蜥蜴記者の回想録:もう一つのレンズの向こう側@
ワタシはの名はミーリエル。種族は、リザードマン。職業は記者だ
そして、ワタシの夫の名は、ユージ。人間だ
彼は、この世界とはまったく違う異世界からやって来た人
この世界の住人であるワタシと異世界からやって来たユージがなぜ惹かれあったのかまでをここに記しておこうと思う
事の始めは、ワタシがある人物を取材しようとしたことだった
あれは、寒い日も少なくなり春の日差しが温かくなる頃だった
その日、ワタシは近くの街にとある人物がやってきたという情報を元に、街へと急いでいた
なんでも、魔界にいる高等な魔物であるバフォメットを師に持っているという魔女殿だという
そんな、すごい師を持つ魔女がこの地に訪れているらしい
これを記事にしない手はない!と・・・
街の宿に滞在中であるという。宿には、背丈はワタシの胸ぐらいの高さで、赤い三角帽子、赤いローブを身につけていた。胸元には何かの動物を象った首飾りのような金細工をつけていて、青いガラスのような透き通った目が印象的な可愛らしい魔女さんがいた。彼女は、ディナーを食べながら申し出を引き受けてくれた
「ボクの名はアースリー・メルズ、メルとでも呼んでくれ。各地を巡って不思議なことはないかと探しているしがない魔女さ。君の言うように確かに、バフォメット様を師としている。でも、あの方はお忙しい方だし、ボクもこうして旅ばかりしているからついぞしばらく師の主催されているサバトにも顔を出していないのだよ。だから、すごいと言えるほどの力を持っているか?といえば少々疑問ではあるけどね。でも、折角訪ねてくれたんだ。魔法の一つでも見せてあげようじゃないか」
そう言うと、彼女は快く次の日にでも取材させてくれるという…
次の日の昼頃、街の外れにある広大な牧場で、魔法を見せてくれる約束をした
翌日昼頃、撮影の準備のためにカメラを固定する為の三脚や機材を持ち込みその時を待っていた
約束の時間通りにやってきたメル。牧場の柵沿いの道をゆっくりとこちらに向かってくる三角帽子が見えた
彼女は挨拶を交わすと、カメラを物珍しそうに見つめている
なんでも、とあるサバトが風景や人を絵に写し取るものを作り出したことは知っていたが、現物を見るのははじめてだったらしい
「それがカメラというものなのか、なかなか大きい箱なのだな。ほう!これが写真というものか。まさに生き写しだな。しかし、色は付いていないんだね」
カメラと撮った白黒写真を見せると感心たように声を上げた
しばらく見せると、これから見せる魔法がどんなふうに撮れるのかワクワクするように、
「さぁ!やってみよう!!う〜ん・・・それじゃ、雷撃魔法を撃つことにするよ?こういうものは派手な方がいいだろう?では、少し離れてくれ。魔法という制御された雷ではあるけれども、やはり危険はあるからね」
と、言った
ワタシは少しでも良い絵が撮れるようにメルのから少し離れた位置で身構えた
メルの斜め前あたりでカメラを構えたワタシは、雷撃と魔方陣そして構えをとるメル・・・そんな構図を予想していた
魔法の詠唱・・・
雷撃は、少し離れた所にある切り株に当たる予定だった
でも予想外のことが起こった
彼女の手から離れた雷撃は何故か途中の空間に留まった
何もない空間で渦を巻き始めたいた雷撃
イカン!と叫ぶと雷撃を中止したメル
瞬間、渦を巻いて空中に留まっていた雷撃は四方に弾けた
弾けた雷撃は周りの地面に落ち、落ちたところをえぐっていた
ワタシのカメラにもそれは当たった
幸い、それは鉄の三脚にあたったらしい
それでカメラの一部が割れたことと、衝撃で倒れてカメラを守ろうとそれを抱えて尻もちついたワタシだけで被害は済んだ
なぜか失敗し、カメラを破損してしまったメルは本当に申し訳なさそうに謝った
大丈夫なのに謝り続けたので“カメラの修理を終えたらすぐにでもまた撮り直せばいい”そう説得してその日は別れた
誰だって調子の悪い時はある。まして、まだカメラは珍しいものだから緊張してしまうことはよくあることだ
これがすべての始まり・・・
この後、ワタシは誰もしたこともない、ときめきと悲しみと喜びを体験することとなる
