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おはよう、ククリ |
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わたしはどこかを歩いていた。
よちよちと広い空間の中をひたすらに歩く。 歩く、というか這う。 やがて大きな山が見えてくる。 なんだか暖かそうな山だ。 でもなんだか近づかない方がいいみたい。 そう思って方向転換しようとする。 すると、その山は蠢き始めた。 わたしは足を止める。 「んんっ…………ふぁ〜ぁ」 山が唸っている。 「ふぁぁ〜」 起き上がった。 「………………まだねむい」 こっち見た。 「……………うおおっ!芋虫!」 巨大なくせにやけに俊敏に動いた。 しかも巨大なくせにビビりだし。 「マジか………あ、窓閉め忘れてる」 彼は、わたしが入ってきた大きな穴を見る。 「はぁ…………マジか」 彼は元の位置に戻ってまた座る。 「あぁ、ごめん、驚いちゃって……昔っから虫が苦手でさ…………いや、芋虫相手に何言ってんだろ。まだ酔ってんのかな」 なんかごちゃごちゃ言ってる。 「まぁ、いいか。つーか、よーく見てみりゃあ随分と綺麗な模様でございますねぇ」 彼は、その辺に転がっている物でわたしをつつく。 うざったいなぁ。 「大丈夫かな?刺したりしない?」 わたし芋虫だぞ。 「…………」 つんっ と、今度は手でつついてきやがった。なにやってんだ。 でもなんだか、不愉快な感じじゃなかった。 とても温かかった。 「…………毒もないか………あー何やってんだろうな、僕。いくら仕事休みだからってこんなことで暇つぶしなんて……空しいなぁ」 ぶつぶつとつぶやいていることは気にせず、わたしは彼に近寄っていった。 「うおっ、なんだお前!」 もっと触ってほしい。もっと暖かいのほしい。 そんな意志を込めて、彼の足にすがりつく。 そんな彼の足も、すごく温かくて気持ちよかった。 「………ふぅ。まぁ、少しくらい戯れてやるのもありか」 彼は立ち上がって、なにか大きな物を持ってきた。 そして、わたしを持ち上げてその上に載せた。 「間違えて踏まれたくないだろ?この上に載ってて」 再び立ち上がって、あの大きな穴の方へ行った。戻ってきたときには、手に何枚かの葉っぱを持っていた。 「ほれ、食うか?」 それをわたしに差し出す。 わたしは触ってほしいんだけどなぁ……… そう思いながらも、わたしは葉っぱをかじる。 「お、食った」 むしゃむしゃ むしゃむしゃ 「こうやって見ると、なかなか可愛いもんだなぁ芋虫も」 むしゃむしゃ……… 何でだろう、いつも食べているのと同じなのに。 すごくおいしく感じる。 「ほら、たーんと召し上がれ」 うまうま。 うまうま。 「そう言えばお前って蝶なの?蛾なの?僕はどっちかというと蝶が好きなんだけれども」 悪かったな、蛾で。 睨みつけてやる。 「はぁーあ……自由でいいよなぁ芋虫は。僕もう仕事したくないよー」 大変そうだな、人間も。 「このやろ、このやろ」 つんっ、つんっ むにっ!うざったいなぁ! 「はぁ………何やってんだろうな、僕。こんなんだから彼女ができないんだよ」 あ、やめちゃうの……… むぅ、なんだか調子が狂うなぁ。 〜〜♪〜〜♪ 急に、大きな音が響いた。 「げっ、休日なのになんの用だよーまったく」 彼は変な平べったい物を頭に当て、何か話す。 「…………はい。…………え?これからですか?……………わかりました」 やがてそれを離し、わたしの方を見る。 「あーごめん。仕事入っちゃったわ」 何言っているかよくわからないが、とりあえず、もっと触って温かくしてくれよ。 「いやー短い間だったが、非常に癒された。ありがとう」 彼はわたしを摘まんだ。 ───え? 「さすがに留守中動き回られると危険だ。ごめんな」 そして、わたしを大きな穴のところに置いた。 「んじゃあ、僕も頑張るからさ、お前も頑張って生きてくれよー」 何かを下ろし、彼は去っていった。 あれ?もう行っちゃうのか?せめてさっきのところに。 そう思って歩いても、何かに当たって先に進めない。 これがさっき下ろしてたやつか。固くて見えない壁。 おーい、入れてくれよー。 わたしは体を使ってその壁を叩く。 でも彼の姿は見えない。もうどこかへ行ってしまった。 ねぇー!入れてよー! もしかしたら開くかもしれない、そう思って強く強く叩いてみる。 でも、開かない。 もうあっちへは戻れない。 ………つまんないの。 わたしはそのへんの葉っぱをかじる。 でも、さっきみたくおいしくはなかった。 しかも、なんだか辛くなってしまった。 今までこんなこと無かったはずなのに。 「……………あれ、なんでだろう」 こんなの初めてだ。 今まで、一カ所に留まろうだなんて思ったことはなかった。 でも。 彼のそばにいたくなってしまった。 彼の温もりがほしくなってしまった。 『いやー、短い間だったが、非常に癒された』 彼の声が聞きたくなってしまった。 「短い間なのに………なぁ」 彼が恋しい…… あれ?なんでこんな言葉が出てくるんだろうか? こんな言葉知らないはずなのに。 「あれ?」 なんだか体が熱くなってきた。燃えるように熱い。 直感で分かった。 成長の合図だ? 「成虫になっちゃうの……か」 彼は言っていた。 『僕はどっちかというと蝶が好きなんだけれども』 あーあ、嫌われちゃうなぁ。 もう、会うこともないんだろうけども。 なんだか、すごく悲しい。 でも悲しんでいる暇はなかった。 繭が、形成されつつあるのだ。体も固くなり、蛹になろうとしている。 「…………蝶よりも可愛くなれたら、振り向いてもらえるかな……」 流せるはずもない涙が。 流れた気がした。 繭が完全に閉じた。 何も見えない。 そんな中でも思うことは……やっぱり彼のことだった……… しだいに自分の体が膨らんでいくのを感じる。 嫌だ。彼に嫌われたくない。 神様。どうか。 どうか───── 祈るように待って何十時間。 繭が揺れ始めた。 ぶるん、ぶるん、と引きちぎれんばかりに揺れる。 そして、急に、放り出されるように宙に浮いた感覚があった。 ドサリ、と地面に落ちる。 少しして光が差し込む。 目をゆっくり開けると。 男の人の顔があった。 「んんっ…………ふぁ〜ぁ」 あくびをする。 ここはどこだろう? 「?………?」 キョロキョロと部屋を見回す。 立ち上がって匂いを嗅いで回る。 なんだか嗅いだことのある匂い……… このテーブルなんか特に。 なんでだろう、初めてのはずなのに、懐かしい。 最後に、わたしは男の人の匂いを嗅ぐ。触ったりして温もりを確かめる。 「…………えへへ」 なんでだろう、初めて会う人なのに……すごく、すごく好きだって感じてる。 自然に笑顔になっちゃう。 「おはよっ!ぱぱ!」 16/08/07 23:43 鯖の味噌煮
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今までありがとうございました!
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