アヤメ
「Zzz……………」
「…………くそっ」
目の前で彼女が気持ちよさそうに眠っている………そう、目の前。
僕が寝ているその真上の天井で。
何故か天井に固定されている布団の中で。
まぁ、別にいい。正直、少し目の保養になるといってもいい。
それに空から降ってきたり裸エプロンで登場したりするよりはだいぶマシだ。
だが…………
「それはないだろうが………」
寝起き、何故かしっとりとしている顔を撫で、心底こいつを家に迎え入れてしまったことを後悔する。
こいつ……寝てる間によだれ垂らしてやがったのか。
いくらこいつが美女だといっても、流石に顔面によだれを浴びるのはいやだ。
はっきり言って不快。
ということで僕は洗面所に顔を洗いに行った。おかげで眠気がとれてしまい、無駄な早起きをする羽目になった。
仕方ないな。
せっかくだからのんびりとこの静かな朝を過ごそう。
そう思いながらリビングへ。
「カイ殿──────んちゅ」
「むぐっ!」
しかし、そんな僕の思惑は無残に打ち壊された。
さっきまでぐぅぐぅと寝ていたはずのクノイチ、『アヤメ』が目の前にいた。
「じゅっ、れろ、ちゅぅ〜〜…………」
「んぐぐぐぐっ………………!」
接吻、というよりは吸引。
吸引、というよりは陵辱。
そんな威力の口づけ。
「ちゅぽっ…………じゅるり………はい、朝の挨拶終わり♥」
口を離し、垂れた僕の唾液を指で掬いながら彼女はニヤリと笑う。
「はぁ」
大きくため息をつく。
どうやら平穏な朝はしばらく訪れないらしい。
「……………なぁ」
本当は昨日真っ先に聞くべきことを、僕は聞き忘れていた。
裸エプロン事案の後、すぐに居座る居座らせないの口論が始まってしまったのですっかり頭から抜け落ちていたのだ。
「お前、どうしてK町に来たんだ?」
クノイチ、というか忍者と聞いて思い浮かぶのは密偵とか暗殺とか、そういう危なっかしい物ばかりだ。もしこのK町でそんな変なことをしているのなら止めていただきたい。
「どうしてってそりゃあ………」
彼女は少し考える。
よく考えればこの質問は軽率だったか。
忍者の極秘任務の情報を聞いてしまった場合、僕はただではすまされないだろう………最悪の場合、死が待っている。
まぁ、流石に魔物娘が人間を殺すなんてことはないだろうけども───里かどっか連れ去られ、延々とエロ拷問を受けることになる可能性は十分ある。
この話題は切り上げるか。
しかし、彼女の答えはあっさりとしたもので。
「観光………かな」
「観光」
忍者が…………観光?
「このK町の古めかしい風景にどことなく惹かれたのだ。もしかしたら、私のクノイチの遺伝子にこういう場所の記憶が刻まれているのかもしれないな」
出た。
ここにふらりと現れる魑魅魍魎どもは皆そう言う。「古い景色に惹かれた」「この町にいると昔を思い出す」……どれもこれもこのK町の雰囲気が悪いのだ。
その手の異変を解決する『こちら』の身にもなってほしい。そんな気まぐれな理由で来られてしまってはたまったものではない。
いい加減開発されてイオンとか建たないかなぁ………そうすりゃその手の輩は多少は減るだろうに。
「カイ殿。何か気に食わないことでもあったのか?」
「ん、いや、何でもない」
顔に出ていたか。
まぁ、クノイチが家に居座るって状況はなかなかに気に食わないが。
「あ、でもそうか。観光ってことなら長くここにいる訳じゃないんだな」
精々三泊四日とかそこらへんだろうな。
よかった。その短い日数さえ我慢すればまた平穏な日常が戻って───
「いや、もうここに住むと決めたのだが」
「はぁ!?」
こないらしい。
「何でだよ!観光なんだろ!?要するに旅行なんだろ!?居座ったらお前、それただの移住じゃねぇか!」
入国審査官の前だったら入国拒否だぞ!
