<ミステリーツアー>4.お宿はいずこ?
「着きましたよ」
優しい声と共に目を開くと、飛び込んできたのは燃えるように赤いオレンジ色
ところどころにある薄曇り空は、紫色になっていてとてもきれいな空だった
「あちらが魔王城となります」
声の先を辿ってみると…
城…というよりも山いや山脈?に匹敵しそうな大きな塊が遠く彼方に見えた
黒い塊…平地に巨大なプレートの一枚岩がどすんと残されたようにそれはそこにあった
視界いっぱいに威圧するようにそこにある
「あれが…魔王城…」
地平線の彼方にあるはずなのに遠くにも近くにあるようにも見える
あそこはどれだけ大きなところなのだろうか?想像もつかない…
欧州にあるような城を想像していた私にとってそれは、とても黒く禍々しく、入ったらとてもじゃないが生きて帰れないように思えた
「魔王城…
有史以来…いえ、それよりも遥か昔から存在していました
神々が、魔物を…そして人類を創り出して以来。魔も人も互いに憎しみあい争い続けていたのです
それによって、数々の増改築が行われ現在のような姿になりました
今の世界は、魔力を糧として世界を我々の住みやすい地…魔界へと徐々に変化させています
この魔王城には数え切れないほどの魔物が暮らしています。魔王様もこの城の最深部でかつて自分を殺めようと送り込まれた勇者を夫とし永い永い年月をそこで…互いに求め合い、着々と神に対抗するため力を溜め込んでいます」
「あんな所に勇者とか言う連中は攻め込むんですか?」
「はい。小さなものでは数人からのパーティーで…時には数百数千からの軍勢で魔を滅ぼさんと攻め入ってきます。とある国が魔界になったことによりこちらに攻め入ってくる勇者の数は減ったような気もしますが…」
今だ陥落していないと言うことは、入った連中はすでに攫われたことになるのだろう…
「…撤退しようとした連中は出てこれたんですか?」
「入ったら出られることなんて稀ですよ」
ニコリととんでもないことをいうガイドさん
「争い目的以外で魔界の…魔物達のことを知ろうとやってくる人々もいるわけじゃないですか。そんな人々も魔物にして帰れなくしてしまっているのですか?」
「結果的にそうなってしまっているだけです。人のまま出て行く方だっておられるんですよ?」
「……」
心配そうに黒い山をあおぎ見る私にガイドさんは言った
「魔物になってしまうのでは?と抵抗を感じていらっしゃるみたいですね。大丈夫、わたしの言うことをよく聞いてそのバッジを肌身離さず持っていれば無事に人のままここを出られます。魔物になってしまっても帰ることはできますよ?パートナーとなった人が帰ることを許してくれるならば…もしくは自然に魔物になったのを気が付かない場合もですけど…」
「抵抗と言うのは…少し違うかな…私がいた世界は人しかいなくてそれが当たり前でした。ですが、この世界には魔物がいる…。分からないんですよ。…うまく…言えないけど…魔物になってしまったらどうなるのか…本当に…だから…でも…」
わからない。魔物になったらどうなるのか。そうなったらこちらに残るのかそれとも向こうでの生活がどうなるのか…人でなくなる…それは一体?
「しーーーー。落ち着いて…。今はそれは考えなくてもいいではないですか?体や精神にどんな影響がでるかは後でお話します。今は…今を楽しんでくださいな」
頭が混乱しかけたが、ガイドさんが落ち着かせようと抱きしめてくれた…
ガイドさんの抱擁は本当に…落ち着く…
魔物になる…はたしてそうなったら私は…どうなるのだろうか…
「さて、日が暮れるまでまだまだお時間はあります。まずはこの辺りを散策してからお部屋へと参りましょう?」
迷いの顔を浮べる私に、気分を変えるかのように明るく言ったガイドさん
散策?そういえば、辺りを見回してみると水上庭園のようなところに私達は立っていた
大理石のような石の円柱が所々に立ち並び、倒れてしまっている柱も多く存在している。そこは昔の遺跡のような所だった
昔の遺跡に水が流れ込んだらこんな風景になるかもしれない
「ここは…ただの庭園ではありませんよ?」
「え?」
てっきり、きれいな庭園だと思っていたら違うと言う…
「水の中を見てください」
水の中には…
街があった
崖の岩の壁に穴を開けてそこを部屋として利用したようなそんな光景。見た目はマンションのようだ
私のいる広場の下に支えはなく、ここは橋のような構造をしているらしい
水は薄いピンク色で水の中の人々は、薄い紫色っぽく見えた
人魚だろうか?腰から下が魚みたいな人が大勢いて、パートナーなんだろう…男の人と泳いだり遊んだりしているのが見えた…
「その昔…神々の力を得た勇者はここで死闘を繰り広げようとした魔物達に雷を落とし地が裂けるほど強力な魔法を使ったのです。そのため、当時の多くの魔物が死にここには大きく深い地割れができたのです。戦いが終わった後…魔物達はここに深い深い地下迷宮を作り上げていきました。ですが、そのうち…数百・数千年という長きに渡る時間の中、地下水や川の水が流れ込むようになり…水中に沈んでしまいましたが、その後川や海で暮らす者達がここで暮らすようになりこの魔王城周辺では、陸で暮らす魔物の他に水の中で暮らす魔物達も見ることができるのです」
「はぁ〜」
