<ミステリーツアー>3.食べ放題なんて聞くと食べずにはいられない
『いい旅を〜』
と言って見送ってくれたエルリード牧場の人々…
ちょっと泣きながらもにっこりと笑って見送ってくれたハンナちゃん…
魔方陣の光で見えなくなるまで、手を振っていてくれた
なんか心が無性に悲しく寂しかった
「また来ましょうね?」
と、ガイドさんがにっこりと笑ってそう言ってくれた
魔方陣で行った先は植物園とのことだった
相変わらず、ガイドさんの胸…に包まれていたもんだからどんな感じで移動しているんだかまったく分からなかったが…
普通の旅行と違って移動に時間が掛からない為に、まったくストレスがないのもありがたかった
『さぁ〜寄ってらっしゃい食べてらっしゃい!一時間○○○で食べ放題だよ〜!!』
たどり着いたのは、開けた広場
その向こうは山になっており果樹園のように低木が連なっていた
空を見れば相変わらず曇った天気
むこうでは小さな女の子のような人が声を張り上げている
よくは見えないが、大きな丸たん棒を張りせんを振り上げように振りながら客寄せを行っていた
『さぁさぁ!ここのはそんじょそこらで手に入るようなもんじゃないよー!どこまでも美しく、どんな男でも発情しちまうような魅力をつけてくれる至高の宝玉だ!!特別栽培でその威力も普通の倍以上!自分で食べればその魅力も味も天と地の差が出るほどだ!旦那や意中の男の魅力をさらに引き出したいヤツはどんどん食べさせて最高の精を貪れるようにできる一品さね!さぁ!買った買った!!食べ放題なら、旦那や彼氏との食べ比べもできる!ゲーム感覚でさらっと食べさせて最後の締めに最高のごちそうを頂くこともできるように向こうにはロッジも完備だよ!さぁ、寄っといで!食べにおいで!…』
バナナの叩き売りみたいだ
彼女の周りには、一見人のようだけれども角と翼としっぽを生やした女の人やカップルが多く集まっている
「さぁ、つきましたよ?これから、深井様にはとある果実の食べ放題をしていただきます」
「…あのぅ植物園ではないのですか?」
「ここは広大な植物園です。その中の一部にある果樹園で食べ放題をしてもらいます」
「なんの果実ですか?」
「あなたの世界では見たことも食べたこともない果実です。まぁ、とにかく行ってみましょう」
たべさせたらどうなるの?とばかりに楽しそうにしているガイドさん
行ってみてからのお楽しみということらしい
ガイドさんは丸太ん棒の女の子に話しかけている
「こんにちは、・・・の果実食べ放題を予約してあるララノアと申します。今、大丈夫ですか?」
ガイドさんが声を掛けると慌てたように早口で言った
「こ、これはリリム様!は、はい!!最高の場所をご用意しております!」
「ふふっ、ありがとう。さぁ、深井様?準備が出来ているようなので行きましょう?」
「リリム様ー!場所はこの区画の一番奥ですー!」
「ありがとう!」
女の子の横を通る時台の上には、紙の箱の中になにかの果実が6個幾らという形式で売っているようだった
箱の中身の果実はピンク色のハート型…桃のようにも見える
ハート型の水風船のようなその果実。一体なんなのだろうか
何を食べさせられるのやら…
その区画に向かう途中、小川?が流れていた
それはピンク色をしていた
心なしかとろっとしているように見える
足を止めて呆気にとられて見ていると、ガイドさんが気づいたように近寄ってきた
「どうかなされましたか?」
「いや…あれ…」
昔、環境汚染が進む国で川に流れ込む汚水がまるで中性洗剤のような色を…丁度こんな風にピンク色をしていて川一面が泡だらけの映像を見たことのある私には信じられないものでも見るかのようにその様子に唖然とした…
「?ただの小川ですよ」
「ただの?なにかヤバイものに汚染されているのでは?」
「ああ、あの水には私達魔物の魔力が溶け込んでいるのです。だからあんな色に…かわいらしいと思いませんか?」
「…とでも…禍々しいです」
「ふふふ。確かに普通の人にはそうかもしれませんね」
「…」
次に小悪魔のような顔つきで彼女が言ったのは…
「でも、あなたも魔物になってしまえばとてもいい色に見えるかもしれませんよ?」
「うっ…」
魔物と言ったガイドさんの目が一瞬だけ妖しひかり、ぞわっと背筋が寒くなった
「ふふふっ。冗談です…冗談。さて、行きましょうね?」
促されるまま歩き出す
本当に冗談だったのだろうか?