「解らんのか」
「?」
彼女は腕を組み、仁王立ちでやたらと偉そうに言う。
「要するにだ、永住を希望したいほどカイ殿に惚れ込んでしまったということなのだ!」
「ぐっ」
こういう、ストレートなセリフには弱い。つい気を許しそうになってしまう。
顔がぽ〜っと熱くなる。
我ながら純情すぎるな。
「ぃ、いや、まず僕に惚れる意味がわかんねぇよ」
おそらくタイミング的にはあの初邂逅の時なのだろう。あの場での僕は誰が見ても情けないことこの上なかったのだが。
「逃げる様がよかったのだ。忍者にとって逃げることは肝心なことだからな」
「えぇ………」
あんなに情けなく悲鳴を上げながら走っていたのにか?
「正確に言うと、その姿に庇護欲をそそられたというのが正しいな」
ぺろり
「ひっ」
一瞬のうちに、アヤメが背後に回り込んでいた。そして僕の首筋を舐める。
恐ろしい。こいつが魔物娘でなかったら今頃お陀仏である。
「ちゅっ、ちゅぱっ、はむっ」
「ちょっ、おまっ、しつこいっ!」
あまりに執拗に吸いつくので振り払う。
「ふふふ……そうやって顔を真っ赤にする姿。そういうところなのだよ」
「な、なな」
くそっ!早く青ざめろ僕の顔!
そう念じても無理なものは無理。むしろどんどん赤く熱くなっていく。
それどころか連なって股間まで………
「お前、何か仕込んだな!」
さすがに異常だ。
今までにないほどバッキバキになってきてるんですけども。
「忍者はよく自害のために奥歯に毒を仕込んでおくのだが」
「それの媚薬版ってことね…………」
それにしたって塗るだけで効くとかどういうことだよ。
あ〜ん、と口を開け見せつけてくるアヤメ。ただそれだけのはずなのだが、変に興奮している今はそんな動作でさえなまめかしく思える。
具体的に言うと「この口にチンポ突っ込んでやりたい」と思っちゃう感じ。
無論、こいつもそれを狙ってやってるのだろうけども。
「いいんだぞ………この家に住まわせてもらうのだからな。私の身体を好きに使ってもらうことぐらいしないとな」
なんだその等価交換は。いやだなぁ……
「まぁ、初なカイ殿に本物のまぐわいは早いかもしれないな。まずは口淫から」
ふふふ、と目を細め嘲笑うアヤメ。
一瞬、彼女に手が伸びそうになる。しかし、この挑発に乗ってしまっては彼女の思うつぼ。きっとレイプぐらいなら彼女は喜んで受け入れるだろう。もしくは即逆転。
拳を握り、唇を噛みしめ自制。
「その隙に…ちゅぷっ」
「えっ…ぅぁぁっ!」
盲点。意識が自制に尺を採っているうちに彼女は僕のペニスを外に出し、口を付けていた。
「じゅぷっ、じゅぞぞぞっ、ちゅるっ、ぢゅぅぅぅぅぅぅぅっ………!」
「ぁ、ぅぁぁぁ」
『しめた、フェラだけなら、頭だけ使っているのなら抵抗はできるかもしれない』───そんな考えは甘かった。超甘々だった。
「ぁ、ぁ」
体が、全く動かない。
精と同時に体中の力を吸い取っているかのようなバキュームだった。
「あっ、ぅっ」
「ぢゅるるるるっ、んじゅるっ!」
声すら出ない。多分、そのうち呼吸もできなくなるだろう。
「ちゅっ、んれろっ、じゅぅぅぅぅぅぅぅっっ!」
「っ、っ」
どぴゅっ!
彼女の口の中で、僕のペニスが弾ける。
ぴゅっ!ぴゅぴゅっ!どくっ!