ピンク色の水の中を優雅に泳ぐ人魚達
なんとなく、アマゾンにいるというピンクのイルカを思い出した
人と遊ぶのが好きな川イルカ達。優雅に泳ぐその姿が、この中で泳いでいる彼女達に重なった
好きな者と共に遊びながら…幸せそうに泳いでいる彼女達…
気が付かなかったが…水の中の魔物達が地上にでて甲羅干しを楽しむようにそこらに寝そべっていた
倒れた円柱の上で語らっているカップルがいるのが見えた
他にも水面から庭園を歩く人に声を掛けている人もいる
水の中を覗いていたら何かが勢いよく浮き上がってきた
慌てて身を引く
その瞬間に腕が伸びてきて間一髪引き込まれそうになってしまった
「ねぇ?おにーさん。こっちにきてイイコトしましょう?そんな白いすまし顔の羽つきよりもわたしと水の中で身も心も蕩けきった、毎日を送りましょうよ〜♪ 今なら、わたしのす べ て をあげちゃうわよ!この帽子も体も〜ココロも〜ぜ ん ぶ♪ 」
赤い帽子をかぶった人魚さんが勧誘してきた
「あの…すいません。今、旅行中でして…そんなことをしている時間はないんです…すいません…」
「そんなつれない〜!あなたは水に包まれることを知らないからそんなこと言うの〜!水に力を抜いて漂うと…こんなにも落ち着いて、心静かになることができるの。そんな中で好きな人といっしょにいっぱいえっちして…それがどんなに幸せなことなのかあなたは知らないからそんなこと言うの〜!そんなひと時を味わってみない?」
「…ゴメンなさい!私、昔溺れたことがあるんです!だから…水は…!」
「大丈夫!そんな人のためにビショップ様がいらっしゃるの!だ・か・ら…こわくな〜い♪ 」
おいでおいでをするピンクの人…
キラキラ光る水面…それが、かつての古傷を思い起こした…
テトラポッドに足が嵌って浮べなくなったこと…恐かったこと…幼い頃だったからよくは覚えていない…でも…
いまでも足の届かないところへは行けない
プールよりも深いこんなところに落ちたら二度と戻れなくなる…そう思うと足が動かなくなる…
気が付けば…ガイドさんのしっぽを握り締めていた…
「そっか…それじゃぁ仕方がない…。そんなにも怯える人を無理にひきづり込むのも悪いしねぇ…機会があったら潜ってみてね?やさしくエスコートしてあげるから!」
そう言ってピンクの人魚さんは水中へと消えた…
後にはガイドさんとそのしっぽを握り締めている私が残された
「深井様…そんなにしっぽを握られては…」
「え?!」
我に返って慌てて手を離す
「だめですよォ…そんなにギュってしちゃぁ…力が抜けちゃいますぅ…」
力が抜けたように私に倒れ掛かるガイドさん
「すみません」
あわてて抱きかかえるとニッと微笑んだ
どうやら冗談だったらしい
「でも…ホントにしっぽをギュッてされるのは弱いんですから…気をつけてくださいね?」
「すみません…」
慌てていたとはいえ…握り締めるほど握ってしまうとは…
「水は嫌いなのですか?」
子供をあやすようにそう聞くガイドさん
「…深いところがダメなのです…昔…子供の頃、川で遊んでいて水の中に落ちてしまったのです。なんとか水面に出ようとしたとき…沈めてあるテトラに足が嵌ってしまって…よくは覚えてないんですが…そんなことがありました…」
「…そうですか。ごめんなさい…水辺がダメだったのですね…では、違う所に行きましょう」
次に飛んだ先は…
奇妙な林…いや…なんだこれは…?
植物が…動いてる?!
蔓状の植物達がうねうねと蠢いていた
「触手の森です」
触手…クラゲやイソギンチャクについているあれのことだろうか…
でも、目の前のこれは…その先はペニスの形をしていた
陵辱ゲームにでてくる触手を連想させた
夕日で暗くなった森の中と不気味に蠢く触手…気色悪い
「この触手たちは、魔物の魔力を餌としています。」
そういうと、ガイドさんはどこからともなく、なんかドロッとしたボールのようなものを手のひらに浮かべて草むらの中に投げ込んだ
それが落ちるとボールは弾けて飛び散る
一斉に辺りの草が飛び掛る
「な…なんだ?ありゃぁ…!」
「ここはまだ開けていて襲ってくる触手も大人しいですが…森の中央はもっと凶悪な触手たちがいて獲物が来ると、意識が飛んでしまうほど強烈な快楽を与えてその獲物の魔力を奪おうとするのです」
「命を獲られるのですか?」
「そこまでひどくはありません。ですが…もし魔物が捕まったならば…快楽に忠実な糸繰り人形のようになってしまうでしょう…」
「男が捕まったならば?」
「その場合は…」
赤い瞳が私を見た。何か訴えるように?見ている
「その場合は?」
「ここには興味本位や自分で慰めるよりももっと刺激がほしいと一人で森を分け入って入ってしまった娘も多くいます。そして、その快楽に嵌って出てこられなくなってしまった者や魔力を吸われすぎてそのまま出てこられなくなり彼らの餌のように扱われている娘もたくさんいます」
「自分でここに来る人もいるんですか?」
「はい。男の人を見つけれられずに手軽に快楽を得たいと入っていく方などね。実際、手にとってみるとなにもしなくても気持ちいいところを見つけ出してそこだけを責めてくれる触手も多くいますしね」
「……」
…責めてくれる?…多くいる?…ガイドさんも試したことがあるのだろうか?