道の両側に茂る木々には、さっきのハート型したものがぶら下がっている
「ガイドさん。あの実は一体なんなんでしょう?見たことのない実ですが…」
りんごにも桃にも見える
「ふふっ。そ れ は、お楽しみ?」
楽しそうに笑うガイドさん
「さて!つきましたよ?」
そこは、今まで歩いてきた所は少し雑草の生い茂る所だったのにここは下草がきちんと刈り取られて日当たりがよさそうな所だった
どこからか、甘い蜜のような香りが漂ってきてそちらについ足が向きそうになる
樹を見れば…
背の高さぐらいの木々に大きな果実が、すぐに採らないと落ちてしまうぞ?といわんばかりに重そうに生っている
「これを食べろと?」
「はい!これは、虜の果実といいます♪」
「虜の果実…」
虜…口にしたらやめられなくなるのだろうか?
麻薬のように中毒性が高く、依存性が高くなってしまうのだろうか?
口にするのは憚られた
「大丈夫です」
「…ゴクリ」
心配していることを問うと…
「大丈夫です。何も心配いりませんよ?中毒も依存性もありません」
サクッと食べてみせるガイドさん
「ん♪ おいしい」
とてもおいしそうに食べてみせる…
その口から溢れ出た汁が唇からしたたっていた
それを舐めとるきれいな色の舌がなんとも可愛らしかった
両手で包み込むように持ち、意を決して食べてみた…
皮の抵抗があるかと思いきや、まったくなく噛み付けた
水気たっぷりの果肉が口の中ですっと溶けていく
まるで…水羊羹か葛菓子のようだった
「…うまい」
「よかった」
白乳色の果肉…甘くとろりと口の中で蕩けて、飲み込もうとしなくても喉を潤すように喉へと落ちていく
口の中の感触は…葛の餡かけを舌に乗せるとトロっとするような食感…
気が付けば…夢中になって食べていた
気にする事はないものならば、元をとってやろうと意気込んでたべる
ものを食べているというよりも飲んでいる感じだ
たべ放題なんだから、食べないと損だ!
これならば幾らでもいける
ガイドさんもいっしょに食べてはいたが、デザートを食べるようにゆっくりと舌鼓を打っていた
「まだまだありますよー。はいっこれ…しっかりと熟れてとてもおいしそうです」
手渡してくれた果実は、透き通るような淡いピンク色で中の果肉は白乳色から透明に近く手が透けて見えた
「これは…うまそうだ!」
透き通った果実が本当にうまそうだ
どんどんとおいしそうな実を見つけてもぎ取ってくれる
言われるまま、渡されるまま口へと入れていく
すごい食べっぷりに笑顔をみせて次から次へと渡してくる
気が付けば、私の腹は水腹のように膨れていた
「すごい食べっぷりでしたね」
そう言うガイドさんの目つき…なんかおかしい
少しずつにじり寄るように近づいてくるし…
「そうですね。さっき牧場であんなに食べたのに…ここまで入るとは」
その数は良く分からないが…30か…40ぐらい食べたかもしれない
「おいしいものは別腹なんですね」
…なんか私のことをおいしいモノでも見つめるような顔つきに…なんか口元なめてるし…
「そうですね。これならば、いくらでも入りますね」
「でも食べ過ぎると…」
「食べ過ぎると?」
さっきから涎がたれそうな顔してるけど…なんだ?
その口元は奇妙に歪んでいる
獲物を狙う獣が逃がしはしないと少しずつ近寄ってくるように、ゆっくりと近づいてくる
彼女の翼はなんかばさばさと動いているし…
「あなたが果実に虜になるのではなくて、あなたを見た女の子がみんなあなたの虜になっちゃいますよ?せっかくのバッチが台無しになっちゃいますねぇ…」
「どういうことですか?」
そんな動きにこちらも後ずさりする
「虜の果実は、男性が食べるとその精を引き立たせるんです。匂い、味、魅力が引き立ってとてもおいしそうに見えるようになるんです」
「…じゃぁ。まさか…私が果実の虜ではなくて…私を見た誰かさんが私の虜になってしまうようにすると?!」
「はい♪ 今も少しずつあなたの精の香りがなんともいえないいい香りになってきていますもの」
そんな…。この実は、モテフェロモン入り香水と同じようなものらしい。…そんなものを一気に30だか40だか食べてしまったぞ?どうすんだこれ…
いまさらながら、ここは自分の住む世界ではないのだという認識が頭の中に浮かぶ…
ぞわっと、背中に寒気が走る…
首に何かが這ったような感触
「んっ…ちゅっ…」
バッと驚いて振り返ったらガイドさんが舌なめずりしていた
いつのまにやら後ろに回られていた…
「なにしているんですか!」
どうやら、首を舐められたようだった
「ちゅ…んんん…本当に…いい匂いになってきました…」
「匂い…って」
「転移魔法で気絶していた時…あなたの唾液に含まれている精を確かめさせていただきましたが…あの時と比べて格段にコクが出て…濃厚になったような…そんなおいしい匂いが…」
おいしいモノを見つけたといううれしそうな目つき…顔は白い肌が薄い桃色へと染まり、口の周りを舐めてその唾で濡れた唇…
じっと熱く見つめるその目つきに、おもわず後ずさりしてしまう
まさか…喰うのか?喰われるのか?!