やはり尋常ではないほどの精液が───普段の自慰では絶対に出ないであろう量の精液が発射される。
「んっ、んっ、こくっ────ぷはぁ………御馳走様」
それを一滴残らず喉に流し込み、アヤメは満足そうに微笑む。
この契約、あちら側に全くデメリットがないじゃないか………
「はれ?」
おかしい、頭がふらふらする。
尋常じゃないほど出したせいか、尋常ないほどの脱力感が──────
「あ、しまった!あぁ!ごめん!やりす───………」
そんな大慌ての彼女の声を聞きながら、僕はパタリと倒れた。
「…………………………………っ!」
目が覚めると夜。時計を見ると深夜。
唖然とする。
「……え、今の夢だよな」
寝間着に着替え、布団に入ってるし夢である。そのはずである。
しかし、枕元には、
『ごめんなさい』
の書き置きが。
「………今日、何したんだっけ」
彼女のことを聞いて、フェラされて、気絶して終わり。
さぁっ、と鳥肌が立った。
「うぇぇ…」
どっ、と冷や汗も流れる。
しなければならないことも沢山あったのだ。するべき予定も色々あったのだ。それが全部パァに。
「最悪だ………」
追い出してやる。絶対に朝一で追い返してやる。
そう決意し、僕はもう一度布団に入る。
ぽたり。
「ひゃっ!」
そう、僕の上にはアヤメが寝ているのだ。何故か天井に張り付きながら。
しかも、こいつは夜な夜な僕によだれを垂らして───
「………え」
よだれ………じゃなかった。
この液体は、彼女の口からではなく。
目から出ていた。
「…………」
ぽたり、ぽたり。一つまた一つと僕の布団にシミができる。
「うぅん……………」
器用に寝返りをうち(どうやってるんだ?)彼女は寝言を言う。
「また………会いたいよ、みんな」
「…………」
決意は儚くも崩れ、散り散りに風化する。
あれだけ強引で気丈な彼女が流した哀しげで寂しげな涙にはそれほどの効力があった。
『観光………かな?』
『要するにだ、永住を希望したいほどカイ殿に惚れ込んでしまったということなのだ!』
どこまでが嘘でどこまでが本当なのだろうか。
わからない。
でもとりあえずは。
追い出すのだけは無しにしよう。
そう、思った。
「…………くそっ」
目の前で彼女が気持ちよさそうに眠っている………そう、目の前。
僕が寝ているその真上の天井で。
何故か天井に固定されている布団の中で。
まぁ、別にいい。正直、少し目の保養になるといってもいい。
それに空から降ってきたり裸エプロンで登場したりするよりはだいぶマシだ。
だが…………
「それはないだろうが………」
寝起き、何故かしっとりとしている顔を撫で、心底こいつを家に迎え入れてしまったことを後悔する。
こいつ……寝てる間によだれ垂らしてやがったのか。
いくらこいつが美女だといっても、流石に顔面によだれを浴びるのはいやだ。
はっきり言って不快。
ということで僕は洗面所に顔を洗いに行った。おかげで眠気がとれてしまい、無駄な早起きをする羽目になった。
仕方ないな。
せっかくだからのんびりとこの静かな朝を過ごそう。
そう思いながらリビングへ。
「カイ殿──────んちゅ」
「むぐっ!」
しかし、そんな僕の思惑は無残に打ち壊された。
さっきまでぐぅぐぅと寝ていたはずのクノイチ、『アヤメ』が目の前にいた。
「じゅっ、れろ、ちゅぅ〜〜…………」
「んぐぐぐぐっ………………!」
接吻、というよりは吸引。
吸引、というよりは陵辱。
そんな威力の口づけ。
「ちゅぽっ…………じゅるり………はい、朝の挨拶終わり♥」
口を離し、垂れた僕の唾液を指で掬いながら彼女はニヤリと笑う。
「はぁ」
大きくため息をつく。
どうやら平穏な朝はしばらく訪れないらしい。
「……………なぁ」
本当は昨日真っ先に聞くべきことを、僕は聞き忘れていた。
裸エプロン事案の後、すぐに居座る居座らせないの口論が始まってしまったのですっかり頭から抜け落ちていたのだ。
「お前、どうしてK町に来たんだ?」
クノイチ、というか忍者と聞いて思い浮かぶのは密偵とか暗殺とか、そういう危なっかしい物ばかりだ。もしこのK町でそんな変なことをしているのなら止めていただきたい。
「どうしてってそりゃあ………」
彼女は少し考える。
よく考えればこの質問は軽率だったか。
忍者の極秘任務の情報を聞いてしまった場合、僕はただではすまされないだろう………最悪の場合、死が待っている。
まぁ、流石に魔物娘が人間を殺すなんてことはないだろうけども───里かどっか連れ去られ、延々とエロ拷問を受けることになる可能性は十分ある。
この話題は切り上げるか。
しかし、彼女の答えはあっさりとしたもので。
「観光………かな」
「観光」
忍者が…………観光?