そう思うとなにやらいけない妄想が…
この美しい彫刻のようなその身体に悪趣味な触手が包み込むように群がって…
やめやめやめ!!
「はぁ…」
吐き気が出そうだ…
「ちなみに、わたしはきもちいい…」
「え?!」
やったのか?!
何かが崩れるような気がした
「きもちいい…からといって、まだ将来のだんな様も見つけていないのに触手に身を預けるようなことはしませんよ?」
私がなにを想像したのか見透かすように茶目っ気たっぷりにそういった
「はぁぁぁぁ…」
一気に疲れた
「ふふふ♪ …それでですね?捕まった男の人は、そうやって餌状態になっている娘のところに連れて行かれて彼女達の精の供給源にされるみたいです」
「精の供給源…」
「知っているのですよ彼らは…男の人の精が魔物の魔力の源であることを…本能的にね」
「……」
「だから、そうなったら男の人は自我を破壊されるほどの徹底的な快楽を捕まっている娘ともども味あわされて、そこから…いえ半永久的に彼らの餌に成り下がるでしょうね…でも、ともに快楽を味わっているわけですから、彼らは幸せなのでしょう…」
「自我の消滅…」
身震いした…自身が自身でなくなる…何もかもが快楽に飲み込まれる…
「大丈夫ですよ。森の中に入ろうなんて機会はそうそうないんですから、入っているカップルだっていつもの交わりがちょっと変わった気持ちいいものに変われば…くらいの遊びで来ているのですからそんな凶悪なところに行く人なんてまずいません。魔王城に侵攻しようとした勇者の一団が城下に広がっている街を迂回しようとしてこの森に来てここごと殲滅しようとしたこともありましたけど…彼らは、それを察知した魔物たちと凶悪な触手に捕まって逆に殲滅されてしまいました。いまでは魔王城のなかでよろしくやっているか、この森の最深部で誰かと幸せになっているでしょう…」
「……」
とてもじゃないが、まともな精神でここに来ること自体無理そうだ
勇者なんてのがかわいそすぎる…
旧魔王時代よりも攻略難易度が上がっているのではないのか?何も知らない私だが…そう思わないわけにはいかなかった…
「深井様?ちょっと散策してみますか?この辺だったら触手に絡まれて遊んでいるカップルもおりますよ?」
「……」
今の話を聞いて散策しようという馬鹿者はいるのだろうか?
「ふふっ。試してみたいとか言い出したらどうしようかなとか思いましたけど…大丈夫そうでなによりです」
「…試してみたそうな顔してました?」
「少なくとも、見てみたそうな顔はしてましたね」
「空想上でそういう生き物がいるというものはあったのですよ。だから、絡まれている人を見るいい機会かな?と思いまして…」
リアル生触手陵辱…遊びだとしても見てみたかったのは事実…
「機会があれば城の中でも見れますよ?ローパーさんとかいらっしゃいますし…さて!そろそろ日も暮れてきました。ですから移動しましょう!」
気が付けば遠くの地平線に隠れかかる日があった
いよいよ、魔王城…緊張と不安と期待が心を覆う
はたして、どんなところなんだか…
着いた先は広い…広い広場だった
ライブでも出来そうなほどの広場。どうやらここは舞台のように一段上がっていてなにかのイベントをするところなのだそうだ
裏…背に位置する壁は切り立った壁…
ここはもろ魔王城の城塞の下に位置したところで、イベントが行われるたびに、中から大勢の人々がやってきてすごい熱気に満ち溢れるのだそうだ
ガイドさんはこの広場を“享楽の広場”といった
享楽の広場…
魔王城の壁や自然の地形が重なってできたホールのようなところだという
小さな音もよく反響して大きな音に変えてしまう
そして、遠くまでこの音は良く響くのだそうだ…
各地に点在するサバトの合同サバトやセイレーンのライブなどが連日開かれたり、捕虜となった人間達の競り落とし…アマゾネスによる夫の集団お披露目やダークエルフによる調教講座などのイベントが催されることもあるという
ふと空を見上げると何かが城の中へと入っていくのが見えた
夕闇に沈む空にたくさんの黒い影が山…城へと帰っていく
まるでカラスか鳥の群れのようだが…あれは翼をもっている魔物達らしい
あんなにたくさんの…。帰るのを楽しみで仕方がないというように一直線に…
城の窓…自分の部屋なのだろうか?飛び込んでいくものから、バルコニーに下りていくものまで…
眺めていると、夕日が沈んでいく様子を空に浮かびながら楽しんでいるカップルも大勢いた
唖然とその様子を見ていると、ガイドさんが悪戯っぽい顔をしながら抱きしめると一直線に空へと浮かび上がった
「のぁぁぁぁぁ!!」
「ふふっ!大丈夫!大丈夫♪」
あたふたする私を尻目にその高さは上がる
オレンジ色は赤へと変わりつつある。私たちが浮かぶその空は赤い色へと変わっていた
地平線の山の稜線は輝きながら闇へと呑み込まれていった
「どうですか?」
「心臓に悪いです。…ですが、とても雄大で美しい」
「そうでしょう?わたしはこの世界をもっとすばらしいところにしたいのです」
「…どうやって?」
「それは…」
そういって抱きしめる腕に力を込めたガイドさん
こちらを見てちょっと笑ったかと思ったら日の沈みつつある地平線を見ている
一体何を思っているのだろうか?