今まで大丈夫な人かと思っていたけど、彼女もやっぱり魔物…
無理やり押し倒されて喰われるのだろうか?
逃げようと後ずさりしたけど遅かった
バッとその白い羽を広げると飛び上がり、そのまま一目散に飛び掛られた
尻餅をついた私が見たものは…
潤んだピンク色の唇だった
「あっ…あああ……」
これに吸い付かれたら家に帰れなくなる…そんな確信めいたものが頭を覆う
少しでも離れようとなんとか後ろに下がろうとするもののすぐに足を押さえつけられてしまった
「なんで逃げるんですか?」
ピンク色の唇からそんな言葉が紡がれる
「あっ…っ…い、いや…その…」
「深井様?…いえ。深井さん」
「はい?」
「こんなにもおいしそうな匂いをさせて…そんなにもわたしを誘っておきながら逃げようとするなんて…めっ!ですよぉ」
だんだんと甘くていい匂いが近寄ってくる
逃げなくちゃ!でも、意識がくらくらしていく
彼女の顔から目を放せなくなって…
とろんとした目つきで舌なめずりをすると、やわらかな手が私の頬を触れた
「あ…」
やわらかな手が両頬を包み込む…
「さ…ぁ…捕まえたっ♪ もう逃げられない。わたしとひとつになりましょう?ね♪ 」
「あ…ぁぁ……うっ……うわぁ…ゴクリ!!」
思わず期待なのか…喉に溜まった唾を飲み込んでしまう
潤んだ唇が近づいてくる。ピンク色の…ぷっくりとした唇が…
ゆっくりと…
彼女の息がすぐそこに感じられるようになって…
「さぁ…目を閉じて…わたしを…じっくりと…味わって…くださぃ……」
目なんて閉じられるか!唇が…唇がぁぁぁ…
片手が頬から頭の後ろに回されて…
「リリムさま!リリム様〜!!お土産の蜂蜜酒が届きました!!」
「っ?!」
どこからともなく聞こえたその声…
我に返ったようにピタリと動きを止めたガイドさん
大きく見開いた瞳がぱちくりとしている
たっ助かったのか?
あと数ミリ…鼻と鼻はぶつかっていて少し動けば唇を奪えるそんな位置…
時間が止まったように私達は見つめ合っていた
どうする?どうするんだ?キスしたいでも…帰れなくなるだろう?わずかなこの空間という壁が恨めしい
唇に意識を持っていかれていたので、いままで気が付きもしなかったが…胸には彼女のやわらかで大きなおっぱいが圧し掛かっていた。それがますます混乱させる
どうすんだ?どう…くぁぁぁっ…
ぺろっ!
「っ?!」
どのくらい見つめ合っていたかわからないが…突然唇を舐められた
「ふふふっ」
葛藤を見透かしたように少し笑うと…
ちゅ…
額にキスされた
「…ざんねん。今なら深井様をわたしの虜にできたのに…」
そう言って彼女は離れていった
私はそのまま地面に倒れこんだ
「はぁ…はぁ…はぁ!」
息が…苦しい
「さぁ!深井様?頼んでおいたハニー印の蜂蜜酒が届いたそうです。ちょっと持ってきますね?」
なんでもなかったかのようにそう告げると彼女は歩み去った
ああ!なんてことだ!!
後悔…
あと数ミリ…男ならば!後悔しないで行っとけばっ!
その後のことを考えて行けなかった
…私は…なんと小さい男なんだろうか
何であの時、あんな葛藤を考えてしまったのだろうか?
あのやわらかそうな唇を…
あんなにも誘っていたというのに!
あそこまでされて…ああ!馬鹿だ!もったいない!!