家に帰ると、早速撮った写真を現像する為に地下室にある薬品の中に乾板を漬けたりして処理する
徐々に浮き上がる絵
でも雷撃の強すぎる光が入ってしまったのかあまりよく映っていない様子・・・
処理して現像した乾板が乾くのを待つ傍らカメラの状態を見ようと居間に来ると、ポットの中のお湯をコップに注ぎお茶をつくる
雷撃はカメラと三脚とを固定する金属の座に当たったらしい
よかった。レンズがはめ込んであるほうに当たらなくて・・・もし当たってしまったらレンズが割れるかゆがんでしまっていただろう
ひと安心してカメラを覗きこんだ時だった
「なによこれ!」
そこには、見たこともない薄汚れた白い壁が写っていた
カメラから目をはなした先には見慣れたストーブとポットが置いてあるワタシの家の居間
恐る恐る覗く
やはり、薄汚れた白い壁・・・下にカメラを向ければ何かの植物を編んだような床。うっすらと積もっている埃
そのまま辺りを見渡せば、人気のない寒々しく薄暗い四角い部屋が見えた
「・・・どこよこれ?!」
とりあえず、乾かしっぱなしにしてる写真を確認しようと地下室からそれを持ってきた
「・・・?!」
写真いっぱいに白くなっている
けど、中心部分、雷撃の渦を巻いていたところが写っていた部分は違うものが映っていた
人が倒れている
多分男の人・・・
その人の後ろには、雷撃のような白い筋のような光も写っていた
「・・・この中に映っている人も雷撃を受けたんだ」
それを見てなんとなくそう思った
この写真とカメラに見える光景
とてもすごいことがこれから起こる!そんな直感が閃いた・・・
のどがからからだった
注いでおいたお茶を啜ったけれど、すっかり冷めてしまっていた
「とりあえず、メルに相談しよう!」
心躍ることが始まる!ワタシはそんな期待に胸が躍った
ワタシは、取材で知り合った魔女のメルに、このカメラの異変を相談するために、近くの街に出かけることにした・・・
家から出て、そこでもカメラを覗く
目の前には森、けどカメラの中には砂利道と雑木林のような林が見える
ワタシの家が建っている所はどうなっているのだろうと後ろを覗くと、その方向には四角く茶色の壁をした小さな家が見える
それが、他にも3件くらい見える
どの家も見た目でがらんとしており人は住んでいなさそうだ
カメラの中の世界の砂利道は、ワタシが普段街へ行く方向ではない森の奥へと続いている。あちらの林には、普通の木や見たこともない緑色したパイプのような植物?も見える。葉っぱが途中から生えているから植物なのだろう
一体ここはどこなのだろうか?
街に行くのは中断して、カメラの先に見えている砂利道を辿ることにした
少し歩いてはカメラを覗くそんなふうに観察する。これがもう少し小さければ持ちながら見歩く事も出来るのだろうけど・・・いくら魔物のワタシでも少々重いし嵩張るからあまりそれはやりたくない。大体、自分の立っている所は森の中なので石につまずいたり、木にぶつかることになったりしてしまう・・・
しばらくそのまま歩くと石で舗装されている道に出た
その道はどこまでも続いている
少し歩いてみると道に沿って盛り土がされている
盛り土の向こうがどうなっているのか行ってみた
それは、大きな川だった
幅が広くしかも深いのだろう。水は透き通ってはおらず深い青色をしている。水面は光を反射してキラキラしている
奇妙なのは川の端が白い石なのかモルタルなのかで覆われていることだ。その白い石か何かで出来ていると思うけど変な三角みたいな形の石も水辺に沿って沈んでいる。それが、どこまでもずっと続いているのだ。川ではなく水路なのかなぁ?
水の中に魚はあまり見当たらない。小さな魚が見えるのみ。生きものの影が見当たらない・・・こんな川ではサハギンとかは生きられないだろうなぁ・・・。っと、盛り土の上に人影が見える。行って見よう
中年の人間のおじさん。犬が見える。どうやら、一緒に散歩しているみたいだ。
彼らは、近くで観察しているワタシに気が付くこともなく目の前を通り過ぎていった・・・
ワタシは川の流れとは逆に歩いていった
太陽はやさしく降り注ぎ
近くに見える草草は風に揺れている
川の水はキラキラと光を反射している
うん?