「このK町の古めかしい風景にどことなく惹かれたのだ。もしかしたら、私のクノイチの遺伝子にこういう場所の記憶が刻まれているのかもしれないな」
出た。
ここにふらりと現れる魑魅魍魎どもは皆そう言う。「古い景色に惹かれた」「この町にいると昔を思い出す」……どれもこれもこのK町の雰囲気が悪いのだ。
その手の異変を解決する『こちら』の身にもなってほしい。そんな気まぐれな理由で来られてしまってはたまったものではない。
いい加減開発されてイオンとか建たないかなぁ………そうすりゃその手の輩は多少は減るだろうに。
「カイ殿。何か気に食わないことでもあったのか?」
「ん、いや、何でもない」
顔に出ていたか。
まぁ、クノイチが家に居座るって状況はなかなかに気に食わないが。
「あ、でもそうか。観光ってことなら長くここにいる訳じゃないんだな」
精々三泊四日とかそこらへんだろうな。
よかった。その短い日数さえ我慢すればまた平穏な日常が戻って───
「いや、もうここに住むと決めたのだが」
「はぁ!?」
こないらしい。
「何でだよ!観光なんだろ!?要するに旅行なんだろ!?居座ったらお前、それただの移住じゃねぇか!」
入国審査官の前だったら入国拒否だぞ!
「解らんのか」
「?」
彼女は腕を組み、仁王立ちでやたらと偉そうに言う。
「要するにだ、永住を希望したいほどカイ殿に惚れ込んでしまったということなのだ!」
「ぐっ」
こういう、ストレートなセリフには弱い。つい気を許しそうになってしまう。
顔がぽ〜っと熱くなる。
我ながら純情すぎるな。
「ぃ、いや、まず僕に惚れる意味がわかんねぇよ」
おそらくタイミング的にはあの初邂逅の時なのだろう。あの場での僕は誰が見ても情けないことこの上なかったのだが。
「逃げる様がよかったのだ。忍者にとって逃げることは肝心なことだからな」
「えぇ………」
あんなに情けなく悲鳴を上げながら走っていたのにか?
「正確に言うと、その姿に庇護欲をそそられたというのが正しいな」
ぺろり
「ひっ」
一瞬のうちに、アヤメが背後に回り込んでいた。そして僕の首筋を舐める。
恐ろしい。こいつが魔物娘でなかったら今頃お陀仏である。
「ちゅっ、ちゅぱっ、はむっ」
「ちょっ、おまっ、しつこいっ!」
あまりに執拗に吸いつくので振り払う。
「ふふふ……そうやって顔を真っ赤にする姿。そういうところなのだよ」
「な、なな」
くそっ!早く青ざめろ僕の顔!