虜の果実の木に寄りかかりながらそんなことを考えていると、どこからか甘い匂いが漂ってきた
ガイドさんもいい匂いしてたけど…
この匂いもいい香りだよなぁ…
なんか、花の香りみたいだ
甘く蕩けるような香り…
この匂いも嗅いでいるとなんかぼぅっとしてきてくる
ちょっと覗いてみようか?
いやいやいや
蜂蜜酒を取りに行くと言っていた。ならば、すぐにでも来るだろう
ぼけっとしながら待っているとすぐにやってきた
「お待たせいたしました。お土産の蜂蜜酒です」
「蜂蜜酒?」
「はい。ここの植物園にはハニービーさん達のコロニーが近いのです。そこではこのお酒を作っているのです」
「ハニービー?…ミツバチさん?その人たちも…魔物さん?」
「はい!彼女達もわたし達と同じように魔物です。日々、蜜を採りながらコロニーの女王蜂に見合う男性を探しているのです」
「じゃぁ…今の私が行ったならば…」
「そうですね。間違いなくお持ち帰りでしょう!」
…なんてことだ。お持ち帰り確実…
モテモテになるのはいいことだなんて考えていた時がありました…
こんなにも冷や汗がでる事だったなんて…
「本当は、そちらの方も見学に入っていだこうとしたのですけど…やっぱりそれでは…」
意味ありげに私を見て舌なめずりをする
「……」
「まぁ、お時間もありますから、今日のお宿へ向かう前にその周辺を散歩するのもいいかなぁと…いかがですか?」
「おまかせします…」
私はそういうのが精一杯だった
「そうですか!なら、早めに行きましょう!楽しみにしてください?今日のお宿はなんと…!」
「なんと?」
「魔王城です!!」
「魔王…城…?……………っ?!……なっ!なんですと?!」
あの…まおうじょう?
勇者率いるパーティーが数人で真正面から特攻するようなところを宿にすると?
無事に帰れるわけないじゃないか…
常時発情しっぱなしの人々が集っているんじゃないのか?
あの時のガイドさんを思い浮べる…目を離せられなくて…何も考えられなくて…されるがままに…後もう少しで私は…
うまいうまいと虜の果実とかいうものを食べに食べたことが悔やまれる…
何が水菓子だ!葛菓子だ!魔物を惹きつける呪いのアイテムかよ!モテたことない男の僻みか悲しさか…うれしかったけど…
「大丈夫!大丈夫!!わたしがさっきのように飛び掛ってしまうことはもうあまりないでしょう。つい、我を忘れて飛び掛ってしまいましたけど…わたしはガイド。あなた様に良い旅の案内をして無事にあなたの家へと帰れるようにするのがわたしの役目…」
不安がる私にそう言うけど…あのときのことを考えると…本当かなぁ?
「魔王城ですか…。そんなところに今の私が行って大丈夫なんですか?」
「大丈夫。あなたのそのバッチを身に付け、私から離れないようにすること…そして、わたしが用意した部屋から出ないこと…それさえ守っていただけたらきっと楽しい愉しい魔王城となりますよ♪ 」
「……」
楽しい愉しい魔王城…
凶悪極まりないおどろどろしく暗い雰囲気の城内と邪悪な彫刻や石像の数々…
翼と角を生やし、鋭い牙と爪がやってきた勇者を引き裂こうと待ち構える魔物達…
血染めのダンジョン…いたるところに絶命の爪あとか…断末魔か…5本の血の列と掌の痕が壁に残るそんな内部…
神をも恐れぬその異形…
それが、魔王代替わりにより…きゃっきゃっうふふと頭の中がピンクになってる魔物達…きっと城内はどこもかしこもピーな所なんだろう
男を巡って、まるでスーパーの特売時のミセス達のように押しかけ詰め掛けて詰め寄る“まもの”たちがいるのだろうか?
甘く纏わり着いて吸い込めば間違いなくぼぅっとしてしまうおどろおどろしい妖しさを持った空気の中…
翼と角を生やし、思わず触りたくなってしまう玉のような肌と思わず手を出して揉みたくなってしまうような胸を持った…やってきた男を逃しはしないと待ち構える魔物達…
城内いたるところに、交わった男の精が染み付き、女の蜜が滴ったような惨状が…
神をも惑わすその偉業…
どんな魔王城だよ!!