今何かがカメラの前を飛んでいった
白い何か・・・
・・・?
ほら・・・また・・・
下を見るとその飛んで行ったと思うものと同じものが落ちている
ちらほらと・・・
何かの花びらのようだ
ワタシはなんの花が咲いているのか気になって辺りを見回してみた
・・・
きれい・・・
言葉を失った
うすい桃色の花を枝いっぱいにつけた木々が点々と道に沿って植わっている
近くに近づいてみると花は、うすい桃色から白へと変わったように見える
深い赤色をした萼を持ち、5枚の花びら、そして黄色いおしべとめしべ
なんていう花なんだろうか?こんなきれいな花は見たことがない
どんな匂いをしているのだろうか?
どれぐらい咲いているのだろう?
風で揺れるその木から花びらが落ちていく
ひらひらとではなく、本当にはらはらと言う言葉がぴったりなほど白い花びらが散っていく
ただ、散るだけじゃなく舞っているかのように落ちていく
はらはらと・・・はらはらと・・・
その日はずっとその花をつけていた木を眺めていた・・・
夕日に照らされたその木、オレンジ色した光が木を染め上げる
見納めか・・・残念・・・。だけど、また明日来ればいいこと・・・
こちらも空はオレンジ色していてまもなく、夜の帳へと日は落ちていく
帰ろうとした
最後に・・・と、振り返って驚いた
!!!
白くぼんやりと見えていたその木が真っ白に浮かび上がったのだ
なにこれ・・・!
日も落ちて、暗くなったというのにその木は闇に浮かび上がるかのように白く輝いて見える
どうなっているのかよく見ると、木の根元のところに眩しいくらいの光を放つ何かがあった
蝋燭でもなくランプでもない。まるで、暗い所でカメラを使う時に一瞬だけ明るくする発光石のように白く光るモノ・・・
特殊な鉱石と魔法を使った照明もあるけれどそれもここまで明るくはなかったはず・・・
白い光に浮かびあがるその木は、幻想的でもあった
ワタシは家に帰るのも忘れてただただ見入っていた
次の日、その木をもう一度見てから違う所へといってみようと思った
再び、あの道を歩く
あちらに見える人間達はみんなおじさんやおばさんといった感じの人が歩いている
時々、若い人が走っていく
みんな人間ばかり。魔物はいないのかなぁ?
向こうの方に橋?が見えてきた
この大きい川を跨ぐほどの橋
どんな橋なのだろうか?
それに向かって歩き出したワタシ
・・・大きい
見上げるほどの大きさ
それは、橋桁が青く見える
たぶん鉄で出来ているのだろう
青い所の端からは、鉄が錆びた赤い色が滲み出ている
川の中にある白く大きな石の柱が橋桁を支えている
橋の上にはどんな人々が行き来しているのか見たくて、近くの大きな木に登ってみた
っ?!うわぁ!!!
カメラを覗いたとたん、何かが目の前に突っ込んできた
思わず仰け反る
いそいで、木の幹に捕まる
危ない所だった
カメラを持ったまま木から落ちるところだった
今のは一体なんだったのだろうか?
もう一度見てみるけどやはり何かが突っ込んでは通り過ぎていく
大丈夫だと思ってもやはり体が反応してしまう
ワタシは違う木に登りなおすことにした
・・・尻尾が枝から離れない
さっきのによほど驚いたのだろう
なんとか尻尾を解いて、もう少し離れた木に登る
カメラを覗くと馬車のようなものが橋の上を走っていた
馬車と違う所は馬みたいな生き物がいるわけでなく、4つの輪を持ったものがすごいスピードで走っていくことだ
あれも鉄で出来ているようだ。中には人が乗っているように見える
どんなからくりなのだろうか?
橋の端を人が肩身狭そうに歩いていく
人が行く方向、橋の先に家々が見える。ワタシはそちらに行ってみることにした
相変わらず、石の道には馬のいない馬車もどきが我が物顔で走っていく
道の端々には石の柱が一定の間隔で立っていて黒いつるのようなものが渡してある
一定間隔で建てられた家々
つるはその家々に繋がっている
突然、大きな石の建物
なんなんだ?これは・・・城か?城壁か?