「さぁ…城の中へと行きましょう?」
「…はい」
何を思っていたのかはわからない
でもその顔はとても待ち遠しいなにかを待っているという希望に満ちた顔だった
いよいよ城内…緊張してしまう。扉の脇には2・3メートルの悪魔?翼を持った魔物の彫刻が施されていた
4・5メートルはあるかと思う扉をくぐると…幅の広く高さもかなりある通路が目の前に広がっていた。どこまでも続くの通路
こんなにも広いのにここは正門からの入り口ではないそうだ
いくつもの通路が繋がっているようで頻繁に見たこともない魔物さんやたちが往来している
薄暗いかと思いきや、所々に火の玉のような火が浮かんでいた。有機ELのパネルみたいに壁やタイルが光を放っているところもある
幾何学模様の光を放つところからは、突然人が現れたりそこに乗った人が瞬時に消えるなんて事が…
不思議な音楽がかかっていたり、蛍光色の花々が飾ってあったり…
そこにいる人々…魔物さんたちを観察する
ほとんど裸という格好の人たち…鎧姿の兵隊だろうか?から、煌びやかに着飾って優雅に歩く人々…
どこかで見たような…メイド服?!そんな服装の人もちらほらと…
さそりのような足と針を持った異形な人?から蛇な人までもがいる。どうみても物理法則など無視したように空中を飛んでいる人々もいたりした
私が扉から中に入るとその場の空気がざわめいた
こちらを指差している人がいる
ちらちらと見る人もいる
こころなしか…舌なめずりしている人もいる
「いきますよ?」
中の様子に唖然としている私。彼女に促されて中を歩く…
ガイドさんにぴったりとくっついて…
歩いていくと、纏わり着くような視線が気になった
「ガイドさん…」
居心地の悪さに思わず助けを求めて声を掛けるが…
「ふふふ。みんな深井様のことが気になるんですよ。ほら、バッチにわたしの魔力を含ませているとはいえその量は微量…いつでもあなたを奪えると思ってしまうのも無理はないです…そして、あんなにも虜の果実を食べたのですから、あなたのことが気にならない娘なんていませんよ…」
「ああああ…」
全身を嘗め回すように見られている。頭の天辺からつま先まで服の中まで見透かされているのではないかと思われるほど見られている
ねっとりとした空気とからみつく視線が毛穴を開かせて汗がじんわりとにじんでくる
時々おいしそうだとか、あんなうまそうな男どこで捕獲したのかといったような声が聞こえてきた
「ほら…こっちですよ?」
ガイドさんに腕を引っ張られながら部屋へと向かう
螺旋状の階段をいくつも上り、いくつもの通路を渡る…
内部はほとんど同じような造りで、迷ったならば確実にアウト
窓のない通路…大きな船の中を歩いているような感覚だ
所々に休憩室のような広場が設けられており、井戸端会議のように魔物達が自らのお気に入りの交わりの方法、ヤリながらこれをするとより気持ちいいなどといった方法を教えあったりしていた
一定間隔で配置された石像は、台が石の場合があったり、悪趣味に男を下にして喜んでいるといった表情豊かなものまでが置かれていた
通路には甘い香りが充満し、どこからともなく嬌声が響いてくる
バッチで魔力とかいうのを除けていても、直接耳に入ってくる音だけはどうしようもない…
頭が変になりそうだった
途中、休憩を入れてくれた
耐えられずにフラフラになっている私を心配してくれたからだ
「大丈夫ですか?」
「…頭がへんになりそうです」
「後少しですから我慢してください」
「魔王城ってキツイですねぇ…」
「普段魔力のないところに住んでいらっしゃるから余計に影響してしまっているのかもしれません」
「なんか体に…じわじわと何かが入り込んでくるような気持ち悪さがあります」
どこからともなく聞こえてくるアンアンとよがる声や喜びの声が常に響いていて体も心も反応してしまう
「普通だったら、触れるだけでインキュバス…魔物化してしまうような高濃度の魔力が漂っていますからね…。そろそろ行きましょう?いつまでもこんな所にいたら本当に魔物になってしまいますよ?」
それを聞いて、足に喝を入れて歩き出した
まだまだ階段を昇る
移動の魔法があるならそれで行ってもらいたい
高山病のように頭が痛いしめまいで体がフラフラになっているから余計にキツイ
「着きました」
階段を上りきった先…
どこから見ても普通の扉が…あった…
「お疲れ様でした。ここがあなたのお部屋です。いろいろとあって疲れてしまったと思いますけどゆっくりとしていってくださいね」
…疲れた。どんな部屋なのか…何も考えないまま私は部屋の扉を開けたのだった
優しい声と共に目を開くと、飛び込んできたのは燃えるように赤いオレンジ色
ところどころにある薄曇り空は、紫色になっていてとてもきれいな空だった
「あちらが魔王城となります」
声の先を辿ってみると…
城…というよりも山いや山脈?に匹敵しそうな大きな塊が遠く彼方に見えた
黒い塊…平地に巨大なプレートの一枚岩がどすんと残されたようにそれはそこにあった