「どうですか?」
「すごく…愉しそうです」
「はい♪ ね?愉しそうでしょう?きっと愉しい一夜になりますよ?」
期待と不安が胸を膨らませる
ドキドキがとまらない
魔王城への期待か…ガイドさんの胸の影響か…
また私はやわらかであたたかいガイドさんに包まれて光り眩しい魔方陣からいずこかへと飛んでいくのであった…
と言って見送ってくれたエルリード牧場の人々…
ちょっと泣きながらもにっこりと笑って見送ってくれたハンナちゃん…
魔方陣の光で見えなくなるまで、手を振っていてくれた
なんか心が無性に悲しく寂しかった
「また来ましょうね?」
と、ガイドさんがにっこりと笑ってそう言ってくれた
魔方陣で行った先は植物園とのことだった
相変わらず、ガイドさんの胸…に包まれていたもんだからどんな感じで移動しているんだかまったく分からなかったが…
普通の旅行と違って移動に時間が掛からない為に、まったくストレスがないのもありがたかった
『さぁ〜寄ってらっしゃい食べてらっしゃい!一時間○○○で食べ放題だよ〜!!』
たどり着いたのは、開けた広場
その向こうは山になっており果樹園のように低木が連なっていた
空を見れば相変わらず曇った天気
むこうでは小さな女の子のような人が声を張り上げている
よくは見えないが、大きな丸たん棒を張りせんを振り上げように振りながら客寄せを行っていた
『さぁさぁ!ここのはそんじょそこらで手に入るようなもんじゃないよー!どこまでも美しく、どんな男でも発情しちまうような魅力をつけてくれる至高の宝玉だ!!特別栽培でその威力も普通の倍以上!自分で食べればその魅力も味も天と地の差が出るほどだ!旦那や意中の男の魅力をさらに引き出したいヤツはどんどん食べさせて最高の精を貪れるようにできる一品さね!さぁ!買った買った!!食べ放題なら、旦那や彼氏との食べ比べもできる!ゲーム感覚でさらっと食べさせて最後の締めに最高のごちそうを頂くこともできるように向こうにはロッジも完備だよ!さぁ、寄っといで!食べにおいで!…』
バナナの叩き売りみたいだ
彼女の周りには、一見人のようだけれども角と翼としっぽを生やした女の人やカップルが多く集まっている
「さぁ、つきましたよ?これから、深井様にはとある果実の食べ放題をしていただきます」
「…あのぅ植物園ではないのですか?」
「ここは広大な植物園です。その中の一部にある果樹園で食べ放題をしてもらいます」
「なんの果実ですか?」
「あなたの世界では見たことも食べたこともない果実です。まぁ、とにかく行ってみましょう」
たべさせたらどうなるの?とばかりに楽しそうにしているガイドさん
行ってみてからのお楽しみということらしい
ガイドさんは丸太ん棒の女の子に話しかけている
「こんにちは、・・・の果実食べ放題を予約してあるララノアと申します。今、大丈夫ですか?」
ガイドさんが声を掛けると慌てたように早口で言った
「こ、これはリリム様!は、はい!!最高の場所をご用意しております!」
「ふふっ、ありがとう。さぁ、深井様?準備が出来ているようなので行きましょう?」
「リリム様ー!場所はこの区画の一番奥ですー!」
「ありがとう!」
女の子の横を通る時台の上には、紙の箱の中になにかの果実が6個幾らという形式で売っているようだった
箱の中身の果実はピンク色のハート型…桃のようにも見える
ハート型の水風船のようなその果実。一体なんなのだろうか
何を食べさせられるのやら…
その区画に向かう途中、小川?が流れていた
それはピンク色をしていた
心なしかとろっとしているように見える
足を止めて呆気にとられて見ていると、ガイドさんが気づいたように近寄ってきた
「どうかなされましたか?」
「いや…あれ…」
昔、環境汚染が進む国で川に流れ込む汚水がまるで中性洗剤のような色を…丁度こんな風にピンク色をしていて川一面が泡だらけの映像を見たことのある私には信じられないものでも見るかのようにその様子に唖然とした…
「?ただの小川ですよ」
「ただの?なにかヤバイものに汚染されているのでは?」
「ああ、あの水には私達魔物の魔力が溶け込んでいるのです。だからあんな色に…かわいらしいと思いませんか?」
「…とでも…禍々しいです」
「ふふふ。確かに普通の人にはそうかもしれませんね」
「…」
次に小悪魔のような顔つきで彼女が言ったのは…
「でも、あなたも魔物になってしまえばとてもいい色に見えるかもしれませんよ?」
「うっ…」
魔物と言ったガイドさんの目が一瞬だけ妖しひかり、ぞわっと背筋が寒くなった
「ふふふっ。冗談です…冗談。さて、行きましょうね?」
促されるまま歩き出す
本当に冗談だったのだろうか?
