ
「すまん…ミーリエル。それにしても、今日は来る日じゃないやろ？なんか急ぎのことでも出来たか？」
「うん…ちょっと、相談したいことがあって…」
「わかった。ちょっとまってな？」
ヒナちゃんは、ガサゴソと周りを片付けて座れるスペースを作るとそこに座り、ワタシにも座るよう進めた
「ふぅ、で？相談したいことってなに？」
「まずこれを見て？」
カメラを差し出して、覗いてみるように促した
「なん…なんやこれは？！！」
驚愕したように叫ぶと、何回も目の前とカメラの中を覗きこむ
目の前には印刷機と乱雑に置かれた印刷紙、インク、羊皮紙、その他ワケのわからないものでゴチャゴチャになった部屋
でも、カメラの中では光がピカピカ瞬いている小さな部屋が見える
「ミーリエル？どこを…このカメラはどこを写しているんや？」
まるで初めて望遠鏡を渡された子供のようにいろいろな所を見て回るヒナちゃん
フラフラと立ち上がりそのまま上を見たりぐるっと見渡したりしている…
そのまま、一歩踏み出そうとして…あっ！危ない！！
ワタシはすぐに立ち上がると、カメラをひったくるように持った
ヒナちゃんはゴミ箱に足をとられてひっくり返った…
危ない危ない…変にひっくり返ったらカメラが壊れてしまう
せっかくのネタが台無しになるところだった
「ミーリエル！酷いじゃないか！うちよりもカメラのほうが大事なんか？」
「ヒナちゃんはいつでも元気いいから大丈夫よ！でも、カメラに代えはないの！ごめんなさい！」
「そうかもしれんがな、もっと先輩を敬え…」
「あ！ヒナちゃん！部屋の中に人が入ってきたわよ？」
カメラの中の部屋には、男女4人が入ってきた
「なんやて？うちにも見せて！」
ふたりで覗く
4人は笑いながら部屋に入ってくるや荷物を置いて、テーブルにおいてある紙を見ている
それを指差しながら何かを言っている。そして、ドアの近くにある紐の付いた四角いものを手に取ると口元に当てて何か言った。しばらくすると、また誰かがやって来た。若い男だ。手に手帳のような四角いものを持ち何かやっている。まるで、酒場で注文をとりに来たウェイトレスのようだ。4人から何事かを言われると、何かを言って立ち上がり軽くお辞儀をして部屋から出て行った…。そして4人は、今度は分厚い本を手に持ち何かを選んでいて、手のひらサイズの四角いものを触っている。
部屋の一角には、光っている箱がある。と、唐突に光が変わった。どこかの風景のようなものと、文字のようなものが箱に浮かび上がった。男が手に、丸い網のようなものがついた棒を手に取ると、何かの調子をとうように拍手しながらリズムをとっている。そうして、口元にその棒をあてて、歌い？だした
部屋の明かりは少し暗くなり、他の3人は拍手しながら楽しげに相槌を打ったりしている
少しすると、さっきの若い男が来て、何かの飲み物みたいなものと食べ物を盆にのせてやって来た。若い男はまたお辞儀をして去っていく。歌う男は絶好調なのか棒を掴んでいない手をイェィ、イェィとばかりに振り上げて歌いながら踊っている…

「ミーリエル？こいつらは何しとるんだろうな？」
「…歌を歌っているんじゃない？」
「それはわかるわ！…ミーリエル！こんな時間に相談に来たのは、これを記事に載せたいと言うんやろ？でもな、こいつらがなにやっているのか教えてくれる人がいなくては、記事にならないんよ！うちらの記事は真実を伝えることがモットーやからなぁ！わからないのにあれこれと想像して書くわけにもいかん！」
「でも、ヒナちゃん今のところ、教えてくれる人なんていなかったわよ？みんな気づかないで素通りだったもの…」
そう、どんなに人の目の前でなにかやっても彼らは気が付いてくれないのだ…
「だったら、気づいてくれる人を探すんや！それが出来なければ、ずっと一つのことに張り付いて取材して、一つ一つ謎を解明していくしかない！」
「そんな…」
「そうでもしないことには、一度記事として挙げてしまったら読者のみんなは納得してはくれんで？」
…確かに、そうだろうな。異世界を見ることが出来るようになりました。それだけじゃつまらない記事になってしまうだろう。どんな世界で、どんな人々がいるのか興味を駆り立てて長く読んでくれるように…
「…メルに相談してみるわね」
メルはまだ帰ってきてはいなかった。前に異世界について調べてみるといって、どこかへと行ってしまっていたのだから…