わからない
中を覗くと部屋があって、どこも同じような間取り・・・
寝ている人もいれば、朝ごはん?を食べている人もいる
これは・・・家なのだろうか?謎は深まるばかりだ
しばらく街を歩き回るとガラス張りの店?が見えてきた
店だと思うけど、人が大勢テーブルごとに座り何かを食べている
目の前の席では、鉄の皿に何かの肉が乗っていて湯気をたてている
油がパチパチ跳ねていて、男がなにかタレのようなものをかけている
ますます跳ねる油・・・
ナイフとフォークを使って切り、口に入れた
うまそうに笑顔を見せる男・・・
途端に、ワタシの頭の中に近くの街の酒場で食べられる子牛のステーキを頬張った時のような唾が口いっぱいに広がる。ああ・・・最近食べに行ってないなぁ・・・これが終わったら食べに行こう。しばらく見ていると男の席に何かが運ばれてきた。黄色いスポンジケーキに白いクリームのようなものが挟まり上にもクリームがかけられていて苺見たいな物が乗った食べ物・・・ケーキかな?男が笑顔で少し切りとって頬張っている
・・・おいしそうに食べるなぁこの人・・・
やはり、あまーいケーキを思い出して口の中に唾が広がる・・・
ケーキと一緒に運ばれてきたこげ茶色の飲み物をすすっている男。なんだろう?紅茶にしては色が濃いし・・・?
男は食べ終わるとしばらくして満足げな笑みを浮かべて席をたった
ワタシのおなかがグゥと鳴った・・・
・・・不思議な世界
御伽噺にもこんな世界を書いたものはなかった
相変わらず、人だらけ
魔物の姿はない
いろいろなお店に入ったらおいしそうな食べ物・・・
わけのわからない仕掛けで動くからくり
なんで光るかもわからない灯り
夜になれば人もいないのに灯ったままのあかりが街中を照らし続ける
人気もないのに・・・
ちょっと寂しく思った
ワタシはここでみているのにそれだけ・・・
誰も気が付いてくれない
どうしよう・・・記事のネタにはなる
でも・・・
誰かワタシに気が付いてくれないかしら・・・
そうすれば、もっとなにか・・・・・・
グゥ・・・
思案にくれていたらおなかが鳴った
ワタシは、考えるのやめて街にある酒場へと行こうとカメラを片付け始めた・・・
そして、ワタシの夫の名は、ユージ。人間だ
彼は、この世界とはまったく違う異世界からやって来た人
この世界の住人であるワタシと異世界からやって来たユージがなぜ惹かれあったのかまでをここに記しておこうと思う
事の始めは、ワタシがある人物を取材しようとしたことだった
あれは、寒い日も少なくなり春の日差しが温かくなる頃だった
その日、ワタシは近くの街にとある人物がやってきたという情報を元に、街へと急いでいた
なんでも、魔界にいる高等な魔物であるバフォメットを師に持っているという魔女殿だという
そんな、すごい師を持つ魔女がこの地に訪れているらしい
これを記事にしない手はない!と・・・
街の宿に滞在中であるという。宿には、背丈はワタシの胸ぐらいの高さで、赤い三角帽子、赤いローブを身につけていた。胸元には何かの動物を象った首飾りのような金細工をつけていて、青いガラスのような透き通った目が印象的な可愛らしい魔女さんがいた。彼女は、ディナーを食べながら申し出を引き受けてくれた
「ボクの名はアースリー・メルズ、メルとでも呼んでくれ。各地を巡って不思議なことはないかと探しているしがない魔女さ。君の言うように確かに、バフォメット様を師としている。でも、あの方はお忙しい方だし、ボクもこうして旅ばかりしているからついぞしばらく師の主催されているサバトにも顔を出していないのだよ。だから、すごいと言えるほどの力を持っているか?といえば少々疑問ではあるけどね。でも、折角訪ねてくれたんだ。魔法の一つでも見せてあげようじゃないか」
そう言うと、彼女は快く次の日にでも取材させてくれるという…
次の日の昼頃、街の外れにある広大な牧場で、魔法を見せてくれる約束をした
翌日昼頃、撮影の準備のためにカメラを固定する為の三脚や機材を持ち込みその時を待っていた
約束の時間通りにやってきたメル。牧場の柵沿いの道をゆっくりとこちらに向かってくる三角帽子が見えた
彼女は挨拶を交わすと、カメラを物珍しそうに見つめている
なんでも、とあるサバトが風景や人を絵に写し取るものを作り出したことは知っていたが、現物を見るのははじめてだったらしい