道の両側に茂る木々には、さっきのハート型したものがぶら下がっている
「ガイドさん。あの実は一体なんなんでしょう?見たことのない実ですが…」
りんごにも桃にも見える
「ふふっ。そ れ は、お楽しみ?」
楽しそうに笑うガイドさん
「さて!つきましたよ?」
そこは、今まで歩いてきた所は少し雑草の生い茂る所だったのにここは下草がきちんと刈り取られて日当たりがよさそうな所だった
どこからか、甘い蜜のような香りが漂ってきてそちらについ足が向きそうになる
樹を見れば…
背の高さぐらいの木々に大きな果実が、すぐに採らないと落ちてしまうぞ?といわんばかりに重そうに生っている
「これを食べろと?」
「はい!これは、虜の果実といいます♪」
「虜の果実…」
虜…口にしたらやめられなくなるのだろうか?
麻薬のように中毒性が高く、依存性が高くなってしまうのだろうか?
口にするのは憚られた
「大丈夫です」
「…ゴクリ」
心配していることを問うと…
「大丈夫です。何も心配いりませんよ?中毒も依存性もありません」
サクッと食べてみせるガイドさん
「ん♪ おいしい」
とてもおいしそうに食べてみせる…
その口から溢れ出た汁が唇からしたたっていた
それを舐めとるきれいな色の舌がなんとも可愛らしかった
両手で包み込むように持ち、意を決して食べてみた…
皮の抵抗があるかと思いきや、まったくなく噛み付けた
水気たっぷりの果肉が口の中ですっと溶けていく
まるで…水羊羹か葛菓子のようだった
「…うまい」
「よかった」
白乳色の果肉…甘くとろりと口の中で蕩けて、飲み込もうとしなくても喉を潤すように喉へと落ちていく
口の中の感触は…葛の餡かけを舌に乗せるとトロっとするような食感…
気が付けば…夢中になって食べていた
気にする事はないものならば、元をとってやろうと意気込んでたべる
ものを食べているというよりも飲んでいる感じだ
たべ放題なんだから、食べないと損だ!
これならば幾らでもいける
ガイドさんもいっしょに食べてはいたが、デザートを食べるようにゆっくりと舌鼓を打っていた
「まだまだありますよー。はいっこれ…しっかりと熟れてとてもおいしそうです」
手渡してくれた果実は、透き通るような淡いピンク色で中の果肉は白乳色から透明に近く手が透けて見えた
「これは…うまそうだ!」
透き通った果実が本当にうまそうだ
どんどんとおいしそうな実を見つけてもぎ取ってくれる
言われるまま、渡されるまま口へと入れていく
すごい食べっぷりに笑顔をみせて次から次へと渡してくる
気が付けば、私の腹は水腹のように膨れていた
「すごい食べっぷりでしたね」
そう言うガイドさんの目つき…なんかおかしい
少しずつにじり寄るように近づいてくるし…
「そうですね。さっき牧場であんなに食べたのに…ここまで入るとは」
その数は良く分からないが…30か…40ぐらい食べたかもしれない
「おいしいものは別腹なんですね」
…なんか私のことをおいしいモノでも見つめるような顔つきに…なんか口元なめてるし…
「そうですね。これならば、いくらでも入りますね」
「でも食べ過ぎると…」
「食べ過ぎると?」
さっきから涎がたれそうな顔してるけど…なんだ?
その口元は奇妙に歪んでいる
獲物を狙う獣が逃がしはしないと少しずつ近寄ってくるように、ゆっくりと近づいてくる
彼女の翼はなんかばさばさと動いているし…
「あなたが果実に虜になるのではなくて、あなたを見た女の子がみんなあなたの虜になっちゃいますよ?せっかくのバッチが台無しになっちゃいますねぇ…」
「どういうことですか?」
そんな動きにこちらも後ずさりする
「虜の果実は、男性が食べるとその精を引き立たせるんです。匂い、味、魅力が引き立ってとてもおいしそうに見えるようになるんです」
「…じゃぁ。まさか…私が果実の虜ではなくて…私を見た誰かさんが私の虜になってしまうようにすると?!」
「はい♪ 今も少しずつあなたの精の香りがなんともいえないいい香りになってきていますもの」
そんな…。この実は、モテフェロモン入り香水と同じようなものらしい。…そんなものを一気に30だか40だか食べてしまったぞ?どうすんだこれ…
いまさらながら、ここは自分の住む世界ではないのだという認識が頭の中に浮かぶ…
ぞわっと、背中に寒気が走る…
首に何かが這ったような感触
「んっ…ちゅっ…」
バッと驚いて振り返ったらガイドさんが舌なめずりしていた
いつのまにやら後ろに回られていた…
「なにしているんですか!」
どうやら、首を舐められたようだった
「ちゅ…んんん…本当に…いい匂いになってきました…」
「匂い…って」
「転移魔法で気絶していた時…あなたの唾液に含まれている精を確かめさせていただきましたが…あの時と比べて格段にコクが出て…濃厚になったような…そんなおいしい匂いが…」
おいしいモノを見つけたといううれしそうな目つき…顔は白い肌が薄い桃色へと染まり、口の周りを舐めてその唾で濡れた唇…
じっと熱く見つめるその目つきに、おもわず後ずさりしてしまう
まさか…喰うのか?喰われるのか?!