視界いっぱいに威圧するようにそこにある
「あれが…魔王城…」
地平線の彼方にあるはずなのに遠くにも近くにあるようにも見える
あそこはどれだけ大きなところなのだろうか?想像もつかない…
欧州にあるような城を想像していた私にとってそれは、とても黒く禍々しく、入ったらとてもじゃないが生きて帰れないように思えた
「魔王城…
有史以来…いえ、それよりも遥か昔から存在していました
神々が、魔物を…そして人類を創り出して以来。魔も人も互いに憎しみあい争い続けていたのです
それによって、数々の増改築が行われ現在のような姿になりました
今の世界は、魔力を糧として世界を我々の住みやすい地…魔界へと徐々に変化させています
この魔王城には数え切れないほどの魔物が暮らしています。魔王様もこの城の最深部でかつて自分を殺めようと送り込まれた勇者を夫とし永い永い年月をそこで…互いに求め合い、着々と神に対抗するため力を溜め込んでいます」
「あんな所に勇者とか言う連中は攻め込むんですか?」
「はい。小さなものでは数人からのパーティーで…時には数百数千からの軍勢で魔を滅ぼさんと攻め入ってきます。とある国が魔界になったことによりこちらに攻め入ってくる勇者の数は減ったような気もしますが…」
今だ陥落していないと言うことは、入った連中はすでに攫われたことになるのだろう…
「…撤退しようとした連中は出てこれたんですか?」
「入ったら出られることなんて稀ですよ」
ニコリととんでもないことをいうガイドさん
「争い目的以外で魔界の…魔物達のことを知ろうとやってくる人々もいるわけじゃないですか。そんな人々も魔物にして帰れなくしてしまっているのですか?」
「結果的にそうなってしまっているだけです。人のまま出て行く方だっておられるんですよ?」
「……」
心配そうに黒い山をあおぎ見る私にガイドさんは言った
「魔物になってしまうのでは?と抵抗を感じていらっしゃるみたいですね。大丈夫、わたしの言うことをよく聞いてそのバッジを肌身離さず持っていれば無事に人のままここを出られます。魔物になってしまっても帰ることはできますよ?パートナーとなった人が帰ることを許してくれるならば…もしくは自然に魔物になったのを気が付かない場合もですけど…」
「抵抗と言うのは…少し違うかな…私がいた世界は人しかいなくてそれが当たり前でした。ですが、この世界には魔物がいる…。分からないんですよ。…うまく…言えないけど…魔物になってしまったらどうなるのか…本当に…だから…でも…」
わからない。魔物になったらどうなるのか。そうなったらこちらに残るのかそれとも向こうでの生活がどうなるのか…人でなくなる…それは一体?
「しーーーー。落ち着いて…。今はそれは考えなくてもいいではないですか?体や精神にどんな影響がでるかは後でお話します。今は…今を楽しんでくださいな」
頭が混乱しかけたが、ガイドさんが落ち着かせようと抱きしめてくれた…
ガイドさんの抱擁は本当に…落ち着く…
魔物になる…はたしてそうなったら私は…どうなるのだろうか…
「さて、日が暮れるまでまだまだお時間はあります。まずはこの辺りを散策してからお部屋へと参りましょう?」
迷いの顔を浮べる私に、気分を変えるかのように明るく言ったガイドさん
散策?そういえば、辺りを見回してみると水上庭園のようなところに私達は立っていた
大理石のような石の円柱が所々に立ち並び、倒れてしまっている柱も多く存在している。そこは昔の遺跡のような所だった
昔の遺跡に水が流れ込んだらこんな風景になるかもしれない
「ここは…ただの庭園ではありませんよ?」
「え?」
てっきり、きれいな庭園だと思っていたら違うと言う…
「水の中を見てください」
水の中には…
街があった
崖の岩の壁に穴を開けてそこを部屋として利用したようなそんな光景。見た目はマンションのようだ
私のいる広場の下に支えはなく、ここは橋のような構造をしているらしい
水は薄いピンク色で水の中の人々は、薄い紫色っぽく見えた
人魚だろうか?腰から下が魚みたいな人が大勢いて、パートナーなんだろう…男の人と泳いだり遊んだりしているのが見えた…
「その昔…神々の力を得た勇者はここで死闘を繰り広げようとした魔物達に雷を落とし地が裂けるほど強力な魔法を使ったのです。そのため、当時の多くの魔物が死にここには大きく深い地割れができたのです。戦いが終わった後…魔物達はここに深い深い地下迷宮を作り上げていきました。ですが、そのうち…数百・数千年という長きに渡る時間の中、地下水や川の水が流れ込むようになり…水中に沈んでしまいましたが、その後川や海で暮らす者達がここで暮らすようになりこの魔王城周辺では、陸で暮らす魔物の他に水の中で暮らす魔物達も見ることができるのです」
「はぁ〜」
ピンク色の水の中を優雅に泳ぐ人魚達
なんとなく、アマゾンにいるというピンクのイルカを思い出した
人と遊ぶのが好きな川イルカ達。優雅に泳ぐその姿が、この中で泳いでいる彼女達に重なった