「それがカメラというものなのか、なかなか大きい箱なのだな。ほう!これが写真というものか。まさに生き写しだな。しかし、色は付いていないんだね」
カメラと撮った白黒写真を見せると感心たように声を上げた
しばらく見せると、これから見せる魔法がどんなふうに撮れるのかワクワクするように、
「さぁ!やってみよう!!う〜ん・・・それじゃ、雷撃魔法を撃つことにするよ?こういうものは派手な方がいいだろう?では、少し離れてくれ。魔法という制御された雷ではあるけれども、やはり危険はあるからね」
と、言った
ワタシは少しでも良い絵が撮れるようにメルのから少し離れた位置で身構えた
メルの斜め前あたりでカメラを構えたワタシは、雷撃と魔方陣そして構えをとるメル・・・そんな構図を予想していた
魔法の詠唱・・・
雷撃は、少し離れた所にある切り株に当たる予定だった
でも予想外のことが起こった
彼女の手から離れた雷撃は何故か途中の空間に留まった
何もない空間で渦を巻き始めたいた雷撃
イカン!と叫ぶと雷撃を中止したメル
瞬間、渦を巻いて空中に留まっていた雷撃は四方に弾けた
弾けた雷撃は周りの地面に落ち、落ちたところをえぐっていた
ワタシのカメラにもそれは当たった
幸い、それは鉄の三脚にあたったらしい
それでカメラの一部が割れたことと、衝撃で倒れてカメラを守ろうとそれを抱えて尻もちついたワタシだけで被害は済んだ
なぜか失敗し、カメラを破損してしまったメルは本当に申し訳なさそうに謝った
大丈夫なのに謝り続けたので“カメラの修理を終えたらすぐにでもまた撮り直せばいい”そう説得してその日は別れた
誰だって調子の悪い時はある。まして、まだカメラは珍しいものだから緊張してしまうことはよくあることだ
これがすべての始まり・・・
この後、ワタシは誰もしたこともない、ときめきと悲しみと喜びを体験することとなる
家に帰ると、早速撮った写真を現像する為に地下室にある薬品の中に乾板を漬けたりして処理する
徐々に浮き上がる絵
でも雷撃の強すぎる光が入ってしまったのかあまりよく映っていない様子・・・
処理して現像した乾板が乾くのを待つ傍らカメラの状態を見ようと居間に来ると、ポットの中のお湯をコップに注ぎお茶をつくる
雷撃はカメラと三脚とを固定する金属の座に当たったらしい
よかった。レンズがはめ込んであるほうに当たらなくて・・・もし当たってしまったらレンズが割れるかゆがんでしまっていただろう
ひと安心してカメラを覗きこんだ時だった
「なによこれ!」
そこには、見たこともない薄汚れた白い壁が写っていた
カメラから目をはなした先には見慣れたストーブとポットが置いてあるワタシの家の居間
恐る恐る覗く
やはり、薄汚れた白い壁・・・下にカメラを向ければ何かの植物を編んだような床。うっすらと積もっている埃
そのまま辺りを見渡せば、人気のない寒々しく薄暗い四角い部屋が見えた
「・・・どこよこれ?!」
とりあえず、乾かしっぱなしにしてる写真を確認しようと地下室からそれを持ってきた
「・・・?!」
写真いっぱいに白くなっている
けど、中心部分、雷撃の渦を巻いていたところが写っていた部分は違うものが映っていた
人が倒れている
多分男の人・・・
その人の後ろには、雷撃のような白い筋のような光も写っていた
「・・・この中に映っている人も雷撃を受けたんだ」
それを見てなんとなくそう思った
この写真とカメラに見える光景
とてもすごいことがこれから起こる!そんな直感が閃いた・・・
のどがからからだった
注いでおいたお茶を啜ったけれど、すっかり冷めてしまっていた
「とりあえず、メルに相談しよう!」
心躍ることが始まる!ワタシはそんな期待に胸が躍った
ワタシは、取材で知り合った魔女のメルに、このカメラの異変を相談するために、近くの街に出かけることにした・・・
家から出て、そこでもカメラを覗く
目の前には森、けどカメラの中には砂利道と雑木林のような林が見える
ワタシの家が建っている所はどうなっているのだろうと後ろを覗くと、その方向には四角く茶色の壁をした小さな家が見える
それが、他にも3件くらい見える
どの家も見た目でがらんとしており人は住んでいなさそうだ
カメラの中の世界の砂利道は、ワタシが普段街へ行く方向ではない森の奥へと続いている。あちらの林には、普通の木や見たこともない緑色したパイプのような植物?も見える。葉っぱが途中から生えているから植物なのだろう
一体ここはどこなのだろうか?