今まで大丈夫な人かと思っていたけど、彼女もやっぱり魔物…
無理やり押し倒されて喰われるのだろうか?
逃げようと後ずさりしたけど遅かった
バッとその白い羽を広げると飛び上がり、そのまま一目散に飛び掛られた
尻餅をついた私が見たものは…
潤んだピンク色の唇だった
「あっ…あああ……」
これに吸い付かれたら家に帰れなくなる…そんな確信めいたものが頭を覆う
少しでも離れようとなんとか後ろに下がろうとするもののすぐに足を押さえつけられてしまった
「なんで逃げるんですか?」
ピンク色の唇からそんな言葉が紡がれる
「あっ…っ…い、いや…その…」
「深井様?…いえ。深井さん」
「はい?」
「こんなにもおいしそうな匂いをさせて…そんなにもわたしを誘っておきながら逃げようとするなんて…めっ!ですよぉ」
だんだんと甘くていい匂いが近寄ってくる
逃げなくちゃ!でも、意識がくらくらしていく
彼女の顔から目を放せなくなって…
とろんとした目つきで舌なめずりをすると、やわらかな手が私の頬を触れた
「あ…」
やわらかな手が両頬を包み込む…
「さ…ぁ…捕まえたっ♪ もう逃げられない。わたしとひとつになりましょう?ね♪ 」
「あ…ぁぁ……うっ……うわぁ…ゴクリ!!」
思わず期待なのか…喉に溜まった唾を飲み込んでしまう
潤んだ唇が近づいてくる。ピンク色の…ぷっくりとした唇が…
ゆっくりと…
彼女の息がすぐそこに感じられるようになって…
「さぁ…目を閉じて…わたしを…じっくりと…味わって…くださぃ……」
目なんて閉じられるか!唇が…唇がぁぁぁ…
片手が頬から頭の後ろに回されて…
「リリムさま!リリム様〜!!お土産の蜂蜜酒が届きました!!」
「っ?!」
どこからともなく聞こえたその声…
我に返ったようにピタリと動きを止めたガイドさん
大きく見開いた瞳がぱちくりとしている
たっ助かったのか?
あと数ミリ…鼻と鼻はぶつかっていて少し動けば唇を奪えるそんな位置…
時間が止まったように私達は見つめ合っていた
どうする?どうするんだ?キスしたいでも…帰れなくなるだろう?わずかなこの空間という壁が恨めしい
唇に意識を持っていかれていたので、いままで気が付きもしなかったが…胸には彼女のやわらかで大きなおっぱいが圧し掛かっていた。それがますます混乱させる
どうすんだ?どう…くぁぁぁっ…
ぺろっ!
「っ?!」
どのくらい見つめ合っていたかわからないが…突然唇を舐められた
「ふふふっ」
葛藤を見透かしたように少し笑うと…
ちゅ…
額にキスされた
「…ざんねん。今なら深井様をわたしの虜にできたのに…」
そう言って彼女は離れていった
私はそのまま地面に倒れこんだ
「はぁ…はぁ…はぁ!」
息が…苦しい
「さぁ!深井様?頼んでおいたハニー印の蜂蜜酒が届いたそうです。ちょっと持ってきますね?」
なんでもなかったかのようにそう告げると彼女は歩み去った
ああ!なんてことだ!!
後悔…
あと数ミリ…男ならば!後悔しないで行っとけばっ!
その後のことを考えて行けなかった
…私は…なんと小さい男なんだろうか
何であの時、あんな葛藤を考えてしまったのだろうか?
あのやわらかそうな唇を…
あんなにも誘っていたというのに!
あそこまでされて…ああ!馬鹿だ!もったいない!!
虜の果実の木に寄りかかりながらそんなことを考えていると、どこからか甘い匂いが漂ってきた
ガイドさんもいい匂いしてたけど…
この匂いもいい香りだよなぁ…
なんか、花の香りみたいだ
甘く蕩けるような香り…
この匂いも嗅いでいるとなんかぼぅっとしてきてくる
ちょっと覗いてみようか?