好きな者と共に遊びながら…幸せそうに泳いでいる彼女達…
気が付かなかったが…水の中の魔物達が地上にでて甲羅干しを楽しむようにそこらに寝そべっていた
倒れた円柱の上で語らっているカップルがいるのが見えた
他にも水面から庭園を歩く人に声を掛けている人もいる
水の中を覗いていたら何かが勢いよく浮き上がってきた
慌てて身を引く
その瞬間に腕が伸びてきて間一髪引き込まれそうになってしまった
「ねぇ?おにーさん。こっちにきてイイコトしましょう?そんな白いすまし顔の羽つきよりもわたしと水の中で身も心も蕩けきった、毎日を送りましょうよ〜♪ 今なら、わたしのす べ て をあげちゃうわよ!この帽子も体も〜ココロも〜ぜ ん ぶ♪ 」
赤い帽子をかぶった人魚さんが勧誘してきた
「あの…すいません。今、旅行中でして…そんなことをしている時間はないんです…すいません…」
「そんなつれない〜!あなたは水に包まれることを知らないからそんなこと言うの〜!水に力を抜いて漂うと…こんなにも落ち着いて、心静かになることができるの。そんな中で好きな人といっしょにいっぱいえっちして…それがどんなに幸せなことなのかあなたは知らないからそんなこと言うの〜!そんなひと時を味わってみない?」
「…ゴメンなさい!私、昔溺れたことがあるんです!だから…水は…!」
「大丈夫!そんな人のためにビショップ様がいらっしゃるの!だ・か・ら…こわくな〜い♪ 」
おいでおいでをするピンクの人…
キラキラ光る水面…それが、かつての古傷を思い起こした…
テトラポッドに足が嵌って浮べなくなったこと…恐かったこと…幼い頃だったからよくは覚えていない…でも…
いまでも足の届かないところへは行けない
プールよりも深いこんなところに落ちたら二度と戻れなくなる…そう思うと足が動かなくなる…
気が付けば…ガイドさんのしっぽを握り締めていた…
「そっか…それじゃぁ仕方がない…。そんなにも怯える人を無理にひきづり込むのも悪いしねぇ…機会があったら潜ってみてね?やさしくエスコートしてあげるから!」
そう言ってピンクの人魚さんは水中へと消えた…
後にはガイドさんとそのしっぽを握り締めている私が残された
「深井様…そんなにしっぽを握られては…」
「え?!」
我に返って慌てて手を離す
「だめですよォ…そんなにギュってしちゃぁ…力が抜けちゃいますぅ…」
力が抜けたように私に倒れ掛かるガイドさん
「すみません」
あわてて抱きかかえるとニッと微笑んだ
どうやら冗談だったらしい
「でも…ホントにしっぽをギュッてされるのは弱いんですから…気をつけてくださいね?」
「すみません…」
慌てていたとはいえ…握り締めるほど握ってしまうとは…
「水は嫌いなのですか?」
子供をあやすようにそう聞くガイドさん
「…深いところがダメなのです…昔…子供の頃、川で遊んでいて水の中に落ちてしまったのです。なんとか水面に出ようとしたとき…沈めてあるテトラに足が嵌ってしまって…よくは覚えてないんですが…そんなことがありました…」
「…そうですか。ごめんなさい…水辺がダメだったのですね…では、違う所に行きましょう」
次に飛んだ先は…
奇妙な林…いや…なんだこれは…?
植物が…動いてる?!
蔓状の植物達がうねうねと蠢いていた
「触手の森です」
触手…クラゲやイソギンチャクについているあれのことだろうか…
でも、目の前のこれは…その先はペニスの形をしていた
陵辱ゲームにでてくる触手を連想させた
夕日で暗くなった森の中と不気味に蠢く触手…気色悪い
「この触手たちは、魔物の魔力を餌としています。」
そういうと、ガイドさんはどこからともなく、なんかドロッとしたボールのようなものを手のひらに浮かべて草むらの中に投げ込んだ
それが落ちるとボールは弾けて飛び散る
一斉に辺りの草が飛び掛る
「な…なんだ?ありゃぁ…!」
「ここはまだ開けていて襲ってくる触手も大人しいですが…森の中央はもっと凶悪な触手たちがいて獲物が来ると、意識が飛んでしまうほど強烈な快楽を与えてその獲物の魔力を奪おうとするのです」
「命を獲られるのですか?」
「そこまでひどくはありません。ですが…もし魔物が捕まったならば…快楽に忠実な糸繰り人形のようになってしまうでしょう…」
「男が捕まったならば?」
「その場合は…」
赤い瞳が私を見た。何か訴えるように?見ている
「その場合は?」
「ここには興味本位や自分で慰めるよりももっと刺激がほしいと一人で森を分け入って入ってしまった娘も多くいます。そして、その快楽に嵌って出てこられなくなってしまった者や魔力を吸われすぎてそのまま出てこられなくなり彼らの餌のように扱われている娘もたくさんいます」
「自分でここに来る人もいるんですか?」
「はい。男の人を見つけれられずに手軽に快楽を得たいと入っていく方などね。実際、手にとってみるとなにもしなくても気持ちいいところを見つけ出してそこだけを責めてくれる触手も多くいますしね」
「……」
…責めてくれる?…多くいる?…ガイドさんも試したことがあるのだろうか?