　その後、ずっとワタシは足を棒のようにして探し続けることとなる…
　人気の多い所へ行ってはワタシのことを気が付いてくれないかと歩き回ったりした
　あちらではワタシはどう見えているのかとあちらの世界の鏡の前で映してみたけども、鏡にワタシの姿は映ってはいなかった…
　それは、もうダメかもと半ば諦めかけていたときだった…



「やっぱり、あちらにはワタシのこと気が付いてくれる人いないのかなぁ…」
最近は、なんだか寂しくなってきていた
いくら見えてもそれっきり、詳しいことはなにもわからない
ワタシはいつしか、あのメルと撮影した所に来ていた
遠くにワンコが羊を追っているのが見える…のどかな風景。サーっと聞こえる風の音が少し冷静になれと言っているようで落ち着いてくる
と、突如、カメラになにか写った
人のお腹…茶色のベルト、黒いズボン、茶色っぽいジャケット、手を突き出して黒っぽいものを持っている
なに？この人…この人の手に持っているのもの…真ん中にレンズみたいのものがはめ込んでありちょっと突き出ている。まるで、ワタシのカメラを小さくしたようなもの…さっきから私の前から動かない…
ワタシのいる所になにかあるの？周りを見たけれども彼の先にあるのは河原の風景、特に変わったものはない。珍しいお花があるわけでもないし、なにかいるわけでもない…
彼は何をしているのだろうか？ワタシが彼の全体像を見ようと少し位置を引くとついてくるようにこちらに向かって来た
横顔を見ようと横に回ろうとするとこっちを見る…

まさかっ？！

この人ワタシが見えているの？
中腰から立ち上がって考える…まさか、でも…
目の前の人は手を振っていた
これって、ワタシに手をふっているの？
あ…手を顎に当てて考えるような格好をしている
ちょっとこっちを見ると…！！
走り出した！

「ちょっと！待ってよ！！」
慌ててカメラを抱えるとワタシも追う…
「って！！キャァァァァァ！！」
柵の下にあった大きめの石につまずいた！
そのまま、倒れこむワタシ。せめて、カメラだけでも…！
カメラを脇に抱えてワタシは倒れていた
顔が痛い…
あの人はどこいったの？
起き上がるよりも先にカメラを覗きこむ
足が見えた…目の前に戻ってきている

「突然、なにするのよ！！」
そこにいるであろうその人にひと睨み
ひざをついて起き上がりカメラを見ると、その人は手を差し出していた
掴めって？こんなんじゃ許さないんだから！！
手を差し出すと“スカッ”っと手がすり抜けた…
「あっ。そうだよなぁ…あっちの世界のことだったっけ…」
苦笑い


　そのときの感激といったらなかった
　やっと！やっとっ!!ワタシの事見てくれて、答えてくれる人を見つけたのだ!
　もう、いてもたってもいられなくってなんとか話したくて！
　もう、もうっ！はやくはやくと気が急いていた


「やっと…やっとコンタクトを取れる人を見つけた！…ここでは落ち着いていろいろ聞けないわね…どうしようかなぁ…」
ワタシは考えた…
「そうだ！ここはワタシの家に近い！この人をワタシの家に連れて行ってそこでいろいろ訪ねてみよう！」
ワタシの家の周りには廃屋のような空き家がたくさんある…あそこなら落ち着いて話せ（？）る！