街に行くのは中断して、カメラの先に見えている砂利道を辿ることにした
少し歩いてはカメラを覗くそんなふうに観察する。これがもう少し小さければ持ちながら見歩く事も出来るのだろうけど・・・いくら魔物のワタシでも少々重いし嵩張るからあまりそれはやりたくない。大体、自分の立っている所は森の中なので石につまずいたり、木にぶつかることになったりしてしまう・・・
しばらくそのまま歩くと石で舗装されている道に出た
その道はどこまでも続いている
少し歩いてみると道に沿って盛り土がされている
盛り土の向こうがどうなっているのか行ってみた
それは、大きな川だった
幅が広くしかも深いのだろう。水は透き通ってはおらず深い青色をしている。水面は光を反射してキラキラしている
奇妙なのは川の端が白い石なのかモルタルなのかで覆われていることだ。その白い石か何かで出来ていると思うけど変な三角みたいな形の石も水辺に沿って沈んでいる。それが、どこまでもずっと続いているのだ。川ではなく水路なのかなぁ?
水の中に魚はあまり見当たらない。小さな魚が見えるのみ。生きものの影が見当たらない・・・こんな川ではサハギンとかは生きられないだろうなぁ・・・。っと、盛り土の上に人影が見える。行って見よう
中年の人間のおじさん。犬が見える。どうやら、一緒に散歩しているみたいだ。
彼らは、近くで観察しているワタシに気が付くこともなく目の前を通り過ぎていった・・・
ワタシは川の流れとは逆に歩いていった
太陽はやさしく降り注ぎ
近くに見える草草は風に揺れている
川の水はキラキラと光を反射している
うん?
今何かがカメラの前を飛んでいった
白い何か・・・
・・・?
ほら・・・また・・・
下を見るとその飛んで行ったと思うものと同じものが落ちている
ちらほらと・・・
何かの花びらのようだ
ワタシはなんの花が咲いているのか気になって辺りを見回してみた
・・・
きれい・・・
言葉を失った
うすい桃色の花を枝いっぱいにつけた木々が点々と道に沿って植わっている
近くに近づいてみると花は、うすい桃色から白へと変わったように見える
深い赤色をした萼を持ち、5枚の花びら、そして黄色いおしべとめしべ
なんていう花なんだろうか?こんなきれいな花は見たことがない
どんな匂いをしているのだろうか?
どれぐらい咲いているのだろう?
風で揺れるその木から花びらが落ちていく
ひらひらとではなく、本当にはらはらと言う言葉がぴったりなほど白い花びらが散っていく
ただ、散るだけじゃなく舞っているかのように落ちていく
はらはらと・・・はらはらと・・・
その日はずっとその花をつけていた木を眺めていた・・・
夕日に照らされたその木、オレンジ色した光が木を染め上げる
見納めか・・・残念・・・。だけど、また明日来ればいいこと・・・
こちらも空はオレンジ色していてまもなく、夜の帳へと日は落ちていく
帰ろうとした
最後に・・・と、振り返って驚いた
!!!
白くぼんやりと見えていたその木が真っ白に浮かび上がったのだ
なにこれ・・・!
日も落ちて、暗くなったというのにその木は闇に浮かび上がるかのように白く輝いて見える
どうなっているのかよく見ると、木の根元のところに眩しいくらいの光を放つ何かがあった
蝋燭でもなくランプでもない。まるで、暗い所でカメラを使う時に一瞬だけ明るくする発光石のように白く光るモノ・・・
特殊な鉱石と魔法を使った照明もあるけれどそれもここまで明るくはなかったはず・・・
白い光に浮かびあがるその木は、幻想的でもあった
ワタシは家に帰るのも忘れてただただ見入っていた
次の日、その木をもう一度見てから違う所へといってみようと思った
再び、あの道を歩く
あちらに見える人間達はみんなおじさんやおばさんといった感じの人が歩いている
時々、若い人が走っていく
みんな人間ばかり。魔物はいないのかなぁ?