そう思うとなにやらいけない妄想が…
この美しい彫刻のようなその身体に悪趣味な触手が包み込むように群がって…
やめやめやめ!!
「はぁ…」
吐き気が出そうだ…
「ちなみに、わたしはきもちいい…」
「え?!」
やったのか?!
何かが崩れるような気がした
「きもちいい…からといって、まだ将来のだんな様も見つけていないのに触手に身を預けるようなことはしませんよ?」
私がなにを想像したのか見透かすように茶目っ気たっぷりにそういった
「はぁぁぁぁ…」
一気に疲れた
「ふふふ♪ …それでですね?捕まった男の人は、そうやって餌状態になっている娘のところに連れて行かれて彼女達の精の供給源にされるみたいです」
「精の供給源…」
「知っているのですよ彼らは…男の人の精が魔物の魔力の源であることを…本能的にね」
「……」
「だから、そうなったら男の人は自我を破壊されるほどの徹底的な快楽を捕まっている娘ともども味あわされて、そこから…いえ半永久的に彼らの餌に成り下がるでしょうね…でも、ともに快楽を味わっているわけですから、彼らは幸せなのでしょう…」
「自我の消滅…」
身震いした…自身が自身でなくなる…何もかもが快楽に飲み込まれる…
「大丈夫ですよ。森の中に入ろうなんて機会はそうそうないんですから、入っているカップルだっていつもの交わりがちょっと変わった気持ちいいものに変われば…くらいの遊びで来ているのですからそんな凶悪なところに行く人なんてまずいません。魔王城に侵攻しようとした勇者の一団が城下に広がっている街を迂回しようとしてこの森に来てここごと殲滅しようとしたこともありましたけど…彼らは、それを察知した魔物たちと凶悪な触手に捕まって逆に殲滅されてしまいました。いまでは魔王城のなかでよろしくやっているか、この森の最深部で誰かと幸せになっているでしょう…」
「……」
とてもじゃないが、まともな精神でここに来ること自体無理そうだ
勇者なんてのがかわいそすぎる…
旧魔王時代よりも攻略難易度が上がっているのではないのか?何も知らない私だが…そう思わないわけにはいかなかった…
「深井様?ちょっと散策してみますか?この辺だったら触手に絡まれて遊んでいるカップルもおりますよ?」
「……」
今の話を聞いて散策しようという馬鹿者はいるのだろうか?
「ふふっ。試してみたいとか言い出したらどうしようかなとか思いましたけど…大丈夫そうでなによりです」
「…試してみたそうな顔してました?」
「少なくとも、見てみたそうな顔はしてましたね」
「空想上でそういう生き物がいるというものはあったのですよ。だから、絡まれている人を見るいい機会かな?と思いまして…」
リアル生触手陵辱…遊びだとしても見てみたかったのは事実…
「機会があれば城の中でも見れますよ?ローパーさんとかいらっしゃいますし…さて!そろそろ日も暮れてきました。ですから移動しましょう!」
気が付けば遠くの地平線に隠れかかる日があった
いよいよ、魔王城…緊張と不安と期待が心を覆う
はたして、どんなところなんだか…
着いた先は広い…広い広場だった
ライブでも出来そうなほどの広場。どうやらここは舞台のように一段上がっていてなにかのイベントをするところなのだそうだ
裏…背に位置する壁は切り立った壁…
ここはもろ魔王城の城塞の下に位置したところで、イベントが行われるたびに、中から大勢の人々がやってきてすごい熱気に満ち溢れるのだそうだ
ガイドさんはこの広場を“享楽の広場”といった
享楽の広場…
魔王城の壁や自然の地形が重なってできたホールのようなところだという
小さな音もよく反響して大きな音に変えてしまう
そして、遠くまでこの音は良く響くのだそうだ…
各地に点在するサバトの合同サバトやセイレーンのライブなどが連日開かれたり、捕虜となった人間達の競り落とし…アマゾネスによる夫の集団お披露目やダークエルフによる調教講座などのイベントが催されることもあるという
ふと空を見上げると何かが城の中へと入っていくのが見えた
夕闇に沈む空にたくさんの黒い影が山…城へと帰っていく
まるでカラスか鳥の群れのようだが…あれは翼をもっている魔物達らしい
あんなにたくさんの…。帰るのを楽しみで仕方がないというように一直線に…
城の窓…自分の部屋なのだろうか?飛び込んでいくものから、バルコニーに下りていくものまで…
眺めていると、夕日が沈んでいく様子を空に浮かびながら楽しんでいるカップルも大勢いた
唖然とその様子を見ていると、ガイドさんが悪戯っぽい顔をしながら抱きしめると一直線に空へと浮かび上がった
「のぁぁぁぁぁ!!」
「ふふっ!大丈夫!大丈夫♪」
あたふたする私を尻目にその高さは上がる
オレンジ色は赤へと変わりつつある。私たちが浮かぶその空は赤い色へと変わっていた
地平線の山の稜線は輝きながら闇へと呑み込まれていった
「どうですか?」
「心臓に悪いです。…ですが、とても雄大で美しい」
「そうでしょう?わたしはこの世界をもっとすばらしいところにしたいのです」
「…どうやって?」
「それは…」
そういって抱きしめる腕に力を込めたガイドさん
こちらを見てちょっと笑ったかと思ったら日の沈みつつある地平線を見ている
一体何を思っているのだろうか?