「付いて来て！」
ワタシは手招きをした
「よしよし、ついてきているわね！」
これでようやく話を進めることが出来る
いくら写真があって、記事を書こうとしてもその物がなんなのかわからないことには記事にしようがないし…


そうして歩いていくと、その人はなんだか胸の前で手をクロスさせるように手を振っている
「なに？なんなの？」
まるでこれ以上進めないとでも言っているようだけど…？
「大丈夫！大丈夫だからお願いこっちに来て！」
ワタシの後を指差してなにか言っているように口をパクパクさせている
大丈夫よ！と大振りで手招きをする
また少し歩くいていく
？！
振り向くとカメラの前には白くて見上げるほど高い壁が見えた…
まさか、あの人はこれのこと言っていたんじゃ…
…壁の向こうで待っていてくれているわよね？
嫌な予感がした…
急いで、壁の向こうに戻る
そこには誰もいなかった…
え？なんで？どこに行っちゃったのよ…

周りを見渡しても、会ったところに戻ってもあの人とは再び会うことは叶わなかった…




　それがユージとの出会いだった
　雷を受けたユージのカメラの写真にはワタシの姿が写っていたらしい
　リザードマンの特徴的な目としっぽが、そしてこの箱カメラ…ユージの世界ではほとんど見かけることもないカメラだと言う
　この世界に興味を持った彼は、こちらの世界を覗きながら日々ワタシのことを探していたらしい
　でも、なかなか見つからないから、最初に見たあの牧場付近を見張っていたという
　最初は、本当に興味本位。異世界というものが本当にあるのか？あったとしてもコンタクトできるのか？といろいろワタシと同じようなことを考えていたらしい

　最初にコンタクトできた時、ワタシは本当に浮かれていた
　とにかく、早くいろいろなことを聞いてみたくて焦っていた
　ハーピーのヒナちゃんにも指摘されちゃうほど…
　ほどなくして、また会えたのだけれど…




「まったく、ミーリエルらしゅうない…。浮かれてたんやなぁ」
う、痛いことを…
「せっかくの協力者を見失いおって…」
「ヒナちゃん！言われなくてもわかっているわよ！」
「まあ、見つけられんものを見つけられたんや、奇跡なんやろうなぁ」
奇跡。またも奇跡…なら、また奇跡が起こってあの人に会えるかも…
「で？その男はどんな男だったんや？ミーリエルのタイプか？それともうちのタイプか？」
「ヒナちゃんのタイプってどんな人よ？」
「やさしくて、うちのことをいつまでも愛してくれる…おチンチンのおっきぃ人や！！」
それって誰でもいいって事じゃないの？魔物はよさそうな人がいたらとっとと襲ってとっととモノにしてしまう
それに、ヤッているうちにあそこも大きくなるというし…
「で？ミーリエルはどうなんや？彼のことは？」
「…いい…と思う…」
コケるはめになったけれど…
手を差し出してくれた時に見せた、あの柔和な笑顔を思い出す…
たぶん、ワタシが見えているのわかってたんだと思う…だから突然、走り出したりしたんだと思う
「だったら、とっとと聞けるもんは聞いて、その彼にアタックしてミーリエルのモノにしてまうんや！」
「そんな！まだはやい！まずは記事を優先させないと！それにあの人のこと何もわからないのに…」
「そうやなぁ…でも、いいと思っているんやろ？だったら何も知らなくても大丈夫やろ」


それからほどなくしてまた、彼と会えた。ヒナちゃんのありがたい応援を受けてもう少し彼とコンタクトしてみようと思う
彼と会える日は決まっている。どんな人で何をしている人なのかはわからないけれど、会える日は、決まった時間にあの柔和な笑顔を浮かべて、決まったベンチに腰掛けて待っていてくれる
ワタシはいろいろと彼の世界のことを知りたいと思う。だから、何とか会話をしようとするのだけれども、言葉は違うみたいだし、場所によって彼は身振り手振りをしてくれない。何故？と思うと彼の周りには大勢の人がいたりしていて、身振り手振りを躊躇っているようだ。人通りのあるところでは彼がワタシを見るための掌カメラも下げてしまっていて人通りがなくなるのを待っているように見える。…そうか、彼以外ではワタシのことを知っている人はいないんだ。確かに、道端でワケのわからない身振り手振りをしていたら、恥ずかしいし、変な人に思われてしまうだろう



