連載小説
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未確認飛行物体
「ねぇねぇ、知ってる?」
「なに?」
「最近さ、K町に未確認飛行物体が現れるらしいよ」
「未確認飛行物体……UFOのこと?」
「うぅん、どっちかというとUMAらしいよ。なんか時々黒い生き物みたいな物体がK町の空に舞ってるらしいよ」
「なにそれ怖い」



 ここ最近、大学内で妙な噂が耳に入る。
 大抵、この手の噂は眉唾モノ。十中八九見間違いかイタズラで流されたものだろう。
 しかし、今回ばかりはそうではないらしい。
 なにせ僕もその目撃者の一人なのだから。


 
 最初にそれを目撃したのは一週間前くらい。
 アヤメが来て1ヶ月が経ったあたりである。
 僕が夕方、本屋に向かっていると。
 ばさっ!
 何かが強くはためく音がして空を見上げると────黒い物体が空を飛んでいた。
 じゃあカラスか、とも思ったがそれにしては大きすぎる。
 じゃあカラステングとかのハーピィか、とも思ったがそれにしては飛び方が無様すぎる。
 じゃあ大きめのビニールが飛んでいるのだろう、そうも思ったが、どうにもそれには明確な意志があって飛行しているように思えてならない。
 あれこれ考えながら見ているうちにそれはパッと消えてなくなった。
「?」
 結局、その日はあまり気にしないことにした。
 しかし、その一日だけだったらよかったものの、それからは毎日のようにそれを見かけるようになったのだ。どうやらかなりの頻度で飛んでいるらしい。
 おかげでその未確認飛行物体は気にせざるを得なくなるような存在にまでランクアップしてしまった。



「アヤメ、出かけよう」
「か、カイ殿がデートの誘いをっ!」
 何か感心しているようだが違う。
「お前も得意な諜報の仕事に行くんだ。付き合ってくれるか」
 多分諜報のニュアンスとは違うがな。こう言っておいた方がいいだろう。
「…………『突き合ってくれるか?』だと、もちろんだ」
「じゃあ出発だ」
「ノってくれないのか………」
 もちろん、全力でスルーである。
 善は急げ。『あれ』が動き出す前に迅速に解決してしまいたい。
 外に出るとK市はオレンジ色に染まっていた。
「……あれ、お前は普通についてくるんだ」
 もっと忍者っぽく隠れてついてくるんだと思ってた。
「いつもはそうだが、共同作業なら普通にしていた方がいいだろう」
 ならば格好も普通にした方がいいと思う。
 忍者は隠れてないと目立ちまくりだからな……
「ん、いつも?」
「まぁ、それはいいとして。何について調べるのだ?」
「ん、あぁ、話してなかったか。今K市で未確認飛行物体が現れるらしい。それについて調べたいんだ」
「ふむ、未確認飛行物体とな」
「あれ、お前見てないの?」
「うむ、一度も」
 毎日のように飛んでいるのにか………
「まぁ、皆その時間ジャストに必ず外に出て、必ず空を見上げているわけではないだろうしな」
「そうだな………」
 しかし、僕はかなりの頻度で見ているわけなのだが…………
 偶然、なのかな?
「それも調査すればわかることだろう」
「そうだな。とりあえず駅前で聞き込みでもするか」


「…………ふぅむ、ざっと聞いたところ、僕ほどの頻度で見てる人はあまりいないんだな」
「そうだな」
 わかったことは二つほど。
 現れたのは同一の個体らしいということ。
 そして。
「それが最初に現れたのは、僕が最初にそれを見た日………一週間前だということ」
「ふぅむ」
 なんだか不満そうである。
 もしかして、つまらなかったのだろうか。
「……正直、まったくわからんな。もうちょっと派手で奇怪な目撃情報があると思っていたのだが」
「そう言うなって、情報が全く手に入らないことだってあるんだからさ」
「そういうものなのか。だって未確認飛行物体だぞ!?もっと、こう、バー、ヒュンヒュン、みたいな感じで出てくるんじゃないのか?」
 それは噂程度じゃすまないと思う。滅茶苦茶大事だよそれ。
「そういうものさ……もっと役に立つ情報が欲しいなら広い範囲を探すべきだな」
「そうか、では探してくるっ!」
 言うが早いか、彼女は猛ダッシュで走り去ってしまった。
「………子供みたいだな」
 『ふしぎたんけんたい』みたいなテンションなのだろうなぁ。
 変なことしなければいいけども。


「一番最初に見たのは………そうだなぁ」
 進展があったのは、彼女と別れて十数分してとあるサラリーマンの話を聞いてからである。
「一週間前……なんだけど、その前にもそれっぽいの見たことあるんだよなぁ」
「本当ですか!それっていつごろですか!?」
「そうだなぁ。かなり前、1ヶ月前くらいの夜かな」
「それも、今出没してるのと同じヤツなんですか?」
「そうだけども……なんか若干トロかったかな。消えるんじゃなくて墜ちてたっぽいし」
「………すいません、お引き留めして。ありがとうございました」
「あ、もういいのかい?それじゃあ」
 …………………なんだろう今の証言。
 すごい引っかかる。
「…………」
 まさか、な。
 スマホを取り出し、彼女に電話(まさかのスマホ所持)をかける。
「アヤメ」
『カイ殿!どうしたのだ?』
「いや、面白そうな目撃情報が手に入ってだな」
『────ん?よく聞こえなかったな。すまん、あんまり電波の状況が良くないらしい。直接聞きたい。今からそちらに向かう』
 ぷつりと電話が切れる。
 さて、どうしよう。
 このまも何も起こらなければいいけども。

 ばさっ!
「あ!UFOだ!」
「え?本当!?」
「マジで!あれが!?」

 しかし、向こうはこちらの心中なんぞ知らない。今日もお構いなしに現れる。
 その黒い姿にも見慣れてしまった。
 ───毎日のように………いや、毎日。
 そう、僕が外に出た日は必ず現れていたのだから。
 やがてそいつは僕の頭上あたりに到達し、パッと消える。
 そして────

「カイ殿!で、その情報とは!?」
 パッと目の前に、アヤメが現れた。
 すかさず頭に軽いチョップをいれてやった。



「つまり、お前は僕の行く先々に先回りするためにあの移動法を使っていたんだな」
「………………はい」
 どうやら、彼女は魂を手放すことで重力から解放されるという『襤褸人形(ラグドール)』の術を使って空を飛んでいたらしい。
 初遭遇の時のは未完成だったらしいのだが、1ヶ月間練習していたらしい。
「で、何のために僕を監視していたのか」
「いやぁ、家を貸してもらってるし、出先での安全でも守ろうかと」
「一宿一飯の恩義を言い訳に使うんじゃねぇ!」
 要するに、ただのストーキングである。
「しかし……まさかカイ殿があんな本を買うとはなぁ……」
「なっ」
 な、そこも見てたのか!?
「私というものがありながらあんな物に手を出すだなんて……」
「ぷ、プライバシーの侵害だ!」
「大丈夫だ。私はいろんな術を持っている。そういうプレイにも対応しているぞ♥」
「お前もう出てけ!」
 とりあえず、二度とあの術は使わせないと誓わせておいた。



 それから三日後。
 また変な噂を耳にするようになった。



「この前のUFO、進化したらしいよ」
「マジで!?」
「この前のはなんか風に飛ばされたビニールみたいな飛び方だったけども、今回のはね……たけとんぼみたいに両腕を広げて飛んでるらしいよ」
「きもーい!」



 どうやら、またお灸を据えるべきなのかもしれない。
17/04/06 21:12更新 / 鯖の味噌煮
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