いやいやいや
蜂蜜酒を取りに行くと言っていた。ならば、すぐにでも来るだろう
ぼけっとしながら待っているとすぐにやってきた
「お待たせいたしました。お土産の蜂蜜酒です」
「蜂蜜酒?」
「はい。ここの植物園にはハニービーさん達のコロニーが近いのです。そこではこのお酒を作っているのです」
「ハニービー?…ミツバチさん?その人たちも…魔物さん?」
「はい!彼女達もわたし達と同じように魔物です。日々、蜜を採りながらコロニーの女王蜂に見合う男性を探しているのです」
「じゃぁ…今の私が行ったならば…」
「そうですね。間違いなくお持ち帰りでしょう!」
…なんてことだ。お持ち帰り確実…
モテモテになるのはいいことだなんて考えていた時がありました…
こんなにも冷や汗がでる事だったなんて…
「本当は、そちらの方も見学に入っていだこうとしたのですけど…やっぱりそれでは…」
意味ありげに私を見て舌なめずりをする
「……」
「まぁ、お時間もありますから、今日のお宿へ向かう前にその周辺を散歩するのもいいかなぁと…いかがですか?」
「おまかせします…」
私はそういうのが精一杯だった
「そうですか!なら、早めに行きましょう!楽しみにしてください?今日のお宿はなんと…!」
「なんと?」
「魔王城です!!」
「魔王…城…?……………っ?!……なっ!なんですと?!」
あの…まおうじょう?
勇者率いるパーティーが数人で真正面から特攻するようなところを宿にすると?
無事に帰れるわけないじゃないか…
常時発情しっぱなしの人々が集っているんじゃないのか?
あの時のガイドさんを思い浮べる…目を離せられなくて…何も考えられなくて…されるがままに…後もう少しで私は…
うまいうまいと虜の果実とかいうものを食べに食べたことが悔やまれる…
何が水菓子だ!葛菓子だ!魔物を惹きつける呪いのアイテムかよ!モテたことない男の僻みか悲しさか…うれしかったけど…
「大丈夫!大丈夫!!わたしがさっきのように飛び掛ってしまうことはもうあまりないでしょう。つい、我を忘れて飛び掛ってしまいましたけど…わたしはガイド。あなた様に良い旅の案内をして無事にあなたの家へと帰れるようにするのがわたしの役目…」
不安がる私にそう言うけど…あのときのことを考えると…本当かなぁ?
「魔王城ですか…。そんなところに今の私が行って大丈夫なんですか?」
「大丈夫。あなたのそのバッチを身に付け、私から離れないようにすること…そして、わたしが用意した部屋から出ないこと…それさえ守っていただけたらきっと楽しい愉しい魔王城となりますよ♪ 」
「……」
楽しい愉しい魔王城…
凶悪極まりないおどろどろしく暗い雰囲気の城内と邪悪な彫刻や石像の数々…
翼と角を生やし、鋭い牙と爪がやってきた勇者を引き裂こうと待ち構える魔物達…
血染めのダンジョン…いたるところに絶命の爪あとか…断末魔か…5本の血の列と掌の痕が壁に残るそんな内部…
神をも恐れぬその異形…
それが、魔王代替わりにより…きゃっきゃっうふふと頭の中がピンクになってる魔物達…きっと城内はどこもかしこもピーな所なんだろう
男を巡って、まるでスーパーの特売時のミセス達のように押しかけ詰め掛けて詰め寄る“まもの”たちがいるのだろうか?
甘く纏わり着いて吸い込めば間違いなくぼぅっとしてしまうおどろおどろしい妖しさを持った空気の中…
翼と角を生やし、思わず触りたくなってしまう玉のような肌と思わず手を出して揉みたくなってしまうような胸を持った…やってきた男を逃しはしないと待ち構える魔物達…
城内いたるところに、交わった男の精が染み付き、女の蜜が滴ったような惨状が…
神をも惑わすその偉業…
どんな魔王城だよ!!
「どうですか?」
「すごく…愉しそうです」
「はい♪ ね?愉しそうでしょう?きっと愉しい一夜になりますよ?」
期待と不安が胸を膨らませる
ドキドキがとまらない
魔王城への期待か…ガイドさんの胸の影響か…
また私はやわらかであたたかいガイドさんに包まれて光り眩しい魔方陣からいずこかへと飛んでいくのであった…
11/09/17 21:50更新 / 茶の頃
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