向こうの方に橋?が見えてきた
この大きい川を跨ぐほどの橋
どんな橋なのだろうか?
それに向かって歩き出したワタシ
・・・大きい
見上げるほどの大きさ
それは、橋桁が青く見える
たぶん鉄で出来ているのだろう
青い所の端からは、鉄が錆びた赤い色が滲み出ている
川の中にある白く大きな石の柱が橋桁を支えている
橋の上にはどんな人々が行き来しているのか見たくて、近くの大きな木に登ってみた
っ?!うわぁ!!!
カメラを覗いたとたん、何かが目の前に突っ込んできた
思わず仰け反る
いそいで、木の幹に捕まる
危ない所だった
カメラを持ったまま木から落ちるところだった
今のは一体なんだったのだろうか?
もう一度見てみるけどやはり何かが突っ込んでは通り過ぎていく
大丈夫だと思ってもやはり体が反応してしまう
ワタシは違う木に登りなおすことにした
・・・尻尾が枝から離れない
さっきのによほど驚いたのだろう
なんとか尻尾を解いて、もう少し離れた木に登る
カメラを覗くと馬車のようなものが橋の上を走っていた
馬車と違う所は馬みたいな生き物がいるわけでなく、4つの輪を持ったものがすごいスピードで走っていくことだ
あれも鉄で出来ているようだ。中には人が乗っているように見える
どんなからくりなのだろうか?
橋の端を人が肩身狭そうに歩いていく
人が行く方向、橋の先に家々が見える。ワタシはそちらに行ってみることにした
相変わらず、石の道には馬のいない馬車もどきが我が物顔で走っていく
道の端々には石の柱が一定の間隔で立っていて黒いつるのようなものが渡してある
一定間隔で建てられた家々
つるはその家々に繋がっている
突然、大きな石の建物
なんなんだ?これは・・・城か?城壁か?
わからない
中を覗くと部屋があって、どこも同じような間取り・・・
寝ている人もいれば、朝ごはん?を食べている人もいる
これは・・・家なのだろうか?謎は深まるばかりだ
しばらく街を歩き回るとガラス張りの店?が見えてきた
店だと思うけど、人が大勢テーブルごとに座り何かを食べている
目の前の席では、鉄の皿に何かの肉が乗っていて湯気をたてている
油がパチパチ跳ねていて、男がなにかタレのようなものをかけている
ますます跳ねる油・・・
ナイフとフォークを使って切り、口に入れた
うまそうに笑顔を見せる男・・・
途端に、ワタシの頭の中に近くの街の酒場で食べられる子牛のステーキを頬張った時のような唾が口いっぱいに広がる。ああ・・・最近食べに行ってないなぁ・・・これが終わったら食べに行こう。しばらく見ていると男の席に何かが運ばれてきた。黄色いスポンジケーキに白いクリームのようなものが挟まり上にもクリームがかけられていて苺見たいな物が乗った食べ物・・・ケーキかな?男が笑顔で少し切りとって頬張っている
・・・おいしそうに食べるなぁこの人・・・
やはり、あまーいケーキを思い出して口の中に唾が広がる・・・
ケーキと一緒に運ばれてきたこげ茶色の飲み物をすすっている男。なんだろう?紅茶にしては色が濃いし・・・?
男は食べ終わるとしばらくして満足げな笑みを浮かべて席をたった
ワタシのおなかがグゥと鳴った・・・
・・・不思議な世界
御伽噺にもこんな世界を書いたものはなかった
相変わらず、人だらけ
魔物の姿はない
いろいろなお店に入ったらおいしそうな食べ物・・・
わけのわからない仕掛けで動くからくり
なんで光るかもわからない灯り
夜になれば人もいないのに灯ったままのあかりが街中を照らし続ける
人気もないのに・・・
ちょっと寂しく思った
ワタシはここでみているのにそれだけ・・・
誰も気が付いてくれない
どうしよう・・・記事のネタにはなる
でも・・・
誰かワタシに気が付いてくれないかしら・・・
そうすれば、もっとなにか・・・・・・
グゥ・・・
思案にくれていたらおなかが鳴った
ワタシは、考えるのやめて街にある酒場へと行こうとカメラを片付け始めた・・・
11/02/20 20:03更新 / 茶の頃
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