そう念じても無理なものは無理。むしろどんどん赤く熱くなっていく。
それどころか連なって股間まで………
「お前、何か仕込んだな!」
さすがに異常だ。
今までにないほどバッキバキになってきてるんですけども。
「忍者はよく自害のために奥歯に毒を仕込んでおくのだが」
「それの媚薬版ってことね…………」
それにしたって塗るだけで効くとかどういうことだよ。
あ〜ん、と口を開け見せつけてくるアヤメ。ただそれだけのはずなのだが、変に興奮している今はそんな動作でさえなまめかしく思える。
具体的に言うと「この口にチンポ突っ込んでやりたい」と思っちゃう感じ。
無論、こいつもそれを狙ってやってるのだろうけども。
「いいんだぞ………この家に住まわせてもらうのだからな。私の身体を好きに使ってもらうことぐらいしないとな」
なんだその等価交換は。いやだなぁ……
「まぁ、初なカイ殿に本物のまぐわいは早いかもしれないな。まずは口淫から」
ふふふ、と目を細め嘲笑うアヤメ。
一瞬、彼女に手が伸びそうになる。しかし、この挑発に乗ってしまっては彼女の思うつぼ。きっとレイプぐらいなら彼女は喜んで受け入れるだろう。もしくは即逆転。
拳を握り、唇を噛みしめ自制。
「その隙に…ちゅぷっ」
「えっ…ぅぁぁっ!」
盲点。意識が自制に尺を採っているうちに彼女は僕のペニスを外に出し、口を付けていた。
「じゅぷっ、じゅぞぞぞっ、ちゅるっ、ぢゅぅぅぅぅぅぅぅっ………!」
「ぁ、ぅぁぁぁ」
『しめた、フェラだけなら、頭だけ使っているのなら抵抗はできるかもしれない』───そんな考えは甘かった。超甘々だった。
「ぁ、ぁ」
体が、全く動かない。
精と同時に体中の力を吸い取っているかのようなバキュームだった。
「あっ、ぅっ」
「ぢゅるるるるっ、んじゅるっ!」
声すら出ない。多分、そのうち呼吸もできなくなるだろう。
「ちゅっ、んれろっ、じゅぅぅぅぅぅぅぅっっ!」
「っ、っ」
どぴゅっ!
彼女の口の中で、僕のペニスが弾ける。
ぴゅっ!ぴゅぴゅっ!どくっ!
やはり尋常ではないほどの精液が───普段の自慰では絶対に出ないであろう量の精液が発射される。
「んっ、んっ、こくっ────ぷはぁ………御馳走様」
それを一滴残らず喉に流し込み、アヤメは満足そうに微笑む。
この契約、あちら側に全くデメリットがないじゃないか………
「はれ?」
おかしい、頭がふらふらする。
尋常じゃないほど出したせいか、尋常ないほどの脱力感が──────
「あ、しまった!あぁ!ごめん!やりす───………」
そんな大慌ての彼女の声を聞きながら、僕はパタリと倒れた。
「…………………………………っ!」
目が覚めると夜。時計を見ると深夜。
唖然とする。
「……え、今の夢だよな」
寝間着に着替え、布団に入ってるし夢である。そのはずである。
しかし、枕元には、
『ごめんなさい』
の書き置きが。
「………今日、何したんだっけ」
彼女のことを聞いて、フェラされて、気絶して終わり。
さぁっ、と鳥肌が立った。
「うぇぇ…」
どっ、と冷や汗も流れる。
しなければならないことも沢山あったのだ。するべき予定も色々あったのだ。それが全部パァに。
「最悪だ………」
追い出してやる。絶対に朝一で追い返してやる。
そう決意し、僕はもう一度布団に入る。
ぽたり。
「ひゃっ!」
そう、僕の上にはアヤメが寝ているのだ。何故か天井に張り付きながら。
しかも、こいつは夜な夜な僕によだれを垂らして───
「………え」
よだれ………じゃなかった。
この液体は、彼女の口からではなく。
目から出ていた。
「…………」
ぽたり、ぽたり。一つまた一つと僕の布団にシミができる。
「うぅん……………」
器用に寝返りをうち(どうやってるんだ?)彼女は寝言を言う。
「また………会いたいよ、みんな」
「…………」
決意は儚くも崩れ、散り散りに風化する。
あれだけ強引で気丈な彼女が流した哀しげで寂しげな涙にはそれほどの効力があった。
『観光………かな?』
『要するにだ、永住を希望したいほどカイ殿に惚れ込んでしまったということなのだ!』
どこまでが嘘でどこまでが本当なのだろうか。
わからない。
でもとりあえずは。
追い出すのだけは無しにしよう。
そう、思った。
17/04/06 21:12更新 / 鯖の味噌煮
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