ある日、出かけようとしてカメラをチェックしていると、向こうの空き家ではだぼだぼの服を着て捻った布を頭に巻いているおじさんが何か作業をやっていた。銀色の梯子やワケのわからない機械みたいなものを持ち込んでいる。…？…なにしているのこの人？干草色した何かの草を編んだような床を剥がして外に持って行っている。…その家をどうするの？ねぇ、壊さないで！彼とのコンタクトの場に使えなくなっちゃうじゃない！
しばらく見ていたけれど、どうやら取り壊すわけではないらしい。一安心…。中を直している様子。でも、直したら誰かがここに入ってくるの？だったら、彼との会話を早くに始めなければ…
次の日から下準備。彼をこの家まで連れてくるための道標を作ることにした。向こうの世界は家とかが多く歩くのに一苦労をしてしまうし、またあの時みたいに迷子になるだけだろう。だから、あちらの道に沿って藪があれば剣で払い、目印がなければ石なり何なりを置く。そうして、スムーズに会えるよう準備を整えていった

待ちに待った彼と会える日…ワタシは兼ねてよりあちらの世界の道筋を考えていた。どうすれば、お互い迷子にならずにワタシの家に連れてくることが出来るのか…下準備は上々。彼は、ワタシの後をついてきてくれる
カメラを覗くと、石の道は砂利の道へと変わり、辺りには雑木林が見えてきた。あと少し…ワタシの家が見えてきた。彼はキョロキョロとしながらついてきている
家の扉を開けて、手招きをする

彼は、開きっぱなしの古びた扉の前に来ると、中に何かを呼びかけるように口を開いた
だぼだぼの服を着て捻った布を頭に巻いているおじさんが、中から出てくると何事かを言っている…
おじさん？もしかして、彼が家に入るのを邪魔する気？
・・・
メモみたいな紙を渡したりしている
何度かのやり取りの後、彼はやっと中に入ってきた
やっと来た…待ったじゃないの！


「どう？ここがワタシの家よ？いいところでしょう？」
ワタシはこの家のすべてを自慢するように手を振って、ドンと自分の胸を叩いてみた
彼は…笑顔で親指を立ててグーをしている。何かのゼスチャー？でも、良い！と言っているようだ
うしろからおじさんが来ると、また何事かを話している
何の話をしているんだろうか？
そして、おじさんはどこかに行ってしまった

彼は、うーむとちょっと考えるような素振りを見せると、手帳を取り出してなにか絵を書き込んでいる
家の絵と人の絵が描かれている
何をするのだろうか？
指先でココだと示すように部屋を指差して絵の家を指差し、人？の絵を指差して自分の胸の前で指差している
…その家が絵の家で…その人の絵があなた？なの…
矢印と人の絵が書き加えられた
彼は、身振り手振りで器を持って食べるそぶりをしたり、両手を合わせて自分の頬につけると横に倒れ掛かるふりをして寝ているような姿勢をとった
…まさか、ここに住むことになったというんじゃ？…住む？
本当？！
ワタシはメモとペンを構えながら乗り出していた
彼がここに住む？！聞きたいことがすぐにでも聞けるという喜びと、彼そのものに対する興味で思わず笑顔になっていた
それで？！
あっ…カメラ…カメラ…
あああ…苦笑している…はずかしいとこ見られた
ワタシの言いたいことがわかったのだろう。うなずいている
彼がここに住む！ワタシは彼がやっていた親指を立てたグーをやってみた
彼も親指を立ててグー
ワタシは…なんだか少し心が触れ合ったような気がした