「さぁ…城の中へと行きましょう?」
「…はい」
何を思っていたのかはわからない
でもその顔はとても待ち遠しいなにかを待っているという希望に満ちた顔だった
いよいよ城内…緊張してしまう。扉の脇には2・3メートルの悪魔?翼を持った魔物の彫刻が施されていた
4・5メートルはあるかと思う扉をくぐると…幅の広く高さもかなりある通路が目の前に広がっていた。どこまでも続くの通路
こんなにも広いのにここは正門からの入り口ではないそうだ
いくつもの通路が繋がっているようで頻繁に見たこともない魔物さんやたちが往来している
薄暗いかと思いきや、所々に火の玉のような火が浮かんでいた。有機ELのパネルみたいに壁やタイルが光を放っているところもある
幾何学模様の光を放つところからは、突然人が現れたりそこに乗った人が瞬時に消えるなんて事が…
不思議な音楽がかかっていたり、蛍光色の花々が飾ってあったり…
そこにいる人々…魔物さんたちを観察する
ほとんど裸という格好の人たち…鎧姿の兵隊だろうか?から、煌びやかに着飾って優雅に歩く人々…
どこかで見たような…メイド服?!そんな服装の人もちらほらと…
さそりのような足と針を持った異形な人?から蛇な人までもがいる。どうみても物理法則など無視したように空中を飛んでいる人々もいたりした
私が扉から中に入るとその場の空気がざわめいた
こちらを指差している人がいる
ちらちらと見る人もいる
こころなしか…舌なめずりしている人もいる
「いきますよ?」
中の様子に唖然としている私。彼女に促されて中を歩く…
ガイドさんにぴったりとくっついて…
歩いていくと、纏わり着くような視線が気になった
「ガイドさん…」
居心地の悪さに思わず助けを求めて声を掛けるが…
「ふふふ。みんな深井様のことが気になるんですよ。ほら、バッチにわたしの魔力を含ませているとはいえその量は微量…いつでもあなたを奪えると思ってしまうのも無理はないです…そして、あんなにも虜の果実を食べたのですから、あなたのことが気にならない娘なんていませんよ…」
「ああああ…」
全身を嘗め回すように見られている。頭の天辺からつま先まで服の中まで見透かされているのではないかと思われるほど見られている
ねっとりとした空気とからみつく視線が毛穴を開かせて汗がじんわりとにじんでくる
時々おいしそうだとか、あんなうまそうな男どこで捕獲したのかといったような声が聞こえてきた
「ほら…こっちですよ?」
ガイドさんに腕を引っ張られながら部屋へと向かう
螺旋状の階段をいくつも上り、いくつもの通路を渡る…
内部はほとんど同じような造りで、迷ったならば確実にアウト
窓のない通路…大きな船の中を歩いているような感覚だ
所々に休憩室のような広場が設けられており、井戸端会議のように魔物達が自らのお気に入りの交わりの方法、ヤリながらこれをするとより気持ちいいなどといった方法を教えあったりしていた
一定間隔で配置された石像は、台が石の場合があったり、悪趣味に男を下にして喜んでいるといった表情豊かなものまでが置かれていた
通路には甘い香りが充満し、どこからともなく嬌声が響いてくる
バッチで魔力とかいうのを除けていても、直接耳に入ってくる音だけはどうしようもない…
頭が変になりそうだった
途中、休憩を入れてくれた
耐えられずにフラフラになっている私を心配してくれたからだ
「大丈夫ですか?」
「…頭がへんになりそうです」
「後少しですから我慢してください」
「魔王城ってキツイですねぇ…」
「普段魔力のないところに住んでいらっしゃるから余計に影響してしまっているのかもしれません」
「なんか体に…じわじわと何かが入り込んでくるような気持ち悪さがあります」
どこからともなく聞こえてくるアンアンとよがる声や喜びの声が常に響いていて体も心も反応してしまう
「普通だったら、触れるだけでインキュバス…魔物化してしまうような高濃度の魔力が漂っていますからね…。そろそろ行きましょう?いつまでもこんな所にいたら本当に魔物になってしまいますよ?」
それを聞いて、足に喝を入れて歩き出した
まだまだ階段を昇る
移動の魔法があるならそれで行ってもらいたい
高山病のように頭が痛いしめまいで体がフラフラになっているから余計にキツイ
「着きました」
階段を上りきった先…
どこから見ても普通の扉が…あった…
「お疲れ様でした。ここがあなたのお部屋です。いろいろとあって疲れてしまったと思いますけどゆっくりとしていってくださいね」
…疲れた。どんな部屋なのか…何も考えないまま私は部屋の扉を開けたのだった
11/11/06 20:03更新 / 茶の頃
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